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PLAY114 フェーリディアン⑥

 それからのことに関しては、簡潔に説明しようと思う。


 ヘルナイトさんの突然の別行動宣言を聞いた私は、驚きよりも寂しさを感じながらどんどん離れて行くヘルナイトさんの背中を見つめていた。


 今までこんなことなかったので正直ヘルナイトさんの反応には混乱しかなかったし、なぜ突然胆道行動をするのかと言う理解のできない感情もあった。


 最初こそ単独というか、私達の行動の妨げにならないように距離を置こうとしていたけれど、今回は違う。


 はっきりとした単独行動。


 アキにぃにも単独は避けた方がいいと言われたにも関わらず、その言葉に異議を唱える様に、反論するような行動をしてヘルナイトさんは私達から一時的だけど離れた。


 本当に一時的だと思うけど、それでもなぜか心がざわついてしまう。


 多分一緒にいる時間が長すぎたため、突然の単独行動に不安を覚えているのかもしれない。


 でもそれ以上に――私は不安と言う何かを抱いて、寂しさと言う確かな感情があった。


 というか、この寂しさが上回っていた。


 だからヘルナイトさんの単独行動に対して一番執着していた。心配していた。


 心配していたけれど、この場所で、何もしないまま待っていてもことは始まらない。


 どころかせっかく来たのにここで待つなんて時間の無駄だ。


 そのことに気付いたのか、ヘルナイトさんの単独宣言から少しして、いつもの調子を取り戻したアキにぃは気を取り直してと言わんばかりに私達に向けてこれからのことを――少数編成のことについて話をした。


 まずオウヒさんの要望でここに来たのだから、オウヒさんの要望には絶対に対応することを再三指摘された時、シェーラちゃんは呆れるような溜息と共に「分かっているわよ」と言いながら呆れのそれを零したけど、アキにぃはそんなシェーラちゃんの言葉を無視するように話しを続ける。


 オウヒさんの要望にはしっかりと応えることは当たり前な事なんだけど、そんなオウヒさんのことを護衛する人は少数で――且つ男性ではない人の方がいいと思う。


 特に二人ほど人員を割いて言った方がいいかもしれない。


 そうアキにぃが言うと、その言葉を聞いてキョウヤさんははっと何かに気付いた声を零し、虎次郎さんも手を叩いて「あぁ」と言うと、虎次郎さんとキョウヤさんの顔を見てアキにぃは頷いて、私とシェーラちゃんのことを見た後、アキにぃは私達に近付き――お互いの肩に手を置きながらアキにぃは言ったのだ。


 アキにぃにしては珍しい言葉を私達に投げ掛けてきたのだ。


「ハンナ、シェーラ――二人はオウヒさんと一緒に行動してほしいんだ」


 お願いできるかな?


 アキにぃの以外と言えるようなその言葉に、私はおろか他のみんなも驚いた顔で固まってしまった。オウヒさんは例外で、彼女は私達の顔を見ながら首を傾げている。


 しかもにこやかに、一体何が起きているんだろうという蚊帳の外を思わせるような笑みで……。


 でも私達はそんな顔すらできないような面持ちでアキにぃのことを見ている。


 今までアキにぃのことに対して突っ込みを入れていたキョウヤさんとシェーラちゃんも驚きの顔をしていたし、私だってまさかアキにぃがこんなことを言うとは思っても見なかったから、正直言葉にすることすら一瞬忘れてしまっていた。


 いつものアキにぃなら……、『俺とハンナは一緒に行動』と言いそうな展開で、その展開にキョウヤさんとシェーラちゃんが激怒の突っ込みを入れるのがいつもの流れだったはず。


 でもその流れが流れず、どころか変化球のような言葉が来た時、私自身一体なぜ? と思ってしまいそうになり、その思いを言葉にして言おうとした時――突然オウヒさんが私とシェーラちゃんの腰に抱き着いて……。


「うん! 私はいいよっ! だって女の子同士のお買い物ってなんか楽しそうだものっ!」


 と私の思いを遮る様に言うオウヒさん。


 オウヒさんの言葉に対してアキにぃは安堵のそれを零して「それならよかった」と言うと、再度私達に視線を向けた後――アキにぃは私とシェーラちゃんに向けて言った。


「オウヒさんは女の子。男の人と一緒に行動した方がそれは安全面で言うといいかもしれない。護衛としてで言うとそっちの方がいいかもしれないけど、一応彼女の目的はここにきて買い物をするだけ。それだけだから、買い物のことに関しては同じ同性のシェーラとハンナに任せたいんだ」

「ちょっとなに言ってんのよっ。あんたらしくないことをこんな時に言わないでよ」


 でもそんなアキにぃの言葉に対して『はいそうですか。わかりました』と頷かないシェーラちゃんは、アキにぃに向けて続けて追撃じみた言葉を投げかける。


 呆れている……のではない。正直シェーラちゃんも混乱しているのだろう。アキにぃならこう言うということが起きず、どころか斜め上の発言を聞いて一体どんな風に返せばいいのかわからない状況のなか、まとまっていない思考の中でシェーラちゃんは言えることを余すことなく言おうとアキにぃぶつけにかかる。


「あんたなら『死んでも妹の傍にいたい』とか『妹と離れてしまったら俺は寿命が縮んで死んでしまうから俺はハンナと一緒に行動する。お前らは別行動』とか『妹と一緒に行動するだなんて羨ましすぎて嫉妬狂いそうだ。俺も連れて行け』とか言いそうなあんたがそんなことを言うとか、もしかして……、熱あるの? 熱があると性格が変になるとか、そんな追加設定的な人格を持っているの?」

「お前俺のことをそんな目で見ていたのか? 俺=シスコンのイメージがあまりにも気持ち悪いよ。おあとお前俺のことをそんな風に見ていたのなら俺に謝りなさい。そして全世界のシスコンに謝れ」

「そうじゃないってことはマジで言っているってこと? それこそあんたキャラ崩壊と言っても」

「聞け馬鹿魚人っ。俺は正常っ! ザッ! 正常なんだよっ! お前の頭の中の俺はどんだけいじゅお者に成り下がっているんだっ! 成り上がれないほどお前の脳内の俺は品減を捨てているし、それにキャラ崩壊していませんからっ! 至極真っ当な意見を述べているだけなんですーっ! わかってください―っ!」

「マジで今正常なのね。マジで正常で言っているということは本気でそう思っている言って事? 一体全体どうしたのよ」

「お前本当に失礼だな。社会生活に絶対になじめない人種だぞ」


 とまぁ、アキにぃとシェーラちゃんの口論は後少し続くことになるんだけど、全部五話してしまうと想像以上の文字量となってしまう可能性が高いので一区切りとしてこれだけを回想にして教えます。


 本当に全部を教えるとなるとすごいことになるという危険を感じた私は一部抜粋の如く二人の会話を一部だけ紹介することにした。現実――アキにぃ達はそれ以降も話をしていたけどね……。


 その会話を聞きながら私とオウヒさんはお互いの顔を見た後、アキにぃとシェーラちゃんのことを見てお互いのことを交互に見詰めるという常套の行いをする。


 心なしかなんだけど、二人の会話を楽しんでいるようにも見えるけど、それは気のせいだと思いたいな……。


 オウヒさんとは正反対に、私とキョウヤさんは間に入れないままおろおろとして二人のことを見て、虎次郎さんはシェーラちゃんのことを見てなのか、深くて重いため息を吐いて項垂れる。


 きっと……、虎次郎さん自身もシェーラちゃんのこの性格に関して頭を悩ませているのだろう……。


 でも今はそのことを論点にすることはしない。どころか関係ないからしない。


 今の論点は――少数編成でどうするのかと言う事。


 って、それで話していたらこうなってしまって、話しが進まなくなってしまったんだった。危ない危ない。


 流石にこれ以上口論していたら日が暮れてしまうかもしれないと思ったのだろう。キョウヤさんは二人に間にいい加減にやめろと言わんばかりに入り込んで、二人の間に両手を差し入れて『ストップ』の声を上げてから二人の諫めを始めるキョウヤさん。


 本当に……キョウヤさんには感謝しかないです……。


 キョウヤさんの諫めもあってか、シェーラちゃんとアキにぃは何とか冷静さを取り戻して、取り戻した後で最初に口を開いたアキにぃはシェーラちゃんと私に向けて――


「だ、だから言っただろうが……。俺は正常だし、二人に頼んだのは女の子の買い物は男にはわからないし、こう言う時は女の子同時の方がいいと思ったから二人に頼んだんだよ。邪な感情をここで出しても損しかないだろう?」


 と言うと、その言葉を聞いたシェーラちゃんは再度驚きと困惑の顔をしながら小さな声で『まさか……、こんなことがなかったら妹と一緒に行こうとしていたの……? それはそれで気持ち悪いわ」とアキにぃのことを罵る……、というかディスるような言葉を零す。


 その言葉に対してアキにぃは再度シェーラちゃんに詰め寄ろうとしたけど、その行動に対して諫めをかけるキョウヤさん。まるで『ステイ』をさせている飼い主のような光景だ。


 アキにぃのことを見てシェーラちゃんもさすがに言い過ぎたと思ったのか、小さな声で「悪かったわよ……」とアキにぃに対して謝罪の言葉をかける。


 その言葉を聞いてアキにぃは少し怒りが収まったのか、キョウヤさんから少し離れて浅い深呼吸をした後――前髪をたくし上げるように手を置く。そしてガリっと頭を掻いた後、アキにぃは言った。


「話を戻すと――」


 と、最初に言わなければいけないことを伝えてから、アキにぃは私達に向けて言う。

 

 これからのこと――つまりはこれから買い物をするにあたっての色んなことを私達に伝えるために。


「オウヒさん。これから人間界……じゃないな。鬼族だけの世界じゃない他種族の世界を堪能してもらいます」

「はーい」


 アキにぃはまさに引率の先生のような言い回しをしながらオウヒさんに言うと、オウヒさんはアキにぃの言葉に対して元気よく返事をして挙手をする。まさに引率の先生と生徒のような光景。


 その光景を見ていた私達は互いの顔を見て困った顔をしてお互いの顔を見ている。


 アキにぃとオウヒさん以外のみんながお互いの顔を見て、きっと同じことを思いながらアキにぃ達のことを見ているのだろう……。なんだかアキにぃもまんざらでもない顔をしてオウヒさんに言っている光景が更に面白……、じゃなくて、やっと自分の出番だと言わんばかりのアキにぃが意気揚々と、水を得た魚の如く潤っているから、なんだか話を挟むことができない。


 そんなことを思いながらアキにぃの隙にさせておいた方がいいかなと思っていると、アキにぃはオウヒさんに向けて人差し指を見せながら続きの言葉を言う。


「勿論一人で行動するこなんてできません。どころか何年もの間――郷と言う子供部屋に引きこもっていたのですから、外の世界の『イロハ』なんてわからないでしょう」

「イロハって……なに?」

「外の世界のルールとか、あれこれのことよ」


 アキにぃの言葉にオウヒさんは首を傾げながら背後にいるシェーラちゃんに向けて聞くと、シェーラちゃんは溜息交じりの言葉でオウヒさんに簡単な説明をする。と言ってもすごく大雑把なそれだけど……。


 その説明を聞いたオウヒさんは何も考えて居ないのか、フーンッという声を零しただけ。


 オウヒさんとシェーラちゃんの話を聞いていたアキにぃは言葉を続ける。


「そこで」と言う言葉を最初につけてから、アキにぃはオウヒさんに、そして私達に向けて言葉を続ける。


「オウヒさんはシェーラ、ハンナと一緒に買い物を楽しんでください。一応常識のイロハを学んでいるシェーラと、常識人でもあるハンナに何でも聞きながら外の世界のことを勉強して楽しんでください」

「はーい」

「シェーラとハンナもいいかな? オウヒさんのためにこの場合は女の子の方がいいと思うし、それに話も合うかもしれないから頼んでいいか?」

「異議はないけど、一言余計なのよ」

「私もいいよ」


 アキにぃの言葉に対してオウヒさんはもうウキウキワクワクの面持ちで挙手して返事をする。


 そんなオウヒさんのことを横目で見て、アキにぃの言葉を聞いたシェーラちゃんと私は同意のそれを行動と言葉で示す。


 行動――それは頷きと言うそれで。


 言葉…………は、シェーラちゃんはなんだか怒っているような音色と腕を組んでいる状態だったので、その光景を見て私は諫めるように『まぁまぁ』と声を掛ける。まるで興奮している馬を諫めるような言葉だけど、シェーラちゃんは馬じゃないし、こんなことは毎度毎度あるので手慣れている。


 なのでシェーラちゃんの諫めに関してはすぐに解決できた。


 そしてその諫めが終わるとアキにぃは私達の肩を再度『ぽんっ』っと置いて、私達のことを見ながらアキにぃは言う。


 にこっと安心を与えるような笑みを浮かべながらアキにぃは私達に言ったのだ。


「そうと決まればよろしく二人共。心配せずにオウヒさんと買い物を楽しんで。俺達男三人衆はぶらぶら―っと街を歩いているからさ」

「? アキにぃ達は買い物とかしないの? 物資調達とか」

 

 アキにぃの言葉を聞いた私は驚きと言う顔を少しだけ表し、その状態で顔を上げてからアキにぃに聞く私。


 私の質問を聞いたアキにぃは「あー」と自分の頬を人差し指で『ポリポリ』搔き、その状態で少し考える様子を見せた後、アキにぃは私に視線を向けて肩を竦めながら返答をした。


「物資調達って言っても、魔物の素材を使えば食料調達できるし、ここで素材を売ってくれるギルドもないと思うから換金もできない、冒険に必要なものも買えないから、結局ぶらぶらすることしかできないんだよ。それに男同士で話したいこともあるし――女の子は女の子らしく買い物楽しんで。こんな時間、多分この先ないと思うし、もしかしたらこれが最後の安息の時間かもしれない。そうなってしまったら嫌だし……、こんな機会滅多にないんだから、今だけは普通の女の子として行動してほしい。俺達の心配は無用だよ」


 今しかないんだから――思いっきり楽しんで行って。


 そうアキにぃは私に向けて言った。


 優しく、芯がある様な言葉を――私に投げ掛けた。


 途中キョウヤさんと虎次郎さんのことを見るために背後を見て話しをしていたけれど、それも一瞬というか、少し見た後すぐに私に事を見て話しを進めて、私に伝えたのだ。


 今日だけはオウヒさんとシェーラちゃんと一緒に買い物を楽しんで。


 一時的ではあるけれど、この世界で現実世界と同じ他愛もない日常を楽しんでほしい。肩の力を抜いて今日を楽しんでほしい。


 そうアキにぃは言っているんだ。


 確かに私は、私達はアズールと言うこの仮想空間を救うために『浄化』の旅をしている。


 その旅路はまさに過酷というか、普通にゲームをして行動するのとはわけが違う。旅路の質が違うからこそ気が抜けないような日々を送っていた。


 私がログアウト――この世界で死んでしまったらみんなこの世界に閉じ込められてしまうこと。


 そしてこの世界にとって私とヘルナイトさんは希望。その希望は私とヘルナイトさんがいないとできないことで、一人でも欠けてしまってはいけないことだから、死んではいけない。気を抜くなんてことはしない。


 そう無意識の中で思いながら過ごしてきたから、アキにぃの言葉を聞いて私は思う。


 この世界に来てからずっと気を張り詰めていた。張り詰め過ぎていたら精神的にも疲れが出てしまう。だからアキにぃは私に気持ちのリフレッシュを持ちかけたんだ。


 これはアキにぃなりの気遣い、優しさ。


 その優しさを感じて、アキにぃのことを見て私は思う。


 やっぱり――アキにぃはアキにぃ。いつもと変わらない、家族のことを、仲間のことを考えて行動している優しい兄だと。変わっていないアキにぃだと思い、私は頷いて――


「分かった。一日楽しんで行くね」


 とアキにぃに言うと、アキにぃは納得の頷きをして私とシェーラちゃんの肩から手を放すと、私達から距離を置くようにアキにぃはキョウヤさんと虎次郎さんの所に後ろ向きで歩み、そして私達に向けてにこやかな笑顔を向けると――


「それじゃ――女子三人でごゆっくり」


 と言って、キョウヤさんと虎次郎さんに向き合い、二人の背中に手を付けて押しながらどこかへ行ってしまう。


 アキにぃの行動に対してキョウヤさんは驚きの顔をしながらアキにぃに何かを言って、虎次郎さんは首を傾げながらアキにぃのされるがままになっている。きっと二人もこの展開になるとは思わなかったらしく (虎次郎さんはどうなのかはわからないけど、キョウヤさんはわかりやすい……)、二人はアキにぃの誘導に無理矢理従う様に行ってしまい、その光景を見ながら私達女性陣はその背中を少しの間見つめる。


 少しの間見つめて、なんか気まずい無言のそれが辺りを包みそうになった時、シェーラちゃんが突然大きな溜息を零し、呆れている素振りをしながら頭を乱暴に掻いた後、シェーラちゃんは私達のことを見ず、明後日の方向を見ながら言った。


 私達の視線を無視するように、シェーラちゃんは――


「何が『ごゆっくり』よ。こっちはこっちでお守りを勝手に任されたようなものじゃない。というかこっちの方が大変だし、あっちはあっちで男を理由にお守りしたくなかったんでしょうね。あっきれる」


 と言っているけれど、シェーラちゃんは再度溜息を吐いて私達がいる方向に振り向きのそれをすると――シェーラちゃんは私達に向けて聞いた。


 なんとも呆れている且つぶっきらぼうと言ってもおかしくないような音色で彼女は聞いて来た。


「――で? どうするの? これから」


 その言葉を聞いて私とオウヒさんは互いの顔を見る。


 オウヒさんの顔を見た私は控えめに微笑んで「オウヒさんがここに来たかったんですから、私はオウヒさんの意見に従いますよ」と柔らかく言うと、その言葉を聞いてオウヒさんは満面の笑みを隠しているけど隠しきれていない顔でぎこちない満面のそれを零して私のことを見た後――オウヒさんはシェーラちゃんのことを見て彼女の意見にも耳を傾ける。


 言葉にしない。ただ無言でシェーラちゃんのことを見ると、シェーラちゃんは三度目の深い溜息を零して、オウヒさんと私のことを見るために体を正面に向け、真っ直ぐ私達のことを見て腰に手を当てると、シェーラちゃんは凛々しい面持ちと音色で言った。


「好きにしなさいよ。あんたが行きたいって言い出したんだから、あんたが決めなさいよ」

「――!」

「ただし」


 シェーラちゃんの言葉を聞いてオウヒさんは満面のそれを零しそうな顔をしていたけど、シェーラちゃんの遮りの言葉を聞いてその顔を零さず、堪えているような顔でシェーラちゃんのことを見ると、シェーラちゃんはオウヒさんに向けて指を『びしりっ』と指すと、指先を王尾さんに向けた状態でシェーラちゃんは続きの言葉をはっきりとした声で言った。


 しっかりとした言葉で、忠告をするようにシェーラちゃんは言った。


「これはあんたの我儘で行ったことでもあり、あんたの発言であることを忘れない。責任転換しないで自分がしたことを怒られた時に言う事。危険なところにはいかないこと。危険なところに入って相手に守ってもらおうとか思わないで、己のことは己で守って。危険を察知したら逃げる。というか私達から離れないで。これはしっかり守ってもらうから」

「えっと……、わかった」

「ちゃんと覚えていてよね――そうでもしないとあんたは絶対にどっかにふらふらこっちにフラフラしちゃうと思うから」

「し、しな――! い………、よ」

「最後まで堂々としなさいよ」


 シェーラちゃんとオウヒさんの会話を聞きながら私は思わず笑みを零してしまいそうになった。


 シェーラちゃんとオウヒさんが話しているその光景――それはまさに姉妹の会話。


 姉の役をしているシェーラちゃんは好奇心旺盛な妹の役のオウヒさん。


 その光景はまさにしっかり者のお姉ちゃんの話を聞いている妹そのものの光景。


 そんな光景を見て私は思わず微笑ましく思ってしまい顔に出てしまったと言う事。和む光景と言ってもおかしくないその光景に、思わず『クスリ』と微笑んでしまい、同時に思った。


 お姉ちゃんか妹がいたら、こんな体験するのかな……?


 お兄ちゃん二人いた時は、輝にぃがアキにぃのことを諫めていたから、私はそんな記憶がない。


 元々しっかりしていたからっておじいちゃんが言っていたけど、正直……、こんな体験もしたかったな……。


 そう過去のことに関して物思いにふけっていると……、シェーラちゃんが私のことを呼ぶ声が聞こえ、私は声がした方向に視線を向けると、少し遠くでシェーラちゃんが私のことを見て「早くしなさいよ――置いて行くわよ」と言って、その隣でオウヒさんが私に向けて元気よく手を振りながら「早く早く―!」と急かしている光景が目に入る。


 二人の姿を見て、あぁ――この感覚は久しぶりだなと思いながら、私は二人に「ごめんね――今行く」と、少しだけ張り上げる声で駆け出す。


 二人がいるその場所に向かって駆け出し、ほんのひと時しかない日常を――買い物を楽しむために、私は早く二人がいるところに着こうと駆け出す。


 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……。


「よし……、追おう」

「あいさ了解」


 そして……、しっかりと楽しんで記憶に刻もうとしていたこのひと時が壊れることもつゆ知らず――

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