PLAY111 リヴァイヴ委員会③
「確かにその思いも理解している。鬼族のことも聞いたが、姫君はその考えを変えようと努力しようとしているのだ。その思いを挫いてしまう、圧し折ってしまうということは出来ん。先ほども言ったが何か起きた時は儂が請け負う。そうなった時は儂を生贄として捧げても構わん」
「重めぇよ」
虎次郎さんははっきりとした言い方で言った。この思いを変えることはしないと。そしてこの提案で何かが起きたとしても自分が犠牲になることを言って――だ。
その言葉を聞いてすぐに反応を示したのはキョウヤさんで、キョウヤさんは虎次郎さんの話を聞いて真顔で突っ込みを零す。
確かに生贄は少し大袈裟だし、重い気がするけど……。
虎次郎さんの重い言葉を聞いていた私はその思考をすぐに切り替えるように頭を『フルフル』と振るい、虎次郎さんのことを見て言葉を発しようと口を開く。
開いて、そのまま言葉を――虎次郎さんに対しての言葉をかけようとした。
その時――ちょうど私の言葉を遮る様に声を掛けた人物がいた。
その人物は……。
「たった一人のためにそこまで頑固になるおっさんもおっさんだけどよ……、そこまでして姫さんの夢を叶えたいのかよ。あんなことを聞いて、そんで姫さんの鬼の裏事情を聞いてもなお姫さんの夢を叶えようとする気持ちはよく分かった。だから生贄とかそんな重苦しい話はやめてくれ」
キョウヤさんだった。
キョウヤさんはアキにぃを締め付けから何とか解放されたのか、喉元に手を添えて咳込んだ後虎次郎さんのことを見て溜息交じりに呆れるような声を吐き捨てる。
正直虎次郎さんの言い分に関しては理解できたと言わんばかりの腕の組みをしつつ、した後で再度溜息のようなものを吐くと、キョウヤさんは虎次郎さんのことを見て言った。
私とアキにぃ、シェーラちゃんの視線を感じているのか、ちらりと私と目が合ってしまったけれど、それでもキョウヤさんは虎次郎さんに向けて言ったのだ。
「つーか、そこまで頑固になるほどおっさんは姫さんの夢に感心したのか? だとしてもその夢は叶えられない確率が高いかもしれないし、そもそもこれは姫さんの夢の問題。夢を叶えるために努力することはいい事だって言うのはオレでもわかるし、その件に関してオレも賛成」
だけどな。と言って、キョウヤさんは一旦言葉に区切りをつけるように口を閉じると、間を置かずにキョウヤさんは再度口を開いて虎次郎さんのことをじっと真っ直ぐ見つめて……。
「夢を叶えるっつっても、姫さんの夢は一人で叶えるもんで、オレ達が絡んでいい事なのか? それって」
とはっきりとした言葉で、しっかりと虎次郎さんのことを見てキョウヤさんは言ったのだ。
それは自分達が絡んでいい事なのか? と……。
ただ聞いていると意味が分からないように聞こえてしまう様なキョウヤさんの言葉。
それはアキにぃやシェーラちゃんも疑問を抱いているような顔でキョウヤさんのことを見ていたし、私だってキョウヤさんの言葉に対して内心……、どういう事なんだろう……? キョウヤさんは何が言いたいんだろう。と思ってしまったけれど、そんな思考を妨げるように虎次郎さんは首を傾げながらキョウヤさんに聞いた。
「? 一人で……とな?」
「そうだよ。夢って言っても、結局は一人で努力して掴めるかわからねぇ可能性に向けて手を伸ばすようなもんなんだ。簡単にはいかないのも十分あり得るし、正直――オレは姫さんの夢は応援したいけれど、オレ達が失敗の尻拭いまでするとなったら話は別……、勝手にやってくれって思っちまうよ。そこまでオレ達は優しくないし、鬼のことに関してこれ以上首を突っ込むようなことはしない方がいいと思うんだ」
「!」
キョウヤさんに聞いた虎次郎さんの顔に驚きと、僅かに赤いもしゃもしゃが一瞬、本当に一瞬だけ湧き上がったけれど、その怒りもすぐに空気と同化して消えていき、虎次郎さんは驚きの眼差しでキョウヤさんのことを見ているだけだった。
私もその一人で、あんなにみんなのことを考えて行動をしていたキョウヤさんが、まさかこんな発言をするだなんて思いもしなかったし、それにキョウヤさんなら多分まとめてくれるかもしれないと思ってしまっていたから、こんな言葉を言ったキョウヤさんに私は驚いて固まってしまった。
でもその横でアキにぃとシェーラちゃんはこそこそと小声で――
「キョウヤがあんなことを言うなんて驚いたよ」
「まぁキョウヤも反対派の一人だったってことね。これで『賛成派に行きます』なんて言ったら細切れにしてやろうと思ったけど、余計だったみたいね」
「いやシェーラのその感情的に手を出すその攻撃性も怖いってっ」
「私はあんたのようにご乱心していた時の方が怖かったわよ? 一瞬『だめだ』って思ってしまったくらいに」
「おいやめろ古傷抉るの。抉れて更に深くなったからやめろっ」
……と言う声が聞こえたけど、そんな二人の声なんて空気に溶けて消えて行くように誰も聞いていなかった (私だけは聞いていたけれど)。
そのくらいこの空間に漂う空気は重いものだった。
鋭い刃物の突き刺しもなく、トゲトゲした様なそれもなく、苦しくもない――ただただ重い。それだけの空間が出来上がりつつあった。
その出来上がりは今まで旅をしてきた私達にはたぶんなかったもので、できなかったもの。
そう――これは、衝突。
紅さんのように責めるような衝突ではなく、これは違憲と意見のぶつかり合い。
集団で行動するにあたって必要不可欠と言うか、絶対に避けて通れない状況。
その状況に今私達はぶつかっている。多分半分半分の状態で私達は小さな衝突を繰り返している。
この状況はまさに敵に向けての銃撃。
言葉と言う名の銃攻撃を繰り出している状況。
まさに――言葉の銃撃戦だ。
勿論議題は『オウヒさんのことについて (もっと詳しく言うとオウヒさんの夢の手助けをするかしないか)』なんだけど、その議題に最初に賛成を示したのは虎次郎さん。
でもその賛成に対して反対の意見を述べたのはアキにぃとシェーラちゃん。
最初に反対の意見を言い出したシェーラちゃんはもう鬼……と言うよりも、なんだかわからない角の生えた赤い生物になりかけていたくらいその怒りは凄かった。
そのくらい虎次郎さんの身勝手な発言に怒りを覚えたのかもしれない。
反対の意見が凄みと言う名の圧によって押し通されようとしていたけれど、虎次郎さんの『賛成』の意見も引くことがなく、私もその意見に対しては賛成だけど、この郷のことを考えたら無理かもしれない。でも諦めるなんて言う事は言わないという『中立』が生まれ、現在の比率は賛成一票と反対二票、そして中立一票と言う比率になってしまった。
数字で表すと1:2:1と言う、まさに対立しているというそれが分かってしまう様な比率。そして……、光景。
あ。因みに、アキにぃ達は私達から鬼族のことについて聞いたので鬼族の過去、そして暗い事情も心境も知っている。言葉だけで話しただけだけど、その言葉だけで十分すぎたみたいで、アキにぃ達はその後鬼族のことでとやかく言う事はなかった。
鬼族が抱えている闇を聞いてしまったからなのか、アキにぃ達のもしゃもしゃに沈みが現れていたけれど、その沈みも何日かしたら普通のそれに戻っていた。
戻っていたけれど、きっと鬼族のことに関してみんながみんな、色んなことを考えていたに違いないし、今回のオウヒさんの話を聞いて改めて考えたのかもしれない。
私自身は考えを改めたというよりも、より一層この郷の闇が深いことを痛感したという気持ちが第一だった。鬼族の人達が抱えている闇が黒一色……と言うよりも、どす黒い靄とどす黒い結晶玉でできているような、黒だけの世界で満ちている。
そう思ってしまったけれど、オウヒさんの話を聞いて、オウヒさんはオウヒさんで鬼族のみんなのことを考えている。それは鬼族の今を見てだめだと思ったから、だめだからこそ未来でもだめであることを正しいとさせないために、考えを変えるために行動しようと思った結果なのだ。
だから私はオウヒさんの考えを否定したくない。でも試練を破ることをしてしまったらどうなってしまうのか。そして破った後はどうなってしまうのか。
虎次郎さんの『全部自分が犠牲になる』と言っていたけれど、正直……、悪く行っちゃうけれど、そんな問題じゃない。虎次郎さんが思っているほど簡単な問題じゃない。
この意見を胸に私は曖昧な立場――中立を選んでしまった。
なんて曖昧で優柔不断なんだろう……。自分でもそう思ってしまう。
そんなことを思いながら小さく、本当に小さく溜息を吐くと、今まで黙っていたキョウヤさんが虎次郎さんに向けて言葉の続きを口にする。
しっかりと虎次郎さんのことを見て、言葉の続きを言い放って――
「オレ自身は反対って言う意見に聞こえるかもしれねーけど、諦めろとかそんなひどいことを言っているわけじゃない。ただオレ達が積極的に手助けをすることに関して素直に賛成できねぇって言っているだけなんだ。アキやシェーラのように反対じゃない。夢を諦めて脱走なんてやめろとか身勝手なことを思うのも自由だけどよ……、オレはその前に思ったことがあって、そのことを聞きたいからオレはおっさんに聞こうと思ったんだよ」
「? 何を思ったのだ? 言ってくれ」
「前のめりになりながら詰め寄るなっ。近い近いっ、近すぎるっ!」
とキョウヤさんは虎次郎さんに言うと、その言葉を聞いて虎次郎さんは血走った目を向けながらキョウヤさんに詰め寄る。
本当に言葉で言う至近距離で虎次郎さんはキョウヤさんのことを見つめると、その光景を見てキョウヤさんは恐怖の声を出して虎次郎さんとの距離を開けた。
確かに、突然目の前にドアップの顔があったら怖いもんね……。その気持ちは分かる気がする。
ううん、分かってしまう。
今にして思うと、なんでドアップの顔って怖く感じてしまうんだろう……。
そんな場違いなことを思っていると、虎次郎さんは「うむ」と困った唸り声を零しつつキョウヤさんから離れると、虎次郎さんは崩れてしまった正座を組みなおすと、その状態でキョウヤさんのことを見つめて聞く。
はっきりとした言葉で、キョウヤさんが言った言葉に対して『して、何を思ったんだ?』と繰り返して聞くと、その言葉にキョウヤさんは言う。
背中で未だに隠れて虎次郎さんのことを見ているアキにぃのことを片手で引きはがしながら、キョウヤさんは言ったのだ。
「おっさんさ……、頑なに『夢を叶えよう』とか、『買い物に行こう』とか言っているけどよ、その提案にちゃんとした計画ってあるのか?」
「?」
「いや、『?』って可愛く首を傾げても可愛くねぇんだよ。ジジィがそんなことをしてもオレには可愛く感じられない。てかそんなことしないでマジでっ」
キョウヤさんの言葉を聞いた瞬間、一瞬空間に静寂と言うものは漂ったけれど、その静寂もすぐに虎次郎さんの疑問の唸り声と首の傾げで亡くなってしまい、その光景を見ていたキョウヤさんは真顔で突っ込みながら頭を振った。
その頭を振った後でキョウヤさんは再度虎次郎さんのことを見て――
「だから……、そんなに言うってことは何か考えているんだろうってことを聞きたいんだよっ。アキとシェーラの反対を押し切って、わざわざ『失敗した場合は自分が全部の責任を負う』とか言ってお姫さんをどうにかして外に出そうとしているみたいだけどよ……。この郷の警備は見た限り古いけど鬼達の警戒心はすげぇよ。そうそう掻い潜ることなんてできねぇと思う。そんな状態で、鬼達の目を欺くことができるのか? 脱走したらそのあとどうするんだ? 買い物している時に、何か計画とかあんのか? お姫さんの買い物をしている時の監視とか、他もろもろの……」
と、虎次郎さんに対して問い詰める。胡坐をかいて膝に肘を乗せて、その状態で顎に手を添えるような体制になりながら、姿勢が悪い猫背になり、蜥蜴の尻尾をフリフリと振りながら虎次郎さんに聞くキョウヤさん。
その顔にはなんだか不安と言うか、呆れも混じりそうな顔をして、溜息を吐きながら聞いて来たキョウヤさんに対し、虎次郎さんは首を傾げるその行動をやめて上げると、目を一度開閉し、その状態で虎次郎さんは言った。
はっきりとした声で、目だけはコミカルな点のそれにしながら――
「考えておらんよ。普通に世界を見るのであれば予行練習として近くの街での買い物をすればいい練習になるかもしれんと思っていただけだ」
と言った言った瞬間その言葉を聞いてしまった私も驚きで目を点にしてしまい、アキにぃも目を点にして唖然としていたけれど、シェーラちゃんに至っては頭を抱えて溜息を零している。
心なしかもしゃもしゃも飴細工のようにドロッと形が定まっていないそれになっていて、小さな声で何かを言っていたけれど、その声までは聞こえなかった。
ヘルナイトさんは今まで受け身、と言う名の聞く姿勢を見せていたけれど、虎次郎さんの言葉を聞いて驚きの顔を浮かべている (と思う)。
そんな顔をしているであろうその面持ちで虎次郎さんのことを見ていたけれど、オウヒさんは対照的にその言葉を聞いて虎次郎さんと同じように目を点にした状態で虎次郎さんのことを見上げて、みんなの顔を見て、私の顔を見るという行為を何度も繰り返す。
何が起きているの?
と言うような顔を晒しつつ、置いてけぼりになってしまっている状況の中何とか汲み取ろうとして首を急かしなく動かしては視線をみんなの顔に向けている。
その言葉を聞いて、衝撃と言えるようなその言葉を聞いたキョウヤさんは一瞬だけ固まってしまった顔をしていたけれどすぐに再起動して俯き、そのあとすぐに顔を上げてキョウヤさんは……。
「――結局考えなしで行く気だったのかよぉーっっ!!」
と、あらんかぎり叫んで私達を再度驚かせた。
今度はきょとんっとしたそれではなく、まるで心霊現象に遭遇したような肩の震わせをして――だ。更に言うとキョウヤさんの声が辺りに響き渡る様なそれで、一瞬鼓膜が破れてしまったかもしれないと思ってしまった。
最悪鬼の郷中に響いたのかもしれないけれど、そんなことお構いなしにキョウヤさんは虎次郎さんに向けて荒げに荒げまくった怒りの音色で詰め寄りを行った。
その光景はまさにシェーラちゃんの再来。
虎次郎さんに向けて詰め寄ったシェーラちゃんの怒りのそれがキョウヤさんに憑依したかのようなそれは虎次郎さんの前に、そして私達の前に現れるとその状態でキョウヤさんは虎次郎さんに向けて詰め寄りながら聞いた。
勿論……怒鳴り声のまま……。
「おっさんやっぱり考えていなかったのかっ! 何も考えないで思い立った状態で即行動しようとしていたのかっ!? なんの準備もない状態で速攻と言わんばかりに行こうとしていたのかっ!? それならシェーラ止めて正解だったわっ! アキ止めて正解だったわっ! そんな思いついたら即行動しましょう! 早めの行動を心掛けてとか言わんばかりのあんたの行動正直危ない橋渡っているような感じがしたんだよっ! マジで細枝を渡っているような感覚だってっ! あんたそれで絶対にうまくいくって思っているのかっ!? マジでそれで行けるとか思っているのかっ!?」
「「思っているぞっ (思っていますっ!)」」
「言い出しっぺここぞとばかりに入りやがってっ! じゃなくてもう自信満々で言い放ったなこの『行けますコンビ』ッ! そんな意気込みで行けるなら世の中の人相当苦労なんてしねーわっ! 現実味路現実っ!」
「現実を見ても見ずとも、世の中は結果論と言うものがあるであろう? そんなことも分からんのか」
「あんたの理論どうなってんだよっ! 突然結果論云々語ったりしているけどあんたが言っていること自体結果とか関係なく完全なる身勝手理論だろうがっ! そんな状態で行けるどころかオレ達の残機が無くなっちまうってっ! もう最悪処刑されたとしても文句なんて言えねぇ無計画さだよっ!」
キョウヤさんは勢いというドーパミンの力を借りて虎次郎さんに向かって突っ込み怒声を浴びせていく。
その光景は本当にシェーラちゃんの出来事のデジャヴ。
でも虎次郎さんも虎次郎さんで屈することなく、どころか果敢に挑むようにキョウヤさんの言葉に対して意見を述べていく。しかも今まで黙っていたオウヒさんも焦りの顔を零しながら加勢して……。
多分オウヒさんは意地でも外に行きたい一心でもあり、唯一自分の夢に対して肯定のそれを言ってくれた虎次郎さんの意見が折れてしまったらだめだと思い、キョウヤさんや私達に賛成の方向に傾かせようとしたのだろう。
要は必死になって自分の夢の折れの阻止をするために虎次郎さんに加勢している。と言う感じだ。
もう顔から『必死です』と言うそれが滲み出ているような汗のかき具合に焦り。
その光景を見ていた私は内心諦めたくないんだな……。と思いつつも、自分で言った言葉に対して少しばかりの罪悪感を感じたのはここだけの話。
あの時自分が賛成の方向に傾いていたらこうならなかったのかな……。とか思っていたのだけど、そんな甘い考えを主張してしまったら多分私も虎次郎さん達と同じ運命をたどっていたと思う。
というか――辿っていた。
現在進行形で怒りを露にしているキョウヤさんの罵声を浴びに浴びることになってしまうから、正直自分の判断に対して『グッジョブ』と言いたくなってしまったのも、ここだけの秘密……。
そんなことを思いながらも虎次郎さんはそれでも折れない。
折れないどころか平静を保ったその顔でキョウヤさんに立ち向かっている。
その傍らでは虎次郎さんに対して羨望と言うか、最後の希望を託したような顔をして手を絡めて祈っているオウヒさんと言う、なんとも混沌とした空間が出来上がりつつあった。
さっきまでのシリアスなんてどこへやら、今となっては怒りとかいろんな感情が混ざりに混ざっているような光景……。ちょっと怒りが勝っているような空間はまさにテレビで見たことがある怒鳴り合っては喧嘩をするような、そんな光景。
あまりそんな映像見たくないんだけど、今回のこの光景はそれに似ている気がする。
夢を叶えたいがために脱走を行ってきたオウヒさんと、その夢を応援するために脱走を手伝おうとして、その意思を折らない虎次郎さん。
二人の意見に対して反対の意見を述べる怒ったシェーラちゃんにビビり気味のアキにぃ。
その意見のはざまで中立と言う曖昧な立ち位置を創り上げる私とその中立でもしっかりとした意見を述べて虎次郎さんにわからせようとするキョウヤさん。
そして……、そんなギャーギャー騒ぐ空間に一言も口を出さないヘルナイトさん。
まさに言葉通りの混沌の光景。話し合いにありそうでなさそうな混沌。
カタカナにすると――カオス。
そんなカオスを今私は体験している。どころか体験真っ只中。
…………こんな状況の中、私はカオスな状況に呑まれている所為で、何をすればいいのか。何を発したらこの状況は無くなるのかわからず、ただただ「あ、ああ……。ああっ」と言う声を零してはただ辺りを見渡して、みんなの (特にキョウヤさんと虎次郎さんの)ことを交互に見ることしかできない。
できなかった……。の方が正しい。
こんな状況は初めてというか、なんだかどんどん悪化していくような感覚に不安を感じてしまい、言葉にすることができなかったのかもしれないし、もしかしたら本当にどうしたらいいのか頭の回転がおかしくなってしまったのかもしれないけれど、正直私にはわからない。
というか本当にどうすればいいのかわからなくなってしまっていて、目がぐるぐる状態だったから混乱している状態だった。
キョウヤさんの怒鳴りと虎次郎さんとオウヒさんの反論。三人のことを見て呆れているシェーラちゃんとアキにぃに、混乱してもう頭がパンクしそうになった瞬間――
「――いや、これならできるな」
突然声が響いた。室内でギャーギャー騒いでいたのに、その声だけが耳の中に入り込んで、鼓膜を揺らして私の頭を一旦クリアにしてくれた。
その声はみんなの耳にも入ったらしく、今まで喧嘩をしていたキョウヤさんと虎次郎さんとオウヒさん。呆れていたシェーラちゃんとアキにぃも声がした方向を見て言葉を止める。
私も声がした方向に目をやり、声を発した人物を見て……。
「な、何がですか……?」
と聞くと、その言葉を聞いて声を発した人物は言った。
凛とした声で、今まで考えていたのであろうかその仕草をした状態でその人は――ヘルナイトさんは言った。
相も変わらない凛とした声で。
「これならできるかもしれないと思ったんだ。虎次郎殿の提案も、桜姫様の夢の一歩も叶うと」




