PLAY12 混ざり合う②
……私やみんなは、それをじっと見ていることしかできなかった。
開けていた大地がまるで月のクレーターみたいになっていたから、驚いて声が出なかったのだ。
まるで地雷のような大爆音。そして吹き飛んでいく腐った木々。
ぱらぱらと落ちる小さい小石。
微かに鼻腔を刺す焦げた臭い。
大きく蠢く土煙。
そして……。
「っ! しまったっ!」
ヘルナイトさんが遠くを見てはっとする。
私達は無言でその方向を見ると、どどどっと何かがこっちに向かって来たのだ。まるで漫画のような展開……。
その正体は大きな音を聞きつけてきた……魔物。
顔は大きな黄色い南瓜で、体は太めの蔓で形成されて、手と足は葉っぱでできている――パンプキング。
黒い胴体にミミズのような軟体性に鋭い脚爪を何百本も生やしている百足のような魔物――あれがきっとマンドピートだろう……。
そして私達の後方から来た鎧を着て、手にはぼろい盾と剣を持って走ってきた骸骨の集団――ボーンアンデッド。見た限り数体以上はいる。
それが集団で、かつ私達に向かって攻めてきたのだ。
多分、みゅんみゅんちゃんが投げたあの手榴弾の音を聞いて来てしまったんだと思う……。
「………あー」
みゅんみゅんちゃんはするすると鞭についていた手榴弾をとりながら……、彼女は私達を見て、舌を突き出し、申し訳なさそうにこう言った。
「………ごめん」
「ですむかあああああああああぁぁぁっっっ!」
みゅんみゅんちゃんの謝りと同時に、ダッと駆け出したキョウヤさんは槍を手に持って、それをぶぅんっと振り回しながら、先頭を走ってきたパンプキングの胴を切り裂いた。
「キィイイイイイイイイイイイッッ!」
パンプキングは斬られた蔓の胴を葉っぱの手で押さえながら苦しんで痛がっている。
キョウヤさんは素早く尻尾をしならせて、バチィンっと私達がいるところに戻ってきた。
その戻る最中、キョウヤさんは言う。
「こうなったらやけくそだ! やるぞっ!」
それを聞いたアキにぃは、ライフル銃を構えて応戦する体制になる。キョウヤさんも槍を構え、ヴェルゴラさんも隣に立って槍を構える。
みゅんみゅんちゃんは右手に鞭、左手にはいくつもの手榴弾を指で挟めて持っている。そんな状態で、みゅんみゅんちゃんは声を張り上げ、申し訳なさそうに、素直に謝る。
「ごめんなさいっ! こんなことになって……。落とし前は自分でつけるっ!」
「そう言うな。だが、それは使える」
それだけ言って、ヴェルゴラさんは私達を見るために振り返って言った。
「メィサとハンナ。君達は浄化の方に専念してくれ」
「はーい」
「わ、わかりました……っ!」
ヴェルゴラさんに言われ、私はびしっと気を付けをしてしまう。メィサさんはくすっと笑いながら……。
「そんなに緊張しないの。初めて? アンデッド」
と聞かれた。
私は首を横に振って……「い、いいえ」と答える。
それを聞いたメィサさんはふっと後ろを振り向いて、そして余裕の笑みで、大人の笑みでメィサさんは言った。
「なら、いつも通りにすればいいだけ」
それを聞いて、私はこくりと頷く。
そうだ、いつも通りに……。このアンデッドを浄化する。倒すなんて考えずに、救ける気持ちで、やる。
あのヴェルゴラさんの変なもしゃもしゃを感じたこともあって、変に力が入ってしまっていたのかもしれない……。
私は今複数体で襲い掛かってくるボーンアンデッドに向かって、手をかざす。
メィサさんも手をかざした。
すると……。
ヘルナイトさんは私の隣に、メィサさんの隣にはロンさんが立って、武器を構えていた。
「ハンナ――お前は回復もするんだろう? ならばやることは一つだ」
そうヘルナイトさんは言う。それを聞いた私は「はい」と頷いて……。
すっと、左向け左をした。
視界に映るヘルナイトさん。右はアンデッド。左はアキにぃ達の背中。
それを交互に見て私は双方に手をかざす。
「俺とみゅんみゅん。そして二人はこっちの討伐を。メィサとハンナは浄化。ハンナはできる限り俺達の支援を。ロンと……ヘルナイトは二人のバックアップを」
「了解した」
ヘルナイトさんは頷き。
「了解っ!」
ロンさんはぐっと握り拳を作って構え。
「わかりましたよー」
メィサさんはにこやかに柔らかく言って。
「オレ達は二人っていう一括りかよ」
「そう言うな。こっちもこっちで依頼したんだから、仕事は速やかに全うしないと」
「仕事人かよっ!」
キョウヤさんは気に食わないような言い回しをして言っていたけど、アキにぃはあまり気にせずに銃を構えている。
「新しい武器の性能……、ここで試すわっ!」
みゅんみゅんちゃんも気合十分に意気込んで声を張る。
「よし――」
ヴェルゴラさんは頷き……。すぅっと槍を上にあげて、そしてその先をぶぅんっと、下に振るって、魔物たちを指さすように突きつける。そして言った。
「行くぞ!」
その声を合図に……。
「キイイイイイイイイイイイイイイィィィッッッ!」
「ギィイィイイイイイイイイイイイイッッッ!」
「オオオオオオオオオオォォォォォォオオッッッ!」
それぞれの集団が、私達を押しつぶすように迫ってくる。
私達をサンドイッチにするように、アキにぃ達の方からはパンプキング。マンドピート。
そしてメィサさん達の方からはボーンアンデッドが。
私はそれを見て、両手をかざしたまま……。
「『囲盾』」
すると。
アキにぃ達の前に、メィサさん達の前に出る半透明の半球体。
それは私達を覆うように出て、何も考えずに突っ込んできた魔物達は……、ゴンッ! ドンッ! ガンッ! と言った感じで、その『囲盾』にぶつかるように当たっては、転んだり唸ったり、そしてボーンアンデッドだけは頭が取れてしまって、その頭を探そうと手探りをしている魔物もいた。
「おぉ!」
「すごい」
キョウヤさんとアキにぃが驚きと歓喜の声を上げる。
それを聞いていたみゅんみゅんちゃんは、すっと左手に持っていた水色の手榴弾を投げる体制になる。そして……。
「そんなの当り前よ。大馬鹿と一緒に行動して、反射神経が研ぎ澄まされてんのよ。ハンナ――解除!」
「うん」
みゅんみゅんちゃんに言われて、私はみんなに「みなさん、解除しますっ!」と声を挙げて合図を送る。
合図と同時に、私は『囲盾』を解除する。
それを見たみゅんみゅんちゃんはすかさず水色の手榴弾をブンッと言う音が出るようにブン投げて、それをマンドピートの集団に入るように投げた後、じっと見て、そして……、集団の中にスポッと入った瞬間……。
「属性剣技魔法――『氷塊手榴弾』ッ!」
バキンバキンバキンバキンッッッ!
と、大きな音が『腐敗樹』を包む。
それを見た私は体に突き刺さる強い冷気を感じながら、それを見上げて声を失っていた。みんな驚いて言葉を失っていたに違いない。
パキパキとなるその場所では……。
地面から氷の柱がまるで剣山のように突き出て、その氷の剣山に巻き込まれたり、そして突き刺さっていたりしているマンドピートの姿があった。
マンドピートは突き刺さった状態で黒く体を変色させ、そのまま『ぼふぅんっぼふぅんっ』と、黒いく煙と煤を出して消滅した。
しかし、マンドピートは全部で……、二体ではない。
「っち! 逃した」
みゅんみゅんちゃんは左を見て、今なお無数の足でガザガザ動くそれを見て、みゅんみゅんちゃんは鞭を打とうとした時……。
――ぱぁんっ!
「!」
アキにぃは即座に銃を構えて発砲する。
それはがさがさ動くマンドピートに。
「ハンナッ!」
「!」
突然、ヘルナイトさんに呼ばれた私は後ろを振り返る。
するとそこには、剣を上に上げて、私を切り裂こうとしてるボーンアンデッドがいた。
私はすぐに手をかざして――
「『浄化』ッ!」と唱える。
すると、前にいたボーンアンデッドに後ろに待機していた十数体のアンデッドが白い光を浴びて、淡い光を放ちながら消えていく。
私はそれを見てほっとしていると――
グワッと突然姿勢を低くして襲いかかってきたボーンアンデッドが来た。
「っ!」
剣を横にして、私の体を真っ二つにしようとしている。それを見て、私は手をかざしたのだけど、ぐらっと足元が覚束なくなり、そのままどてんっと尻餅をついてしまった。
「っ! この」
アキにぃはそれを見たのだろう。『パァンッ!』と銃の引き金を引いて、ボーンアンデッドに向けて放った。
しかしボーンアンデッドは、しょせん骨だけの死体。
なので、肋骨に当たっただけで、その一本が折れただけで、結局は何の意味もない。
アキにぃはそれを見て舌打ちをしている音が聞こえた。
でも、私の目の前に現れたボーンアンデッドは、私の頭を切り裂こうと……。
――ぐぃんっ!
「ひゃ」
私は誰かに引き寄せられて、そのまま何かに抱えられてしまう。
それを感じたと同時に、耳に入ってきた何かが壊れる音。
それを聞いて右を見ると……。
ボーンアンデッドは頭を粉々に砕かれて……、そのまま力なく倒れていきながら黒く体を変色させて、ぼふぅんっと消滅してしまった。
私はふっと、上を見上げると、そこにいたのはヘルナイトさん。ヘルナイトさんは片手に大剣を持ったまま、私を横抱きにして、そしてすぐに降ろしてから言う。
「死角は任せてくれ。ハンナは支援と浄化を」
そんな凛とした音色で言われた私は、すぐに手をかざしながら「はい」と頷く。
「あらら。なんだかお熱ぃ」と、メィサさんはくすくすと微笑みながら私達を見ていたようだ。
それを見た私は、ぎょっと驚きながら見ていると、はっとして声を上げた。
「メィサさんっ!」
そう、メィサさんの目の前には、一体のボーンアンデッドが襲い掛かってきていたのだ。剣を二本持って、それを左右から切り裂くようにクロスさせて。
それを見ずに、メィサさんは……、私を見ながら笑みを浮かべて……。
「死滅魔法――『強浄化』」
バシュッと、まるで閃光弾のように放ったのだ。
それを受けたボーンアンデッド、そして後ろにいた何十体ものアンデッドは、ざらざらと砂のように消えていく……。
それを見ないで、メィサさんは言った。
「こんな感じで、やればいいのよ」
それを見た私は、一瞬。ほんの一瞬だけど、ぞっとしてしまった。
笑みを絶やさずに、メィサさんは倒した。
そして。
「『拳法――剛腕拳』っ!」
姉のメィサさんを守るように、その強化された拳をボーンアンデッドに向けて殴っているロンさん。ロンさんからは感じられない……。むしろ普通な気がしてきた。
メィサさんはその笑みのまま、魔物を倒した。
その笑みが、異常に怖かった……。
私はそれを見て、ぶるっと肩を震わせてしまったけど、今はどれどころじゃないと、自分に言い聞かせる。
そして目の前に現れたボーンアンデッドに向けて、手をかざして……『浄化』を使う。
ちらりとアキにぃたちを見ると、どうやらそっちも終わったようだ。
しゃりんしゃりんしゃりんと、キョウヤさんは持ち前の槍使いで、パンプキングやマンドピートをどこかに集めるように円を描きながら踊るように舞っては、槍で攻撃をしている。
無駄のない動き。
それでもパンプキングはしゅるんっと腕の蔦を伸ばして、それをキョウヤさんに向けて縛ろうとしたけど……、ばちぃんっとそれを阻止するようにみゅんみゅんちゃんが鞭ではたく。
パンプキングは驚きながら「キキィ」と鳴いて唸る。
ずんずんっと後退しながら団体で来たので、押しくらまんじゅうをするかのように後退しながら、キョウヤさんの槍に翻弄されている間に、私はまた来たボーンアンデッドを『浄化』する。
メィサさんも浄化をして、私たちの前にいたアンデッドは、大方片付いた。
私はアキにぃ達を見る。
ずんずんっと後退していたパンプキングは、足元を見て驚きながら何かを言っている。そしてその隙をついて、アキにぃは銃を放ち、パンプキングの頭や胴体に当たると、べちゃぁっと粘り気のあるそれが出る。
それは、トリモチの『トラップショット』。
『トラップショット』を受けたパンプキング達は葉っぱの手足を見ながら、葉っぱの足をぐいぐいっと上げようとする。
私はその足元を見てみると、足元には大量のトリモチがついていて、その場所を踏んでしまったバンプキングは慌てて逃げようとしているんだ。
マンドピートは蠢きながらパンプキングの体を這おうとした時、べたっと体に付着していたそれが足にくっついて取れなくなり……。
結局はべたべたとついた状態で、永遠の押しくらまんじゅうをしている状態になってしまった。
それを見たアキにぃは銃を降ろし、キョウヤさんは尻尾をしならせて、その場から逃げるようにバチィンっと弾いて、その場から逃げる。そして……。
「よしっ! 今だっ!」
キョウヤさんは叫ぶ。
叫んだ方向はヴェルゴラさん。
ヴェルゴラさんは槍を構えたまま、仁王立ちのまま動かない。
それを見た私はどうしたんだろうと思っていたけど……。
「よし。終わる」
そうロンさんが言う。ロンさんを見た一瞬。
ブアッと来た風。
それを感じて私は乱れた髪を整えながらヴェルゴラさんがいたところを見ると……。
そこには、ヴェルゴラさんはいなかった。
私は辺りを見回すと……、ヘルナイトさんは言った。
「上か」
「!」
その声を聞いて私は上を見上げると……。
魔物達の頭上目がけて、ヴェルゴラさんは槍を地面に突き刺すように体を丸めて狙いを定める。
それを見た瞬間……、私は思いだす。
メグちゃんが言っていたあの言葉を。
『ヴァルギリーって騎士なのに素早い動きが特徴的なの。特に上空に跳んで急降下で落ちてきて、敵の頭上から攻撃するあれが、カッコイイのよ!』
それを聞いて私はすぐにわかった。
これが……。
ヴァルギリーの強力な攻撃スキル。
上空から滑空するように攻撃する。
二倍攻撃スキル――
「『ヴァルダ・レイ』ッ!」
ヴェルゴラさんはそう言ってから、ぐんっと急降下で魔物達がいるところに槍を突き付けて落ちていく。どんどん加速して、どんどん勢いを増す。
そして……。
ズドォンッという破壊音と騒音が混ざったような音を立てて、地面が割れるくらいの威力で……、ヴェルゴラさんは魔物達の中心を大胆に破壊して倒していく。
その様はまるで特撮のようだ。
それを見ていた私とアキにぃ、キョウヤさん、みゅんみゅんちゃんは驚いてそれを見ていた……。
メィサさんとロンさんは、それを見て肩の力を抜いていた。
ヘルナイトさんを見上げると……。
「……?」
なぜだろう……。ヘルナイトさんは辺りを見回して、そしてとあるところを見た瞬間。
「――ハンナッ!」
「っ!?」
ヘルナイトさんは急に私を抱えて、その場から離れるようにキョウヤさんとアキにぃの手を掴んで走ろうとした時だった。