PLAY110 お姫様の夢⑥
長い長いオウヒさんの話を聞いて、話を終えたオウヒさんの顔を見ながら私達は無言の視線を向けたまま固まってしまう。
なにせオウヒさんが抱いていた夢のきっかけ。そして変化した夢の内容を聞いて……、予想だにしていなかったことを聞いて思考が停止した……。
と言うよりも、オウヒさんの言葉を聞いて再度鬼族の闇の深さを思い知ってしまったのが正しい。
一応アキにぃとキョウヤさん、シェーラちゃんと虎次郎さんにはヘルナイトさんが話して大体のところは理解しているけれど、それでもオウヒさんから聞いたことは私達の予想を超えていた。
知っていた闇の色を更に濃くするような、絵の具で黒く塗ったところに更に黒い絵の具を塗って濃くしたような闇が私達のことを襲い、言おうとしていたこともすっかり頭の中からコロンっと落ちてしまうくらい衝撃を受けてしまった。
アカハさんや色んな人達から鬼族の確執……というか、歪みは聞いていたんだけど、その歪みがここまでひどいとは思わなかったし、更に言うとこの郷にそんな座敷牢があることすら知らなかった。
アカハさんはそんなこと言わなかったけど、なぜ話さなかったのかはわからない。
多分だけど話さなくてもいい事だったのか。それとも話したくなかったのか。その事実も今となっては分からないけれど、オウヒさんの話に出てきた座敷牢で行われていたことを聞いて、そしてそのオウヒさんの心境を聞いていた私は思った。
オウヒさんのことを見ていたけれど、その顔を直視できない。なんだか俯きたいという正直な無意識が私の体を動かし、その無意識に従う様に私はその顔を俯かせたまま私は心の中で思った。
オウヒさんが考えている夢はとてつもなく壮大で、とてつもなく叶わないかもしれないような夢だ。
ただ『何かになりたい』とか『何かになって何かをしたい』とか、自分が何かになって夢を叶えたいというようなものではなく、オウヒさんの夢は自分の夢も叶えたうえで鬼族の未来を明るくしたいという切実な願いも込められているような、叶いそうで叶わないような夢。
この郷の人達の闇を何とかしたいという気持ちを考えたうえでオウヒさんは何とかしようとしている。それはとてもいい事だと私は思っている。
間違ったことに対して『間違っている』と言うようなもので、その判断は凄く正しいし、大袈裟に言えばいい事だと思うけれど、その願いは多分……。
そのことを考えた後、私は下唇を噛みしめる。
きっと私の顔は苦い顔と言うよりも、重苦しいそれを出しているに違いない。そのくらい私は考えたことがどれだけ難しいのか、そしてその考えを変えるということはどのくらいの時間を要するのかを予想できるからこそ、私はそんなオウヒさんの言葉に対して肯定することができなかった。
私がその立場になって、旅をして郷の皆さんに説得するとなったら――多分無理かもしれないというマイナスな思考が襲ってしまう。そしてそこまで甘くないだろうという現実的思考が勝っていたこともあって、肯定なんてできなかった。
というかオウヒさんの言葉に対してただの流れに沿って肯定の言葉をかける程、私は重すぎたから……。
そんなことを思っていると、私の近くで声が聞こえた。
今まで無言で沈黙していた分、その声が鼓膜を揺らした瞬間、大きな音が響いたかのような感覚に一瞬なって私は肩を震わせてしまった。
声を放った人物――それは……。
意外や意外。虎次郎さんだった。
「すまんが姫様よ。夢を抱くことに関しては儂は良いと思うが、すべての夢を叶えることはたやすくない。むしろ難しいと言った方がいいじゃろうな」
虎次郎さんはオウヒさんとしっかりと視線を合わせていたのだろう、その声が静まり返った室内に響くと、私はそっと顔を上げて虎次郎さんとオウヒさんのことを見る。見るとアキにぃ達も同じ驚きだったらしく、虎次郎さんのことを見て唖然と言うか、不意を突かれたような驚きの顔をして固まっている。
ヘルナイトさんだけは微動だにしないそれだったけど、そんな状況の中虎次郎さんはオウヒさんのことを真剣で、視線をそらさない真っ直ぐなその目で見てから、続けるように言葉をオウヒさんの向ける。
驚いているオウヒさんのことなど待たずに――だ。
「姫が言うその夢の詳細は――外の世界に出た後鬼の郷の良さを他国に教え、他国の者達の良いところを鬼の郷の土産として見る。と言う事でいいのかな?」
「う、うん」
「そうか……。それならばこの度は、一旦やめた方がいいかもしれんぞ」
「っ!?」
虎次郎さんはオウヒさんの目の奥をじっと見つめて、真っ直ぐな眼のままオウヒさんの告げた言葉は――この郷の鬼族と同じ『世界を見ることはやめろ』と言う言葉だった。
それは――オウヒさんからしてみれば否定のそれで、それを聞いた私達若い人たちは驚きの顔で虎次郎さんに素早く視線を向け、首を動かし、頭の上に『!?』と言う文字が出て来そうな顔をして虎次郎さんのことを見たけど、虎次郎さんはそんな私達の視線など気にもしていないのか、それとも集中して気付いていないのか続けて言葉を続ける虎次郎さん。
ヘルナイトさんは、今だに微動だにせず。
虎次郎さんがオウヒさんしか見ていない目で続きの言葉を口にする。
「姫様よ。その考え自体を変えて諦めろと言っているわけではない。むしろその考えはとても偉大なことだと儂は思っている。正直脱帽した。と言った方がいいだろうな」
「ダツボウ?」
「簡潔に言うと『かなわない』と言う事だな。または『降参する』と言う意味もあるが、この場合は『かなわない』、つまりその夢を叶えようと努力をしているその気持ちには負けてしまうと言ったのだよ」
「………………………」
「儂のような老いぼれでも夢と言うものはあるが、それでも叶えられないと思い諦めてしまうこともしばしば。しかしその夢を叶えようとしている姿勢、まさに脱帽だ。まさに諦めないその姿勢を見習いたい。が、それと同等に今は一旦保留にした方がいいと思ってしまうのも事実だ」
「保留……、結局私が抱いているこれはよくないって言いたいの? それとも虎次郎さんは紫知達のようにダメだって言いたいの? 遠回しにしているようにしか聞こえないけど」
虎次郎さんはオウヒさんのことをしっかりと見て、目を離さないように見つめて言葉をつらつらと並べて発していく。
言葉からも分かるような『かなわない』と言う気持ちと、『努力をしているんだな』という、なんだかお祖母ちゃんがよく私に向けていた同じ優しい眼差しをオウヒさんに向けて――だ。
お祖母ちゃんが私に向けていた優しい眼差し。
それは運動会の徒競走で一生懸命走っていた光景を温かく見守っていた時の目が優しさと言うか、頑張っているその光景が嬉しくて微笑んでしまう。そんな優しい眼差し (このことを小さい時不思議に思って聞いたからよく覚えている)。
そんな目を向けていたのだけど、オウヒさんは虎次郎さんの言葉をどうやら違った意味で捉えてしまったらしい。
オウヒさんは唇を尖らせ、むすくれた顔をしながら低い音色で言うと、その言葉を聞いて虎次郎さんは一瞬目を点にしてオウヒさんのことを見て、オウヒさんの言葉を聞いていたアキにぃとキョウヤさんは一瞬何を言っているんだという顔をしていたけれど、すぐに理解したのか二人は「「あー」」と声を揃えて腕を組んで虎次郎さんのことを見た。
勿論しっかりとではなく、ちらっと見るように――
そして……。
「ハンナ」
「!」
唐突に左耳の中に入ってきた囁くような声。
その声を聞いた私は聞き慣れない違和感と、なぜかその囁きに対して変に過敏になってしまったせいで驚きの声を小さく零して肩を震わせた後、左から聞こえたその声の主のことを見るために横目を駆使してちらりと視線を向けると――そこにいたのはシェーラちゃんで、シェーラちゃんは小さな声でも聞こえるように左手を口元に添えるような動作で止まっている。
幸い私達は隣同士で、シェーラちゃんは虎次郎さんの言葉を聞いて、オウヒさんの反応を見てシェーラちゃんは隣にいた私に声を掛けてきたのだ。
シェーラちゃんの声を聞いて私は驚いたその気持ちをすぐに落ち着かせて、シェーラちゃんに向けて「どうしたの?」と小さな声で聞いた。
本当にぼそぼそと、ひそひそと話すように小さな声で聞くと、シェーラちゃんは添えていた左手を下ろして、近かった私との距離を更に縮める様に座った状態で近付くと、シェーラちゃんはオウヒさんのことを横目で見つつ私に向けて――
「あれ、どう思う?」
と聞いてきて、その言葉を聞いた私はシェーラちゃんに向けて少しだけ頭を傾けると、オウヒさん達のことを見て正直な返答を返した。
「どう思うって……。見ただけだから断言はできないけれど、オウヒさん――怒っているよね……?」
「でしょうね。私も思った。多分アレは相当怒っていると思う」
「やっぱり、なんだ」
「やっぱよ」
私の返答を聞いてシェーラちゃんもきっと同じことを考えていたのだろう。私の言葉を聞いて呆れるような溜息と共にオウヒさんに視線を移して、更に小さな声で言うと、私もシェーラちゃんの言葉に対して頷く。
同意として、同じことを考えていたというそれを示すように頷くと、シェーラちゃんも私と同じように頷いてくれた。
この光景を絵にすると、私とシェーラちゃんが同時に頷いている――まさにコミカルな絵柄になっているかもしれないけれど、心境はそんな穏やかなものではない。
穏やかではない状況の中、シェーラちゃんは小さな声で私に向けて続きの言葉を言う。
ひそひそと、私にしか聞こえないその声で――
「まぁオウヒって人は実際何歳なのかはわからないけれど、それでも精神的な年齢は私より下。最悪小学生並みの思考回路かもしれないわよ? なにせあんなことを言われてむすくれて反抗している。精神年齢おこちゃまレベルの只の餓鬼なのよ」
「それ本人の前で言わない方がいいよ?」
「私はこう見えてあんたより年上よ? 言わないわよ。てか、保留とか夢に関する話って小さい時の会話みたいなものなのに、あんなに怒ることでもないと思うわよ? 何歳かはわからないけれどご長寿みたいだし、それに寿命も長いから焦ることでもない。ただ感化されただけで決めたことでもあるし、もっと別の方法を考えたりとかしてもいいと思うんだけど、あのお姫様はどうやら他の鬼族と同様の頑固者みたいね」
あんたが話していた通りのがちがちの頭の固具合だわ。
そう言ってシェーラちゃんは呆れるような目つきをオウヒさんに向けて、また溜息が出そうな息を零しそうになったけれど、流石に気付かれてしまうと思ったのかそれ以上の溜息を零すことはなかった。
でも、私はそれよりもシェーラちゃんの言葉を聞くことに専念をしていたからそれ以上のことを聞くことができなかった。
というか溜息を吐きそうだなと言う印象を見ただけでその後の視線をオウヒさんに向けてしまったから見てないだけ。
見るということはしなかったけれど、言葉はしっかりと聞いていたからオウヒさんに視線を向けて思ったのだ。
――確かに、オウヒさんはもしかしたら大きな子供なのかもしれない。
――内面がまだ子供だから大きな夢を抱いて、その夢を否定されたから怒っている。
――この光景は、現実と同じ光景なんだ。
と……。
なんでそう思ったのかというと、虎次郎さんが言った言葉に対してオウヒさんの反応が怒りのそれだったこと、そしてそれを聞いていたシェーラちゃんの言葉を聞いてあることを思い出し、それを思い出して私はなんとなくだけど、あぁこれだな……。と思ってしまったから。
私が思い出したことは小さい時――確か、アキにぃが中学校の時かな? その時の記憶で、これは私が体験したことではなく、アキにぃが体験したことだと思うんだけど、アキにぃはきっと忘れているのかもしれない。
というか最悪記憶から抹消している可能性が高い。
事実がどうかは分からないけれど、それでもこれはアキにぃがおばあちゃんとおじいちゃんにしていた光景と一緒だと私は思い出した。
思い出したその日はまさに冬と言う時期で、その時の夕食は寒い日に最適と言わんばかりの鍋料理だった。温かくて体の芯から温まるその料理を食して、家族団欒の会話をしながらおじいちゃんとおばあちゃん、そしてアキにぃと輝にぃ、私が食べていた時、話題が夢の話になったのだ。
何故夢の話になったのかと言うと、その日の学校でアキにぃと輝にぃは学校の友達と夢のことについて会話をしたそうだ。内容までは……ちょっと忘れてしまったけれど、園話を聞いたおじいちゃんは静かにだけどアキにぃと輝にぃのことを怒っていたような気がする。
何に対して怒っていたのかまでは分からなかったけれど、おじいちゃんの説教はすぐに終わり、アキにぃと輝にぃに夢のことについて『何になりたいとかあるのか?』って聞いた時、アキにぃはこんなことを言っていた。
「俺は勿論漫画家だよっ!」
アキにぃの発言を聞いて、私はただ『そうなの? すごい』としか言わなかったし、おばあちゃんも『あらあら』と言うような雰囲気を出しながら微笑んでいた。でもそんなアキにぃの夢をぶち壊したのはおじいちゃん――ではなく、おじいちゃんが言う前に輝にぃが言葉を発したのだ。
とてつもなく冷静で、そしてアキにぃのことを座った目で見つめながら、輝にぃは言ったのだ。
「漫画化になりたいだなんて初めて聞いたけど、その漫画家になりたい理由って、単純に今読んでいる少年漫画『無双冒険録:キルダドゥガ』に感化されて行っただけでしょ? あまり詳しくはないけれど、漫画家って言うのは本当に大変な職業で、秋はストーリーを考えて絵を描けばいいと思っているけれど、漫画って言うのは呼んでくれる読者がどんなふうに見て考えて感じてくれるかとか、色々と考えないといけないような職業なんだよ? 秋が考えているほど漫画家は簡単じゃない。それに締め切りって言う書類を期間内に出さないといけないし、秋は案外ずぼらで宿題とかも忘れるから、絶対に向いていない。というか絵も超絶汚い」
輝にぃの言葉を聞いたアキにぃは一時期怒りを抑えて黙っていたけれど、輝にぃの最後の言葉を聞いて怒りが最高峰且つ沸点が頂点に達していたせいもあって、輝にぃに向けて怒りの拳を振り上げようとしていたけれど、そんな二人を見ておじいちゃんの堪忍袋が切れてしまったことは言うまでもない。
その時私はおばあちゃんと一緒に別の部屋に避難して夕食の後片付けを行っていたけれど、二人のすすり泣く声とおじいちゃんの静かな怒りの声が微かに聞こえて、その声に聞き耳を立てていた時、おじいちゃんはアキにぃに向けてこんなことを言っていた。
「秋政、いい加減にその短気な性格をどうにかした方がいい。輝夜が言ったことは確かに多少悪いことかもしれないが、輝夜なりにお前のことを考えて言ったんだ。夢を持つことは大事なことでもあり、その夢を追うということはそれ相応の努力を費やさないといけないことを指している。それが大きければ大きいほど、努力と言うものが必要なんだ。輝夜はきっと、中途半端で夢が叶うなんてことはないと言いたかったんだろうな。輝夜も夢を追いながら日々を過ごし、努力をしている最中でもあるからな」
おじいちゃんの言葉を聞いてアキにぃは何も言わなかったけれど、なんだかむすくれているような声を零していたのは覚えている。その後おじいちゃんが言った言葉もちゃんと覚えている。
「だがその夢について、それを一生の夢として抱いているのならば、正直なところ応援はしたくないな。おじいちゃんも輝夜の意見に一部だが思ってしまう。本当にその夢だけで食べて生きていける者達はほんの一部。そのほとんどが挫折を体験している者達ばかりだ。おじいちゃんも昔小説家になりたいと思っていた時期があったんだが、そのことを両親に相談した結果、猛反対された。大激怒と言わんばかりに猛反対された挙句、小遣いで買った原稿用紙を破られ、燃やされた経験がある。その時のおじいちゃんはまだ若かったから、親の言葉に対して恨みさえ抱いたこともあったが、今にして思うとあの選択をしなかったことがいい人生の道標だったのかもしれないと思っている。正直なところ――儂の小説の実力は下の下だったからな。コンクールに出したところで没にされるのは目に見えていたのかもしれない。結局のところ、『夢を果たした者達』は絶え間ない努力と積み重ねてきた実力、そして僅かか、もしくはそれ以上の運と、己が持っている才能が開花したことによって夢を叶えることができた。子供の時からやっていただけではできないということを知りなさい――秋政。『夢なんて持つな』や、『諦めろ』とは言っていない。そんなことを言うために叱っているのではない。『その夢だけを抱いて生きるということはかなりきついかもしれない』と言う事と『その夢だけを追うなんてことはせず、もっと視野を広めなさい』と言っているだけだ。それだけがすべてではないのだからな」
そうおじいちゃんは言っていた。アキにぃに向けて、『もう少しよく考えて見ろ』、『現実を見て考えた方がいい』と優しめの言葉で言っていたのを今でも覚えている。
そう――今まさしく虎次郎さんがオウヒさんに向けて言った言葉と同じような内容を。
それが原因なのか、それともアキにぃなりに考えたのか――『漫画家になる』と言う夢を諦めて普通の社会人として生活をしている。
本当に夢を諦めたのかは定かじゃない。
ここで私が思い出した思い出は終わりで、その思い出を回想し終わってから私は思った。
――本当に同じ光景だな。と……。
本当に今回の内容は昔おじいちゃんが話していた内容と同じで、虎次郎さんが言いたいこと、そしてオウヒさんが抱いている心境が一体どんなものなのかが分かってしまった。
手に取るように……、と言ってしまえばその人の心の中まで分かってしまう人になってしまうし、そこまで私は分からないから『手に取るように』とは書かない。
けれど分かってしまったのは事実で、今私の目の前に写り込んでいるこの光景はまさにあの時の再現だったのだ。
虎次郎さんがおじいちゃん。オウヒさんがアキにぃ。
夢のことについて話している内容も、その時の反応もまさにそれで、私は虎次郎さんとオウヒさんの会話を聞きつつ、この後どうなるのだろうという不安を抱えつつ、オウヒさんの返答に対して虎次郎さんはどんな返答で返してオウヒさんと話すのだろう。
そう思いながら聞こうとした時、シェーラちゃんは私に顔を近付けつつ、呆れるような小さな溜息を零した後こう耳打ちをしてきた。
私にしか聞こえない音色で、虎次郎さんのことを見て――
「あんな風にムキになった餓鬼相手に、師匠は一体何を言うのかしら……。正直このままヘマしないでほしいわ。余計に疲れてしまうような展開が来そうだから」
と言って、シェーラちゃん自身も思っているのか不安に聞こえてしまいそうな言葉を零して再度深い息を零した。ちょっと危ない言葉を零して……。
そんな危ない言葉を聞いた私は、内心――それ以上は危ない気がする……。フラグ的に……。と思いながらシェーラちゃんのことを困った顔で見て、その顔を向けたままシェーラちゃんに向けて私は言葉をかける。
勿論気付かれないように声だけをシェーラちゃんに向けながら……。
「シェーラちゃん……。虎次郎さんああ見えて真剣に話をしているみたいだよ? 虎次郎さんのこと信じよう」
「信じようってあんたは言っているけれど、師匠よ? 剣の道を極めようとしているけれど内面はまさに大雑把でマイペース。少し空気が読めていないところもあるような人に対して安心なんてできる? 真剣そのものでも絶対に何か場違いなことを言いそうな気がして気が休まらないの。分かるあんたこの気持ち」
「…わからないけど、信じよう? 虎次郎さんだってそんな子供じゃないんだから」
シェーラちゃんの言葉を聞いて、私は一瞬だけ思考が停止……、じゃない。一瞬だけシェーラちゃんの意見に対して頷きをしそうになってしまった。
それはメグちゃんの言葉で言うと脳死。
考えることを忘れてしまい、よくやるやり方を考えずに行う――いうなれば流れに沿うように行動してしまうと言ったことを私はしそうになった。でもその行動を起こすことなく私は頷かずに無言を徹した。
徹した後でシェーラちゃんに向けて虎次郎さんのことを信じようと言ったけれど、シェーラちゃんは無言のままそれ以上言わなかった。というか……、肯定をしたくないと言わんばかりに私の言葉を無視した。の方がいいのかな……? わからないけれど。
でも虎次郎さんと一緒に……、というか短い間だけど一緒にいたからシェーラちゃんは虎次郎さんと言う存在を理解している。虎次郎さんと言う存在の内面を知っているからこそ、何を言うのかがきっと簡単に想像できてしまうのかもしれない。
この後きっとこんなことを言う。
この人はこんな性格で、自分の時もそうだったからこう言うに違いない。
そう思っているのかはわからないけれど、それでもシェーラちゃんは虎次郎さんの行動を逃さないと言わんばかりに睨んでいる光景を見て、私は無視を見逃して虎次郎さんに再度視線を戻す。
戻して視界に虎次郎さんとオウヒさんのむすくれた顔を移したと同時に、オウヒさんの言葉に対して虎次郎さんは少し考えていたのだろう。顎を撫でていたその手をどかし、オウヒさんに視線を戻してから虎次郎さんはオウヒさんに向けて訂正を述べた。
「儂は駄目とは言っておらんぞ? そう聞こえてしまったのであれば詫びよう。すまんな」
虎次郎さんは自分の言い方がオウヒさんに対して不快な思いをさせてしまったと思ったのか、困るような素振りもせず、ただ驚きと言う顔を少し出してから頭を軽く下げる虎次郎さん。
でもそんな虎次郎さんの詫びに対しても聞いているのか、もしかしたら聞いていないのか、オウヒさんは黙ったままの状態でむすっとした顔を浮かべている。
その顔から察するに、虎次郎さんの言葉に対して納得していないという意思表示のそれなのだろう。絶対に外に行きたいという気持ちに折り目を付けたくない。このまま挫折なんてしたくない気持ちでいっぱいなのだろう。
それは夢を追うことに対して犠牲が出たとしても行う人の意志にも感じてしまう様な頑固さ。
オウヒさんの反応を見ていた虎次郎さんは「うーむ」と言う考えて唸るようなそれを零し、その零しが出た後少し考える仕草をしてから――虎次郎さんはオウヒさんのことを再度見て、その視線を向けたまま虎次郎さんは言う。
次の音色は申し訳なさそうと言わんばかりのそれで、その音色で虎次郎さんはオウヒさんに向けて言ったのだ。
「姫様よ。どうやら今の言葉はこの場において不適切だったかもしれない。しかし儂は今の状態の姫様に旅に出てほしくない。こればかりは本音じゃ」
「………………………」
「そしてこの言葉も本音として受け取ってほしいのだが――姫様の夢は外に出て世界を見聞し、見聞した内容を郷のみんなに伝えることが夢なのだろう? その心意気に異議など唱えん。むしろ応援をしたい」
………………………ん?
今、虎次郎さんはなんて言った?
私は虎次郎さんの言葉に耳を傾け、虎次郎さんの口から零れた言葉の数々を汲み取りながら違和感を覚えていく。その覚えはアキにぃ達も感じたらしく、目を点にして首を傾げたまま呆けた口を開けてしまっている。
それはシェーラちゃんも同じで、現実世界の住人でもある私達は虎次郎さんの言葉を聞いて首を傾げている。
一体何を言おうとしているんだ?
そんな疑念と……、一抹の不安を抱きながら。
なぜこんなことを思うのかと言うと、虎次郎さんはオウヒさんに向けてこんなことを言っていた。
その心意気に異議など唱えん。むしろ応援をしたい。
その言葉を聞いた時、私の頭の中でその言葉が引っかかりとなって私の脳の回路を妨害していく。
この言葉を聞いた時、一瞬おかしいと感じてしまい、そのおかしいがだんだん不安と言う要素となって変化を遂げていく。
シェーラちゃんの言う通り、もしかしたら……、と言う怖い予想を立ててしまいそうな不安となり、その感覚を覚えながら私は虎次郎さんの言葉に耳を傾ける。
虎次郎さんはそんな私やみんなの異変に気付かないままオウヒさんに向けて言った。
たった今私やみんなが抱いた気持ちが現実になるようなその言葉を――虎次郎さんは平然と言ってのけて……。
「だがそのためにはまだまだ経験が足りん。郷だけでしか暮らしていない姫様が世界に向けて足を伸ばし旅をするなど、無謀でしかない。ゆえに儂は応援はしたいが、もし旅に出たいのであればそれ相応の訓練をしなければいけん」
「くんれん? どんなくんれんを?」
「勿論その訓練とは、世界を見るために必要不可欠な予行練習。つまり――」
この郷の近くにある街で買い物をするのだよ。




