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PLAY124 神器取り扱い説明書④

 世界の腐敗。


 それはきっと現実でも起きていることで、私達から見ている視点でわからないことが起きているのは――暗黙の了解なのかもしれない。


 アズールの世界を知っているラージェンラは言っていた。


「現実はそんな綺麗なものではない。()()()()()()()()()()。世界と言うものは汚いものにふたをするように、汚いものを見せないようにきれいなものを表に出している。それを使ってカモフラージュしているだけ。世界も人も、他種族もそうなの。何もかもがカモフラージュ。何もかも……、隠されたものを見ようとしない」


「表の世界しか見ないで、裏で何が行われているのかも知らない輩に、そんなお説教聞きたくないのよ。私は知っている。どんなところにいても裏と言うものがある。世界、生きている者、そして……仲間とか、友達とかほざいている日和ものにも、しっかりと裏って言う腐ったものがあるの」


「腐っている奴はそれを隠し、隠れて罪と犯して、罪なき者達を罰して、腐った世界に埋める。外道がすることと同じなのに、なぜか外道を正しいとみなしている。あなた達もそうよ。この国――アズールと言う裏をあなた達は知らない。表と言う世界しか見ていない。表の汚いところしか知らない。裏はもっともっと汚い。汚いからこそ私は罰しようとしたあの人を、断罪人を見習って行動した。行動して――『六芒星』に入ってこの国をきれいにしようと思った」


 これは彼女なりの何かかもしれない。


 彼女の視点で、彼女なりに考えた結果――行き着いた答え。


 考えていることこそまさに行き過ぎているもの。


 でもこんな言葉がある通り、その考えを根本的に変えることは……、もしかしたら不可能かもしれない。


 十人十色。


 一人一人全く同じ人なんていない。


 まさしくその通りだ。


 考えが違う人がいれば限りなく同じであるけれど、すこしだけ違う人もいて、色んな思考を持っている人や、色んな思想や色んな信念を持っている人。


 ……色んな、想いを抱えているひとだって、いる。


 そう……、ラージェンラはあの人と少し違うけど、大まかに同じ考えだった。


 昔……、お祖母ちゃんによく言っていた、お祖母ちゃんのお友達と同じ考えを口にして……。



 □     □



 小さい時の話しなのだけど、よくニュースで商品の値上げに関しての報道があった時、お祖母ちゃんは溜息を吐きながら『はぁ……、また値上げ……。最近は色んなものが値上げまみれで、本当に生活が苦しくなるわ……』と、疲れているような溜息を吐きながら言っていたのを覚えている。


 そんなお祖母ちゃんを見て、私は理解できてないなりにお祖母ちゃんの心配をしていたのはちゃんと覚えている。


 確かあの時は……、七歳とかそのくらいかな?


 お祖母ちゃんのことが大好きな私にとって、お祖母ちゃんが疲れている=悲しんでいる。苦しんでいると思っていたから、お祖母ちゃんに『大丈夫?』とか『疲れているの?』とか、『どこか痛いの?』とか聞いていた気がする。


 私の心配の声にお祖母ちゃんはニコニコとしながら『大丈夫だよ華ちゃん』と言って私の頭を撫でてくれたっけ。


 この時の私はまだ七歳くらいだったということもあり、世間の動きと言うか、この世が一体どんなことになっているのかだなんてあまり知らなかったから、今思い出すと少し恥ずかしくなってくる。


 でも、問題はここじゃない。


 問題はこの後聞いた話こそ、ラージェンラが言っていた世界の腐敗に近いものなのかもしれない。


 その時――お祖母ちゃんと私の前には一人のお祖母ちゃんの知り合いがいて、テレビを見て値上げのことに関して見ていたその人は、呆れるというか、苛立っているような溜息を吐いて、頬杖を突きながらお祖母ちゃんに言ってきた。


 その人はお祖母ちゃんと同じ年なんだけど、一言で言うと少し性格に難がある人で、あまり友達がいない人だったってお祖母ちゃんが言っていた。


 そんな人がなんで私の家に来てお祖母ちゃんと話をしていたのか……、正直わからないのが本音で、その人は私達の会話を聞きながら苛立った溜息を吐き終えると、お祖母ちゃんのことを見てその人は言った。


 すごく苛立っている。そんなの七歳に私が分かってしまうほど悪い空気を出しながら言ったのだ。


『全く……、国民には増税増税とか言って、上の連中は儂等のことを何だと思っているんだろうねぇー? まさかと思うが、また更に増税をするとか言い出すんじゃなかろうか……。このままじゃ儂等は一生もやしを貪って生きて行かにゃならんのかなー?』

『ちょっと餌木(エギ)さん――そんな言い方をしてはいけないわ。政府の人達は大変なんですよ? 国のために動いているんだから』

『国のためー? 税金が増えて増えて、こっちの生活のことも考えてほしいってのに、これは老人に対しての暴力だ! 老後資金を貪ろうとしている悪行そのものだっ! あたしが政府の人間だったらこんなこと考えもしないっ。国民のことを第一に考えて行動するのにね……っ!」


 腐っているっ!


 そうおばあさんは言った。


 これはそのばあさんの口癖で、嫌な事があれば何でもかんでも『腐っている』と言う言葉を吐いては、色んな暴言をお祖母ちゃんやいろんな人に向けて吐き捨てる。


 話の内容こそ人間関係とかそんなものではないけれど、それでもおばあさんが言っていたことは、過激なものだったと思う。


 今思い出してもそうだ。


 ここでは話せないようなことをバンバン吐き捨てて、お祖母ちゃんと言う話し相手にバンバンそれを話す。


 ……今にして思うと、このおばあさん――餌木さんが嫌われている理由が分かった気がする。そんな餌木さんのことを見捨てなかったお祖母ちゃんは、やっぱりすごい人なんだな……。


 回想をしながら私は改めて痛感した。お祖母ちゃんの優しさを……。


 そして思い出した。


 餌木おばあさんが言っていることは、まさにラージェンラが言っていることと同じだと。


 餌木おばあさんは言っていた。


 お祖母ちゃんに対して、言ってはいけないことや暴言の数々。それは奇しくもラージェンラが話していた物と同じで、国のことを知らない人は知らないままでいいかもしれないけど、国のことを知っている人は暗い事を隠している。悪い事をしているけれどそれを隠して生きている。


 それを人はうまく隠して生きているから成り立っている。


 人は人。完璧なんて人間がいれば苦労なんてしない。


 人は変わっている生き物。


 すべて変わっている生き物で、変わっていない普通こそが完全なる人なんだ。


 完璧は、普通と言う言葉を指す意味なんだと。


 偏見に感じてしまう内容と、苛立ちの所為で変なことを口走っているようにも感じてしまいそうになる言葉の数々。


 小さい私にはわからないことばかりで、後半はまさに餌木おばさんの偏見に感じてしまう内容ばかりだった。


 変わっている変わっていると言われていたから、みんなが変わっているから私は変わっていない。変な人ではないという合理化なのかもしれないけど、真相は分からない。


 だって、この会話を機にお祖母ちゃんは餌木おばさんとの関係を、関わりを避けたのだから。


 疎遠というか……、関わることを極力しなくなったという方がいいのかもしれない。その疎遠から少しして餌木おばさんが病気で亡くなって、それ以来このことはずっと忘れたままになっていた。


 だから思い出した。ラージェンラの言葉を聞いて思い出した。


 餌木おばさんはずっと言っていた。


 ずっと……、亡くなるまでずっと……。


 あたしが国のために動ける人間だったらこんなことはしない。


 あたしは色んな奴らにひどい事をされてきた。


 あたしは可哀そうだ。だからあたしは誓ったんだよ。絶対に見返してやるって。


 あたしは間違っていない。


 あたしは折れやしないさ。自分が正しいと思ってきたことが、本当の意味で正しいと認知されるまで。



 あたしは――この世界の腐敗をなくしてやる。



 今にして思うと、餌木おばさんとラージェンラは、なんだか()()()()()()()()()()()()()()()


 気がするというか……、思い出した今となってみれば、もう他人事に見えなくなってきている……。


 世の中には知らなくてもいい事があるとはまさにこのことかもしれない。世間は狭いという言葉もある。


 でもそれと同時に世界には同じ人が三人いるという言葉もあるから、これは多分似ているだけで、赤に他人だと思う。


 結論から言うと……、きっと私の考えすぎなんだ。


 思い出して、似ているからそう錯覚したに違いない。


 私の思い過ごし……。


 そう、だよね……。



 □     □



「ナヴィ避けなさいっ!!」

「――!」


 突然耳に入ってきたシェーラちゃんの声。


 それは大きく、切羽詰まっているような音色で、その声を聞いた瞬間私は今まで考えていた思考を一瞬で記憶の箪笥にしまい、目の前に集中する。


 集中すると言っても、私はオウヒさんのことを『強固盾(シェルガ)』の中に閉じ込めているだけなので、『強固盾(シェルガ)』を解除しないように手をかざしたまま気を抜かないようにするしかない。

 

 するしかないから、私はそれに徹し……、徹した状態で私は襲い掛かる風圧に耐える。


 彼女の……、ラージェンラの後ろに出ていた黒いもしゃもしゃ――に見えた赤黒いそれの衝撃に耐えて……。


 ナヴィちゃんの唸る声が聞こえると、ナヴィちゃんはシェーラちゃんの声に従う様に大きな動きをして後ろに後退する。


 大きな衝撃音と足を踏む音。そして物を壊す音が鼓膜を揺らし、衝撃と衝撃が重なって大きな衝撃の音として記憶に刻まれて行き、その音を聞いた瞬間――いろんなものを壊しているという認知をして、ナヴィちゃんが避けようとしていることに気付いた時には……。


 目の前が一気に明るくなった。


 ううん。


 厳密には――私達が入った建物が一気に崩壊したから、光を遮るものが無くなったから明るくなっただけ。


 もっと簡単に言うと……、建物が壊れた。


 ラージェンラが放った攻撃によって、私達が侵入した建物が一気に瓦礫と化してしまった。


 ガラガラと崩れ、辺りに散らばる壁だった破片や屋根だった破片を見ながら、何とか逃げることができたナヴィちゃんの背中で私は驚きの顔で見る。


 一気に家が壊れること自体あまり見たことがない。そんなのドラマで見る演出とかでしか見たことがない事と、一瞬で壊したその光景を見て言葉を失ってしまった私。


 絶句。


 そんな言葉が正しいような言葉の喪失と、全身の血の温度が低くなっていく感覚。


 一瞬の出来事でこんな惨事が出来上がるという光景は、心の整理どころか状況の把握すらできないくらい混乱を招いて、これが……、たった数秒の間に起きたと思うと……。


「っ! みんな……!」


 と思っていたのだけど、そんなことを考えている場合じゃない。


 今はもう戦闘が始まっている。戦いが始まっているんだ。


 私はすぐに声を張り上げてみんなを探す。視界を使って、辺りを見渡しながら私はナヴィちゃんの上で探すと……。


「いるわよっ! 生きてるっ!」


 シェーラちゃんの声が聞こえて、私はすぐにシェーラちゃんの声が聞こえた方角に視線を向ける。向けて、ナヴィちゃんもその方向に視線を向けると……、そこには無傷のシェーラちゃん達がいた。


 シェーラちゃんの近くには盾を持った状態でシェーラちゃん達の前に立っている虎次郎さん。そしてシェーラちゃんの隣にいるキョウヤさんも無傷の状態なんだけど、その尻尾にはアキにぃを巻き付いていて、なんだか運ばれた感満々の状態でアキにぃは力ない状態でいた。


 まさに縛られた状態で吊るされているような……、そんな状態。


 その光景を視界に入れて、みんなも私のことを視認した瞬間――


「あんたも無事なのね? よかったわ!」

「何とか逃げ切れた!」

「危うしだったな」

「た、助かった……」


 各々が私のことを見て安心した顔をしていた。シェーラちゃん、キョウヤさん、虎次郎さん、最後にアキにぃと言う順番で言っていく中、私はみんなに向けて「みんなも無事でよかった……!」と、安心の声を放ってみんなに言うと私は続けて聞いた。


 アキにぃの状態は完全に伸びている状態だったけど、ほとんど無傷の状態でいることに対して私は「どうやって……」と聞いた後、すぐに内容を言おうとしたのだけど……、その言葉を言う前に察したのか、虎次郎さんが私のことを見上げて――


「なに――儂はこう見えても『ぱらでん』だ。『ふろんと・がーど』を使い防いだお陰で無傷のまま脱出できた」

「『パラディン』な」

「師匠……、少し私と一緒に外国語とか、カタカナの勉強しませんか?」


 と言ってきたのだけど、言葉を間違えていることに対してキョウヤさんが突っ込み、その突っ込みを聞いてシェーラちゃんは少し神妙な顔をして、本当に心配そうな顔をして虎次郎さんに提案をしていた。


 でも虎次郎さんは少し豪快に笑った後――いやいやと言いながら『そのような心配はいらん。慣れれば何とかなる』と言って流してしまったけど……。


 そんなことを聞いていると、私から見て左側で土を引きずるような、『ズサササッ』と言う音が聞こえて来て、その音を聞いてすぐ視線を反対の方向に向けると――そこにいたのは……。


「エドさんっ! オウヒさんも!」


 そう、そこにいたのはエドさん達だった。


 エドさんを最前線に立たせるようにシロナさんと善さんがエドさんの背に隠れている状態で、エドさんは虎次郎さんと同じように盾を構えている。三人の背後に善さんの影――『虐殺(サディスティ・)愛好処刑人(デストロイヤーマニア)』と、その手の中にすっぽりと納まっているオウヒさんがいて、オウヒさんは私が発動した『強固盾』の中で私を見て、笑顔で手を振って元気であること、大丈夫であることを見せてくれた。


 とりあえず……、エドさん他とも無事だ。オウヒさんも無事。


 そう思って安堵のそれを吐こうとした。


 瞬間だった――


 ぼごぉっ! と瓦礫と化してしまった建物だった跡地から出てきた大きなうねっているもの。


 それは空に向かって伸びていき、そのまま雲を貫くのではないのかと思ってしまいそうになるほど伸びていたけれど、雲を貫くことなく、そのまま斜めに伸びて降下していき、そのまま曲線を描きながら私達にその先を向ける。


 剣で言うところの矛先。


 でも剣じゃないし、触手みたいだからその触手の先って言った方がわかりやすいかも。


 突然大きな崩壊音と共に黒い触手――ラージェンラのもしゃもしゃだと思っていたそれが空に向かって伸びたかと思うと、そのまま湾曲になって私達に向かって曲がって臨戦態勢を見せる。


『――っっ!!』


 みんながみんなその光景を見て驚きの顔を浮かべ、冷や汗のようなそれを流して武器を構える。


 攻撃できる人は攻撃の武器を。


 防御できる武器を持っている人は盾などの武器を。


 善さんの影――『虐殺(サディスティ・)愛好処刑人(デストロイヤーマニア)』も手の状態だから善さんに『おいやばいだろっ!? やばいなら俺を出せっ! 出して斬らせろ! 俺を出せくそがっ!』と罵りを含めた音色を吐き捨てる。


 でも善さんは出す気がないみたいで、無視に徹している。


 違う。


 これは、無視しているわけじゃない。


 善さん自身余裕がないから、聞いているけれど答えることができないんだ。


 それは『虐殺(サディスティ・)愛好処刑人(デストロイヤーマニア)』も察したみたいで、オウヒさんを掴んでいる手の状態のまま舌打ちを零し、ぐっとオウヒさんのことを覆っている『強固盾』を再度握り返すと、『虐殺(サディスティ・)愛好処刑人(デストロイヤーマニア)』は言う。


 小さい声で、憎々しげに――


『あんの(アマ)ぁ……。このまま口封じをしようってか?』


 と言ったその時――また声が聞こえた。


 その声は私達の声でもなければ、エドさん達の声でもない。オウヒさんでも、『虐殺(サディスティ・)愛好処刑人(デストロイヤーマニア)』の声ではない――女の声。


「そうよ――そこの影は考えが似ていて助かる。説明の手間も省けるとはこのことね」


 女の声の主――ラージェンラは言う。


 ひた。


 一歩歩みを進めて、ゆったりとした動作で近付きながら彼女は瓦礫の煙に紛れて言う。


 まさに煙の中を歩みながら進んでいく。怪しさと恐怖を含ませた演出なんだけど、実際この光景を見てしまうと、あぁ……これは確かに怖いなと思ってしまった私がいる。


 だって、煙の中で歩みを進めていくその光景は普通なんだけど、それ以上にその煙の中で何をするのかわからないし、煙の中は見えない壁のように明確な姿を映さない。


 それがより強い不安と恐怖を与えに来る。


 空気も重くなっていき、みんなの緊張にもビリッとした強い張りを感じる。


 張り詰めて……、息をすることすら強張ってしまいそうになるほど……。


 強張ってしまいそうになるほどの殺気に……私達は飲まれかけた。


「私は『六芒星』よ。現在依頼を受けて仕事をしているのだけど、これは知られてはいけないことで、知られてしまったからには隠滅をしないといけないの」


 ラージェンラは言う。煙の向こうで『うぞうぞ』と触手のような物を出しながら、『べちゃ。べちゃ』と鳴らす足音を動かしながら言う。


 動いているものがなんなのか。


 そして足元からなるそれは何なのか。


 それは、多分今知ることはできないけど、すぐに理解することになる。


 誰もがそう思っていたに違いない。


 誰もが、これは戦闘になると確信していた。直感していたの方がいいのかもしれない。


 直感と言う名の気配を感じたラージェンラは笑みを浮かべているような微笑みを、笑いをくつくつと漏らし、歩みを止めると彼女は言った。


「もうこれは何度目の紹介になるのかしら……、でも、そうでもしないと私と言う存在を語ることができないから仕方がないわよね?」


 死なない程度に嬲るから……、怖がらないでね?


 そう言った瞬間、風が私達を、そしてラージェンラを襲い、私達の視界を遮るように吹き荒れる。


 髪の毛が乱れ、一瞬息ができなくなってしまいそうなほどの強い風に、私達は反射的に顔を隠してしまう。目を隠してゴミが入らないようにするこの行動はまさに条件反射なのだろうけど、これがまずかったのかもしれない。


 風が来たとしても、目を開けていればよかったのかもしれない。


 でも、そんなことを考えていた未来の私の声なんて、過去の私に届くことはない。


 だって考えていなかったから。


 風が吹き荒れて、目を腕で覆ってしまった時、一瞬にして影が差し込んだ光景を遅まきながら見た時には――遅かった。


「『六芒星』が一角――堕天使(だてんし)にして『血涙(ブラディア・)天族(エンジェリナ)』血の魔女……ラージェンラ」


 ラージェンラは言う。気品あふれる女性で、上品さがうかがえるような音色で、両手を広げた状態で彼女は言った。


 私とナヴィちゃん、シェーラちゃん達とエドさん達に向けた赤黒くて、大きな木の根っこのような物を突き付けながら……。


 鋭く尖っていて、根っこの周りには返しがついているそれを私達に向けながら彼女は言う。


 低い音色で、狂気に染まった裂けた笑顔で――



「――死んで」



 言葉を放つと同時に彼女は両の手を振るう。


 ぎゅっと……、強く、強く自分を抱きしめるように動かして――

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