PLAY112 お買い物に行こう・計画編④
「は? 突然何言い出すのよ師匠」
虎次郎さんの突然の言葉を聞いた誰もが驚きのそれを顔に出していたけれど、その言葉に対して言葉で反応を示したのはシェーラちゃん。
シェーラちゃんは本当に疑問と呆れが入り混じった『はぁ?』が出て来そうな顔と声で虎次郎さんに向けて聞くと、彼女のことを見ず未だにアキにぃ作のイラスト――鬼の郷の見取り図とにらめっこをしている虎次郎さんに向けて続けるようにこう言ったのだ。
本気の呆れというか、今度は何なんだと言わんばかりの音色でシェーラちゃんは言う。
「何が『――これだ!』よ。師匠も何か思いついたって言うの? それなら現実的な考えを言ってくれたら有難いわ。アキの安直且つ幼稚な作戦もできないんだから、それ以上の幼稚な作戦は受け付けないわ」
「おいやめろシェーラ、お前今日の毒舌ひどいぞ。毒と言うよりも猛毒舌に関してしまいそうなひどさだぜ? 格好の的になってしまったアキもお前の毒舌一つで死にかけてんぞ」
シェーラちゃんの言葉を聞いていたキョウヤさんは少しだけ恐怖を覚えた顔を浮かべつつ、その近くで正座をしたまま前のめりの状態で倒れてしまったアキにぃのことを介抱しつつシェーラちゃんに対して注意を零すけど、シェーラちゃんはキョウヤさんの言葉に何の反応を示さず、その状態でシェーラちゃんは虎次郎さんの言葉を待っている状態だ。
……確かに、いつもシェーラちゃんはきついことを言うところがある。
でもその中には優しさと言うものも含まれているから、いくら毒舌と言う名の舌剣を吐いたとしてもただ『いつも通りのシェーラちゃん』と言う認識で終わってしまう。
逆にロフィーゼさんのように優しくなったら、それはそれで怖い気がするけど……。
優しくなっても怖いけれど、逆に毒舌の威力がデカくなったらいいというわけでもないのも事実で、今日のシェーラちゃんの毒舌はキョウヤさんの言う通り、本当に猛毒のような威力を持った猛毒舌なのだ。
そのせいでシェーラちゃんの言葉に対していくつか矢印と言う名の矢がぶっ刺さってしまったアキにぃは蹲るように丸まってしまった。その光景はまるでダンゴムシ……。アルマジロでもいいと思う。
そんな状態でアキにぃの背中を撫でていたキョウヤさんはシェーラちゃんに向けて注意をしたと言う事。ヘルナイトさんもその光景を見てアキにぃの肩をとんとんっと叩いて慰めている。
さっきまで見せていたアキにぃの威勢が地の底に転落した瞬間だったけど、そんなアキにぃの転落を無視し、キョウヤさんの注意を無視してまでシェーラちゃんは虎次郎さんの言葉を待っている。
きっとそのくらい虎次郎さんの言葉に対して期待……、じゃない。これはきっと変なことを言わないようにと言う抑止なのだろう。
アキにぃの後に言ったし、それに虎次郎さんはシェーラちゃん曰く良くも悪くも真っ直ぐだから何を言うのかわからないって言っていたから、きっとそのことを心配して、且つ変なことを言わせないようにしようとしているのだろう……。
でも言い方と言うものもあるけれど、きっとシェーラちゃん自身余裕がないのかもしれない。
どう余裕がないのかは言わなくても分かるし、鬼の郷からの脱出を考えたら変なことを言って時間を無駄に使うなんてことはしたくないだろう。
だからシェーラちゃんは念を押すように虎次郎さんに言ったんだ。
言い終えて、キョウヤさんの言葉が言い終わった後、虎次郎さんは私達に視線を向けた後――
「幼稚? それは聞いてから判断してほしいものだ」
と言って、意気揚々した面持ちでアキにぃが描いた見取り図を手に取り、その和紙を私達に向けてから虎次郎さんは言った。
はっきりとした言葉で、とあるところを指さしながら虎次郎さんは言ったのだ。
「この場所を使えば成功するかもしれんと思っただけのことだ。早合点で判断をしてはいけんぞしぇーら」
『?』
「あ」
「ここは……」
虎次郎さんはとあるところを指さしながら言った。
その場所を見て、指が指されているとある箇所を見た私とキョウヤさん、シェーラちゃんは首を傾げ (アキにぃは現在進行形でショックを受けている最中)、オウヒさんは呆けた声を上げてからヘルナイトさんがその場所を見て言葉を零す。
虎次郎さんが指さしているその場所はついさっき話に上がっていた櫓だ。
櫓の場所が書かれているその場所を『とんとんっ』と指さしながら虎次郎さんははっきりとした言葉で「この場所だ」と言って、理解が追い付いていない私達を置いてけぼりにして虎次郎さんは続けて言う。
「この場所を利用すればきっとうまくいくぞ! な?」
虎次郎さんはその場所を何度も指でとんとんっと指さし、私達にその場所を見せつけるように言う。
この場所を利用すれば何とかなる。そのことは分かった。
わかったのだけど、人間これだけで分かるなんてことはまずありえない。心を読む人がいない限り虎次郎さんが何を考えて居るかダナンテわからないし、どころかこれだけの情報で分かること自体無理なのだ。
だからみんなは口に出した。
「いや『な?』じゃねーんですけど? 何をどう利用する気だよ」
「ごめんなさい……、どういう風に考えたらそうなったのか、理解できないです」
「櫓をどう使えば利用できて且つ脱走できるって思っているのかしら? そのことに関して詳しくお願いしたいものね」
虎次郎さんの言葉にキョウヤさん、私、シェーラちゃんが疑問と言う名の虎次郎さんの言葉に対しての否定を口にすると、その言葉を聞いていた虎次郎さんは予想外の言葉だったのか驚きの見開きのそれを浮かべて、口から無意識なのか――『ぬぅぉお?』と、渋い声ながら半音高いそれを零してしまう。
その半音は初めて聞く声でもあったし虎次郎さんの渋い声からそんな高い声が出ること自体想定していなかったからその声を聞いた瞬間思わず声を零してしまいそうになったのは――私だけの秘密。
でも虎次郎さんの半音高いその声に反応を示すほどキョウヤさんとシェーラちゃんに余裕と言うものがなかったのか、それとも気付いていないのかはわからない。わからないけれど二人は真剣というか、虎次郎さんの言葉と驚きのそれを見て一瞬言葉を失った顔をして――
「まさか……」
「納得するとでも思っていたの……? するわけないでしょう師匠……っ」
と、キョウヤさんは言葉通りの顔を浮かべて言葉を濁すと、その言葉に対して繋げるようにシェーラちゃんが驚きのそれを浮かべて虎次郎さんに聞くけど、虎次郎さんの返答なんて聞く余裕がないほど驚いているのかシェーラちゃんは続けるように虎次郎さんに向けて、ちょっと前のめりになりながら問い詰める。
前のめり……、じゃない。もう身を乗り出して畳の上に手と膝を乗せている――いうなればお馬さんごっこをするような体制に近いそれになりながらシェーラちゃんは虎次郎さんに詰め寄って問い詰めた。
距離を詰めるように、どんどんと――
「一体どんな考えを持ってそんなことを言い出して、尚且つ私達が納得すると思っているのかなんてわかんないわ。そのことに関しても詳しく説明してほしい。一体どんなことを考えてどんな確信をもってそんなことを言っているのか、あそこで岩になりかけている男にも分かるように話して。でないと私でも怒るわよ」
と言いながらもう怒っているのに怒ってしまうと言ってシェーラちゃんは詰め寄っていく。
どんどんと虎次郎さんに近付き、背後で「おいおいおいシェーラやめなさい。お前『怒らない』とか言っているくせにもうすでにお怒りマックスじゃねーか。言っていることと自分の感情噛み合ってねーから落ち着け』と言って何とか諫めようとしているキョウヤさんの言葉なんて聞かず、シェーラちゃんは怒りのもしゃもしゃ――シェーラちゃんから煙のようなものが燃え出すようなそれを放ちながら詰め寄っていくその光景を見て、私は内心思った。
本当にその光景を見て、悟るように思った。
――これは相当怒っている。一緒に行動してきた中で相当怒っている。ストレスが凄まじい……。このストレスはまずいかも……。
ストレスと言うものは一見して聞くと悪いもの。良くないものと思ってしまう傾向がある。ストレスが原因で精神を病んでしまう人や精神的な病気になってしまうこともあってストレスと言うものはよくないものと思われがちだけど、本当は体を動かすとか何かをしようと擦ることにもストレスが関わっていると先生から聞いたことがある。
詳しいことは忘れてしまったけれど、とにかくストレスと言うものは悪くもあれはいいことにも関わっていると聞いた。
でも、これはまずいストレスの結果なのかもしれない……。勿論悪い方の……。
今までのストレスも加算され、その結果膨大なストレスが今爆発しようとしている……のかもしれない。その光景が今まさにそれならばまずいかもしれない。
そう思った私はシェーラちゃんのことを止めるために手を伸ばして、ワタワタとその手で空を彷徨わせながら「シェ……シェーラちゃん、ここはドウドウ……、怒りを鎮めて」と諫めの言葉をかけるけれど効果は無し。どころか聞いていないのかシェーラちゃんは虎次郎さんに詰め寄って『どうなのよ?』というオーラ……、もう圧がまずい。
こんな時、シェーラちゃんと仲が良かったというか……、一応シェーラちゃんのことを気に掛けていたジルバさんはどんなふうにしてシェーラちゃんのこの状況を止めることができたんだろう……。こんな時、ナヴィちゃんがいてくれたらよかったな……。
そんな負の循環というか、後悔の渦の中に入ってしまったかのような繰り返しの思考の中、虎次郎さんはシェーラちゃんのことを止めながら「わかった! わかったから一旦下がれっ」と、虎次郎さんにしては珍しく慌てた様子でシェーラちゃんのことを諫める。
きっとシェーラちゃんのこの状態は虎次郎さんからしても始めての光景だったのだろう……。
虎次郎さんの言葉を聞いて一旦話していたその口を閉じて猛追と言う名の圧攻撃をやめたシェーラちゃんは、無言のまま詰め寄っている姿勢のまま虎次郎さんのことを見る。見たまま微動だにしなかったけれど、少ししてその場から少し後ずさりで離れるとその場で正座をするシェーラちゃん。
虎次郎さんの言葉を聞いて一旦落ち着いたのだろう。
そう思いながら私は虎次郎さんに視線をやると、虎次郎さんは疲れを表したかのような溜息を小さく零し、その後でシェーラちゃん、そして私達に視線を向けた後、虎次郎さんは言った。
虎次郎さんが考えた『これならできる』と言う内容を――
「うむ。皆がまさか納得していなかったとは思っても見なかった……。櫓の場所を指させばなんとなくでもわかるかもしれないと思っていたのだが……」
「そんなのアニメでしかありえねぇよ。それこそご都合展開よろしくだ」
…………いいや。その前に虎次郎さんの本音が零れたけれど、その本音でさえも冷静に突っ込みを入れるキョウヤさんの言葉が終わった後で、虎次郎さんは私達に向けて何故櫓の所を指さしたのかを説明してくれた。
「……では、あらためて説明をしよう。まず、姫様に聞きたい。この場所は今でも使われている場所なのか?」
「え?」
唐突に聞かれたその内容に、名指しされたオウヒさんは驚きの声と同時に僅かに肩を上下に揺らして素っ頓狂に近い声を零すと、私達はオウヒさんに視線を向ける。視線を向けられて一瞬だけたじろぐような顔を見せたけれど、その顔をずっと見せることなくオウヒさんはうーんっと唸って考える仕草――腕を組むその行動をして頭を傾けると……、オウヒさんはその状態で唸る声を零しながら固まってしまう。
頭を傾けると同時に髪の毛がさらりと重力に従う様に動きを見せ、動いた髪の毛が私の太腿に少しだけかかってしまうけど、その髪の毛の柔らかさにこそばゆさを感じて、心の中で柔らかい髪の毛だなぁ―……。と関係のないことを思っていると、オウヒさんは考えるそれをやめたのか頭を元の状態に戻す。
髪の毛が動いて私の視界から消えたからきっと戻ったのだろう。
そう思いながら髪の毛の動きを視線で追っていくと、オウヒさんは虎次郎さんに向けて困った顔をしながら返答のそれを述べた。
「使われているのか使われていないのかはわからないの。あの場所を使っているのかすら見ていないし、あの場所は今まで使ってきた脱出経路から逸れているからよくわかんないの。ごめんね」
「うむ。わからんか……」
「あ、でも昔はよく使っていたって紫知から聞いたよ。二人一組になって背中合わせになりながら外の世界の監視をしているって。でもそれは昔の話で歴史の勉強の雑談で聞いたから今どうなっているのかわからないけど……」
「かなり古典的な監視方法ね。でも望遠鏡とかないから結局そのやり方になっちゃうか……」
オウヒさんの言葉に対し虎次郎さんは小さく返事を零しつつ考ええるように胡坐をかいた膝に手を乗せ、もう片方の手は顎の髭に撫でるように添えながら考える仕草をすると、その行動と言葉を聞いていたオウヒさんは『あ』と思い出したような声を零して訂正に近いようなそれを虎次郎さんに言ったけれど、虎次郎さんは返答してくれない。
返答したのはシェーラちゃんで、シェーラちゃんの言葉に対しても虎次郎さんは返答しない。
無言のまま考えてしまっているその姿はまるでとある石像の和風バージョン。
一体何を考えて居るんだろう……。
そう思いながら少しだけ頭を前に倒し、虎次郎さんのことを呼ぼうとした時、虎次郎さんは考えをやめたのかパッと髭を撫でるその動作をやめ、視線を再度オウヒさんに向けると――虎次郎さんは「よし」と張りのある声を言った後すぐに続けるように言う。
「なるほど、理解した! 支障なしと見なす!」
『??』
虎次郎さんの言葉に私やシェーラちゃん達 (アキにぃもやっと復活して話を聞いていた)はおろかヘルナイトさんもオウヒさんに首を傾げながら虎次郎さんの顔を見つめる。
眉毛がハの字とへの字が混ざってしまったような、簡単に言うと中途半端なそれになってしまう様な困った且つ疑問のそれが混じってしまった顔で見つめてしまうけれど、虎次郎さんはそんな私達の顔を見ていない……、いや見ているけれど気にもしていないような素振りで虎次郎さんは続けて私達に言う。
置いてけぼりにされている私達に追い打ちの如く畳み掛けながら……。
「いいか? 儂が言いたいことはこう言う事だ。この櫓を使えば、少数ではあるが姫様をこの郷から脱走させることができると思ったのだよ。しかも――誰にも気付かれることなく、おうひ姫様をこの郷から脱走させることができると、そう少しの確信を得た。と言うことを言いたんじゃ――儂は」
『………………………』
「ほ、本当……っ!? 本当に脱走できるのっ!?」
虎次郎さんの言葉に耳を傾けていた私達リヴァイヴは、虎次郎さんの言葉が言い終わった後でも首を傾げるその行為をやめるどころかさらに捻らせながら虎次郎さんのことを見ていると、オウヒさんは虎次郎さんの言葉を聞いて感極まると言わんばかりの高揚とした顔と涙が出そうな潤んだ瞳で虎次郎さんのことを見つめている。
虎次郎さんの言葉があまりにも衝撃的で、あまりにも予想の斜め上の言葉だったからオウヒさんも驚くと同時に泣きそうになっているのだろう。
だって今まで脱走できなかったのに、やっと脱走できるんだ。嬉しいことこの上ないだろう。
嬉しいことに関しては私も嬉しいし、叶わないと思っていたことがやっと叶うんだもの。
どんな人でもその感情はある。ある……。ある……んだけど、オウヒさんの感極まる感情と、私達の感情にはすごい温度差があるのが今の状況の欠点。
急上昇しているオウヒさんと、急降下していないけれど平均以下の温度で上がったり下がったりしている私達。
そして上昇したまま維持をしている虎次郎さんと言う、なんとも変な空気と雰囲気が辺りを包み込んでいた。
一見して見てしまえばわからないそれだけど、内面が見れる人、そして状況を察するのが得意な人はきっとこの光景を見て困惑すること間違いなし。
そんな状況、雰囲気が辺りを包んでいたけれど、その状況を読み取ることができない (多分)虎次郎さんはオウヒさんの言葉に対して「そうだぞ!」と頷いた後――私達に向けて続きの言葉を述べていく。
『この櫓を使えば、少数ではあるが姫様をこの郷から脱走させることができると思ったのだよ。しかも――誰にも気付かれることなく、おうひ姫様をこの郷から脱走させることができる』
その答えを口にして……。
「む? まだ理解できんのか? いいか? 儂が考えたことは至って簡単な事だぞ? まず…………、――――――。――――――」
□ □
長くてちょっとわかりずらいところがあったりしたけれど、それでも私達は虎次郎さんの話を聞いて何とかというか、内心成程言わんばかりの言葉を聞いて私達は驚きと言うか、虎次郎さんの案を聞いて衝撃が走った。
これが本当の目から鱗なんだろうけど、それでも虎次郎さんの言葉を聞いて、説明を聞いた私達は思わず驚いてしまった。
「なるほどな……。その考えはなかったな。ま坂そこまで考えていたとは思わなかったぜ」
キョウヤさんは虎次郎さんの話を聞いて驚きを隠せない状態だったけど納得のそれを示した後虎次郎さんのことを見ながら腕を組む。
その顔には驚き半分意外半分の顔を浮かべていて、キョウヤさんの言葉を聞いていた虎次郎さんは『はっはっは』と豪快じゃない少しだけ抑えている笑いを放った後――
「いや、正直こんな考えが通るとは思わなかったが、それができる世界だからこそできるかもしれない。そう思っただけのことだ。むしろこんなこと現実でしてはいけんぞ。最悪の事態も起きてしまうからな。これはこの世界ならではの特権だ」
こんなこと何度も使えんよ。
と言って虎次郎さんは腕を組んだ状態で軽く笑いながら言う。虎次郎さんのその言葉を聞いていたアキにぃも頷きながら『確かに……』と小さな言葉を零して鼻で小さく溜息を吐く。
なんだか溜息から感じられる疲れが話し合いの長さを物語っている気がするけれど、そんな疲れもあと何日かで報われると考えればどうってことは無いと思う。そう私は思っている。
そう私が思っていると、ヘルナイトさんは虎次郎さん、そしてみんなに向けて凛とした音色で言葉を放つ。虎次郎さんの言葉に頷きつつ自分の意見を述べながらヘルナイトさんは言った。
「だが虎次郎殿の発案は悪くない。その考えも私にはなかった且つ……、そんな考えができるのは虎次郎殿たちを含んだ異国の者達だけかもしれない。考え方が凝り固まっている所為かそんな考えに至らなかった。脱帽とはまさにこのことだな」
「ダツボウ……?」
「とてもかなわないって敬意を表す言葉だよ。あんま聞かねーよなイギリスじゃ」
ヘルナイトさんの言葉を聞いていたシェーラちゃんは頭の上に疑問符のようなものを上げるように首を傾げながら『脱帽』の言葉に反応すると、その言葉に対してわかりやすく説明をするキョウヤさん。確かにイギリスじゃこんな言葉聞かないだろうし、私達日本人もきっと一生利かないかもしれない言葉だもんね。
シェーラちゃんの気持ちに関してもしかしたらと言うことを考えていた私だったけど、その考えもすぐに虎次郎さんの声で頭の片隅に強制的に追いやられ、私は虎次郎さんの言葉に対して反射的に反応して聞く体制に入る。
虎次郎さんの『よし――』と言う言葉を合図に……。
「であれば、これで内容は良いのだな? 決行は後日また話し合うことにするでいいな?」
「異議なしです」
「オーケーです」
「師匠にしては珍しくブレインプレーだったわね。賛成よ」
「気付かれねーようにすることが最も重要だな」
「私も善処はする。成功してこその試練の一歩、そして未来への一歩だからな」
虎次郎さんの言葉に対し、私達は頷きながら虎次郎さんのことを見る。
みんながみんな試練達成のために、オウヒさんの夢のために、そして鬼族の未来を変えるために――行動を起こすことを誓って。
珍しく虎次郎さん発案の脱走案を採用して、私達はこれから後四日間と言う短い期間で脱走と買い物を試みる。
題して――
「では――作戦名は『姫君夢祈願作戦』を実行しようぞっ!」
虎次郎さんの言葉を皮切りに、私達は握り拳を上に上げて声を上げる。
よく子供達が何かを計画して協力しようとする時に上げる『おーっ!』という声を上げて (ヘルナイトさんは小さく握り拳を上げただけ)、私達は作戦を開始する。
その背後で蠢いている悪の計画が進行していることにも気付かないまま……。




