PLAY12 混ざり合う⑤
時間を遡ること、少し前。
「ね、ネクロ……マンサー」
私達の目の前に現れた黒い目の男……、エディレスを見た私。
見た限り眼だけを抜けば普通の人だった。
その人を見た私だけど、その人は私を見て驚いて、それでいてうっとりするような目で私を見てエディレスは言った。
「そんな目で見つめないでください。私も緊張してしまうではありませんか……。くくく」
「う」
「んな目で見てねえぞきっと……」
キョウヤさんの言う通り、確かに私はそんな目で見ていない。
でもエディレスさんはそれを言いながらくつくつと微笑みながら私を見ていた。
「くく。それにしても、あのボーンアンデッドをあんな風に屠るなんて……、せっかく躾けたのですがね……」
「うぅ……?」
なんだろう。このエディレスと言う人は一体何を言っているんだろう……。あとボーンアンデッドを躾けたって……?
あれ? そう言えばここに来た理由は、ここに人が何日もいるからここに来て……?
あれ? なんだろう。これは……。
そう私は頭を働かせていると……。
「ハンナ、お前は逃げろ」
「へ?」
突然、ヘルナイトさんは言った。
私はそれに対し反論しようとすると、ヘルナイトさんは真剣で、それでいて固い意志を乗せるかのように私に言った。
「あれは――危険だ。お前を巻き込みたくない」
その意志は意志でも……、苦渋の決断をしたかのような音色……。
それを聞いた私はそっと手を伸ばそうとしたけど……。
「何をしている――?」
「! なんだっ!?」
アキにぃが叫ぶ。しかしその前に私は声がした天井を見上げる。
目にして、私達は目を疑った。
天井に罅が入っていたから、ではない……。
その天井を見ると、空中で、空間にひびが入っていたのだ。
そこからべきべきと空間を裂くように、黒い穴を広げていく。
そこから出てきたのは、少し尖った指の手。そのままその手は空間を大きく、テントの出入り口のようにぐぱぁっと開けた。
それを見た私達は、ぱらぱらと落ちるそれを見て、もうすべてが異常なことになっていることに突っ込まず、それを見ることしかできなかった。
そこから出てきたのは――人。
黒くて長いマフラー。黒いロングコートと言う服装で、そして黒い前髪で片目を隠して、口元をマフラーで隠している、目つきが悪くて、針金のような細身の男だった。
男はエディレスを見て言う。
「エディレス――。お前は何をしてるんだ――?」
「おやおやクロズクメ」
男――クロズクメを見たエディレスは手を広げて喜びながらクロズクメに言った。
「見てくださいな。あの御嬢さんや亜種のエルフに蜥蜴の人間交じり。私は今すごく興奮しているんです どう思いますか?」
「どうもこうもない――。私は貴様に質問をしているんだ――。この人格破綻め――」
「つれないですが……、感想だけでも」
「? ??」
何を話しているんだろう……。
黒い目から察するに、この人もエディレスと言う人と同じネクロマンサーだ。
二人は顔見知りなんだろう……。その話を聞きながら、私を見たエディレス。私はそれを見て驚いていると、エディレスはにこっと微笑みながらクロズクメに言った。
「あの御嬢さん、私はあの御嬢さんが気に入ったんです」
「女――? どこに――?」
「ほら、あそこです。あ、そ、こ」
エディレスは私を指さした。それを見て、その指を辿りながら、クロズクメは私を見た。
「っ」
その眼は、私を一目見て敵と認識して、そしてじろりと私を見た。
私はそれを見て、肩を震わせながらその視線に耐えようとすると……。
「ハンナ」
ばさり。
「!」
突然視界が遮られた。
それをしてくれたのは――ヘルナイトさん。
ヘルナイトさんはマントで私を隠してくれたのだ。
私はマント越しで、ヘルナイトさんがいるところを見る。顔は見えない。でも近くにいるという安心感が、私を包んでくれる。その優しさを感じながら、私はネクロマンサーの話を聞く。
「エディレスよ……――。落ちぶれたものだ――。死霊族の恥晒しめ――」
と言った瞬間――
「っ!」
ヘルナイトさんは私を横抱きにして抱えて立ち上がる。
「っ!?」
すると、突然の浮遊感。
「うぉう!」
「わっ!」
キョウヤさんとアキにぃの驚く声。目を瞑っていた私にはわからなかったけど、私は意を決して目を開けると……。
「…………え?」
私達の周りから、地面から黒い大きなうねる手が這い出てきて、私達を取り囲んでいた。
それは一つじゃない。
それは……合計十四本。
三人は跳んで回避していたみたいだけど……、それでも予想をはるかに超えていたみたいだ。
ヘルナイトさんは冷静に片手に持っていた大剣を、横に向けて薙ぐ体制になる。それを見たキョウヤさんは尻尾を使ってアキにぃの腕に絡みつき、そのままぐぃんっとアキにぃを上に持ち上げる。
「うわっ!」
アキにぃを持ち上げて、そのまま尻尾を使って天井に向かって投げたキョウヤさん。
そのまま薙ぎに出たヘルナイトさんの大剣を見て、即座に――大剣の上に乗る。
そして、タンッともう一回跳躍すると同時に、グワッと襲い掛かってきた黒い手に向けて、ヘルナイトさんは大剣でそれを薙ぐ。
私はそれを、ただ見ることしかできなかったけど……、切り裂くそれはまるで、黒い羽根が飛び散っているようにしか見えなかった。すると。
たんっと、地面に着地したヘルナイトさんとキョウヤさん。
私を下そうとしないで、ヘルナイトさんは私を抱えたまま立ち上がって、大剣を突き付ける。突き付けた先にいたのは――二人の、ネクロマンサー。
エディレスは何もしていないのに、クロズクメだけは地面に手を付けている……?
ちがう……。
右手に、何か黒いものを持って……?
そう思っていると――
「こんのぉおおおおっっっ!」
「「!」」
「あ、アキッ!」
上からアキにぃの声が聞こえた。
アキにぃはライフル銃をネクロマンサーの二人に突き付けて、バァンバァンバァンバァンバァンバァンバァンバァン! と連射を繰り返しながら落ちていく。
しかし、ネクロマンサーの二人は動こうとしない。それを見ていると、ヘルナイトさんはアキにぃを見上げて……。
「撃つなっ!」と叫んだ。
「は?」
アキにぃは呆けた声を出して最後の一発を、『バァン』と放った。
その九発は、すべてネクロマンサーに向かって行くのだけど、それでも、ネクロマンサーは動かない。どころか……、笑っている……。
エディレスとクロズクメはそのまま動かないで……。
「マナ・エクリション――『大盾』」
エディレスがそう言った瞬間だった。
何もないところから大きな青い盾が出てきて、二人の前に、二人が隠れるような大きな盾が、ズズゥンッと地鳴りがするくらいの揺れを出しながら落ちてきたのだ。
それを見た私は驚きを隠せなかった。アキにぃも驚いて落ちていき、地面に足を付けたのだけど、ゆらっとバランスを崩してしまう。
九発の銃弾はその盾に当たりながら『カンカンッ』と言う金属音を出して弾いて行く。
でも……、最後の一発だけは、エディレスの頬を深く抉った。
「っ」
「なんだ……、あれ」
アキにぃは呆然とそれを見てて、キョウヤさんはそれを見て声を漏らす。その声は……、驚愕のそれ。
私もそれを見てて、ヘルナイトさんはそれを見て、たった一言。こう言った。
「……厄介な瘴輝石を持ったな……。死霊族」
「……え?」
ヘルナイトさんの音色を聞いて、私は思わずも上げてしまった。
そして後悔した。
その甲冑から覗く……、黒くてどろどろとしたもしゃもしゃを……。
ヴェルゴラさんとは違う。質が違うそれだった。
どっちが上と言われたら、ヘルナイトさんが上のようにも見える。それを見た私は、思わずヘルナイトさんの鎧に触れてしまう。
冷たさしか感じられない……。それを……。
「厄介なのはそっちでしょう?」
エディレスの声を聞いた私は、エディレス達がいるその方向を見た。
エディレスは深く抉られた頬をぐっと親指で塞ぐように、下から上に向けてぐっと押し上げる。
それを見ていたクロズクメは溜息とともに――。
「お前が油断しすぎなんだ――。死霊族は影に生きるものでもある――」
「それはあなたの見解でしょうが。私だって感情くらいあり、趣味くらいあり、性癖ぐらいあります。もっと欲を言うと魔力がほしいです」
「そんなことを自慢げに言うお前は死霊族の恥さらしだ――。そして人格破綻で欲深な奴だ――」
「…………………なんで」
「「?」」
私は思わず声を上げてしまった。思わず、声が出た。
そして、エディレスを見て、私は言った。
ありえない。
そんな言葉を頭でリピートしながら……、私は、言った。
どくどくと、不安で高鳴る心臓を押さえつけながら私は言った。
「なんで……、流れないんですか……?」
血。
その言葉通りだった。
キョウヤさんとアキにぃもその傷を見ると、アキにぃの銃弾が抉った傷を見た瞬間。は? と言う顔をして驚いて目を見開いた。
そう。
エディレスの頬から血は出なかった。
出血などしないで、斬れた皮を乱暴にくっつけているエディレス。はたから見ればそんなの常人じゃない。
異常な光景だ。
私は聞く……。
「あなた達は一体、なんなんですか……?」
そうか細い声を聞いたエディレスは、一瞬ぐっと、肩の位置を押さえるようにしていたけど、すぐにてを広げ、そして演説でもするかのように、彼は言った。
「何って――死霊族です。あなた方も聞いていたではありませんか」
「いや、そう言うことじゃねえんだけど……」
その会話に割り込んできたのは、キョウヤさんだ。
キョウヤさんは槍を構えながらも警戒を解かず、それでいて笑みを崩さないようにしながら彼は二人に聞いた。
「オレ達は確かに、この国の歴史を知った。その時に出た、『終焉の瘴気』の従者……ネクロマンサー。てっきりオレは死体を操るような、非倫理的と言うか、非道徳的な奴らかと思っていたんだけど……」
そう言うと、ネクロマンサーの二人は、きょとんっとして私達の話を聞いていた。そして……、もう一人きょとんっとして、キョウヤさんの話を聞いていた人がいた。
「キョウヤ……、死霊族のことを知らなかったのか……?」
「へ? 違うの?」
そう言ったのは、ヘルナイトさん。ヘルナイトさんの話を聞いたキョウヤさんは、驚きながらヘルナイトさんを目で見ると、アキにぃと私も驚いてヘルナイトさんを見た。
「いや、ネクロマンサーって死体を操る人なんだろう?」
「異国ではそう言う認識なのか……? そんなことありえないだろう」
「あ、あー。あれ……?」
アキにぃはヘルナイトさんに質問するけど、なんだか辻褄と言うか、そう言った認知が違う気がしてきた私……。
そもそもこの人達は黒い服装で黒い目。そしてネクロマンサーと聞いたから、てっきり死体を操るのかと思っていた。でも、違った。
クロズクメは私達を見ながら、溜息を吐き……。
「そんなことはない――。異国の情報と、我々の生態を一緒にするな――」
そう言うクロズクメ。エディレスも首を横に振って呆れながらこう言った。
「ええ。半分正解ですが、半分不正解ですね。はい」
「……どういうこと……?」
私が聞くと、ヘルナイトさんは言った。
「……奴らは『終焉の瘴気』から生まれた生命と言い難い生命。死んだ魂が瘴輝石に入った、魂だけの存在なんだ」
「た、魂……っ!? オカルトかよ……っ!」
「彼らは魂であるが故、肉体を探し、見つけた肉体を憑代として使っている。肉体の限界が来たら、その体を捨て、また新しい憑代を探す。それを繰り返す……生体でも、死体でも憑依することができる」
だから、ネクロマンサー。
死体を使うのではなく、魂である自身が憑依することによって体を意のままに使う。それが生体でも、死体でも操れるとなると……。それはネクロマンサーと同じなのかもじれない。
キョンシーのような感じなのだろうか……。
「そして厄介なのは」
と言った瞬間だった。
「言うよりも――。見せる方がいいだろう――」
教えてやる――。
そうクロズクメは言った。
地面にまた手を付けて、彼は右手に持った黒い石……。あれは、瘴輝石っ!?
クロズクメは私の驚きなど見向きもしないで、彼はぐっと地面に手を付けた状態で、握った。
「マナ・エクリション――『影ノ槍』」
そう唱えた瞬間……。
ヘルナイトさんははっとして下を向いた。
私も下を向くと……、目を疑った。
私達の足場から、違う……。私達の下に映っている薄暗い影から、ぬっと出てきた刃がついた槍。それはキョウヤさんの足場にも、アキにぃの足場にも、何本も出てきた。
それを見たキョウヤさんは尻尾をしならせながら――地面に向けて弾く。
アキにぃはだんっと後ろに跳躍し、ヘルナイトさんも後ろに跳躍し、その場から槍の攻撃を回避する。
キョウヤさんだけは、前に急加速で、低くしながら直行する。
「キョウヤッ!」
「キョウヤさんっ!」
アキにぃと私は叫ぶ。
キョウヤさんはタンッと足を踏んで、一気に加速してから、クロズクメとエディレスの懐に入り込む。それを見た二人は下を向いていた。でも、キョウヤさんはそれでも攻撃を続ける。
だんっと右足の踵を軸にした、時計回りの槍の薙ぎを繰り出す。姿勢を低くしていたので、地面を深く抉ったけど、それでも切れ味は落ちない。
キョウヤさんは最初に、エディレスを切り裂こうとした時……。
「マナ・ポケット――『レォット』」
エディレスは、手に溢れるくらいの収納することができる瘴輝石を、片手に出した。数からして大小合わせて十五くらいだろう。それが突然光だし、その瘴輝石の中から『ずるぅっ』と錆びた剣が出てきた。
それを見たキョウヤさんは、即座に尻尾を使って後ろに飛び退く。
ずっと飛び退いて、窮地を出したキョウヤさん。
「キョウヤさん」
「なんだあれ……」
私とアキにぃは、キョウヤさんに近付いて安否を聞く。私は担がれたままだけど……。
キョウヤさんはそれを聞いて、私達を見ないで、余裕などない真剣な顔で私達に言った。
「ボーンアンデッドが……」
私はキョウヤさんの言葉を聞いてエディレス達を見ると、私はそれを見て口を押えた。恐怖で口を押えてしまったのだ。
アキにぃはライフル銃を構える。
ヘルナイトさんは「厄介だな」と言って、それを見た。
その光景はまるで戦争に向かう一国の陣営。
王であるエディレス達を守るために、盾となってボーンアンデッド達が私達の前に立ち塞がる。
その数は……、さっきの倍以上ある。
それを見た私は自分のスキルを使ってどうにかしようとヘルナイトさんを見上げて「あの……降ろしてください」と言ったのだけど、ヘルナイトさんは私を抱えて放さないようにしてこう言った。
「……駄目だ」
「?」
なんだろう……。ヘルナイトさん。余裕がない……。
そう思っていると、すぐに攻撃が来た。
「マナ・エクリション――『影ノ腕』」
「マナ・エンチャント――『武技強化』」
クロズクメが言って、エディレスが言うと、さっきの黒い手が私達の影から出てきてうねうね唸って出てきた。そしてボーンアンデッドに黄色い光が彼等を包む。
それを見てキョウヤさんとアキにぃは武器を構えて、私はヘルナイトさんを見上げる。
ヘルナイトさんの僅かに見えた青いもしゃもしゃを感じて……。
そんな私達のことなど無視してネクロマンサーの二人は言った。
「我々は――。魔力なくとも、持っているその力で倒す術を持っている――。聖霊族にあって、聖霊族に非ず――。我々は死霊族――。すべては、あのお方のために……――」
「そう言えば、クロズクメ。あなたの自己紹介がまだでしたよね?」
「……言わなければいけないのか――?」
「ええ、ええ。そうです。私ももう一度挨拶をしておきましょう」
「……そうか――」
「それでは……。死霊族――『骨を愛して使う』エディレスです。再度、以後よろしくお見知りおきを」
「死霊族――『影を使う』――。クロズクメ――」
そうネクロマンサーは名乗った。
今絶賛、窮地に陥っている私達に向けて――