PLAY117 私の騎士は②
「シェーラちゃんっ! オウヒさんっ!」
私の叫びも虚しく、シェーラちゃんとオウヒさんはその場に突っ伏するように倒れてしまう。受け身も何もしないまま突っ伏しるその光景はまさに意識がない状態そのもの。
その状態で二人は地面に突っ伏して、『ごつんっ!』という鈍い音を出してどさりという音を出し長レア倒れてしまった。
傍らで二人のことを見下ろしている黒い忍び装束を来ている六芒星の仮面をつけた集団――もうこの際説明なんていらないと思う。そう……、二人が倒れていく光景を見ていたのはアルテットミアやアクアロイア、亜人の郷の近くで姿を現した『六芒星』が二人のことを見下ろしていた。
二人のことを気絶させて、気絶して倒れていくその光景を見物するように、確かめるように見降ろしながら……。
「っ! 離して……! 離してくださいっ! 離し――痛っ!」
私はあらんかぎり叫びながら私の手を掴んでいる黒い狐の人の手を引きはがそうとする。でも黒い狐の人は私の手から離さないどころか逆に強く手首を握ってくる。
ぎりっ。という何かが握られる音が私の耳に入ると同時に骨が悲鳴を上げているような痛みを感じた私は離そうと必死になってもがいていたその行動を止めて痛みに顔を歪める。
心なしか腕から何かが罅割れるような音が聞こえたような気がする。
先入観のようにも感じるけど、きっとこれは先入観とかそんなものではない。
きっと現実だ。
現実と思ってしまうくらいこの人は、私の手首を掴んでいる人は本気で私のことを話さんばかりに握っているんだ。
そう思い、確証に似たものを得た私は痛みで歪めていたその顔を――瞑っているような顔をしていた目を少しだけ開けて黒い狐の人に視線を移す。
腕の痛みで視界が少し揺らいでいるけれど、それでもしっかりと黒い狐の人を視界にとらえて、一体何がどうなっているのか――状況の確認を試みようとした。
シェーラちゃんとオウヒさんを気絶させた『六芒星』のことや、アキにぃ達やヘルナイトさん達がどうしているのだろうか。
色んなことが気になってしまい、この状況を呑み込めていないこともあるため、私は黒い狐の人を揺らいでいる視界で捉えて見る。
見て――見た瞬間とある会話が鼓膜を揺らした。
「おいおい。何なんだい君達は――私と彼女との逢瀬を邪魔する気かのかい?」
「?」
黒い狐の人は言う。
私に向けてではなく、目の前にいる『六芒星』に向けて黒い狐の人は苛立っているような嫌悪感丸出しの顔で言ったのだ。
その言葉から察すると、どうやら『六芒星』とは面識がないみたいだった。というかこれが初めての出会いで素敵な雰囲気を出しているところから見るに、多分『六芒星』の登場は想定していなかったのかもしれない。
まぁ私達も想定できなかったけど。
そんな黒い狐の人と『六芒星』のことを見ながら、私は私にしかできないことを何とかしようと目を凝らして――『六芒星』と黒い狐の人のことを凝視する。
「なんだあいつ……?」
「この街の住人じゃないな。亜人はボロボに住んでいない。しかも狐の亜人となるとこんなところに住めるわけがない」
「と言う事は冒険者か……?」
「冒険者……にしては身なりが変じゃないか?」
「そんなのどうでもいいだろうが。というかなぜこんなところに複数の冒険者がいるんだ――しかもこいつと一緒に……」
「そんなこと今は関係ない。俺達は任務を遂行するだけだ。余計なことを考えるな」
「そ、そうだな……。ただ予定外なことが起きただけだ。それを排除すればいいだけの話だからな」
まず最初に見たのは『六芒星』の人達。
『六芒星』の人達は小さな声で何かこそこそと話をしていたけれど私には聞こえなかった。聞こえなかったけれどもしゃもしゃを見ると感情は筒抜け状態で、もやもやしていろんな感情が混ざっているかのように色んな色が混ざっている状態のもしゃもしゃが私の目に写り込んでいく。
混乱や困惑、疑問や否定で正当化しようとしていたり、最後は目の前のことに集中しようと切り替えたりしている人など色んな人がいろんな感情を持って行動しようして、模索しながら何かをしようとしている。
でも、例外がいるのも事実だ。
その例外は今――私の近く……、私の手を強く、強く掴んで放そうとしない黒い狐の人だ。
『六芒星』のことを見たまま警戒心剥き出しなのに、私の手を離そうとはしない。
どころか掴む力をどんどん強くしていく。
ぎりぎりと肉を通り過ぎ、骨までも追ってしまいそうなほど黒い狐の人は私の掴んでいる。
掴んでいる痛みにも驚きだけど、それ以上に私はこの人のもしゃもしゃを見て思った。
この人は――初めて見る歪んだもしゃもしゃだ。
この人から出ているもしゃもしゃから見ても分かる真っ赤なもしゃもしゃ……怒りのもしゃもしゃが目に見えているから怒っていることは目に見えて分かる通りだ。
でも、この人のもしゃもしゃはそれ以外の物を纏っていることも気付いた私は思わず『うっ』と声を零してしまい、口元に手を添えながら最悪『うえっ』と言いそうになった。
というか口元に手を添えてしまったからもうアウトかもしれない。
そのくらい私はこの黒い狐の人のもしゃもしゃを見て、感じてしまった。見てはいけないものを見てしまったかのような恐怖と見たことがないそれに恐怖してしまい、最悪初めてと言えるようなそれに拒絶してしまった。
拒絶した理由……、それは。
「おいお前達」
「!」
『?』
突然声が聞こえた。
その声の主は黒い狐の人の声で、最初に聞いた時のなんだか甘ったる過ぎて気持ち悪く感じてしまう様な声とは違い、今は毒々しいそれを放っているかのような声色だ。
何に対してもその毒を飲ませてやるぞ。と言わんばなりの脅しに感じてしまう音色。
その音色のまま黒い狐の人は声に気付いて視線を向けた『六芒星』の人達に向けて続けて言った。
「突然現れてそいつらを殴ったことに関しては感謝するよ。正直魚交じりの女は前々から恨みがあったからね。その件に関しては感謝するよ」
「なんだ? 突然……」
「どことなく上から目線だな……」
黒い狐の男の言葉を聞いていた『六芒星』はなんだか困惑しているけれど多少の苛立ちと言うか……、なんとなく感じた上から目線の発言に対してむかついているようなそれが見える。もしゃもしゃがそれを伝えているのでそれはしっかりと伝わったけど、もしゃもしゃを見ることができない黒い狐の人は………………………、あ。違う。なんだか自分の目線で話している黒い狐の人は『六芒星』に向けて掴んでいない手を指さしながら続けて言う。
なんだか呆れている。そんな感情が見え見えの言動で……。
「でも君達――今は僕と彼女の感動の邂逅がメインなんだ。君達が出て来る幕じゃないんだぞ? 分かるか? まだその時じゃないんだ。これから彼女と一緒に話をして僕が彼女を守る騎士として共に行動していく約束を果たそうとしているんだ。一大イベントなんだぞ? それを邪魔するとはなんとも空気が読めないNPC……、ノンプレイヤーキャラクターだ……。少しはAIの知能を上げて置け。それにそこで気絶している二人も僕の手にかかればイチコロで殺せたんだ。言っている意味が分かるか? 余計なことをしないでくれって言いたいんだよ。せっかくのムードが台無しだ」
さっきから、何を言っているんだろう……。
私は黒い狐の人の言葉を聞きながら、少しだけ気味が悪いと感じながら思った。
この人が言っていること全部が、なんだか自分を中心としている話にしか聞こえない。どころか私はあなたと初めて会ったのに、邂逅って何の話なの?
私とあなたは今初めて出会ったばかりなのに……、どういうことなの……?
というか今、この人シェーラちゃん達のことを殺すって、さらりと言わなかった……?
「っ」
私は背筋を這う寒気に襲われながら下唇を噛みしめ、その状態で私は薄汚れてしまっている黒い狐の人のことを見上げる。見上げて、その人の顔を見ると――本当に薄汚れていると思ってしまう。でもそれ以前に、その人の目に宿っている光を見て私は思った。
この人は、本気で言っている。
淀んでもいない。
光と言うそれは微かに見えていて、正直に話しているんだということが分かってしまう顔と視線で『六芒星』の人たちと話している。
怖いなんてものもない。堂々としているその姿に恐怖なんて感じられない。
真っ直ぐすぎるこの人の言葉に………、偽りなんてない。
偽りがない――と言う事は、正直に、思っていることを口にしていると言う事。
思っていることを口にして話しているということは、そう言う事……。
黒い狐の人が言う『私との邂逅』も、『僕が彼女を守る騎士として共に行動していく約束』も、『シェーラちゃん達のこと』も……、全部全部本当のことで話している。
有言実行――やろうとしていることを正直に話したのだ。
歪んでいるその思考を正常の思考として、思って居ることを話してそれを実行しようとしているこの人の話を聞きながら、演説しているその光景に私は身震いしてしまった。
ブルリと……、全身の血液から温度と言う名の温かさが無くなってしまったかのような寒さを感じ、その人が言った言葉の純粋な狂気を垣間見た気がした。
気がした……というのは、まだ確証と言うものがなかったからそう言っただけで、私自身この人が一体何を考えているのかわからないのも事実。
でもわかることはある。
正直この人の純粋な狂気は私に向けられている感情。
つまり……私が何とかすればいい話なのだ。
何とかすると言っても、ただ私が黒い狐の人と話をして何とかシェーラちゃん達に対して危害を加えないようにしないといけない。そして『六芒星』を何とかしないといけないから……、まず最初にやることはシェーラちゃん達の安全確保だ。
そう思った私は思い立ったらすぐ行動と言わんばかりに黒い狐の人のことを見上げて声を発しようとした。
勿論言う事は『あの……』という常套文句みたいな言葉から始めようとした。のだけど……、その言葉を遮る様にとある人物が声を上げた。
その人物は――黒い狐の人…………ではなく。
「おいお前――何が目的なんだ?」
一人の『六芒星』の人で、アキにぃ位の身長の人が黒い狐の人に向けて話しかけてきたのだ。集団の中から前に出るように躍り出て、そのまま周りの『六芒星』達が見ているところでその人は黒い狐の人に向けて更なる質問を投げかけた。
「聞いていれば『いちだいいべんと』とか『のんぷれなんとか』とかわけのわからんことばかり言って、お前は何が言いたいんだ? まさか俺達のことを知らないでそんなことを言っているのか?」
「はぁ? わかっているさ。お前達はNPCだ。僕達プレイヤーのために用意された存在で、盛り上げるために用意された存在なんだろう? そのくらいわかっている」
「言っている意味がまるで理解できない……。この亜人頭おかしいんじゃねーか?」
「…………………………」
一人の『六芒星』が黒い狐の人に向けて言ったけど、その言葉を理解しているようだけど理解していないような返答で返してきた黒い狐の人。呆れて肩を竦めているけれど、それは『六芒星』の人がしたいことで、『六芒星』の人達は黒い狐の人の話を聞きながら頭を抱えたり、腕を組みながら近くにいる仲間の顔を見ながらため息を吐いたりなど、いろいろな行動をしながら黒い狐の人の言動に呆れかえっていた。
私はその光景を見て、聞いて初めて悪の人たちの心境と一致したと思った。いうなれば同じことを考えていたんだと思いながら、なんだか申し訳なく思ってしまう。
この状況の中で一番の部外者はきっと黒い狐の人。
でも黒い狐の人からすれば『六芒星』の人たちが部外者で邪魔者の立ち位置。
両方が互いのことを部外者として、邪魔者として見ているから対立している。対立して、どっちが正しいのかを議論しているかのような光景だ。
でも実際、どっちも部外者に感じるのは、私だけかな……?
そんなことを思いながら正統な答えはこれではないのかと思った時、黒い狐の人は大勢いる『六芒星』に向けて呆れるような溜息を大袈裟に、大きく零した後――頭を左右に振ってこんなことを言い出した。
「おかしいのはお前達じゃないのか? 突然出てきて僕がしようとしていたことを横取りしてきて……、おかげで鬱憤を晴らすことができないじゃないか。そこで気絶している女を壊すのは僕の役目だったというのに……。全く空気読めないのかいお前達は」
「なんだ」
「待てっ」
黒い狐の人の言葉を聞いて苛立ちを浮かべたアキにぃと同じ背丈の『六芒星』の人は、握り拳に力を入れながら歩みを進めて黒い狐の人を殴ろうとしている。歩みと握り拳だけでわかってしまう光景を見て周りにい他仲間達が止めに入ろうとした時、殴ろうとしていた『六芒星』の人の肩を掴んで止めた少し大柄の『六芒星』
野太い声から察するに少し老人なのか、大柄な印象がより強く強調されたその人は殴ろうとしていた人のことを掴んで止め、『なんだよっ』と怒りの講義を上げた人のことを横目で見ながら大柄の人はすっと掴んでいない手で指を指すそれに変えて指さした。
私にその指を向けて――
「?」
突然指さされた私は驚きながら首を傾げてしまい、頭の中で私? という一つの単語が大きく出てしまう。それほど驚いていたし、突然呼ばれたことも相まって一瞬混乱してしまった。
だから私は気付けなかった。
気付くことができなかった。
私に指が向けられた瞬間、黒い狐の人のもしゃもしゃが一気に、且つ静かに変わったことに……。
「あの女……、まさかと思うが例の女じゃないか?」
「? ??」
大柄の『六芒星』の人が私のことを指さし、周りにいる仲間達に私のことを『例の女』という言葉で伝える。その言葉を聞いた私自身は一体何に対して『例の女』なのだろうかと一瞬驚きのあまりに理解できていなかった。
正直突然私に注目の的が集まったこともあって混乱が私の頭の中を支配してしまい、正常且つ早い思考ができなかった。だから理解できていなかった。
理解できていなかったから……、この後起きることを予測することができなかった。
この後起きることに対して予想できなかった……。
大柄の『六芒星』の人の言葉を聞いた仲間達は私のことをよく見よと凝視をしつつ、首を傾げるような仕草をしながらそれぞれが言葉を零していく。
「本当だ……。例の女だ」
「ザッド様が仰っていたあの女だな」
「ああ、我々の革命の邪魔になり、最悪『六芒星』を崩壊させるかもしれない存在の女」
「浄化の力を持った女か……!」
「浄化って……、まさか『終焉の瘴気』に侵された『八神』の浄化のために旅をしているって言う……あの浄化の女かっ!?」
「それしかないだろう? それにその浄化も半分まで完了しているそうだ」
「半分と言う事は……、まさか」
「ああ、このボロボには『風』のシルフィードがいる。その浄化のためにここにいると言う事は、真偽は本当だったということか」
「ザッド様が言っていたんだ。嘘なんてありえないだろうが」
「だよな。あのお方は『六芒星』随一の実力者でもあり幹部最高位のお方だ。どんな幹部であろうともあのお方に勝つことは出来ないから、実力も人格も兼ね備えているあの人が事実『六芒星』を動かしている。嘘なんてつくわけないだろう? 今はイカれたあの二人の命令でここにきているけど」
「それもそうだよな……」
なんか色々話をしているけれど、そのほとんどが私に関することであり、会話の中に出てきた言葉を聞いた私は会話なんて聞き流しながらとあることを思い出していた。
こんな時に聞き流すだなんて何をしているんだ。と言われてもおかしくないけど、それでも私は『六芒星』の人達のとある言葉を聞いて思い出していたのだ。
たった五文字。漢字にしたらきっと四文字になる『ザッド様』という言葉を聞いて――
確か……、ザッドって、アルテットミアでオグトとオーヴェンって人を助けるために……で、いいんだよね? わからないけどそう言う事にしておいて――二人を助けるためにガザドラさんと他の二人と一緒に現れた豚の魔女――
本人は確か『『六芒星』が一角にして懐刀――豚人族『豚冷帝』天気の魔女とも言われています。ザッドランフェルグル』って言っていた気がする……。
その人の名前を上げて、且つ信頼されているような言葉を聞き、部下達の体から零れ出る信頼溢れるもしゃもしゃを感じながら更にこんなことを思い出した。
それは前にガザドラさんが言っていた『六芒星』のことについて。
ガザドラさんは言っていた。
『六芒星』にそのようなカースト制度のようなものはない。ただ一人の首領に六人の幹部。その幹部に従う部下達数百名と言う構造でできているだけの集団だ。身分など関係ない。ただ皆――生きたい。この国の仕組みがおかしいと唱える者達が、国に仇名して変えようとしている集団。と、世間からしてみればただの変な集団だろうな。
吾輩が『六芒星』にいた時は、部下達と一緒にこの国の考え方を変えてもらおうと奮起していたものだ。
って、なんだか懐かしそうに思い出しながら言っていたけれど、その後聞いた『六芒星』のリーダーのことに関していくと、ガザドラさんははっきりとした言葉で――
「――わからん」と言ったのもすごく思い出深い。
でもそのあと言った言葉を思い出すと、今『六芒星』の人達が話している内容を聞いてなんとなくしっくり来たと同時に、あああれは事実だったんだと、信じていなかったわけじゃないけれど敵の話を聞いて前の話が嘘ではないことを知ったと言った方がいいのかもしれない。
あの時ガザドラさんは『わからん』と言った後、私達に説明してくれた。
リーダーが一体誰なのかに関してなんでわからないのか、そのことについて聞いた時ガザドラさんはこう言った。
『六芒星』の頭が決めたことで間違いなはいだろう……。しかし、されどしかしだな……。吾輩はおろか……、頭の顔を見たものはザッドしかおらんのだ。
その言葉を思い出し、そして部下の人たちの言葉を聞いて私は思った。
ガザドラさんの話を聞いていたら頭と言う人はガザドラさん達の前に姿を現さないけど、ザッドと言う人の前では姿を現している。
なら事実命令を下しているのは頭の話を聞いているザッドと言う人で、その人が現状『六芒星』を動かしているということになる。
実際組織を動かしている人の話――頭という人と同等の立場にいる人の話しならば信じると思うし信頼だって大きい。
でも、その信頼も実は……。
ううん。今はこんなことを考えている場合じゃない。
今は緊急事態なんだ。こんなことは時間がある時に考えよう。
そう思いながら気持ちを切り替えるように頭の中をすっきりさせていると、『六芒星』の人達の中からとある声が聞こえてきた。
その声は小さく、最初は独り言かなと思ってしまう様な声だったけど聞き取ることができた。
聞き取れた内容はこうだった。
「なら、ここであの女を何とかすれば……」
何とかすれば。
その六文字の言葉を聞いた時、無意識ではない直感が私に信号を与えた。
寒気と言う悪寒……、危険だと知らせるその電気信号を。
一見すると曖昧な言葉を聞いていた私でも一瞬まさかと思ってしまい、一瞬で脳内に最悪のケースと言う名の想像 (もとい妄想)が広がりそうになったその言葉。
低い音色もそうだし、何度も危険な目に遭った私だからこそなのかもしれない。
正直ここに来るまでの間危険な目に遭ったせいか過敏、過剰に反応しているように見えるかもしれないけど――本当に最悪のケースが頭の中を駆け巡り、思わず固唾を飲んでしまいそうになった。
飲んで、心の中で『まずい』と言う言葉が私を支配しようとしていた。
その時……。
ドォンッッッ!
という音が私の鼓膜を大きく揺らし、辺りに断末魔に近いような叫び声が響き渡った。




