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CHIPS その連鎖を断ち切るために

「ハンナ達の作戦会議が行われていた丁度その頃――アルダードラは視界に入り込んできたものを視認し、『ああ、やっと着いた』と思いながら彼は『ばさり!』と背に生えている翼を羽ばたかせた。


 大きく、緑色の鱗に鱗を斬り裂くようにつけられた傷の痕があるその翼を羽ばたかせた瞬間、周りに漂っていた薄い雲や綿飴のような形の雲が一瞬の内にかき消され、真っ青な空の青に溶けてなくなっていく。


 ほんの少しだけ白い渦巻きの風となって一瞬だけ空の世界に模様と言う名の傷を刻むが、その刻みも虚しく真っ青な空と同化して消えていってしまう。


 周りにある雲を翼の羽ばたきと同時に消しつつ、アルダードラは己の祖国――ボロボ空中都市に向かって飛行していた。


 緑色の鱗を傷つけるように切り傷や刺し傷、殴られた後など無数の傷を晒し、巨大な竜の手の中に己が着ていた鎧を収めながら竜人――ボロボの王アダムドラグーン王と瓜二つの顔に傷だらけのそれを付け加えたかのような顔を晒しながら彼は飛んでその場所に向かう。


 普段の――竜人の姿の時は傷だらけの鎧に隙間から覗く緑色の鱗と傷、兜からはみ出るように生えているその角を見ることができるが、肝心の顔を見ることができないという顔すら見えないような姿をハンナ達に見せていたが、本当の竜の姿になった時は違う姿を人に知られることなく見せているが、彼はその姿を見られても苦と感じない。


 いいや――()()()()()()()()()()()()()


 視界と言う名の感覚が殺されてしまったが故、彼は苦痛に感じられる視線など苦痛ではないのだ。


 いうなれば視力がない。ハンディキャップを抱えている。


 と言った方がいいだろう。


 なぜアルダードラの目が見えなくなってしまったのかと言うことに関して簡潔に説明すると………。


 彼の目が見えなくなったのは、竜騎士団が決死の思いで戦った『偽りの仮面使』の手によって、彼の視力は失ってしまったのだ。


『偽りの仮面使』の攻撃を受け、光を失ってしまい、その対価として彼は『大気』と言う魔祖を得ることになってしまった。と言う事だ。


 アルダードラがなぜ視力を失い、そしてその代償として『大気』の魔祖を得ることになったのか。その話に関してはかなり長くなってしまうのでまた後日話そうと思う。


 閑話休題。


 雲によって遮られていた己の国の姿を見ることは出来ないが己の周りに漂う雲の流れ、風の流れ、そして大気の流れを感じながらアルダードラは見えない視界の中迷いのない真っ直ぐな飛行で祖国へと翼を広げ飛ぶ。


 ばさり、ばさぁ! 


 大きな竜特有の翼を羽ばたかせると周りに漂っていた雲が空の色に溶けていき、風が渦を巻き、どこかへと飛んで行ってしまう。


 クロゥディグルの時もその現象は彼が翼を動かすたびに起きていたが、アルダードラはクロゥディグルより一回り大きい竜。その竜が動かす翼も大きいので大気中の変動も動きも急かしなく大きいが、その変動を己が持っている魔祖で感知しながらアルダードラは思った。


 ――いつもは綺麗な水の中を泳いでいるような滑らかな空気の流れなのだが、今日の空気の流れは変だ。まるで純度が高い水の中にゴミが混じっているような、そんな異物感を風の中に感じる……。


 ――なんなんだこの異物感は……。前まで感じた透き通った風ではない。大気はさほど変わっていないように感じていたが、よく感じると……、微量だが何かが大気中を漂っている。


 ――これは、まさか……。


 アルダードラはそう考えた後、大気中に漂うそれをとあるものを確信した後、彼は羽ばたかせるその翼の動きを少しだけ大きく、且つ早めるように動かす。


 今までの速度を速めるように翼を動かすと、今まで緩やかに感じる速度だったそれが少しだけ早くなるような感覚を視覚のないの頃の五感で感じながら彼は加速し、一秒でも早くボロボに着くように飛ぶ。


 飛んで――最悪の想定を脳内に浮かべると同時にかき消すと、飛ぶという単純行動の最中脳内では急かしない情報の整理に追われているというなんとも余裕がないことをしている最中、アルダードラはふと脳裏に浮かびあがったとある少女の背を……、いいや、彼は視力と言うものを失っているので、この場合は鬼の少女の姿をした空気の型を思い出し、その型を脳裏に浮かべながら彼は思った。


 見えない視界の中で感じると同時に浮かびあがる鬼族の少女の型、その型に二重に重なるいくつもの人影の靄。


 その靄はよくハンナが感じるようなもしゃもしゃに似ているもので、アルダードラが感じているそれはハンナのもしゃもしゃがクッキーの形を作る型抜きとなっているようなものと思ってほしい。


 その型が二重に重なり、二重が一つの色となって黒の世界を彩る一つの集団となる光景を思い描きながら彼は思う。


 試練を課せ、彼等に鬼の姫のことを任せたあの日のことを思い出しながら……、アルダードラは心の中で思った。


 ――彼等は、気付いているのだろうか……。


 ――私の言葉を聞いて、彼等は気付いているだろうか……。


 彼等は気付いているのだろうか。


 その言葉はまさにアルダードラからハンナ達に向けたメッセージのことであり、アルダードラはハンナ達がそのメッセージをちゃんと汲み取っているのか。そのことを心の中で小さいながらも心配して彼は飛んでいた。


 もし、そのメッセージを汲み取ることなく、()()()()()()()をしていたらと思うと、アルダードラは小さく溜息を零し、心の中で……。


 ――しかしそれは最終的な事でもあるし、私は『御守をお願いする』と言ったんだ。その心意を読み解かなくとも二週間御守をしてくれたならそれはそれで試練合格を与えよう。


 ――これ以上、冒険者の方々に迷惑をかけたくない。


 と思いながら、彼はもう一度ばさぁり! と大きな傷だらけの翼を羽ばたかせる。


 一刻も早く突かなければいけないという使命感と当時に芽生えていく試練の状況。そして己の真意を汲み取ったかと言う不安と、鬼族の未来を考えながらと、色んな急かしない思考を巡らせながら……。



 ◆     ◆



 ハンナ達が企てたオウヒのための脱走計画。


 それははたから見れば試練違反。最悪試練失敗になってしまいそうな計画に聞こえてしまうであろうが、この脱走こそがアルダードラがハンナ達に残した最後の希望……。最後の賭けだったのかもしれない。


 そうヘルナイトは言っていたが、この回答を今行うのであれば……。


 正解である。


 あの時――アルダードラはハンナ達に向けてこう言っていた。


『簡潔に桜姫様の御守を二週間するという内容なのですが、御守と言いましても何でもかんでもと言うわけではございません。そこまであのお方は何もできないというわけではないので……。私が主にすることは桜姫の勉強……、外の世界に関しての知識――つまりは鬼の郷以外の貿易や国の関係、歴史、色んなことを勉強させます。これは主に一対一で、三日に一回は定期試験を行わせてください。後は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。あのお方は毎日時間問わずに脱走を試み、どのような手段使ってでも絶対に脱走をしますので、寝ずの番を決めてから脱走阻止を行ってください。できれば寝る前に桜姫様の持ち物を隅々まで確認し、その後で見張りをすることが最適だと思います。そこまでしないとあの人は絶対に脱走をしますので。一日に数十回どころの話ではありませんし、気を抜いてしまえば絶対にあの人は脱走を試みます。ざっとこんな感じですが、あとは普通に話し相手になったりして二週間を過ごしてください。尚試練失敗の条件を強いてあげるならば……、桜姫様が大きなけがをした場合、そして存亡にかかわる様な危険な目に遭わせてしまった場合、失格としますが、それ以外に関してはとやかくは言いません。できればでいいですが、姫様の話し相手に、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。何かわからないことがあれば紫知様や赫破様に聞いてください』


 アルダードラはハンナ達に向けてはっきりとした言葉でこう言った。


 できればでいいですが、姫様の話し相手に、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 その言葉をただ聞いていたのであれば何の違和感もないだろう。何も考えずに、思い出すことがなければこの言葉を思い出すこともなければ首を傾げるようなことでもない。


 ただ脱走を阻止しつつの二週間御守サービスを行うだけのものになってしまうだろう。


 簡単に考えてアルダードラの優しさとして考えてしまうかもしれない。


 しかしその考えに至らず、アルダードラの真意を汲み取ることができたのは奇跡に近いようなことだった。


 アルダードラは確かに桜姫の御守を行いつつもこの世界――アズールの歴史について教えていた。それは鬼族で最も偉い存在でもある()()()()の命令で教えていたことであり、正直()()()()はそこまで考えていないかもしれない。


 ただ常識として教えろ。そんな心意で命令をしていたのかもしれない。


 だがその命令がなくとも、アルダードラはきっと桜姫の御守役を買って出たかもしれない。その命令自体出なかったとしても、自分がその提案をして買って出たかもしれない。


 絶対に。そう確信を抱きながら彼は思い出していく。


 あの時、己の兄であると同時にボロボ空中都市の王であった存在――アダムドラグーン王の命令を受けた時のことを思い出して――



 ◆     ◆



 その時アルダードラは己のレベルアップのために『大気』の魔祖のコントロール、つまりは熟練度を極めようとしていた時で、アルダードラはアダム王の呼び出しを受けて謁見の間に向かっていた時だった。


 何年前だったのかは忘れてしまうほどの年月が経ってしまっているが、その時の記憶はアルダードラの記憶にしっかりと刻まれている。


 それほどその時の記憶は刺激的であり、視力と言う世界を失ってしまった己にとっても忘れたくない記憶でもあった。


 つい先ほども話したが、アルダードラは『偽りの仮面使』の手によってその眼の光を失ってしまっている。そのため彼は視界と言う騎士団にとって大事なところを補うために大気と言う空気に流れを読み取って周りの状況を把握している。


 視界と言う名の『見て覚える』と言う記憶ではなく、空気の流れと言う名の『流れを感じて覚える』と言う記憶の中で行動しているのだが、アルダードラはその時の『流れの記憶』を忘れることはなかった。


 その時の『流れの記憶』が今まで感じてきた『流れの記憶』の中でも群を抜いて特殊なものだったからだ。


 内容にもよるかもしれないが、兎にも角にもアルダードラはこの時のことを『流れ』として忘れることはなかった。


 王……、否、兄に呼ばれたアルダードラは兄がいる謁見の間へと足を踏み入れ、兄がいるであろうその場所を見えない目で、甲冑越しで見上げた後、アルダードラは適度に距離を取りつつ、距離を取った場所で膝を立てるように敬意ある姿勢を取る。


 流れるように――クロゥディグルやアクルジェドが行う様に、自分も己の兄の目の前でそれを行う。


 その光景を見てなのか、兄であるドラグーン王はアルダードラに向けて一言こう言った。


「そんな堅苦しいことをしなくてもいいのだぞ? ここには拙僧とお前しかいないのだからな」


 王であり、兄の言葉を聞いたアルダードラは頭を下ろし膝を立てて座った体制のまま一瞬動きを止めてしまった。時が突然止まったかのように微動を行い、一瞬だけ体が反射的に僅かだが揺れてしまうが、アルダードラは兄がいるであろうその場所から流れる空気を感じ取った。


 ひゅるりと――異物の漂いがない純度が高い空気の流れ。


 純度が高いそれは相手の偽りのなさ……、簡潔に言うと正直であるかどうかというものであり、濁りがないということは、異物が漂っていないということは嘘などついていないことを指している。


 しかしその純粋な気持ちを聞いたからと言ってアルダードラは兄の言葉をそのまま汲み取るということはしない。どころかその状態を維持したままアルダードラは兄であるドラグーン王に向けて口を開いた。


 膝を立て、俯いた状態で彼は己の兄に向けて、この国の王に向けて言う。


 王であり、兄である彼の言葉を――受け取らないが()()()()()()()()()意思を胸にしながらアルダードラは言った。


「……その心遣い感謝しますが、私はあなたの弟でありますが『大気』の魔女にしてボロボ空中都市憲兵竜騎士団第一騎士団隊長です。あなたの弟と言う面目でこの場を使って肩の力を抜くなど、私の気位が廃れ、騎士団の面汚しになってしまいます」

「……最強の竜人でもあり、『王の楯』と言う異名を持つ存在だが、お前は私と血が繋がっている弟。顔が同じ弟なのだ。常に兄である拙僧のことを守ることこそが本望であることもよく知っている。知っているが、我々は血を分けた兄弟なのだぞ? 兄なのだから、今だけは兄弟水入らず話がしたいのだよ。拙僧は」

「………………………」

「今この場所にいるのは我々だけ、周りにも警備の者達はいない。今だけでも()()として話そう――アルダードラ」

「それで、兄者――一体なぜおれを呼びつけたんだ? しかも急用とは珍し……、いや、今の状況からしてみれば珍しくないな。何があったんだ?」


 アルダードラは確かにドラグーン王に向けて否定の言葉を促すように言った。


 自分はもうあなたの弟ではなくボロボ空中都市憲兵竜騎士団第一騎士団隊長の存在。そして『大気』の魔女であるので、あなたと対等の会話などできないことを言ったのだが、その言葉をやんわりと否定し、更なる優しい要求を行うドラグーン王。


 兄弟水入らず。


 その言葉は普通に聞いてしまえば普通に受け入れてしまう様な言葉なのだが、アルダードラにとってすれば魔法に近いような強制力を持っている。


 その言葉が出て、且つ兄弟と言う言葉が出てしまえば断れない。


 否――これは一種の王の命令に近いようなものだとアルダードラは思ったが、アルダードラ自身一介の竜人族として、家族と言うかけがえのないものを持つ感情ある存在として、兄と水入らずの会話は約数百年ぶりでもあったこともあって、アルダードラは溜息を心の中で吐きつつ……、重い口を開いた。


 内心……、こんな言葉だけでボロボ空中都市憲兵竜騎士団第一騎士団隊長で『王の楯』と言う二つ名を持っている存在の俺が、こんな言葉だけで脆く崩れて弟と言う立場になってしまうとは……、情けないな。と、己のことを自嘲しながらアルダードラはドラグーン王に向けて顔を上げて事の詳細を聞くことにする。


 一体どんな理由で、どんな用があって自分を呼んだのか。そのことに関してアルダードラはドラグーン王に聞くと、王は「うむ」と相槌まがいな言葉を零しながらドラグーン王はアルダードラに向けて言葉を切り出す。


 先ほどまで感じられた穏やかな音色が嘘のように切り替わった――真剣で王の威厳を持った音色の状態でドラグーン王はアルダードラに言った。


「……。ああ、実はな、昨日鬼の郷に向かい、蒼刃と言う鬼と共に『終焉の瘴気』に侵され自我を失ったシルフィードを封印した」

「! し、シルフィードを……っ!?」

「封印、と言っても言葉だけのものだ。あんなもの祖先の者達が遺した封印魔法と比べれば粗末なものだ。何年もつかわからないようん幼稚で穴だらけの封印だ。こんなもの、ただ塞き止めているだけに過ぎない」

「………………………」

「過ぎないが、それでも何とか封印することができた。のだが」

「?」


 ドラグーン王の衝撃と言っても過言ではないその言葉を聞いたアルダードラは驚きのあまりに声を荒げてしまい、王がいるであろうその場所に向けて顔を上げたが、王はアルダードラの言葉に対して訂正と言うの名の修正を加えるような言葉を並べ、頭を振るう。


 アルダードラは視界が見えない世界の中で『大気』の流れに混ざりを感じ、あぁ首を振ったのだなと思いながら彼は無言になってドラグーン王のことを見つめると、その視線を感じドラグーン王はアルダードラのことを再度見降ろしてから続きの言葉を放つ。


 しかし王の口から放たれた言葉は続きの言葉とは言い難いものであり、曖昧に区切りをつけたその言葉にアルダードラは首を傾げて王のことを……、見えないがそれでも王がいるその場所に顔を向ける。


 その首の傾げ、疑念のそれを見降ろした王は一旦言葉を区切り、その後で重い口を開くように言葉を言い放った。


「この封印は拙僧が持つ王位(ロイヤット・)継承具(アークティクファクト)……『永劫(エイゴウ)ナル氷菓(ヒョウカノ)(ツルギ)』を使い、そして鬼族の中でも群を抜いて八大魔祖の力に長けている三つの角を持つ鬼の者の力によってやっと封印できたものだ。王位(ロイヤット・)継承具(アークティクファクト)と鬼族が持つ自然の魔祖の力をもってしても、『終焉の瘴気』によって力が増幅してしまい、暴走しているシルフィードであれば簡単に壊してしまうかもしれない。風属性が最も嫌う氷属性の力で押さえているが、壊れるのも時間の問題。ゆえに幼稚で簡素な封印を持続させるために、氷の力を持ち力がある鬼族の者に封印の監視を頼んでしまったのだ」

「頼んだ……。なるほど、兄者はこの国の王。王が責務を放棄して封印だけに勤しむなどできることではない。だから頼んだということでいいんだな?」

「ああ。そうだ」

「鬼か……。あの鬼族か。よく承諾してくれたな。大変だったんだろう?」

「少々だ。少々手間取ってしまったがなんとかできたと言っておくよ。まぁ、変わらなかったな。あの種族の考えは」


 二人は弾んでいた会話を一旦区切り、区切った状態で沈黙を貫く。静寂と言う空気が辺りを包み込み、包み込んでいくと連動するように不安と言う感情が変質し、むず痒さと言うものが二人の体の中を、思考を、気持ちを少しずつ乱していく。


 よく静寂に対して居心地の悪さを感じるようなものと思ってほしい。


 緊張とは違う腹部の奥に何かがいるような、そんな違和感と共に、二人はその静寂の中どちらかが話すのをじっと待ち構えていた。


 じっと、次の話題が出るのを待ちながら……。

 

 正直、鬼族のことに関しては竜人族の二人も頭を悩ませるものであり、これはボロボ空中都市……、いいや、アズールと言う世界の社会問題にもなっていることだ。


 内容はハンナ達が聞いた通りの内容で、鬼族に感ずる問題はどの国でも悩みとして抱えてしまう様なものだった。


 勿論すべての元凶は鬼族を謀ろうとした人間族。しかしその人間族に謀りを利用して私腹を肥やそうとした人間や他種族の者達も鬼族にとってすれば敵なのだ。


 角を狩るだけなのに命を狩る。


 懐の潤いを得たいがために行ったこの行為は、現実世界で言うところの人間ではない所業。


 とある人が殺人を犯すのと同じくらい常軌を逸している行動。


 しかしそれを止めることができない。できないくらい鬼族は闇の中に囚われている。闇と言う名の鎖を自ら掴み、それを手綱にしてどんどん闇の中へと潜り込もうとしている。


 心の中で渦巻いて絡まっている黒い憎しみが取れない限り、鬼族は闇の奥へと足を進めていく。延々と……、行き止まりなどないその道に足を踏み……。


 その憎しみが解消されないという負の連鎖のレールを歩んでいる鬼族のことを考えて居たアルダードラは、内心鬼の気持ちを変えるとなると、この世界そのものが滅んでしまわないといけないのかもな……。と思いながら鬼のことについて考え、この考えを賭けるためには一体どうすればいいのかと、一介の騎士団団長ながら鬼族のことで頭を悩ませていた。


 勿論厄介と言う面目の悩みではなく……、別の意味で頭を悩ませて――


 同じ国で生まれ、育った者同士なんだ。手を取り合う……、ことは最終的な目標として上げるが、お互いのことを分かり合える立場になれたら、どれだけいい事か……。


 そう思いながらアルダードラは心の中の思いを胸の中にしまいつつ、顔や体を隠している鎧の金属を立てながら突っ伏する。


 彼自身、鬼族の考え方を根本的揶揄えるというよりも、自分達が他種族の良いところを鬼族の人たちに教え、少しでも考えを変えてくれれば大きな一歩だと思いながら……。


 つまり――彼自身ヘルナイトと同じ意見で、鬼族の負の連鎖を断ち切りたい気持ちを心の中で渦巻かせながら思っていたのだ。


 渦潮のように思考を巻き込んで巻き取りながら……、複雑に絡み合わせて……。


 どれだけ沈黙と言う名の静寂が続いたのだろうか。時間からするとたった数分程度の者なのだが、思考の巡らせや沈黙が時間経過の感覚がマヒしてしまったのか長く感じているアルダードラだったが、その長い沈黙も終わりを告げることになる。


「アルダードラ。ここでお前を呼んだ件に関して説明しよう」

「!」


 王の、兄の言葉を聞いたアルダードラははっと息を呑むと同時に声がした方向、角度に頭を上げると、ドラグーン王はアルダードラに向けて言った。


 アルダードラには見えていないが、少しだけ座った状態で前屈みになるとドラグーン王は己の弟に向けて告げる。


 神妙ではあるが、どことなく明るさが含まれているような、不純物がない風を吹かせて王は言ったのだ。


「先ほども言ったが、拙僧は氷の魔祖を持つ三つの角の鬼と協力してシルフィードを一時的に封印した。したが、実はその封印を手伝う条件として、三つの角を持つ鬼――蒼刃は我々に『桜姫の教育係』を派遣してくれと言ってきたんだ」

「教育係……? その教育係は鬼の郷にもいるだろう? 確か……、紫知とかいう、闇の魔祖を持つ女が」

「ああそれは知っている。しかし蒼刃が条件として出した教育というものは――経済のこと、歴史に関することだ。しかも外の世界の歴史に関しての勉強をさせたいと言っているんだ」

「外の……」

「勿論外の世界のことを許したわけではないが、姫でも浮世離れにさせたくないのだろう。いずれ姫の力が必要になる。そのために勉強をさせようと思っているらしい」

「………………………」

「そこで、拙僧はアルダードラ――お前に教育係として任命したいのだが、どうだ?」

「!」


 ドラグーン王の言葉を聞いたアルダードラは驚きの声を上げそうになる口をきつく閉じて王のことを見上げる。見えない世界で王が放ったであろう感情の風を感じながら……不純物などない純度百パーセントの風を感じながらアルダードラは王のことを見るように見上げると、ドラグーン王はそんなアルダードラの顔を見て、甲冑で表情など見えないにも関わらず、どんな顔をしているのか見えたかのようにふっと微笑むと、王はアルダードラに向けて言った。


 神妙なそれが消えた穏やかな音色で――王は言う。


「お前は、拙僧以上にこの国――否、アズールのことを考えている。まるで王になってこの国の未来を第一に考えているかのような光景だ。その自己犠牲は賞賛に値する。それでこそボロボ空中都市憲兵竜騎士団第一騎士団隊長。『王の楯』と呼ぶにふさわしい人格だ。自分の目が見えなくなった時も、お前は己よりも他の者達の心配を優先していた。この国のことを優先にし、己の目など二の次三の次、最悪最下位にしてしまうほど、お前は国のことを、自分以外の者達のことを気に掛けていた」


 鬼族のこともそうだ。


 そうドラグーン王は言い、続きの言葉をアルダードラに向けて繋げるように告げる。


「拙僧も考えてる。鬼族も我々と同じように、他の国のように種族と言う名の隔てなどなく手を取り合ってほしいという。アルテットミア王のように努力して築き上げようとも、鬼族の考えが変わることはないかもしれない」

「………………………」

「だが……、一人だけ、外の世界に憧れている鬼族がいた」

「……! 外の世界に……?」

「ああ」


 ドラグーン王の言葉を聞いてアルダードラは驚きと意外が入り混じった声を零して王がいるその場所に視線を向けると、ドラグーン王は頷きながら言葉の続きを口にする。


 神妙でも何でもない――穏やかな音色と共に王はアルダードラに向けて言う。


「その鬼族はお前が『教育係』を受けたいと言えば会える人物だ。他種族嫌いがかなり根強い鬼族の中でも異質ではあるが、その意思津な存在だからこそ、もしかするとと言う可能性も秘めている――そんな力と考えを持った鬼族だった。拙僧も少しばかり話したが、おせっかいだったかもしれんな。だがあの子は鬼族を変えてくれるきっかけになってくれるかもしれない。そのきっかけを消さないためにも……、やってくれるか? アルダードラ第一隊長」

 

 王は言った。自分に向けて、鬼族の負の連鎖に関して心を痛めていることを知っているからこそ王はアルダードラに言い、その選択をアルダードラに任せる素振りを言葉で行う。


 まるで誘導されているような言葉の使い方。


 何もかもが王の口車に乗せられているかのような感覚にアルダードラは心の中で――兄弟として話そうとか言っていたくせに、今ここで王としての権限を使うとは。と思っていたが、その思考のままだまり、黙った後で頭を小さく心の中で振るう。


 表には出さないように心の中で振るうと、アルダードラは――いいや。と心の中で呟くと、彼は再度ドラグーン王の目の前を見据えるように前を向き、穏やかで不純なものなどない風を出しているドラグーン王のことを見て言う。


 王も鬼族の未来を考えている。自分と同じくらい、もしくはそれ以上に、この国の未来を考えてではなく一種族のことを考え、先が見えない未来を照らせる手助けができれば、きっかけを作ればいいと思い行動した。


 王が行動した。ならば自分もそのきっかけを繋ぐために――行動しよう。


 そう思ったアルダードラは王の言葉に何の迷いもなく頷いた。



 ◆     ◆



 そして現在に時を戻し、アルダードラは誘いの話が合った時のことを思い出しながらふとこんなことを思っていた。

 

 あの誘いがなければ、きっと前に踏み出すことなどなかった。


 もしかしたら平行線のまま一生を終えていたかもしれない。


 もしかしたら……、鬼族の未来も変わらないまま暗い未来のままだったかもしれない。


 自分で行動しようにも鬼族の者達の干渉の否定もあってできなかったこともあり、アルダードラは王の提案には深く感謝していた。


 感謝しかなかった。


 このきっかけを与えてくれた王には、兄には感謝しかない。


 感謝しかないからこそ、このきっかけを無駄にはしたくない。


 本来ならおれが桜姫様を連れてお忍びでお出かけをしようと思っていたのだが、きっと彼等ならその意思を汲み取ってくれるだろう。


 急用が入ってしまったせいでできなかったことを、彼等がしてくれる。


 同じ気持ちを抱いている彼等なら、きっと桜姫様の願いを叶えてくれるだろう。


 そう思いながらアルダードラは翼を羽ばたかせて、ボロボ空中都市に向かって飛行を加速させる。


 巻き怒る小さな巻風を辺りに散らし、その巻風の力も微量ながら借りるように加速しながらアルダードラは向かう。


 襲撃者の手によって深手を負ってしまったドラグーン王の元に向かって……。

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