PLAY13 vs死霊族(ネクロマンサー)!③
がっしりと掴んだ瞬間、私とネクロマンサーの二人を包み込むように眩い光の柱が出る。
それは私には無害で……。
「あ、あ、あ、がああああああああああっっっっ!」
「あ、あ、あ、があああああああああ――っっっっ!」
エディレスとクロズクメはあらん限り叫んでいた。
私は驚きながら上を見上げると……、目を疑った。
二人は叫びながらじゅうじゅうと、まるで灼熱の炎に放り投げられたかのような白い炎を出して燃えているのだ。
クロズクメの喉元と、エディレスの肩からは、一際赤い炎を出して燃えている。
それを見た私は、一瞬放しそうになった。
苦しんでいる二人を見て、この手を放したらその苦しみから解放されると思っての、慈悲。
そう思って、手を放そうと緩めた時だった。
二人のネクロマンサーは外側の手を私に向けていた。
「っ!」
私は確かに、しがみつくように彼等の両腕をがっしりと縄で拘束するようにしていた。
抱きしめるようにしてやったのだけど、その一瞬の緩みを突いて、クロズクメとエディレスは互いに外側にあった腕を引っこ抜いて、私のうなじを狙って、手刀で突こうとしていた。
その手刀も、ただの手刀ではない……。
「マナ・エクリション――『硬手』……っ!」
「マナ・エクリション――『硬手』……――っ!」
ばきばきとその手刀を固くさせ、まるでダイヤモンドのように固まっていき、それを私に向けて、喉元を突き刺そうとしていた。
喉元なんて……、ゴアされたら……。即死……。
そう思った私は、ぐっと顔を伏せて、目をつぶり……、口を開く。
自分を守るように『盾』を出そうとした。
その時だった。
――パァン!
――ギィィンッ!
「!」
「ぐっ――!」
「がぁっ!」
クロズクメとエディレスは叫ぶ。それと同時に、私は上を見て、後ろを見た。
上には、硬くした手が、ボロボロと崩れている。
それを見て、痛みで顔を歪ませているネクロマンサーの二人。
後ろには……、その手に向かってだろうか……、銃を構えながら、銃口から煙を出しているアキにぃ。
そして、クロズクメの手を狙っていたのか、キョウヤさんはぐるんっと回った状態で、クロズクメを見ていた。
「アキにぃ……。キョウヤさん……」
そう、何とも情けない声を出してしまった私は二人を見る。
二人はそのまま、きっと打ち合わせなんてしていないだろう。それでも声を揃えて言った。
「「無防備の女を――傷つけるんじゃねえっっ!」」
そんな怒りを乗せた音色を聞き、私は再度ぐっと抱きしめて『浄化』を出し続ける。
ぶわぁっと光を増す光。
それを受けてネクロマンサーの二人は再度苦しみだして叫ぶ。
「あ、がぁ! ああああああああああああっっっ! やめろぉおおおおおおお!」
「こ。この……――っ! 忌まわし……――っ! あがあああああああああああ――っ!」
今思ったことだけど、簡単な話だった。
ネクロマンサー。
人の体を憑代としている。それは死体も生体も可能で、生体の場合は憑代とするために、その体の持ち主を殺す。それはわかった。そして、彼らの本体は――魂。
私のようなメデイック。そしてエクリスターは天敵。
なぜなら……、『浄化』が使える=魂だけのあなたたちは、浄化されてしまうと死んでしまうから!
「ぐぅ――っ! おぉおおおおお――っっ!」
クロズクメの声が聞こえたと同時に、背中に来た強い衝撃。
「っ!」
背中がズンッと突かれる感覚。
それは、クロズクメが固くした手で私の背中を殴ったからだと思う。その衝撃は、何度も何度も繰り返される。何度も何度も来る激痛が、私の体力が削られていく。
「離れろ――っ! 離れろ――っ! 離れろ――っ! 離れろ――っ! 離れろ離れろ離れろ離れろ離れろ離れろ離れろ離れろ離れろ離れろ離れろ離れろ離れろ――っ!」
ガンガンッと、『離れろ』という言葉を言うと同時に、殴る。それを繰り返しながら、クロズクメは殴る。殴り続けて……。
「離れろぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお――っっっっ!!」
そう叫んだクロズクメ。
私は衝撃に備えて耐えようとする。
痛くても、苦しくても、耐えようとした。
その時だった。
ふわり。
「!」
ガァンッ!
金属特有の音が聞こえたと同時に、上から『パァンパァンパァンパァンパァン』という発砲音と、クロズクメのくぐもった叫び声が聞こえた。
私は上を見ようとした時、その視界に映ったのは……。
ヘルナイトさん。
「すまない」それだけ、たったそれだけだったけど……。
ヘルナイトさんは、私を庇うように、後ろから覆い被さって、片手で二人のネクロマンサー頭と、肩を掴んでいたのだ。
私のことを守る様に――ヘルナイトさんは私の背後から覆い被さってきたのだ。
その光景を見た私は嬉しさが込み上げてきたけど……、その顔を今出すのは困難だ。不安やいろんなことが混ざりに混ざっているせいで、嬉しさの顔が不安に見えそうな、そんな顔をしてたに違いない……。
私の顔を見て――クロズクメの頭とエディレスの右肩を掴んで、ヘルナイトさんは私を見降ろして……。
「……誓ったはずだが……。すまない」
そんなことない。そう言いたかった。心の底からそう言いたかった。だって、私がこうなったから、ヘルナイトさんは私のことを優先にした。
ヘルナイトさんは合理的な判断でこんなことをしたわけじゃない。騎士として――守るべき人を優先にした結果こうなってしまった。
最強の名を持っているのに、ここまで長引いてしまったのは私の所為でもあるんだ。だから、ヘルナイトさんが謝ることではなく、私の所為なんだと言いたかった。
違うって、そう言いたかった……。
でも、今はそれどころじゃない。
というか、ヘルナイトさんはぐっと、エディレスの肩を掴んでいた手に、力を込めている。
ぎゅっと握って、今にもそれを引っこ抜こうとしているような……。
「あ、あああああああっっっ! な、なにを……っ!」
エディレスは痛みに耐えながら叫ぶ。それを聞いていたヘルナイトさんは、エディレスを見ないで、そのまま肩にある硬い何かを引っこ抜こうとしながら、彼は言った。
「お前はあの時、肩を掴んでいたな?」
「っっ!?」
「それは、そこが異常に熱くなったから、抑制しようと抑えたんじゃないか?」
「っ!」
「そこは突然異常に熱くなる。鼓動がどくどくと高鳴るような、その衝動を抑えるために、そこを押さえた」
ぶちぶちと何かが切れる音がした。
光が私達を閉じ込めているような空間で、ヘルナイトさんは……。
「っ!?」
私は驚いた。
ヘルナイトさんの体から、黒い靄がぶすぶすと鎧の隙間から出ていたのだ。焦げるような黒い靄を出しながら……!
「あ、うそ……、あぁ……」
私は狼狽してしまう。突然のことで驚いてしまい、一体何が起きているのかわからなかったけど、それでも分かることはあったからこそ――私は愕然としてしまった。
しかしそれとは対照に……。
「そ、そうか……――っ! 貴様は『光』属性の耐性があまりない……――っ!」
クロズクメは顔を掴まれながらも荒げた声で叫ぶ。
未だに黒い靄を出しているヘルナイトさんを見て――続けるように、畳み掛けるようにしてこう言ったのだ。
「つまり――! 貴様は今、ダメージを受けている――っ! 天族の女の攻撃を――! 浄化の力を受けてな――!」
「っ!」
クロズクメの言葉を聞いた瞬間、私は驚きのまま固まってしまった。
クロズクメが言った言葉があまりにも驚愕……、違う、衝撃的だったから……。そう、文字通りヘルナイトさんはダメージを受けているのだ。
私の『浄化』の中に……、ハイッテシマッタカラ……?
「あ」
私は――やめて。お願いと懇願しようとした。
これ以上は傷ついてしまう。これ以上のダメージはだめだと、ヘルナイトさんに告げようとした。その時……。
ヘルナイトさんはクロズクメの顔を掴んでいた手を離して、流れに乗るように私の腰に手を回した。
ぐっと――後ろから、抱きしめているような……、そんな動きだ。
ヘルナイトさんは言った。
凛とした、今までと同じ安心する声で――
「切り離したら手を離せ」
「え?」
そう言った瞬間だった。
今の今までぶちぶちと引き抜こうとしていたそれを、ヘルナイトさんは力いっぱい引き抜いた!
それはもう……、ブチブチブチィッッッ! と。
布越しにあったそれは、布ごと引き千切られて、そのまま赤い焔を出しながら燃えている。引き抜かれたエディレスは天井を見上げて叫びながら痛みを和らげようとしている。
それを見て、聞いた私は手を離す。
『浄化』の柱が消え、それと同時にヘルナイトさんはその場から転がるように私を抱きしめながら逃げる。その最中……。
「――アキッ!」
ヘルナイトさんはそれを転がりながら天井に向けて投げた。
それを見た私は目を凝らして見た。
それは――瘴輝石。
赤黒く、まるで血のような、どくどくと光りながら脈打っているそれだった。
それを見た私は、すぐにわかった。
あれは……。
「――カエセエエエエエエエエッッッ!」
エディレスはあらん限り叫んで、そして狂気を纏った表情で血眼でそれを掴もうと跳んだ。
けど……。
「――弾くように当ててくれっ!」
「っ!? わ、わかったっ!」
ヘルナイトさんに言われた通りアキにぃはそれに向けて、壊さないように銃弾を放つ!
パァン! と放たれた弾はそのまま赤黒い瘴輝石に向かって飛んでいき、そして――
かんっと掠って、そのままくるくると回りながら軌道を変えて飛んでいく。
「――っ!」
それを見たエディレスは、驚愕の顔に染まる。<
「ハンナ」
「!」
転がり終えてヘルナイトさんは私を解放してから、遠くに飛んでいくそれを見てこう言った。
「『大天使の息吹』を使え。あの『屍魂』の瘴輝石に」
「え?」
「君にしか、救えない」
その言葉を言ったヘルナイトさんは、私に申し訳なさそうにしてこう言った。
「暗示と思われても、命令と思われても仕方ない。だが、ここ何日かで、ハンナ。君が極度に人を傷つけることを怖がっていることを知った」
「!」
「何があったかは聞かない。だが、今あの魂を浄化できるのは、ハンナ……。お前だけなんだ」
「私……?」
「殺すのではない。あの魂を、元あるべき姿で、還すだけだ」
ぐっと私の肩を掴むヘルナイトさん。手からも黒い靄が出ている。それでもあなたは凛とした声で言った。
「救ってくれ。救けてやってくれ」
そう言って未だに落ちてきているそれを見るヘルナイトさん。
それを見た私は後ろで落ちていく瘴輝石を見て、そしてヘルナイトさんを見て肩を掴んでいる手にそっと自分の手を重ねる。
温かい。そんなことを思いながら私は……。
「うん」
こくりと頷いて……、座りっぱなしだった体を立ち上がらせて、後ろを振り向いて走った。