PLAY122 灯殺し②
ガザドラは確かに言った。
断言できるほどの確信を得たからこそ彼は断言した。
不利な状態であろうとも、形勢的に負けてしまう状況であろうとも、不意を突けば勝てる。諦めなければ勝てることを確信したのだ。相性など何のそのっ。一時優勢になった吾輩だからこそ分かる。焦りを見せた貴様にだからこそ言えるっ!
戦いというものは、常に変わりゆく流れ!
優勢の流れがあれば劣勢の流れもあり、その逆も然り!
つまり――また流れを変えればいい事!
簡単な話だ!
確かに彼は言った。簡単だと。
この絶体絶命の状況を変えるために、流れを自らの手で変えると。
戦って状況を変えようと。
そう言った。
確かにそれは簡単な事だ。
口で言えば――の話だが、それでも彼は断言したのだ。やってやると。
まさに口だけで言っただけにしか聞こえないだろう。一時的に優勢になったのはガザドラの風一がうまくいっただけのことで、実際は不利が続いている。
ラージェンラも言ったのを覚えているであろうか?
彼女はガザドラに向けてこう言ったのだ。
『『血』は鉄分が多い。貧血気味の人には鉄分が多いものを食べたほうがいいって。私もそうなのよ? 鉄分が多ければ多いほど私の力――硬度が上がるし、それに私が作った生物達はみぃんな鉄が大好物なのよ? 生き血とかの方がいいんだけど、鉄も好物だから……私からしてみれば、あなたの力はまさに格好の餌なの』
血は鉄分が多い。
それは誰もが知っている常識であり、ガザドラも知っていることだ。
知っているが、ガザドラからしてみればこう思う事しかできない。
だから何なんだ? と――
だから自分は勝てると確定しているのかと、この場が戦場でなければ堂々と胸を張って言うだろう。
否、否々。
どんな状況であろうともガザドラは断言する。少しタイミングがずれただけで、すこし言葉が違うだけで、彼は断言している。
勝てると断言した。これが証拠。
御託も何もいらない。勝てると信じているから断言できたガザドラ。
勝てると信じている彼の心境と心意気に呆れ、自分の手で引導を渡そうかと思いながら脱出の準備を着々とこなしているラージェンラ。
それぞれが勝てると信じている。信じているからこそ負けるなんて言う選択肢はない。
ただ『勝つ』一択。勝利の二文字。
そんなの当たり前だと思っている人もいるだろう。勿論この二人も思っていることであり当たり前の感情である。
だが――彼等がいるこの場所は戦場。
戦いという予測不可能なフィールド。
どんな計算もすぐに崩れてしまう空間なのだ。
ハンナ達もいつも予測できない状況に翻弄されてきた。どんな人達も予測できない展開に踊らされてきたが、それはガザドラとラージェンラも同じであり、こればかりはもうその時の順応という力が鍵になるかもしれない。
適応力でもいい。
そのくらい戦場と云うものは単純に見えて複雑に絡み合っている劇場。
この劇場で、戦の神がいるのであれば……、一体誰に微笑んでいるのだろうか?
ガザドラに? ラージェンラに?
それとも――どちらにも微笑んでいる? はたまたは微笑まずに見て見ぬふりをしている?
それも分からない。
見えないからわからないから、人は自分を信じる糧として体を張る。
他人がいない。たった一人の戦場であれば信じれるものは一人しかない。
鼓舞も何もかも、自分しかできない。
勝ち、己の目的を達成する。
それを胸に二人は戦う。
二度の戦闘を行い、二度の一時休戦をした後――三回目となる戦闘を……、終止符と言える戦闘を行う。
ガザドラは捕まえるために。ラージェンラは殺すために戦う。
どちらが勝利に微笑むのかわからないこの状況の中で……。
◆ ◆
「さぁ私のしもべ――『毟り蝙蝠』達よ! そこにいる蜥蜴男をぐっちゃぐっちゃに食い漁りなさいっ! 肉片も残さず食べて、鉄もろとも食い尽くしなさいっ! 可愛い可愛いしもべよ! 私に勝利の美酒を注ぎなさい! 鮮血という名の美酒をっっ!」
開口口を開いたのはラージェンラ。
四肢と腰に巻き付いているガザドラの金属から逃げようと体を動かしながら、彼女は自分で作った存在『血塊魔法――『毟り蝙蝠』』に向けて命令を放った。
高らかで、自信という名の余裕を見せつつも女性らしい気品を崩さない。形勢が不利になった時とは違う彼女らしく、恐ろしさがある号令だ。
その号令を聞いた蝙蝠達――『毟り蝙蝠』は一瞬硬直を見せた後、すぐに行動するためにガザドラに向けて視線を向ける。
露出した牙を見せつけ、口からだらだらと食を欲する液を分泌しながら、『毟り蝙蝠』はガザドラに視線を向けた状態で翼を仰ぎ――
「「「「「キィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイッッッ!!」」」」」
けたたましい声を上げてガザドラに向けて襲い掛かってきた。
「まさか一斉とは……! 予想していたがこれは……」
数が多すぎる。
そう思ってしまうほどの数を視認してしまったガザドラは一瞬驚くと同時に、どれくらいの血を使ってここまで増やしたのかと思ってしまいそうになる。
事実彼女が出した血は口からの血と、腕を圧し折った時の血。そしてガザドラの近くにある零れ落ちてしまった血の水溜まり。
それらを踏まえても無数に近いように見えてしまう蝙蝠の数はそれ以上を越えている。血を媒体にして体を作っている分相当な血を使うだろうが、それを覆してしまうほど彼女が作り上げた『毟り蝙蝠』は多すぎた。
視界そのものを覆ってしまう様な、そんな気味悪さとうじゃうじゃと視界を燻る光景に嫌悪を感じてしまう。要は気持ち悪い光景。おぞましくもい気色悪い光景だと言う事。
「っ! だが、これで臆してはいけんなっ!」
だがガザドラはそんなことで、気色悪いからと言って動きを止めることなどしない。どころか今までこんなものを見てきたのだ。何度も見てきたからこそ耐性があるもので、彼はその耐性を使って左手の装甲を使って握り拳を作り、右手に魔力を注入して金属の網と糸を操る。
空気を仰ぐ音と切り裂く音。それと同時に聞こえる金属同士が合わさる様な音。
その三つの音を奏でながらガザドラは迫りくる『毟り蝙蝠』に向けて繰り出す攻撃。
まずは――
「むんっ!」
掛け声と共に動いたものは網。
金属ででき、硬度と網目の籠の目が小さいそれだが、それに魔力を与え、それを操り人形のように操作を行う。
ぶぅん、と空気を仰ぐ団扇のような音を発した後、ガザドラに向かって迫る『毟り蝙蝠』目掛けて大きな扇ぎを繰り出す!
扇ぐ――と言えば大きな風を与えて吹き飛ばすと思うかもしれないが、それであれば大きな団扇の方がいいかもしれない。いいのだが穴が開いている網でもしっかりと団扇のように扇ぐことができれば大きく振り回すことだってできる。
振り回すことができ、素材が金属という代物。
なら――この後の展開は分かる人がいればわかることで、案外シンプルな初手になる。
扇ぎ、床に向かって振り下ろされた網はそのまま『毟り蝙蝠』を巻き添えにするように振り下ろされ、ガザドラのことを食いちぎって殺そうとしていた前列を潰さん勢いで捕まえ、地面にたたきつけた。
どすぅんっ!
「「「ギギィィイイイイイイイイイイイイイイイイイイッッッッ!!」」」
金属特有の重い音を放ちながら『毟り蝙蝠』達は悲痛に似た金切り声を上げる。
上げた声を聞いたラージェンラは驚きの眼でその光景を視界に入れ、記憶に刻む。
鉄の網によって掴まってしまった数百の『毟り蝙蝠』は、もぞもぞと網の中で動き抜け出そうとしている。地面に突っ伏してしまった同胞を足場にして、踏みつけてまで逃げようとしている同胞もいるが、それでも歩くことすらこんな状況の様子で『きぃきぃ』鳴きながら暴れている光景が目に映った。
重い金属の網の所為で思うように動けない。
重くて持ち上がらない。
網の面積が、穴が小さすぎて抜け出せない。
色んなことが合わさって出れない数百の『毟り蝙蝠』達。
その光景を見降ろして困惑の声を上げている『毟り蝙蝠』達は、その場で飛びながら浮遊している状態だ。
今までの特攻で前列にいた同胞がいとも簡単に捕まってしまったのだ。動揺するのも無理はない。
動揺し、困惑して止まっている『毟り蝙蝠』を見たガザドラはすぐに次の行動を行う。
いいや――もう終わった。
「「「「ぎぎっ?」」」」
声を発したと同時に、床に散らばる赤い雨の跡。
べちゃべちゃと音を立てながら落ちていくその光景を見て、後列にいた『毟り蝙蝠』達が驚きながら中列にいたであろう同胞の亡き姿を見下ろす。
終わったという言葉が正しいような光景。行動を行おうとしていた『毟り蝙蝠』達は前列にいて特攻を担っていた同胞の無念を晴らすように前に向かおうとしていた。だがその行動はいとも簡単にできなくなってしまった。
ガザドラが操っていた金属の糸によって、『毟り蝙蝠』の生命行動が崩されてしまったのだから。
「っ!? あらぁっ?」
あまりにも呆気なく殺され、血となってしまった『毟り蝙蝠』の姿を見て、否――自分の血となってしまった『毟り蝙蝠』を見て驚きの声を上げる。
しかしつい先ほどまでの驚愕よりは弱めの、少し余裕のある声色だが……。
そんな声色を出したにもかかわらず、ラージェンラは攻撃を繰り出したガザドラのことを見ると、声色を明るめにし、くすくすと淑やかと小馬鹿にしている様なそれを混ぜた言葉で言う。
心底彼のことを馬鹿にしているような、そんな言葉で。
「武器を武器に変えることしかできなかった思考回路のあなたが、まさかそんな変則の考えで攻撃を擦るとは……。それってあなたが行動を共にしている冒険者の知恵かしらっ?」
「あぁ――そうだな。そいつは確かにこんな方法で攻撃をしていた。だから敵対していた時負けてしまったのだ。吾輩の仲間はっ」
ラージェンラの言葉を聞いてガザドラは真実だけの言葉を発する。
真実しかない。本当にこの方法で負けてしまい、そのことで相当ショックを受けると同時に戦力外となってしまったことを悔やんでいた仲間のことを思い出して……。
そして……。
――今にして思うと、ギンロとメウラヴダーを倒した彼奴は元々種族が違っていたのだよな……? 元々人間族ではない存在であれば……。
――すまんギンロ。あの時は『修行が足りんかったが故の』とか何とか言っていたが、永遠に勝てる見込みはないやもしれん……。
当初はそう思いつつ、ギンロの活躍をねぎらう様な言葉を放っていたガザドラだったが、自身がこの糸の攻撃をして、そして相手の行動を見て理解した瞬間、あぁこれは負けるのも無理ないかもしれないと思ってしまった。
だがこのことに関してはあまり特筆することなくここで終わらせることにする。
つまり何が言いたいのか?
簡単な事だ。
ガザドラが操る金属の糸が動いたことで、攻撃の動きが、攻撃という名の音のない奏でが襲い掛かったのだ。
『毟り蝙蝠』の耳にも届くことがないまま糸は糸としての役割を、戦闘に於いての役割を果たすように切り裂きを行う。
それはハクシュダがやる戦法に似たもので、糸を使って相手を切り裂くというシンプルかつ考えがつくようなものだ。
考えがつくようなものだからこそ、誰も想像できなかったのかもしれない。彼女でさえもその意図は拘束で縛り上げる代物だと思っていたのだ。だからこそ『毟り蝙蝠』は気付かなかった。
否――気付くことができなかった。
の方が正しい。
なにせ切り裂くような音は放っていたが、その音が奏でる前に『毟り蝙蝠』は斬られていた。
音もなく斬られたのだから気付かなかったの方が正しいのだ。
ゆえにガザドラも思ったのだから、ハクシュダの戦法はまさに一瞬に近いもの。
だからガザドラ自身もこの攻撃の速さには驚きながらもラージェンラの言葉には答えた。というのが真実である。
「ギギィィイイ?」
「ギギッ?」
「ぎぃ?」
突然の拘束と切り裂きの応酬にあってしまった『毟り蝙蝠』達は辺りを見渡し、どこから攻撃が来るのか見渡しながら警戒している。
初手の攻撃がよほど衝撃であったのか、警戒のレベルを上げた状態で辺りを見渡し、且つガザドラへの攻撃も忘れず動く『毟り蝙蝠』達。
生み出してくれた主人に対しての忠誠心が働いているのか、はたまたは命令という名の信号が逃げる選択を壊しているのかはわからない。
わからないがそれでもガザドラは攻撃という手を緩めない。緩めるなんてしたら殺されてしまうのだ。
情け無用で攻撃を繰り出そうと残っている網と糸を操るため、右手に残っている魔力を注入する。
注射器の液体が体に入るように、全身に行き渡るように張り巡らされた魔力はどんどん網と糸に向かって伸びていき、毛細血管の如く行き渡っていく。
その光景はまさに信号の如く。生きていくうえで欠かせない血のめぐりのようにそれは流れていく。
流れるからこそ、そこに命の動きが芽吹き――活動をする。
そう――今がその時。
ガザドラは魔力を流し、今まさに目の前にいる『毟り蝙蝠』に向けて攻撃を繰り出す。
「――ふっ!」
ブワリと網を使い、迫った風の圧に『毟り蝙蝠』達は驚きを顔に出したが、すぐにその驚きも消え、すぐに戦闘態勢へと変わってガザドラに向かって襲い掛かる。
お互いがお互い気を緩めることのない威圧の視線。
それは少しの間続き、続いたその沈黙は、すぐに崩れて、激闘の音を奏でに奏でることになる。
「キィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイッッッ!!」
一匹の『毟り蝙蝠』の金切り声を号令に、数が少なくなったとはいえまだ数が多い『毟り蝙蝠』達はガザドラに向かって思考の突進を繰り出した。
先程よりかは少なくなった数。視界に写っているその光景に変わりはなく、少なくなったのかも疑問が残る様な光景だが、それでもガザドラはひるむことなく、どころか前のめりになりながら左拳を攣力握り、その状態で迫って来る『毟り蝙蝠』に向けて彼は叫ぶ。
「多対一の決戦かっ! 面白い――かかって来い! その決戦快く請け負おうぞっ!」
ガザドラは言う。
心の中では神妙な面持ちで、どころか張り詰め過ぎていると言っても過言ではない気持ちでいるにも関わらず、まるで冗談を零しているかのような物言いをし、口元に弧を描いている状態で高らかに言ったのだ。
一見するとこの状況を楽しんでいるかのような言動だ。
よく漫画で見るところの戦闘狂に見えてしまいそうな光景だが、ガザドラは戦闘狂ではない。
ダンのように大笑いしながら戦いを楽しむ余裕などない。
だが武者震いでもないことは明白だ。
ならなぜガザドラはこの言葉を吐いて戦いを挑んだのか?
それは本人しかわからない。
戦士として、元『六芒星』としての礼儀なのか。はたまたは戦う者としての礼儀を全うしたのか。
真意は分からない。わからないが、ガザドラはその言葉通りのことを、言葉通り全身全霊を以て戦うことを誓っている。
誓って、戦いを終わらせるために、ガザドラは攻撃を振るう。
「「「ギギィィイイイイイイイイイイイイイイイイイイッッッッ!!」」」
「「「「「キィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイッッッ!!」」」」」
幾万の声が鼓膜を揺らす中、ガザドラは攻撃の体制をしつつ、足腰に踏ん張りという名の釘を打ち付けて万全の体制を整える。
ぐっと足の指の力を入れると、床から『みしり』と軋む音が聞こえ、尖っている爪が床を引っ掻いたのか、そこから『がりっ』と引っ掻く音が聞こえたが、そんなことお構いなしだ。どころか床が壊れたとしても耐える意思を固めているガザドラからしてみれば、これは彼なりのメッセージなのかもしれない。
ここから動かない。動かず、お前達を止めてやる。
吾輩は――お前達を止める壁だ。
と言わんばかりの意思の固さ。
その光景を見ていたラージェンラは呆れるように目を細めていたが、すぐに視線を別の方向に映して背けるように彼から視線を外す。
外したその時――『毟り蝙蝠』達がガザドラに向かって突進し、そのまま彼事飲みこもうという勢いで突っ込んで行った。
大波に呑み込まれるようにガザドラ事包み込んでしまう『毟り蝙蝠』。それは本当に血の海であり、迫って来るのは幾万の牙を持った獣達。
視界が暗くなってしまった世界で、ガザドラは飲みこまれながらも体制を変えずに辺りを見渡す。
「「「ギギィィイイイイイイイイイイイイイイイイイイッッッッ!!」」」
「「「「「キィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイッッッ!!」」」」」
「「「ギギィィイイイイイイイイイイイイイイイイイイッッッッ!!」」」
「「「「「キィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイッッッ!!」」」」」
「「「ギギィィイイイイイイイイイイイイイイイイイイッッッッ!!」」」
「「「「「キィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイッッッ!!」」」」」
ぎぃぎぃと聞こえる金切り声。その金切り声を放ちながらも『毟り蝙蝠』達は一直線に向かう――ことをやめ、大まかな数に分かれてガザドラを挟み撃ちにしようと飛ぶ。
大きく四つに分かれた後、それぞれがガザドラの周りを囲むように飛び、金切り声を上げながら攻撃を繰り出そうと旋回する。
鼓膜が破れてしまいそうなほどうるさく感じてしまうそれだが、それに対して五月蠅いと感じては駄目だ。五月蠅いと感じてしまった瞬間食われてしまう。
そう思ったからこそ、ガザドラは声を聞き、すぐにその声を聞くことをやめて行動に移した。
大波と化し、ガザドラのことを飲み込んだ『毟り蝙蝠』に向けて――余力を残すための攻撃を行った。
「「「ギギィィイイイイイイイイイイイイイイイイイイッッッッ!!」」」
ラージェンラの戦いに備えて、ガザドラは右から来た大群に向けて網の殴打を繰り出す。
風圧と同時に来る圧迫と衝撃。
繰り出し、網に当たり衝撃と風圧を受けた『毟り蝙蝠』は耐えきれず血に還って床を汚す。
「「「「「キィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイッッッ!!」」」」」
戦いに備えてガザドラは次の攻撃――左から来た大群に向けて糸による斬撃を繰り出し、斬り零してしまった数匹には左手に装備生成した防具を使って、数匹に向けて単純な殴りを繰り出す。
糸で斬られ、ばらばらになってしまい、ガザドラのシンプルな打撃と言う攻撃を受けてしまった『毟り蝙蝠』達は、やはり血に還り床を汚していく。
「「「ギギィィイイイイイイイイイイイイイイイイイイッッッッ!!」」」
「「「「「キィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイッッッ!!」」」」」
とうとう少数編成では歯が立たないと思ったのか、『毟り蝙蝠』は左右で攻めた数と同じ数でガザドラの背後に回って、奇襲めいた噛みつきを繰り出そうと大きく、鋭い牙を見せつけるように開ける。
しかしその行動も予測していたのか、ガザドラは即座に糸と網を操り、糸で大まかに『毟り蝙蝠』を斬りつけ、細切れにした後――すぐに網による叩きつけを床に向けて繰り出す。
まるで蠅叩きのような要領で叩きつけられた『毟り蝙蝠』達は、最後の足掻きの金切り声を上げることなく血となって床を汚した。
そして――
「「「ギギィィイイイイイイイイイイイイイイイイイイッッッッ!!」」」
「「「「「キィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイッッッ!!」」」」」
最後の軍団なのか、今度は頭上から浴びさせんばかりに急降下してくる『毟り蝙蝠』。さながら滝のように降り注ぐ大軍を見上げ、ガザドラはそのまま左手を上に向けて掲げた。
『鋼ノ装甲・左腕ノ纏』を掲げ、自分に向かって落ちて来るその大群を見上げた状態を維持して……、だ。
そんな行動をしている間に逃げればいい。
そう思う人もいるだろうが、ガザドラはそんなことなどしない。どころか彼は左手を掲げた状態で、その場で握り拳を作ってしまう。
堂々と尋常に勝負をしようと言わんばかりに光景だ。
しかし先ほどまでの優勢とは違い、これは網を使っても止められない。糸を使ってもさばききれない数だ。それなのにガザドラは左手しか掲げていないのだ。
圧倒的な絶体絶命の中――ガザドラはすぅっと息を吸い、息を一旦止めるように顎を引くと、迫り落ちて来る……、否――急降下してくる大群に向けてガザドラは大きな声で放つ。
ぎっ! と――頭上で急降下してくる『毟り蝙蝠』を見上げて睨みつけながら、ガザドラは言い放つ!
「『鋼創造――鋼ノ苦無』ッッ!」
言い放った瞬間――ガザドラの左手の装甲の棘がより鋭い物へと変わり、そのまま急降下してくる『毟り蝙蝠』に直撃するようにどんどん伸びて、長い長い槍の如く伸びていく。
それも――一本ではなく、複数の槍となって。
ぎゅんっと伸びていくその光景はまさに一瞬で、その一瞬に気付かないまま先頭で急降下していた『毟り蝙蝠』の体を貫くと、そのまま上に向かってどんどん伸び、周りにいた『毟り蝙蝠』達の体を貫いて行く。
その光景はまさに圧巻で、鉄分のゲリラ豪雨がガザドラのことを襲い、断末魔の金切り声が辺りに木霊していく。
木霊し、その声を聞きながらもガザドラは攻撃の手をやめない。
やめず、『毟り蝙蝠』の断末魔が消えるまで攻撃を続け、そして頭上攻撃を仕掛けた大群が消えたと思ったガザドラは、すぐに次の攻撃を繰り出す。
その魔法は、ガザドラが『鋼』の力に目覚めて初めて使った技であり、本当ならばこれこそが『鋼創造――鋼ノ苦無』という技を、ガザドラは使った。
伸びて攻撃に留めていたその攻撃を本来の形にして――
「――はぁっ!」
ガザドラは声を上げ、掛け声のように放つと、伸びていたそれらが一瞬で形を変え、いくつもの苦無へと形を変えて地面に向かって落ちていく。
もはやその光景は銀の雨。
ナイフの雨――もしくは苦無の雨と言った方がいいであろう。
言葉通りの攻撃がラージェンラが作った舞台に向かって降り注ぎ、周りを飛んでいた『毟り蝙蝠』に直撃していき、辺りに、舞台一面に真っ赤な世界を彩って行く。
元々紅かった世界が更に赤くなるというのは悍ましいもので、ガザドラもその光景を見て、良好となった視界を見て、床に突き刺さる自分が作った苦無を見ながら……、凄惨なものだなと思いそっと目を伏せそうになる。
伏せてしまうくらい赤い世界は悍ましいもの。
しかもその赤を彩っているのが生命の水なのだから余計におぞましく感じてしまう。
感じてしまうが、それでも視界を遮り、障害となっているものは無くなった。なくなったことを確認したうえで視界を泳がせようとした。
瞬間――
「これでまた一対一ね?」
背後から撫でる様な、ざらざらする舌で舐められるような声が耳元で囁かれた。




