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PLAY116 始まる悪夢②

 シェーラがアキ達のことを思いながら苛立っていた少し前――つまりハンナの目の前にクサビが現れた時、アキ達はハンナ達のことを見守る様に (アキ視点での解釈)物陰に隠れていた。


 他人からしてみれば完全に危ない領域に見えてしまうかもしれない状態と場所で見守っていたアキ達。勿論ハンナ達もとい桜姫の危機をいち早く回避するために彼等は張り込みのようなことをしつつ見守っていた。


 そう――今まさにその時なのだ。


 彼等が出る場面。出番と言ってもいいほどの場面なのだが……、アキ達は現れなかった。


 どころかこの後起きるであろうシェーラ達の危機に対しても、その前から現れてもおかしくなかった……、最悪銃を発砲してもおかしくないハンナの場面で現れてもおかしくないのだ。


 そんなおかしくない状況下であったにも関わらず、アキはおろかキョウヤと虎次郎は現れなかった。


 否――()()()()()()()()()()()()()()()()()


 の方がいいだろう。


 なにせ現在アキ達はハンナ達の視界に入らない物陰では、ハンナ達の緊急事態に相当するような想定外なことが起きていたのだから。


「マジか……、本当にマジなのかよ……。こんなことって……」

「おっさん――あんた言っていたな? 何かを感じるとか何とか。まさか」

「ああ」


 物陰で隠れていたアキ達は、現在お互いの背と背を合わせるように身構えている。


 武器を持った状態で、何かが起きたとしても戦力の補いができるように身構えて……。


 お互いの急所――背後と言う名の急所を隠すように背中合わせになり、その状態で三人は視界に映る光景に驚き、困惑し、納得しながら話をしていた。


 驚きと困惑はアキで、アキは頭を抱えそうな音色と表情で拳銃二丁を手にしている。


 キョウヤは困惑のそれを出してはいたが少なからず状況を理解し、()()()虎次郎が言っていた言葉に内心納得しながら虎次郎に再度質問を投げかける。


 内容としては簡潔に――これなのか? と言う質問であり、その質問に虎次郎は頷きを見せ、虎次郎自身もまさかこれが正体だとは思わず驚きはしているものの、それでも起きてしまったことを変えることは出来ないと思いながら虎次郎は言う。


 目の前で武器を構え、そしてアキ達を取り囲むように現れた赤黒い大きな六芒星の仮面をつけた忍び装束のような黒い服を着た人物達――久し振りに相対する『六芒星』に対し、初めて見る虎次郎は何の迷いもなく言い切る。


「そうだ」


 言い切ったその三文字を聞いたキョウヤとアキは再度緊張の糸を張り詰めると、目の前で武器を構えた状態でアキ達のこと頭のてっぺんから足の先まで舐め回す……、否――インプットをするように見つめる。


『六芒星』達のことを見て臨戦態勢を取る。


 虎次郎が感じていた視線の話を思い出しながら、三人は大勢いるであろう部下地位の『六芒星』達を見つめる。


 あの時――虎次郎が感じていた視線の話を思い出しながら……。

 

「この視線はただの視線ではない。この視線は、獲物を狩る……、いいや、これはまさか……()()()()()()()()視線やもしれん」

「奪う……」

「視線……? 本当なのか?」


 回想として思い出されていくにつれて、アキとキョウヤはこの時から警戒をすればよかったかもしれない。


 この時から警戒し、動きが見えれば奇襲を崩すことができ、且つ優勢とう名の先制攻撃ができたかもしれない。相手にプレッシャーを与えることができたかもしれない。


 それができなかったのことに関して、三人は己の危機感知の無さ。警戒心が薄れていたことに心の中で叱咤して回想を続ける。


「確かではないが、この視線はまさにその視線だ。獲物をじっくり観察し、時を見計らい実行する。まさに狩人の気配だ。確実に奪う時が来るのを待ち続け、時が来た瞬間噛み付く」

「………狩人」

「その狩人の狙っている方向って……まさか……な」

「そうでないことを願いたい」


 あの時は確証すらなかった。


 あの時は確信すらなかった。


 ただ視線を感じただけのことで、それが一体何なのかわからなかった。


 だから後回しにしていた。


 後回しにした結果……、今に繋がってしまった。


 あの時もっと警戒していればよかったのかもしれない。


 しかしもう遅い後悔なのだ。後悔しても過去は戻ってこないのだ。


 今に繋がってしまったこの事態を何とかしなければいけない。それが今アキ達に課せられた試練。

 

 叱咤も、後悔もあとからできる。今は目の前のことに集中するべきだ。


 そう三人は思い、再度手にしている武器――二丁拳銃と槍、刀を手にしてアキ、キョウヤ、虎次郎は目の前にいる多勢と言っても過言ではない『六芒星』に圧をかけ相対する。


 臨戦態勢をとっている三人のことを見て、大勢いる『六芒星』は武器を持つ手に力を籠める。『かちり』と言う金属の音が微かに響く中、この場所にいるはずのない声が突如アキ達の鼓膜を揺らしたのだ。


「あれらぁ~? こんなところに武器を持った人はいるわぁ」


 そう言葉を発したのはアキではない。キョウヤでもなければ虎次郎でもない。そして、目の前にいる大勢の『六芒星』達ではない。


 厳密に言うと、その声は幼い女の子の声で、その声が聞こえた瞬間アキ達は驚きで目を見開くと同時に辺りを見渡そうと目だけを動かし、『六芒星』達は声を聞いた瞬間息を呑む声を零し、辺りを見渡すと、一人の部下が言葉を零した。


「ラランフィーナ様の声だ」

「ラランフィーナ様がここに……?」

「あの人は確かラージェンラ様と一緒に」

「いや、今はそんなことどうでもいい。もう作戦は始まっているんだ。そんなことをしている場合じゃないだろう?」


 一人の部下の言葉を皮切りに、数人の部下たちが声を上げる。


 声を上げ、混乱し、困惑している部下達の言葉を聞いていたキョウヤは心の中で首を傾げ、ラランフィーナとは一体誰なんだと思いながら思い出そうとしていたが、とある部下の言葉を聞いてキョウヤは驚きで目を見開く。


 ラージェンラ様。


 金色のふわりとした長髪。目元には深い切り傷が残っているが目を閉じてても妖艶な香りを放ち、黒く露出が高いワンピースを着ているグラマラスの裸足の女性。


 そう――キョウヤは思い出す。


 あの時、アルテットミアでオグトとオーヴェンを連れて帰ろうとしていた幹部の一人であり、元『六芒星』幹部ガザドラと同じ魔女の力を持っている女のことを。


「っ!」


 ――あの時の女幹部の名前……! ラージェンラと一緒にいるってことは、側近ってことか? 


 ――いいやそんなこと考えたって分かることじゃねーし、それに今そんなこと考えて居る暇ねーんだよ!


 ――『六芒星』の幹部がいる。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ってことの方が重要だ!


 ――あん時だってガザドラの魔女の力には相当苦労したし、それにガザドラと同じように()()()を使うとなったら……!


 そう思いながらキョウヤは奥歯を噛みしめ、怒りを抑えるように顔を歪ませる。


 キョウヤの思考通り、『六芒星』の幹部はギルド長しか使えない力――魔女の力を持っている。


 魔女の力とは自然界の力と言える『八大魔祖』が含まれない力を意味し、ガザドラは『鋼』、同じ『六芒星』幹部オグトは『食』と言った力を指す。


 シェーラ達とは違う魔法の力。


 瘴輝石のような質が違う魔法の力。


 ガザドラと相対し、苦戦を強いられた経験を持つキョウヤは幹部がこの街にいることを聞いた瞬間思考がぐちゃぐちゃになる困惑と焦り、少なからずの怒りを感じつつもここに幹部が来ているのならばなんとかしなければならないという責任も感じ、最悪の想定も踏まえて考えながらキョウヤは思案しようとする。


 どうすれば最善の方法なのか。


 どうすれば目の前の『六芒星』を早く倒すことができ、そして幹部と側近をどう倒したらいいのか。色んなことを考えながら巡らせていると……。


「ちょっと開けなさーい。顔を見たいから通るわ」


 また女の子の声。


 女の子の声を聞いた部下達はどよめく声を零し、後方から人ごみの流れが起き始めると、部下たちの間を掻い潜り、アキ達の前に躍り出ようとしている存在はどんどんとアキ達に近付いて来る。


 一体誰が来るのか。どんな幹部の側近が来るのか。


 その側近は……どんな力を持っているのか。


 まるで予想だにしなかった展開。且つ予想できないこの事態に三人は息を呑み、構えを更に強張らせる。もしかすると強張りで動けないかもしれない。そんな小さな不安があるのも事実。


 正直なところこの事態も想定しないなかったが故、これからのことを考えれば考える程アキ達の不安も大きくなっているのも真実であった。


 なにせ、目の前の『六芒星』を倒してもやるべきことがある。


 それは即行動しなければ最悪のケースも考えてしまうような――否、()()()()()()()()()()()()()()。その現在進行形を過去形且つ『なかったこと』にしなければいけないのだ。


 今自分達がこの状況に陥っているならば、仲間であるハンナ達にも危害が加わるはず。


 ……実際はクサビと言う存在が現れているだけで、まだ『六芒星』の仕業になっていない。


 だがそのことを知らずとも、行かなければいけない。


 仲間は窮地に陥っているならば、行かなければいけない。助けなければ――後悔しか残らない。


 いいや後悔以上のものだ。


 それを取り除かなければいけない。


 だからまずはこの状況を何とかする。そう三人は決意を固める。


 固めた後どんどんアキ達に近付いて来る女。そしてほどなくして女の全容が露になり、その存在を見た瞬間三人の顔に驚きが現れ始める。


 現れるのも無理はないかもしれない。なにせ彼等の目の前に現れたのは――側近と言う彼らのイメージにそぐわない少女が現れたのだから。


 身長は大体百五十センチかそれ以下かの身長で、白い厚底のブーツのせいでその新調が本当なのか定かではないが……小柄な姿が印象的ではある。その小柄な印象であるにも関わらず、真っ白いフリフリのワンピースを着ており、現代の服装で言うと、その人物が着ている服はロリータファッション風のワンピースで、胸の辺りについている薄い水色のリボンがその服をより可愛らしく見せるが、服に付着している赤いそれのせいでそれも台無しだ。その服と一緒に、その人物はその場でくるくると回ったせいか、回転が終わると同時にひらり、ひらりと靡かせその人物の象徴となる灰色に近いような白い髪のツインテールを靡かせながら回り、そしてそのまま地面にかかる重力に従うように、ふっと降りていく。


 一言で言うと……。


「やべー服装のロリ娘」

「それ大声で言うなよ。絶対に言ってはいけないワードだと思うし、『小さい』関連も言うな。いいな?」

「まさか、あんな小さな少女が」

「おっさん聞いてた? 話聞いていた? オレの言葉都合よくミュートされてんの?」


 最初に発言したのはアキ。


 だがその発言はとてつもなく小さな声で放たれた言葉なので、近くにいたキョウヤと虎次郎にしか聞こえなかったが、アキの言葉を聞いたキョウヤはすかさず小さな突っ込みを入れる。


 まさに言ってはいけないことを諭すようにキョウヤは武器を構えたまま警戒を解かず言ったのだが、キョウヤの言葉を無視したのは虎次郎。


 虎次郎は驚きの面持ちのまま目の前にいる側近の少女に向けて言うその姿は、真剣そのもの。まさに驚きのまま言葉がポロリと零れてしまったかのようなそれなのだが、そのこぼれた言葉を拾ったキョウヤは真顔で虎次郎のことを見ずに虎次郎に向けて突っ込みを突き刺す。


 まさに漫画で言うところのズバッと突っ込むように――


 本当にミュートにされているのか? と内心思いながらキョウヤは突っ込んだが、彼自身驚きがないわけではない。どころか女の子であることに今でも驚きを隠せないのが本音だ。

 

 幼い女の子の声であっても、声だけ幼く体は大人の女性と言う人は数多くいる。男であろうとも女の様に高い声を出す人もいるが、今回だけは違った。


 幼い声を持つ女性だと思って高を括っていたが、実際見ると本当に幼い女の子だったのだ。


 身長もハンナより少し小さい女の子であり、最悪ハンナよりも若い女の子に見えてしまう。そんな女の子が『六芒星』の部下達を声だけで従わせている状況に驚きよりも――()()()()という警戒は強くなったのは言わなくても分かること。


 部下たちが言う『幹部・ラージェンラの側近』の言葉。


 その言葉に引っかかりを感じていた心境も今となっては確信に変わってしまっている。


 変わると同時に分かってしまった――少女ラランフィーナの異常性。


 可愛らしい衣服にこびりついているそれらが彼女の狂気を醸し出し、そして恐れ委縮している部下達の雰囲気を感じればわかり切ってしまうことだ。


 ラランフィーナの声を聞いた瞬間の部下達の行動。道を開けた後彼等の仮面の裏側から零れていく透明な雫と、雫が落ちた跡。


 それらは彼等から噴き出た物であり、不快なものでしかない且つ、彼等の心境を表したもの。


 それを見て、ラランフィーナのことを見て統合した結果――三人は理解したのだ。


 侮れない。危険な存在だと。


 長く考えてしまったが、結果として危険と感じた三人は武器を構えたまま自分達の前に出たラランフィーナのことを警戒して見ると、ラランフィーナは対照的に『ふーん』と呑気な声を零しながらアキ、キョウヤ、虎次郎のことを見ると……、彼女は人差し指を顎の所に添えて、可愛らしく首を傾げた後その状態で彼女は言う。


 あっけらかんとしているように聞こえてしまうその音色で――


「なんだー。弱っちそうなエルフ野郎だね。強い奴は二人かな? でもラージェンラ様のお手を煩わせるほどじゃないね。全体的に弱そう。何なら私が戦っても勝てそう。なんでこんな奴にガザドラは負けちゃったんだろー?」


 と言ってきたのだ。


 大の大人に対して挑発めいた言葉を述べ、且つ武器を手にしている彼等のことを恐れることなく、怖がることをしない素振りで彼女は言ったのだ。


 エルフは弱いと、そして自分が戦ったら勝てそうだと。


 前半はまさに毒を吐く台詞でその言葉に対し反応はしなかったが、キョウヤと虎次郎は後半の言葉に――『私が戦っても勝てそう』と自信満々な面持ちで言った言葉に強く反応を示した。


 反応を示し、心の中で一体何なんだと思いながらキョウヤは目の前にいる少女――ラランフィーナに「おいお前」と言い、その後の言葉を言い放とうとした。


 しかしその言葉がラランフィーナの耳に届くことはなく、どころかその声が放たれる前にとある言葉がキョウヤの言葉を遮る結果となる。


 キョウヤの言葉を遮った人物――それは……。


「おいクソガキてめぇ俺のことを言ったのか? 俺のことを見て『弱っちそうなエルフ野郎』って言ったのか? 人を見かけで判断するな。俺はこう見えて頭脳は何だよよく見やがれくそ餓鬼が。俺の方が長い間生きている年長なんだから少しは弁えるとか年長を敬うとか気遣うとかしろ。お前はマジの」


「馬鹿はてめぇだくそ青二才」

「――あばっっ!!」

 

 アキだった。


 アキは真剣かつ怒りを含んだ黒い面持ちで目の前にいるラランフィーナに向けて指を指す。と言っても、拳銃の銃口を指に見立てて差しているのだが、その状態でクイクイと銃口の先をうろつかせ、一体何を言っているんだと言わんばかりのひねくれた顔をしながらアキはラランフィーナに言う。


 その光景はまさに圧迫のようなそれだ。


 圧迫めいた発言を聞いていたラランフィーナは首を傾げて「はい?」と素っ頓狂な声を上げたが、その言葉すら聞いていないアキはどんどん続けて畳み掛ける勢いで言葉のマシンガンを放っていく。


 どこからそんな暴言のマシンガンの弾丸が出て来るのかわからないと言わんばかりの面持ちで聞いていたキョウヤと、驚きの顔の状態でアキのことを見ていた虎次郎は次々と言葉が零れていくアキの言葉と怒りに染まってしまい『切れています』と言ってもおかしくないような顔を見て、愕然の面持ちのまま一時は固まってしまった。


 だがそのまま固まってしまってはいけない。


 固まったままになってしまうとこの先アキの発言次第でラランフィーナが何をするのかわからない。わからないからこれ以上の失言を野放しにしてはいけないと思ったキョウヤは『少しは弁えるとか~』辺りで意識を現実に戻し、即座にキョウヤは行動に移した。


 アキのことを止める言葉をかけると同時に、背後から空を切る勢いで蜥蜴の尻尾を背後で振るい、アキの後頭部に向けて『バチィンッッ!』と大きく乾いた音を響かせた。


 響かせると同時にアキは周りに回っていたその舌の回転を強制的に止められ、それと同時にアキは叩かれた反動で前のめりになり、そのまま地面に突っ伏してしまう。


 べちゃりと言う突っ伏した音が聞こえそうな転び方。そして指先をびくつかせる痙攣の光景を見降ろしていたラランフィーナは少しの間無言になりアキのことを見下ろした後、ちらりと視線をキョウヤ達に向け、目を少しだけ細めた後彼女は言う。


「ふーん。へーん」


 と、曖昧且つ気怠く聞こえてしまってもおかしくない相槌を打った後、ラランフィーナはキョウヤのことを見て……。


「あなた、蜥蜴……、蜥蜴人なの?」


 と聞いて来た。


 それは正真正銘の質問の言葉で、その言葉を聞いたキョウヤは尻尾を背後でうねうねと動かし、自分が蜥蜴人の亜人であることを証明しながら「ああ」と頷き、続きの言葉を言った。


「オレは蜥蜴人の亜人だよ。んでこっちで倒れたエルフは闇森人(ダークエルフ)だ」

「儂は人間族と言う種族だ」

「蜥蜴人の亜人に闇森人(ダークエルフ)、そして人間か……」


 ふーん。とラランフィーナは腕を組み、厚底の靴を地面に向けて『こんこん』と足踏みをするように鳴らしながら思考の世界に入る。


 無言になったり人を馬鹿にする言葉を吐き捨て、挑発を行ったかと思うと人の種族のことを聞いてくる。まさに予想できないことばかりの展開だ。


 一体彼女は何を考えているのかも。彼女がアキ達に対してどんな心境の変化を抱いているのか。


 彼女は――ラランフィーナは一体どんな攻撃を仕掛けて来るのか。


 アキにとってはラランフィーナの罵倒が重要なことなのだが、キョウヤと虎次郎にとって後半の方が最も重要な事であり、ラランフィーナはハンナより少し年下の女の子で、ラージェンラと言う幹部の側近と言う立場にいる。


 簡潔に言うと今彼女とアキ達を取り囲んでいる部下達より強い存在で、幹部達の傍にいることができ、守ることができる存在と言うことになる。

 

 つまりは強い。


 そんな彼女がキョウヤ達の種族のことについて聞いて来た。


 一体どんな理由で聞いたのかはわからない二人は警戒しながら (アキは頭を押さえて『いてて』と言いながら起き上がろうとしている)ラランフィーナのことを見て武器を前に向ける。


 虎次郎に至ってはいつでも刀を抜刀できる体制になりながら構えを取っている状態だ。


 そんな二人のことを見てラランフィーナは『ふーん』と相槌を打ち、体をくねらせ……いいや、体をぶらぶらと揺らしながら彼女は小さな声で『そうなんだ』と独り言のようにごちる。


 ごちり、体を揺らすしながら考えているその光景を見て、虎次郎は小さな声でキョウヤに伝えた。


 率直に、直感で感じたことを――


「……敵意がない。どころか、戦意と言うものを感じられん」

「は?」


 虎次郎が言った言葉――敵意がない。繊維と言うものがない。


 それを要約すると、戦う意志がないということを指す。


 その言葉を聞いたキョウヤは一瞬首を傾げ、困惑の一文字を放った後虎次郎に対し小さな声で『どういう事なんだ?』と聞こうとした。彼のことを見るために視線を虎次郎に向けた状態で聞こうとしていた。


 だが、その言葉が紡がれることはなかった。


 理由を簡潔に言うと、キョウヤがその言葉を言おうとした瞬間、彼の視界の端に何かが写り込んだからだ。


 視界の端に写り込んだそれは空を切る様に突如として現れ、そしてそれと同時に視界に入り込んだ――()()()()


 水しぶきの様に飛び散るそれは壁となっているその場所に跡を残し、流れ落ちる痕跡を残していく。


 しかもそれは虎次郎の横を通り過ぎようとしていたのだ。虎次郎の視界の端に入るように、彼の顔を真っ二つにするようにそれが通り過ぎようとしている。


「――っっっ!!」


 真っ赤なそれを見て、虎次郎のそれを見た瞬間キョウヤはすぐに思考を停止させ、反射神経と言う強みだけで行動に移す。


 即座に槍を構えていたその体制を解き、右手を伸ばして虎次郎の肩を掴んだキョウヤはその勢いを殺さず、むしろ活かして虎次郎のことを押し倒す。


「っ!」


 キョウヤの行動に驚きを見せた虎次郎であったが、活かされた勢いに負けてしまいそのままキョウヤと一緒に姿勢を崩して地面に尻餅をついてしまいそうになる。


 よろけたまま虎次郎とキョウヤは倒れるように地面に向かって行き、黒い何がか虎次郎が板であろうその場所を通り過ぎた――


 瞬間だった。


 キョウヤと虎次郎、アキの耳に入ってきた何かを斬り裂く音。肉を切る音が辺りに木霊したと同時に畳み掛けるように耳に入ってきた水の音。


 それは普通の音ではない。


 普通に生活をしていれば聞くことなどない音だが、アキとキョウヤ、虎次郎はその音を耳で拾った瞬間理解してしまう。絶句と困惑、衝撃を受けた青ざめたその顔で彼等は理解してしまった。


 最初に聞こえた音は()()()()()


 そして次に聞こえた音は――()()()()()と、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だと。


「ら、ララララランフィーナ様……っ!? どうしてここで()()を……っ!?」


 最初の二つの音が消え、最後の音だけが辺りに小さく響く中――周りで待機していた『六芒星』の部下は目の前にいるラランフィーナのことを見る。


 厳密には見ている人は少数しかいない。


 どころかその少数の中でもたった一人の部下だけが彼女に向けて異議を唱える言葉を吐いているという状態だ。残りの五人の部下達はそれぞれが今の現状を見て、体験した後それぞれが絶望の表れを見せていた。




 ()()()()()()()()()()()()姿()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、残った五人の同胞は叫んだ。




「ぎゃああああああああああああっっ!」

「うわああああああああああああっっ!」

「いでぇ! いでぇええええええええっっ! 腕がぁ! うでがぁあああああっっ!」

「いやだぁ。いやだぁ!」

「死にたくない! 死にたくないよぉ!」


 目の前の光景に驚愕し、受け入れたのちに叫び狼狽する者達。


 目の前の光景と共に己のあるべき腕が欠損している姿に愕然とし、止血をしながら痛みを訴える者。


 視界に広がった惨状を見た瞬間、己の未来を悟ったのか仮面の裏側で大粒の涙を零し懇願する者達。

 

 それぞれ五人の部下達が泣き叫び、嘆願していくその姿を見て、アキとキョウヤ、虎次郎はそれぞれ視界に入り込んだ惨状を見て、そしてその惨状を生んだ張本人のことを見る。


 現在進行形で惨状の中心で踊っているかのようにくるくる回る彼女のことを――ツインテールの神の間からいくつもの細いワイヤーのようなものに括り付けられた赤いそれがこびりついている小さな黒い刃の鎌を見て……、三人は言葉を失いながら肌と言う名の色素を消し、青く染めていく。


 だが――惨劇の現状を作り、アキ達に絶句のそれを植え付け、部下達の恐怖を植え付けた張本人ラランフィーナは未だにクルクル回りながら鼻歌交じりの歌を口ずさんでいる。

 

 彼女のツインテールから伸びているように見える黒い刃の鎌も彼女の回転について行くように空気を斬る音を出し、彼女のことを守る様にグルグル回る。


 細いワイヤーが見えなければ空中を浮遊し回っている鎌にしか見えないその光景を焼き付けているアキ達や部下をしり目に、ラランフィーナは「もぉー。うるさいなー。ここで出さないでいつどこで私の踊りを出すって言うのよ?」と言い、彼女は行動を止めることなく、くるくる回り続けながら周りを飛ぶように降り回している鎌達を背景にラランフィーナは言った。


 顔中にこびりつく赤いそれを化粧として魅せ、くるりくるりと踊り狂う姿を見せながら満面の笑みを浮かべた状態でラランフィーナは言う。


 とてつもなく明るい音色で――彼女は言った。


「こうでもしないと――ラージェンラ様のお役に立てないじゃない。お役に立ちたいから私はいつでもどこでも踊るの。踊るのに時と場所と状況なんて関係ない」


 私は――踊りたいと思ったら踊るの。


 そう断言するラランフィーナ。


 断言し、それでも踊りと言う名の攻撃の行動をしている彼女のことを見て三人は愕然の面持ちで、蒼白のそれを肌で表しながら思った。


 この女は――危険だと。


 出会った敵の中でも群を抜いて狂気に満ち溢れていると――

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