PLAY124 神器取り扱い説明書③
私は後ろの方で、ナヴィちゃんの背に座った状態でその光景を見つめていた。
キョウヤさんが一番前でラージェンラの首元に槍の刃を突き付け、背後にはシロナさんが獣が威嚇をするような構えをして唸っていて、シロナさんの後ろにはエドさんがいる。手には盾を持って、防御態勢を整えている状態だ。
其処から少し離れたところでは、虎次郎さんとシェーラちゃんが『強固盾』の中にいるオウヒさんを守るように出ている。虎次郎さんは盾を、シェーラちゃんは二本の剣を掴んだ状態で待ち構えていて、善さんもレイピアを持った状態で戦う準備を整えていた。
勿論オウヒさんはそのままの状態じゃない。ちゃんと善さんの影――『虐殺愛好処刑人』の手の中にすっぽりと納まっている状態だ。
なんだかよく見ると、ガチャガチャのプラスチックのボールを持っているように見えてしまうのは……私だけかもしれない。
え? そう言えば京平さんとヘルナイトさんはどこにいるのかって……。
それは――
『おい善! なぜ手だけしか出さんのだっ! 全てを出せっ! 斬らせろっ!」
「!」
突然聞こえた『虐殺愛好処刑人』の声。なんだか怒りがむき出しの状態で怒っている。
怒っている声を聞いていたみんなも驚きつつも、視界の端でその光景を見るだけに留めている。私は見ることができるから見ているけれど、その光景はまさに異様な光景としか言いようのない風景で、顔が出ていないから怒っているのかどうかもわからないような、一言で言うと変な光景だった。
だって、『虐殺愛好処刑人』の言う通り、手だけしか出ていない状態で、しかも顔も何も出していない状態でいるのだから、偏と言う言葉以外出てこない。
そんな状態の中『虐殺愛好処刑人』の隣に板善さんは呆れるような溜息を零しただけで、それ以上は何も言わな――
『なにぃ……? 『こんなことろでお前のぶった切りが出たらここが大惨事になる』だぁ? ふざけているのかっ? 俺は全てを切り裂くために生まれ、その快楽に浸り戦う影だっ! 影と言うものは鏡のような存在だぞ? そんな存在に対して否定的とはよく言えるなぁっ!? 善』
「?」
あ、言っていた。きっと心の中で言っていたんだろうけど、『虐殺愛好処刑人』には聞こえていたらしい……。
そう言えば影と繋がっているから、それ繋がりで聞こえているのかもしれないけど、そこの真相は分からない。わからないけど、少しだけ引っかかる様な言葉を聞いた気が……。
そんなことを思っていると――
『『お前と俺は違う』だとぉ? 偉そうなことが言えたもんだなぁっ? こんな手だけの状態で出して……、お前は一体何様なんだぁっ!? お前は俺の主でも何でもないっ! 対等の関係であることを忘れるな!』
「ん」
『その恥ずかしがり屋も直せば見た目の箔もつくもんだ。心がひよっこの分際で』
なんか……、すごく仲が悪いような空気を感じる。
もしゃもしゃもなんだかどんよりとしている空気で、近寄りがたいそれを出している。
黒い靄がうようよしているような、そんな感じのもしゃもしゃ。
一言で例えるならばわかめのような煙が漂っているような感じがする……。
そんなことを思いながら聞いていると、突然善さんと『虐殺愛好処刑人』以外の声が耳に入ってきた。
「あらぁ」
それは突然で、あ、いや。他の声が聞こえたのならば突然じゃないかもしれないけど、それでも二人の会話に集中していた私からすれば突然で、声が聞こえた方向に視線を移すと――
「まさか……、鬼のお姫様は害術をする際に厳重な御守り人をつけるのですね?」
声を放った人物――ラージェンラは鼻で笑う様に、呆れとかおかしさが混じっている音色で言ってきた。
しかも向けている人物はオウヒさんで、オウヒさんはむっと顔を顰めて、私が発動させた『強固盾』の壁に手を付けながら怒りを剥き出しにした言葉をラージェンラに向けて吐き捨てる。
「おもりの人じゃないっ! 友達だよ! すんごーい力を持っているお友達だよっ!」
「お姫様――おもりは訂正して。友達は良いけど。おもりじゃなくて代理人でお願い」
オウヒさんはもう感情の思うが儘と言う感じで言っていたけれど、とある言葉が引っかかったのか、シェーラちゃんは真剣で怒りが込められた音色でオウヒさんに訂正を求める。
本当に『おもり』と言う言葉を聞いて嫌な気持ちになったのか、それとも恥ずかしくなったのかはわからないけど……、そもそも『おもり』ってなると、ベビーシッターを連想しちゃったのかもしれない。
シェーラちゃんの心境は分からないけど、それでも恥ずかしいと思ったのは事実らしく、マーメイドソルジャーの耳を真っ赤にしながら訂正しているその姿を見て、アキにぃは後ろで頷いている。
アキにぃも思っていたんだ……。
アキにぃが珍しくシェーラちゃんに対して同意を示していると、オウヒさんの言葉を聞いていたラージェンラは「ふぅん」と相槌めいた言葉を吐いて、その後彼女はオウヒさんに向けて…………ではなく、今度は私達に向けて言葉を向けた。
気品あふれる――ロフィーゼさんのような妖艶さは欠けているけれど、それを補う様な上品さを乗せた言葉と音色で……。
「ふふ。おもりじゃなくて友達ねぇ……。その友達と言う関係はいつまで持つのかわからないのに、断言するとは、お姫様はどうやらかなりの日和者の様ですわ。あなたは鬼。鬼は己が種種族以外を恨むことで有名で、他種族――特に人間であれば命を弄ぶと、我々の界隈では有名な話」
「…………………………」
「もしかすると、お姫様そのものがまさかの裏の顔を持つ人なのかしら? まさか鬼自身が人間や他種族、あろうことか異国の冒険者に対して『お友達』と断言するなんて……」
ぶっ飛んだ日和者。
いいえ、もしくは皮を何層にもかぶっている変装師かしら?
ラージェンラは言う。馬鹿にするような言葉で言っていたけれど、彼女の言葉を聞いていたみんなの面持ちはあまりいい顔ではない。むしろそんなことを自分の立場からして聞けば嫌な気持ちにならない人なんていない。
……というか、あんなことを言われていい気分になる人なんていないと思う。
絶対にいない。訂正して断言します。
そんなことを考えて頷いていると、私と同じことを考えていたエドさんがラージェンラに向けて言葉を発した。
神妙で、微かに零れている怒りを出しながら、エドさんは言う。
「………その言葉は、あまりきれいではないですね」
エドさんは言う。敢えてというか……、わざと丁寧な言葉にしてラージェンラに言うけれど、その言葉を聞いたラージェンラは肩を竦めて鼻で笑いながら「事実かと思っただけよ?」と言うけれど、その言葉も逆撫でとなってしまったのか、エドさんは続けて怒りが零れている雰囲気だけど、冷静なそれで言った。
「確かに、彼女は鬼の姫だ。鬼族が受けてきたことに関しては重々ではないにしても、ある程度のことは理解しているし、それに……、もし自分がその立場ならばそうしていたかもしれないっていう恐怖もあります。自分の仲間がある者の手によって殺められ、形見やいろんなものを良いように使われたとなれば、それはもう腹が煮えくりかえる様な憤りでしょう。これは常人の……、いいえ普通の感情だと思います。だから鬼族の気持ちに関して同情と言いますか、はっきりと『やめろ』なんて言えない。言っても止まらないことは分かっているので」
「あらら。なんだか体験談のように話すわね? 確かにあなたの言う通り普通の感情ね。なら」
「でも――このお姫様は違う」
「?」
エドさんは言う。敢えて――と言う言葉を使って、エドさんはラージェンラの言葉を遮って言ったのだ。
善さんの影――『虐殺愛好処刑人』の手の中に収まっているオウヒさんを一瞥した後、エドさんは続けるように言ったのだ。
「普通の鬼のように恨むどころか、お姫様はその感情を抱かず、外の世界に憧れを抱き続けた。ずっと脱走を繰り返し、ずっと憧れを諦めずに――ずっと鬼の仲間たちに迷惑をかけてここまで来たんです」
「俺達もそのことに関しては憤りしかないし、おかげで筋肉痛だよ」
エドさんの言葉に対して同意を示すように、アキにぃが頷いて溜息を吐き捨てる。
アキにぃの言葉に関して――誰も頷きはしなかった。
簡単な話……、それを体験しているのはアキにぃだけで、私、シェーラちゃん、虎次郎さんとキョウヤさんはそんな筋肉痛になっていない。ヘルナイトさんは当たり前でなっていないし……。
無言のままでいる私達のことを見ていたアキにぃは、一瞬だけ理解できないような顔をして「あれ? え? ちょ……」と何か言いたげな様子でおどおどと私達の顔を襦袢に見ていたけれど、そんなアキにぃの言葉、行動を無視してエドさんは続ける。
迷惑をかけた。その後の続きとして……。
「でも、それは仕方がなかった。お姫様の夢のこと。そして色んなことを聞いてきました。やろうとしていることも全部。間接的ではあるけれど……。それは必ずしもとまでは言えない。でも、あなたの言う善人の皮を被っているということは絶対にないと断言できます。彼女は鬼族のことを考え、そして未来を考えたうえで行動している。これが善人の皮を被っているからと言えるのでしょうかね? それにお姫様は純粋です。純粋過ぎておれ達の生態を知ろうと怖がらず、殺そうともしない。騙そうとせず、彼女は純粋に、他種族の良いところや悪いところ全部知りたい欲求の思いがこれなんです」
エドさんは言う。オウヒさんのことを純粋で、みんなのことを考えているお姫様だと……。
それは私も思っていたことでもあるし、一種の知識欲が大きいって言った方がいいのかもしれないけど、その知識欲は純粋で、憎いとかそんなものなんて感じない。
感じないし、郷のみんなのことが大好きだから知ってほしいだけなんだ。
鬼以外のみんながみんな悪い人ではない。
いい人だってたくさんいる。
それを伝えるための――夢なんだから。
「この二週間の間おれ達が何もせず、その場にいるだけだと思いましたか? おれ達だって聞いてしまったからには何とかしたい。無力でも何かをしたい気持ちになる。何ができるのかと模索して、考えて行動し、失敗しては成功するために何度も考える。ハンナちゃん達が考えたことがハンナちゃん達なりなら、おれ達だって模索するに決まっています。鬼姫様も言っていました。みんなそう思いますよ? 恨みだけの運命は辛いし、恨んだところで何かを得るのかと聞かれてしまえば、答えなんて出ないに決まっていますし、どんな人でもそんな運命背負うなんて……、キツイですよ。こんな運命をぐるぐる回るなんて――気が遠くなってしまいそうだし、何より未来ある者達の運命を強制的に導いてしまう。そんな運命……、おれは嫌なんです」
もうこりごりなんで。
そう最後の言葉を付け足すエドさん。
本当に、本当に体験したかのような言葉の数々。
それを聞いていた私やみんなは一言も口を開けず、どころか聞き入るようにエドさんの言葉に耳を傾ける。
あのラージェンラも驚きの顔をしつつ、目を細めているような顔つきでエドさんの話を聞いている。
一見すると異様に感じてしまう光景だけど、それでもエドさんは続ける。
言葉を続けて――思っていることを発言しながら……。
「それに、そんな風に思うっていうことは、あなたが相当なネガティブ思考で、相当嫌な思いをしてきたからそんな風に思っているだけかもしれませんよ? 純粋に、素直な気持ちで聞けば分かることでもあるし、あなたは鬼姫様の目を見て、行動を見ても、それが偽善で皮を被っていると思っているのであれば、それはもう歪んでいるとしか言いようがない」
「? エド?」
「?」
エドさんの発言を聞いていたシロナさんと善さんは、首をかしげるようにエドさんのことを一瞥する。
きっとエドさんの発言を聞いて、エドさんらしくないとか、エドさんならこんなこと言わないなと思っているに違いない。そんな顔が二人の顔に浮かんでいて、私が見ても二人の不安と言うか、なんだか違和感を覚えている不安定なもしゃもしゃがそれが出ている。
出ているからこそ聞いたのだろうけど、エドさんは止まらない。
止まるどころか、どんどん言葉にしてエドさんは告げていく。
無言のままエドさんを見ているラージェンラに向けて……。
「あんたのような捻じ曲がった思考回路と人格に翻弄されるほど、この鬼姫様の心は弱くない。たとえ弱くなったとしても、その弱さを糧に変えて強くなる」
あんたのような――弱さを隠すために強くなった輩と違ってね。
□ □
断言したエドさんの言葉には、どことなく……なんていうものではなく、はっきりとしていて、なんだか的を得る様な発言の数々。
ラージェンラの言葉を使うことになっちゃうけど、本当に体験してきたかのような言葉の数々に、本当にエドさんは何者なんだろう。あまりそのことに関して追及してこなかったけど、そのことに関して疑問を持つようになってしまう瞬間だった。
みんなエドさんの発言の後から発言をしなくなり、静かな静寂が辺りを包み……。
「弱さ……」
込むことはなかった。
その言葉が辺りに響いた瞬間……、一気に空気が重く、そして、押し付けられるような圧迫感を私は感じた。
ずしりと、頭から押し潰されてしまうかのような感覚。
言葉の綾って言うのがあるけれど、これは綾なんて言うものではない。本当にそう感じてしまう何かだった。
みんなもそれを感じたのか、圧迫と重みを感じると同時に、言葉を発した張本人――ラージェンラ二向けて敵意を再度向ける。
今まで話していたエドさんも手に持っていた槍を向けて。
でも、みんなの矛を見てもラージェンラは動じることなく、どころか呆れるような溜息を大きく落とした後で、彼女は発する。
なんだかわからない。けど……、彼女から出て来る、血みたいにどろどろとしたものを発しながら彼女は言う。
「それは良い話だわ。とても感動的で、心に刺さりそうな言葉だけど……、現実はそんなものではないわ」
ラージェンラは言う。にっこりと、裂ける口を無理矢理笑みをして描きながら……、
「現実はそんな綺麗なものではない。私はそれを知っている。世界と言うものは汚いものにふたをするように、汚いものを見せないようにきれいなものを表に出している。それを使ってカモフラージュしているだけ。世界も人も、他種族もそうなの。何もかもがカモフラージュ。何もかも……、隠されたものを見ようとしない」
「表の世界しか見ないで、裏で何が行われているのかも知らない輩に、そんなお説教聞きたくないのよ。私は知っている。どんなところにいても裏と言うものがある。世界、生きている者、そして……仲間とか、友達とかほざいている日和ものにも、しっかりと裏って言う腐ったものがあるの」
「腐っている奴はそれを隠し、隠れて罪と犯して、罪なき者達を罰して、腐った世界に埋める。外道がすることと同じなのに、なぜか外道を正しいとみなしている。あなた達もそうよ。この国――アズールと言う裏をあなたたちは知らない。表と言う世界しか見ていない。表の汚いところしか知らない。裏はもっともっと汚い。汚いからこそ私は罰しようとしたあの人を、断罪人を見習って行動した。行動して――『六芒星』に入ってこの国をきれいにしようと思った」
全部、全部、全部――
全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部――
一からのやり直させようと、思っていたのに……。
敢えて気品あふれて、上品に微笑みながら言っているけれど、言葉の真意はまさに汚いそのもので、私はその言葉を聞きながら思った。きっとみんな思っている。
この人の心は――どす黒いと。
コウガさんやつーちゃんの言葉で言い表すと、腹の中が腐っている。と言えばいいのかもしれない。
そのくらいラージェンラの言葉には毒に近いものを感じた。
オウヒさんの気持ちに対して逆撫でのように言い、エドさんの言葉をきれいごととして片付けて、私達に対して不信を……、疑心を、巨大な恐怖を植え付けようとしている。
汚れている。穢れている。
そう呟きながらラージェンラは私達に教えていく。
これは親切心なのか、それとも恐怖を煽っているだけなのか……。はたまたは別の目的があるのか……。
何もわからない。
わからないから、私は思った。
全身を這うように走っていくこの寒気を感じて、私は思った。
この人は、ガザドラさんやオグト、そしてオーヴェンとは比べものにならない……。
常軌を逸した――歪みを私達に放っていると……。
「来てて呆れて欠伸が出そうだった」
この場の空気を荒れさせるための言葉なのかもわからない中、ラージェンラは言う。キョウヤさんの槍が首元に突きつけられているのに、敢えて前に向かって進みながら……。
「おい止まれ」
キョウヤさんが静止の声を掛けた。
でもラージェンラは止まらなかった。止まることをせず、どんどん前に向かって歩み、そして階段を一歩、一歩と駆け上がりながら彼女は言う。
首に当たりそうになる刃を適度な距離で保っているキョウヤさんも驚きで少しずつだけど後ずさりしているのに、みんながどんどん前に進んでいくラージェンラのことを見て驚きの顔を浮かべているにも拘らず、この場所の空気が重くなっていくにも関わらず、ラージェンラは進む。
一歩。一歩――
ひたり、ひたりと歩みを進めていく。
なんだろう……。なんか変な感じがする……。
ナヴィちゃんが『ぐるる』と威嚇めいた声を出して唸っているけれど、私はそれよりも
「お姫様はどうやら頭の方はとんだ阿呆の様ね……。鬼は鬼らしく鬼の暮らしに順応しなさいって言われなかったかしら? 『これが普通だ』って教わらなかったの? 私のように普通の暮らしさえできなかった奴とは違って、あなたは出来た。大衆の中に紛れ込むことができた。なのにそれに異質な存在として君臨して、こんな危ない目に遭って……、あなたはこんな他種族に対して友達だなんて。欠伸が出そうで出そうで苦しかったわ」
「と、友達は友達でしょ……? あなた、もしかして友達」
「そんなの結局は生贄確保のための上等文句なの。自分の囮となるものを確保するための口説きなの」
『――っ』
「?」
「いけ、にえ? 囮確保……?」
ラージェンラの言葉から吐かれた更なる内容は、まさに理解できない内容だった。
彼女から出てきたその言葉と共に、口から零れ出て来る黒くてドロドロとした――粘着性を持った真っ黒いもしゃもしゃ。その中には赤や青、色んな色が混ざっているけれどほとんどが黒で浸食されているような感じで、ぱっと見では黒と言う認識しかできない。
認識しかできないから、私もそのもしゃもしゃをよく見ないと混ざっていることなんて知らないまま終わっていたかもしれない。
よく見ないとわからないくらい――その感情は黒で塗りつぶされていた。
水で落ちきれないほど、ガソリンがかかってしまったかのように取れない黒。
黒は私達の足場を泥濘に変えていき、その状態で歩みを進めながらラージェンラは言う。
どろどろと、まだ零れていく黒を流しながら……。
「あなたは世間を知らなさすぎる。鬼姫様――あなたのことを言っているの」
「!」
鬼姫様。
その言葉を聞いたオウヒさんは驚きながら肩を震わせ、顔を強張らせながらラージェンラのことを見ると、ラージェンラはにっこりと……、上品に狂気を混ぜた笑顔を向けて言う。
ドロドロと……、零れていく黒いそれを空中に……。
ん? 空中に?
そう思っている間に、ラージェンラは私達に向けて言う。狭い階段の通路と言う場所だから、攻撃なんてできないと思っていたけれど、それこそが驕っていたということを知ることになるのはすぐ先になることを示唆するように、ラージェンラは背後から出した黒いそれを出して言う。
ちゃんと、みんなにも見えるそれを見せて……。
驚いている私達を無視して、ラージェンラは言う。
「全員世間と言うものを知らなさすぎるわ。こうなったら、私が親身になって教えてあげる」
気品あふれる狂気の笑みで、彼女は告げる。
背後に出ているそれを――私達に向けて!
「――世界の腐敗を」




