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PLAY112 お買い物に行こう・計画編②




「「――ドへたくそかよ」」




 キョウヤさんとシェーラちゃんの言葉が室内に響くと、その言葉を聞いていた虎次郎さんは何かに気付いたような顔をしてシェーラちゃん達のことを見ていたけれど、私はそんな虎次郎さんの言葉を聞いて驚きの顔をすると同時に全身から体温と言う名の温かみが無くなっていくのを感じた。


 これが――全身の血の気が引いたという表現なのだろうか……。


 私はその感覚を感じながら言葉を発したキョウヤさんとシェーラちゃんのことを見て、これ以上はきっと危ないかもしれないと思いつつどうにかして何かを言わないとと思い行動に移そうとしたけれど、その行動虚しく――アキにぃの硬直を見ても二人は前に掲げたアキにぃ作の絵に向けて問答無用の舌剣を繰り出していく。


「お前簡単な見取り図って聞いたけどよ、これはひでーぞ? ひどいを通り越してこれはない」

「ないというか、筆で書いた絵でもこれは黒の絵の具でテキトーに書いた絵以下の画力じゃない。教えてくれたヘルナイトとオウヒもこれを見てショック受けなかったのがすごいわよ」

「鬼の郷の外枠……、バリケードを描いたんだろ? これバリケードでいいんだよな? あとバリケードの中に描かれているこれって、家? と……、他は何なんだ? ふにゃふにゃした何かが周りを取り囲んでいるけど……『木』とかそんな冗談やめろよ」

「もし木であろうと他の所を見てもやばいクオリティだわ。いいえクオリティなんていう言葉をこの画に使ってはいけないわ。これはまさに絵を描いている人に対して即刻謝罪しなければいけないほどの出来上がりだわ」

「ミミズなのか? ミミズに見えるような絵面で内装もひどい。ひどすぎる。言葉にできないほどひどい出来具合」

「あんた自分で自画自賛していたの? 悲しいと思わない? 自分でこんなに汚いものを書いているくせに『自分はこんなにもうまいんですエッヘンっ!』とか言って自分の下手を誤魔化すの。それって悲しいと思うわ。あんたそこまでして何の威厳を保とうとしてんのよ」

「お前の個性なんてもうみんな周知しているんだ。もうお前の個性が羞恥ものだって言う事くらいわかっているんだ。だからこんなところで追加設定とか加えるな。お前はシスコンって言う強みがあるんだ。絵がうまいなんていう個性なんていらないから……な?」

「あんたはシスコンってだけで十分個性出ているわよ。だから無理しないで」



「「そんなへたくそな絵を描くことで自分のシスコン以外の個性を引き出すな」」



 繰り出していく最中、二人はアキにぃに猛追と言わんばかりの言葉を投げかけていくけれど、だんだんとその猛追も減っていき、次第にアキにぃのことを思いやる様な口調に変わっていく。


 もしかしたら、アキにぃは無理を言ってこんなことをしたのかもしれない。


 深い理由までは分からないけれど、それでもアキにぃのことを思いやる様な言葉を言った後、二人はアキにぃの肩に手を置き、お互いがアキにぃのことを見て『大丈夫』と言わんばかりの困った笑みを浮かべた後――アキにぃに向けて慰めと言えるような発言をした後……。


 二人の言葉を聞いて黙ったままだったアキにぃは二人の最後の発言を聞いて、添えられていた肩や体をがくがくブルブルと震わせ、いつの間にか俯いていたその顔を上げると、アキにぃは二人に向けて荒げる声を上げた。

 

 顔やエルフの耳を真っ赤にさせて、もう羞恥心でいっぱいの顔を私達に見せながらアキにぃは叫んだのだ。


「へ、へ、へ……へたくそとか言うなっ! これでも一応丁寧に書いた方なんだって! 筆ペンだからうまく書けなかっただけで、ボールペンとか鉛筆とかで書いたらちゃんとっ! ちゃんと書けていたんだっ!」

「物の所為にすんな。お前の技量が足りなかったんだって」

「シスコンだけで十分よ? あんたはそれだけで十分キャラが立っているし、そんな絵を公で見せなくてよかったって思っているわ。あんたのへたくそを公にしてしまうとどっかからブーイングの嵐。プチ炎上確定よ」

「炎上言うなっ! 俺は俺でしっかり描いたんだぞっ! 少しは褒めろよっ!」

「「褒めるところなんて全然ない」」

「断言すなぁっっ!」


 真っ赤っかのアキにぃの魂の叫びを聞いてもキョウヤさんとシェーラちゃんの反論……、というか論破はアキにぃの心を傷つけていき、もう泣いているように見えてしまうアキにぃの最後の叫びを聞いても二人が謝るなんてことは無く、どころか正論だと現実を突き付けるという行いをしていた。


 アキにぃからしてみれば非道な行い。


 でも二人はそれを現実としてアキにぃに突きつけている。


 現実を突き付け続けてアキにぃの心にダメージを与えている二人はアキにぃからしてみればもはや敵にしか見えないかもしれない。


 ダメ―ジが大きすぎた結果アキにぃは濁流の如く涙を流して二人に断言するなと荒げる声で反論した。


 もうやめてくれ。


 悲痛のもしゃもしゃが読み取れるようなそれを出しながら言うアキにぃを見て、そんな兄を見ても『大丈夫大丈夫。お前はちゃんとしているから』と、なんだか変な方向に勘違いをしている二人を見て、私は内心思った。


 なんだか心に冷たさと呆れ、そして何を言えばいいのかという感情を抱えながら私は思った。


 ――アキにぃが不憫だ……。


 ――アキにぃもアキにぃなりにしっかりとした個性があるのに、それをシスコンで埋めるのはちょっと……。


 そんなことを思いながら現在進行形でぎゃーぎゃー騒いでいるみんなのことを見ながら、私はふととあることに気付き、その気付きに関して聞くために私はオウヒさんの名前を呼んで『ちょっといいですか?』と聞くと、オウヒさんは私の言葉を聞いて『なに?』と聞いて来たので、オウヒさんの言葉に甘えるように私は聞いた。


 正直……、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 このことに関してはこの話をする前に気付くことでもあるし、正直もしかしたらと言う可能性もある。そのことを踏まえて私はオウヒさんのことを見た後聞いた。


「オウヒさんはこの郷の姫だから、常に監視されているんですか?」

「? どういうこと?」

「えっと……」


 私の言葉を聞いたオウヒさんは一瞬目を点にして首を傾げたけれど、私は内心、言葉足らずだったかなと思って反省しつつオウヒさんに対してわかる言葉を脳内で並べながら説明を続ける。


 というよりも……、言葉を言い換えて再度聞いてみた。


「ちょっと言葉が汚くなってしまうんですけど、オウヒさんはこの郷の姫で、前に話したことがきっかけで監視とかが入ったのかなと思ったんです」

「それって、夢のことを話してってこと?」

「そうです」


 オウヒさんの言葉に私は頷く。


 続けて私はオウヒさんに向けて言う。


「夢のことを話して、オウヒさんは脱走を繰り返しているから、もしかしたら誰かがオウヒさんの部屋を監視していて、もしかしたらこの会話も聞かれているかもしれないと思いまして……」


 私の言葉を聞いて、オウヒさんは一回、二回目をぱちくりとさせた後、その状態で黙ってしまった。きっと私の言葉を聞いて気付いたのか、それ以外のことを思ったのかもしれないけど……、そのことまでは分からない。


 わからないけれどきっとオウヒさんは私が言った言葉を聞いて何かに気付いたのだろう。ヘルナイトさんや私の話を聞いていたのか、虎次郎さんもはっと息を呑むような声を零して私のことを見ていたのだ。きっと今更だけど気付いてしまったんだろう。


 私が言った言葉――『監視』の言葉を聞いて。


 そう、もしかした等私達の会話も監視で聞かれているかもしれないという事態を今更ながら危惧してしまったのだ。


 最初の時はそんなこと考えて居なかったし、まさか部屋に監視カメラのようなものをつけて監視しているとは思っていなかった。


 普通一般家庭で監視カメラなんて付けないし、一般家庭で着けるとすれば何かの証拠を突き止める時にしかつけないだろう (輝にぃがそんなことを言っていたし、お爺ちゃんもそんな話をしていたので)。


 でもオウヒさんはこの郷の鬼の姫であると同時に鬼にとって禁句……、タブーのようなことを言ってしまった人なのだ。


 鬼族は外と言う世界そのものを嫌っている。どころか憎んでいる。


 憎んでいるからこそオウヒさんを外の世界に行かせるわけにはいかない。行かないから常にオウヒさんのことを監視しないといけない。


 監視しないとオウヒさんが隙を突いて逃げてしまうかもしれない。外の世界に足を踏み入れて、最悪の結果になってしまう可能性が高い。だから監視をしなければいけない。


 オウヒさんを常に監視して、鬼族的に守るために――オウヒさんの部屋に何かを仕掛けて監視しているかもしれない。


 そう一抹と言えるような不安を感じた私は意を決してオウヒさんに聞いた。


 というよりも、悟らせるように私は聞いたの方がいいかもしれない。


 この部屋は監視されているかもしれない。もう遅いけど、もしかしたら聞かれているかもしれない。


 一抹の不安がどんどん盛り塩のように積もっていく感覚を感じ。ピラミッド状の不安が私の心の中で形作られて行く最中、オウヒさんの言葉を待っていると……、私の言葉を聞いていたヘルナイトさんは私に近付き、その場でしゃがんで流れるような動作で頭に『ぽふり』と手を置くと、ヘルナイトさんは断言するように凛とした音色で言ったのだ。


 はっきりとした言葉と音色で――ヘルナイトさんは私に向けて言った。



「大丈夫だハンナ――その心配はいらない」


 杞憂だ。



 ヘルナイトさんのはっきりとした言葉を聞いた瞬間、今度は私が目を点にしてヘルナイトさんのことを見上げていた。オウヒさんがそうしていたように、今度は私がそうなってしまった。


 簡単な理由だけど、ヘルナイトさんが言った言葉に対して驚いてしまって、その驚きのまま私は固まってしまった。それだけなのだが、それだけの情報の中には多くの情報が詰め込まれていることも事実。


 ヘルナイトさんは言った。


『大丈夫だハンナ――その心配はいらない。杞憂だ』と……。


 ヘルナイトさんは確かに、私に向けて監視のことに関しての心配はいらない。それは()()()()()だと。


 取り越し苦労だと――そうヘルナイトさんは私に向けて断言をしたのだ。


 監視なんてないことをはっきりとした言葉で告げて――だ。


 虎次郎さんもヘルナイトさんの言葉を聞いて驚きの顔をしながら安堵のそれも吐いてと、もう感情の渋滞が小さいながら起きていて、対照的にヘルナイトさんの言葉と私の顔を見て聞いていたオウヒさんはヘルナイトさんの言葉に同意するような頷きをして――オウヒさんは驚いている私に向けて口を開く。


「うん。そこにいるヘルナイトの言う通り――『かんし』とかそんなことみんなしていないよ? だって紫知とかみんなが私のことを監視していたんだけど、その時の視線が寝ている時とか休んでいる時とかにしていて、全然気が休まらないから『監視とかそんなことしないで』って言ったらそれ以降気配もないから大丈夫だよっ」


 ハンナは心配性だねー。


 そうオウヒさんはけらけら笑いながら腰に手を当てて胸を張りながら言う。


 監視なんてない。そう断言をして――だ。


 正直そこまで断言するとは思っても見なかったし、まさか本当に杞憂で終わってしまうとは思っても見なかったから、私は屁ツナイトさんとオウヒさんの言葉を聞いて、肩の力がどっと抜けるような脱力感を覚えた。


 肩の乗っかっていた不安と言う名の重しを落とさないように肩の力を入れていたけれど、杞憂と分かった瞬間重しが塵となって無くなり、重しが無くなったことにより力んでいた肩の力が余計な力だと体が認識をして、一気に脱力したような――そんな感覚を感じ、私は呆けた『はぁ……』と言う声を零しながらオウヒさんのことを見て、その後で最後ヘルナイトさんのことを見上げた。


 ヘルナイトさんは私の心境を察したのか、頷きのそれを行った後私の頭に置いていたその手をゆっくりと、撫でるように動かして――


「姫様の言う通りだ。鬼族は自然界の魔祖――『八大魔祖』を宿している種族だ。要は私達魔王族や異国の冒険者のように体の中に魔力を持っている存在。魔力を有しているということは近くで魔祖の力を使ってしまえばその力の気配を出してしまう。それがないということは私も薄々だが感じていた。だからその心配は杞憂だ。安心しろ」


 と言って、ヘルナイトさんは私にわかりやすく『この場所の監視はされていない』こと。そして『安心して話し合える』ことを私に教えてくれた。


 教えてくれたその言葉を聞いた私はやっとなのか、安堵のそれを吐いた後一時的に硬直してしまったような、凍りつけにされてしまったかのような感覚に…………、実際されたことがないけれど、急に不安と言う名の急激な温度低下を感じたからそう表現しただけで、私はこれを独自の見解で……、不安がほぐれたのかもしれないと思っていた。


 だからなのか、今まで感じていたそれが無くなり、ヘルナイトさんのことを見上げて私は控えめに微笑んで、どことなく迷惑をかけてしまったような顔をしてお礼と小さな謝罪を述べると、ヘルナイトさんは「気にするな」と言って撫で続け、その光景を見ていたオウヒさんはけらけら笑いながら「心配し過ぎだよー」と言って私の背中を『ぺしぺし』と叩くその光景は、心配し過ぎた人のことを慰めるような光景だ。


 傍らでその光景を見ていた虎次郎さんはなんだか微笑ましく……、温かい目で見ていたことは見ていなかったのでわからない。わからないけど、一抹の不安が消えたことで安堵した私は内心こんなことを思いながらされるがままになっていた。


 ――監視されているとか、なんでこんなことを過剰に反応して心配してしまったんだろう。

 

 ――体験も何もしていないのに、ネットの情報の見過ぎたせいで変なことを考えて居たのかも。


 ――なんか、()()()()()を感じるけど、きっとこれも気のせいだ。


 そう思いながら……私はされるが――




「おいあっちなんであんなにほんわかしてんだ? こっちが大修羅場になっている状況の中何そっちだけほんわかムードで且つ妹と距離を取ってんだ離れなさい武神卿様?」




 ……ままもアキにぃの言葉ですぐに終わってしまい、私達三人はアキにぃの前髪で隠れた血走ったそれを見て「あ」と呆けた声を零した後話を戻すことにした。


 勿論――アキにぃが描いたその絵を参考にして……。



 □     □



「参考にするっつってもな……。この絵で参考にする作戦となると、完全に捕まる可能性百パーセントじゃね?」

「まだディスるか? 人のことをディスって楽しいのか? 楽しいんですかサディストめ」

「根に持つな馬鹿野郎。そんなに自分の画はうまいって思っていたのか? 誰かに(そそのか)されたのか?」

「俺を可哀そうな人と認識すんな。汚いように見えるのは錯覚なんだ。俺だって鉛筆で下書きしてボールペンで清書し」

「はいはいそのお話は終わりっ。それにこれしか参考がないんだから我慢してよ」

「もうディスるのはやめて……。アキにぃのもしゃもしゃがどんどん青い大雨になっているから。アキにぃ心の中で大泣きしているから……」


 それから私達はアキにぃが描いた鬼族の郷の見取り図を取り囲むように畳の上に座って見取り図を凝視していた。


 まるで見取り図を取り囲んでいるその光景は見取り図視点で見ると私達の顔が花弁のように取り囲んでいる。


 想像してしまうと本当に怖い光景だな……。うん。


 ちなみに時計回りで私、オウヒさん、シェーラちゃん、アキにぃ、キョウヤさん、虎次郎さん、最後にヘルナイトさんと言う順番で畳の上で胡坐をかいたり正座をしたり、前のめりになりながら立ち膝をするなど各々が楽な姿勢で見取り図を見下ろしている。


 その状態で私達は現在見取り図とにらめっこをしながらうーんっと頭を捻るように思考を絞ろうと模索をしている。そんな最中で放たれた言葉がキョウヤさんとアキにぃ、そしてシェーラちゃんと私の会話と言う事なんだけど……。


 ごめんねアキにぃ。


 ここで口で正直なことを言ってしまったらアキにぃは傷つくと思う。だから心の中で本音を言うと、本当にこの絵は分かりずらいなと思ってしまった。だから私は最初にアキにぃに向けて謝罪のそれを述べて、その後で再度見取り図とにらめっこをして隣にいるオウヒさんに向けて色々と聞いてみた。


 ……正直、絵だけで判断することは出来ないから、ね……。


「えっと……、この中央の横長の画は……、今いる屋敷って見ていいんですよね?」

「そうだよ。これが屋敷で、離れているこの四角が私の部屋。屋敷の後ろはみんなが集まる大広間とかがある部屋だよ。上の階に行けはみんなの寝室とかがあるの」

「そうなんですか……」

「そうだよ。んで見取り図の右側にある横長の視覚は貯蓄小屋。ここで食べ物を保管していたりしているんだ。その貯蓄小屋の上にある四角は櫓」

「櫓……、ですか」

「櫓と言う事は、敵襲に備えて見張っているということですね」


 私とオウヒさんの言葉には割り込むようにヘルナイトさんは私とオウヒさんのことを見ながら聞くと、オウヒさんは上を向いて考えるような声を上げると共に「分かんないけど……、緑薙が言っていたからそうかも!」と、あまり理解していないけれどその人が言ったのだからきっとそうなのだろうという認識でオウヒさんは頷く。


 その言葉を聞いたヘルナイトさんは小さな声で『なるほど……』と言いながら長考するように顎に手を添えると、シェーラちゃんが何かに気付いたのかオウヒさんの名前を呼ぶと彼女はオウヒさんの部屋の周りに書かれている黒ミミズの大群を指さしながらシェーラちゃんは聞いた。


「今思ったけど、あんたの部屋の周りって木がいっぱいあるのね」

「ん? あー確かにそうだね。今思うと私の部屋の周りってこんなに生えていたんだ。木」

「今まで気付かなかったの……? 考えすぎかもしれないけれど、この木の量って、何かを隠そうと視界を遮っているように見えたから、何か知っているのかと思って聞いたけど…………、考えすぎね。伐採していないってだけかも」

「なんか……、さり気に私馬鹿にされた?」


 シェーラちゃんの言葉を聞いてオウヒさんは嘘も偽りもないその顔で返答をしたけれど、オウヒさんの嘘偽りのないその言葉を聞いてシェーラちゃんは呆れるような顔を浮かべていたけれどその顔もすぐに消えて溜息交じりに話の話題を強制的に切り上げた。


 強制的に切り上げことによってオウヒさんが笑顔のまま固まり、固まった状態でオウヒさんはシェーラちゃんにとあることを聞いたけど、その言葉はもうシェーラちゃんには届かなかった……。


 そんなひと悶着があったけれど話はまだ続いていて、キョウヤさんは屋敷の下に描かれている二つの四角と黒ミミズの画を指さしながらアキにぃのことを見て聞く。


「ところで……、一応聞くけどこの場所に描かれている奴って……」

「田んぼと森だよ。ほらお姫様を追いかける時かなり邪魔だった」

「それお前だけな。オレ達は全然苦じゃなかったし、逆に隠れるのに適していたからあってよかったとさえ思っているよ」

「アウトドアめがっ!」

「うるへーインドア」


 指さした箇所のことを聞いたキョウヤさんだけど、アキにぃの言葉を聞くと同時に森があった場所を指さしていたアキにぃの魂の叫びに似たその言葉を聞いて呆れというか冷静な突っ込みを述べると、アキにぃはキョウヤさんのことを指さして小さな子の悪口のように荒げた声を吐き捨てるけど、キョウヤさんも応酬するように呆れた暴言を吐き捨てる。


 監視がないことに安心したのか、みんながみんな普通の声量で話しつつ、見取り図に描かれた絵の内容を聞いたりしながら話をしていたけれど、唯一話に入り込まず、無言のまま虎次郎さんは見取り図とにらめっこをしていた。


 本当にその見取り図を見たまま腕を組んで、胡坐をかきながら真剣な目つきで見ていて、そんな虎次郎さんを見てシェーラちゃんは『師匠?』と無言で見ている虎次郎さんのことを首を傾げて呼ぶけど、そんな声ですら聞こえていないような無言で現在進行形でにらめっこをしている。


 そんな現在進行形の光景を見ていたシェーラちゃんは一時は虎次郎さんのことを見て返事を待っていたけれど、一時待った後もう無理と悟ったのか、ふぅっと息を吐いて視線を私に戻す。


 まるで一人の世界に入り込んでいる虎次郎さんのことを無視……って言うわけじゃないけれど、それでも虎次郎さんのことを後回しにするようにシェーラちゃんはオウヒさんのことを見て名前を読んだ後――屋敷の背後にある箇所を指さす。


 指さした後シェーラちゃんはオウヒさんのことを見て聞いた。


「この場所って、あんたがさっきの話で上がった例の場所なのね?」

「あ。うん。そうだね」


 シェーラちゃんの言葉を聞いて、オウヒさんは一瞬だけ驚きの顔を浮かべたけどその後すぐに屋敷の裏の四角いその場所を見つめながら、躊躇いがちに頷いてその場所を見下ろす。


 その場所――屋敷の裏側でグラウンドのように楕円形に引かれた円を遮る様に描かれている四角のそれで、その場所を見て、そしてシェーラちゃんとオウヒさんの言葉を聞いた私はすぐにその場所が一体何の場所なのかを理解した。


 この四角の場所こそがオウヒさんとシバさんと言う人が話した場所で、鬼族の闇を知ったところでもあったことを……。


 そのことを知ると同時に私は少しだけ前のめりになってその場所を見つめながらこんなことを思っていた。


 ここが……、闇の入り口なんだ……。


 そう思いつつ、鬼族の闇のことを一瞬フラッシュバックのように思い出してしまった私。


 脳裏にぶわーっと溢れ出てくる記憶の波を背後から受けてしまい、その記憶の波が私のことなど考えず、もう勢い任せに押し寄せてきて、どんどんと私を濡らして、記憶を思い出させていく。


 嫌な記憶だけが一枚のフィルムを高速で見せて来るかのような、そんな押し寄せ具合。


 それを感じつつも私は喉の渇きを感じ、祖の渇きを潤すように口の中に溜まっていた唾液を喉に通して潤すと、私はパッと口を開けてオウヒさんとシェーラちゃんに向けて言葉を発した。


 あくまで平静を装う様に、普段通りの音色を意識するように……。


「あの……、この場所も背後に森がありますね……」

「そうだね。確かに私が紫刃と話していた時も森があったし、もしかしたら成長して巨木になっているかも」

「巨木って渋い系のおじさんが言う言葉よ」


 私の言葉を聞いてオウヒさんは思い出したかのように顎に人差し指を添えて上を見上げながら言うと、その言葉に対してシェーラちゃんは呆れるような言葉でオウヒさんに向けて突っ込みのそれを入れると……。


「そして、周りには木の壁……か」


 唐突に、虎次郎さんは声を発した。


 はっきりとした言葉で『木の壁』と言う言葉を口ずさんで――だ。


 虎次郎さんの言葉を聞いた私達は虎次郎さんのことを見た後もう一度見取り図を見下ろして見つめると、みんながみんな何かに気付いたのだろう。


 オウヒさんだけは気付いていない様子だったけれど、私もみんなと同じように見取り図を見下ろして、そして自分の目で見た木の壁――バリケードのことを思い出しながら私は思った。


 ううん。見た限りの一つの答えを出した。


 私が見たバリケードは木と思えないほどつるつるしたもので、まるで木材として加工されてつるつるになった丸太を突き刺しているような光景。その丸太の高さは私二十人分の高さ。


 到底登れる高さじゃない。


 どころかつるつるの所為で登れないことだってわかる。


 門も閉まっていて、鍵と言う者も誰が持っているかなんてまだわからない。


 一見して見ると、これだけの情報だけで見ると……、この郷はまさに封鎖された世界だ。


 日本の鎖国に似ているようなその光景は脱走と言う思考を遮断してしまいそうなもので、これではもしかしたら脱走なんてできないんじゃないのか? そう思ってしまいそうな未来予想図が私の脳裏にちらついて行く。


 でも……、でも……。


 それを考えてしまったらだめだ。きっと突破口があるはず。あるはずなんだ。


 そう自分に言い聞かせて、自分を奮い立たせながら私は見取り図とにらめっこをして脱出口を真剣な目で、血眼になって見つけようとする。


 諦めたらだめ。きっとどこかにあるはずだ。どこかに……、突破口がある。あるはずなんだ。


 そう心の中で何回も、何回も自分に言い聞かせながら……。

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