PLAY113 いざ往かん――初めてのお買い物へ!⑤
「あと少しかな……?」
「あいつのことだし、順調に進んでいるならもうすぐじゃない?」
「というか、俺大人なんだけど、子供の頃に戻ったかのようにドキドキしているのは俺だけ……?」
「安心しろあきよ。儂も今ときめきかと思い違いをしてしまうほどどきどきしておるぞ」
「虎次郎さんのドキドキはちょっと若すぎる気がします……。あと俺のドキドキとあんたのドキドキを一緒にしないでください、質が違うから」
「一緒でも何でもいいわよ。大の大人がドキドキしないで」
「シェーラちゃん……。ちょっと言いすぎな気が」
「大人なんだからこのくらいは大丈夫よ」
現在――深夜の時間帯かな? 月を見るだけだと時間がわからない私にとってすれば今の時間が一体何時なのかなんてわからない。ただ深夜だってことは分かるけれど、それ以外は分からない。
わからないけれど、今はそんなこと関係ない。
今私達は重要な作戦を実行している。
現在進行形で実行中なんだけど……、私を含めたシェーラちゃんとアキにぃ、虎次郎さんが現在待機中。
そう……、鬼の郷――ではなく、鬼の郷の門の外で武器を手にして森の中に隠れている。
森の中に隠れているって言っても、本当に木陰に隠れているとかそういうことはしていない。ただ森の中にいるって言うだけでそんな隠れていることはしていない。
ただ人を待って待機しているだけ。それだけなのだ。
だから私達は森の中で目の前にそびえ立っている鬼の郷の門の壁を見上げながら会話をしている。その人達のことを待ちながら……、現在鬼の郷にいるヘルナイトさんとキョウヤさん、そしてオウヒさんのことを待ちながら会話をしているだけなのだ。
「それにしても……、お姫様が脱走したってだけでこんなに大事になることかしら」
「うーん……。正直その気持ちに対してはシェーラちゃんと同じでわからないけれど、この郷のお姫様が脱走したんだよ? しかも脱走がもうすぐってなったらそれはそれで緊急事態なんじゃないかな」
「御大層な過保護ね」
「はは………」
私は隣で鬼の郷の門の壁を見上げながら呆れた溜息を零しているシェーラちゃんの話を聞く。現在進行形で郷内で慌ただしい声が響くそのいくつもの声を聞きながら私達は小さく会話を弾ませる。
アキにぃと虎次郎さんは今まで手にしていなかったというか、今まで別のところに置いていた武器の手入れをしている。
もしかしたらと言う事もあってアキにぃ達武器を持っている人達はここに来て最初に武器の手入れをしていた。最初に終わらせたのはシェーラちゃんなんだけど、アキにぃ達はまだ手入れをしている……。
でも長い間……、あ、いや……実際は十日以上武器を手にしていなかっただけなんだけど、アキにぃ達的にはきっと長い間手にしていなかった。所持していなかったこともあってか多分武器を手にしているという安心感もあるのだろう。武器なしでいる私には考えられない気持ちがあるのかもしれないけれど、それでも二人は武器の手入れをしながら門の壁を見上げている。
アキにぃと虎次郎さんのことを視界の端で見ながら私達女の子二人は門の壁を見上げながら会話を弾ませ、いつ来るのかなと思いながら三人のことを待っていた。
ホーホーと梟の声が聞こえ、今深夜何時なんだろうと思いながら夜特有の涼しい風を受けながらヘルナイトさん、キョウヤさん、そして主役のオウヒさんを待つ私達。
誰もがこの状況を見て思うだろう。
何故私達は現在鬼の郷の外の森にいて、且つヘルナイトさん達のことを待っているのか。
一体どうしてこの場所に待機しているのか。どうやって鬼の郷から出たのか。
他にも色々思うところがあるかも知れないけれど、まずは初めから説明をさせてほしいです。
そもそも私達がこの場所にいる理由と鬼の郷の騒動は……。
虎次郎さんの提案が原因であることを――
□ □
この騒動のきっかけとなったのは、今から二日前のこと。
あの日はアルダードラさんの試練から十日ほどたった後のことで、正直私たち自身心身共に疲弊している時の最中だった。特にアキにぃが肉体的にと、シェーラちゃんが精神的に……。
アルダードラさんが私達に課した試練……、ボロボ空中都市の王、ドラグーン王が私達リヴァイヴとしょーちゃん達、そしてエドさん達レギオンに対してスキルアップ……、というかレベルアップのために課せた三つの試練の内の一つを現在私達は受けている。
内容は『オウヒさんの御守』で、それを二週間こなしたらいいという簡単なものだった (最初の内は)。
本音を言ってしまえば、もしかしたら私達はただ急用ができてしまったアルダードラさんの使命を代わりにしているのかもしれないと今となっては思う。でも試練として課せられたのであれば、やらないといけない。
だって、試練達成しないと浄化できないから。
ボロボ空中都市の守るはずの『八神』が一体――シルフィードの浄化をするために、試練達成しないといけないから。
エドさん達レギオンの試練――ラドガージャさんの『残党クィーバの拘束』から始まって……。
しょーちゃん達の試練――ファルナさんの『鳥人族の郷の近くにいる摂食交配生物『偽りの仮面使』の討伐』を経て、今私達はここにいて、そしてアルダードラさんの試練をしている。
でも私達が受けているアルダードラさんの試練は一見して聞くと簡単で少々心身的にキツイ内容だったけれど、オウヒさんの話を聞いて、ヘルナイトさんがとある言葉を放ったおかげで私達は今の行動に移すことができたのだ。
ヘルナイトさんはあの時言った。
『脱走を絶対に阻止してほしいという試練の内容ではないだろう? あくまでこの試練の内容は『御守』だ』
そう。私達はアルダードラさんの試練によって御守を頼まれた。
お守ではなく御守り。
言葉にするとわからないかもしれないけれど、漢字にすると分かるこの違い。
この違いを感じたヘルナイトさんはアルダードラさんがただお守りを任せたのではなく、別の理由を込めてアルダードラさんは私達に試練を課せたと思い、私達はヘルナイトさんの言葉を呑み込んで今回の作戦を企てることにした。
……その作戦の企て中アキにぃは凄く拗ねていたけれどね……。
その企て中に虎次郎さんは私達に言った言葉のその後の話がこれだ。
□ □
「いいか? 儂が言いたいことはこう言う事だ。この櫓を使えば、少数ではあるが姫様をこの郷から脱走させることができると思ったのだよ。しかも――誰にも気付かれることなく、おうひ姫様をこの郷から脱走させることができると、そう少しの確信を得た。と言うことを言いたんじゃ――儂は」
『………………』
「ほ、本当……っ!? 本当に脱走できるのっ!?」
虎次郎さんの言葉に耳を傾けていた私達リヴァイヴは、虎次郎さんの言葉が言い終わった後でも首を傾げるその行為をやめるどころかさらに捻らせながら虎次郎さんのことを見ていると、オウヒさんは虎次郎さんの言葉を聞いて感極まると言わんばかりの高揚とした顔と涙が出そうな潤んだ瞳で虎次郎さんのことを見つめている。
虎次郎さんの言葉があまりにも衝撃的で、あまりにも予想の斜め上の言葉だったからオウヒさんも驚くと同時に泣きそうになっているのだろう。
だって今まで脱走できなかったのに、やっと脱走できるんだ。嬉しいことこの上ないだろう。
嬉しいことに関しては私も嬉しいし、叶わないと思っていたことがやっと叶うんだもの。どんな人でもその感情はある。ある……。ある……んだけど、オウヒさんの感極まる感情と、私達の感情にはすごい温度差があるのが今の状況の欠点。
急上昇しているオウヒさんと、急降下していないけれど平均以下の温度で上がったり下がったりしている私達。そして上昇したまま維持をしている虎次郎さんと言う、なんとも変な空気と雰囲気が辺りを包み込んでいた。
一見して見てしまえばわからないそれだけど、内面が見れる人、そして状況を察するのが得意な人はきっとこの光景を見て困惑すること間違いなし。
そんな状況、雰囲気が辺りを包んでいたけれど、その状況を読み取ることができない (多分)虎次郎さんはオウヒさんの言葉に対して「そうだぞ!」と頷いた後――私達に向けて続きの言葉を述べていく。
『この櫓を使えば、少数ではあるが姫様をこの郷から脱走させることができると思ったのだよ。しかも――誰にも気付かれることなく、おうひ姫様をこの郷から脱走させることができる』
その答えを口にして……。
「む? まだ理解できんのか? いいか? 儂が考えたことは至って簡単な事だぞ? まず…………、決行は夜だ。ここまではいいな?」
虎次郎さんの言葉を聞いた私達は、驚いた顔のまま虎次郎さんのことを凝視してしまう。
理由と言うか……、正直……。
「正直なことを言うけれど、決行が夜なのは当たり前でしょ? 師匠私達のことを馬鹿にしています?」
「!」
あ、言っちゃった……。
私が思っていることそっくりそのままシェーラちゃんが代弁してくれたのだけど、シェーラちゃんの顔がいつにも貸して真顔というか……、なんか心配が入り混じっている真顔……あ、違うね。心配と苛立ちと真顔が入り混じっているけれど真顔を優先にしている顔でシェーラちゃんは虎次郎さんに聞くけれど、虎次郎さんはそんなシェーラちゃんの言葉なんて聞いていない (本当に聞いていなかったかもしれない)ような素振りで続けてこう言った。
「その決行の比は近いうちにまた話し合うことにしよう。今すぐとなってしまっても無計画はまさに無謀な賭けに等しい。その賭けをするくらいならば長考をし、それに見合った作戦を立てたうえで決行したいからな」
「聞いてねぇフリしたな」
虎次郎さんの言葉を聞きながらキョウヤさんはシェーラちゃんの近くによって耳打ちをするように小さな声でシェーラちゃんの耳元で言うと、シェーラちゃんは無言のまま虎次郎さんのことを見ている。
きっと無視されたことに対して怒りを覚えているのか、それとも苛立ってしまったのか……。
……一緒だね。これは。
無視をした虎次郎さんに対してシェーラちゃんは無言の怒りの圧を向けながら無言を徹しているけれど、そんな虎次郎さんの言葉を聞いて意見があったのか、ヘルナイトさんは虎次郎さんの名前を呼ぶと軽く挙手をするような姿勢をして聞いて来た。
いつもながら凛としている声が頭に残る声で――ヘルナイトさんは聞いてきたのだ。
「夜に決行することは分かりましたが……、大まかにどのような脱走方法を考えて居るのか詳しく知りたいのですが、考えて居るのですか?」
「強行突破とかそんな感じ?」
「それは駄目っ! みんな大切な一族の仲間なんだよっ? そんなことしないで!」
ヘルナイトさんの疑問に対してアキにぃが割り込むように会話に入るけれど、アキにぃの言葉を聞いてオウヒさんがすぐに反論と言う名の感情と共に虎次郎さんや私達、そしてヘルナイトさん達に向けながらオウヒさんは必死に荒げの声を出す。
オウヒさんの言葉を聞いたアキにぃは困ったようにオウヒさんのことを諫めながら「分かったかわかったよ……」と困ったようにというか……、なんかやばいと思ったのかアキにぃはすぐに身を引いてオウヒさんに謝り、その言葉を聞いたオウヒさんは鼻息を深し、腕を組みながら『ぷんっ!』とそっぽを向いてしまった。
少し子供みたいな行動をしていたオウヒさんを見て、私は内心私と同じ背丈だけど、本当はまだ幼い方なのかなと思いながら見つめていたけれど、オウヒさんの言葉を聞いて彼女は本当に優しい女の子なんだなと再認識したのは言うまでもない。
自分の夢をあそこまで否定されたからと言って、自分のことを軟禁状態にして郷から出さないようにしている同族のみんなだけど、オウヒさんにとってすれば大切な……、同じ一族の血を引いたみんなに危害を加えるなんて嫌なんだろうな……。
だって私からしてみればヘルナイトさんやアキにぃ、キョウヤさん、シェーラちゃんや虎次郎さん、しょーちゃんやエレンさん、ほかにもこの世界で出会った人達を傷つけようとするなら、私だって全力で止めるもん。全力で『ダメ』って言うもの。
オウヒさんの意見には同意見だと私は心の中で頷く。
頷きながら虎次郎さん達の言葉に耳を傾けると、キョウヤさんはオウヒさんの言葉を聞いて呆れた笑みを浮かべながら「それした時点でオレ達の立場危いを通り越すような事態になるって」と言ってオウヒさんの怒りを鎮めるように言うと、オウヒさんはキョウヤさんの言葉を聞いて『むう』と頬を膨らませてキョウヤさんのことを睨みつける。
睨みつけると言っても、その顔が可愛いので全然迫力と言うか怖さがない。だからキョウヤさんはそんなオウヒさんの頭に手を置いて、『ぽんぽん』っと軽くたたいて諫めをかける。
その光景を見ている最中虎次郎さんは続きの言葉を発した。
最初に『姫君よ。儂はそんな物騒なことはせんぞ』と最初に言ったあと、虎次郎さんは作戦の続きを私達に向けて言う。
「では詳しいことを言うぞ。儂が考えた作戦は至極簡単なものだ。使うもの――いいや使う建物は櫓、その櫓の高さを使って姫君を連れて脱走するというものだ」
「え?」
「一応言うと、あきの言う強行突破などなしでな」
「へいへい蒸し返さないで」
虎次郎さんの言葉を聞いた私は一瞬変な上ずった声……、というか変な高音の声を出してしまったけれど誰もそのことに対して指摘せず、黙って虎次郎さんの話に耳を傾けている。
一応虎次郎さんの話に対して、というか自分で言った言葉を蒸し返されたことに苦い顔をしてアキにぃはそっぽを向いたけれど、それ以外のことに対して誰も気にする様子はなかった。
正直な話……、あの声を上げた私は無意識だったけれど、今になって思うと……恥ずかしい……。
その時はまだ恥ずかしくなかった私を含めたみんなは虎次郎さんの話に対して耳を傾け続けている。虎次郎さんが放った続きの言葉に対しても、聞き漏らしがないようにしっかりと聞く体制になりながらみんなは聞いていた。
虎次郎さんは続きの言葉を言う。
自分の近くに置かれている和紙を『かさり』と掴み、それを掲げながら……、アキにぃが描いた自信作の見取り図を私達に見せながら (アキにぃはそれを見てぎょっと驚くと同時に視線を逸らしていたけれど)、その絵に描かれている櫓の位置を『とんとん』と指さしながら虎次郎さんは言った。
「姫君の言葉が正しければ、この場所に櫓があることは分かった。この場所を見るからに外の監視をするために建てられたのだろうな。この郷を取り囲む塀に近い。他の所を比べても近い且つ、高い設計で作られている。きっとこの郷のどの建物よりも高い設計だろう」
「おう。そうだな……。それで? その高さを利用して脱走するって言うけどよ……。どうするんだよ」
「? 何を言っているんだきょうや――そこは貴様が第一に理解するところであろう?」
「は?」
虎次郎さんの言葉を聞いていたキョウヤさんはうんうん頷きながら虎次郎さんの話を理解しようとしている。それは私達も同じで脳内で虎次郎さんの話を聞きながら頷きつつも、自分の中で生まれた疑問が出たらそれを虎次郎さんに向けて質問しようと思いながら話に耳を傾ける。
でもまぁ……、疑問はこの時出なかったのだけど、キョウヤさんは出たらしく、虎次郎さんに質問を投げかけると、虎次郎さんは目をぱちぱちと何回も開閉して驚きのそれを表現すると、虎次郎さんはキョウヤさんに向けて言う。
言った言葉に対してキョウヤさんは素っ頓狂な声を上げて目を見開き、そして虎次郎さんのことを見上げるけど、私達はそんな二人のことを交互に見ることしかできない。
アキにぃもやっと顔を上げてキョウヤさんと虎次郎さんのことを見て、話しの内容を聞いていたのか小さな声で「あぁ……、成程ね」と言ってうんうん頷くと、虎次郎さんは神に向けて差していたその指を動かし、その指の先をキョウヤさんに向けると、虎次郎さんは言う。
はっきりとした言葉で、虎次郎さんはキョウヤさんに向けて言ったのだ。
「この櫓に登った後で姫君を担いで飛ぶのがきょうや……お前の役目であろう?」
飛蝗の様に。
そう付け加えていった虎次郎さんの言葉を聞いた瞬間、私は納得してしまった。理解してしまった。
虎次郎さんが言いたいこと――それはすごく簡単な事だったということを理解してしまった。
虎次郎さんはキョウヤさんに向けて、オウヒさんを背に担いで櫓から逃げることを提案したということに、私は遅まきながら気付き……。
「それって……、殆どオレが頑張らないといけね―ことじゃねーかっ!」
てかオレがやらんと成功しないやつっ!
そう怒声の突っ込みをすると同時にキョウヤさんは虎次郎さんに詰め寄ろうと前のめりになりながら怒涛と言わんばかりの反論を発していく、
正直こんなこと考えて居なかった……。というよりも虎次郎さんの提案に対して滅茶苦茶意義がある様な言葉でキョウヤさんは言った。
「おっさんもしかしてとか言いたくねーんだけど、それってオレが絶対に了承しないとできない作戦だろう? 他に案とかあったのか? 他に別案あったか?」
「いやこれ一択だ」
「一択で『はいそうですか』って言うと思ったかっ!? 他の奴らはどうするんだよっ? オレ一人で頑張って初めて成し得ることができる作戦だよな? 他の奴らはどうするつもりだったんだよ? その役割とか考えて発案したのか?」
「いいや儂等は何もせんよ。櫓に登りその場所から飛蝗の様に飛べば盤万事解決」
「オレ頼みじゃん! 神頼みならぬオレ頼みの案件じゃんっ! 他の奴らは『ふふふふ~ん』のテンションでフツーに出て、オレが頑張って何とか鬼の奴らから逃げて掻い潜っていく的なそんなことを思っていたのか!? 正直蜥蜴人のオレでもできることとできねーことがあるってっ! おい外野異議を唱えろっ! 異議を唱えてこの堅物ジジィを何とか説得してくれっ!」
キョウヤさんはまさに魂の叫びと言わんばかりに虎次郎さんに向けて言うけれど、キョウヤさんの魂の訴えは虚しく、虎次郎さんは満面の笑みと言わんばかりの渋い笑みで断言してしまう。
本当にはっきりと言ってしまっているところを見て、キョウヤさんは泣いてしまいそうな顔で何度も何度も虎次郎さんに訴えかけていく。突っ込みをしては訴えをして、それではっきりと断言されてしまったらまた突っ込んで訴えてを繰り返して……。
それを少しの間繰り返しいると、キョウヤさんは私達に向けて助け舟を求めるような顔を浮かべて必死の声を上げながら私達に縋ろうとする。
正直キョウヤさんがこんな風に私達に助けを求めて来る (戦闘ではない口論の手助けを求めたことは全然ない。むしろ仲裁に入る方だった)ことは初めてだったので一瞬驚いてしまったけれど、キョウヤさんの言葉を聞いて私は何とか言葉を発しようと少しだけ前のめりになってキョウヤさんに言おうとした。
勿論――キョウヤさんの言うように異議を唱える……と言うよりも他に案があるんじゃないのかなと言うことを言おうとしたのだけど……。
「いいんじゃない? すごくわかりやすいしすごくシンプルでいいと思う」
「キョウヤ頑張れ。いつも俺ばかり言われているし、今回の脱走騒動だって俺走って頑張ったからちょっとは頑張ってほしいからとにかく頑張って成功よろしく」
「こんのクソガキィィィィィィッッ! さらりと手のひらを返しやがってぇええええええええっっっ! 後アキの顔滅茶苦茶むかつくっ! 煽っている且つバカにしている顔で更にイラつくぅううううっっ! おい何優越感に浸ってんだよこっちにこい叩いてやるっ!」
「トカゲのしっぽを使って叩くのかい?」
「殴るぞこんにゃろっ!」
シェーラちゃんは虎次郎さんの提案を聞いて頷き、アキにぃは今まで自分がその罰場だったこともあってなんだか優越感に浸っているような顔でニマニマしている……。すごくいい気味と言わんばかりの顔で、もしゃもしゃもなんだか楽しそうなそれを出している……。シェーラちゃんは冷静にそう思っているみたいで優越感に浸っていないもしゃもしゃを出している。
そんな二人を見て、特にアキにぃの顔を見てキョウヤさんは怒りが爆発したのかアキにぃに突っかかろうと拳を上げようとして、蜥蜴の尻尾も怒りを表していて『びたんびたんっ!』と地団駄の様になんとも畳に向けて叩きつけている。
完全にアキにぃとキョウヤさんの立場が入れ替わってしまったかのような光景に、私は乾いた笑みを零すことしかできず、異議を唱えることすら忘れてしまっていた。
忘れて、その穏やかな空気に流されそうになった時……、突然その穏やかな空気を壊すように声を上げた人物がいた。
「無理だよ。櫓は使えないよ。だって見張りが常に二人いるもん」
そう声を上げたのはオウヒさんで、オウヒさんの言葉を聞いた私達はオウヒさんに視線を向け、驚きの顔で彼女のことを見た。




