PLAY119 鬼姫、絶望①
「あれ?」
と、私は目をぱちくりとさせて辺りを見回した。
視界に入る光景はいつも通りの……、じゃない。
私の視界には私と同じように周りを見て「あれ? あれ? どういうこと?」と驚きと困惑が入り混じっている顔をして、声を零しているエドさんと、その背後で目を点にしてエドさんと同じ顔をしているシェーラちゃん。
私達の危機を察知してなのか、駆け出して参戦しようとしていたアキにぃ、キョウヤさんもエドさんと同じように驚いた顔をしていたけれど、虎次郎さんだけはみんなと違って少しだけ驚いている……。じゃない。これは別の驚きをしているような、同じではないけれど驚いているところは同じだという顔をしていた。
違和感ではない。
同じに見えて同じではないというような……、正直私も何を言っているんだろうと思ってしまうけど、それが正しいような顔をしている虎次郎さん。
私のことを守ろうとしてくれたヘルナイトさんも顔には出ていな……って、甲冑で顔を隠しているからわからない人も多いかもしれないけど、雰囲気でだんだんわかってきたこともあって、ヘルナイトさんも顔にが出していないけれど驚きの面持ちで辺りを見渡している。
そう――この場所にいるはずの人が突然いなくなってしまったことを不審に思って、私達は探していた。
ついさっきまでこの街で攻撃魔法を出して、あろうことかこの街事雷系統の技を使って壊そうといしていた存在――黒い狐の人のことを。
黒い狐の人のことに関しては正直、全然知らない。
知らないどころか初対面だったのだけど、相手はなぜか私のことを知っているような素振りと言動で、一言で言うと、怖くて、なんか背中からぞぞぞ~っ! と寒気が来てしまう。そんな感情を抱かせる人だった。
だって私は初対面なのに相手は色んなことを知っているような物言いで、なんだかわからないけれど『私の騎士になる』とか何とか変なことを言っていたから、思わず私は『私の騎士様は――ヘルナイトさんだけです』とか、『貴方じゃない』とか言って……。
あ、これ今更だけど、恥ずかしい……。
勢いは大事とか言うけれど、これは勢いで言ってはいけなかったかもしれない……。
でも結果としては結果オーライだったのかもしれないけど、もう二度と言わないようにしないと……、恥ずかしさで頭が痛い……。
は、話しを戻すと、黒い狐の人はついさっきまでエドさんに背後を取られた状態でいたはずだった。
私のことをどうしようとしていたのかはわからない。でも何かをしようとしていた。悪い方向で何かをしようとしていたことは間違いないだろう。
私にはいい方向で、あとの人たちには悪い方向で何かをしようとして、それを止めた私に対して感情的に何かをしようとして、その後来たヘルナイトさんやアキにぃの反撃、エドさんの不意打ちの背後取りをしたことでクサビの状況が一気に傾いた。
優勢から劣勢に。
その言葉が正しいのかはわからない。
まだ奥の手……、詠唱とか持っていた可能性も高いから本当に劣勢になっていたのかはわからないけど、それでも私達の状況が優勢になったことは間違いないだろう。
でも優勢になった時、クサビはエドさんに向けて何かをしようとしていたことだけは見えていた。
うまく隠れていたけれど、エドさんに向けて何かを……、きっと攻撃をしようとしていたのかもしれない。攻撃をして隙を作ろうとしていたのかもしれないけど、真相は分からない。
永遠にわからない。
だって、もういないからわからないのだ。
私達の目の前にいた黒い狐の人は、一瞬の内にその場所からいなくなってしまったから。
私やみんなが辺りを見渡して探していたのは黒い狐の人がどこにいるのだろうと思っての見渡しであり、あの一瞬の内にあの人はどこに行ってしまったのだろうと思いながら、私やみんなは辺りを見渡していたのだ。
「え? どうなっているの……?」
「分からない。わからないが……、分かることはここにはもうあの狐の亜人はいないと言う事だけだ。何かしたのか? あの一瞬で……」
「本当に、一瞬でしたね」
辺りを見渡しても見当たらない。どころか本当にいなくなってしまった黒い狐の人のことを探して、いないことを確認した後で疑問の言葉を零すと、その言葉を聞いたヘルナイトさんも同意のそれを零した。
どうやらヘルナイトさんも分からないみたいで、本当に一瞬の内にいなくなってしまったことに理解できない気持ちもあるけれど驚きさえもしている。
簡潔に言うと……、どうなっているんだ? 的な顔をしている。
だってあの間にいなくなってしまうこと自体出来ないと思うし、本当に一秒にも満たない時間の中であの人はいなくなったのだ。
驚くどころか理解できないの方が大きいかもしれない。
本当に一秒の間にパッと、瞬間移動のマジックの如く消えてしまったのだ。
「あ、ハンナちゃん大丈夫? けがとかしていないかい?」
「ハンナッ。あいつ変なことしなかった?」
すると、近くに黒い狐の人がいないことを確認した後でエドさんとシェーラちゃんが私に駆け寄ってきた。
エドさんは心配そうな顔をして私に駆け寄り、シェーラちゃんに至っては私の肩を掴んで前後に振っては「なんで逃げる選択とかしなかったのよっ」と注意じみた怒りの声を吐いていた。
前後の振りの所為でがくがくと頭の中がシャッフルされる (前にもこんなことあった気がする……。どこだっけ)感覚と僅かな痛みに耐えながら私は「あぁあぁあぁあぁ」と声を上げつつもシェーラちゃんの言葉に返答するようにこう答えた。
振られながらだからすごく気持ち悪いけど、それでも私は答える。
「だってあぁあぁ、あの時シェーラちゃんあぁあぁ倒れていたあぁあぁから逃げあぁあぁあぁあぁあぁやめてぇぇぇ~」
「倒れていたからとかそんなことを考えるよりもあんたのことが滅茶苦茶心配なのっ! 分かる? し・ん・ぱ・い! だから私はぁぁ」
答えたけど、ところどころか降られた衝撃の声が出てしまい言葉にならない。
ところどころ『あぁあぁ』と、自分でも驚いてしまうほど間の抜けた声は衝撃というか、自分の声がこんな風に出るんだと頭の片隅で、全く関係ないことを思ってしまう。
いや、それ以上に……首がもう痛くなってきて……キツイ……。
きついと感じてはいるけれどシェーラちゃんの猛攻は止まらない。それくらい心配してくれたんだと思っていると……。
「シェーラちゃんっ! シェーラちゃん止めようか。止めないとこれ以上は酔っちゃうから」
「シェーラ。もうそれ以上はやめた方がいいぞ。ハンナが目を回している」
とうとう危ないと感じたのか、エドさんとヘルナイトさんが声をかけてシェーラちゃんを止めようとする。止めようと声をかけて、制止をかけようとエドさんはシェーラちゃんの肩に手を置こうとしたんだけど……、シェーラちゃんはその行動を妨害するようにエドさんがいる背後を振り向くと怒りの形相……、いや、これは威嚇だ。威嚇を剥き出しにしたのだ。
あ、この光景はシェーラちゃんが威嚇をしたことでようやく見えたのと、振られている最中でも何とか見えたのでそれを説明しています。
やっと止まったことで私は目を回しながらだけど何とか安堵の息を吐いて、解放された喜びを心の中で浸る。
エドさんとヘルナイトさんに心の中で感謝のそれを述べながら……。
感謝のそれを述べて顔を上げようとすると……。
「おいてめええええええっっ! ハンナの首が取れたらどうするんだこらぁ!」
「っ!」
突然聞こえた声。
その声は私やみんながよく聞いている――聞き慣れた声。
聞き慣れた声の中に複数の声も混じっていて、みんなでその声がした方向を向く。勿論私もその方向に顔を向けると――少し遠くでアキにぃのことを羽交い絞めにして止めているキョウヤさんと、辺りを見渡してまだ探している様子の虎次郎さんが視界に映った。
私達の視線にも気付かず、三人……じゃない。アキにぃとキョウヤさんは声を張り上げながら言い合いを始めてしまい、周りの視線なんて気にもしない様子で口論をし始めた。
アキにぃのことを羽交い絞めしているキョウヤさんも慣れたような行動で――だ。
「おい馬鹿落ち着けっ! もう終わったから! もうグワングワンしていないからっ。もう大丈夫だから!」
「大丈夫とお前は断言できるのかっ!? 断言できるのか、えぇっ!? まだ伏兵とかそんな奴がいるかもしれねーだろうが! こんな簡単にパッといなくなるわけないっ!」
「分かっている! わかっているが今は落ち着けっ! 落ち着いて考えろ! 見てわかれ! 目先の光景に気を取られている暇なんてねえし! 今は周りを見て下さいそして暴れるのやめてオレの体力限界だぁぁ~!」
「あんの煤狐許せねぇっ!」
「黒い体毛の狐だよぉおおおおっ!」
何度見てもいつもと同じ光景で、アキにぃ達を見つけた私は心の中で呆けた『あ』という声が零れてしまった。
何度も見ているけれど、やっぱり二人はいつも通りの二人で不覚にも安心してしまった自分が……。
あれ? ところでなんでアキにぃ達こんなところにいるの?
別行動していたよね?
そんなことを思っていると、ヘルナイトさんも三人に気付いたのかアキにぃ達の名前を呼んで「来ていたのか」と聞くと、その言葉を聞いていたエドさんも「あー」と言いながら……。
「やっぱり三人も来ていたんだね。ハンナちゃんの姿を見た時、女の子二人だけなのかなと思っていたけど、やっぱり三人ともいたんだ。ヘルナイトは……いなかったような気がしたけど、どこかにいたの?」
と言いながらエドさんはヘルナイトさんのことを見て首を傾げるような言動で聞く。
嫌味なんて一切ない言葉で、素直な疑問を投げかけるようにエドさんが聞くと、その言葉を聞いてかヘルナイトさんは少し黙っていたけど、黙っている時間も経った数秒程度で終わり、終わると同時にヘルナイトさんが言おうとした――
した――のだけど、その言葉を遮るように「そう言えば……」と、今までエドさんの手によって静止されていたシェーラちゃんは視線の先をヘルナイトさんに変えて、よく漫画で見る『ギラリ』とした目つきをヘルナイトさんに向けて詰め寄る様な威圧を込めながらシェーラちゃんは言った。
本当に、ずんずんっと物理的に詰め寄る様な雰囲気でシェーラちゃんはヘルナイトさんに問い詰めて……、指をさしながら言う。
「あんたあの時言ったわよね? 『私は少しの間単独で行動する。少し気になることがあってな』よか、『少しの間だ。用が済んだらすぐに戻る』とか言っていたくせになんでこんな時に限って遅れて来るのよっ! あんたがいればあんな変態すぐに投げ捨てでしょうがっ! もう少し早く来なさいよっ!」
「…………………………」
「来れない理由があったの? すぐ戻るとか言っているならちゃんと有言実行しなさいよっ! こっちはこっちで大変な目に遭って頭殴られてやばかったのにあんたは何をしていたのよっ! こっちのことも考えて有言実行しなさいっ! あんた鬼士でしょっ!? 職務怠慢するんじゃないっ!」
「職務……っ!? そ、それはすまないことをした……」
「シェーラちゃんの、圧がやばーい……。後謝らなくてもいいんだよー? ヘルナイトさん案外大真面目だね」
「圧というか……。これは圧迫……」
「いや圧迫という名の差別が見えている……。あまり言いたくないけど、シェーラちゃんって何かと強気だけど、シロナのようになってほしくないな……」
「え? シロナさんは純粋じゃないですか」
「え? シロナが……、だとっ?」
ヘルナイトさんとシェーラちゃんの話を聞きながら私とエドさんは呆れながらというか、シェーラちゃんの圧迫めいたその光景を見て青ざめた顔をしてしまう。
エドさんに至っては止めようと諫めの言葉をやんわりとかけているけど、その声を聴いていないのかシェーラちゃんはヘルナイトさんに向けて怒りのそれをぶつけている。
聞いていない光景を見て、まだ終わりそう二ないなと思いながら私とエドさんは二人で少しだけ話をするというのが今の光景で、シロナさんの話題が出た後エドさんは真剣に驚いた顔をして私のことを見ていたけれど、どうしたんだのかな……? 私、変なことを言ったのかな……。
変なこと……か。
もしかしたら関係ない話かもしれないし、今はそれどころじゃないかもしれない。
でもそれ以上に私は今の五あ魔mで気になっていたことがあった。
些細かもしれないけど、やっぱりこれも黒い狐の人がいなくなったことと同等の違和感でしかなくて、私はそのことを心の隅で思いながら気にしていた。
気になっていたのは――この街『フェーリディアン』の光景。
虎次郎さんはきっと『フェーリディアン』の光景を見て違和感を感じて辺りを見渡していたのかもしれない。
……考えれば当たり前かもしれない。
さっきまでの光景を思い出せば、すぐに変だと思ってしまうだろう。私だってそう思っていたから……。
大まかになぜ違和感なのかを説明すると……、今の今まで『フェーリディアン』は騒ぎになる手前まで来ていた。
理由はこの街に私に執着していた存在――黒い狐の人 (そう言えば名前聞くの忘れていた)と、なぜかこの街に現れた『六芒星』の乱入も相まって、街は混乱になりかけていた。
なりかけていたというのは事実で、本当ならもっと大騒ぎになっていたかもしれないけれど、その時黒い狐の人が雷系統のスキルを『六芒星』の人に放ってしまったことで街の人達はみんな家の中に避難してしまった。
だから大事にならず、小さなボヤのような騒ぎで済んだのかもしれない。
それがなかったらきっと大騒ぎ……どころの話ではなかったはずだ。
最悪の事態にもなっていたかもしれない。というか最悪の事態手前に来ていたのだけど、間一髪私は放ったスキルを使ったことによって何とか事なきを得て、そしてヘルナイトさん達が来てくれた。
来てくれなかったら動けるのは私だけだったし、どうすればいいのか正直今思うと…………。
考えるだけで寒気が止まらない……っ。
止まらないけど、もうその可能性が無くなってしまったからその心配をする必要はない。ない。ない……。
ない……のだけど、それはもうどうでもいいことになってしまっている。というか私が気になっていることはそれではない。虎次郎さんもきっと思っているに違いない。
私や虎次郎さんが着になっていることは、あんな大きな騒ぎあったにも関わらず、『フェーリディアン』の風景が異様に平和に見えてしまうと言う事。
街の崩壊の一部も無くなっていて、まるで平和そのものの光景……、あの騒ぎがなかったかのように平和だということに、私や虎次郎さんはこの平和を違和感として感じてしまったのだ。
あんな騒ぎで、家に隠れた人だっているのに……、今見たら隠れている人なんていない。どころかあの騒ぎが起きる前のような光景が視界に入る。
本当に、あの騒ぎがなかったことにされたような、ぽっかりとその騒ぎと言う情景が削除されて、別の情景を入れたかのようなつぎはぎの違和感……。
それを感じたからこそこの違和感に異常な気持ち悪さを感じてしまう。
今までいた世界とは違う時間の世界のような……、並行世界に迷ってしまったかのような感覚で、一体何がどうなっているのと言う理解不能事態に頭の中がぐちゃぐちゃしていく。
「………………はぁ」
思わず零れてしまった溜息。
その声を聞いていたのかヘルナイトさんは私に向けて「どうした?」と聞いて来た。
ヘルナイトさんの声は私の頭上から聞こえてきて、その声を聴いた私ははっと息を止めるような声をして見上げてから、私は少し慌てた音色で――
「あ、えっと、少し考え事をしていて……」
と言い、その後すぐに「大丈夫です! 全然関係のない事なのでっ」と言って自分が考えていたことを誤魔化すように言う。
正直、誤魔化すことなんて全然ないのだけど、それでもこの話は聞かせてはいけない気がすると本能が囁いたので、私はその本能に従って何もないとヘルナイトさんの小さな嘘をついた。
小さい嘘を聞いたヘルナイトさんは、一瞬だけ考えていたのか無言のままでいたけど、その後納得したのか、少し声のトーンを下げた音色で「そうか」と言って、私のことを抱き寄せているその手に僅かだけど力を入れて私を更に抱き寄せる。
ぐっと、苦しくもならない。その腕から抜けたいと思えば抜けることができるけど、抜けたくないような感情を感じながら私はヘルナイトさんのことを見上げて首を傾げる。
どうしたのだろうと思いながら見上げていると、突然シェーラちゃんの「あ」という声が大きく聞こえ、その声を聴いた私やみんなは驚きながらシェーラちゃんのことを見る。
アキにぃとキョウヤさん、虎次郎さんはまだ私達の近くにいないので聞こえていないみたいで、未だに騒いでいる。
騒いでいるアキにぃ達に視線を映し、シェーラちゃんは小さな声で「そう言えば……」と言った後、シェーラちゃんはアキにぃ達に向けてとあることを聞く。
本当に些細な疑問を投げかけるように、シェーラちゃんはアキにぃ達に聞いたのだ。
「あんた達あの時別行動するって言っていたけど、なんでここにいるの?」
その言葉が放たれた瞬間、アキにぃ達の顔が一瞬で真顔になり、全身が硬直してしまったかのように『ガチンッ!』と固まってしまった。
アキにぃとアキにぃを止めていたキョウヤさん、そして辺りを見渡していた虎次郎さんが『う』の濁点交じりの声が出そうな顔をして固まり、その顔を見たエドさんが首を傾げながら私達の顔とアキにぃ達の顔を交互に見ていたけれど、アキにぃ達の顔を見ていたシェーラちゃんはすっと目を細めて、冷たいそれを見せるようにしながらシェーラちゃんは言う。
静かに、『まさか』という言葉を最初につけた後……。
「ずっと後を付けていたの? 尾行していたの?」
「「………………………」」
「んんっ! げふんっ」
シェーラちゃんの言葉にアキにぃとキョウヤさんは答えない。明後日の方向を向きながら何も答えないけど、虎次郎さんはその状態で口元に拳を添えて咳込んでいた。明後日の方向を向いて……。
事情を知らないエドさんとヘルナイトさんはどうしたのだろうと思いながら首を傾げているみたいだけど、シェーラちゃんはアキにぃ達のことを見逃さないばかりに、ううん。逃がさないと言わんばかりにアキにぃ達に視線を向けると、シェーラちゃんは呆れるような溜息と共に言葉を発した。
「あんた、マジのやばいシスコンだったってことね。最悪」
「――なんで俺だけ信頼度駄々下がりなんだよっ!」
呆れるような溜息と共に吐き出された言葉は、まさに信頼度が下がってしまった発言そのもの。
その言葉を聞いたアキにぃは絶望の涙を流して叫びながらシェーラちゃんにつかみかかろうとしたけど、現在進行形で羽交い絞めにされている所為で動けない。そして声を上げてしまったせいで『フェーリディアン』の人達がアキにぃのことを奇異な目で見つめる。
すごいざわざわしてきたし、なんだか見られている気がして恥ずかしい……。
でもそんな気持ちなんてないのか、アキにぃとシェーラちゃんはギャーギャーと口論をしだした。
内容はアキにぃの言葉に対して嘘だったのかということをシェーラちゃんが怒鳴りながら言い、その言葉にアキにぃは嘘じゃないけど心配でと怒りながら言っている。
内容はまさにそんな感じ。
あまり内容を聞く余裕もないし、そもそも見られているという恥ずかしさで集中できない。
でも、これはアキにぃが悪いかもしれないと思ったのも事実。あの時アキにぃは私達にこう言ったのだ。
「ハンナ、シェーラ――二人はオウヒさんと一緒に行動してほしいんだ。お願いできるかな?」
「オウヒさんは女の子。男の人と一緒に行動した方がそれは安全面で言うといいかもしれない。護衛としてで言うとそっちの方がいいかもしれないけど、一応彼女の目的はここにきて買い物をするだけ。それだけだから、買い物のことに関しては同じ同性のシェーラとハンナに任せたいんだ」
うん……。しっかり言っている。
だから女子同士で行動した……。
「!」
私は辺りを見渡した。急いで――そしてすぐに視界に入れてどうなっているのかを確認するために、今までいたであろうその場所に視線を向け、周りを見渡して探した。
首も動かして探している所為か、ヘルナイトさんはそんな私を見て疑問の音色で聞いて来たみたいだけど、その声も無視して私は見渡す。
見渡して、視界に入らないことにどんどんと不安を抱く。抱いて、なんで気付かなかったんだろうと自分に対して責めてしまう。
責めて、なぜこうなってしまったのかという後悔も踏まえながら私は零す。
現状を知った瞬間、色んな最悪のことを想像してしまい、呼吸も止まりそうなほど緊張し、手の汗がじんわりと出て来る。熱くもないのに汗をかいているような気持ち悪さ。
暑くないのに汗をかいて、寒くないのに寒気のようなものを感じてしまうような、体の異常事態。
それを感じながらも小さな声で言った。
いないと。
その言葉を聞いたアキにぃ達は私のことを見て首を傾げるような顔をしているみたいだけど、小さくて聞こえない。ううん。聞こえているみたいだけど聞こえない。
フィルターがかかったかのように聞き取れない。
聞き取れない状況の中でも何とか聞こえた声に答えるように、私は言葉を発した。
発して――伝えようと思った。
オウヒさんがいないことを。




