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PLAY111 リヴァイヴ委員会⑥

「私――『フェーリディアン』で買い物したい! 買い物をして色んなものを食べて色んなことを見て回りたいっ!」


 オウヒさんは言った。ヘルナイトさんのことを見上げて自分の主張をはっきりとした言葉で言ったのだ。


『クルティクス』よりも『フェーリディアン』の方がいい。そう言って……。


 その言葉はきっと『クルティクス』の方がいいと言っていたシェーラちゃんとアキにぃにとってすれば予想外のことかもしれないけれど、キョウヤさんだけはその言葉を聞いて肩の力が抜けたような面持ちと溜息で『だよなー』と言っていた。


 明らかな『やっぱりな』と言う思考が見え見えだったし……。


 でもオウヒさんの言葉に対してやっぱり『わからない』とか、『なんでそう思ったの』と言う疑問を持っている人もいることは当然で、その疑問を持った人はオウヒさんのことを見ながら驚きのそれを向けて聞いて来る。


 ただ普通に聞くのではなく、驚きと言う勢いを借りて迫るように――


 ………まぁ、その疑心を抱いている人はたった一人で、その人が特にオウヒさんに向けて質問と言うの名の切羽詰まった顔を向けているんだけど、その人が……。


「な、なんでっ? なんで『フェーリディアン』の方がいいのっ!? どうしてっ!? なぜなのっ!? 理由を聞いてもいいかな!?」


 アキにぃはオウヒさんに詰め寄りそうな勢いで近付こうとしたけれど、その行動を見て何かを感じてしまったのか、シェーラちゃんがアキにぃの縛った髪の毛をがっしりと掴み、キョウヤさんはアキにぃの両肩を掴んで制止をかける。


 それはもう引っこ抜けてしまってもおかしくないほどの力で掴み、外れてしまいそうなほど肩を掴んで二人は制止をして、同時に『おいやめろやばい獣』と言ってアキにぃにドウドウをかける。


 まさに二人の言う通りの獣のようにアキにぃは驚きと言うか、その混乱を力に変えて行動しているようで、力のストッパーが外れてしまったかのようにオウヒさんに聞こうとしているのだけど、アキにぃの言葉にオウヒさんは驚きもせずはっきりとした言葉でこう言ったのだ。


「だって、『フェーリディアン』の方が色んなものが置いてあるんでしょ? 私色んなものを見たいからそこにしたいって思っていたんだ。本当は『クルティクス』の方も気になっているんだけど、ヘルナイトの話を聞いていると岩しかないんだったらあまり風景もきれいじゃないと思うし、それだったら綺麗なところで買い物したいっ!」

「お姫さんの気持ちは分かったけど、一度『クルティクス』の人に怒られた方がいいかもしれねぇよ? 発言がもうディスっているから」

「?」


 オウヒさんははっきりとした言葉で自分の本心を私達に告げるけど、その言葉を聞いていたキョウヤさんは冷や汗をかきつつ呆れた溜息を吐きながらオウヒさんに向けて手を伸ばす。


 その手は掴むように伸ばされたものではなく、やんわりと制止をかけるように宥めのそれになっていて、その手とキョウヤさんの話を聞いたオウヒさんは首を傾げてきょとんっとしてしまう。


 顔を見ても分かる通りの――『どういうことなの?』と言うナヴィちゃんと同じクリッとした目をしながらキョウヤさんのことを見ているオウヒさんを見て、私は内心キョウヤさんの言葉に頷いて、確かにあれはディスっているかもしれないな……。と思いながらオウヒさんとキョウヤさん達のことを見る。


 心なしか、私の口が空いているような感覚――口を開けているとなんだか歯が渇いて行くような感覚を覚えているので、私はきっと口をだらしなく開けているのだろう……。


 決して呆れとかそんなことではなく、ただ無意識に口を半開きにしているのかもしれない。


 見ながら口を開けている時、オウヒさんの話を聞いていたアキにぃは再度オウヒさんに詰め寄るように、髪の毛を掴んでいるシェーラちゃんと肩を掴んでいるキョウヤさんの力に勝るように全身に力を入れて前へと座りながら近付き、その状態でアキにぃはオウヒさんに向けて荒げる声だけど平静を装っているその声で再度聞いて来る。


 ううん……、厳密には、オウヒさんと一緒にいるヘルナイトさんに――だ。


「で、でもヘルナイト言っていたでしょっ!? 『()()()()()()()()()()()()』って言ったでしょっ!? それって言い方を変えるとそこには問題があるってことでしょ!? どうなのヘルナイト」

「お前がショーマ達やエド達に会いたくないから嫌なだけだろうが」

「あんたのための計画じゃなくてお姫様の手助けなのよ? あんたはき違えているんじゃない? あんたの醜態なんてすでに晒されているから、そんな心配なんてしなくてもいいわよ」

「うるせぇーっっ!」


 アキにぃの言葉を聞いていたキョウヤさんはアキにぃの両肩をがっしりと掴んでいる状態で呆れた顔をして、アキにぃの髪の毛をがっしりと手綱を持つように掴んでいたシェーラちゃんも呆れた顔をしながらアキにぃに言うけれど、アキにぃはそんな二人の言葉を拒絶するように荒げる声で反論をしたけれど、二人の目は変わっていなかった。


 アキにぃのことを呆れているというか……、それ以外の見下しの視線を浮かべながら二人は見ていたけれど、それでもアキにぃの反論が止むことはなかった。


 というか、アキにぃはしょーちゃん達のことがそんなに嫌いなのかな……?


 しょーちゃん達は良い人達なのに、なぜそんなに嫌うのか……。考えても考えてもわからないその疑問を抱いていたけれど、アキにぃの言葉を聞いていたヘルナイトさんは「あぁ」と言う気付いたような声を零し、私達のことを見てヘルナイトさんはアキにぃの質問に答えた。


 最初に『確かに、そこのことに関して話していなかったな』と言ってから、ヘルナイトさんは私達に補足するように言った。


「『フェーリディアン』は確かに『クルティクス』よりは品ぞろえは良い。そして景色もいいところだが、『フェーリディアン』は()()()()と言うものがあってな。その事情さえなければいい街なんだが、その事情はかなり深くまで根付いているんだ」

「裏の事情……? なんなんですかそれは」


 ヘルナイトさんが言った『裏の事情』。


 その裏の事情と言う事はを聞いた私は首を傾げながらあまりいい響きではないと思いつつ、私はヘルナイトさんに向けて詳しいことを聞こうと思い『どんなことがあったのか』を聞こうとしたけれど、ヘルナイトさんはそのまま口を噤むように……、ううん。なんだか言いづらいと言わんばかりのもしゃもしゃを出して黙ってしまった。


 その黙りはたまにしか見ないヘルナイトさんの珍しい顔で、私はその顔を見て、ヘルナイトさんの言葉を聞いて簡単な考えを思い浮かべた。


 この世界――この仮想空間(アズール)には明るい国であればあるほど裏の顔と言うものがある。


 アルテットミアではあまり見かけなかったけれどアムスノームの話を始まりとして、アクアロイアの闇とかを知ってしまっている。


 その中でも特にひどかったのがバトラヴィア帝国の闇なんだけど、それを踏まえて私はヘルナイトさんが口を詰まらせた理由を予想する。


 予想と言っても、これで完全完璧に当たりますというような確定のそれではなく、あくまで想像なんだけど……、きっとその街でも小さいながらの闇が存在するのかもしれない。


 その闇が一体どんなものなのかはわからないけれど、それでもヘルナイトさんはそれを心配してオウヒさんに念を押すようにあんなことを言って考えを促した。でも結果は『フェーリディアン』を選んだオウヒさん。


 選んだ本人は未だに「『フェーリディアン』がいい! いいでしょ? いいでしょ?」ともう電球が光っているのかと言わんばかりに目をキラキラさせながら言ってきている状態だ。ヘルナイトさんの話しなんて多分聞いていないのかもしれない。


 そんな状態の中ヘルナイトさんは「う……む」と考えるような唸り声を出しながら顎に手を添えて考える仕草をした後、私達のことをもう一度見て「とにかくだ」と言った後――ヘルナイトさんは続きの言葉を言い放つ。


 オウヒさんの視線を感じながら私達に向けてヘルナイトさんは言う。


「とにかく『フェーリディアン』には裏の事情が濃いと言う事だけを気を付ければいいと思っている。それさえなければ安全と言っても過言ではない街だからな」

「いやそんな裏事情がある町だったらなおのことダメでしょっ!? お姫様~『クルティクス』にしません? しましょうよ? その方が安全」

「いやだっ! 絶対に『フェーリディアン』!」

「クッソ頑固な小娘めっ!」

「オメーもオメーで頑固だけどな」

「同文」


 ヘルナイトさんは考えた結果の言葉を私達に言い放ったけれど、それでもアキにぃは『フェーリディアン』に行きたくないことを必死に訴えにかかるアキにぃはもうオウヒさんに襲い掛かろうとしている。


 もう魔物と言ってもおかしくないような鬼気迫るその顔にオウヒさんは一瞬驚きの猫のような顔で肩を震わせて座った状態で垂直跳びを行うと、そんなオウヒさんのことを守るように更に掴む力を強めるキョウヤさんとシェーラちゃん。


 シェーラちゃんはアキにぃの髪を掴んでいるせいでところどころからアキにぃの髪の毛が抜けて力をなくしたかのように揺れている。相当ブチブチ千切れてしまっているんだろうけれど、そのくらいアキにぃの力は凄いと言う事で、そんな鬼気迫る必死の形相を見ていたキョウヤさんとシェーラちゃんは驚きながらも呆れを消さないで突っ込みを入れ……。


「ただあんたはあの馬鹿どもに自分の醜態を見せたくない且つ自分の醜態を噂されるのがいやなだけでしょ? それだけであんたは行きたくないとか、自分の悪いところをよく知っている屑の言い分誰も聞きたくないわよ。諦めてあんたの醜態を大衆の面前で見せつけて妹にも失望されなさい」

「おぉすごい毒舌剣(ぜっけん)。アキが無言になって固まってしまった」


 最後に止めと言わんばかりにとてつもない舌剣と氷……、と言うよりも『氷河の(リ・アブソリュート)再来(・ゼロ)』並みの言葉の攻撃を繰り出したシェーラちゃんに、キョウヤさんは驚きの声を上げながらアキにぃの状況を実況するという、まさにちょっとしたカオスが出来上がってしまった。


 キョウヤさんの言う通り、アキにぃは言葉を失ったかのような真っ白のそれを表しながら固まってしまい、二人の静止を振り切ろうとしていたその力も何処へ――そのまま項垂れて丸くなってしまった。


 しくしくと、静かに涙を流すその声を零して……。


 一瞬だけ炬燵(こたつ)の中で丸くなっている猫の様だと思ってしまったのは私だけの秘密で、その丸みを見て、ドラグーン王に預けたナヴィちゃんはどうしているんだろうと、少しの心配を抱きながらアキにぃの背中を撫でる私。


 背中を撫でつつ、私はヘルナイトさんのことを見上げて、キョウヤさんやシェーラちゃん、虎次郎さんとオウヒさんのことを見て私はみんなに言った。


 今までちょっと蚊帳の外と言うか、空気になりかけていた私の存在だったけれど、私はまだ自分の主張を言っていない。だから私は今と言うこの状況を使って自分の主張をヘルナイトさん達に向けて言葉にした。


「でも、オウヒさんが選んで決めたなら私はそれでいいと思います。だって、もし最悪の状況になったとしても、私達がオウヒさんのことを守ればいい。言い方が悪いかもしれませんけどこれが試練であればそれを受けた方がいいかと思います」


 何よりオウヒさんがそう望んでいるならば、その人の意思を尊重しないと。


 そう私が言うとシェーラちゃんは小さい溜息を吐いて腕を組み、呆れるように頭を抱えてしまっていたけれど、それを聞いていたキョウヤさんは肩を竦めてヘルナイトさんのことを見上げて彼の言葉を血体制になる。


 きっと何か言えばいいのではないかと言うそれなのだろう……。多分だけど。


 更に言うとその傍らでオウヒさんが私のことを見て「やったっ!」と言ってガッツポーズを上げている。相当嬉しかったんだろうなぁ……。そんな光景を見てなんだか年が近い妹ができたような感覚に浸る私。


 妹ができたらこんな感じなのかな……。そんなことを思いながら


 そして最後に、そんなキョウヤさんの顔を見てかヘルナイトさんは私のことを見て少し黙った後――ヘルナイトさんは私に向けて言ったのだ。


 今までと変わらない凛とした音色で――


「そうだな。そうだったな。私達の試練は桜姫様を守ること。私達がしっかりすればいい事だったな」


 と言って私に微笑みかける (多分、微笑んでいると思う)ヘルナイトさん。


 その言葉に私は「はい」と頷いて、オウヒさんの更なる『やった!』と言う声が聞こえると、私達三人の声を聞いて今まで真っ白になっていたアキにぃが顔を上げて「えぇっ?」と予想外の言葉を聞いたような素っ頓狂な声を上げていた。


 ……多分、私の言葉は予想外だったみたいだけど、私の言葉を聞いてキョウヤさんとシェーラちゃんは少しだけ考えるような沈黙を貫いた後、なんだか観念したように溜息を吐いて肩を竦める光景を視界の端で見ると、突然今まで黙っていた虎次郎さんが私達に向けて声を上げた。


「ああ! その通り! 夢を叶えようとしている者の気持ちを尊重することは大事な事。己の主張を押し付けることは論外の者が行うことだ」

「かふぅっ!」


 声を上げた虎次郎さんは今までと同じようにはっきりとしていて、且つ自分の意見を曲げない意思を貫こうとしているその姿勢で言った瞬間、虎次郎さんの言葉に該当する (と思ったのか)アキにぃがショックを受けた状態で吐血を表す様な息の吐き方をして、そのまま二度目となる『炬燵の中の猫の丸まり』を行って沈黙してしまった……。


 本当に吐血したかのようなその吐き捨てに驚いた私だけど、虎次郎さんは気にもせずヘルナイトさん達に向けて、近くにいたオウヒさんの頭に手を置くと、虎次郎さんは続きの言葉を口にする。


「儂もはんなの言う事と同じだ。この場合は姫さんの意見に従うことを選択する。へるないともその意思であればそうしようではないか。これはお姫様にとって初めてのお使いと言う行いであり、もしかするといい経験になるかもしれんからな」


 この経験の手助け――全力ながら支援していくぞ。


 すごく真っ直ぐで、やる気満々な言葉。


 その言葉を聞いても分かる通り、虎次郎さんは私と同じ意見で通そうとしていたのだろう。


 あの時、アキにぃ達に聞かれた時に答えようとしていたその答えが今の答えで、その答えを聞いてシェーラちゃんはまた深い深い溜息を零して項垂れてしまった。


 微かに、小さな声で「本当に馬鹿師匠だ……」と言う声が聞こえた気がしたけど、きっとそれは気のせいだろう。


 とにもかくにも虎次郎さんの言葉を聞いていたヘルナイトさんは頷きながら「ありがとうございます」と言って軽く会釈をする。その言葉には感謝と言うそれがにじみ出ていて、オウヒさんも虎次郎さんの言葉を聞いて「やったーっ! ありがとうコジロー!」と言いながら虎次郎さんの首に手を回すように抱き着く。


 よく子供が感激にあまりに親に抱き着くようなその光景はまさにお爺ちゃんと孫の光景。


 そう言えば、私も小さい時よくおじいちゃんやおばあちゃんに抱き着いていたなぁ……。と思いながら思い出に浸っているとシェーラちゃんは何度目になるのかわからない深い深い溜息を吐いて、肩を竦めるような呆れの動作をすると、シェーラちゃんは大きな声で――


「分かったわ。今回は折れてやるわよ」

 

 と言って、シェーラちゃんは私達のことを見て腰に手を当てると、胸を張って鼻息をふかして続きの言葉を口にする。


 仕方がない。そう思っているもしゃもしゃを出しながらも、その中に秘めている優しい色のもしゃもしゃを出しながらシェーラちゃんは言ったのだ。


「仕方がないだけよ。今回だけは多数決に従う形で折れるだけ。夢のお手伝いとかそんなサブクエストじみたことに構っている暇なんて正直ないけれど、息抜きで付き合ってあげるわよ」


 正直師匠の頑固に勝てる自信なんて、今無くなったわ。師匠の頑固はきっと直らない万病よ。


 シェーラちゃんの言葉には刺々しいものが含まれているけれど、その棘も指で押してしまえばすぐに折れてしまいそうな脆いもので、本当はシェーラちゃんなりの優しいもしゃもしゃが見え見えのハリボテのもしゃもしゃとシェーラちゃんなりの言葉を聞いて、オウヒさんは虎次郎さんに抱き着いた状態でパァっと明るい顔を浮かべると、そんな顔を見てシェーラちゃんはそっぽを向いてしまった。


 なんか魔人族の耳が仄かに赤い気がするけど……、きっと照れているんだな……。


 そう思いながら私はシェーラちゃんのことを微笑ましく見つめると、近くで誰かが歩む音が聞こえて来て、そのあとすぐに声が私の耳に入って来る。


 その声の主は……。


「ホレアキ、あとはお前が折れるだけだぞ?」

 

 キョウヤさんだった。


 キョウヤさんの声が聞こえた私はすぐにキョウヤさんの声がした方に視線を向けると、キョウヤさんは項垂れて炬燵の中にいる猫のように丸まってしまったアキにぃの近くにしゃがんでいて、その近くでひそひそと何かを告げるようにアキにぃに言っている。


 内容からして、きっとアキにぃにこうなってしまったら折れるしかないことを言っているのだけど、アキにぃはアキにぃで丸まった猫の状態でキョウヤさんの言葉に対して返答を荒げる声でした。


 もう漫画の背景に出てくる効果音――『ばーんっ!』というそれが出そうな声量と気迫で……。


「折れたくないっっ!!」

「見た目大人のくせに頭はガキかよ」


 アキにぃの凄い気迫と声量を聞いていたキョウヤさんは呆れることなどせず、どころか真顔でなんだかごみを見下すような視線をアキにぃの丸まった背中に向けている。もう呆れをすることもできないほどアキにぃの言葉に……、言葉が悪いかもしれないけど失望したのかもしれない。


 我が兄ながら……、恥ずかしいな……。こうなってしまうと。


 そう思いながら私は心の中で溜息を吐いて少し蓄積された疲れを肩に感じてがっくりと落としていると、アキにぃの言葉を聞いて真顔の突っ込みを入れていたキョウヤさんがアキにぃのことを見降ろしながら言葉を発した。


 真顔の突っ込みを入れた顔とは違う真顔で、真剣というかなんだか諭すようなそれを含ませた声色と言葉でキョウヤさんは言った。


「アキ――お前の気持ちは十分分かるぜ? 年上なのに年下に醜態を見せたくないその気持ちって、大人として、年上としてのプライドが廃るからお前はショーマ達がいるところに行きたくないんだろ?」

「社会人になってねー奴が俺に大人としてのイロハを教えるとは……、そこまでお前は俺のことを見下してんのか……?」

「正直炬燵の中の猫のように丸まっている奴のことを大の社会人として見れねーよ。悪いけど。後お前それでいいのかよ? お前だって大の大人でハンナの兄なんだぞ? これ以上の醜態妹に見せてもいいのか? ここぞとばかりにいいところを見せようとか、そう思わねーのかよ? いい時だけはプラス思考で悪い時はマイナス思考になるとか都合がいいと思うぜ?」

「………………………」

「もう腹くくれ。そして兄として、大人として意地を見せろ」


「キョウヤ……」


 キョウヤさんは未だに炬燵の中で丸まっている猫状態になっているアキにぃに向けてつらつらと真剣な言葉を並べて言っていく。


 その光景は子供と面と向かい合って話している大人の光景で、その光景を見ながら私はキョウヤさんの見えない――アキにぃのことを考えている優しさを感じて、私はキョウヤさんの話を聞き入ってしまった。


 それはシェーラちゃんも一緒で、キョウヤさんの名前を言うだけでそれ以上のことは言わなかったけど、きっと私達の心の中はお互い同じことを考えていたに違いない。


 アキにぃよりもキョウヤさんの方が年上に見えてしまうと……。


 きっとこの場所にいる私とシェーラちゃんがそう思っていたに違いない。事実上アキにぃの方が年上なのに年下のキョウヤさんに説教されている光景を見て、こう思わない人が多分いないだろうな……。


 そう思いながら我が兄ながら恥ずかしいなと思って肩に重みがかかったかのように落としていると、小さな声が室内に微かに響いた。


 本当に、室内に小さく響くようなそんな声。


 その声を聞いた私はっとして声がした方に視線を向けると、その声の主は小さな声で呟いたけど一旦口を閉じてしまったらしく、丸まっているその体を僅かに動かした後、その人は……アキにぃはキョウヤさんに向けて、私達に向けて言ったのだ。


「………………………わかったよ。兄として、いいところを見せてやる」

「オーケーだ。でもいいところは今回見せることが目的じゃねーからな。あくまで護衛な」


 アキにぃは言った。今回だけは折れてやるということを言葉で示し、そして駄々をこねていた丸まっていたその体制を解きながらキョウヤさんのことを見上げながらアキにぃは言ったのだ。


 オウヒさんの買い物場所を――『フェーリディアン』にすることを。


 その決意と言葉を聞いていたキョウヤさんは頷いたけれど、やっぱりアキにぃはアキにぃだったということを理解すると同時に困った呆れのため息を吐くその光景を見て、一瞬だけ空間に安心と言う名の緩んだ空気が漂った。


 漂わせていたその空気がどんどんと室内にいる私達にも浸透していき、その浸透で私達の体に入ってきた空気が私達の感情と混ざって、とある感情を湧き上がらせていく。


 空気が変わると人の感情も、気持ちも変わるというのはこのことなのだろうか。


 さっきまでぎすぎすしていた空気が今となっては過去の話になり、今は明るいもしゃもしゃの空気に包まれている。包まれて――私達のばらばらを一つに結合していく。


 困ったように腕を組んで鼻で溜息を吐くシェーラちゃんのことを見上げている虎次郎さんに喜びのまま固まっているオウヒさん。


 丸まっていたその姿から挙田を書いている状態になってそっぽを向いてしまったアキにぃのことを見て『冗談だって』と言って困ったように笑って宥めようとしているキョウヤさん。


 そして、その光景を見て安堵の微笑みを零してしまう私の頭に大きくて温かい手を置くヘルナイトさん。


 そんなヘルナイトさんを見て私は再度控えめに微笑んで安心のそれを顔に出して、ヘルナイトさんに向けてお礼の言葉を投げかける。


 ただ一言――『ありがとうございます』


 それだけを言葉にして。



 □     □



 さっきまでギスギスしてて、不穏のような空気が漂っていた空間とは思えない空間で、私達はオウヒさんの夢を叶えるために、オウヒさんの護衛を行うことにした。


 最初こそバラバラだったけれど、ヘルナイトさんの言葉を聞いて、アルダードラさんの真意を知った私達は考えを変え、オウヒさんのために、この先の鬼族の未来のために、そして試練のために動くことを決めて、その場所を『フェーリディアン』に決めて私達は行動に移すことにする。


 二週間と言う猶予の中で十日間消費した――残り四日の中で……。

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