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PLAY13 vs死霊族(ネクロマンサー)!④

 駆け出して、私はすぐに落ちていく瘴輝石をキャッチした。


 ずさっと少し行きすぎて止まるのに少しだけ時間を食ってしまったけど、そのまま私は腐りかけの地面に座って、そのまま唱える。


「此の世を統べし八百万の神々よ――我はこの世の厄災を浄化せし天の使い也」


 すると私の周りに白い光が風に乗ってくるくると舞い踊っている。


 私は瘴輝石を見て、続けて詠唱を唱え続ける。


「我思うは癒しの光。我願うはこの世の平和と光」



「カエシナサイイイイイイイイイイイイッッッ!」



 突然――エディレスが私に襲い掛かるように立ち塞がる。それを見た私は言葉を切ってしまいそうになった。


 しかし……。


 ――バカァンッ!


「ウグゥッ!」


 右頬に直撃した何かのせいで、エディレスはふらついてその場から離れる。


 それを阻止したのは……。


 私の前で守るように現れた……。


「――だからよぉ……」


 キョウヤさんはバシンバシンッとしならせながら地面に尻尾を叩きつけて、怒りの音色で言った。


 ぶんっと、槍をエディレスに突き付けて怒鳴った。



「無防備の女痛めつけて、楽しいのかよぉっっっ!?」



「――~~~~~っっ!」


 それと同時に、アキにぃはエディレスの足元に銃口を向ける。


 それを見たエディレスははっとして見ると、アキにぃはただじっと狙いを定めているだけ。


 それでも怒っていることはわかったようで、エディレスは驚愕の顔になって震えているだけだった。


 私はそれを見て、心で二人にお礼を言った後……、詠唱を続ける。


「この世を滅ぼさんとする黒き厄災の息吹を、天の息吹を以て――浄化せん」


 言い終えて、私はそっと、エディレスを見る。


 エディレスは震えながら、私を見て、懇願した……。


「ま、待って……、ちょっと……」


 涙でぐちゃぐちゃになった顔を見て、私は心を『ずきり』と痛めた。でも、それでも。


 赤黒い瘴輝石を見て、私はもう一度エディレスを見る。


 控えめに、そして……、怖がらせないように……、口元を動かして、声を出さないで……、言った。


 こんなの、相手からしてみればただの自己満足かもしれない。


 でも、私は決めたんだ。


 ヘルナイトさんを――信じるって。


 ――大丈夫だよ。あなたを、今、助けるから。――


 あなた(その体の持ち主)と、あなた(エディレス)を――。


 そう口元を動かしたけど、きっとわからないだろうな……。


 自嘲気味に思って、私は赤黒くなってしまった瘴輝石に目を移して……、最後の詠唱を唱えた。



「――『大天使の息吹』」



 フゥッと息を吹きかける。それは瘴気に侵された赤黒い瘴輝石に。


 吹いた瞬間、吐息が形を成して、私の周りを回りながら慈悲深い天使に姿を変えて周りを飛んで赤黒い瘴輝石に向けて、そっと唇を寄せる。


 すると……。



「あぎゅあああああああああああああああああああああああっっっっっ!」



「っ!」


 突然断末魔のような叫びが聞こえた。


 私はその声がした方向を見た。でも、すぐにそれが誰なのかわかった。


 エディレスは、体を抱きしめながらゴロンゴロンっと転がっては叫んで痛がっていた。


 心臓の位置を、ぎゅううっと握りながら……。


「え、エディレス――ッ!」


 クロズクメはそれを見て驚愕の声と表情になる。ダッと駆け出して、ボロボロになっている左腕を押さえながら、クロズクメは走った。


 けど……。


「っ!」


 それを遮るように、キョウヤさんとクロズクメの間に、鎧の隙間から黒い靄を出して、大剣を持ったヘルナイトさんが、行く手を阻んだ。


「あ、あ……っ」


 震える声を出しながら私は思った……。苦しく思った。


 ――なんで、そんなに傷ついているのに……、立つの? 剣を持つの?


 そんな風に思っている間に、アキにぃは銃口をクロズクメに向けて、そっと頭にその焦点を合わせる。


「っっっ! くそがぁ――っっ!」


 クロズクメは口元に隠していたのか、そこから黒い瘴輝石を出した。それを右手でぎゅっと握りながら、彼は叫ぶ。


「こんなこと、あってはならない――っっ! この世はあのお方が理想とする世界ではない――っっ! これでは駄目なんだ――! 私が、私が――っっ! あのお方のために――っっっ!」


 血走った目で叫ぶクロズクメ。


 それを見ていた三人は……。何も言わない。


 ただ、話を聞いていただけだった……。


 私の手の中にある赤黒い瘴輝石は、だんだん光を取り戻すように、内側から光を帯びていく……。それと連動しているのか……、エディレスも更に苦しみだす。


 それを見ていたヘルナイトさんは、ただ一言、こう言った。


「そのあのお方は、お前達のリーダーか?」

 その言葉に、クロズクメは鼻で笑って、ぐっと握った黒い瘴輝石を上に掲げて――


「マナ・イグニッション――『影蠍(シャドースコーピオン)』ッ!」


 そう叫んだ瞬間、黒い瘴輝石が黒く光りだし、クロズクメの足元の影が、どんどん広がっていく。その広がりは後ろに広がって、ぼこぼことクロズクメ背後に出てくる。


 背後に出てきた黒い何かは、どんどん形を形成して、私達がよくテレビで目にする。そしてつい最近あったばかりのそれになっていく。


 尻尾に棘があり、そして節足の毒を持った生物……。


 クロズクメよりも大きい黒い蠍になった。


「かははははは――っ!」


 クロズクメは笑った。そして言う。


「その通りだ魔王族! 私達のリーダーはあのお方だ――っ! あのお方のために、私達は喜んでこの繋がれた命を使う――っ! あのお方のために――っ! あのお方が望む世界のために――っ!」



「そこに、あなたの意志はあるんですか?」



「――っ?」


 私は、『大天使の息吹』で浄化している最中、クロズクメの言葉を聞いて、いてもたってもいられなくなり、聞いた。


 クロズクメは驚いて私を見ている。


 それを見て、私は、心の底で思っていたことを言った。


「あなたの今の言葉を聞いていると、胸の奥がずきずきするんです」

「ハンナ……?」


 キョウヤさんは、それを聞いて疑問の声を上げる。


 私はそれを聞いても、話を、クロズクメに向けて言う。


「あなたの決意が本当で、本心でその人のためだけに使うと言っても、たったその人だけに命を使うなんて、言わないでほしい……」

「……何を――」



()()()()()()()使()()()()()……、()()()()()()



 苦しい言葉だと思った。


 悲しい命の使い方だと思った。


 だから私は言った。


 そんな、自分が深く傷つく命の使い方をしないでと――。


 でも、クロズクメには届かなかった。


「っっっ! 黙れ小娘えええええぇぇ――っっ!!」


 右手に持った黒い瘴輝石を私に向ける。それと連動されているのか、黒い蠍は私を見てがんっと地面がめり込むくらい踏みつけて走ってきた。


 それを見たヘルナイトさんとキョウヤさん。アキにぃは武器を構える。


 その時だった。


「はい、黙るのはあんたでぇす」


 聞いたことがない声が聞こえ、何とも間抜けた声が上からフィルターがかかったかのように聞こえた。


 みんな一斉に上を向いた瞬間、ヘルナイトさんは小さい声で何かを言っていた。でも聞こえなかった。


 それと同時に、天井が上から破壊された。


 上からと言っても、破壊されたのは天井。つまりは()()()()()()()()()()()()


 それだけ。


「うぉぉっ!?」

「壊したぁっ!?」

「やはり、気まぐれだな……」


 キョウヤさんとアキにぃが驚く中、ヘルナイトさんは上を見上げて小さく言う。


 穴が開いた天井を見上げると、そこにいたのは……、すごく変な人だった。


 黄色い長髪を一つに縛って、耳が長く、それでいて手には大きな弓を持っている。弓を持っている左手は細身の青白い手。右手は熊のような黒い体毛に覆われた手。足は豹の足と言う、アンバランスでいびつな半裸で、顔には錆びた甲冑を被っている男だった。


 その人は私達を見降ろして、ヘルナイトさんを見て手を振って言った。


「おーぅい。ヘルナイトー。生きてるー?」

「……、来たのなら、少しは早めに加勢してくれ」

「えー。すぐには行きたくないなー。めんどくさいし。眠いし。あと加勢したところで何か貰えるの? もらえないなら参加しない方が得じゃない?」

「なんだこいつっっ!」


 ヘルナイトさんの言葉を聞いても、頭を掻きながら欠伸をして、やる気がなさそうに言うその人。その人を見てキョウヤさんが突っ込みを入れる。


 でも、クロズクメだけは違った。


 ざぁっと青ざめながら、上にいる人を見上げて固まっている。


 それを見たアキにぃは、すっと銃口をクロズクメの足元に合わせた。


 アキにぃの行動を見ていたのか、その人は「まぁ」と言いながら……、たんっとわざと自分から落ちていく。そのあとすぐに――


「死んじゃったらてんし様に会えないし、俺達がどやされちゃうよ」


 と言いながら、ひゅううっとクロズクメの真上目がけて落ちていく。その最中、弓を構えて、矢を装填しながら、彼は落ちていく。


「っ! うあああああああ――っっっ!」


 クロズクメは緊張をほぐすかのように叫んで、そして黒い蠍に、今落ちてきている人を指さした。黒い蠍はそれを感じて動く。


 動こうとした瞬間……。



「『12鬼士』が一人――『新緑の森妖精』。キメラプラント。いただきマース」



 え? 今、この人は……、なんて言ったの?


 ヘルナイトさんと同じ……、『12鬼士』!?


「マジかっ!」

「ヘルナイトと同じっ!」

「っ!」


 キョウヤさんとアキにぃも私と同じように驚く中、クロズクメだけは何かを感じたのだろうか……その場から逃げようと足を動かそうとした時、アキにぃはすかさず銃口をクロズクメが歩くであろう足場に『パァンパァン』と二発弾を放った。


 それは地面に当たった瞬間――べちゃべちゃっと白いトリモチが現れる。


 クロズクメはそれを見ないで、トリモチを踏みつけたことでグランッとバランスを崩す。


「っ!?」


 クロズクメはそれがなんなのかと足を見た瞬間、驚きで声すら上がらない状態のまま、その足についたトリモチを見て、アキにぃを睨んでいた。でも、アキにぃはそれを見ても動じず、逆に挑発的な笑みを浮かべて……。


「俺だって怒っているんだからな。妹を傷つけた罪は――重い」


 クロズクメはそんなアキにぃを見て動こうとしたけど、その前に落ちてきた人――キメラプラントは矢を装填した状態で、黒い蠍に向けて、その矢を突き付ける。そして……。



「――『狩猟(ブーメラン・)(アーチェリー)』」



 矢じりを離した瞬間、ひゅんっと空気を切る音と共に、キメラプラントが放った矢は、一直線に黒い蠍に向かって行き――


 黒い蠍の脳天から尻尾の先まで、グネグネと曲がりながら体の中を裂いて通って行き、最後に尻尾の先についたと思ったら、そのままゴールするように中から飛び出して飛んでいく。


 普通の矢の動きとは違う、湾曲とした矢の軌道は、くぃんっと上に向かっていたけど、そのまま急降下するように、キメラプラントに向かって蛇行しながら戻っていく。


 それはまるで、ブーメランのように……。


 ザシュッと、クロズクメの左腕の、左肩をも巻き込むように、引きちぎるように突き刺してキメラプラントに向かって飛ぶ。


「うぐあああああああああああ――っっっ!?」


 クロズクメは叫んで、驚いて、痛がって、血は出ないけどもがれてしまった腕を血走った目で見た。


 その叫びを聞いて私はぐっと胸の奥が痛くなるのを感じた。


 敵のはずなのに、こんなに痛くなる戦い。


 敵も味方も傷つく……。


 だから、私は嫌いなのかもしれない。戦うことが……。


 戦うことに対し逃げているのかもしれない……。そう思った。


「あぁ――! っは――! うがぁ――! な、貴様……――っ! こんのつぎはぎがぁ――っっ!」

「死体に言われたくないなー」


 そうキメラプラントは言う。戻ってきた矢をパシリと掴んで、そのまま弓に装填してギリッと弦を引っ張る。


 そして……。


「と言うか、お前達にだって非がある。お前達のせいで」


 キメラプラントはクロズクメを見た。


 クロズクメはキメラプラント、そしてヘルナイトさんとアキにぃ、キョウヤさんを見て、悶え苦しんでいたエディレスを見ることすらできない状況で……、彼は恐怖でカチコチに固まり青ざめながら見た……。


 そんな状態のクロズクメに追い打ちをかけるように、キメラプラントは言った。


「てんし様、ああなっちゃったんだから」


 そう言ってキメラプラントは矢じりを掴む力を強くして、狙いをクロズクメの喉元に向ける。それを見たヘルナイトさんは――


「っ! 待てキメラ」と、慌てて言いかけた瞬間だった。



「~~~~~っっ! マナ・エクリション――『煙石』――っっっ!」



 クロズクメは慌てた口調で右手にいつの間にか持っていたであろうその瘴輝石を、地面に向けて投げた。


 それはまるで――忍者の煙玉のような。


 それが地面に当たった瞬間――『ボフゥンッ!』と言う音と同時に周りが煙に包まれる。


「っ!?」


 真っ白い煙の世界が視界を狭める中――私は辺りを見回し、何がどうなっているの? と思いながら見ていると……。



 ――ズバァンッ!



「あ」

「!」


 斬る音と、キメラプラントの声。


 その声が聞こえたと同時に、突然横から突風が押し寄せてきた。


 私は目を閉じてその突風に耐える。突風はすぐに止み、私はそっと目を開けた。


 そこには私達とキメラプラント、そして倒れたエディレスしかいなかった。


 周りにあの壁や天井がない。跡形もなく消えて、大天使も消えていた。そしてクロズクメも消えていた。左腕とトリモチがついた片足を置いて……、煙に乗じて消えてしまった……。 

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