PLAY120 因縁と懐かしき再会①
その時間から少し前に遡り――ハンナ達は……。
□ □
「「「えぇっっ!? (はぁっっ!?)」」」
「――オウヒさんがいないっ!?」
「――姫さんがいないっ!?」
「――あの馬鹿姫がいないのっ!?」
「うん。いない……」
あれから私はみんなに気付いたことを簡潔に伝え、その言葉を聞いたアキにぃとキョウヤさん、シェーラちゃんは声を揃えるように言葉を発した。
驚きと言うそれなんだけど、揃えて言うはずが全然揃っていないことに内心バラバラの感覚を感じ、綺麗じゃないような気持ちを感じてしまう。
本当はそろって言うはずだったのに揃っていなかったという違和感。
でもその違和感もすぐに崩壊してしまい、私は神妙な顔をして三人に向けて頷いた。
頷いた――それは肯定。
私は肯定するために頷いた。
この場所に――オウヒさんがいない事実を。
私は心の中で自分の失態を責める。
責めて責めて、頭を抱えてしまうくらい私は自分のことを責めていた。
どうして私は起きていたのにそこまで頭が回らなかったのか。どうしてあの場所でオウヒさんと一緒に走らなかったのか。どうしてあの時オウヒさんを第一に考えることができなかったのか。
色んな反省点や自分の失態がどんどん湧き上がってくる中、アキにぃやキョウヤさん、シェーラちゃんは何か言い争っているような音色で話をしている。はたから見れば喧嘩に見えてしまいそうなそれだ。
虎次郎さんは私の言葉を聞いて驚きの顔をしていたけれど、気持ちを切り替えるように辺りを見渡してオウヒさんを探している。目視で見える範囲にいるかどうか探しているみたい……。
エドさんは私達のことを見ながら首を傾げて『どういうこと?』と言う顔をしながら目を点にしていた。
本当に「え? どういうこと? どうなっているの?」と言う声も出しているので、本当に理解できていない様子で私達のことを一人一人見て……だ。
でもエドさんはこの試練の詳細知らないから、仕方がないのかもしれないけど、そのことに関してちゃんと説明する余裕が私達にはなかった。
なかったから近くにいたヘルナイトさんがエドさんに駆け寄って説明をしていたけれど、その説明を注意深く聞く余裕が、私にはなかった。
私だけじゃない。
アキにぃ達も余裕なんてなかった。
余裕がない理由に関してはオウヒさんが連れ去らわれたこともあるし、ほかにも理由があるけれど、この状況の中でも最も重要なのはオウヒさんがいなくなったことことが最も重要で、私達リヴァイヴにとって大きな大打撃なのだ。
突然だけど、アルダードラさんが私達に与えた試練の内容はこうだ。
『簡潔に桜姫様の御守を二週間するという内容なのですが、御守と言いましても何でもかんでもと言うわけではございません。そこまであのお方は何もできないというわけではないので……。私が主にすることは桜姫の勉強……、外の世界に関しての知識――つまりは鬼の郷以外の貿易や国の関係、歴史、色んなことを勉強させます。これは主に一対一で、三日に一回は定期試験を行わせてください。後は毎日桜姫様の脱走を絶対に誰よりも一番に阻止してください。あのお方は毎日時間問わずに脱走を試み、どのような手段使ってでも絶対に脱走をしますので、寝ずの番を決めてから脱走阻止を行ってください。できれば寝る前に桜姫様の持ち物を隅々まで確認し、その後で見張りをすることが最適だと思います。そこまでしないとあの人は絶対に脱走をしますので。一日に数十回どころの話ではありませんし、気を抜いてしまえば絶対にあの人は脱走を試みます。ざっとこんな感じですが、あとは普通に話し相手になったりして二週間を過ごしてください。尚試練失敗の条件を敷いてあげるならば……、桜姫様が大きなけがをした場合、そして存亡にかかわる様な危険な目に遭わせてしまった場合、失格としますが、それ以外に関してはとやかくは言いません。できればでいいですが、姫様の話し相手に、鬼族以外の話し相手に絶対になってください。何かわからないことがあれば紫知様や赫破様に聞いてください』
これがアルダードラさんが私達に与えた試練で、一回だけ聞くとオウヒさんの御守を二週間してほしいという内容になっている。
苦労しそうで大変そうな試練の内容だけど、この試練の内容を思い返して、アルダードラさんの真意を知った私達は今回の行動に移したきっかけでもある。
このきっかけがあり、オウヒさんの強い意志と願いを聞いたうえで、私達は今回の計画――私命名 (自称)『外の世界に慣れるためのお買い物計画』を立てて今ここにいる。
勿論――オウヒさんの夢の第一歩の応援と訓練もしつつ、アルダードラさんの試練の内容――大きなけがをした場合、そして存亡にかかわる様な危険な目に遭わせてしまった場合に細心の注意を払って……。
払っていた……と思っていたのに、結局それも実践でできなければやろうとしていたという結果で終わってしまう。
結果として、オウヒさんはいなくなってしまった。
あの時、黒い狐の人と『六芒星』が現れて、その二つに集中してしまったせいでオウヒさんがいなくなってしまった。
これは十中八九――完全なる私達の失態。
私達が原因で、オウヒさんはいなくなってしまった……。
だからエドさん以外のみんな……、アキにぃ、キョウヤさん、シェーラちゃん、虎次郎さん、私は焦りを感じ、緊張感と言うか恐れを感じながら慌ててオウヒさんがどこにいるのかを探そうとしている。
どこに行ってしまったのかわからない……。違う……っ。どこに連れ去らわれてしまったのかわからないオウヒさんのことを探しながら……。
あても何もない状況の中、何の情報もない中私達は辺りを探していた。
一応少数編成で、アキにぃとキョウヤさんは一通りが多い住宅が多いところを。虎次郎さんとシェーラちゃんは商いが盛んな場所で、『六芒星』と黒い狐の人が現れたところを中心に探すことに。
エドさんはこのことを京平さん達やしょーちゃん達に伝えるために、一旦宿に戻って残っている人たちと一緒にみんなを招集して探す手伝いをすると言ってくれた時は本当に感謝しかなかった。
本音を言えば私達六人だけでこの街『フェーリディアン』全域を探す……。最悪ボロボ空中都市全域を探すかもしれないのに、少数で探すのは困難だと思っていたから……、エドさんの提案を聞いた時は本気でほっと安堵をした。
勿論アキにぃ達も安堵をしていたし、ヘルナイトさんも安心して快諾してくれたくらいだ。
その快諾をした後アキにぃ達と一旦別れた私とヘルナイトさんは、一通りが少ないであろう路地裏を虱潰しに探すことに……。
そして今現在――私とヘルナイトさんは少し薄暗いけど雲が少ししかない空のお陰で暗がりを探すことなく路地裏という世界を走っている。
路地裏だから少し汚いかもしれないとか、隠すのにはもってこいみたいな風景が広がっているのかなと少しばかり期待というか……、脳内の世界を想像していたのだけど、『フェーリディアン』の路地裏はかなり綺麗に整備されていた。
一見すると本当にここは路地裏なのかと思ってしまいそうなほどきれいにされていて、正直路地裏を見た瞬間絵画にできそうなくらい綺麗な景色だった。
路地裏の灰色の闇と日の光がいい塩梅で……。
でも、今はそんなことどうでもいい。
というかそんなこと考えている暇があれば探す方に徹したい。
徹したいくらい私はヘルナイトさんと一緒になって探している。
オウヒさんがどこにいるのか。それだけを考えて……。
「っ。あの時、ちゃんとオウヒさんのことを見ていれば……っ」
「ハンナ」
自分の失態で、しっかり周りを見ていなかったせいでこうなってしまったことを心の底から悔やみながらも、辺りを探して、すこし遠くを探して走っていた私は小さな声で後悔の声を零した。
本当に、後悔しかないことばかり。
あの時こうしていればよかったとか、色んな後悔の反省点を呪文のように、詠唱のように口ずさみながら呟いていると、私と一緒に走ってオウヒさんを探していたヘルナイトさんが私のことを見下ろすように、頭上から声をかけてきた。
その声を聴いた私ははっと声を零して、驚きながらヘルナイトさんのことを見上げると、ヘルナイトさんは私のことを見下ろした状態でいつもと変わらない音色で落ち着きのそれを零しながらこう言ってきた。
「今は後悔より見つけることの方が優先だ。どんなに悔やんでも過去は戻らない。どんなに過去の修正をしたところで過去を戻すことはできない」
「あ…………」
「今は後悔するよりも、一秒でも早く見つけて助けることこそが重要だ。後悔するあまり守るべきものが無くなってしまっては、それこそ悔やんでも悔やみきれない」
そうだろう?
そう言って私に注意を言い、そして今やるべきことを促してくれるヘルナイトさん。
ヘルナイトさんはいつものように凛としていて、それでいて冷静に物事を見て、私に言ってくれる。
後悔するならば探すことに集中するべきだ。悔やんで悔やんで悔やみ過ぎたらいけない。希望を捨ててはいけない。
そう言い聞かせるようにヘルナイトさんは言ってくれた。
そうだ。その通りだ。
私は思った。
今は後悔している暇なんてない。今は後悔するよりも探して見つけることの方が最優先。
過去に起きたことを修正しようと頭の中で後悔して『あの時こうすればよかった』という反省は大事だ。でも今はそれをするべきではない。
それは後ででもできることだ。
それをしてできることができなくなってしまう。守るべき人がいなくなってしまっては本末転倒。後悔しか生まなくなってしまう。
それこそが本当の後悔だ。
だから今は本当の後悔が来るよりも前に、希望を捨てずに見つけることを優先しよう。
そう思った私はヘルナイトさんの話を聞いて少しの間黙っていたけれど、考えをまとめた後私は『うん』と頷いた後でヘルナイトさんに向かって言う。
微笑みもしない。悲観めいた顔をしていない――覚悟と絶対に見つけるという意志を込めた顔をヘルなうとさんに向けて私は言った。
最初に謝罪、そしてその後お礼と言う名のそれを乗せて――
「そう、ですね……。そうでした。ごめんなさい。突然のことで頭がいっぱいいっぱいでした。ありがとうございます」
「いや、いいさ。こうなることも想定してここに来たんだ。何がこようとも最善を尽くそう」
「……うん」
ヘルナイトさんは私の言葉を聞いて頷くと、私とヘルナイトさんは再度オウヒさんを探すことに専念する。
どこにいるかわからない。でも分からないというだけで見つからないわけじゃない。
隠れられる場所を虱潰しで探すしかない。
気が遠くなりそうで正直一日で探せるのかわからないけれど、やるしかない意思を固めてヘルナイトさんと一緒に走って探す。
一分でも、一秒でも早くオウヒさんを見つける気持ちを固めて……。
そう思っていると……。
「―――――――――――~!」
「?」
「? どうしたハンナ」
私は足を止めて、ヘルナイトさんの声に返答しないで辺りを見渡して首を傾げる。
きょろきょろと周りを見て、何がいるんだろうと思いながら私は少しの間その場所で立ち尽くして探す。
探している存在はオウヒさんではない……、と思う。私が探しているそれはどこから聞こえてきた声の存在で、その声の存在を聞いてもしかしたら……? という思考も踏まえながら私は注意深く辺りを見渡した。
辺りを見渡しても何もいない。
ヘルナイトさんはそんな私を見て疑念を抱くような顔をしていると思う。でもその顔を見ないで、私はあの時聞こえた何かが一体何なのかを見つけようと周りを見て探す。
でもどこにもいないみたい……。
「声がしたはずなんだけど……」
「声?」
「あ、そうなんです……」
どこにもいないことを確認した私は首を傾げて、うーんっと唸りながら言うと、その言葉を聞いたヘルナイトさんが私の言葉に対して小さな小さな疑問のそれを零す。
零れた声を聴いた私は内心ヘルナイトさんがいたことを一瞬忘れてしまっていたけれど、すぐに思い出して呆けた『あ』という声を零すと、私はすぐにヘルナイトさんのことを見上げて頷く。
頷いてさっき聞こえた声に関して言おうとした瞬間――
「――――――――ぁぁぁぁ~!」
「! また!」
「今度は聞こえた。確かに声が聞こえたな」
また聞こえた。今度は少しだけはっきりと聞こえた気がする。
しかもその声がしたのは――上からだ。
なんで上から声がしているの? という疑問が頭の中に浮かんだけど、その疑問よりも誰の声なのか、もしかしたらということもあるかもしれない。
この世界は仮想空間。
異世界をモチーフしている世界だから……、オウヒさんを誘拐した人がいるのかもしれない。
そう思った私はすぐに声がした方向に視線を向けようとする。
向けて――何なんだと思いながら視線を向けるけど、視線の先には青い空しかない。少しの雲が少し早めに動きながら空という名の海を泳いでいる。
そんな感じの空の世界が視界に広がっていた。
広がっていた……けど、視線を向けた後すぐにまたあの声が空から聞こえてきたのだ。
「―――――ぁぁぁぁぁぁぁ~!」
「だんだん大きくなっている……」
「だんだん大きくなっているということは、落ちているのか?」
「! それじゃあ……!」
さっきよりも少しはっきりと聞こえた声に驚きつつも、オウヒさんの声に聞こえるその声に耳を傾けながら思ったことを口にする。
言葉通り――さっきよりもはっきりと声が聞こえている。最初は小さく聞こえたそれも、少しずつ、本当に少しづつ大きくなっていくようなそれで、声を聴いたヘルナイトさんもそれに気付いて、まさかというような口調で私に言ってきた。
大きくなっている=現在進行形で落ちていて声が近くなっているということを……。
空から消えているから冷静に考えればわかることかもしれない。でもそんな思考私には無く、驚きの顔をしてヘルナイトさんに視線を映すと、ヘルナイトさんは声がした空に向けて手をかざしていた。
きっと風属性の魔法を放とうとしているんだと思う。確か……。
「ストームインパクトをここで出すんですか?」
「ああ。『嵐爆乱』は主に緩和の魔祖術だ。落下の致命傷を打ち消し、攻撃の打ち消しに使われるものだ。この声も上から聞こえるとなると、この魔祖術で受け止める方がいいだろう」
なるべく規模は小さくする。
そう言いながらヘルナイトさんはかざした手から微風ながらも小さな竜巻を発生させる。
ヘルナイトさんの手から『ひゅるひゅる』という風を切る音が鼓膜を揺らし、その光景を見ていた私は今まで何回か使ったであろうストームインパクトを見つめる。
なるべく小さく……、って言っていたから、きっと路地裏のような狭いところだとあまり使わないのかな……?
そんなことを思いつつも私は再度上を見上げて目を凝らす。
声がしたであろうその場所をじっと見つめて、日の光の逆行に目を傷めながらも私はじっと空を見上げ続ける。
続けて、ヘルナイトさんの声を聞きながら見つめ続けると……。
「…………………………?」
私は違和感を覚えた。
空を見上げるようにじっと見続けていたけど、見続けて、一度目の渇きに潤いを与えるように瞬きをした瞬間――視界に入った小さな小さな黒い点。
本当に目を凝らさないとわからないくらい小さい黒い点で、その黒い点から叫び声が聞こえているみたいだ。
でも、その小さい黒い点を見て、私は違和感を覚えたのだ。
ううん。これは違和感じゃない。これは……見たことがあるという既視感だ。
「ハンナ――少し離れて、?」
ヘルナイトさんも掲げた手から小さな竜巻を出して待機していたけれど、小さい黒い点を見つめていたせいかヘルナイトさんも何かに気付いたみたいだ。
首を傾げるように放とうとしていたその技の動きを止めてしまうくらい、ヘルナイトさんは私と同じように視界に入った小さい黒い点を見て固まってしまった。
二人して固まってしまったのは偶然かもしれない。
でもこれを見てしまえば誰だって固まるだろう。凝視してしまうだろう……。
だって――その小さい黒い点は本当に丸い黒い点で、それがくるくると少しずつ、すこしずつ黒い丸を大きくして落ちて来ているのだ。
「――あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ~!」
と、人の言語ではないその声を発して……。
というかこの声は……。
と思った時――私とヘルナイトさんは同時に言葉を発した。
驚きと気付きを含ませた……「あ」という声を零して、視界に入るその黒い点の正体を見上げて……。
□ □
今にして思うと……、そんなこと甘い考え且つそんなことありえないだろうという非現実的な思考に戻ると思うかもしれない。
でもその時の私はそんなこと全然考えていなかったというか……、もしかしたらという淡い希望もありつつ、少しの音に敏感になっていたせいで見てしまった。
完全なる無駄足に見えてしまうだろう。
でも、この時はそうとは思わなかったし、まさかこの後あんなことが起きるだなんて思っても見なかったから……。
今思うとこれは――必然の行動だったのかもしれない。
でも、これだけは言える。
この時見上げていなくても見上げても、きっと同じ運命だったのかもしれない。
だって――あの子は私達のことを追ってここまで来たんだから。
私達に助けを求めてここまで飛んできてくれたんだから。




