PLAY114 フェーリディアン③
「「「えええええええええぇぇぇぇーっっっ!?」」」
瞬間、アキにぃとキョウヤさん、そしてシェーラちゃんの驚きと言うか、驚愕……交じりの絶叫が辺りを包み、驚こうと声を上げようとしていた (無意識)私達の声を遮り、私と虎次郎さん、オウヒさんに更なる驚きと硬直を与えてきた。
声による驚きは想像以上で、鼓膜とか頭を揺らすような衝撃を受けながら私や虎次郎さん、オウヒさんは頭の揺れに連動するように頭を揺らしてしまう。
ぐわんぐわんする。とはこのことなんだろうなと頭の片隅で思いつつ、それと同時に小さい時に見ていたアニメの表現は本当だったんだと思ってしまった。
でも、正直三人が声を出して驚くのは無理もないかもしれない。
なにせヘルナイトさんの手が壁に呑み込まれ、その壁に呑み込まれて行くヘルナイトさんの姿を見てしまったら、一体何が起きたんだとか思うし、それによくよく考えたら叫ぶことは至極当然の反応なのかもしれない。
至極真っ当なことだからこそ、今私達の目の前で起きたことが現実的ではない。ノンフィクションではなくフィクションでしかありえないことを証明していた。
何の変哲もない壁に手を伸ばし、伸ばして触れようとしたら壁の感触がなく、水に触れるような感覚でそのまま入ってしまったのだから……。
「かかかかかかか壁の中に……っ!?」
「アニメで見たことがある隠し扉的なもんか?」
「だったら『どてんがえし』の方がいいんじゃない?」
「それきっと『どんでん返し』だろ。漫画とかでよくある衝撃的なもんじゃなくて回る隠し扉のことだろ? 忍者屋敷の隠し扉のことだろ?」
「え? 『ドンデンガエシ』って言うの? てっきり焼き物かと思ったわ」
「大判焼き的なものを思っていたのか?」
壁の中に入ってしまったヘルナイトさんのことを……、というかもう壁になってしまったその場所を見ながら第一声を放ったのはアキにぃだった。
アキにぃはがくがくと震え、口に手を添えながらヘルナイトさんが入ってしまった壁を見つめている。
その光景はまさに恐怖に怯える女性そのもの。
そんな光景を見ずキョウヤさんは顎に手を添えながら推理するような視線を向けると、シェーラちゃんは何かを思い出したのか手をポンっと叩いてキョウヤさんのことを見上げている。
彼女の口から零れた『ドテンガエシ』と言う言葉に私は一瞬首を傾げてしまったけれど、キョウヤさんの言葉を聞いてすぐに『あぁ、どんでん返しって言いたかったんだ。
というか壁がくるくる回るあれって、『どんでん返し』って言うんだ。普通にからくりの壁って思っていた』と言う、なんとも関係のないことを思っていたけれど、シェーラちゃんの言葉を聞いて内心安心したのは私だけかもしれない。
正直そんなこと思わなかったし、一部だけど同じことを思っていたことに仲間が板って言う安心があったのは私だけの秘密にしておこう。
「むむぅ……、どんでん返し……には見えんかったな。むしろあれは壁のように見えていたが実は何かだったかのような、そんな感じに見えてしまう。液体なのか? うーぬ?」
「どんでん返しは鬼の郷の屋敷にもあったけど、あんな感じじゃないよ? もっと『ばーんっ!』となって『くるーっ!』って感じで一瞬だから」
「効果音……、というか、オトマトペだといまいち伝わりづらいですよ」
三人それぞれの表情を見た後、虎次郎さんは唸るような声を零しながら髭に手を添えて撫でながら思案していることを口にしだした。
きっとどんでん返しの言葉を聞いて、『違う。あれはどんでん返しではない』ことを言いたげな顰めた顔をして虎次郎さんは他に何があるんだと思案しながら考えを巡らせている。あの光景を見て、見たことを口にしてから――
正直私も虎次郎さんの言葉には同意しかないし、勿論言葉にすると虎次郎さんが言った通りの言葉になってしまう。
あれは確かにどんでん返しとかそんなからくりではない。
最初見た時は岩で作られた壁そのものだったし、ヘルナイトさんが触れようとした直前まで岩だったのに、触れた瞬間……というか触れるかもしれないという時に液体になったかのようにするりと入り込んだ。
まるで意志を持っているかのように壁が液体の様になり、その液体に抵抗などせず入り込んでしまったヘルナイトさんの光景は、まさに吸い込まれる人そのもの。
得体のしれない何かに入り込むようなその光景はよく映画で見るような恐怖映像。トラウマ映像だ。
きっとそれを言いたいのかもしれない。
それに該当しているのかもしれないと言いたげな顔の虎次郎さんのことを見上げていると、オウヒさんも虎次郎さんの意見には同意らしく、さりげなく鬼の郷にあることを教えながらもあれはどんでん返しではないことを私と虎次郎さんに伝えた。
ここだけの話……、オトマトペで伝えて、且つ大きな身振り手振りで教えているオウヒさんを見て可愛いと思ったことは、秘密にしておこう……。
そんなことを思っていると、唐突に虎次郎さんは考えることをやめ、胸を張った状態――つまりいつもと変わらない様子でヘルナイトさんが入った壁に向かって歩みを進めながら虎次郎さんは言う。
うーむ。と、まだ考えているような音色を出しながら虎次郎さんは私達に向けて言ったのだ。
「どんでん返し……。その言葉は確かに少しはあっているかもしれんんが、見た限りのことを言うと壁に呑み込まれるように吸い込まれに行ってしまったのだ。まさかと思うが……、この壁は壁ではない。と言う結果でいいのか? それとも儂等の目がおかしくなってしまったのか?」
「!」
虎次郎さんは言った。
この壁は壁ではない。
それとも儂等の目がおかしくなってしまったのか。
その言葉を聞いた私は、なんだか懐かしい感覚を察知し、いつぞやかこんなことがあったような……、そんな感覚を感じた。
前にもあった気がする……。
壁なのに、入れるような……、そんな場所を。
それを体験したのは、確か……。
と、突然来た懐かしい感覚――つまりがデジャヴのようなものを感じると同時にどこで体験したのだろうと思い出そうとしていた時だった。
突然、壁からヘルナイトさんの顔が露になったのだ。
にゅっと、まるで水から顔を出すように……、ではなく、まるで幽霊が壁を通り過ぎて顔を出すような感じで、ヘルナイトさんは入ってきた壁から顔と上半身を出してきたのだ。
「どうしたんだ?」
「ぎゃあああああああああああああああっっっ! フツーに出てこいこのやろぉおおおおっっっ!」
「いや相手からしてみればフツー、か?」
さも平然としているヘルナイトさんの登場……、というか顔出しにアキにぃはお化けを見てしまった顔で空中飛びをした後、もう心臓が出てしまったかのように己の胸を押さえながらやめてほしいと言う言葉が出そうな音色で叫ぶ。
なんだか恐怖に震えているもしゃもしゃから心臓の音が聞こえそうな……、そんな勢いで。
アキにぃの言葉を聞いていたキョウヤさんは突っ込みを入れようといつものように言おうとしたけれど、一瞬だけ言葉を詰まらせて、顔を出しているヘルナイトさんとアキにぃ、再度ヘルナイトさんを見た後、キョウヤさんは考えるような仕草をして、首を傾げながら疑念の言葉を零してしまう。
多分キョウヤさんは『いや相手からしてみればフツーに出てきただけなんだから驚かすなんて考えるわけねーだろうが』と言おうとしたのかもしれない。でもヘルナイトさんが出てきているその場所は見る限り普通ではないから、これを普通として受け入れることはだめかもしれないと思うと同時に、これをどんな言葉にしようかと思い考えてしまった結果こうなったのだろう……。
結局疑念と言う立場で返してしまったところから見て、これを普通として見ていいのかよくないのか。ヘルナイトさんからしてみれば普通なのかもしれないけれどアキにぃ達からして見れば普通ではないし……、それにヘルナイトさんの普通を普通として見ていいのかと言う葛藤もあるのかもしれない。
正直どう考えて居るのかはわからないけれど……。
そんなキョウヤさんのことを視界の端で見つつ、私はヘルナイトさんのことを見てヘルナイトさんのことを呼んだあと、私はおずおずと言うような雰囲気で聞いてみた。
壁からぬるりと出ているヘルナイトさん――厳密にはその出ているところを凝視しながら私は聞いた。
「その……、その状態ってどんな感じなんですか? 私達から見たら、なんだか変な風に見えてしまうというか、壁から顔を出しているようにしか」
「? あぁ、そう言う事か。この壁はそう言う仕組みだったという事か」
「? 仕組み?」
『?』
ヘルナイトさんは私の言葉を聞いて一時黙った後、何かに気付いたらしく、自分の体が出ているその箇所を見つめながら自分で納得する様子を私達に見せる。
彼の反応を見て首を傾げている私達を置いてけぼりにして――だ。
一体何が『そう言う事か』なのだろうか。
一体何が『この壁はそう言う仕組みだったという事か』なのだろう……。
正直ヘルナイトさんの言っていることは分からない。
こんなことは初めてだし、一体何を理解してあんなことを言っているのか、正直理解できないのが私の本音でもあった。
でもそんな心境の中に入り、抜け出せない状況下の中にいる私達にヘルナイトさんはぬるりと壁の中から出て――私に向かって歩みを進めると、私の目の前で止まってヘルナイトさんは私に手を伸ばし、いつも大きくて、頭を優しく撫でてくれるその手を差し出してきた。
すっと……、流れるような動作でその手を伸ばし、私に『来てほしい』と言わんばかりの意志の視線を向けている。
簡単に『来てくれ』と言えばいいのに、それをしないヘルナイトさん。
一体何を考えて居るんだろうか。
こんなことなかったのに……。どうしたんだろう。
一瞬芽生えかけた不安も然りだけど、その前に差し出してくるヘルナイトさんはいつもと同じ真面目な顔そのもので、もしゃもしゃも真面目でふざけているようには全然見えない (というかヘルナイトさんはふざけるような人じゃない)ので、私はおずおずと言った形でヘルナイトさんの手に自分の手を乗せる。
そっと指先だけを乗せて、次第にヘルナイトさんの大きな手を包もうと思ったけど、私の小さな手ではそんなことできないので指だけ握る形でヘルナイトさんの手を握ると、ヘルナイトさんは私の手の感触を感じるとぎゅっと私の手を握り返し、流れるような動作で手の握りの形を変える。
優しく手を引きながら――ヘルナイトさんは私を連れて行く。
つい先ほどヘルナイトさんが入っていた。壁に向かって。
「え? え? あの、これって」
「大丈夫だ。死にはしない」
「し、死にはしないかもしれませんけど、あの壁に入るということはまさかと思いますけど……、これって」
「ハンナ――多分だと思うが、君が思うようなことは起きない。それに、これは前にも体験していることだ。怖がらなくてもいい」
案外種はわかりやすいものになっている。
そうヘルナイトさんが言ったけれど、その言葉を聞いていた私にとってすれば全然理解できないものだし、口で説明してくれないヘルナイトさんに対して不安と言うか、どうして教えてくれないのと言う焦らされ具合に少しだけ焦りを感じてしまう。
本当にこの場で説明をして。
一体何がどうなっているの?
「なにじれったくはぐらかしてんのよ。説明しなさいっ!」
「勝手に話を進めて勝手に行くなっ! でも行きたくない怖いーっ!」
「アキお前ここで待てば?」
「待ってしまったら妹のことをだれが守るんだぁぁぁっ」
「お前のシスコンはすでに末期症状だな。最終的に結婚するとか何とか言ったらお前のことを全面的に止めるぞ」
困惑している私の思考を遮る様に、シェーラちゃんのもっともと言わんばかりの声とアキにぃの叫びが鼓膜を揺らして私の脳に刻まれて行くけど、アキにぃの言葉を聞いていたキョウヤさんはなんだか呆れているような音色で突っ込みのような、提案じみた言葉を投げかけたけどその言葉に対してアキにぃは否定。
否定って言うか……なんだか我儘に聞こえてしまいそうな言葉を聞いてキョウヤさんの音色に更なる冷たさが纏い出したけど……、絶対に気のせいではない。
そう思いながら歩みを進めていき、ヘルナイトさんの言葉を何度も何度も頭の中で再生しながら私はヘルナイトさんと一緒に歩みを進める。
多分だと思うが、君が思うようなことは起きない。それに、これは前にも体験していることだ。怖がらなくてもいい。
案外種はわかりやすいものになっている。
その言葉だけが頭の中を支配していて、それと同時にとある言葉に引っかかりを感じながら私は何とか思い出そうとする。
この言葉を聞く前にも感じた懐かしいあの感覚を。
そしてどこで体験したのかを思い出そうとしながら歩みを進めていくと……、とうとう壁との距離が目と鼻の先と言う近い距離になっていた。
目と鼻の先……、は言い過ぎたかもしれないけど、そのくらいの距離になって、先に先行していたヘルナイトさんが壁の中に『ずぶぶっ』とめり込むように入るその光景を見てしまった私は、思わず目を瞑ってしまう。
ぎゅっと目を瞑っているけれど、足が止まらない。惹かれているので止められないという絶対にぶつかってしまい光景が目に浮かぶ。足を止めればいいのかもしれないけどそれもできない。どころかその思考でさえも混乱している所為かうまくできない。
自分でも滑稽に思えてしまいそうなことをしている。足止めればいいのに脳の信号ミスの所為にして止めない。まさに滑稽かもしれない。けど本当にできなかったし、そんなこと一瞬で目の前に壁があって、何とかしようとした結果これだったのだ。
褒めてとは言わないし、促しもかけないけど……、強いて言うのであれば、何も言わないでほしい。
そう思っていた――自分の情けなさに対して半分ショックを受けながら歩んでいた時……。
突然、足音が変わった。
足音が土と草木を踏むような音――『ざっ』と言う音ではない。
石とか固いものを踏みつけるような、『かつん』と言う靴底と硬いものが合わさる時に奏でる音が鼓膜を揺らし、その音を聞いた私は驚きで息を呑む声を零すと同時に目を開けた。
開けた瞬間、視界に広がる違和感を即座に感じ、辺りを見回しながら私は言葉を失った顔をしていたと思う。
そのくらい驚いていたのだろうけど、そんなこと考えることなんてできない。と言うかそんなことをする暇もないまま私は辺りを――変わってしまった自分の視界を認識しようと必死になって見渡した。
視界に広がる――岩の壁に阻まれた『フェーリディアン』の姿、そして辺りに広がっていた自然と言う明るい世界とは裏腹の薄暗い苔で覆われてしまった岩のトンネルを見て私は一言呟いた。
本当に、考えて居ないかのようにぼそりと心の声が声として出てしまう様に、私は言ったのだ。
「え? あれ……? トンネル? どうしてトンネル……、あ」
辺りを見渡して、あたかも長い間使われていないようなトンネルの風景を見ながら私は見渡す。
ついさっきまで壁の前にいて、その壁の中に入ってしまったヘルナイトさんを見て驚いて、更にヘルナイトさんが私の手を引いて壁の中に入ろうとしたところまではいい。そこまでは覚えているというかわかっている。
でも目を瞑っていた間に何が起きたのだろうか。
そこが全然理解できない。
理解できないから私は目の前で私のことを見下ろしているヘルナイトさんのことを見上げて、困惑した面持ちと気持ちで聞いてみた。
「あの……、ここは? どこかにワープしたんですか?」
「いいや、違う。ワープはしていない。厳密には――これが正解の姿。と言うべきだな」
と、私の疑問に対してヘルナイトさんはその場でしゃがんで私の視線に合わせると、ヘルナイトさんはそのまま私のことを…………ではなく、私の背後に向けて指を指した。
その指を見て、私は指が指されている場所に向けて視線を――つまりは背後を見るために振り向くと、言葉を失い、私はやっと理解した。
自分の背後でいなくなってしまった私とヘルナイトさんのことを心配して狼狽しているアキにぃとシェーラちゃん、そんな二人を宥めようとしているキョウヤさんと虎次郎さん。四人の騒いでいる声を聞きながら私達が消えてしまった壁をじっと見ているオウヒさん。
が、トンネルの入り口の前で立っている光景を目にしたことで、私はこの壁のからくりを理解することができた。
□ □
ヘルナイトさんがなぜはぐらかすようにしていたのか。
それはこの壁のことを万が一のことを考えて漏らさないようにしていたからだと私は思う。それは今見てなんとなく確信をしただけのことだからこれが本当の理由なのかはわからない。
でも、これは外側――アキにぃ達がいるところから見ればただの苔の生えた壁なんだけど、現在私達がいるその場所は苔で覆われているけれど岩で作られた石のトンネルの面影を残している場所で、ヘルナイトさんの背後からは光が漏れていて、その逆光でヘルナイトさんの体があまり見えなくなっている。
それはまさにトンネルの構造と同じ物で、辺りを見ても石造りのトンネルそのもので、周りには現実世界にある様な明かりがない。代わりに薄暗い光を放っている白い瘴輝石が壁に埋め込まれている。
パッと見てしまえばその場所がどこなのかわからない。でもアキにぃ達がいる方向を見ればすぐに分かってしまう。
いうなればこれは――マジックミラーのようなもの。
私達がいる場所からは丸見えの状態だけど、アキにぃ達がいるところにはマジックミラーの様なものがあるせいで向こう側が見えないという状態になっていると言う事。
そのことに気付いた私は最後ヘルナイトさんのことを見て、小さな声で「なるほど」と言った後……、ヘルナイトさんの耳元に唇を近付けて囁くように聞いた。
「これって、瘴輝石の力なんですか?」
「? ああ、この明かりは確かに瘴輝石の力によるものだが、あのカモフラージュは瘴輝石ではない。アクアロイアで見たことあるだろう? クルクが使ったあの魔法のことを。あの魔法のまやかしが施されたものがこれなんだ。あの時言えなかったのはこの種が分かってしまったら敵に気付かれてしまうかもしれないと思ったからなんだ。すまない」
「ふふ……いいですよ。でもいつものヘルナイトさんらしくなかったから少し驚きましたよ? あぁ……、そう言えばこの感じ……、クルク君もしましたね。あの時はかなり歩かされたことが印象的だったから忘れかけていました。まさか……」
「ああ、これはあの時クルクが書けた魔法と同じ物ではないが、少し似ている質の魔法だ」
そう言いながら私とヘルいナイトさんは話す。話をしながら話題に入ってきたクルク君のことを聞いて、やっとという想いで思い出したのだ。この感覚はクルク君の時に感じたと――
以前、アクアロイアで『六芒星』と出くわしてしまい、一瞬危機に陥ったけれど何とか窮地を脱することができた。でも、その時アキにぃは乱心してしまって終わった後は本当に空気が悪くなったのを覚えている。
そしてその後アキにぃを寝かせて止めたクルク君の案内の元、私達はクルク君が住んでいる郷――『亜人の郷』に入った。
クルク君との出会いを思い出しながら、私はあの時感じた懐かしい気持ちが一体何だったのかに気付き、ヘルナイトさんの言葉を聞いて更に思い出した。
思い出したことは簡単な事で些細な事なんだけど、あの時クルク君は『亜人の郷』の入り口を魔法で隠していた。まさにこの『フェーリディアン』のトンネルを隠すように、岩に見せかける魔法をかけて――
そのことを思い出した私は心の中で『そう言えば……』と思いながら脳内の世界に浸っていると、ヘルナイトさんは続けるように私に言う。言うと同時に現実に引き戻された私はヘルナイトさんの言葉に耳を傾ける。
ヘルナイトさんは言った。
「前にクルクが『亜人の郷』にかけた魔法は魔女しか使えない『錠の魔法』と言うものだ。三つ線が交わるところを鍵穴に見立てて魔法の鍵をかけるもので、ここの魔法よりは新しいものだ」
「ほぉー……。あ、あの時言っていた魔法の言葉、確かに私やヘルナイトさんは使わない言葉でしたね。確か……」
「『イゥガラマダ・パフィリオラ・ラ・グェンデラヴィラ』だな。訳すと『我は門の番を任されし魔の者である。我はそなた達に願う。閉ざされし扉の錠を、開けよ』となる」
「そう言っていたんですね……」
なんだか少しだけわからなかったことが明かされてすっきりする。いうなれば伏線回収のようなそれを感じた私はなるほどと言いながら頷くと、背後からアキにぃの半狂乱めいた叫びが聞こえてきて、その声を聞いた私とヘルナイトさんはすぐに振り返ると……、暴れているアキにぃのことを抑えているキョウヤさんとシェーラちゃん、虎次郎さんはその光景を見せないように何か、オウヒさんの目を隠している。
少し遠くの所為かよく聞こえない。でも暴れている光景は目に見えているので、私とヘルナイトさんは互いのことを少しの間見た後、困ったように微笑んで――
「アキにぃ達も入れてあげましょうか」
「そうだな」
と、自分達の世界に入ってしまったことによってアキにぃの暴走が始まったことに対して反省しながら、お互いのことを見た後私達はアキにぃ達をトンネルの中に誘った。
一日しかないこの日を無駄にしてはいけない。
今更ながら思い出したことを心に刻んで……。
――最悪の事態になってしまうこの一日を、楽しもうと……。




