PLAY114 フェーリディアン④
「いやー、まさかこんな風になっているとは思っても見なかったな」
「というか外側から見たら完全に壁だったからわかんなかったし、正直あんなの見抜けるわけないわよ」
「そのせいでオレ達ひどい目に遭ったかんな……」
「………………」
「ちょっと無言にならないで。あんた私達の中で一番に入ったくせに何で言わなかったのよ? その説明できるでしょ? 何もなかったしヘルナイトと二人っきりになっていたんだから何か言えるんじゃないの? ん? ねぇどうなのよ? んんっ?」
「っ」
「やめろ馬鹿っ。ハンナ怖がっているじゃねぇかっ。あとアキの顔を見てそれをやれっ! アキの顔がもう憎しみに染まった鬼そのものだぞっ! 見れぃ馬鹿っ!」
私とヘルナイトさんが壁の中――ではなく、壁と言う名の幻となっていたトンネルの入り口に足を踏み入れ、トンネルの中で少しの間会話をしていたのだけど、トンネルの向こうでアキにぃ達がすごいことになっていたので、私とヘルナイトさんはトンネルの入り口から顔を出してみんなに入るように促した。
みんなからしてみれば壁から『にゅっ』と顔を出すという事なので、顔を出した私とヘルナイトさんの光景は一種のホラー。
王道に近いホラーに見えたのだろう。
暴れていたアキにぃもその光景を見た瞬間絶叫を上げ、シェーラちゃん達も大声を上げて叫んだ。
その叫びはまさにお化け屋敷でよく聞く絶叫。
絶叫を間近で聞いた私は鼓膜が破れてしまうのではないかと言うような感覚を感じながら、きーんっと耳の中で小さく鳴り響く音を聞きながら頭を揺らしてしまった。
くわんくわんっと頭が揺れたことは覚えているし、頭の上にミニスペース……、土星とか火星が一瞬見えた気がしたけど、それはきっと幻覚、錯覚だと思う。
その現象もすぐに消えると、私はアキにぃ達にこの壁はカモフラージュのようなもので奥にトンネルがある。
トンネルを抜けたら『フェーリディアン』に入れることを知らせると、最初に動いたのはオウヒさんで、オウヒさんは入れると聞いた瞬間目の色を輝きを放つそれに変えて――
「行けるのっ? 行く行くーっ!」
と、小さな子供の様に楽しみにしつつ『待っていました』と言わんばかりの顔をしてオウヒさんは何の疑いも、何の警戒もなくそのまま壁に向かって走ってしまった。
まさに――旅行を楽しみにしてお目当ての遊園地に遊びに来たけど、長い間お預けを喰らってしょんぼりしていた矢先に入れると聞いた顔をしてはいる子供のような光景……。長い間待たされたことも相まってその感動も嬉しさも大きい。
小さい時、アキにぃや輝にぃが好きなところに向かって走って行くような、そんな感じと似ている。本当に『待っていましたよ』と言わんばかりに前しか見ていないような前進だった。
子供らしい可愛さもあるけれど、それと同時に大きな不安もあるのだけど、私達がフォローを入れればいいのかな……?
うん。
そう思っているとアキにぃ達もオウヒさんがトンネルに向かって行く光景を見て、じゃない……。壁の中に入っていく光景を見てアキにぃ達は再度驚きの目を見開いていたけれど、オウヒさんが入っていき、私が入っても死んでいないことを理解したのか、みんなは渋々と言った形でトンネルの中に……、外側から見たら壁に呑み込まれるように入ってきた。
最初――みんなも私と同じように背後にあるトンネルの入り口を見て驚きを隠せなかったし、それに奥にある光景を見て驚きが倍増していたけれど、ヘルナイトさんの話を聞いてすぐに理解をしたアキにぃとキョウヤさんとシェーラちゃん。
虎次郎さんだけはいまいちピンッと来ない感じで首を傾げていたけれど、キョウヤさんのわかりやすい説明でなんとか理解してくれた。
でも――結局。
『巷で聞く『とりくわーるど』のような物を使ってのどんでん返しなのだな?』
で何度も何度も理解してしまい、何度も説明をしていたキョウヤさんは肩を大きく落として、落胆の音色で「もうそれでいい……」と折れてしまったけど……。
虎次郎さんが言っている『とりくわーるど』と言うものは、きっと『トリックアート』のことだと思う。
それを使ってのどんでん返しと言う事かと虎次郎さんは理解したみたいなんだけど……、そうじゃないんだけどな―。という感情が出そうなんだけど……、虎次郎さんは何度説明をしてもそれから離れなかったし、それに時間もないこともあってキョウヤさんはなくなく折れることを選択して、説明を終わらせた。
でも虎次郎さん自身多分仕組みとかは理解していないかもしれないけど、壁が偽物だったということを理解してくれたのだからよかったと思っている。
もしあれが本当のどんでん返だと理解して、色んな壁にタックルしていたら……、多分危なかったと思うし、あの壁だけが偽物だということを知った時の虎次郎さんの驚きようは今でも忘れられないから。
あの時の驚きと同時に出たタックルの構えを見て、あ――これは絶対にどの壁でもあるのかなと言うことを検証しようとしていたんだなと思ったから……。
そんなことを考えながら歩みを進めて、私達はトンネル内で会話をしていたという事なのだけど、シェーラちゃんに鋭いところを突かれたことで私は視線を逸らしながらシェーラちゃんの言葉の攻撃から逃れようとするけど、めげようとしないどころか猛進してくるシェーラちゃん。
視線を外しているのに視線の圧が怖い……。というか視線の圧が私のことを押し潰そうとしている気がする……。
いや本当にしようとしている気がするのは私だけではない。キョウヤさんもそれを察知したのかシェーラちゃんのことを諫める声を掛けている。
キョウヤさんの言葉を聞いたシェーラちゃんは大きく、それでいて大袈裟な舌打ちを零した後むすくれた顔をして私のことを詰め寄る行為をやめる。
それだけの行為なんだけど、圧に似たあの光景を見ることがない且つ落ち着きを取り戻すこともできる。あの圧一つでなんだか新駅が削れてしまっているような感覚だったので、私はキョウヤさんのことを見て頭を垂らしてお礼のそれを軽くすると、キョウヤさんは返事を手を振るという行為で返した。
ひらひらと軽く振った後、何事もなかったかのようにキョウヤさんは手を下ろして、先頭を歩いているヘルナイトさんに向けて――
「そう言えば――『フェーリディアン』ってヘルナイト行ったことあるのか?」
と聞いて来た。それは率直で素直な意見でもあり、純粋な質問。
そんな純粋な質問に対しヘルナイトさんはキョウヤさんのことを振り向きながら「?」と疑問のそれを一瞬だしたけど、すぐに「あぁ」と言って……。
「いいや、中に入ったことはない。それに『フェーリディアン』も外から見ただけで内側がどのようになっているのかまでは分からないんだ」
「はぁ? それじゃぁ当てずっぽうで私達に言ったってこと? まさか昔と今の記憶が混濁しているとかそんなんじゃな」
「シェーラちゃんっ」
「!?」
シェーラちゃんの言葉を聞いていた私は思わず言葉を遮ってシェーラちゃんに向けて言った。
荒げていない。ただはっきりとした声でシェーラちゃんのことを見て言うと、シェーラちゃんは驚いた顔をして私のことを見ていた。
きっと私の発言もだけど、私が今までしたことがない顔をしているから珍しいと思った半面なぜそんな顔をしているのだろうと思っているのだろう……。
でも私はそんなことお構いなしにシェーラちゃんのことを見て言った。
みんな歩みながらなんだけど、視線だけは私に向けている状態で私はシェーラちゃんに向けて言った。
「前にも言ったかもしれないけど、ヘルナイトさんは記憶喪失だから思い出すことがあれば思い出せないこともあるの。都合が悪いと思われても仕方がないけれど、その言い方は少し……、言い過ぎだと思うよ」
「…………………………」
「ハンナ……」
「「「………………………」」」
「?」
私の言葉にシェーラちゃんは驚きの顔をして固まり、ヘルナイトさんは私のことを見て驚きの顔をしたまま私の名前を呼んで、傍観を徹していたアキにぃとキョウヤさん、虎次郎さんは口を茫然と開けた状態で固まり、オウヒさんはみんなの顔、私の顔を見て首を傾げるだけだった。
私自身、こんなことをシェーラちゃんに言うだなんて想像していなかった。私自身今までそんなに気にもしていなかった。シェーラちゃんの性格なのだから否定してはいけないと思っていたし、関係を悪くさせたくない気持ちもあって言わないでいた。
あ、一応言っておくけどシェーラちゃんに対して不満は全然ないよっ。これだけは断言します。
断言しても……、なぜか、私はシェーラちゃんに反論してしまった。異議を唱えてしまった。
シェーラちゃんに、自分の感情をぶつけてしまった。
何ぜなんだろう……。どうしてシェーラちゃんの言葉に対して反論をしてしまったのだろう……?
シェーラちゃんはあまりにも怒りすぎていたから? 違う――
さっきの仕返し? 違う――
私は……。私はヘルナイトさんに対しての言葉にむっとしてしまった。だからシェーラちゃんに異議を唱えてしまったのだ。
なぜこんなことをしてしまったのか自分自身でもわからない。正直こんなことをしても私に飛び火が映って燃えてしまう結果に終わってしまう。
それでも私はしてしまった。シェーラちゃんに異議を唱えてしまったことに一瞬後悔してしまったけど、すぐに後悔なんて吹き飛んでしまった。後悔が吹き飛んだあと私の心の中に残っていたのは――
言ってやったという達成感と……、なぜヘルナイトさんのことになったらむきになったのだろうという……疑問。
二つの感情。対極をなす感情が私の中で縦横無尽に動き回り、それが混ざって混乱を生んで、脳内で静かな抗争が繰り広げられる。
でもその抗争の中でも、ただ一つの感情だけは独立していて、この感情に対して私はこれは自分の意志だと確信していた。
それは――ヘルナイトさんに対して言った言葉に、小さな怒りを覚えたこと。
自分に対してではなく、私はヘルナイトさんのことを指摘したシェーラちゃんに対して怒りを露にした。怒ったのだ。
いつぞやか、私は怒りを表したことがある。
最初に怒りを表したのは、私達を助けるためにナヴィちゃんが歯向かった時。
その時アクロマの手によってナヴィちゃんが傷つけられてしまった時、私は怒りを露にした。
二回目は、そうだ。ガーディアン浄化をしようとコノハちゃんと私、ヘルナイトさんとナヴィちゃんと一緒に戦った時、元バトラヴィア帝国の味方の位置にいたDr……、アクロマのお父さんのような人でコノハちゃんからしてみればお爺ちゃんの位置にいる人なんだけど、この人の行動やいろんな面を見て、私は怒りを剥き出しにした。
二回目の時初めて人のほっぺを叩いた。初めて人に対して怒りをぶつけてしまった。感情をぶつけてしまった。
初めて……、みんなに止められた。
そう――あの時アクアロイアで『六芒星』と相対した時暴走しかけたアキにぃの様に、私はあの時のアキにぃの立場になってみんなに止められた。
正直その時の記憶はもう怒りが勝っていてあまり覚えていない……。というよりも感情が優先になってしまっていたせいで頭の血が上っていたみたいで、あまり記憶がない。
言い訳に聞こえてしまうかもしれないけど、怒りが放たれた時の記憶って案外保存ができないのかもと思ってしまう時がある。私はきっとその分類なのかなと思ってしまうけど、みんながどうなのかはわからない。
どうかはわからないけれど、今回の怒りに関しては今までとは違って静かな怒り……、激しい怒りが噴火と言うものに例えるなら、これは小さな薬缶沸騰のようなもの。
波で表すなら大きな怒りは高波。静かな怒りは小さくて高くない波。
その波を上げながら私はシェーラちゃんに向けて異議……、ううん。自分の本音を言った。
前に私は言われた。この『フェーリディアン』に来る前……、ううん。ボロボに来るずっと前に、私は言われた。
『その優しさ――時に武器となり、仇となり、そして弱点となる。時に鬼になることを忘れるな』
『怒れ』
『怒りを見せないことはいいことかもしれない。不安を恐怖を与えないことはいいことだ。しかしそれではだめだ。強くなりたいと願うのであれば……心を鬼にし、怒ることも大事だ。大切なものを守りたいときは――その感情を爆発させろ』
そう私はガザドラさんに言われた。最初に聞いた時、それは怒ることを示していたのだろうと理解していたけれど、その怒りにも様々な怒りがある。
感情のままに怒る怒りがあれば、静かに、冷静な気持ちを忘れないように心がける怒りだってある。絵外にも悲しみにも――ううん。感情と言う者にはいろんな種類があるんだ。
喜怒哀楽から枝分かれする感情の数々。
その感情の数々が私にはあまりないから前まではあんなことになっていたけど、人間は学ぶ生き物だから、私も学んだ。
学んだからこそ、私はシェーラちゃんの自分の気持ちをぶつけて、冷静で静かな怒りをぶつけると、シェーラちゃんは一瞬ポカンッとした顔で固まって私のことを見ている。それはみんなも同じで、私はそんなみんなのことを見て真剣な顔をした状態で頭に疑問符を浮かべると……。
「あんた……怒るのね」
「?」
開口口を開いたのはシェーラちゃん。
シェーラちゃんは驚いた顔のまま私に向けて言ったけれど、私はその言葉を聞いて首を傾げながら疑問の顔になると、私はシェーラちゃんのことを見て『どうして?』と言うと……。
「私だって怒るよ? どうして?」
「いや……、あんたのような性格の女ってあんまり怒らないイメージだし、それにあんたあまり怒るところなんて見ないから」
「私だって喜怒哀楽くらいあるのに……、ちょっとひどいと思っちゃった」
「馬鹿にしていないわよ。ただあんたって滅多に怒らないから驚いただけよ。ねぇ?」
シェーラちゃんは私にそう言った後、すぐに同意と言う名の意見集めをするようにアキにぃ達のことを見ると、最初に口を開いたアキにぃを皮切りに、キョウヤさん、虎次郎さん、アキにぃは言った。
「まぁ……、な」
「儂も驚いてしまったぞ? まさかの大胆な発言は予想していなかった。時には必要なことではあるがな」
「えぇーっと…………。ハンナはいつもおっとりと言うか大人しい性格の女の子だったのに、まさかあんなことを言葉にするとは……っ! お兄ちゃんは嬉しいけど悲しいけどなんだか大人になっている感動も会ったり寂しい感情もあったり」
「どっちかにせぃ」
キョウヤさんは後頭部をがりがりと掻き、虎次郎さんは腕を組みながら驚きの顔をして私のことを見ていたけれど、アキにぃだけはなぜか私のことを見て考えるような仕草をしてぶつぶつ何かを言っていたけれど、キョウヤさんがはっきりとその言葉を遮ったせいでそれ以上の言葉が私の耳に届くことはなかった。
アキにぃは一体何を言っていたのだろう。と言う気持ちもあったけど、キョウヤさんに遮られたせいでそれ以上の言葉をも聞けなかったし、遮りをかけたキョウヤさんに対してアキにぃが詰め寄っていたこともあって聞くことが永遠に叶わないだろうと思い、私は首を傾げた後シェーラちゃんのことを見て一言――
「そんなに怒らないイメージだった?」
「正直。それと同時に怒らせてしまったら多分爆発しそうだなって言う不安も抱いた」
「え? 爆発……?」
予想していなかった言葉を言ってきた。
シェーラちゃんの言葉を聞いた瞬間私は一瞬驚きの顔で固まってしまい、その固まった顔のままシェーラちゃんに聞く。きっとかくかくとした線画の様に見えていたかもしれないけど、そんな私のことを見てシェーラちゃんは平然と……。
「ええ。爆発した瞬間辺りにある物を投げたり武器にしたりしそうな感じだと思ったわ」
と、私にとって最大の爆弾と言えるような発言をしてきた。
それを聞いた私は頭の上に大きな大きな金づちが振り下ろされたかのような衝撃を受け、絶句したまま全身真っ白になってしまった。
昔漫画で見た『ガーンッ!』と言う衝撃はきっとこれをさすんだろうな……。
本当に金づちで振り下ろされた時の音がそのまんまの『がーんっ!』だったし、きっとこれが漫画の『ガーンッ!』に値するショックと衝撃なんだろうな……。
「…………………………っ!!」
まさに『ガーンッ!』を体現している私のことを見ていたシェーラちゃんはなんだか申し訳なさそうな顔をして、少し黙った後私に謝罪の言葉を投げかけた。
「…………後半は嘘よ。『爆発』の所は私の想像というか偏見だし、そうでないかもしれないじゃない。本気にしないで」
逆に私が怖いと思ってしまうわ。
シェーラちゃんの最もというか、一個人の言葉と思考の意見を聞いて私自身もショックから少し立ち直り、考えた後――シェーラちゃんの言葉に対して『確かに』と思い、彼女の言葉への返答を頷きで返した。
確かにシェーラちゃんが言っていることは全人類が考えていることではない。一個人の一偏見のようなもので。誰もがそう言うわけではない。
当たり前な事なのにシェーラちゃんの言う言葉があまりにもはっきりとしている且つ、そんなこと言われるだなんて思っても見なかった私にとって返す言葉を見失っていた。
だから返せなかった。
シェーラちゃんの言葉を聞いた私は頷きと言う名の返答で返した後、シェーラちゃんのことを見て「とにかく」と言った後……、私は私の意見を口にした。
「ヘルナイトさんのことに関しては言い過ぎだと思う。それだけは言わせて?」
「わ、わかったわよ……。ったく」
私の言葉を聞いたシェーラちゃんはバツの悪そうな顔をした後そっぽを向いて肩を落として項垂れる。
そんな光景を見て心の中でなぜか『よし』と思ってしまった私。
本当はここまで言うつもりもなかったし、そんな発言もするつもりもなかった。でもなぜかしてしまった。
ヘルナイトさんのことを悪く言った言葉に対して、なぜか言わないといけないと思ってしまった。そして言い終えた後でやり切ったぞと思ってしまった。
「…………………………」
どうしてこんなことをしたんだろう……。
どうして言ってしまったんだろう……。
どうして、我慢できなかったんだろう……。
どうして…………、言えたことに対して達成感を抱いているのだろう……?
どうして…………。
ヘルナイトさんのことを悪く言われた時、怒ってしまったのだろう……?
何度考えてもわからない。でもやり切ったという気持ちが私の感情を誘発しているのか、ほくほくしているような、温かい気持ちが私の感情を刺激している。
温かい……、違う。これは、多分だけど……、『勝った』とか、『言ってやった』って言う、すっきりした感情なのかもしれない。
本音を言うとよくわからないんだけどね……。
そんなことを思っていると、突然ヘルナイトさんが声を上げた。
「見えた――あの先だ」
その凛とした声を聞いた私は息を呑む声を零し、声がした方向――前にいるヘルナイトさんのことを見上げる。みんなも、オウヒさんもヘルナイトさんのことを見上げて、指を指して出口を示している方向に視線を移す。
ヘルナイトさんが指さしたその先はまさしくトンネルの出口の様に明るい光が薄暗いトンネルの世界を半円で照らしている。ついさっきまで薄暗い場所にいたせいなのか、目が霞んでしまい私は自分の目を守る様に右手を目のところに上げて掌の日除けを作る。
作って、だんだん眼も光に慣れてきたのか目の拒絶も無くなり、私は手の日除けをそっとどかして、トンネルの向こうを見ながら歩みを進める。
みんなも各々進んで、そしてトンネルから出た瞬間――私は視界に飛び込んできたものに魅入ってしまい、言葉を失ってしまう。
絶望の言葉の失いじゃない。
興奮の前兆の――言葉の失いを。
その失いを見てなのか、ヘルナイトさんは私に――みんなに向けて凛とした音色で告げた。
「これが『フェーリディアン』だ」




