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PLAY113 いざ往かん――初めてのお買い物へ!⑥

「その案は良いかもしれないけれど、多分失敗するかもしれないよ?」


 オウヒさんは突然私達に向けて告げた。和気藹々と脱走計画の話を拡げている私達に向けてオウヒさんは少しだけ気難しそうな、なんだか落ち込んでいるようなそれを出しながら私達に告げた。


 失敗するかもしれない。


 その言葉が放たれると同時に和気藹々としていた穏やかな空気が一気に氷点下まで……とは言わないけれど、それでも一気に空気の温度が下がったかのような感覚が肌を突き刺した。


 肌で感じたというよりも、感覚がそれを察知して寒さとして認知したかのような感覚で、その感覚を感じ言葉を聞いた私達はオウヒさんのことを見て……。


「えっと……、それって、どういうこと? 失敗するかもしれないとか、なんでそう言い切れるの?」


 困惑している私達の代表として、アキにぃはオウヒさんに向けて質問を投げかけた。


 アキにぃ自身困ったような笑みを浮かべて一体何を言っているんだと言わんばかりの顔をしながら右手の人差し指で頬を掻いている。


 顔に浮き出る脂汗から察するに、相当焦っている……。相当困惑していることが見受けられる。


 きっとオウヒさんのこの発言に対して想定していなかったのだろう。


 アキにぃの言葉を聞いたオウヒさんははっと息を呑んでアキにぃのことを気付いた視線で見つめる。


 その様子はまるでさっきの言葉が独り言で呟いた言葉を思わせていて、本当に独り言で言っただけで聞かれていたのかと驚いているような顔だ。


 その顔をしてからオウヒさんは普段と変わりない顔に戻り、アキにぃのことを見て『あぁ』と言った後、その後に続く言葉を口にした。


『えっと……』と、なんだか歯切れの悪い口調を最初に言った後、オウヒさんは私達に向けて告げる。


 ()()()()()()()()()()()()かのような、そんな面持ちで……。


「実はね……、夜ってみんながそれぞれ郷の中とか郷の壁際で見張りというか見回りしているんだよね……。しかも交代しながらだから夜に脱走するとなると、ねぇ……」

「ねぇなんでそのことをもっと早く話さなかったのっ? 言う場面いくらでもあったよ? 割り込んででもあったはずだよ? どうしてそう後出しの様に出すの? 早めに言って! あと忠実に話をしてっ! 俺達に嘘の情報を流さないでっっ!」


 オウヒさんはなんだか申し訳なさそうに乾いた笑みを零しながら言うけれど、そんなことを聞いてしまってはアキにぃやみんなの困惑はピークに達し、困惑が怒りに変わっていくとアキにぃはオウヒさんに向けて怒りのそれを零しに零してぶつけまくる、


 怒りと焦りが入り混じった顔と声色でアキにぃはオウヒさんに向けて指をさし、心の中に秘めなければいけない言葉や秘めていた言葉がどんどん口から零れ出ていく。特に最後の『俺達に嘘の情報を流さないで』と言う言葉に対してはシェーラちゃんも同意のそれを示すように「そのことに関しては同文だわ」と言ってうんうん頷きながらアキにぃ達の話を聞いていた。


 うーん……、確かに、私達ここに来るまでの道中嘘の情報の所為でひどい目に遭った気がするから、アキにぃもシェーラちゃんもそのことに対しては凄く敏感になっているんだろうなぁ。


『もうすぐ着くよ』とか、『すぐ着くだろうな』と言う魔法の言葉に翻弄されてしまった経験があるから、ね。


「あはは………」


 私はそのことを思い出しながらあれこそが魔法の言葉で、私達はあの魔法の言葉にかかって翻弄されてしまった一人なんだろうな……。と思いながら乾いた笑みと共にアキにぃと同じように頬を右手の人差し指でポリポリと掻く。


 まさかここにきて言葉の魔法に引っかかるだなんて……。


 そう思いながらこれはゲームでよくある手法なのかなと思っていると、アキにぃ達の話を聞いていたキョウヤさんがやっと冷静になったのか、驚きの声で「マジかよ……。でもまぁ」と言って、キョウヤさんは続けて言葉を発した。


 その言葉をオウヒさんやアキにぃ達に向けるように、冷静になった思考回路を言葉にしてキョウヤさんは言う。


「見張りというか見回りは正直想定しておいた方がよかったかもな。だって姫さんが四六時中脱走と化したりして迷惑かけていたし、もし夜脱走と化したりして危く外に出そうになった利したら大変だと思ったんだろう? それにこの郷に人……っ、人間族とか他種族とかが来た時の襲撃に備えていたと思うし、オレ達の考えがまだ甘かったって考えればいいだろう?」

「だからと言っていい忘れること自体無いってっ! フツーは忘れないよっ?」

「こいつは忘れるけどね」

「え? えぇ……?」


 キョウヤさんの言葉を聞いてもアキにぃの怒りは収まるどころかもっとヒートアップしてしまい、アキにぃはオウヒさんに向けていたその矛をキョウヤさんに向けて反論の続きを行う。


 もうこれ以上の面倒事はこりごりだと言わんばかりにキョウヤさんに向けて言い、そして苦労をしてきたことを思い出しているのか泣きながらキョウヤさんの肩を掴みかかる。


 掴んだ後アキにぃはキョウヤさんの脳をシャッフルするようにぶんぶんっと前後に揺らし、『なんでそんなに冷静なんだよ~っ!』と子供のような駄々をこねる音色で問い詰めているアキにぃを見ていると、唐突にシェーラちゃんが私に向けて指を指して来てあんなことを言ったので、私は驚きながらシェーラちゃんのことを見て驚きながらも私は異議を唱えた。


 と言っても、とてつもなくワタワタして圧と言う物がないので、この場合私の言葉は弱々しい言葉だろう……。


「そ、そんなことはないよ……っ。すごいきっぱりとした言い方で発言したけれど、私そんなど忘れするような」

「ならアクアロイア王の『極』クエスト――魔女達の書状を届ける道中『駐屯医療所』の書状を渡すことを忘れていたことは? 元バトラヴィア帝国に入るために必要なカードキーのことをすっかり忘れていたことは?」

「………………………」

「………………………」

「………………………」

「………………………」

「忘れていたでしょ?」

「わ、忘れていました」

「でしょ?」


 でしょ? その言葉と共に私の頭上に透明で大きな岩が『どんっ!』と落ちて来て、私の頭をかち割る様に衝撃を与えに来た。


 ううん……それ以前から私はシェーラちゃんの舌剣によってダメージ (精神的な)を受けていて、シェーラちゃんの言葉を聞く前までそのことをすっかり忘れてしまっていたくらい衝撃と言うか、自分の物忘れの激しさに対して呆れを覚えてしまいそうになっていた。


 シェーラちゃんの言う通り、私はその二つのことをすっかり忘れてシェーラちゃんの『ほっぺつねり』を受けた記憶がある。


 理由は忘れていたことに対しての怒りで、それは注意を促すように、『二度とするな』と言う警告のそれかもしれないけれど、それでも私は忘れてしまっている。現にそのことがあったこと自体も忘れてしまっているので、口をきつく噤んで何も言えないような状態に陥りながらシェーラちゃんの圧に縮こまってしまっていた。


 これが本当の――ぐぅの音もでない。だ。


 本当に『ぐ』の音も出ないまま私は黙ってしまい、その光景を見てかシェーラちゃんは私に近付き、私の後頭部を見下ろすようにしながら「ほれどうなの? どうなのよ?」となぜか煽って来る……っ。


 うぅ……、そう詰め寄られてしまうと本当にぐぅの音も出ない……。というか全部本当のことだからシェーラちゃんの言葉に対して反論すらできないまま唸ることしかできない。もう私も脂汗まみれでどんな言葉を返そうかパンク寸前になっている。


 簡単に言うと脳味噌崩壊の危機。


 きっと頭の上から故障の湯気が出ているんだろうな……。


 そんなもう一人の自分の囁きを思いながら私はどんどん詰め寄って来るシェーラちゃんから離れるために座りながら後ずさる。どんどん壁に追い込まれているけれど、それでも近づいて来るシェーラちゃんから逃げるように後ずさる私をしり目に話は進んでいく。


 後ずさっている最中でも話は聞けたので、私は後ずさりながら話に耳を立てる。


「まぁ姫さんがそう言うってことは簡単にはいけねーな。考え直す必要があるかもなおっさん」

「うーんむ……。良い案だと思ったが……」

「他の別案考えて居なかったのっ? それだけで押し通そうとかしていたんっ? もっと考えてよこう言う事も想定してよっ!」

「それオレ言ったから言わなくてもいいぜ?」

「それはそれ、これはこれだよっ!」

「都合のいいことを言うなこんにゃろう」


 キョウヤさんはうーんっと唸りながらなんやかんやで落胆しているような声を零す。それは虎次郎さんも同じでなんだかショックを受けたかのような音色を吐いている。本当にいい安打と本人は思っていたみたいだけど、虎次郎さんのショックを見てもアキにぃは追い打ちをかけるようにどうするべきなのかを聞いて来る。


 本当に想定していなかったことに慌てて、さっきまでの余裕が嘘のように消え去ってしまったアキにぃに向けてキョウヤさんは平然と言うか真顔の顔で冷静な突っ込みを入れる。


 入れた瞬間それを聞いたアキにぃは反論をしたけれどその反論でさえも反論返しの様に壊されてしまった。


 まさに言った言葉が帰って来るような光景……。


 でも、この時ばかりは私も焦っていた (後ずさりながらもどうしようと思っていたので)から良い案なんて思いつかなかったし、アキにぃもシェーラちゃんも虎次郎さんの案の他に思い浮かぶということはなかった。


 いうなれば万策尽きる。


 今にして思うと虎次郎さんの案が妥当案に近いようなものだったのかもしれない。


 他にいい案がない。そのくらい鬼の郷は脱走に関して厳しいということを知ると同時に、この状況を打破する案が出ない=脱走できない確率が高くなってしまうことを裏付けるようなものだった。


 脱走しようと思ってもできない。


 もしかしたら、このことを想定して……と言うよりも、アルダードラさんがもしへまをしてしまった後で自分達でなんとかしようとした結果こうなったのかもしれない。


 真相は分からないけれどきっとこれが理由かもしれない。それがこんなことになって、私達のことを苦しめて来るとは思っても見なかっただろうな……。本来の目的とは違って私達のことを苦しめているのだから……。


 策士……は言い過ぎかな? 


 そう思いながら考えを巡らせてどうしようかと考えようとした私達冒険者四人。


 オウヒさんは自分の発言の所為でこうなってしまったことに対して責任を感じたのか、おずおずといった形で『ご、ごめんなさい……』と小さな声が零れた気がしたけれど、その声は私にしか聞こえていない。


 というか、オウヒさんの声が響く前にとある声が遮りをかけたから、オウヒさんの声が最後まで響くことはなかった。


『ごめんなさい』の『ご』しか聞こえないかもしれない。そのくらい大きくて私達の鼓膜を揺らして脳に刻む声は私達に向けて凛とした音色で言ったのだ。


「その見張りの件だが、目を晦ませることができれば、攪乱することができれば問題ないんじゃないのか?」

『!』


 その言葉を聞いた私達は驚いた顔をして声を放った人物――ヘルナイトさんのことを見つめた。


 ヘルナイトさんは凛としている面持ちと雰囲気で私達のことを見ている。鎧を着て正座をしているその光景は奇異に感じてしまいそうだけど、真っ直ぐな姿勢で正座をしているその姿はまさに凛々しさが浮き彫りになっているように見えてしまう。


 そんな状態でヘルナイトさんは私達に向けて言葉を発した後、その後の言葉を言うために一呼吸した後で私達に向けて続きの言葉を陳とした言葉で言てきた。


「確かに虎次郎殿の作戦は良いかもしれない。キョウヤには悪いが単体で行動した方が見つかる確率も低い。且つ動きやすい。ハンナ達に関しては私の詠唱『死出(カース・)(オブ・)旅路(リレビト)』を使えばここからすぐに門の外へと移動できる。それに夜であれば詠唱の回数も回復することを考えれば、その時間帯は好都合かもしれない」

「あ、あー! あのどろどろワープ!」

「『死出(カース・)(オブ・)旅路(リレビト)』って、蜥蜴人の集落で襲撃してきたガザドラに向けて放ったあのどろどろ?」

「ほほぉ! そんな技があったのだなっ! 一回見て見たかったなっ!」

「そう言えば支障は見ていなかったわね。こいつこう言ったつチートみたいな技何個も持って使えるのよ。驚きよね?」

「ほほぉん。いずれは手合わせを願いたいな」


 ヘルナイトさんの言葉を聞いていた私は、あっと声を零してヘルナイトさんが使っていた技『死出(カース・)(オブ・)旅路(リレビト)』のことを思い出す。


死出(カース・)(オブ・)旅路(リレビト)』はヘルナイトさんが使う詠唱の一つで、私達の言葉で言うと黒くて大きなワープゲートみたいなものを出す技なんだけど、大きい魔物のその中に中途半端で引きずり込んで引きちぎったり……、別の場所に飛ばして倒したり、拘束や移動手段に使ったりすることが可能な詠唱。


 今にして思うとかなり便利な詠唱だと思う (攻撃方法はかなりえげつないけれど……)。ヘルナイトさんの言葉を聞いた私は詰め寄ってきたシェーラちゃんの顔を手で押さえながら苦しい声で――


「そ、それはいい案だと思います……。それを使ってみんなで逃げれば……」


 と言うと、私が言った言葉にシェーラちゃんも気付いたのか。気付いた音色で「それもそうね」と言い、ヘルナイトさんのことを見てから私達のことを見回すように彼女は続けて言おうとしたけれど、その言葉を遮る様にキョウヤさんは『待て待て』と言ってシェーラちゃんの言葉を遮る。


「何よ――なんか都合の悪い事でもあるわけ?」

「いやないかもしれねーけどよ……。突然お姫様がいる部屋から一瞬にして人が消えちまったら驚くだろうし、それにオレ達が消えちまったらそれはもう大騒ぎだろうが。消えちまった=オレ達が連れ去ったって思われ、他種族との蟠りをなくすどころかさらに深めちまうことになる。そうなったら本末転倒じゃね?」

「あ」

「!」


 遮りを受けてしまったシェーラちゃんはキョウヤさんに向けて不都合なことがあるのかと少しだけ怪訝そうな顔をして言っていたけれど、キョウヤさんの言葉を聞いてシェーラちゃんは呆けた声を零す。


 私もキョウヤさんの言葉を聞いて思い出した。これではいけないことにも気付いて、同時に思い出したのだ。


 この鬼の郷は人間族や他種族に対して異常なほどの憎悪を抱いている。


 それは昔人間族が私欲のために鬼族を『滅亡録』……、今で言うところのブラックリストに登録されたことがきっかけであり、鬼族の角を効率よくとるために人間族は『滅亡録』に鬼族の名を記載した。


 記載された鬼族は謀殺を試みる国家に追われ、人間族に殺され、他種族に殺されてその数を減らしていき、鬼族は心休まる場所どころか安息の地すらない状況の中過ごしていき、生き残った鬼族達だけでこの郷を――最後の砦となる郷を創り上げ、自分達にしてきたことを人間族や他種族にしてきた。


 そっくりそのままではなく、怨恨と言う名の怒りをぶつけにぶつけまくって……、鬼族達は今を生きてきた。


 自分達種族以外の他種族、人間族を自分達にしてきたように……、ううん。それ以上の怨恨を怒りに変え、攻撃に変えて行ってきた。


 その行いはきっとずっと前から行っていることに違いないし、それを一瞬にして拭い去ることは出来ない。


『ずっと考えて居ても仕方がないし、そんなことを考えて居る暇なんてないだろう? 忘れろ』


 そう言われたとしても鬼族のみんなは即答で『いいえ』と言うだろう。


 だってあんなことをされて、多くの犠牲を出したのにそれを『忘れて今を生きろ』って言われても無理は話だ。私でもそんな境遇でいてそう言われたらできないと思う。


 というか、できない。


 絶対にできない。


 仲間――それは家族と同じくらい大切な人達で、その人達が私欲と言う名の欲望のために殺されてしまったのだから、恨みを永遠抱くことになるのは間違いない。


 死んだ者達の死を受け入れて、運命を受け入れて前に向かって進む……。なんてことは出来ない。


 きっと誰でもその感情を他人に……、自分達のことをここまで追い詰めた人たちに向けたいと思う。


 思うじゃない。絶対だ。


 絶対にそうしてしまうから鬼族の憎しみを私達が拭うことは出来ないし、払拭することも歩み寄ることも、寄り添って緩和させることもできない。


 できないからこそ、これ以上の犠牲を出さないためにヘルナイトさんはアカハさんに向けて告げたのだ。


『鬼族のことが記載されている『滅亡録』から、あなた方の名を消す。『()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。それがいつになるのかわかりません。保証も何もできないようなことですが、それでも私は動こうと思います。勿論浄化も行いつつ、あなた方の憎しみを、負の連鎖を断ち切るためにも行動します。これ以上……、負の連鎖で悲しむ者達を増やさないために、そして――鬼族の未来を明るくするために』

 これ以上の負の連鎖を断ち切るために、これからの鬼族の未来を変えるために、ヘルナイトさんは独断と言っても過言ではないような言葉をアカハさんに向けて言ったのだ。


 その後でヘルナイトさんは続けて言った。私達に、そしてアカハさんに向けて――


『独断で判断し宣言したことに対しては謝る。すまない。だが私は本気だ。エドの言う事も、みんなが思うことも重々理解している。だからこそ――正式な方法で変えたい。鬼族の永遠といるような憎しみを消す方法はこれしかないことも考慮したうえで、これしか方法がないと思った。それがいつになるのかわからないが、それでも実行したい。こんな悲しい連鎖が続くくらいなら、断ち切りたい。憎しみが完全に消えるわけではない。人の感情を簡単に変えることなんてできないことも分かっている。わかっている分――余計にそうしたい私の我儘を許してほしい』


『赫破殿。あなたの、あなた方鬼族の憎しみの大きさは我々の考えているよりも大きいものなのでしょう。想像できないほどの大きなそれを完全に消すことは出来ませんが、子々孫々にもその憎しみを、仲間を、家族を失う悲しみを背負わせることのないように、以前の我々ならば、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()の元にいた我々の失態を、私の失態を償うチャンスをもらいたいのです』


『こんな一介の鬼士の我儘です。余計ならば断わっても構いません。ですが、鬼族の運命を変えてしまったことへの根本的な解決もできずにここまで来てしまったことへの償いだけはしたい。同胞を失う悲しみ。何も守れなかった悲しみは、何もできずに、己の無力を痛感したことも、そして……、()()()()()()()()()()()()()()()()()、すでに体験しています』


「!」


 あ、そう言えば……、ヘルナイトさん最後に言っていたあの言葉って……、一体何だったんだろう……。誰のことを言っていたのかな? 


 私はヘルナイトさんが言った言葉に対して疑問を抱き、疑問を解消するためにうーんっと唸り声を上げて考えを巡らせようとしていると……。


「キョウヤの言うとおり……、蟠りをこれ以上深くしてはいけないよな……。これ以上軋轢的なものが大きくなったらこの先の影響にもなってしまうし」

「儂等もこの状況を望んでおらん。悲しみと言うものは永遠に付き纏う。付き纏うことを人が嫌うからこそそれを消そうとしている。している結果がこれであれば悲しみを消そうと悲しみを生み出しているのと同じ。それを解決するためにこのような試練をもらった。それを壊してしまっては元も子もない。いいやこれこそ本末転倒。何の結果にもつながらん」

「だろう?」


 アキにぃと虎次郎さんもキョウヤさんの言葉を聞いて同意……悔しいけれど同意しかできないと言わんばかりの声色で言うと、男性一同はうーんっと腕を組んで考え込んでしまう。


 アキにぃも虎次郎さんも今まで湧き上がっていた感情が一気に鎮火したかのように落ち着きを取り戻し、唸る様な音色を出し柄腕を組んで考えを、思考を活性化させている。


 蟠りを大きくしてはいけない、でもオウヒさんの脱走もしないといけない。


 虎次郎さんの案がいいかもしれないと思っていた空気が一気にできないかもしれないような空気になりかけている。


 正直重苦しい空気が辺りを包み込んでいる状況に、空気に私は何とか案を出そうと思った時……、シェーラちゃんが徐に手を上げて――


「だったら私がオウヒになって一時的に待機するとかどうかしら。影武者的な立場で行けば」


 と言いかけた時、シェーラちゃんの言葉を聞いていたアキにぃは条件反射と言ってもおかしくないような即座の反応で遮りの言葉をかけた。


 真顔で、シェーラちゃんに向けてこの言葉を言って――


「シェーラは無理でしょ。だって野蛮のそれが今でもオーラとすみませんでした」


 アキにぃが全部を言い終える前にシェーラちゃんはアキにぃの首根っこを掴み上げようとする。


 頭を掴んで持ち上げるようにシェーラちゃんがアキにぃの首根っこを掴み、そのまま持ち上げようとした瞬間言おうとしていた言葉を謝罪に変える兄のその姿は……、まさに自業自得のような光景そのものだったことは、言わないでおこう……。


 でもアキにぃの言い方に対して苛立つのは分からなくもない。


 だって女の子に向けて野蛮は失礼だし、そんなオーラというかもしゃもしゃなんて全然ないのに……。アキにぃは本当に人を見る目がない気がする……。


 そんなことを頭の片隅で思いながら我が兄 (血は繋がっていないけど)がシェーラちゃんに対して土下座をしている光景を見ていると……。


「影武者……()()()()()()()()

「え?」

『は?』


 と、ヘルナイトさんが凛とした声で言うと同時に私は驚きの声を上げてヘルナイトさんのことを見て、アキにぃ達の真面目で怒りが一瞬沸き上がったかのような声が鼓膜を揺らしたと同時に、ヘルナイトさんは徐に右手を空に向けて伸ばすと――ヘルナイトさんは唱えた。


 言った。のではなく、唱えた。


 ヘルナイトさんが持っている技の名を、凛とした音色で唱えたのだ。


「――『影剣(かげつるぎ)影ノ民(カゲノタミ)』』

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