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PLAY110 お姫様の夢④

 はじめは――ただこの郷の外がどうなっているのかを知りたかった。



 ○     ○


 

 みんなも分かっているかもしれないけれど、私は自分で言うほど好奇心が大きいと思う。


 それは紫知もそう言っていたし、赫破や緑薙、黄稽にも言われるほどで、私はどんなものに対しても興味を示すような鬼の女の子だったらしいの。


 地面に落ちた葉っぱがいつ茶色になって枯れるのかを自分の目で寝る間も惜しんで観察をしたり。


 紫知は背が大きいのに赤楽は紫知より小さいの? なんで男の鬼の方が大きい人が多いのに赤楽は小さいのとか。


 後は女の鬼と男の鬼の人の違いとか、色んなことに興味を持って聞いたり自分で調べたりしていたの。だってすごく気になって気になって仕方がなくて、気になりすぎて眠れなくなるし、食事が喉を通らない時もあったから、気になったら即聞いたり調べたりしていたの。


 小さい時は郷の中がすべての世界って思って、その世界の中で何かに興味を抱いて調べたり、聞いたりして過ごしていたから、その時までは外の世界がこの鬼の郷だけなんだって自分の中で自己完結していたの。


 え? それじゃぁどこで外の世界のことを知ったかって?


 確かにシェーラの言う通りあの出来事がなかったら私はこんな風に脱走なんてしていなかったと思うよ? 外の世界なんてみんな言わなかったし、それにこの鬼の郷こそが全てだって言い聞かせられていたから、知るまでは何の疑問もなかったもん。


 でも、知ることができたのはね……。この国の王様のお陰なんだ。


 この国の王様――アダム・ドラグーン王様がこの郷に来て、見たことがない姿を見た瞬間、私は知りたい気持ちでいっぱいになったの。


 だって鬼族のようにとがった角もないし、髪の毛もない。何より体に変なものが生えていたから、気になって気になって仕方がなかったんだ。あの時は本当に気になって気になって興奮していたのを覚えているっ。


 王様はこの時兄様……、あ、言い忘れていたけど私、実は兄がいるの。都市は少しだけ離れていて、頭がすんごーく固い頑固者の兄さまがっ。


 兄様は本っ当に頑固者で、考えていることが黄稽と緑薙寄りの考えなのっ。赫破は私の意見に対しては尊重しているとか何とか言っているけれど、あの二人と兄様だけは私の考えに対して全否定するのっ。


 あれはやってはいけない。これをしろとか……。あれをするならばこのまま蔵で一生を過ごせとか、もう自分の意見を押し通すような人達なの。兄様は兄様で私には無関心で、私が外に行きたいって言い出した時だけ滅茶苦茶怒って、本当に自分勝手なのっ。

 

 あんな兄様じゃなかったらよかったのに……。


 あ、兄様の話はこのあたりで置いておくとして。


 話を戻すと……、王様はあの時兄様に用があって郷に来たんだけど、王様の姿を見た時ね、私――すごく興奮したの。あ、ただ鼻息を荒くしているようなそれじゃなくて、心臓がバクバクしてて、落ち着こうとしてもしきれないような緊張? なのかな……、そんな感覚に襲われていたの。


 だって小さい時の私の世界……、想像の世界は全員が鬼の世界って思っていたし、鬼の王様が来たのかと思っていたら全然違う身なり、全然違う種族の王様が来たんだもん。驚きのあまりに興奮が冷め止まなかった。


 好奇心旺盛な私だから、兄様と話がしたいために来た王様に私は隙あらううんっっ! 王様が暇な時に話をしたの。


 王様はどんな王様なの? とか、王様は鬼のどんな分類なの? とか、色々な聞きたいことを余すことなく聞いたの。


 こんなこと、初対面の人物に対して聞くことは失礼って紫知に言われていて、あとから『やばい』って思っていたんだけど、王様はそんな私の質問に対して、一つも答えないなんてことはしないで答えてくれたの。


 自分はこの国――ボロボ空中都市と言う国を統べる王様だ。とか、私は鬼ではなくて竜人族と言う種族なんだとか。私の仕事はこの国の明日を考える仕事なんだとか。いろんなことを教えてくれてね。その後で王様は私にこう聞いてきたの。


『お姫様はこの世界を見たことがあるかい?』


 その言葉を聞いた私は即答で『この郷が世界っ!』って答えたんだけど、その後で『あ、でも王様がいるんだから、ボロボって言う国が世界なのかな?』って言うとね――王様はそんな私の言葉に対して首を振って、その後王様は私に言ったの。


『この郷が、ボロボだけがすべての世界ではない。世界と言うものは語り尽くせないほどの新しいもので満たされている。お姫様の言う世界は、ほんの砂一粒程度の世界なのだよ』


 王様は私に言ったの。


 お姫様、これは拙僧とお姫様だけの秘密だ。誰にも拙僧から聞いたということは言わないでいてくれると助かるな。それを守ってくれるのであれば、いい話をしよう。


 この世界はアズールって言ういくつもの国が集合して出来上がった国だ。だがその国から出たらまた大きな国があって、小さな国もあって、色んな文化や食生活。暮らしをしている国がいくつもある。


 拙僧でも見ていない世界もある。もしかすると拙僧が見ているこの世界こそが砂粒ほどの大きさのもので、拙僧自身も見ていない世界があるかもしれない。そのくらい世界と言うものは広いんだ。


 お姫様――世界と言うものは広いものでもあり、案外狭く感じてしまうこともある。その広さも、狭さも、自分の目で見なければわからないものでもある。


 姫様がこの場所を世界として、自分が見るすべてとして捉えるのであればそれでいい。無理強いをして世界を見ろとまでは言わない。だがその好奇心があるならば……、その眼に焼き付け、脳に刻もうと思わないかな?



 この世界。海と言う境界で隔てられているまだ見ぬ世界を――



 その言葉を聞いて、私の中で一つの夢が出来上がったの。王様に出会った瞬間からもしかすると出来上がりつつあったんだけど、王様の言葉を聞いて、その言葉を聞いて私の好奇心が爆発したのか、私は思ったの。




 この目で――色んな世界を見てみたい。焼き付けた。


 そして、その世界に足を踏み入れて、歩いてみたい。




 そう思ったの。


 王様は兄様と話を終えた後そのまま帰ってしまったけれど、私は王様との出会いを機にみんなに言ったの。


 あ、帰ってからすぐってわけじゃないよ? ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だったし、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()からどうなったのかはわからない。


 見舞いに行こうと思っても緑薙に止められて入れなかったから、どうなったのかはわからない。だから王様が帰ってからはみんなに伝えようと思っていたんだけど、その伝えることもできなかったんだ。


 ほんと……、みんな何に忙しかったんだろう。


 あ、それでね。みんなが忙しくなくなって、穏やかな日が続いていたから、私みんなに言ったの。王様に言われたことは言わないようにしておこうと思ってみんなに言ったの。



「わたし――ゆめができたの! おそとのせかいをみたいっ! いいでしょ? だからおそとのせかいにいってもいいでしょ? ゆめをかなえたいのっ!」



 私はみんなの前で、みんなと一緒にご飯を食べるところで言ったの。


 外の世界を見たいから鬼の郷の外に出る許可が欲しいって。


 そう言ったの。この目でまだ見ていない世界を見るために、正直にみんなに伝えたんだけど……、この言葉を言った瞬間、みんなの顔が変わったの。


 この時の私は、みんな絶対に許してくれる。『外に行ってもいいよ』って許可してくれるって、絶対の自信をもってそう思っていた。厳しい紫知もきっと何度か言えば許してくれるって、そう思っていた。今の自分がそんなことを思っていたって思うだけで馬鹿みたいだって思ったんだけど、小さい私はそんなこと考えていなかった。


 どころかそんなこと絶対ないって思っていた。


 みんな私のことを可愛がってくれた。小さなお姫様のように大切に見守って育ててくれたから、私はそんなみんなのことを見間違えていたんだって、今になって思う。


 今までは穏やかな食事をしている団欒の風景が目に焼き付いていたこともあって、私のこと言葉を言い終わった瞬間のその光景は今でも覚えている。


 笑顔を振りまいてくれたみんなの顔が、団欒と言えるような他愛もない会話も、温かくておいしいご飯も、温かかったその場の空気も……。


 私が『外に行きたい』って言った瞬間……。


 みんなが怒って、私が団欒を台無しにした――


「なりません姫様っ!! 何を言っているのですかっ!?」

「外の世界と言う事はこの郷の外を指しているのですかっ!? なりません! なりませんぞっ! 断じてあんの下劣な世界に足を踏み入れてはいけませんっ!」

「ああなんということだ……! ()()()()()()()()()()()()()()()()()()!」

「誰が教えたんだっ!! 名乗りを上げろっ! この場で『仕置き』をしてやるっ!」

「姫様っ! 外の世界と言うものは鬼の天敵しかいない世界っ! そんな世界に羨望を抱くなど……、鬼として失格ですぞっ!」

「外など害悪でしかないっ! この郷こそが姫様の世界なのだっ!」

「そうだ姫様っ! この郷があなたの世界そのものなんだ!」

「忘れなされっ! この郷の外には何もないっ! あなたにとって世界は、すべてはこの郷だけなのですっ!」

「姫様! 忘れなさいっ!」

「姫様! 忘れなさいっ!」

「姫様! 忘れなさいっ!」

「姫様! 忘れなさいっ!」

「姫様! 忘れなさいっ!」

「姫様――」



 ――外の世界と言う腐ったその夢、今すぐ断ち切りなさい!!!



 青雨(セイウ)が持っていた湯飲みが叩き壊された……、ううん。青雨が大切にしていた湯飲みを怒りで叩き壊した音は聞こえたのは分かった。みんなが立ち上がって私に向けて怖い目を向けていたのは覚えている。


 でもそれからのことはあまり覚えていない。ちゃんと見ていたんだけど、みんなの変わりように驚いて泣いてしまったから、それ以上の言葉なんてあまり覚えていないの。


 うん。思い出さないようにしている。


 だって思い出したところでみんなの口から出てきた言葉なんて……、多分汚い言葉だと思うし、そんな言葉を思い出すくらいならこのまま忘れた方がいいと思う。


 あの時見たみんなの顔は、小さい時の私にとってすれば見たことがない怖い顔で、いつも優しい黄稽も本気で怒りを露にしていたから……。


 あの時の私は無言で震えて、泣き崩れて、みんなが私に向けて怒鳴っているその声を受け止めることしかできなかった。怖いって小さな声で言ってもみんな聞く耳を持ってくれなくて、私が何かを言おうと知るとみんなが声を揃えて『黙って聞きなさい』って怒鳴るだけ。


 おいしかったその日の夕食も零れて食べれなくなってしまって、温かく感じた空間も嫌な気持ちでいっぱいになってしまいそうな重苦しい空間になって、私は自分で言ったことを後悔して、その後悔と同時にみんなのことがどんどん嫌いになってきたのを覚えている。


 私はただ自分の『夢』ができた。夢ができてこの夢を叶えたいからみんなにこの夢を語ろうと思った。


 この夢に向かって生きて、いつか叶えたいって言いたかっただけなのに……、ただ話しただけなのに、みんなはそれを全力で、私の夢を『鬼として失格』とか『害悪』とか……。


 まるでこの夢自体が汚いものとして見られているような、みんな私の夢を壊そうとしている。


 みんな外の世界を知ろうとしている私のことをこの郷だけにしろって言っているみたいで、みんなが私の意志を否定しているような言い方で嫌だった。


 嫌で嫌で、本当に嫌で仕方がなかった。


 同時に悔しかった。


 みんなの言葉に対して否定することができなかった私自身も、みんなの言葉に圧倒されてしまって、この時ばかりは謝ることしかできなかった。


 それが悔しくて、これ以上怒る光景を見るのが怖くて、私は恐怖に圧されて、夢を一旦心の中でしまうことを選択した。


 ごめんなさい。


 ごめんなさい。


 ごめんなさい。


 そう何度も繰り返していたと思う。額を頭に押し付けて、自分でもぐしゃぐしゃだと思ってしまうほど泣きながら何度も謝ったの。


 姫様! 忘れなさいっ! 


 いい加減にしなさい!


 外はこの郷だけです!


 その言葉を何度も何度も聞きながら、何度も何度も思い出してしまいそうなほど怖い声でみんなは言ったのを、今でも覚えている。


 え? それって完全に人格否定じゃないかって? 夢を追うことを全否定して、その否定をした後で自分の価値観を押し付けることは人としてありえないんじゃないかって?


 うーん。そうだね。キョーヤの言う通りみんなは多分頭が頑固なんだと思う。特に紫知とか黄稽、緑薙とかそっちの方が特に怒っていたし、三人のことを慕っている鬼族達もこの時は怒っていたもん。


 ん? 鬼族って派閥とかあるのかって? うーんアッキーの意見もあながち間違いじゃないけれど、一応鬼族に派閥なんてないよ。でも今はなんとなーくだけど、派閥みたいな組み分けがされているような感じがする。


 詳しいことは分からないけれど、その組み分けで鬼族なのにピリピリしているのは確かかな……?


 でも一時期はその夢を諦めた素振りをみんなには見せていたよ。見せていたけれど……、諦めきれなかった。諦めるなんてできなかった。


 王様から聞いた世界のことを聞いて、自分でその世界に足を踏み入れて、どんな世界が広がっているのかをこの目で見たかった。色んな世界を、幾万とあるかもしれない世界をこの目で見て、記憶に刻みたい。


 その想いだけは捨てきれなかった。好奇心が私の夢を守ってくれたかのように、私は夢を諦めることはなかった。だから今もこうして夢を諦めないで奮起しているんだ。


 奮起はしているけれど、まだ諦めていないことを知られるのはまずいと思ったから、夢のことを話してからはそんなに大きな行動はしなかったし、深夜の時を見計らって準備を少しずつして夢の準備をしてきたの。


 準備をして、絶対に外の世界に行こうと思っていたんだけど……、その考えも今となっては本質は同じなんだけど、変わってしまったんだ。


 変わってしまった理由……みんな聞きたい? 少しだけトラウマになってしまうような言葉になっちゃうけど、それでもいいなら……話すよ?


 そう、だね。


 みんなが聞きたいんだったら仕方がないよね? 


 正直、鬼のみんなに対してはそんなに考えなかったし、アルダードラは私の話を聞いてくれていた。脱走の件に関してはみんなのように怒らないしアルダードラだって行動してくれていたからそんなにKにしていなかった。


 でもみんなが私の脱走でイライラしている。そのことに関しては脱走しながら薄々罪悪感を抱いていたから、話す。


 脱走をしてまで、外の世界に行きたい理由を。


 あれは今から十年ほど前のことなんだけど、その時私は着々と外へ行く準備をしながら日々を過ごしてきたんだけど、その時偶然、紫刃の姿を見たの。


 あ、紫刃は赫破達と同じ重鎮の一人で、今はもういない人なんだけど……、その人は私のことをとてもかわいがってくれて、外の世界に行きたいって発言をした時、怒っていたけど起こっていないような素振りで私に『外の世界は怖いところだ』って教えて私のその夢をやんわりと否定した人なんだけど、ほんとは良い人なのっ。それだけは言わせてっ!


 話を戻すと、紫刃はその時なんだか怒っているような顔じゃない、普通の顔じゃないそんな顔をしていたの。


 どんな顔って言われても、怒っていないけれど眉間にしわを寄せているような、そんな顔? うーんあの時はよく見ていなかったけど、普通じゃないってことだけは分かったし、いつもの紫刃じゃない顔になんだか素通りできなかったのを覚えているなぁ。


 素通りできないし、いつも赫破と一緒にいた紫刃が修練場以外の場所に向かうなんて珍しくて、私は紫刃の後をついて歩いたの。


 ま、まぁ尾行? と同じだね……っ。うん。だって素直に『一緒に行きたい』って言ったら怒られそうな雰囲気だし、それに好奇心が勝っていたこともあって、もーっこの話はここまでっ!


 続きを話すと――紫刃の後を付けながらついて来た私はとある場所に着いたの。


 その場所は修練場の、修練用武器が保管されている小屋で、その小屋は本当に修練するためだけの道具しか置いていない小屋だったの。


 その小屋に入っていく紫刃を見て、私もその後を追って小屋の中を覗いたんだけど、覗いた時に紫刃はいなくて、代わりに小屋の奥が何だか開けているような空間になっていて、微かだけど()()()()()()()の。


 小屋には窓なんてなかったし、風が入り込むとなったら私がいた出入口しかなかったんだけど、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 それを感じて、おかしいなと思って入って、暗い小屋の中を手探りで探索をしたら小屋の奥に小さな穴があって、その穴を覗き込んだら、竹で作られた梯子があったの。


 古びていて今にも壊れそう……、って感じじゃなくて、何年も使われている……年季が入った梯子でね……、しっかり補強とかされてがっしりしていたんだ。


 そこから風が吹いて来たし、紫刃はもしかしたらこの部屋に入ったのかもしれないって思って、勇気を振り絞ってその梯子に足をかけて降りたの。


 よく汚れることを恐れなかったねって? 


 あ、あの時はあんまり考えていなかったし、それで結局は赫破や紫知に怒られる結果になったんだよね……。ははー。あー…………。


 …………それで話を戻すと、紫刃が降りた梯子をゆっくり降りて、やっと地面に足をつけたと思って風の通り道を探りながら歩みを進めたの。


 降りた場所はモグラの通り道なのかって程暗かったし、正直どこがどうなっているのかなんてわからなかった。


 だから微かなんだけど風が入っているその場所に向かって歩みを進めて、開けたところに向かって歩いたの。壁に手を付けて、ゆっくりとね。


 もしかしたら変なものが現れるんじゃないかって言う不安もあったし、この場所が一体どこに繋がっているのかなんてわからなかったから、早く開けたところに行きたい一心で歩いて、少し歩いた後で広いところに着いた瞬間、目を疑った。


 暗い場所にい過ぎたせいで目が慣れたのかはわからないけれど、それでも暗い場所で微かに見えたその世界は、私が見たことがない――




 ――怖い場所だった。




 古い角材で造られた箱みたいな小屋が左右隙間なくあって、その隙間から奥行を覗くことができたんだけど、その間から覗いた光景は暗すぎてよく見えなかった。でもその空間と空間の間には角ばった石が組み合わさった地面と、空気が冷たく感じてしまうほど終わりが見えないほど長い通路で、一体どこまで続いているんだろうって思うほどその空間は長い廊下だった。


 郷とは全然違う世界で、その世界を見た私は不安だったそれが恐怖に変わっていくのを感じた。全身から変な汗なのかな? 冷たいのに気持ち悪さしか感じられないようなそんな汗を流して、ここにいたくないって言う拒んでいる自分に驚いてその場から離れようって思った時……。


 四角い空間の奥から声が聞こえたの。


 その声は小さいけれど、私に向けられているようなか細い声で、その声を聞いて私は声がした方向に目を向けたの。


 誰がいるの? 誰かそこにいるの? 


 そう思って振り向いたんだけど、怖がっていた私はそこ場所にいる人のことを()()()()()()()()()()だって思っていた。ちゃんと、普通に元気な人で、お腹が空いているのかもしれないってこの時ばかりは自分で自己完結していた。


 でも……、その思考はすぐに壊されたんだ。私の視界に入ったそれを見て、私は声を上げそうになったの。


 四角い空間の奥から出てきたその人物は……、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、助けを求めてきた。


 周りにべったりと付いている――()()()()()()()()()()()()()()()()()()を体中から流した状態で、その人は助けを求めてきて……。


 助けて。


 助けて。


 って、何度も私に助けを求めてきたんだけど、その光景を見て、その人の無残な姿を見て、私は走って梯子を上ったの。その人の手を振りほどくように……、ううん。拒絶。の方がいいね。これは。


 あんな凄惨な光景を見て、差し伸べるほど私は出来ていなかったし、何より怖くて逃げることしか頭になかった。逃げて小屋から出た後、小屋の横にへたり込んで落ち着こうとしていたけれど……、一度見てしまった光景が思い出されて、怖いと不安、理解ができないっていういくつもの不安な感情が私のことを襲って、その不安が体にも出始めて――あの時の人のことを思い出すと同時に、お腹のものを全部戻して、戻して、無くなったのにまだそれを繰り返していた。


 怖いとか色んな不安な気持ちが私のことを攻撃して、それが内部にまで浸透していく感覚、今でも忘れられない……。


 少し落ち着いて、戻した形跡を土で誤魔化した後は少しの間小屋の壁に寄りかかって休んでいたんだけど、休んですぐ紫刃が上って、小屋の中で何かをする音が聞こえたの。


 正直、ここで戻る選択をしていたら、今の私はいないと思う。


 この場で戻ってそのことを悶々と考えて、祖のままずるずる引き摺っていたかもしれない。もしかしたらみんなに対して疑いを向けてしまうかもしれない。私自身が変になっちゃっていたかもしれない。


 でも別の未来なんて私にはわからないし、そんなことを延々と言っても仕方がないよね。でも、この選択をしたおかげで今の私がいるのは事実だよ。


 小屋の中で何かをしている紫刃に気付かれないように立ち去ろうとしていたけれど、あの時私に助けを求めていた人の光景を見て、あんなにも傷ついて死にかけていた人が何で鬼の郷に――鬼以外の種族を入れないのに、なんでいるのかも気になった私は、思い切って紫刃がいる小屋の出入り口に立ちふさがって紫刃の名前を呼んだんだ。


 足元に赤いそれをつけて小屋の修練道具を元に戻している紫刃に向けて、私の姿を見て驚いている紫刃のことを見て、私は聞いたの。


『紫刃――その恰好は何? なんで足に赤いそれがついているの? なんでこんなところで道具を漁っているの? 整理整頓じゃないよね? 私、見たから……、この小屋の奥にある梯子の先、見ちゃったから話して』


 何していたの?


 紫刃に詰め寄って聞く私に、紫刃は驚いていた。けれど梯子の所を聞いた瞬間紫刃の顔が更に驚きに染まって、その後すぐに普段と……違う。普段に観念って言うのかな? なんかショックを受けたような顔をしていたのを、今でも覚えている。


 紫刃は私のことを見て、道具を持つことをやめたのか、手にしていたそれを床に置くと紫刃は私のことを見て言ったんだ。


 正直――この後の言葉が大間違いな言葉で終わってほしいって思っていたのは事実。みんながもしかしたらって言う予想を外してほしかったのかもしれない。でも、私の予想は当たっちゃった。


 外の世界を忘れろって怒り狂って私に怒鳴っていたその光景をまた思い出して、みんなの本性がそうではありませんようにって願ったのに――結局、()()()()()



『姫よ。梯子の先で見た光景は己達の歪みだ』



 紫刃の言葉を聞いて、みんなの本性を、私のことを可愛がってくれたみんなの闇を、この日知ってしまったの。


 みんな……、鬼族の過去。そして外の世界に対しての確執を。

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