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PLAY115 キラキラの砂①

 同時刻……、フェーリディアンの外は風に揺られて優しい音を奏でる木々の奏でと、自然溢れる空気が緑と言う名の世界を包み、(いろどり)を与えていた。


 その光景は自然豊かと言っても過言ではない。手つかずの光景が一面に広がり、時折見せる木々の遮りが視界に新鮮と言うものを与えていく。


 そんな自然溢れる世界で歩みを進めている白銀の鎧を纏った騎士。


 いいや――鬼士と言うべきであろう。


 切り傷などの古い傷跡によってボロボロになってしまっている白銀の鎧。鎧と同時にボロボロになってしまっている紫のマント。どの装備もボロボロになってしまい一見して見ると買い替えを考えてしまいそうな外見であるが、その鬼士が身に纏う鎧からは歴戦のそれを感じさせ、それと同時に鬼士の強さを体現したかのようなそれがにじみ出ている。


 そんな鬼士の腰には丈が短い黒い刀身の短剣。背中には黒い刀身の大剣を携えている。


 二つの武器、白銀の鎧を纏った状態で鬼士。


 この世界で唯一の二つ名を持つ『12鬼士』が一人『地獄の武神』という名を持ち、ハンナ達プレイヤーの間では『最強の鬼神』と呼ばれ恐れられているヘルナイトは小さな太陽の光が木の葉の間に差し込んでいくいくつも差し込んでいく。


 その光でさえも緑生い茂る森林の道からしてみれば彩と言う名の刺激を与える素材となっている。


 いくつもの光景、刺激を感じつつもヘルナイトは鎧と鎧が触れ合う金属音を出しながら歩みを進めていく。鎧の足越しに感じ土の柔らかい感触、そして砂利の硬さを感じながら彼は歩みを進め、()()()()()に向かう。


 そう――これがヘルナイトがハンナ達に向けて言った『単独行動』の意味。


 単独行動をしなくともハンナ達と一緒に向かえばいいかもしれないと頭の片隅で思ってしまいそうになったヘルナイトだったが、それをしてはいけないと本能が制止をかけたことにより、彼は現在一人で目的の場所に向かっている。


 日差しと言う名の明るい自然の光の道を歩み、その先にあるであろう()()()()()の光景を思い出しながらヘルナイトは歩みを進め、進めながら彼は一言ぼそりと言葉を空間に向けて落とす。


 いつもの凛としている声色ではない――本当に小さく、か細く零すようにヘルナイトは呟く。


 誰に聞かせているという概念などない。


 正真正銘――独り言をごちるようにヘルナイトは呟いたのだ。


「……ここで、お前は事切れた」


 ヘルナイトは呟く。一つの会話になってしまいそうな呟きを続行しながら彼は歩みを進め、目的の場所に向かう。


 重い足取りでもなければ逆などない。


 いたって普通。


 いたって普通の足取り。


 ハンナ達と一緒にいる時と同じ、迷いなどない歩み。


 一切の曇りも何もない真っ直ぐな歩みをしながらヘルナイトはもう一度呟きを零した。


 欠けてしまっている己の記憶の海を彷徨い、漂流している記憶の欠片を見て、それを迷うことなく手に取ると、その欠片の中に写り込むヘルナイトは零していく。


「遺体は早急にお前の祖国に送ることができた。あの国は土葬が主流と聞いたが、どうだ――そっちでは先に行ってしまった仲間に会うことができたか? 再会できたか? 私はあの時何もできなかった。お前の名を聞くことしかできなかった存在だが、このくらいは許してほしいと思っている」


 記憶の海を彷徨い二度目の欠片を取る。そして己を移す。


「あの時、もう少し早く来れば助かっていたかもしれない。救えたはずの命も救えたかもしれない。それなのにできなかった。私ならばできたはずのことだったのに、それをすることができなかった」


 記憶の海を彷徨い三度目の欠片を取る。そして己を移す。


「……いいや、そんな言葉はもはや言い訳だ。あの時何もできなかったと言う言葉は自分の行いから、成し遂げられなかったことへの言い訳。何もできなかったんだ。何も――あの巨悪の前にできなかった」

 

 記憶の海を彷徨い四度目の欠片を取る。そして己を移す。


「『12鬼士』の名を持ち、なおかつ二つ名と言う大層なものを持っている存在が、笑えるだろう? 哂ってしまうだろう? 笑っていい。それほど私は愚かなんだ。大層な名を持ちながらこの体たらくなんだからな」


 だが――


 そう言った瞬間、ヘルナイトは記憶の海を彷徨うことをやめ、海面から上半身を出す。


 記憶の世界と言う事もあってその色は黒と言う世界で、その世界の海も墨汁のような黒でできている。ゆえに記憶の世界の彼がその海から顔を出すと体中に墨汁のそれがこびりつくが、そのこびり付きを意ともしない様子で彼は見上げる。


 暗い世界の中に落ちていく小さな小さな光の欠片を見つめながら彼はその光に手を伸ばし、まるで待ち望んでいたかのように手の中に納まりに行く光を己の手の中で包み、光の欠片の中を覗く。


 覗いて――欠片の中で微笑んでいる少女のことを見て――


 ざっと――ヘルナイトは足を止める。


 足を止め、そして己の足元にある小さく、そしてしっかりとした造りで置かれているそれを見降ろした後、徐に腰を下ろす。


 しゃがむように降ろした後目の前にあるそれを見つめ、一呼吸置くように少しの間無言になった後――ヘルナイトは言う。


 先ほどの小さな声とは違い、凛としている音色で、覚悟も合わさったその音色でヘルナイトは言った。


 目の前にあるそれに手を伸ばしながら、彼は言う。


「その体たらくも、過ちも犯さない。私は守る。そう決めたんだ」


 目の前にあるそれに触れ、そして指の腹でその表面を撫でながら続きの言葉を零していく。


 それに刻まれているものを指で撫でながら……。


「私は今――『終焉の瘴気』に対抗するために旅をしているんだ。お前と同じように、仲間達と一緒に旅をしてここに来ている。どんな奴がいるのか? あぁ……、きっとお前が生きていたら驚くかもしれないが、『12鬼士』ではない種族達で、異国の者達なんだ。他種族の妹のために命を懸け、敵に対して躊躇いなどないが、それでもどの誰よりも人格と言うものを大きく持っている。人間族で言うと……人間らしい人格を持ち、少し幼稚さが残っている森人(エルフ)のスナイパー。蜥蜴人と人間の亜人で槍の扱いに長けている槍の天才ランサーもいるんだ。私と槍術訓練をするとどうなるのかわからないくらいの熟練者だと断言できる。人魚とマーメイドソルジャーの魔人族の女の子は己の力に対して絶対とは言えないが自信を持っているんだが、子供であるがゆえに詰めの甘さもあり、自信過剰なところ、少し口が悪いところがあるが根は心優しいソードウィザードの女の子だ。その女の子の師匠は人間族でパラディンなんだが、武士が持つような刀を持っている人なんだ。人間族でありながらその力と神力は並ではない。きっと――色んな苦難を乗り越えてきたのだろうと思っている。そして強さも言い分なし……いいや逆に教えてもらいたいとさえ思ってしまう。それほどの実量を持っている人と、最後に――私と同じ『終焉の瘴気』を浄化することができる『詠唱』を授かった女の子がいるんだ。その子は前に話した四人とは違い、戦う術を持っていない。癒す力を持っている女の子なんだ。この世界において癒しは高等技術。それを持っていること自体すごい事なんだが、どうやら戦えないことに対して不安を抱いているらしいんだが、そんなの関係ない。むしろ――誇りを持ってほしいと思う」


 そう言って、ヘルナイトは撫でていたその手をそっと離し、屈んだ状態で彼はそれに向けて言う。


 目の前に置かれている厚みのある長方形の石の目の前で、その意思の表面に書かれている名を見つめながら彼は言った。


「生きたいと思う者達に手を伸ばし、命と言う糸をつむぐことができるのは回復の力を持った者達だけ。その命でさえも吹き返すことができるのは、彼女しかいないと私は推測している……。ではないな、きっと彼女しかない。そんな彼女が己のことよりも他人を優先にし、傷つき罵られていくなど許せない。浄化のこと云々ではなく、私は守っていく。これからも、ずっと――守る」


 私がそっちに行くことになったら、聞いてはくれないか?


 そうヘルナイトは言い、屈んでいたその姿勢から立ち上がると、長方形の石の前に一輪の白い花を置く。白い花を置いた後でヘルナイトはその石を少しの間見つめ、小さく何かを呟いた後、彼は踵を返してきた道を逆走するように歩む。


 せせらぐ木々の音色と共に、意志の前に置かれた白い花の花弁が風の力によって僅かに揺れる。揺れると同時に一つの花弁が風に乗って舞い、宙に浮いたかと思うと重力によって地面に向かって落ちていく。


 ひらり。


 ひらり。


 そのまますとんっと地面に向かうのではなく、ジグザグに宙を舞いながら花弁は落ちていき、終着点となる場所に音もなく落ちる。



 落ちた場所――長方形の石の上に……、その石の表面の書かれている『アッシュル』と言う名が書かれている石の上に。





 ◆     ◆



 これは、彼にとってすれば何度目になるかわからない誓いになるかもしれない。


 だがこの誓いは今まで交わしてきた近いとは違い、自分自身に対しての誓いに近いようなものになる。いうなれば――自分に対して誓いを立てる。誓約に近いような行い。


 誓約。


 それは約束。


 しかしそんな生易しい約束をするほどヘルナイトは己に対して甘くない。


 彼にとって――この誓約はまさに縛り。


 しかし彼にとって鬼士としての覚悟でもある。


 守る。


 それは曖昧で漠然としているが、わかりやすく、そして大きな言葉。


 言葉にすると簡単に聞こえてしまうその言葉も行動と言う表現で表すと早々達成することができないもの。


 守るとは――それほど強大な縛りなのだ。


 その縛りを課して、武神は歩みを進める。


 この国のために――そして、今ともに行動している者達のために……。



 ◆     ◆



「うんうん。女子同士で話し合っているな。これでハンナも普通で細やかな日常を楽しむことができる」

「お前さ……マジでやべーと思っちまったよ。珍しくお前の人柄に関して感動したのに、その感動も一瞬で消え去ってしまった。砂と化して消えちまったよ。そのくらい呆れているんですけどね? オレ」

「何に対して呆れとるんだ? これはあきなりの愛情と言うものだろう」

「おっさんこれを愛情として捉えるなら大間違いだぞ? あんたの目おかしくなってんのか? 視界に映る世界おかしいんじゃねーの? 完全に愛情が暗黒のそれに染まっているぜ? 完全に狂って行く方向に向かっている傾向だぞ? いいのそれ。オレの思考が変なのか?」

「キョウヤそれ以上喋ったらシェーラ達に気付かれてしまう。落ち着いて静か―に」

「オメーがオレの怒りを逆撫でしてんだぜ? 逆撫でしてるって自覚あるのかこんの性根まで染まってしまったシスコン馬鹿」

「むぉっ。動いたぞっ!」


「よし……、追おう」

「了解」

「………もういいや」


 ここでいったんワンクッション。


 誰もがこの会話を聞いて違和感を覚えただろう。


 前回――アキの提案によりハンナ達女性陣 (ハンナ、シェーラ、桜姫の三人)はアキの提案に乗る様に少し話してから彼女達はつかの間の休息の様に、つかの間の買い物を、日常を楽しむために足を進める。


 しかし今回の話しの最初に出てきた会話に彼女達はいない。どころか話しているのは女性ではなく男性なのだ。しかも小さい声でしか会話していないという――一見して見れば危ないそれなのだが、


 この会話の主軸となっている存在達はハンナ達の近くで話していない。どころかこの会話をしている存在達は彼女達の視界から外れる位置で隠れながら話しているのだ。


 小さな声で、絶対に女性陣に気付かれない気配の殺し方をして……だ。


 この光景ははたから見てしまえば危ない領域。


 言葉にしてしまうと危ないことになってしまう可能性が高いのでここでは言えないが、そんな状況で彼ら成人男性二人と老人一人は建物の物陰から彼女達のことを見ていた。


 周りで歩いている人達の奇異な視線、蔑みの視線に気持ち悪いものを見てしまった視線など、様々な視線を感じてはいるがあえてそれを無視しているアキと、視線に気付かないまま純粋な気持ちでシェーラ達のことを心配しているタフの師匠、虎次郎。


 そしてそんな二人のことを見て呆れ、様々な視線を背中と蜥蜴の尻尾で受けながら精神をすり減らし。モルグの『神力』をどんどんすり減らしているキョウヤ。


 この状況であればキョウヤの思考回路こそが最もまともかもしれないが、キョウヤの感情はアキと虎次郎にとってすれば変わっている感情。


 羞恥によって身を小さくしている場合ではないのだ。


 なにせ――この二人は……、いいや、厳密にはアキの企みによって3人は行動しようとしているのだ。


 女性陣三名のハンナ、シェーラ、桜姫の背後で尾行しながら監視をするという、一見すればやってはいけないことをするために。


 なぜこうなってしまったのか? 


 それは『フェーリディアン』に何とか入ることができ、ヘルナイトの単独宣言からアキによる発案からすでに始まっていたのだ。


 そう――全部アキによる策略で、ハンナ達女性陣とキョウヤ達男性陣は、アキの掌の上で踊らされていた。


 アキの策略の中にまんまと引っかかってしまった。の方が正しい。


 …………一応言うが、アキは純粋な気持ちで行動している。


 そう、()()()()()()()()()()()()()()で行動している。


 敵に操られている。実は元から敵の立場でいました。と言うような設定はなく、この行動はアキによる優しさと彼の思い愛が混ざった結果こうなってしまったのだ。


 説明をせずともわかるかもしれないが、アキは誰もが認める妹愛がすごい。


 いうなればシスコンだ。


 アキはハンナのことを大事にし、彼女のことを第一に考えているので、ハンナのことになると激情してしまったり仲間に迷惑をかけてしまうことも多々ある。


 しばしばではなく多々である。


 そんなアキだがハンナに対しては優しい兄であることは間違いない。


 彼自身ハンナのことを束縛してまで大切にしようとまでは思わず、逆に何不自由なく幸せに人生を全うしてほしいと思っている。普通に、幸せに――自分の様になってほしくないから生きてほしいとアキは思っている。


 思っているのだがキョウヤやシェーラ達からしてみれば重く見えてしまうのも事実。


 先入観がそうさせているのかもしれないが、それでもアキはアキなりにハンナのことを考えた結果今回の計画を実行に移したのだ。


 いつもいつも浄化やいろんなこと――メグのことやこのアズールで出会ってきた者達の過去のことや辛い事、プレイヤー達の非道な思考回路で精神をすり減らしている彼女のために、一時的でもリフレッシュしてほしい。


 その願いを込めてアキは桜姫の買い物に便乗してハンナとシェーラを桜姫の買い物に付き合ってほしいと頼んだ。


 表は桜姫の願いを叶えるため、護衛と言う面目を消さないために。


 裏ではハンナのためのサプライズとして、アキはハンナに買い物を楽しんでと言い――


 ――自分はそんなハンナのために目を光らせる。



 ()()()()()()()()()()()()()()()()()



 桜姫の護衛を背後から行うと虎次郎に対して口実を作ると同時に、自分もハンナのリフレッシュを邪魔するものを排除する口実を作ることに成功したアキは、その行動を今まさに実行しようとしていたのだった。



 ◆     ◆



「いや『いいや』じゃねぇわ馬鹿っ。危ない危ない。このままこいつを野放しにしたら危ない! 暴走を止められるのはオレだけなんだっ。オレしっかりしろっ!」


 長い長い解説と言う名のワンクッションが終わった後、キョウヤは己を戒めるために両頬を両手でバシンッとハエを叩くように叩く。


 ばしんっ! と、乾いた大きな音がキョウヤなりの戒めの大きさを表し、その音を放った後キョウヤは一度深呼吸をして己の感情を落ち着かせた後、目の前にいる二人の人物の背中を見て言葉を放った。


 呆れるような音色ではあるが、それでも芯は止める気持ちを固めているような音色でキョウヤは目の前にいる二人――現在進行形で買い物を楽しもうと歩いているハンナ、シェーラ、桜姫のことを見ながら隠れているアキと虎次郎に向けて彼は言った。


 はたから見てしまえば正真正銘の危ない人に見えてしまいそうな二人に向けて。


 因みに――ハンナ達に聞こえないように全員小声で話しているので安心してほしい。


「お前等マジでこれ以上のことをしたらオレ達完全にこの街から出禁になるぞ?」

「出禁になったとしても俺は信念を貫く。だって妹がつかの間の休息を楽しもうとしているんだぞ? しかも女の子友達と一緒にだぞ? その休息を邪魔する輩がいてもおかしくない」

「おかしいのはお前の頭だ。絶対に敵に回したくない奴に入るぞお前。考えすぎなんだよ考え直せ」

「考え直すなんて笑止千万っ! 馬鹿かキョウヤはっ! フツーに考えたら女の子同士の買い物こそ危ないんだぞっ!? 変質者に狙われてしまう確率が高いんだぞっ!? その確率を下げるためにがいるんだっ!」

「お前がバカだよ。お前が変質者だよ。周りをよく見なさい。ぐるりと三百六十度回ってみなさい。オレ達すんごく目立っているだぞ? 現在進行形でオレ達が変質者となりつつあるんだよ。ホレ見て見ろ周りを。誰もが物陰に隠れてハンナ達の背中を監視するように見ているオレ達のことを奇異な目で見ているんだぞ? 小さな子供に対して『見てはいけません』と言わんばかりに目を隠している親もいるんだぞ? よくそれ見ずに堂々とできるな」


 小声にすることを意識しながらキョウヤはアキに話すが、そんなことどうでもいいと言わんばかりにアキは溜息交じりの言葉をキョウヤに向けて吐き捨てる。


 まさに己の道を貫き通すと言わんばかりに有言実行。はた迷惑の有言実行だ。


 振り向きながら言うその光景を一般視点からしてみれば怒りが浸透してしまいそうなそれだが、それを堂々と行っているアキはかなりメンタルが強いのだろう。虎次郎も視線を意に返さないその精神を見てキョウヤは内心思った。


 ――この堂々とした振る舞い鬼不神さんとは違うものを感じる。大物になるかもしれないな。ある意味。


 そんなことを思いながらも結局は常識の方が大事だという思考のキョウヤは心が折れないように己を奮い立たせながらアキに向けて『やめろ』と言い聞かせるが逆効果となる始末。


 最も常識を持っているキョウヤに対して『お前の頭がおかしい』発言を堂々と怒りのまま、感情の思うが儘にしてしまうアキを見て、キョウヤは心で思っていた言葉が口に出てしまう。


 それが『お前がバカだよ。お前が変質者だよ』である。


 心で隠せないほど怒りが一時的に爆発したのではなく、無意識に口から出てしまっただけのことで、キョウヤはその言葉に対して訂正などせず続ける。


 一応もう一度言うが彼等は小声で会話をしている。


 大声に聞こえてしまうかもしれないが彼等はハンナ達に聞こえないように極力小さな声で話している。まさに物陰に隠れる忍者の如く。


 いいや――物陰に隠れて見つめる者のように……。


 アキと会話をしているキョウヤは最終手段として周りの視線を小さな声をさらに小さくさせた音色で言うが、その言葉も虚しくアキは視線をハンナに向けて――


「そんなことを気にしていたらだめだ。もしここで何者かが近付いて」

「っつー妄想で誤魔化そうとしても無駄だっつーの。そこまでしてまで妹のことが心配なのか?」

「心配だよっ!!」

「食い気味に言うな。怖い怖い。勢いあるその顔やめろ怖い怖い」


 と、まさに鬼気迫る顔を向けられた瞬間、キョウヤはその気迫に気圧されてしまい臆してしまった。ビビってしまい後ずさってしまうほどキョウヤはアキに気迫に負けてしまった。


 小さな小声であるにも関わらず、なぜか大きな声を言い放っているように聞こえてしまうのは気迫の所為なのだろう。その時に感じた感覚は嘘をつかないということなのだろう。そうキョウヤは心の中で思っていると、唐突に虎次郎が小さな声で二人に言い放った。


 視線をアキ達に向けず、ハンナ達に向けたまま――


「静かにした方がいいぞ。このままでは怪しまれてしまう」


 と、まさかの発言を堂々とした言葉で言う虎次郎にキョウヤは唖然とした顔のまま固まってしまい、アキはその言葉を聞いてほくそ笑むそれが顔に出かかっていた。


 ほくそ笑むその顔はまさに『味方現れた! ラッキー』と言わんばかりのそれで、キョウヤはそんなアキのことを見て、虎次郎のことを見ながらなんとも失礼なことを心の中で呟いたが、ここは言葉にしないでおこう。


 かなり失礼なので。


 そんな失礼発言を心の中でしてしまったキョウヤだが、その気持ちも虎次郎の次の言葉によって消えることになる。


 驚きと嬉しさで言葉を発していない二人のことを気にも留めず、虎次郎は視線をハンナ達に向けたまま小さな声で続きの言葉となるそれを口にした。


「儂等は極秘でこの場所に来ている身なのだ。『おうひ殿、姫様の御守り……いいや子守を頼まれた我々がその役目を放棄するように鬼族の姫君をこの場所に誘った。それはれっきとした役目放棄。となれば()()が来てもおかしくないであろう」

「「!」」


 追手。


 その言葉を聞いた瞬間二人の表情に緊張のそれが迸る。


 確かに桜姫は鬼族の姫であり、アキ達はその桜姫を守るために表場は『アルダードラの試練で子守を任されている立場』なのだ。


 子守と言う事は危険にならないようなことをさせない。起こさないことを徹底しないといけない。


 脱走もその一つで、桜姫の命に危険が伴うような目を早めに摘むために行ってきたのだ。


 それを破り、彼等は今桜姫のために買い物に付き合っている。


 それは桜姫の願いを叶えることでもあり、鬼族の暗い未来を変えるために行っていることでもあるのだが、それを『はいそうですか』と許せるほど鬼族は甘くない。


 きっと追手を向かわせる。桜姫を捕まえるために追手をし向けるだろう。


 ――生死など関係なく……。いいや、跡形もなく消す勢いで。


 その危険を考えたうえで虎次郎は驚いて気付いた二人に言葉だけを向けた状態で続きを言う。視線をハンナ達に……、いいや桜姫に向けた状態で虎次郎は言う。


「追手が来てしまえばこの計画は台無し。どころかそれ以上の束縛を強いるやもしれん。いともたやすく自由を奪う――監禁も簡単に行ってしまいそうな輩がいるのであれば姫君の心が壊れてしまう。鬼の未来と言うものが完全に断たれてしまい、これ以上の負の連鎖が大きくなってしまう。そうなってしまわないように、儂等がしっかり目を光らせておかねば」

「あー……。だな。そう、だよな。考えていなかった。わりぃ」


 虎次郎の言葉を聞いていたアキは何も言葉を発さずに聞き入っていたが、キョウヤは虎次郎の言葉に対し少しバツが悪そうな顔をしたが、すぐに自分の考えに対して改めて浅はかだったかもしれないと思い、頭を掻きながら謝罪の言葉を述べた。


 浅い考えのまま自分の意見を述べて通そうとした結果、最悪の想定が起きてしまうかもしれなかった。どころかそれを招いていたのが自分であったことにキョウヤは反省のそれを示した後で虎次郎に謝りのそれを零したのだ。


 そこまで考える余裕がなかった。目の前のことしか見ていなかったことに対して愚かだと思いながら……。


 キョウヤの謝罪の言葉を聞いた虎次郎は視線をキョウヤに向けず、桜姫達に向けたまま――


「人間間違いを犯す者。間違えない人間などいない。それを教訓として生きて学ぶ。それこそが人間なんだ」


 気にするな。


 そう言って虎次郎は言葉を区切る。区切った理由は三人のことを監視することに専念しているからだろう。その光景を見てキョウヤは再度頭を掻き、心の中で――今回だけはオレも。と思った瞬間。




「っ! 隠れろっ!」




 突然聞こえたアキの小さな金切り声。


 それは驚きと切羽詰まったそれが合わさったかのようなそれで、その声を聞くと同時にアキは二人を押しこもうと両手を広げて二人に向かって前のめりになって大きな前進――跳躍を入れた全身を行ったのだ。

 

 驚きの行動に対して一瞬固まってしまったキョウヤと虎次郎は、されるがままと言う言葉通りにアキの手によって物陰の奥に追いやられ――



 ゴンッ。



 と言う鈍い音が物陰から小さく発せられた。

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