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PLAY01 サヨナラリアル⑤

 理事長から告げられた詳細。


 私達は固唾を呑んでそれを聞く。


 私は逆に押し寄せる不安を塞き止めることに必死で……ワクワクなんてできなかった。そんな状況の私を無視……、と言うか、多分そんな感情を抱いている人なんて、私しかいないと思う。


 だから誰も不安になることもなく、理事長の張りのある言葉に耳を傾けるプレイヤーの皆さん。


『我々が取り組んでいる大冒険。皆さまは知っての通りの――RPGです。よく聞く、主人公が世界を脅かす大魔王を倒す。と言ったそれです。その主人公を、皆さまに担ってもらいたいのです。あなた方が主人公――力を合わせて大魔王を倒す! と言うコンセプトで作ったのが今回のアップデートです。リアルを追及。これぞ、ヒューマンアドベンチャー!』


「「「すげえええええっ!」」」


 そんなプレイヤーの皆さんに向かって――握り拳をぎゅっと握って、理事長は宣言をするかのように、選挙なのかと言うような言い回しで言う。


 それを聞いていたプレイヤーの皆さんはそれに反応するかのように、打ち合わせをしたかのような揃え方で大声で叫ぶ。それはもう大きな声で、鼓膜が破れそうな勢いで。


 そんな声に対して耳を塞ぎながら内心……すごい声と思っていると、理事長はそんな声を聞きながらも画面越しで微笑みながら――


『それでは……、今から皆様が駆け巡る大地――『アズール』の世界をご紹介します』


 と言い、理事長はブォンッと背後の液晶画面にある画像を出した。


 理事長はすっとその場から離れ、その画像を見て説明を始める。


 画像にはいくつかの大陸。諸島。黒と白い大地に白い雲に覆われた大地。空に浮いている空中都市のような世界が映されている。


 その画像の中央には一際大きい大地と、お城が見える。それを見たギャラリーは、「「「おおおぉっ!」」」と、驚きと歓喜と、興奮の声を上げた。


『因みに、皆さまのアバターのデータは完全引継ぎです。我々の種族や所属も設定として組み込まれています。最初から始めるのではない。強くてニューゲームを楽しめるようにしてあります。勿論……、最初から始めても楽しめますので、ご心配なく』


「「「配慮はえぇぇっ!」」」


 今度はしょーちゃんも叫んで、ギャラリーに紛れている……。一瞬ギャラリーの人かと思った……。そのくらいしょーちゃんは完全に溶け込んでいる……。驚いて見ている私をしり目に、しょーちゃんはギャラリーの人と仲良く話している……。


 すごい打ち解け具合……。


 隣にいたみゅんみゅんちゃんが呆れと驚きの顔で……「なんであんな風に自然に溶け込めるの? あいつ何時の間にあんなところに……?」と、小さく呟いていた。


 でも、それがしょーちゃんの長所でもある……。そう私はそんなしょーちゃんを見て、微笑みながら思った。


 そんな状況下でも、理事長の話は続く。


『まず初めに、皆さまは異国の住人として、このアズールに来た冒険者と言う設定です。アズールは中央のこの国……『王都ラ・リジューシュ』の初代国王、レパンダイル・リジューシュが広大な土地を開拓して作り上げた国を中心とし、アズールには八つの守り神『八神(やつがみ)』と呼ばれる存在がいます。自然と鉱石、魔導技術が盛んな『公国アルテットミア』。漁業と機械技術が盛んで、温泉もある。とある信仰心が深いと言われている……自然が豊かな『アクアロイア諸国』』


 他にもあります。そう理事長は言って続ける。


『この黒と白の大地は、まだ誰もその島全体を踏破したことがない……。まさに未知の大地『アノウン大地』この大地は、黒い大地を『魔の大地』、白の大地を『雪の大地』と呼び、人が住めない大地となっています。しかしこの大地に生息しているモンスターは、限りなく経験値が豊富です』


「「「「マジかぁぁぁっ!」」」」


 更にテンションが上がり、叫びも大きくなるギャラリー……。


 ……やっぱりしょーちゃんは目をキラキラさせながら、ギャラリーに溶け込んでいる……。


 どうやったらあんなことができるんだろう……。私は疑問に思った……。今更ながら……。


『空に浮いているこの大地、雲の大地は人も誰もが通れない積乱雲に阻まれた――『天界フィローノア』。ここには我々が造った天族が住む世界。よくある神々が住む世界と思ってください。その近くに浮いている都市……、医療技術が進歩しており、様々な種族の頂点が住んでいる『ボロボ空中都市』です。魔法の道具の発祥の地とも言われているところです。ですが』


 理事長は重い音色で私達に言う。画面の前に立って少し俯きながら――


『そのアズールは、今大変なことに陥っています』

「それが大魔王かっ!?」


 しょーちゃんが叫ぶと、それを聞いていたのか理事長はすっと顔を上げて言った。


『大魔王……。半分正解で、半分不正解です』

「んがっ!」


 その言葉に口をあんぐりとあけてショックを受けているしょーちゃん。それを見ていたギャラリーの人達はそのまま固まってしまったしょーちゃんの肩に手を置いて……。


「まぁ、ドンマイ!」

「気にすんなって! 恥ずかしくねえって!」

「あはは! 固まってやがるっ!」


 和気藹々(わきあいあい)と、楽しそうに話しかけられていた……。いかにも以前から親しい関係であったかのように、友達であったかのように話しかけられている。


 当の本人は固まったまま動かないし、聞いていないみたい……。


 歳も離れているみたいだけど……、仲がいい。さっき会ったばかりとは思えないような、フレンドリーさ……。


「だから、なんであんな風に仲良くできるの?」


 つーちゃんの疑問は私が思っていた疑問と同じで、つーちゃんはしょーちゃんと付き合いが長いけど……、これだけは理解できないと、つーちゃんは言っていた。


 私はそんな、誰でも仲良くなれるしょーちゃんを見て、少しだけ羨ましいと思ってしまう……。そんな中、理事長は『おほん』と咳払いする。


 ギャラリーは理事長を見上げて、話しを再度聞く。


『大魔王は、確かにそうかもしれません。しかし、皆様が倒す悪の根源は……』


 ごくりと、ギャラリーの緊張が張り詰める。


 それを加速させるように、理事長は言った。




『それは――『終焉(しゅうえん)瘴気(しょうき)』という、大きな悪です』




 おお……っ。と、驚きの声が小さく漏れたギャラリー。


 理事長は続ける。


『『終焉の瘴気』の詳細は実際に遊び、自分の耳で、目で確かめてください。続けます。その瘴気の所為で、アズールの『八神』が瘴気に侵され、世界は闇に染まりつつあります。その『終焉の瘴気』を倒す。これが……、皆さま冒険者の最大の目標であり、クリア条件です』


 理事長は言い終わったかのように言うと、ギャラリーと復活したしょーちゃんは鼻息を荒くして、今度がメグちゃんも恥ずかしがりながらも紛れ込んで……、大声で叫んだ。




「「「「「スケールでけぇぇぇよぉぉぉぉっっっ!」」」」」




 私達三人はそれを見てしょーちゃんすごい。そしてメグちゃん体張ったなぁ。と、思っただろう。私はそう思ったけど、きっと二人もそう思ったに違いない……、うん。


『なお。今回我々が取り入れたシステム……。学習するAI『LEARNING(ラーニング) ROBOT(ロボット)』を搭載(とうさい)しまして、ゲームの住人がまるで人の様に喋る、考える。会話すると言った機能を持って、皆様のサポートをしてくれます』


「「「「「おおおおおっ!」」」」」


 重ねて、理事長は説明を続ける。


『モンスターも引き継ぎ、そして……、『12鬼士』も、彼等にも『LEARNING ROBOT』を搭載しました。討伐が難しくなるかもしれませんが、リアルを追及しての結果、皆様のスリリングを刺激するように作り上げました。スキルも、回復も今まで通り。ゲームの世界でも、その世界に溶け込んでいるような世界……、これぞ、MCOの真の姿なのですっ!』


「「「「「やべぇけど、刺激ありぃぃぃっ!」」」」」


 と言ったところで理事長はすぅっと息を吐いて、手をパァンッと叩いた。その行動はまるで思い出したかのような動作。


『それでは――ご愛好と敬意、そして()()()()()()()()()()……、個人様には一万L。団体様でログインした御方には、一万五千Lを、我が社から贈呈します』


 と言ったと同時にギャラリーの熱は更に上がり、大声ももっと大きくなり、手を上げて万歳をしている人もいた。プレイヤーの皆さんはそんなテンションで叫んだ。


 今まで恥ずかしがっていたのだけど、贈呈の言葉を聞いてそれも吹き飛んだのか、「いいいやったぁあああああっ!」と大喜びで飛び上がって叫んでいた。


「元気だねー……」


 つーちゃんの力ない声が聞こえた気がした……。けどそれが一瞬にして……急降下することが起こる。


 ぴしぴしと……、何かが壊れるような音が聞こえた気がした……。


 それはしょーちゃんが喜んで何かをしているところだったのだけど、突然ふっと動きを止めてしまう。


「?」


 私は不安が未だに消えていない状態でしょーちゃんに近付く。


「どうしたの……?」


 私が近付いて声をかける。しょーちゃんは何も答えない。顔を覗き込んでみると……、今まで見たことがないような、感情が一気に失ってしまったしょーちゃんの顔がそこにあった。


「しょー……ちゃん?」


 ずくずくとうるさかった心臓が、一気にどくどくと加速して……私をより不安にさせる。


 震える手。呼吸が出来なくなってくる。笑みはちゃんと作れているかわからない。そんな状況で……、しょーちゃんの肩をとんんとんっと叩いて――


「な、何があったの……?」と、聞いた。


 しょーちゃんはすぐに答えなかった。でも少ししてから私を見ないで……、衝撃の言葉を口にした。



()()()()ウィ()()()()()……()ねぇ()



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