PLAY124 神器取り扱い説明書②
いろんな出来事。色んなアクシデントがありつつも、私達はやっとオウヒさんを見つけることができた。
きっとこれはあの出来事がなければ見つけることなんてできなかった。
私達だけでは見つけることができなかったし、私自身もしゃもしゃを感知する力を研ぎ澄ませてもできなかったかもしれない。そのくらいオウヒさんが捕まってしまった場所は遠かった。
だって……、私達が探していた場所は『フェーリディアン』と言う街中。
じゃない。
オウヒさんが捕まっていた場所は――フェーリディアンから少しだけ離れた廃れた小さな町の家屋だった。
ずっとずっとフェーリディアンにいると思っていたけれど、それこそが盲点と言うか、凝り固まってしまった思考が仇となってしまった結果、私達は見落としていたのだ。
固定概念がオウヒさんを雲隠れさせていた。
そんな格好いい言葉が浮かびそうなくらい今回は騙された。
だからシェーラちゃん達と合流して、あとで合流したエドさん達にこのことを伝えた時は驚いていたし、この場所を知った時も驚きを隠せなかったくらいだ。
因みに移動方法はナヴィちゃんが大きくなって私達を乗せてくれたことで、移動も楽だった。
あ、あとしょーちゃん達とも合流したかったけど、どこを探してもいなかったので結局探すことを諦めようとアキにぃが提案し、アキにぃの提案にシェーラちゃんや善さん、シロナさんが賛同したことでしょーちゃん達を探すことを諦めて私達は今ナヴィちゃんの背に乗った状態で、上空からそれを眺めている。
本当に………、半ば強制的というか、時間がない事も相まって。
ごめんね――しょーちゃん。
話を戻して……。古い家屋を見てアキにぃはぎょっとしながら「廃村? あ、いや……廃町か?」と言っていたくらい――その町は廃れていた。
人々から忘れられてしまったかのように家屋はところどころ壊れていて、草木もぼうぼうと生い茂っている。
人の手が施されていないという光景を体現している町にはところどころに樽の残骸や色んなものだった何かが転がっている。
まさに絵にかいたかのような廃れた町。
それを見てシェーラちゃんも「盲点ね……」と私越しにドラゴンになったナヴィちゃんに向けて言うと、ナヴィちゃんは「グルルル」と唸りながら私達を横目で見る。
微かに『褒めて』と言う意志が見え隠れしていたので、私はそんなナヴィちゃんの首元をフワフワと撫でながら「うん。ナヴィちゃんのお陰だよ。ありがとう」と言う。
勿論これは褒めているわけではなく、感謝としてのそれなんだけど、それでもナヴィちゃんは嬉しかったらしく、ドラゴンの姿で鼻息をふかしながら胸を張って喜びを顔に出した。
顔に出している光景を見ていたキョウヤさんは「まんざらでもねーな」と少しだけ揶揄いながら言っていたけれど、ナヴィちゃんはドラゴンの顔で本当に嬉しそうな顔をしている。本当にニマニマしていると言っても過言ではないその顔で……。
でも、私はそれよりももっと気になっていることがあった。
それは――ナヴィちゃんのどや顔を見ながら私はちらりととある光景を見るために横目で見つめる。
そう……、ヘルナイトさんのことを見て。
現在ヘルナイトさんはいつも通りの雰囲気と凛としている佇まいをしている。
でも、少し前までヘルナイトさんの心境は荒れていた。
少しだけ、波が立っているような、そんな優しい並みだったけど荒れていた。
それを察知して私はヘルナイトさんに聞くと、ヘルナイトさんは少し黙った後でこう言っていた。ナヴィちゃんの案内の元、二人でみんなと合流しようとしていた時のこと――その時にヘルナイトさんは言っていた。
これは、自分の所為かもしれないって。
盲点だったってヘルナイトさんは言っていた。
ヘルナイトさんの言う盲点だったこと
それは記憶がまだ完全に戻っていなかったことで早く見つけることができなかった。もっと早く思い出せばよかった。そして自分の要件なんて二の次にしておけばよかった。
そうヘルナイトさんは言っていた。
凛としているのに、苦しそうに聞こえてしまう様な、そんな音色で……。
そのことに対して憤っていたみたいだけど、そんなことを考えている暇はないという感じで収まっていたけど……、やっぱりヘルナイトさんも正直責任を感じていたのかもしれない。
あの時――離れていなかったらとかそんなことを考えていたの?
私では考えられないようなことを色々と考えて、そして後悔して、時が戻ればそうしたかったって、もしかしたら思っているかもしれないけど……、そのことに関して私は責めるなんてしなかった。
どころかヘルナイトさんは私の考えていることがお見通しなのか、向かっている道中でこんなことを言っていた。
「気にするな。あれは私が言い出したことだ。私情を優先した結果がこの最悪の結果を導いたのならば、私はその責任を背負うつもりでいる」
過去は戻らない。
過去を戻すなんて、そんなことはできないし、そもそもこれは私も賛成したことなんだ。これは言い方が悪くなってしまうけど、連帯責任なんだ。
そして、ヘルナイトさんが初めて私達よりも優先にしたことだもん。
それを踏み潰すようなことはしたくなかった。断るなんてことをしたら、なんとなくだけど……、後悔しそうで嫌だった。
だからこれは、必然なのかもしれない。
オウヒさんには悪いけど、必然ならば……、この後の最悪を最悪にしないように行動するべきだと、そう思ってしまっている。全部が全部想定内の必然ならば、それを受け入れるしかない。
受け入れる代わりに――この先で起きる出来事を阻止する。
そう意気込んで……、私達は真下にある廃町に降り立って、とある家屋から聞こえたその声を辿って……。
――今に至った。
「あんたは……、『浄化』の……!」
「あなたは……、アルテットミアで出会った……」
□ □
オウヒさんの声が聞こえた家屋を少しだけ壊して中を見た時、私とアキにぃ、キョウヤさんは驚きの顔をしてオウヒさん――の手首を赤い何かでしぱっている人を見た。
その人は一瞬見たことがないと思ってしまいかけたほど、懐かしく思えてしまう人で、その人の背に生えている翼を見た瞬間私はすぐに思い出した。
女性だけど、金色のふわっとした長髪と、目元には深い切り傷が残っている。目を閉じててもロフィーゼさん以上の妖艶な香りを放っているような、黒いスゴイ露出の高いワンピースを着ているララティラさんに負けないようなグラマラスの裸足の女性。背中には黒いカラスのような羽を生やしている……。
そうだ、この人はあの時、アルテットミアでオグトとオーヴェンのことを連れ戻そうとしていた――ガザドラさんと同じ『六芒星』の幹部で、確か名前は……。
「堕天使……、ブラディア・エンジェリナのラージェンラ……!」
私は告げる。今オウヒさんの手首を縛って引っ張っている女のことを見て、驚きの顔を向けて――
そんな私の言葉を聞いてか、オウヒさんの手首を赤い何かで引っ張っている女――ラージェンラは一瞬苦々しく悔しそうな顔をしていたけれど、その顔を崩して、くすりと淑やかで女性らしさを醸し出した雰囲気の笑みを浮かべて言う。
「あらぁ」と、一言前置きの言葉を添えて……。
「まさか……、浄化で忙しいあなたが、私のことを覚えていただなんて光栄だわ。そうよ。私は堕天使にして『血涙天族』血の魔女とも言われている……。ガザドラと同じ地位にいる『六芒星』幹部・ラージェンラ」
以後、よろしくお見知りおきを。
と、丁寧な自己紹介をしてきたラージェンラ。
その光景を見て、聞いていたシェーラちゃんは私の背後で「ふーん。意外と大層な通り名ね」と細めた目つきで興味なさげな音色で呟く。
シェーラちゃんの言葉を聞いて、ついさっきナヴィちゃんから降りて武器を手に取っているアキにぃ達はシェーラちゃんに向けて大きな声を張り上げてきた。
あ、一応言っておきますが、家屋を壊す前に私とシェーラちゃん、そして善さんはナヴィちゃんの瀬の上で待機しているけど、他のみんなはナヴィちゃんから降りて臨戦態勢を取っています。
ここに唯一以内しょーちゃん達はまだ来ていないけど、リカちゃんだけはシリウスさんのこともあってここには来ていない。
リカちゃん自身シリウスさんのこともあり、色んなことがあって感情がぐちゃぐちゃだろうから、そっとしておこうという結論になり、今ここにリカちゃんはいない。
だからここにいるのはリカちゃんとシリウスさん以外のエドさん達。そして私達リヴァイヴ。
数からすれば少数編成の冒険者達。でもこの中にはヘルナイトさんがいる。
きっと、大丈夫。
この時の私はそう思って、絶対にオウヒさんを助けることができると、確信していた。
そう……、確信していた。
「『六芒星』って……! しかもあんたはあの時ガザドラと一緒に……!」
「おぉ。まさかあのおぐとと言う大男と同じ仲間なのか?」
『六芒星』幹部のラージェンラの自己紹介を聞いたアキにぃは驚きながら前に出て言う。手にはライフル銃を構えたままで、いつでも打てる準備をしてアキにぃは前に出る。
するとアキにぃの言葉を聞いてキョウヤさんの後ろで聞いていた虎次郎さんは何かに気付いたかのように割り込みと言わんばかりに言葉を発する。
あ、そう言え場虎次郎さんもラージェンラのこと知らなかった。シェーラちゃんと同じでオグトとガザドラさんのことしか知らないから……。
「ちょっと話聞いているの? 知り合い?」
「あ」
と、背後から聞こえた声に私は驚きと気づきの声を零すと、すぐに後ろを振り向く。
後ろを振り向くと――シェーラちゃんが少しむすくれた顔をして私のことを見ていた。
本当にむすっとした顔をしながら「どうなのよ?」と言っているところから見るに、もしかすると、無視されたことにむかついたのかな……?
私はそのことに関して少しだけ考え、ちょっとだけ可愛いなと思ったけど、今は緊迫の状況。そして戦闘が始まるかもしれないから、シェーラちゃんに向けて――
「うん。知り合いというか……、オグトと同じ幹部で、戦ったことはないけど嫌な感じの人」
と、あの時感じた素直な気持ちを伝えると、シェーラちゃんはむすくれていた顔をすぐに平常の顔に戻して……、小さな声で「そう」と言って、腰に携えていた二本の剣の柄をぐっと掴む。
掴んで、その場で立ち上がると――
「なら――私も参加する」
と言って、その場でナヴィちゃんから降りてしまう。
とんっとナヴィちゃんの背から飛び降りるその姿はまさに直立で、そのまま降りていくとシェーラちゃんは空中でくるんっと一回転して、綺麗に足から着地して立ち上がる。
腰に携えている剣を握ったまま――臨戦態勢を取って。
「お。やる気なんだな。お前もかなりの戦闘好きなんだな」
「喧しいわよ――いつぞやか男傷つけられて情緒不安定になったヤンキー女が何を言っているのよ」
「お前……、喧嘩売ってんのか?」
「売りたければ買うわよ? 近接特化だと分が悪いと思うわよ? この戦いでも」
臨戦態勢を取った後で隣にいた (偶然)シロナさんに犬歯が見える笑みを浮かべた笑いの声を掛けられたけど、シロナさんの言葉に対してなぜか挑発めいた言葉を吐き捨てるシェーラちゃん。
シロナさん的にはきっと『やる気十分でよろしい』と言いたかったのかもしれないけど、シェーラちゃんの言葉……、挑発の中にまさにトラウマを抉る様な言葉を吐き捨てられたものだから、シロナさんは笑顔で斬れそうな顔をしている。
あ、もう切れているのかもしれない。
その切れに対してさらに追い打ちをかけるシェーラちゃんもシェーラちゃんで……。
なんだか不穏な空気が二人の間を取り巻くように蠢ている気がする……。もうどす黒い赤のもしゃもしゃがシェーラちゃんとシロナさんを包もうとしているけど、その空気を察知したのか、キョウヤさんが慌てながら止めに入っていく。
「そこでやめろ止まれっ! それ以上は駄目だ拗れるって! 女の喧嘩はこの世で上位にランクインするほど厄介なんだぞっ!? 拗れるな仲間だ仲間っ!」
とか何とか言いながらキョウヤさんはシェーラちゃんとシロナさんの間に入って仲裁している……。一見すると普通の光景なんだけど、キョウヤさんがそれを言って仲裁に入った時点で、キョウヤさんのメンタルもすごい気がするのは……、私だけかな?
女の喧嘩は怖いって言っているのに、その間に入るって、かなり勇気がいる気が……。
そんなことを考えていると――
「ごちゃごちゃと……私に喜劇でも見せるために来たの――かしらぁ!?」
ラージェンラは私達の会話を聞いていたのか、というか会話を聞いてしびれを切らして、突然自分の腕を勢いよく後ろに向けて回した。
ぐるんっと――肩凝りを解そうとする動作を片腕だけで行った瞬間、オウヒさんの体が宙を舞った。
「わ――?」
『!』
一瞬で驚きの光景だった。
オウヒさんは確かにその場で空中を一瞬舞う様に飛んだ。しかも低空のそれで、空中を舞ったかと思ったと同時にそのまま引っ張られるように直角になってラージェンラに向かって飛ぶ。
一種の手品のように、一種の超能力のように引っ張られているけれど、実際は手首に巻きついている赤黒いひもを引っ張っているだけのもの。
つまり糸で引っ張られているのと同じ原理でオウヒさんは引っ張られてしまっただけ。
それを見て私達は驚きの顔をして飛んで行くオウヒさんを見て――そして即座に行動に移した。
私だけは何もできないというか。この状況で前に出るなんてことをしたら邪魔になるだけ。だから出なかったんだけど、それでも、みんなの行動は迅速で、流れる様な動作だった。
まず最初に動いたのはアキにぃで、アキにぃは手にしていたライフル銃を構えて。
オウヒさんに向かって走っていた虎次郎さんとシェーラちゃん。そして善さんも走って。
キョウヤさんとエドさん、シロナさんはオウヒさんの向こうにいるラージェンラに向かって駆け出して。
みんながみんな、行動に移した。
「――『ストロング・ショット』!」
アキにぃがスキルを唱えると乾いた音とともに放たれる発砲音。
その音が聞こえた瞬間――私はその銃弾をできる限り目で追って、追いながら私は手をかざして唱える。
手の先をオウヒさんに向けて、オウヒさんを守るように……唱える。
「『強固盾』!」
唱えると同時に、オウヒさんの周りに出てきた半透明の球体。
ばしゅっと、なんだか空気が入った風船の中に入っている人のようになったオウヒさんは、少し驚いているけれど、中に入っている状況に好奇心が勝ったのか……、『おーっ!』と歓喜の声と共に目をキラキラさせている。
オウヒさんの場違いに感じてしまう光景を見ながら私はほっと安堵のそれを零していると、みんなの方はどうやら次の動きを行っているみたいだ。
アキにぃが撃った『ストロング・ショット』が的確に赤黒い糸に当たると、そのままぱぁんっ! と小さな爆ぜを見せる赤黒い糸。
一瞬爆ぜた瞬間を見て驚いてしまい、その爆ぜが起きた後で石造りの階段の壁に明る老い液体が幾つも付着していくその光景は、まさにスプラッターのように飛び散って、一瞬見たエドさんは驚きながらも駆け出しを続ける。
続けて、糸と言う引っ張る存在を失ったオウヒさんは『強固盾』の中に入ったまま空中で一瞬だけ、本当に一瞬だけ空中を浮いていて、切れてしまった糸を見て驚きつつも振り上げていた手をもう片方の手で隠して舌打ちを零すラージェンラは浮いているオウヒさんに視線を移した。
けど……、彼女の行動を一足先に止めに入ったのは――
白い虎の手を剥き出しにした、跳躍した獣のシロナさん。
「――っ!」
シロナさんが目の前に現れて、しかも至近距離で出てきたのだから、ラージェンラは驚いて反応が遅れ、シロナさんの先攻を許してしまう。
「――っしゃぁ!」
シロナさんは獣の牙剥き出しの覇気ある声を張り上げて、大きく殴ろうとしていたその手を思いっきり開くと、獣の五指から鋭い爪を出して、その牙で切り裂かんばかりに大きく腕を、腰のひねりを使って振るう。
振るうと同時に空気を裂く音が聞こえ、ラージェンラは即座に防御態勢を取るように、ラージェンラ視点で見ると左側からくる攻撃を腕を使って防ぐ。
どがぁ! と言う鈍い音と同時に聞こえる軋む音。
「っ!」
軋む音が聞こえたと同時にラージェンラの顔が歪んだから、きっと腕の骨にひびが入ってしまったのだろうけど、そんなこと好都合と言わんばかりに後から来たキョウヤさんが槍を使ってラージェンラの首に、エドさんは盾を構えてラージェンラとオウヒさんの間に入り込むと、シロナさんはそんなエドさんの前で獣特有の四足歩行の威嚇の構えを取って唸り声を零す。
オウヒさんの所ではオウヒさんを包んだ『強固盾』の球を善さんが出した『虐殺愛好処刑人』――の手の中に収まり、そんなオウヒさんを守るようにシェーラちゃん達三人が前に出て応戦しようとしている。
勿論――アキにぃも応戦できるように二丁拳銃を構えている。
一瞬で――多対一が出来上がった瞬間だった。
「っ! まさか……!」
ラージェンラは折れてしまった腕を抑えつつ、驚きながら私達を見る。
きっと予想よりも戦えることに驚いているのかはわからない。わからないけどラージェンラの言葉を聞いていたエドさんは神妙だけど、落ち着いている音色でこう言った。
彼女の言葉を聞いて、焦りを感じ取って言ったのだ。
「そうだね。予想通り狂ったんだ。ここで計画、頓挫してもらえると助かるんだけど……、ダメかな?」
エドさんの言葉ははっきりとしている。
はっきりと、私達が勝つことを遠回しに言っている。
分かる。私もこれを見てしまえばわかってしまう。こんなの一人だけなら劣勢だ。しかもオウヒさんを救出した時点で私達はラージェンラに対して思う存分戦える。
これがもし枷がある状態――オウヒさんが捕まっている状態ならまだ勝ち目があったかもしれないけど、それも無くなってしまった。
そう。なくなった。
なくなったのに……。
私は思う。
ラージェンラの体から零れる焦りと一緒に出ている……、オレンジのほくそ笑むそのもしゃもしゃを見て、何がおかしいのだろうと、そう思って凝視してしまう。
何が、そんなにおかしいの?
まだ何かを企んでいるの? と……。




