PLAY115 キラキラの砂⑤
「外の世界って本当にすごいものばかりなんだね。郷で飲んでいたお茶の色じゃない飲み物があるだなんて知らなかったよ」
「まぁあそこってお茶と言う名の緑茶しかなかったし、外に出たことがないなら仕方がない事かもしれないけど、あんまりお店でギャーギャー騒がないでよ。こっちまで恥ずかしくなっちゃったわ」
「そんなに騒いでいないよ。騒いでいたというよりも興奮して」
「はい言い訳わかったわ。それ以上言わないで。とにかくもうしないでお願い」
「………ワカリマシタ」
「よろしい」
と、その話をしていたのはシェーラちゃんとオウヒさんで、オウヒさんが手にしている物を見ながら興奮が冷め止まない状態でシェーラちゃんに興奮していること、そして初めて見るそれらに対しての感想を言ったのだけど、その感想も興奮も跳ね返すようにシェーラちゃんはオウヒさんに対して注意を促す。
シェーラちゃんの言葉を聞いて予想外だったのか、オウヒさんはむっと頬を膨らませてもごもごと尖らせた口で何かを言っていたけれど、その言葉でさえもシェーラちゃんは聞こうとしない。
本当にお母さんの様な言い方をして注意をすると、オウヒさんは何も言えず、そのままむすくれた顔をして渋々頷く。
本当に小さな子供が怒られたかのような顔で――だ。
オウヒさんの言葉を聞いてシェーラちゃんは頷き、もう話が終わったということで前を向いて一息ついて肩の力を抜く。
そんな光景を見ながら私は控えめである且つ困ったような笑みを浮かべながら二人の会話を聞くことに徹していた。というか……、話しに入る隙が無くて、傍観に徹してしまっただけなんだけど……。
あ、そうだ。言い忘れていたけど、今私達はシェーラちゃんの宣言通り噴水の近くのベンチに腰かけながら買い物の休憩をしていた。
三人一緒になってベンチに座り、手にしている物を膝に乗せた状態で私達は会話を楽しみつつ空腹を満たしているという穏やかな状況。
普通の世界でもありえそうなその空間の中、私は今シェーラちゃんとオウヒさんと一緒に座って会話をして、手にしている軽食片手に休憩をしている。
因みに――私視点で見ると私が一番右端、シェーラちゃんは左端でその間にオウヒさんが座っているという状況。
私達が手にしているそれは温かい飲み物とサンドイッチと言うオーソドックスの軽食で、私が持っている軽食はたまごサンドイッチなんだけど、この世界のサンドイッチは普通のサンドイッチではなく、『鴛鶏鴦』の卵から作られたものなので、すごいたんぱく質があるらしい。私はそのサンドイッチと少し苦めのカフェオレを。
シェーラちゃんは野菜しかないフレッシュなベジタリアンサンドイッチとブラックコーヒーを。
オウヒさんは苦いものがすごく苦手なのか、現実世界で言うといちごとミカンが挟まっていて、間を埋めるようにクリームが敷き詰められているフルーツサンドイッチを手にした状態で私達はベンチに座っていた。
内心――甘すぎる気がする。とオウヒさんのサンドイッチを見ながらそれを見ると同時に、この仮想空間にサンドイッチなんていうものがあるだなんて思っても見なかったなと言う意外な感情を抱いていたことは私だけの秘密なんだけど、きっとシェーラちゃんもそう思っているだろうな……。
ぎゅうぎゅうでもなく広すぎでもない丁度いい間隔。私は二人のことを見て言った。
「ま、まぁまぁそんなに怒らなくても……、オウヒさんだって初めて見るものばかりで興奮していたんだから、そこまで怒らなくても……」
「こっちが恥ずかしい思いをしてまであの子を止めないといけなかったのよ? 相手の目がすごく痛々しかったのもあるし、ちょっとは分かってよ世間知らずのお姫様」
「ぐ」
宥めるように言ったはずの言葉が逆に逆撫でとなってしまったせいで、私の言葉を聞いてシェーラちゃんが突き刺すように指を『ビシリ』と指し、その刺した指をオウヒさんに向けてまた促しの言葉をかけて来る。
畳み掛けると言ってもおかしくないようなその言葉にオウヒさんは唸るような声と共に口をきつく一文字に噤んでしまう。
肩を震わせながら『うぐぐ』と言う声を零してオウヒさんは黙ってしまったけど、そんな彼女をしり目にシェーラちゃんは手にしているサンドイッチを豪快に大きな一口で頬張って小さな咀嚼を行う。
もぐもぐと口の中で小さくしていくその光景を見つつ、オウヒさんのことを見て心配しながら私は控えめに言う。
これ以上空気を悪くしてはいけない。そう直感しながら私は言う。
「こ、これから学べばいいんですから、そんなに落ち込まないで下さい。楽しい買い物もこのままでは楽しくなくなりますから、反省して、気持ちを切り替えていきましょう? ね?」
「………うん」
私の言葉を聞いて、オウヒさんは少しの間私の言葉に対して反応を示さなかったけど、少しして肩を震わせることをやめた後、小さな声で肯定のそれが聞こえ、その言葉の後でオウヒさんはコクリと私のことを見ずに小さく頷いてくれた。
頷いてくれたその光景を見て、私は安堵のそれを込めた笑みを浮かべて手にしているサンドイッチに小さくかぶりつく。
口の中に広がった濃厚な卵の味が空腹のお腹を刺激して、更なる食欲をそそり、もう一口私はサンドイッチに小さくかぶりつく。お腹は少しだけ空いていただけで、サンドイッチも少しずつ、ちみち水戸食べながら会話をしようと思っていたんだけど、あまりにもおいしいサンドイッチに私は一時的だけどサンドイッチに夢中になってしまう。
心の中で『あ、おいしい』と思いながらサンドイッチを頬張っていると……。
「本当に甘ちゃんね……。こういう時こそビシッと言うのが正解なんじゃない――の?」
「うんぐっ!?」
シェーラちゃんが突然私に向けて言い、間にいるオウヒさんの前を遮る様に右手を突き出して、もぐもぐとおいしそうに食べている私の頬に右手の人差し指を突き付けてきた。
ぶすりと――まるで肩を叩いて振り向いた瞬間に突かれたかのような感覚を感じ、驚いてしまった私は口の中にある食べ物がその行動で一瞬決壊しそうだったけど、それを何とか留めて慌てて飲み込むと、突然襲来してきた咳をしたいという衝動に負けてしまい、私は明後日の方向を見ながら小さく咳込む。
勿論口元に手を添えて、呼吸困難にならないように細心の注意を払いながら……。
『げほげほ』とせき込む私を見てか、オウヒさんが心配そうな声で「大丈夫?」と言って私の背中をさすり、シェーラちゃんも私の行動に対して予想外だったのか、罪悪感を感じたような音色で「な、なんかごめん……。まさかそんなにむせるとは思っても見なかったわ……」と謝罪のそれを述べてきたので、私は手を出して大丈夫と言う仕草をして咳込みを落ち着かせることに徹した。
……ここだけの話しなんだけど、私はあまりむせることはない。しいて言うならアキにぃが結構むせては輝にぃを困らせていたけれど、アキにぃはあの時……『息を吸わないでプールに入ってしまった時の恐怖と同じ』とか何とか言っていたけれど、あながち間違いじゃないかもと思ってしまった……。
そんなことを思いながらなんとか落ち着きを取り戻しつつあるえづきを抑えつつ、もうひと段階落ち着こうとした私は咳込みが無くなった後で二回ほど深い深呼吸を行う。
深呼吸をし、落ち着きが戻ったところで、私はシェーラちゃんとオウヒさんのことを見るために左側に体を向け、オウヒさん越しにいるシェーラちゃんに向けて『そう言えば……』と言って、私は空気を変えるために別の話題を切り出すことにした。
このまま無言になったらだめだと思ったので、私から会話の話題を切り出そうと思った結果、行動に移して――
「結構買い物してきたけど……、どれくらい買ったっけ」
と、私は徐に今日の買い物の途中経過をシェーラちゃんに聞く。
実は飴を買う前に私達はいろいろと買い物をしていた。見てそれで終わりの物もあったり、買った物もあったけど、そんな大きな袋に入れるほどの大きなものは買っていない。
最初こそ買おうと思っていたのだけど (オウヒさんが着ているコートに隠せばいいだろうということで)、鬼の郷に帰った後のことを考えて、大きいものを買うのはやめておこうということになり、できるだけ小さいものに厳選しつつ私達が持っていたお金でなんとかしようという結果に収まり、買い物を楽しんでいた。
大きいものを買わないでおこうと決めた理由としては、大きなものを持って帰った時目立つかもしれないと言う事と、もし大きな買い物をしたものを押し入れとかに隠した時、それが見つかってしまったらオウヒさん自身に被害が及ぶ且つ険悪な関係が悪化してしまうから、できるだけ小さいものに限定しようとしたのが理由。
……そもそも、私達はオウヒさんを連れてお忍びではない脱走に近い買い物をしているのだ。できるだけ大事にならない程度の小さいものを買った方がリスクは小さい。
その点を思い出しながら……、途中経過の話を聞いたシェーラちゃんは一瞬驚きの顔を表現する目を見開きを行って私のことを見ると、シェーラちゃんは「えーっと」と言いながら上を見上げて思い出すように腕を組んで考えた後、シェーラちゃんは私とオウヒさんのことを見て指折りをしながら確認の声を掛ける。
「たしか……」と言い、私達に確認を求めるように一幕間をおいて、思い出しながらシェーラちゃんは言った。
「あの奇妙なお店の後は……何軒かのお店に入ったわね。最初は洋服のお店に寄ったけど、そこではただ見ただけで買っていないし、おいしい食べ物が置かれている店に寄ったけどそこでも買わないで見ているだけで、次は剣とか置かれている防具屋に入って見て終わって……、その後入ったアクセサリーのお店で」
と言った後、シェーラちゃんはオウヒさんのことを見て、私もオウヒさんのことを見ると、オウヒさんは私達のことを見てサンドイッチを頬張りながら首を傾げていたけれど、話していた内容を思い返したのだろう。食べているものがまだ口の中に入っている状態で「むぉー」と言いながらオウヒさんは懐――フードの中の着物の懐に手を入れると、その状態でごそごそと何かを探しだす。
オウヒさんの姿を見ていた私は何も言わずにオウヒさんのことを見ていたけれど、シェーラちゃんはオウヒさんがごそごそしている光景を見てか、少しだけ呆れる顔をしながら「あんた……どこにしまったのよ。長くない?」と言いながら頬杖を突いてオウヒさんが見つけるのを待つ。
誰もがというか、私達二人はオウヒさんが探しているその光景を止めることはしない。どころか止めるなんて言う事は野暮と思ったからしなかった。
だって、オウヒさんが探しているそれは……。
「あ、あった!」
そう思っていると、オウヒさんは大きく明るい声を上げながら懐に入れていたであろうそれをばっと勢いよく取り出した。
取り出した瞬間を見ようと私とシェーラちゃんはオウヒさんの手の動きをしっかりと見て、目で追って上に掲げたであろうそれを見上げると、視界に入る眩く光り太陽の光に目が驚いたかのように霞んでしまった。
うっという唸るような声を零したけど、すぐに眼も慣れて私はそっと目を開けて、掲げたそれをもう一度見る。
初めてではない――あの時オウヒさんがガン見をした後唯一おねだりをしてきたものを握った状態のそれを私は見上げてみる。
オウヒさんの手の中に納まり切れないというわけではなく、握っているけれど少しだけはみ出てしまっている状態で、はみ出ているところからチカリと一瞬反射して光る小さくて丸い薄い桃色の宝石と海のように青い宝石が目に入ると、オウヒさんは私を見て「あ」と、何かに気付いたかのような声を零すと、オウヒさんは握っているそれを私達に見せようとして掲げていたそれを下ろす。
下ろして、握る力を緩めた後、オウヒさんは私達に二度目となるそれをもう一度見せてくれた。
オウヒさんの手の中に納まっていた物は――ブレスレットだった。
薄桃色の小さくて丸い宝石がいくつも糸に通されているそれで、宝石同士が合わさらないように銀色の丸い金属が通されている物なんだけど、一見するとそれは現実世界にもありそうなもので、言い方が悪くなってしまうけど、安い物に見えてしまいそうなものだった。
それをオウヒさんは欲しいと言ったのだ。シェーラちゃんと私に縋る様に、お願いと両手を合わせるように懇願までして――
オウヒさんの御願いを聞いたシェーラちゃんは一瞬驚きの顔をして、私はそんな驚いた顔のまま固まっていたシェーラちゃんの肩を叩きながら助言の様にこう言ったのを覚えている。
『えっと……、買い物に来たんだから、一度それを見て、値段を見てから判断しよう? オウヒさんと相談もして』
その言葉を言い終えた後、シェーラちゃんは少し考えを巡らせようとしたのか『うーんっ』と言いながら無言になったけど、その思考もすぐに解消……というか整ったのか、シェーラちゃんは私の言葉を飲み込むように頷いて「分かったわ」 と言って、オウヒさんにその商品がどこにあるのか案内を頼むことにして向かった先にあったのが――そのブレスレットだったのだ。
ブレスレットはいくつもあるブレスレットの中に埋もれるように置かれていて、その光景を見て、そして値段を見たシェーラちゃんは驚きの目をして、前でブレスレットのことを見ているオウヒさんに向けておずおずと言うか、困惑が入り混じっている音色でブレスレットに向けて指さしながら聞いた。
『これなの?』
それは本当にこれなのかと言う疑念と困惑が混じっているそれで、私がもし聞いていたら、そんな音色だったのだろうな……。と思ってしまうくらいオウヒさんが欲しがっていた物は予想外の代物だった。
物として見れば普通に見えてしまうのだけど、私達が入ったアクセサリー店は一見すると高価な物が売買されている場所で、一言で言うと少しだけ高級なものを売っているお店なのだ。
そのお店で売られているアクセサリーは平均で十万Lくらいで、最高五十万Lと言うものもあるお店なんだけど、オウヒさんが選んだのはそれよりも安い――五千Lと言うお手頃価格のブレスレット。
しかも二つでだ。
そのブレスレットを見て、値段を見たからこそシェーラちゃんはブレスレットに向けて指を指し、確認と言わんばかりに言うと、オウヒさんはシェーラちゃんの言葉に対して迷いなどないはっきりとした言葉と笑顔で言った。
彼女がずっと見て、おねだりしていたそれを指さして――
「これがいいの!」
そうして買ったのがこれだけ――たった五千Lのなんの付加効果もないただのアクセサリーを買ったオウヒさん。手にしているアクセサリーを……ブレスレットを見つめながらオウヒさんは「ふふふ」と微笑みのそれを零しながら薄桃色の宝石と青い宝石を指先でころころと転がす。
まるで小さな生物の頭を撫でるかのように、オウヒさんは宝石を指の腹で撫でている。
その光景を見ながら私は疑問に思った……、かなり前から疑問として生まれてしまったこの気持ちを素直に口にしようとオウヒさんに向けて私は聞いた。
「あの――」
と言う前置きの言葉を置いてからオウヒさんの名前を呼ぶと、オウヒさんは「ん?」と言って視線を宝石から私に向けて「なに?」と聞いて来た。
その返答を聞いた私はオウヒさんの目を見て、ブレスレットに人差し指を添えるように――人から見たら指を指すようにしながら私はオウヒさんに聞いた。
真剣な顔つき……ではなく、本当に疑問を持ったその顔で、神妙な空気にならないように配慮をしながら私は聞いたのだ。
「本当にそれでよかったんですか?」
「? よかったって何? 私これが欲しかったからお願いしたのに?」
「えっと、わかりやすく言うと……」
しかし言葉と言うものは難しいもので、率直な言葉を言っても伝わらないこともあるし、人によっては一から十まで全部話さないとわからない人だっている。早とちりする人だっているし、まさに十人十色、千差万別だ。
決して馬鹿にはしていない。馬鹿にしていないし、多分私の言葉が曖昧過ぎたからわからなかったからそう言ったと思うから私はオウヒさんにわかりやすく簡潔な説明を行う。
視界の端で頬杖を突きながらぼうっとした面持ちで見ているシェーラちゃんを映しながら……。
「もっといい物があったはずなのにそれを選んだのには、理由があるのかなって思ったんです。だってそれよりも高価なアクセサリーだってあったし、それにオウヒさん自身が買う物なんだからもっと奮発しても大丈夫だと思って」
と言うと、その言葉を聞いたオウヒさんは理解したのか「あー」と、掌に拳を『ぽんっ』と乗せる動作をして、私のことを見てオウヒさんは満面の笑みで言った。
満面のそれを見せて、はっきりとした言葉で彼女は言ったのだ。
「そう言う事か。なんかねー。直感で思ったの。あーこれがいいって。これつけたいって思ったからこれにしたの。これ以外の物には全然目もくらまなかったし、それに私はこっちの方が好きになったからこれにしたの。キラキラしているというか、あ! これしかない! って思ったから」
「直感ってことね。その直感いいんじゃない? 買い物って衝動で買うこともあるけど、これを逃したら後悔すると思うことも多々あるから……、そう言った即断即決好きよ?」
「直感で買ったんですね。確かに買うなら自分の好きなものの方がいいですもんね。無粋な質問でした」
オウヒさんが行った言葉はあまりにも分かりやすくて、簡単なものだった。
こだわりもない。ただ直感で『これがいい』って思ったから買おうと思った。それだけの感情で買ったというのだから、それ以上言う必要はない。それに初めて自分の思いで買った (厳密には私達のお金で買った物だけど……)ものなのだからとやかくなんて言えないもんね。
シェーラちゃんもその直感に関して釘を刺すようなことはしなかったし、私もオウヒさんの直感に関して否定なんてしない。だから頷いてさっきの質問に対して軽めの謝罪を述べた。
正直――私も衝動で買うこともあるから否定なんてできないもの。
そう思っていると、オウヒさんが続けるように『それに』と言って……。
「勿論簪もいいなーって思ったよ? あれを髪の毛に挿せば可愛いなーって思ったんだけど、あれは兄さまに上げようと思うから、私はこれでいいの」
「……兄さま、ってことは……」
「お兄さんがいたんですね……」
オウヒさんの言葉を聞いた私達は驚きの顔で一瞬固まった。
オウヒさんの口から零れた『兄さま』
つまり兄がいるという言葉に私とシェーラちゃんは衝撃と言う稲妻が脳内に駆け巡ると、私達は一旦間を置いた後でやっと言葉を零すことができた。
と言っても、衝撃の感想――お兄さんがいるという衝撃を言葉にしただけなんだけど……。
私達二人の言葉を聞いたオウヒさんは「うん」と頷きながら――
「そうだよ」と言って、オウヒさんは続けるように私達に話し始める。
自分の夢以外のことを――赤の他人でもあり他種族でもある私達に……。
「兄さまは本当に頭がカッチカチの石頭な考えを持っている兄さまなの。私が外の世界に行きたいことを言ったらこれでもかーっ! ってくらい怒ってさ、それで私兄さまと喧嘩しちゃったの」
「喧嘩……ねぇ。兄妹あるあるのような展開ね」
「…………………………もしかして」
オウヒさんは私達にお兄さんのことを少しだけ度教えてくれて、その言葉を聞いたシェーラちゃんは再度膝に乗せた手で頬杖を突いてオウヒさんの話をあるあるとして飲み込んで頷いていると、私はオウヒさんの話を聞いて『まさか』と思いながら私はオウヒさんに聞いた。
これはあくまで予想で、仮説にすぎないのことなんだけど、それでも私はオウヒさんに『もしかして』と言うなんとも使いやすい言葉を使って聞いてみたのだ。
オウヒさんが買おうとしていた本当の真意を――
「お兄さんと仲直りしたいからブレスレットを買おうとしたんですか?」
「――!!」
オウヒさんに向けて言った言葉を聞いた瞬間、聞かれた本人は『がちんっ!』と石になってしまったかのように固まると、シェーラちゃんがオウヒさんの横で「ははぁ~ん」と少しだけ意地悪そうな笑みで納得のそれを言うと、シェーラちゃんは小さな声で「なるほどね」と言って……、オウヒさんの後頭部を見上げながらベンチの背に見を預けて……。
「要は……石みたいに固い頭をしているお兄さんと喧嘩をしたから仲直りしたいって思ったのね?」
「…………………………」
「図星……ね」
「…………………………最初は」
「「?」」
シェーラちゃんの言葉を聞いてオウヒさんは一時は無言になる様に口を噤んでいたけれど、少しずつ、本当に少しずつ口の噤みが緩んでいき、そして唇の内側で白い歯が微かに見せながら姿勢を前にして、ブレスレットを持っていたその両手を膝の上に乗せると、オウヒさんはポツリ……、と言葉を零した。
『最初は』
その言葉を聞いた私達は一瞬『あれ?』と言う顔をしてきょとんっとしてしまう。
『あれ?』と思った理由は簡単で、ただの喧嘩をして仲直りしたいからブレスレットを買って話をしたかったのではないのか? と思っていたから。
きっとシェーラちゃんも思っていたらしく、ベンチに背を預けていたその体制を貯めて少しだけの猫背になる様にオウヒさんのことを見て、私もオウヒさんのことを見ると、オウヒさんは膝の上に置いた握り拳をぐっと力を入れたかと思うと、オウヒさんは顔を上げて、私達のことを見ずに言葉を落としていく。
空を見上げ……、空の色と少し似ている青い宝石を視界だけで見降ろしながらオウヒさんは言う。
今まで楽しいと感じていたもしゃもしゃが、少しだけ悲しいそれに変わっていくそれを見ながら……。
「あのね、ここに来る前に、みんなが来る前に私ね、兄さまと喧嘩したの。外の世界のことで喧嘩してね。その時に兄さまに向けて言っちゃったの。『そんなに私のことが嫌いなのっ? そんなに私に知られたくないことをしているのっ? 自分達だけ良い思いして、ずるい以外他にあるっ? 害なのかもわからないくせに、人の夢を壊そうとしないでっ。私の夢を否定しないでっ。『外の世界のことなんて諦めろ』とか言う兄さまなんて……、もう知らない』って。『みんなみんな……大っ嫌い』って、言っちゃったの」
「「…………………………」」
「それから兄さまに会っていない。会おうと思っていた時もあったんだけど、なんか……怖くって、会っていないの。もし会ったとしても、何を話せばいいのかわからないし、私が謝ればいいと思うんだけど、それをしてもなんか嫌な気持ちになる……。兄さまも悪いことを言ったと思うし、兄さまの言葉が全部正しいとは思えないから、余計会いたくても会えないでいて……それで」
「きっかけ。ね」
「!」
オウヒさんの言葉を聞いて、お兄さんと話している時に一体何があったのかを聞いていると、シェーラちゃんが唐突に言葉を割り込ませて、その割り込みをした後で腕を伸ばすようにぐっと両手を天に向けて伸ばして、唸るような声を零すと、シェーラちゃんはその体制のままオウヒさんに向けて言った。
凛々しい――はっきりとした言葉で。
「大嫌いね。それは酷い言葉ね。みんなあんたのことを思って言った言葉でもあるのに」
「うん。わかっている」
「でも人の夢を全否定して押し付けることも嫌だと思うわ。その件に関しては賛成派ね」
「…………………………」
「お兄さんが反対派で、自分の夢を全否定されたから感情任せになって怒鳴ってしまった。最初は謝りたくなかった。言葉通り知らないって思って居たんでしょ?」
「………………………」
「でも、あとから冷静になって考えたら、どんどん罪悪感が自分の心の中で燻って、どんどん押し潰されそうになるくらい大きくさせてしまって、余計なことをして考えないようにしようとしていたけれどそれもできなくなって……、きっかけを探そうとした」
「………………………うん」
シェーラちゃんの言葉を聞いていたオウヒさんは今まで無言のまま空を見上げていたけれど、シェーラちゃんの言葉に対して最後、少しだけ間を置いたけど『コクリ』と小さく頷くと、肯定のそれを私達に示してくれた。
そう――私が言った言葉通りだったのだ。本当に図星と言うそれが正しい結果だった。
オウヒさんはシェーラちゃんの言う通り、最初こそそんなに考えて居なかったみたいだけど、長い間喧嘩をして、話していないと気になってきたのだろう。罪悪感が少しばかり芽生えてきたのだろう。でも謝ってしまったらなんだか癪に障る。というかこっちが蒔けを認めてしまうみたいで謝れなかった。
だから……、会うきっかけが欲しかった。
最初こそ買い物をしている時は全然考えて居なかったけど、だんだん買い物をしていくうちに罪悪感と言う名の後悔が自分の心を汚していくのを感じた。
感じて、どうしようと思いながら買い物を楽しんでいたけれど、結局行きついたのが――謝ろうという選択で、その選択をした後何かきっかけが欲しかったんだ。
お兄さんと話すきっかけが、些細なきっかけでもいいから欲しかった。だからきっかけとなるブレスレットを買ったんだ。
「…………………………ふふ」
そんなことを考えて、オウヒさんの真意を自分なりに証明したあと私はクスリと微笑んで口に手を当てる。本当に笑っているわけではない。微笑んで見るように口に手を当てて小さく笑うと、その笑いを聞いてオウヒさんは顔を真っ赤に染めて私の方を見た後――『な、なんで笑うのっ!? こっちは真剣に』と言いかけた時、私は首を振って「いいえ」と言った後、私はオウヒさんに向けて控えめに微笑みながら言った。
「いいえ――」
と言い、その後の言葉を繋げるように私はクスリと微笑みながらオウヒさんに言った。
「なんだか、既視感を感じてしまって……、もし私がオウヒさんの立場で、兄にそんなことをしたら同じことをするだろうなーッと思うと同時に、オウヒさんがお兄さんに対して『大好き』なんだな―って思って、心が和んだだけです」
私の言葉を聞いてオウヒさんは黙って私のことを見ていると、背後からシェーラちゃんの「あいつも兄を持っているから、既視感湧いているのよ。と言っても、こいつはあんたと違うし、どちらかと言うとあんたはこいつの兄に似ているかもね」と小さく言うと、オウヒさんは驚きの顔をしてシェーラちゃんの方を振り向いて「えぇっ!? 誰っ?」と言う光景を見ながら私はオウヒさんに向けて続きの言葉を言う。
会ったことはない。でもオウヒさんのことを考えてきつい言葉を言ったであろうその人のことを想像しながら、それに重なる様に思い浮かぶアキにぃと輝にぃのことを思い出しながら私は言った。
「お兄さんはオウヒさんのことが好きだからきつい言葉を言い放った。そしてオウヒさんもお兄さんの言葉好きだから謝りたいと思ったからきっかけを探した。普通だと思いますし、それに――その考え正しいと思いますよ。夢を諦めない気持ちも、謝ろうという優しい気持ちも。正しいと思います」
正しい。その言葉が正しいかわからない。でもいい事であることに間違いはないから私はオウヒさんに微笑みながらその言葉を言うと、オウヒさんは無言のまま目を見開いたけど、すぐに目を伏せて、手に持っている二つのブレスレットを見落としたままオウヒさんは聞いた。
ぼそぼそと、なんだか不安そうな音色でオウヒさんが聞いたのだ。
「…………………………兄さま、許してくれるかな……?」
その言葉を聞いた私とシェーラちゃんはお互いの顔を見合わせて、間にいるオウヒさんのことを見た後――シェーラちゃんと私はオウヒさんに向けて質問の返答を口にする。
「許すか許さないかなんてわかんないわよ。あんたの言葉次第だし、相手の考え次第でしょ? 胸張んなさいよ」
「答えは分かりませんけど、応援しています」
そう言って私はオウヒさんのことを見る。
オウヒさんは俯いた状態からすっと立ち上がり、膝に置いていた食べかけのサンドイッチをベンチに置いて、雲一つない空を見上げると、オウヒさんは一度、浅い深呼吸を小さく行った。
深呼吸を行っている最中、吐息と共に零れていくキラキラした色んな色の星くず。星くずはそれはもう小さく光る砂の様にオウヒさんの周りを飛び、風に乗ったかと思うと地面に向かって落ちていき、そのまま光る砂はオウヒさんの周りを小さい点のカラフルに彩っていく。
彩りはまさに色んな色で、その色がオウヒさんの感情の色を表しているような光景。
心の中にため込んでいた感情が溜息と共に吐き出されて、それが地面に落ちるという整理方法を行いながらオウヒさんは空を見上げて黙る。
吐いた色の感情を捨て、残っている感情を整理して、オウヒさんは私達のことを見ず、前を向いた後……数歩前に向けて歩みを進めていく。
「あ、ちょっとどこに向かうのよ」
「少し考えたい。確か来た道に大きな木が植えてある場所があったでしょ? そこにちょっと向かう」
「向かうって……、一人で行かないでよっ。あんたは一人になったらだめなんだから」
「大丈夫だよ。すぐに戻るもん」
「戻る戻らない云々じゃないのっ。考えるならここでして」
「いやだっ! 少し自然に当たりながら考えたいっ」
「こんの我儘お姫はぁぁぁ~あむっ! むもぉ!」
オウヒさんの行動を見て、言葉を聞いたシェーラちゃんは口の中に残りのサンドイッチを押し込むと、その場所に向かおうとして歩みを進めようとしているオウヒさんの後を追おうと早足で歩こうとする。
「あ、シェーラちゃん、私も行くよ」
私もその光景を見て、オウヒさんを一人に挿せてはいけないと思い少しだけ駆け足になってシェーラちゃんとオウヒさんの後を追おうとした。
しようとした――時だった。
ぱしり。
と、私の右手首を掴む感覚。その感覚が私に襲い掛かり、その感覚を感じながら驚きの感情と困惑の感情で誰が私の手を掴んでいるんだろうと思いながら振り向こうとした瞬間、声が聞こえた。
声は私に向けて言う。
何を言っているのかわからないような単語を添えて――
「君は、『グルーナル・ファナ』は好きかい? 『グルーナル・ファナ』は、ノンアルコールなんだよ?」




