PLAY124 神器取り扱い説明書①
「あんたは……、『浄化』の……!」
「あなたは……、アルテットミアで出会った……」
それは運命の出会いではなく、再会だった。
再会という名の出会いはまさしく最悪と言っても過言ではないもので、ハンナにとってこの再会は新たなる戦いの火ぶたとなってしまい、ラージェンラにとってこの再会は最も憎むべき再会となってしまった。
だが忘れていないだろうか。
なぜハンナ達はここにいるのか。
まずはそこから詳しく話さなければいけないだろう。
桜姫が掴まっている間に起きていたことを……。
□ □
「………ぁぁぁぁぁぁあああああああああああああ~!」
「?」
頭上からというか、上空から落ちてきているそれを見上げて、私は目を細めて見つめる。細めて見えるというわけではないけれど、それでも人間は目を細めてよく見てしまうらしい。
私もその一人で、ヘルナイトさんも見上げたまま無言でいる。
私とヘルナイトさん、二人共無言のまま上空からくるかもしれない何かに警戒していたのかのかもしれない。何かが来るという警戒はいつものことで、もう癖にも感じてしまいそうだった。
私は見上げたままだけどヘルナイトさんは万策でいるかもしれない。
すぐに大剣を引き抜けるようにしていると思う。
それは見ないとわからないけど、なんとなくそうだろうなと思ってしまって、私は何もできないから見上げて何が落ちて来るのだろうと思いながら見つめていると――
「………ぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああ~!」
「!」
だんだんとだけど、声が大きくなっている。
しかもなんだか可愛らしい声……。
「ん?」
「ハンナ――多分だが、考えていることは一緒だと思う。だからこそ敢えて聞こう」
ヘルナイトさんは聞いた。私に向けて、私を見ないで前もっての質問をすると、私はヘルナイトさんのことを見ずに頷く。
頷いて、ヘルナイトさんの言葉に対して同文ですと言わんばかりに私は「いいですよ」と言うと、ヘルナイトさんは一幕間をおいて言った。
上を見上げ、大剣を引き抜くという体制を少しだけ緩めて――
「多分だが、『聞いたことがある声』な気が……」
と言った時だった。
「………ゃぁああああああああああああああああああああ~!」
「ん?」
「今の声は……」
また声が聞こえてきたので耳を澄まして聞くと最初はあまり聞き取れなかったけど、あとから聞こえた声に私は「ん?」と声を出して傾げてしまった。ヘルナイトさんも同じように何かに気付いたのか疑問の声を上げる。
そう――上空から落ちてきている声を聞いて、私はヘルナイトさんと同じことを思っている。同じことを思っていたからこそ、断言できたんだ。
確信できたんだ。
あの声は、聞いたことがある声。しかも懐かしく感じてしまう声で……、その声を聞いた瞬間脳裏に浮かぶその姿を思い描こうとした。
きっと、落ちてきているあれはきっと……、『あの子』だと思いながら細めて居た目を開けた。
時には……。
「!」
もう時すでに遅かったみたいで……。
「きききゃぁぁぁああああああああああああああああああああああっっっ!!」
上を見上げて目を開けようと瞬きした時には、もう目と鼻の先に『その子』がいて、気付いて行動しようとした時には遅すぎだった。遅すぎて――目の前に、顔面と顔面がくっつきそうなくらいに近付いた時にはもう回避なんて無理な話だったのだろう……。
だから、私は声を零すこともできず、どころか何かをすることもできないまま……。
――ドゴォ!!
と、顔面でその子を……、ナヴィちゃんを受け取ることしかできず、そのまま私は意識を手放してしまった……。
薄れていく意識の中で聞こえてきたナヴィちゃんの泣いている声と、ヘルナイトさんの慌てた声と揺れる体を感じながら…………。
□ □
「は」
と、私は意識を覚醒して、すぐに視界に入る情報を脳に刻もうと目を動かす。
視界を上下左右。八方向に視線を回して、一体何がどうなっているのかを確かめようとした時……。
「ハンナ――大丈夫か?」
「きゅぅ……きゅきゅきゅ」
「あ」
私は呆けた声を出してしまった。驚きのあまりに目を点にしてしまったかのように驚きながら声がした方向を見つめる。
見つめる先にいたのは――私のことを横抱きにして座らせているヘルナイトさん。ちゃんと私を自分の膝に乗せて座らせて……。そんな私を擦らわせた状態で私の顔を横からのぞき込むヘルナイトさんは、心なしか心配そうに見つめている。
顔に出していないけれど、もしゃもしゃがそれを伝えてくれている。
だからなんだか背中が冷たくなかったんだ……。
そんなことを考えながらヘルナイトさんとは対照的に、心の底から謝罪をしているかのように大泣きをして、私の膝の上で『ぴょんこぴょんこ』と飛び跳ねているフワフワの生命体――ナヴィちゃんを見る。
ナヴィちゃんと会うのは久しぶりで、再会を喜びたい気持ちもあったのだけど……、今はそれどころではない様な状況みたい。
大泣きしているところを見て、そしてナヴィちゃんから出ている大雨で大荒れのもしゃもしゃを見た私は、ただ事ではないことをすぐに理解してナヴィちゃんを手に乗せて聞く。
だって、ナヴィちゃんはここにいるはずがない。『ここにいるなんてこと自体おかしいから』。
「ナヴィちゃん。どうしたの? ドラグーン王様のところにいるはずだったのに、どうしてここに……?」
「きゅぅうう~! きゅきゅけぇ! きゅ! きゅきゃきゃ! きゃぁー!」
「もしかして……、王様が大変なことになっているの?」
「きゅぅ! きゅきゅきゅぅ!」
「王様が一大事だからここまで来たの? 助けを求めに来たの?」
「きゅっ!」
私の言葉を聞いてナヴィちゃんはまた大泣きして私の手の上で飛び跳ねる。
もう大泣きで何を言っているのか分からない子供のように、泣きじゃくって何かを伝えようとしているナヴィちゃん。
大体のところは感情とかで理解できるし、長い間一緒にいたからわかるけど、詳しい事はやっぱりわからない。
私はナヴィちゃんの言葉を理解することはできない。ヘルナイトさんだって同じだけど、大体は分かる。ここにナヴィちゃんが来た時点で何かがあったことは分かる。
だから一応わかる範囲――『はい』とか『いいえ』で答えることができる言葉を並べながら聞くと、予想通り王様に何かがあったことを教えてくれた。
私とヘルナイトさんはお互いの顔を見て頷き合い、ナヴィちゃんに向けてヘルナイトさんは続けるように聞く。
何かがった。それは大雑把なもので、詳しいを更に聞こうとして――
「ナヴィ。王に何があったんだ? まさかと思うが……ジエンドが来たのか?」
「きゅきゅっ」
ヘルナイトさんの言葉にナヴィちゃんは首を振るう様に体を左右に振る。
これは『いいえ』で、つまり『違う』ことを意味している。それを聞くからにジエンドが着ているという仮説は消える結果になったけど、まだナヴィちゃんは泣いている。
それを見てヘルナイトさんは続けて聞く。
「それとも、他の敵……、『六芒星』か?」
「きゅぅ! きゅきゅ!」
ヘルナイトさんの言葉にナヴィちゃんは大きく首を縦に振って頷きを示す。示して、何かを伝えようと鳴いているけれど、その言葉はさすがに理解できず、ヘルナイトさんはナヴィちゃんに向けて「『六芒星』が来たことは分かった」と言って、続けてヘルナイトさんは聞く。
私もナヴィちゃんのもしゃもしゃ。ヘルナイトさんの言葉に耳を傾けて聞き続ける。
「だがボロボにはアクルジェド殿がいたはずだが……彼は」
「きゅぅ…………」
ナヴィちゃんは項垂れるように、また泣きそうな顔をしながらしょんぼりとした顔をする。その顔とナヴィちゃんのもしゃもしゃを見た私は、すぐにわかってしまった。
わかったからこそ、私は何も言えずに俯いてしまい、それを見たヘルナイトさんも理解したみたいで、私の頭に手を乗せて、『ぽんぽん』と優しく叩く。
叩いた後でナヴィちゃんにも同じことをして――
「分かった。それ以上は聞かない。よく頑張った」
とだけ言って、ナヴィちゃんの頭を撫でるヘルナイトさんの音色は、どこか後悔しているような、苦虫を噛みしめているような悔しい音色。凛としている音色に追加されたその音色と言葉を聞いて、私もナヴィちゃんに「うん。よく頑張ったよ。怖かったよね……? 一人ですごいよ。偉いよ」と言って泣いているナヴィちゃんのことを励ます。
少しの間ナヴィちゃんを励ましながらその場にいたけれど、言葉は悪いかもしれない。悪いかもしれないけど、こんなことをしている場合ではない。
私達は現在オウヒさんを探している。
あの時……、黒い狐の人と出会った時、目を離している隙にいなくなってしまったオウヒさんを私達は探しているのだけど……、ナヴィちゃんが落ちてきたことは予想外で、今ここで立ち止まっている時間に何かがあっては遅い。
そう思った私はすぐにナヴィちゃんを頭に誘導させるように指をさしながら言う。
本当はもう少しだけ、泣くのが治まるのを待ちたかったけど、それができるほど今は悠長な時間じゃない。
だから私は言う。自分の頭を指さして……。
「ナヴィちゃん、ごめんなさい。本当ならすぐにでも王都に行きたいと思うよね? でも今は無理なの。私達も今大変なことが起きていて、すぐ都市には行けない。本当はすぐに向かって、王様を助けたいけど、こっちも大変なことになっているから、それをすぐに終わらせるから、その間私の帽子の中に」
「きゅぅ! きゅきゅぅ! きゅきゅきゅ!」
「う、うんごめんね。本当にごめんね。本当に行きたいけどこっちを放っておいたら」
「きゃっ! きゃきゃきゃっ!」
「え? なに? どうしたの? 何か怒っているの?」
「きゃーっ! きゃきゃきゃ! きゅきゅ!」
「えっと……どうしたの?」
「ぎゃああ~~~っっっ!」
今の今まで泣いていたナヴィちゃんは私の話を聞いてショックと言わんばかりの顔を浮かべる。
浮かべて、どうしてなのと言わんばかりの顔をして私のことを見ているけれど、正直に告げると、今ナヴィちゃんのお願いを聞いてここから離れるということはできない。できないからこそ私はナヴィちゃんに向けて帽子の中に入って待っていてと告げる。
決して見捨てることはしない。
しないのだけど……、なぜかナヴィちゃんは泣いている顔で何かを伝えようとしている。しかもs俺は『はい』とか『いいえ』がわからないもので、言葉で何かを伝えようとしているみたい。
でも……何度も言うけれど私とヘルナイトさんはナヴィちゃんの言葉がわからない。
わからないからこそジェスチャーでなんとか伝えようとするのだけど、それでさえもしないナヴィちゃん。
まるで何かに気付いて私達に伝えようとしているようだけど、それさえも分からない。
何度も何度も聞いても分からない。だから私は首を傾げてナヴィちゃんが伝えようとしていることを読み取ろうと、理解しようとする。
理解しよとして話をするけれど、ナヴィちゃんはなぜか慌てている様子で私とヘルナイトさんに何かを伝えようとしている。しているけれど、やっぱりわからない……。
これは……、どうしよう……。
こんな時、翻訳できる何かがあればいいなーって思ってしまう。
最近では犬とか猫――動物の翻訳ができる機械がある。あるからこそ、今まさにその道具が欲しいと思ってしまった。思ってしまうくらい今まさに理解したいのだ。
ナヴィちゃんの言葉を。ナヴィちゃんが訴えようとしていることを……。
い、一体何を伝えようとしているのだろう……。
うーん……。えーっと……?
………………………。
どうやったら分かるんだろう……?
そう思っていると、ナヴィちゃんはしびれを切らしたかのように「ぎぎぎゃぁー!」と大きな声を上げて私の手から飛び降りると、そのまま私のスカートに『かぷり』と噛み付く。
それは甘噛みというか、強く噛んでいるけれど破けるほど噛んでいない。いい塩梅のそれで噛み付いている。
「? ナヴィちゃん?」
私は困惑しながらナヴィちゃんのことを視線で追い、何かをしようとして私のスカートを引っ張りながら伝えようとしている。
それはもう必死で、意地でも離さないぞと言わんばかりに引っ張りを続けるナヴィちゃんに対し、私は困惑しながらヘルナイトさんから降りてよたりよたりと歩きながら――
「わ、わかったよ。わかったから引っ張らないで……っ」
と言うけれど、ナヴィちゃんはそれでも引っ張りを続ける。
『むーむーっ!』と言いながら必死に引っ張るその姿を見て、やっぱりただ事じゃない。しかもナヴィちゃんがボロボからここまで飛んできた程だから、何かがあったんだと再度理解する。
でも、やっぱり何かを伝えているんだけどわからない。
必死な気持ちもわかるのだけど、思っていることがわからない限りは分からないままだ。
「っ」
心の中ですっきりしない。もやもやした感覚が私を支配していく。何かを理解したいのにできないという気持ちは誰もが感じるものかもしれないけど、この緊急事態の時くらい知りたい。理解したい気持ちが大きくなっていくのも事実で……。
結局、言葉が分かればと思っていたその時――
「まさか……王に何かをした輩がここにいるのか?」
「!」
ヘルナイトさんが聞いた。それは当たり前だけど、でも確信を突いているような、そんな音色と言葉で聞くと、ナヴィちゃんは私のスカートを噛むことを止めて、ヘルナイトさんの方を向きながら「きゅぅ!」と頷いた。
体を使って、大きく体を縦に振って――
ナヴィちゃんの動作を見て、私はナヴィちゃんを見ながらその場でしゃがんで見つめると、ナヴィちゃんに向けておずおずと聞いた。
簡単な事――正解なのか、負正解なのか。それを聞くために。
「ほ、本当……?」
「きゅぅ!」
ナヴィちゃんは思いっきりと言わんばかりに頷く。
『そうだよ!』と言うことが分かってしまう様な即答と真っ直ぐな眼差しで。
ナヴィちゃんのことを見ていた私は、すぐにヘルナイトさんのことを見て驚きの顔をして「どうしてわかったんですか……?」と聞くと、ヘルナイトさんは少しだけ考える仕草をしてから……。
「……詳しい事は省くが、ナヴィから微かだが、血の臭いがしていた」
と、そう神妙な音色でヘルナイトさんは言った。
「! 血の臭いって……」
それを聞いた私ははっとしてナヴィちゃんを見ると、ナヴィちゃんは驚いた顔をして自分の体を (というか尻尾を)くまなく嗅いで臭いを確認していた。きっと血の臭いと言う言葉に反応した結果なのだろうけど……、そんなナヴィちゃんに向けて私は「そんなに臭くないよ」と言うけど、ナヴィちゃんはなんだか不安そうな顔をして私のことを見上げている。
「きゅぅ~……?」と、こうも絵でわかってしまう様な不安の声。
不安そうに臭いをかいでいるナヴィちゃんを抱えた私はヘルナイトさんのことを見て聞く。
まさか。と言う思考が頭の中を過り、それを受け入れないという選択肢はしないで、受け入れることに覚悟を決めて――
「その、血の臭いってまさか……」
「ああ、微かだが……、血液特有の鉄臭さがナヴィの体から零れていた。誰の血なのかは……、あまり考えたくないが、そうなのかもしれない」
「………………」
「そうかもしれない。そうでないのかはわからないが、それでもナヴィが残っていたボロボでは大きなことが起きた。血を流すほどの凄惨なことが起こり、そこにナヴィもいた。時間からして数分では済まされないほどの時間……そしてその存在をナヴィは見ている。且つ、臭いを覚えているかもしれないから私とハンナに伝えようとしていると、推測だが立てただけだ」
「!」
「それにナヴィはドラゴン。他の生物……、犬人や獣の魔物よりは劣るが、それでも嗅覚は優れているだろう」
「あぁ……、そう言えばナヴィちゃん……、ドラゴンだった。ドラゴンも臭いを嗅ぐことがあるんですね」
「主に空気の匂いの変化には敏感だと一説で聞いたことがある」
ヘルナイトさんの言葉を聞いて、私は再度ナヴィちゃんを見ると、ナヴィちゃんはうんうんっと体で首を縦に振るという動作をして肯定を表現してくれている。
推測とヘルナイトさんは言っていたけど、それでも正解だったことに驚きだし、何より私はそんな匂いしなかった。本当にしなかった。
ナヴィちゃんの体から微かに零れている血の臭い。
それを感じること自体すごい嗅覚でないと無理なんじゃないかと思えるくらい、臭いの感知がすごいと思ってしまった。
だからなのかな……。私は思わず言ってしまった。
「すごいですね……。臭いなんてわからなかったのに」
それは素直な心境。
素直にすごいと思ってしまった。
戦歴ゼロに近い女の子と百戦錬磨の格の違いを見せつけられたかのような、やっぱり熟練者は違うと思ってしまうほどの小さな違和感の察知に、私は率直にすごいと思ってしまった。
思ったから口にしたのだけど……、ヘルナイトさんのことを見ると、なぜかヘルナイトさんは私から少しだけ視線を逸らしている。俯いているように、ヘルナイトさんは私に視線をよこさない。
視線を向けないその行動に、私は首を傾げそうになったけど、その傾げを妨げる異様にナヴィちゃんが大きな声を上げて私達を現実に引き戻す。
「ぎゅぎゅー! ぎゅぎゃー!」
「「!」」
ナヴィちゃんが叫んで私のスカーフを口で引っ張り、とある方向に顔を向けて、『こっちだ』と言わんばかりに誘導しようとしている。ナヴィちゃんの声と引っ張る感覚に気付いた私は驚きつつも「こっち? こっちにいるの?」と聞くと、ナヴィちゃんは頷いて私の腕の中で尻尾を使って指をさす。
この先に――私達が来た道にいることを示しながら……。
「この先に、王様を襲った『六芒星』が……」
「もしかすると、姫君をさらった『六芒星』も一緒かもしれない」
行こう。
そうヘルナイトさんは言い、私に手を伸ばす。
それは必死なそれではない。エスコートをするように優しくの伸ばして、大きくて、いつも私のことを撫でてくれて、温かくて傷だらけの手を伸ばして見せるヘルナイトさんの手。
その手を見て私は一度ヘルナイトさんの手を見て、その後でヘルナイトさんのことを見上げて、頷いて手を伸ばす。
ヘルナイトさんが差し伸べてくれたその手に、自分の手をそっと乗せて――
「はい」
はっきりと私は言う。頷いて――行こうと。
これはまさに賭けに対なものだ。
本当はオウヒさんを助けるために探していたけれど、ナヴィちゃんが現れて、王様が『六芒星』の襲撃に遭って、ナヴィちゃんはその状況下で逃げて、苦しい思いをして私達に助けを求めた。
色んなことが積み重なって、いろんな不運が今まさに集結しようとしているような、そんな恐怖もある。不安もあるけれど、今はその不安を抱いている暇なんてないし、情報がないから、今はナヴィちゃんが見つけてくれた情報を当てにして探すしかない。
そう思い、この賭けがいい方向に向いてほしいと願いながら私はナヴィちゃんを抱えたまま、ヘルナイトさんの腕の中に納まる。
ヘルナイトさんが私を横抱きにして駆け出し、ナヴィちゃんが臭いがするであろうその方向を尻尾で指さしながら、私はナヴィちゃんを抱きしめる。
フワフワしているその体毛が、いつもとは違う、湿り気と少しだけしょっぱい何かを感じた。きっとそれは何日も飛んできた結果なのだろう。
苦労と苦しみ、そして恐怖に負けそうになった気持ちを奮い立たせて飛んできたナヴィちゃんを見降ろして、私はそっと頭を撫でてナヴィちゃんに言う。
小さな声で――よく頑張ったねと。
そして……お帰りと、私は小さな声で告げて、みんなと合流して、ナヴィちゃんの道案内の元――やっと到着する。
使われていない家屋をドラゴンになったナヴィちゃんが壊して、その家屋の中で驚きの顔をしているオウヒさんと、オウヒさんの正面にある地下へと続く階段かな……? その階段の向こうで見上げている黒い羽根の天使を見つけて……。
そこで再会した――『六芒星』幹部のことを見て。
「なに? あんた達知り合い?」
あ、そう言えば……、シェーラちゃん初対面だったこと、すっかり忘れていた。




