PLAY116 始まる悪夢⑥
「は? どの場面で斬ったんだよ……? ただの人間のくせに」
いつもの声じゃない。かすれかすれで、今にも死んでしまいそうな小さな声だ。
そうラランフィーナは自分の声を聞いて思った。その言葉を思いながら彼女は続けて思った。
――あぁ、これが痛みで、斬られるとこんなに痛いんだ。
――痛い思いはラージェンラ様やあの豚野郎とか、幹部の人達の攻撃を受けて、それ以前から痛い思いはしてきた。でもここ何年かはなかった。
――だから忘れていた。
ラランフィーナは思う。思い出していく。
この痛みと共に思い出されていく色んな記憶――自分が『六芒星』に入った時のことを思い出しながら。
己の体から感じる痛みを感じ、その痛覚の中心点が二つあること。そしてその二つが足に集中していることを脳内で理解しながら彼女は地面に向かって倒れていく。
よく聞く地面にキスをしてしまいそうな勢いと接近にラランフィーナは焦り――などしなかった。
どころか流れに従っているのか、ラランフィーナはどんどん地面に向かって倒れていき、地面に顔がぶつかろうとした瞬間素早く手を動かして顔面の衝突を免れる。
ばしんっ! と言う地面に手を付ける音と共に己の体重が一気に手と肘に集まると同時に最悪腕がちぎれてしまいそうな痛みを感じると、その痛みに畳み掛けるように足の激痛が再発する。
ジクリとくる激痛と共に鼓膜を揺らす吹き出す音。
吹き出した後で聞こえてきた滴り落ちる音を聞いて、ラランフィーナは自分の足が斬られたこと。
しかもその斬り方が何とも厭らしい事で、足の腱が斬られたことにラランフィーナは気付き、首を動かし、足を見て更に確信する。
斬られたといっても繋がっている。
繋がっているが足首の所からドロドロと赤いそれが流れ出ている。自分の体から出ているそれを見ながら――あぁ、久し振りの血だなぁ……。と、頭の片隅で思っていると、自分の足の背後でそある人物の背中が彼女の視界に映る。
映った瞬間――彼女の目に光が灯る。
「う、ぐぅ……!」
何も無気力でもなければ喪失している目ではなかった。むしろ納得したような目の色をしていたの方が正しい。
あくまでラランフィーナは『六芒星』幹部の側近に位置する存在で、潜ってきた修羅場も幹部程ではないが超えている。数で表すことは出来ないが、死にそうになった数は何回かあることだけは言っておこう。
潜ってきた修羅場が多いからなのかラランフィーナはそれほど焦っていない。焦るほどの致命傷ではないことを理解しているから、この状況に陥っても何とかなることを理解しているからラランフィーナは焦らなかった。
背後を見なければ、彼女は冷静に対処していただろう。
しかしその対処も背後を見た瞬間、自分の背後にいる存在――刀を収めた状態で自分のことを見下ろしている存在、自分のことを振り向き様に見つけている虎次郎のことを見た瞬間……、彼女は思い出す。
虎次郎のことを見て……、自分のことを憐れむような目で見ている虎次郎のことを見た瞬間――彼女は重ねていく。
自分のことを憐れむような目で見た後、彼女から離れて行く女性の姿を……。
離れて行く時その女性が言い放った言葉がラランフィーナの頭の中で突如再生される。レコードが突然動き出したかのように、声が彼女の脳内で再生されていく。
美しく、それでいて醜悪が入り混じっているような音色で、吐き捨てる言葉で女性は言う。
生まれたばかりと言わんばかりの、小さな手を精いっぱい伸ばして掴もうとしているラランフィーナに向けて、女性は履き捨てたのだ。
気色悪い――魚でも人でもない半端者。
こんなの――
ニ ン ゲ ン ジ ャ ナ イ。
バ ケ モ ノ ダ。
「あ、あ、あああああ、ああああああああああああああああああああああてええええええええええええええええめぇえええええええええええええええっっっっ!」
「「「――っ!?」」」
今までの静寂を突き破る様な甲高く、荒れが浮き彫りになった叫び声を聞いたアキとキョウヤは驚きの顔をして声を上げた張本人を見て、背後でその声を聞いていた虎次郎も驚きの眼を背後に向け、振り向きながら刀を持つ手に力を入れてラランフィーナのことを見た。
見て、見開いて後悔してしまった。
虎次郎は一瞬見てしまったことを後悔すると同時に、ラランフィーナの過去を垣間見た瞬間彼は思った。
これが――『六芒星』が抱える闇か。と……。
ハンナの感情を察知する力がなくともわかってしまうほどラランフィーナは怨恨そのものの怒りを虎次郎達に向け、手だけで置き上がろうとし、使えなくなってしまった足をばたつかせながら彼女は虎次郎たちに向けて荒げた声で叫ぶ。
叫びながら言葉を紡いて行く。
「そんな目で私を見るなぁっ! 私はちゃんと生きているんだぁ! 私はお前達のために生まれたんじゃなぃっ! 私は生まれただけなんだ! 生きているだけなのにこんな仕打ち間違っている! おかしい! あんたは生みたくなかったかもしれない! でも私だってこんな姿で生まれたくなかった! あんたが生んだせいでこうなったんだろうがっ! 私は生きたかっただけだ! 生きたいだけなのに、綺麗なお洋服を着ておしゃれを楽しみたいだけなのに! お化粧をして女の子らしくなりたいだけなのに! 女の子として生きたいだけなのにこんなのあんまりだぁっ! 別の血が混じっているだけでこんな仕打ち間違っているぅぅぅうううっっっ!」
ラランフィーナは叫び続ける。
彼女の言葉を聞きながら……、いいや彼女の罵声の声量を聞きながら三人は困惑と驚き、そして彼女から発せられる異常な殺意を感じ、体中から這い上がって来る寒気が彼等の思考を乱していく。
この寒気が一体何なのかは一瞬理解できなかったアキ達であったが、ラランフィーナの言葉を聞いて行くうちに本能が感じたことを理解していく。
この寒気は、本能が感じた生存への固執だと。
この寒気は相手の殺気を感じたことで生じた――死の恐怖。殺されるかもしれないという恐怖。いいや簡潔に言おう。
この寒気の正体は――恐怖。
恐怖が彼等の思考を乱したことで彼等は畳み掛けることを止めてしまい、拘束もできず聞く体制になってしまったというのが現状だ。
普通ならばこんな失態しないだろう。こんなに叫んでいるならば『うるせぇ!』とか言って制止をかけるかもしれない。最悪拳骨一発か再度攻撃を繰り出すことが普通だ。
これはあり得ない。
そう思う人がいるかもしれない。
しかしそれができなかった。できなかったのではなく……、しようとしたがそれを阻害するように彼女が突然怒りだし、それが今もなお続いている状態になってしまった。
「な、突然暴れ出した……っ!」
「なんで突然なんだよ……? なんかスイッチでもあんのかっ!?」
「分かんないってそんなのっ! てかキーキーうるせぇっ!」
「お前もな」
騒ぎ立て、足をばたつかせながら辺りに真っ赤なそれを付着させていく彼女の行動に驚きつつもアキとキョウヤは手で目を守りながらその光景を腕越しで見つめる。
見つめながら突然の事態に驚き、そしてどうなっているだという気持ちを口にしながらお互い話すが、騒いでいるラランフィーナの声でところどころかき消されてしまいよく聞き取れないのか、アキは耳を塞いで苛立ちを小爆発させる。
そんな小爆発を鎮火したキョウヤは呆れた顔をしてアキのことを見た。
お前も同類だ。そんなことを頭の片隅で思いながら……。
正直なところ――三人は追撃をしたい気持ちでいっぱいだった。追撃してハンナ達のところに向かおうとしていた。更に正直なことを言うと彼女の足の腱を斬ったところで終わりだったのだ。
これさえ終われば後は目的を聞いて拘束してはい終了。
と言う工程で終わりはずだった。
しかしそれができないアクシデントがラランフィーナの暴れと叫び。
予想外の言葉の数々に三人は狼狽し、手を出そうにも出せない。聞こうにも聞けないという状況に持ち込まれたことで三人は手を出すこともできずにいた。
予想外のことが起きると、人は即座に行動できない生き物と言う事がよくわかる様な光景が見えるが、その光景を見ていたのは三人だけではない。
建物越しからラランフィーナの叫びを聞き、その光景を物陰から見つめる者がいるのだが、その物陰にいる人物に気付くことなく三人はラランフィーナのことを見る。
最初に出会った時は頭のネジが取れてしまった人格破綻者。
戦いの時に見せた人間性は常軌を逸し、アキ達からしてみれば亜人の血を引き継ぎ、その特性を生かした戦法を使うが、敵ではあるが一応努力をしている一面を持っている。
そして今見た顔を統合して、アキは確信した。
この女――ラランフィーナは常軌を逸し過ぎていると。
「っ」
常軌を逸している。それだけならばよかったかもしれない。
そんな存在はこの世界に来てから何度も見たことがあるが、彼女はその中でも群を抜いて異常だった。
過剰と言っても過言ではないラランフィーナの怒りを見て、異常過ぎる怒りを垣間見たアキとキョウヤは顔面が蒼白になってしまうほど、冷や汗が全身に吹き上がってしまうくらい絶句してしまった。
そして、虎次郎もその光景を見て言葉を失ってしまった。
あんなことをしておきながら、虎次郎は腱を斬るだけ留めない方がよかったのではないか? と思ってしまうほど、虎次郎は脳内で後悔していた。
虎次郎が斬ったのは足の腱。
足の腱――つまりアキレス腱を斬ったのだが、これを斬ったからと言って歩けなくなるということはない。むしろ歩けなくするならば足を斬ればいい話なのだが、これをするほど虎次郎は鬼ではない。
何の躊躇いもなく斬るということは、敵に対して情けなどなく、どころか情状酌量の余地など与えない冷酷な存在と言うことになるが、そこまで虎次郎も鬼ではないし人の心があるからこそ彼はアキレス腱だけを斬ったのだ。
虎次郎自身『六芒星』を見たのはこれが初めてではない。どころかこれが二回目と言っても過言ではないが、虎次郎も人。人で弱者を甚振る趣味がない。今日Y差であれば全力で相対する意思を持っているが女性に対して嬲ることはしたくないので今回のアキレス腱を斬るだけに留めた。
情けとして、虎次郎なりの優しさとして足の腱だけを斬ったのだが、当の本人はこの行動に対して現在進行形で後悔していた。
後悔しまくりと言うわけではないが、彼自身思ってしまったのだ。
――儂は、選択を間違えたのか?
――女であることを考慮し、しぇーら達と同じまだ年端もいかない子供であることを視野に入れ、事情を聴くことを踏まえて腱だけにした。
――これは儂なりの情け。儂なりの手加減の意思表示。
――女子供を甚振るなど言語道断。外道のすることなど儂は死んでもしたくない。
――そんなことをしてしまえばあの女と同じになってしまう。
――しぇーらの帰る場所を壊したねるせす・しゅろーさと同じになってしまう。それだけはしたくなかった。
――きっとこの子にも善と言う感情があるに違いない。悪だけの人格ではなく、善の人格もかすかに残っていると思っていた。
――だが、それは儂の見間違いだったのかもしれない。
――先見の明が劣ってしまったのかもしれん。
――この女は危い。危すぎるほど精神的に脆い。
――過去に何があったのかわからんが、この女は……。
野放しにしてはいけん。
そう虎次郎は思い、振り向き様の状態で再度刀の柄を握る力を籠めると走り出そうとぐっと足にも力を籠める。
ラランフィーナの足の腱を斬った時と同様に、居合抜きを繰り出そうと虎次郎は構えた。したが本当に殺すなどしない。虎次郎は峰内の居合抜きをしようと企てていた。
殺生をするということは、それこそネルセス・シュローサと同じになってしまう。今まで出会ってきた外道と同じになってしまう。
そうならないために虎次郎は峰内をして彼女を気絶させようと思ったのだ。
「ふぅ…………」
今まで張り詰めていた気持ちに落ち着きを与えるように、虎次郎はゆっくりと呼吸を整える。肩にも力が入っていたのか呼吸をした後ふっと肩の重みが無くなったような気がした虎次郎は、この短時間で緊張をしていたのかと己の体の正直さに内心驚く。
――アキレス腱を斬った時はこんな緊張などなかった。いつも通りの気持ちでいたのだが、あの娘の豹変を見て強張っていたのだろうか……。
――やれやれ、儂も歳を食ってしまったせいか衰えてしまったのかもしれん。はたまたは精神的に幼稚なところがあったのかもしれん。
――修行が足らんと言う事かな……?
自分の体の変化に驚いていた虎次郎だったが、その変化に対して己の修行不足、衰えてしまったことへの驚きと僅かな悲しみを感じながら心の中で悲しげの溜息を零す。
しかしその悲しげもすぐに消し、虎次郎は再度叫んで暴れているラランフィーナに向けて睨みを利かせる。
ぎっ! と見据えるようにラランフィーナのことを睨み、彼女が力づくで起き上がる瞬間を見逃さんばかりに目を光らせる。細めた目から射殺さんばかりの威圧が迸る。そのくらい虎次郎は本気で彼女のことを気絶させようとしているのだ。
――狙うは、首……。いいやそれをして最悪折ってしまっては元も子もない。腹部を狙って衝撃を与え、隙を作った後できょうやに任せるほかないな。
――まさかこのような事態になるとは思っても見なかった。いいや想定しなければいけないことだったのかもしれんが、それを今になって悶々と考えるなど儂らしくない。
――今は目の前のことに集中せんといけん。
――ここでこのままにしておいては危険だ。この娘もそうだが、『六芒星』も放ってはおけん存在。瘴気よりも厄介になる。そうなる前になんとかせねばならんっ。
心の中で己の答えを完結させる虎次郎。
確かに彼の言う通り『終焉の瘴気』は『残り香』相手としか戦っておらず、どころかその存在すら知らされていない。
姿形を見ていない人からすれば『終焉の瘴気』は目に見えない脅威そのもの。
しかし『六芒星』は生きている人同士が共通の意思を持って集まり行動している――ハンナ達で言うところの一つの大きな徒党を組んでいるような集団なのだが、虎次郎はとあることを危惧して思っていた。
よく聞く――『本当に怖いのは人間』と言う言葉を頭の片隅で思い出した時、虎次郎は思ったのだ。
まだ目に見えない脅威そのものとなれば確かに怖いかもしれない。見えない恐怖も人間からすれば怖い物である。しかし見える恐怖も怖いもの。
結局その人が『怖い』と思えば『怖い』になるのではないかと思うかもしれないが、虎次郎が言っているのはそうではない。
見えている何かを『本当』と信じていたが、実はその『本当』には裏――真実が隠れている。隠れている真実を知った瞬間こそ怖いものであると、昔子供であった虎次郎は祖父から聞いた。
聞いて、そのことを思い出すと同時に、虎次郎は内心祖父が言っていたことは嘘ではないことを理解し、そして――今まさに目の前で起きていることこそが『本当に怖いのは人間』だということを理解した。
人は仮面を被っている。いいや、この場合は檻と言うべきであろうか。
心の本音を守るように、表に出さないように頑丈な南京錠をかけて隠しているが、その南京錠が壊れた瞬間その者の心が露になる。
いうなれば――化けの皮が剥がれる。
又は触れてはいけないところに踏み込んでしまった結果と言った方がいいかもしれない。
その触れてはいけないところに虎次郎たちは触れ、ラランフィーナの逆鱗に触れた。
虎次郎はそのことを思い出し、再度ラランフィーナのことを見ると……。虎次郎は目を見開いて言葉を失った。
「ああああああああああああああああっっっ! あああああああああああああああああああああああっっ! あああああああがあああぁぁぁあああああああああああああっっっ! がぁぁぁああああああああああああぎぃぃぃぃいいいいいいいいいいっっ! 殺すぅうううううううっっ! みんなみんなぶっ殺すぅぅううううううううううううううううううううっっっっ! 何もかもずぅえええええんぶ、ぶっ壊してやるぅううううううううっっ! 殺してやるぅぅううううう純血野郎がぁああああああああああああっっっっ! ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっ!!」
ラランフィーナは雄叫びに近い言葉になっていない奇声を上げながら立ち上がろうとしている。
足の腱を斬られたにもかかわらず、震えているその足で、がくがくと左右に大きく揺れているその足で立ち上がろうとしている。執念に感じてしまいそうな根性と、彼女の声から発せられる怨恨の雄叫び。
その声を聞きながらアキは驚きの顔で「立ち上がっているっ!?」と叫び、キョウヤは槍を構えるとアキに向けて「立ち上がろうが何だろうが今はやるべきことをするべきだろうがっ! 驚いている暇があるなら働けっ!」と罵声を吐き捨てる。
いいや、この場合はアキに対してしっかりしろと激励を賭けているのかもしれないが、その心意は分からない。だがそれでも、虎次郎はその言葉を聞いて激励と受け取ったうえで再度起き上がってきたラランフィーナのことを見つめる。
女の子とは思えない奇声、雄叫び。
壊れてしまった操り人形のように体を震わせるその光景は一種のトラウマ確定の光景だ。その光景を見ながらも虎次郎は刀を握る力を強め、万が一のこともあるので虎次郎は腕にルビィに新調してもらった盾を装備して立ち向かおうとした。
そう、バトラヴィア帝国の戦闘の時、ルビィが虎次郎のためにと錬成して作った盾――シンプルな十字架が彫られているデザインで、オリハルコンと言う鉱物と同じ色の長方形の形の盾であり、持ち具合も良好で、なおかつ軽いものであるので、虎次郎自身これを使うにあたって不自由などなかった。
因みに刀もルビィが作った物であり、これを手に入れるまでは初期装備だったのは補足として言っておこう。
その盾を装備しつつ、刀から手を離さないように握る虎次郎。
盾の内側には腕を通すことができるベルトと掴むことができるところがあり、虎次郎は腕に通すところに盾を装備させ、攻撃が来た瞬間即座にその盾を元の持ち方にして防御しようと心の中で思い、脳内シュミュレーションしていた。
だがそのシュミュレーションでもできるかどうかわからない。正直なところ不安しかないのも本音だ。
刀を使った攻防に関しては体の反射神経を使いながら動きつつ考えるスタイルの虎次郎。見た目や彼の性格からは考えられない且つ、いつぞやかシェーラと一緒に戦った時はまさに付け焼刃に近いような戦い方をしたので虎次郎自身考えることは苦手である印象が大きかったかもしれない。
実際彼は頭を使うことは苦手だ。
だから虎次郎は簡単に考えた結果盾を装備したうえで自分の反射神経を信じて何とか相手を気絶させようと安直且つ簡潔な計画を企てた。ゆえに虎次郎もこれが成功するとは思って居ない。
正直なところ五分五分の確率と言っても過言ではない。
しかし、しかしそれでもやらなければいけないのだ。
虎次郎は思った。
やらなければ後の禍根になる。そうなっては遅い。遅くなってしまう前に、何とかしなければいけない。ここでなんとかして止めなければいけない。
ハンナやシェーラ、桜姫のことも心配だ。一刻も早く終わらせて状況を把握し、そして三人の安否を確認する。
それを最重要として脳に刻み、虎次郎は刀を振るおうと足に力を籠め、踏み込みを強く行おうとした――その瞬間。
「まったく――何を手こずっているのですか? 他の部下達はもう任務完了したというのに」
それでは側近の名が泣きますよ。
なんとも丁寧な声が虎次郎の背後――しかも彼の頭上から聞こえてきた。
その声を聞くからに男の声で、その声を聞くまで背後に気配なんて感じられなかった虎次郎は、突然聞こえた声に対し寒気と言う名の驚きと恐怖を感じ、その直感を信じて虎次郎は振り向こうとした。
勢いと言う名のそれを使い、虎次郎は振り向こうとした――!




