PLAY115 キラキラの砂④
それから私達女子三人 (厳密には十七歳と十八歳と鬼族のお姫様三人)はこの街『フェーリディアン』で買い物をオウヒさんの要望の元――買い物を心から楽しんだ。
普通に、現実世界でよくある買い物をするように、楽しみながら私達は歩き回った。
「わーっ! これなに? 半透明だ! 甘いにおーいっ!」
「飴……オレンジのぺろぺろキャンディみたいでおいしそう……」
「あんた飴食べたことないんだ。食べてみる? おじさーん、その飴三つくださーい」
「はい毎度っ! お嬢ちゃん達可愛いから特別にこれもやるよ――口に含んだ瞬間甘い味と冷たい刺激が口内を驚かせる――その名も『シュガーベット』! 特別な!」
「なにそれ!? なんかすごい! わーいありがとう!」
「ありがとうございます」
「いただくわ」
最初に目が入ったのはお菓子屋さん。
屋台にも感じてしまいそうな簡素な造りの建物で、その建物内で少し大きめで武骨な骨格が印象的な大男さんが大きな手で器用に小さな飴を作って売っていた。
その光景はまさに日本で見るお祭り屋台の飴細工屋さんのような印象で、その光景を見てオウヒさんはお店の飾られている飴を見ながら目をキラキラさせている。
欲しいという文字が目に出ているかもしれないその目を見て、私は飴屋さん (仮称)に近付いてお店に並べられている飴を見ると、視界に広がる色とりどりの飴、特にオレンジ色の飴がおいしそうに感じた私はその飴を見ながら正直な感想を述べると、シェーラちゃんも私の隣でその飴を見て食べたくなったのだろう。
大男のおじさんに動じることなくシェーラちゃんはおじさんのことを呼んで三本指を突き付けながら飴を買おうとした。
すると私達を見ておじさんは豪快だけど優しい笑顔を向けて大きな手で小さな棒に刺さった飴を私達に差し出した。
大きな手は私の頭くらいの大きさがあって、三本の飴は人差し指と親指で挟めるほど大きい手だった。
巨人族よりは小さいかもしれないけど、常人から見たら本当にでかいと思ってしまったんだけど、私はその驚きを心の中にしまい、ご厚意に感謝しながらそれを手に取って、シェーラちゃんがあらかじめ手に乗せていたお代 (一本七十五Lなので合計二百二十五L)をお店の人に渡そうとした時、おじさんは『特別に』と言いながら私達にとあるものを差し出してきた。
おじさんが差し出してきたそれは雪玉のように白くて少しだけキラキラしているお菓子で、一見するとただの砂糖を固めたお菓子にしか見えない。それが白い紙の包みにくるまれた状態でおじさんの手の中に納まっている。
でもそのお菓子も好きなのは私だけの秘密……。
よくおばあちゃんがそれを持ってきて、おばあちゃんの横でよく食べていたな―っと思っていると、おじさんの説明を聞いたオウヒさんは今まで感じたことがない言葉だったのだろう。好奇心が勝ってしまいおじさんから白い包み紙を手に取ってお礼を述べると、私もそれを手に取ってお礼を述べ、シェーラちゃんもいただくことを伝えてお代をおじさんの手の上に乗せると、おじさんはそれをぐっと握りしめて持ち上げるように自分のところに持っていくと、また豪快に笑って――
「毎度っ!」
と言って、別のところに歩みを進めた私達に手を振った。
見送る様に笑顔を向けて――
おじさんの見送りを歩みを進めながらも振り向いてみて、そしておじさんに向けてオウヒさんは大きく手を振り、私も小さく手を振りながら別れると、シェーラちゃんは小さな白い包みにくるまっていた飴を見つつ、口に飴を放り込んで頬張りながら見つめている。
その光景を見ながら私はシェーラちゃんの名前を呼び、『おいしい?』と聞くと、シェーラちゃんは咥えながら『甘いけどいい味。おいしい』と、最初はなんだか意見を述べるようなそれを言うけど、結局おいしいの言葉を零して口に含んでいたその飴を歯で『パキンッ』と折る。
折った後でシェーラちゃんは口の中で噛んで折った飴を口の中でゴロゴロと転がしたり、『がりごり』と咀嚼をしながら飴の味を味わっているシェーラちゃんを見て、私は驚きと困惑が混じる控えめの笑みを浮かべて「はは……」と言いながら私も買った飴を一口。ぺろりと舌先で味わう。
ざらざらしている舌に接触するつるりとして、且つねばっとしている感触と同時に来る甘い味。
その味を感じた私は心の中でおいしいと思いつつ、それを半分口の中で溶かすように『ぱくり』と咥えると、オウヒさんは飴をぺろぺろと舌先で舐めながら『へーへー』と、舌ったらずの言葉で私達に聞いて来た。
オウヒさんの声を聞いた私とシェーラちゃんはオウヒさんの方を向き、シェーラちゃんが「それ咥えながら喋んないで。聞き取れない」とツンッとした言葉を投げかけると、オウヒさんは気付いたのか舐めていたその行動をやめて――飴を口から離した後オウヒさんは私達に向けて聞いた。
自分の手の中に残っている白い包み紙に包まれたお菓子を見せながら……。
「ねーねー! このお菓子食べて見ない? 食べない?」
と聞いてきたのだ。
その言葉を聞いた私達は一瞬何を言うのかと思っていたけど、オウヒさんの口から零れた予想外の言葉……じゃないね。よくよく考えたら当たり前に近いようなその言葉に私達は内心『あー』と心の中で呟きながら理解した。
きっとオウヒさんは新商品なるその飴を好奇心で食べてみたいのだろう。
と……。
よく聞く話だけど、新しいお菓子をもらって食べたくて仕方がない子供って結構いるかもしれない。私もその一人で、家に帰るまでに待つことができないほど新しいお菓子。見たことがないお菓子の魅了は凄い。
その魅了に負けた結果――オウヒさんは今食べて見ない? と、オウヒさんは私達を共犯にしようとしたのだ。
オウヒさんの言葉を聞いた私達は一瞬黙ったままオウヒさんのことを見て、その後でお互いの顔を見合わせた後再度オウヒさんを見て黙ってしまう。
固まってしまったというよりも、思案をして最もな言葉を出そうと頭の中をフル回転させている所為で動けない状態なのだけど……、フル回転とは言わずとも私は頭を回転させながら思った。考えた。
言い方が悪いかもしれないけど、元々これは座って食べようと思ったり、もしくは別の日に食べてみようという気持ちもあって私は食べずに、手にしている飴を舐めようと思っていたのだけど、どうやらオウヒさんは我慢できなかったらしい……。
我慢できない所為でオウヒさんは手に乗せている白い包み紙にくるまったお菓子を見せながら私達の反応を見ている。
きっと食べてくれるであろうという希望の眼差しなんだろうけど……、正直私はどうしようかと思っておらず、むしろ一口舐めただけなのでこの後は座って食べようと提案をしたかったのが正直な気持ち。
だって食べながらはちょっと……、お行儀悪いし。
それに座るところ……、と言う名の噴水の近くとかに腰かければいいかなと思ったので、私はオウヒさんに向けておずおずと言った形で言おうとした。
そう――言おうとしたのだ。
言ったのではなく言おうとした。
けど、私が言葉を発する前にシェーラちゃんは声を上げて、オウヒさんに向けてこんなことを言い始めたのだ。
「そんなに食べたいならあそこの噴水の近くで休憩がてら舐めない? ちょうど近くに飲み物のお店があるから、そこで飲み物を買ってから休憩しましょう?」
「!」
シェーラちゃんの言葉を聞いて私は驚きの顔をしてシェーラちゃんのことを見ると、オウヒさんは即答と言わんばかりに「うん!」と言って飲み物を売っている場所を見つけるためにきょろきょろを顔を動かしている時、私はシェーラちゃんに小さな声で耳打ちをするような仕草をしながら聞いてみた。
聞いてみた理由に関しては、どうしてそう言ったのか。と言う些細な理由でもあるんだけど……、本当はシェーラちゃんならそんなこと言わないだろうなと言う気持ちがあったので、正直率直な意見としてどうしてそう提案したのかと聞こうと思ったからだ。
シェーラちゃんはあの時、『買い物を楽しもう』って言っていたから、まさにずんずんッと前に進んで買い物をする気だったのかなと思っていた。実際みゅんみゅんちゃんやメグちゃんはそっち系で、疲れなんてない様子でどんどん買い物をしていたからシェーラちゃんもそっち系なのかと思ってしまった。
私は……、意外と休みながらなんだけどね……。
そんなことを思いながら私はシェーラちゃんに聞いてみた。おずおずと言った形で、小さな声で……。
「いいの? 休憩入れても……」
「は? なんでよ」
私の言葉を聞いたシェーラちゃんは首を傾げるような顔つきで、少しむっとしているような音色で聞いて来たので、私はその言葉に対して訂正を付け足すように、『大したことじゃないんだよ』と言って両手をシェーラちゃんの前で控えめにぶんぶん振ると、その状態で私はシェーラちゃんに思っていたことを伝えるために言葉を並べた。
怒らせないように……と言うよりも、意外であることを伝えようとしながら私は聞いた。
「えっと……、だってシェーラちゃん『買い物しよう』って言って張り切っていたし、それに休憩とかしたら時間が無くなるんじゃないかなって思って……、悪い事って言いたいんじゃないの。ただなんか……」
「意外だった?」
シェーラちゃんの言葉を聞いて少し俯いてしまい、そのまま無言になってしまう私。
シェーラちゃんに図星を付かれたことで、私は無言のそれを、肯定をするほか選択がない状態になってしまい、その状態で無言になりながら俯いてしまった。
本当に意外だったし、シェーラちゃんも女の子だからもっと買い物したいんじゃないかな? って思っちゃったから……。
あ、私も女の子だった……。
そんなことを思っていると、私の言葉を聞いてシェーラちゃんは呆れるような……、というか何言っているんだと言わんばかりの溜息を吐きながらシェーラちゃんは私のことを見てこう言ってきた。
普段度同じ凛々しくて、はっきりとしている音色で彼女は言ったのだ。
「あのね――よく言うでしょ? 『体が資本』って。それって元気でなければ全然楽しくないのと同じことなのよ? それに歩きすぎて少し疲れていたからいい機会だと思って言っただけ」
「疲れて……いたの?」
「まぁね。戦いだったらそんなに疲れないのに、何で買い物になったら疲れるのかしら……。慣れないことをするのはなかなかハードね。ハンナも疲れたんならそう言いなさいよ」
「あ、えっと……、疲れていたとかそういう事じゃなくて」
「まぁ座って話しましょうよ。ちょうどオウヒが飲み物売っているところを見つけたみたいだし」
「あ」
そう言うとシェーラちゃんはオウヒさんが行ってしまった方向を指さしながら私に言うと、指さしたその先にはオウヒさんが飲み物を売っているお店の前で何かを選んでいる光景が目に入った。
丁度そのお店は現実世界でよく見るコーヒーショップに似た光景で、お店の入り口の前には黒い石板に書かれた白い文字が見える。
きっとその石板にメニューが書かれているのだろう。
そのコーヒーショップ……のようなカフェの前にいるオウヒさんのことを見ていると、シェーラちゃんはオウヒさんがいるその場所に足を向けながら「何しているの? 飲まないの?」と聞いて来た。
驚く私とは正反対の、当たり前と言うかさりげないそれで聞いて来たシェーラちゃんのことを見て、彼女の後を追う様に私は駆け寄って「あ、うん。飲む」と言ってシェーラちゃんと一緒になってオウヒさんがいるカフェの前に向かって歩みを進めていく。
内心……、現実世界によくあるカフェがこの仮想空間にもあるなんて意外だな……。と思いながら……。
◆ ◆
「仮想空間というか仮想世界にあんなカフェがあるだなんて……、異世界なら酒場的な感じなところだと思っていたな」
女子三人が飲み物を飲もうと現実世界でよく見るカフェの前に集まっていた丁度その頃……、アキ達は少し離れたレンガ造りの建物の影に身を隠しながらその光景を遠目で見つめていた。
先ほどと同じように隠れているが、轍を踏まないように少しだけ感覚を開けた状態でアキとキョウヤ、そして虎次郎はハンナ達の動向を陰ながら見守る。
そう……まさにはたから見てしまえば怪しいと言われてもおかしくないような行動をして……。
他人からの冷たい視線を背中で受け止めつつ、その冷たさを流しながらアキはハンナ達が入って行った店を見て意外だと言わんばかりの言葉を述べるが、その言葉を聞いていたキョウヤはアキの後ろで半ば諦めのような溜息と共に「そうだな」と言い――
「酒場となったらギルドが普通みたいな固定概念があるんじゃねーの? 普通の人達が酒を飲むとなったらそりゃバーとかそこらへんじゃね? まぁオレ自身異世界事情なんてわかんねーけど」
と言うと、その言葉を聞いてアキはきっとキョウヤを睨みつけるような視線を向け、手にしているとあるものに噛り付くと、アキはキョウヤに向けて一言怒声を浴びせる。
「バーは駄目だっ! 行かせてなるものか!」
「お前……、本当に馬鹿なの? 今お昼なんだぜ? 其処に行くほどあいつらは悪じゃねーよ」
というかそんなことをしたらオウヒの教育に悪いしオレ達首かっ切られるよ? 打ち首獄門よ?
浴びせられた言葉に対しキョウヤは呆れの顔を浮かべ、彼も手にしているそれを口元に持っていき、かぶりつくように頬張ると、キョウヤは口の中で食べたものを咀嚼させ、それを飲み込んだ後キョウヤは再度肩の力を落として項垂れる。溜息もしっかりと付け加えてだ。
因みに――アキ達が食べているものは昼食代わりのスコーンであり、反対に手には少しだけ苦みがあるコーヒーを手にして彼等は、さながら張り込みをするような体制で軽食をしていた。
アキの手にはチョコスコーン (三個目)とカフェモカのような甘い飲み物『エレルメリ』を。
キョウヤの手にはプレーンスコーン (二個目)とカフェオレを。
虎次郎はただの緑茶を飲みながら彼等は軽食をしつつハンナ達の動向を見守っている。
正直こんな仮想空間で現実世界と同じ……、否――少しだけ違うが似ている物を食べるという行為は新鮮さと懐かしさもあり、食していたキョウヤはアキの話を聞きながら思った。
――こんな世界でも、この世界を創った理事長はプレイヤーのことを考えて設置したのかもな。こんなにも現実世界と同じ食べ物ってあまりねーし……、それに殆どがハンナの手作りものだったから、久しぶりにお店の物を食べたな……。
――なんとなく懐かしい感じがする……。
現実世界では当たり前に感じていた買い食いもとい現実世界にある物を口にしながらキョウヤは思った。
懐かしいそれを感じつつ、仮想空間もとい異世界と言う世界観を重視した世界にコーヒーやスコーンと言った現実のものがあることにも驚きつつも、キョウヤは疑念と言う感情を無視してコーヒーに口をつける。
ずずっと啜った後口の中に広がるカフェオレの苦みと仄かな甘み。それと同時に先ほど口に含んだスコーンが苦みを緩和し、甘さをより引き立たせる。
その触感と味を少しの間堪能していたキョウヤは、ふと虎次郎に視線を向け、振り向き様に虎次郎のことを呼ぶ。
先ほどからなにも話していない。何かを考え込んでいるような真剣さを帯びた顔を隠さずにいる彼に向け、キョウヤは『どうしたんだ? そんな顔して』と聞くと――アキは物陰から見る姿勢をやめながら虎次郎たちがいつ方向に視線を向けると、彼は虎次郎とキョウヤに向けて言ったのだ。
自信満々の面持ちで、「これが正解です」と言わんばかりの堂々とした……、いいや、どや顔を含めたそれで彼は言った。
「きっとシェーラのことが心配で警戒しているんだよっ。キョウヤとは違って虎次郎さんは俺の味方なんだよっ」
「お前のそのどや顔に目潰しして―よ。なに自慢げに正解っぽい事言ってんだよ」
アキの言葉にキョウヤは内心苛立ちが込み上げて来そうになるが、それをぐっと堪えてキョウヤは口だけでアキに口撃を繰り出す。
まさに静かな怒りの突っ込みと言ってもおかしくないそれでだ。
しかし――
虎次郎はそんな二人の言葉に対し返答しない。どころか聞いていないのか、真剣な顔のまま辺りを見渡しては考えるように小さな唸り声を上げて髭に指を添えて撫でる。
まさに自分の世界に入っているかのような雰囲気を見て、アキもキョウヤもひと悶着をやめて虎次郎に視線を向けると、口を開いたのはアキだった。
アキは虎次郎に向けて「虎次郎さん?」と首を傾げるような仕草が出そうな声で聞くと、虎次郎はようやくアキの声が聞こえたのか (そもそも先程の声の方が大きく感じるはずなのだが、その声でさえ聞こえなかったということは相当考えることに集中していたのだろう)、虎次郎は「あ、あぁどうした?」とアキに向けて聞くと、アキは虎次郎に向けておずおずと言った形で聞くことにする。
内心――本当に聞こえていなかったんだ。と驚きのそれを心の中で思いながら……。
「い、いや……、なんかずっと静かで、どうしたのかなーって思っていたんですよね?」
「アキはおっさんが静かな理由がシェーラのことが心配だからだって豪語していたんだけどさ……。マジ……じゃねーよな?」
アキの言葉にキョウヤが付け足すように言葉を発すると、二人の言葉を聞いた虎次郎は一瞬驚いたような目のみ開き方をし、その後少し考えて居るのか視線をほんの少し斜め下に向け、すぐに顔を上げると虎次郎は二人に向けて聞く。
真剣な面持ちで――自分はおかしくない……否、自分の感覚は正しいだろうという気持ちを乗せた言葉で、彼は聞いたのだ。
「気付かんのか?」
「?」
「気付かん? って、何にだよ?」
二人の言葉を聞き、虎次郎はこの感覚は自分しか感じていない。この二人が気付いていないことを理解すると同時に、更なる感情をふつふつと湧き上がらせながら彼は続けて聞く。
真剣そのものの、まさに神経を研ぎ澄ませているような音色で彼は二人に聞く。
「いやな……、感じるんだよ。儂等のことをじっと見つめているような、そんな視線を」
「視線って……」
「お前俺を見て『犯人はここにいます』とか言うんじゃないだろうなっ? 俺じゃないからっ! 俺はハンナ達のことを見ているだけでむさ苦しい男なんてこれっぽっちも関心ないわっ!」
「言ってねーし過剰反応はあぶねーぞ」
虎次郎の言葉を聞いたキョウヤは何かに気付いたのかアキの方を見て無言の視線と言う名の圧を向ける。
圧を感じたアキははっとキョウヤの視線と言葉になりそうなそれを察知したのか、彼は全力と言わんばかりに訂正のそれを述べに述べまくる。
しかしその反論が仇になったのか、キョウヤは呆れの視線をアキに向けながら簡潔で冷めた言葉を向ける。
心の中で――お前、今妹を見ています発言したな。最悪の想定もしたうえで止めないといけないかもな……。と思いながら、今後の静止の仕方に見直しを入れようと思っていたが、そんなアキの言葉を聞いても虎次郎ははっきりとした音色で「そうではない」と言い、虎次郎の言葉を聞いて驚いた顔をした二人は、虎次郎の方を向きながら心の中で首を傾げていると……、虎次郎は言ったのだ。
己の頭上を見上げ、見上げた瞬間物陰に舞い込む少しだけ涼しい風を感じながら虎次郎は言った。
「感じないのか? 儂等を見ているかのように突き刺すような視線を」
「視線?」
「アキやオレ達のことを見ている視線じゃねーの? 物陰に隠れているのに周囲の視線が痛々しい」
虎次郎の言葉に対しアキは行動で首を傾げ、視線なんてあるのかと思いながら辺りを見渡そうとしたが、キョウヤは十中八九アキの所為だろうと思っていたので、アキのことを見ながら辛辣な突っ込みを入れて虎次郎に『これだろ』と言いながら指を指す。
キョウヤの言葉を聞いていたアキは掴みかかるということまではしなかったが、その場でキョウヤのことを見ながら怨恨の靄を吹き出し睨みつけている。そんな睨みの視線に気に掛けることなくキョウヤは虎次郎に向けて安心してくれと言わんばかりの気遣いで言う。
「おっさん心配すんなって。視線も何もかもこいつとオレ達の所為」
「いいや、そうではないんだ」
「「?」」
しかし、虎次郎はそんな二人の言葉を遮る様に頭を振るい、再度辺りを見渡しながら言葉を続ける。突然の言葉に驚きと疑念を抱いたアキとキョウヤに説明するように、虎次郎は言ったのだ。
「この視線はただの視線ではない。この視線は、獲物を狩る……、いいや、これはまさか……奪おうとしている視線やもしれん」
「奪う……」
「視線……? 本当なのか?」
虎次郎の言葉を聞いた二人は言葉を失いそうになる気持ちを何とか平常心でかき消し、虎次郎の言葉を脳内で一度再生しながら虎次郎のことを見る。
虎次郎の言う言葉がもし本当であれば、奪う対象がいるとなれば……、そんな最悪の想定も思考の中で生まれ、彼ら二人は虎次郎に聞く。
「確かではないが、この視線はまさにその視線だ。獲物をじっくり観察し、時を見計らい実行する。まさに狩人の気配だ。確実に奪う時が来るのを待ち続け、時が来た瞬間噛み付く」
「狩人」
「その狩人の狙っている方向って……まさか……な」
「………そうでないことを願いたい」
虎次郎自身杞憂であってほしい気持ちが勝っているが、拭えないその感覚もあって杞憂がどんどん現実になっていく感覚を察知しつつある。それを言葉にし、アキとキョウヤに忠告のような言葉を向けると、二人は言葉を一瞬失い、アキは俯きながら虎次郎が言った言葉をオウムの様に繰り返し、キョウヤは虎次郎の言葉を聞いた後、視線をとある方向に向ける。
キョウヤが向けた視線の先で、楽しく会話している女の子三人を見て、虎次郎も頷きながらそうでないことを心から願った。
願わくば――この考え自体が杞憂で終わり、このまま楽しい時間が思い出となって刻まれてほしい。
そう願いながら三人は視線を楽しい会話をして笑い合っている女子三人に視線を向け、肌に当たる冷たく乾燥している風を受けながら彼女達のことを見る。
………その願いを壊す者がすでにこの街にいることを心の中で否定しながら。
無駄な足掻きとして、否定しながら…………。




