PLAY12 混ざり合う①
それから次の日になって……。
ヴェルゴラさんに昨日のこと……、つまりは徒党のことについて話すと、ヴェルゴラさんは「そうか」と言ってアキにぃやキョウヤさんに握手を促した。
アキにぃは大人の余裕ある笑みでヴェルゴラさんの手を握って、次にメィサさん、ロンさんという順番で握った。
みゅんみゅんちゃんにも握手をしようとしていたけど、みゅんみゅんちゃんはアキにぃをじとっと見て、そっぽを向いて握手をしたので、アキにぃは引き攣った笑みで握り返した。そこから感じるどんよりとした空気は今でも忘れられない……。
キョウヤさんに至ってはフレンドリーで、特にロンさんには「まぁ――肩の力抜けよ」と気遣いを忘れずに言っていた。
やっぱりキョウヤさんは周りをよく見ていると思う。気遣いもできて、それでいて心配しないようにと言う配慮も忘れない。
常識人と言っても過言ではない行動に、私は尊敬の眼差しを向けてしまう。
流れも流れでもあり、その流れに沿うように、私もヴェルゴラさんに向けて握手をしていく……。
でも……。
ヴェルゴラさんと握手をした時……、突然それは来た。
「っ?」
「?」
ゾワリと来た黒いもしゃもしゃ。
赤や青など混ざっていない……、見たことも、感じたこともない黒いもしゃもしゃ……。
それを感じて、私は一瞬握り返すことを躊躇った。
ヴェルゴラさんはそんな私を見降ろしていたけど……、そんな黒いもしゃもしゃを抱えているような、雰囲気は出していない……。
それを見た私は……。
きっと私の勘違いだろう……。そう思って……。
「な、何でもありません。ごめんなさい……」
そう謝りながら、私は違うと言い聞かせながら、握った手を放す。
「いや、こんな姿なら怖がられても仕方ない。気にするな」
そう言うヴェルゴラさん。そっとヴェルゴラさんを見たけど……、さっきの黒いもしゃもしゃは、消え去っていた……。
跡形もなく……。だ。
やっぱり気のせい。勘違いだったんだ。そう思いながら、私はヘルナイトさんを呼びに行った。
ヘルナイトさんを見たヴェルゴラさん達は驚いていた。まぁ普通はそうなのかもしれない。
しかしみゅんみゅんちゃんは意外にも、最初の時こそは警戒していたのに、今では普通に話していた。
昨日はあんなに驚いた眼で見ていたにも関わらず。今では。
「ちゃんとしなさいよね?」
「わかっている」
なんとまぁ仲良く話しているところを目撃して、私は驚きやなんだか複雑な気持ちを抱えて、その光景を見ていた。
ヴェルゴラさん達は最初こそ警戒してみて、武器を構えそうになったけど、みゅんみゅんちゃんの説明もあって、なんとか同行できるようになった。
私はみゅんみゅんちゃんにジェスチャーで「ありがとう」と控えめに微笑むと、みゅんみゅんちゃんは手を三回振って……、「別にいいって」とニコッと微笑む。
このジェスチャーは私達友達グループでよく行っていることで、きっかけはしょーちゃんがよく見ていた警察ドラマの合図を真似してのことで、それを使って遊んでいた。
でもその時は、私としょーちゃん、つーちゃんだけ。
そのことをみゅんみゅんちゃんやメグちゃんに話したら、それを使おうということになってたまーに使っている。
昔話はここまでにして……。
今現在。私達は特製のマスクをつけて『腐敗樹』を歩いている。
『腐敗樹』はその名の通り、本当に木々や草木、そして土も腐っていて、マスクをしててもわかるような黴の臭い。
そして足を踏み入れることによってわかる……。『ぶちゅ』という土のぬかるみ具合。すごく嫌な感触だけど……、それを感じながら足を進めている私達。
先頭は索敵が得意なアキにぃ。その後ろから、私、みゅんみゅんちゃん、ヴェルゴラさん、メィサさん。ロンさん、キョウヤさん、そして最後は見張りとしてのヘルナイトさんと言う順番で歩いていた。
マスクは意外にもガスマスクのようなそれで、目元にはなく、口だけを守るようなマスクとなっていた。
二つのフィルターに触れながら、私はすぅっと息を吸う。
吸ったとしても、あまり実感はないけど……。これで喉を守っているのなら安心だ。
「てか……」
キョウヤさんは言った。
私はキョウヤさんを見ると、キョウヤさんはマスクをしながらヘルナイトさんを見上げ……。
「あんたはマスクしないのかよ」と驚きの声を上げながら突っ込みを入れる。
ヘルナイトさんはそれを聞いて、「あぁ」と甲冑越しに口元を手で撫でながら言った。
「私には必要ない。耐性があるのかわからないが……大抵の純血の魔王族は効かない」
「こんのくそチート」
キョウヤさんはむっとして肩を竦めながら言った。
それを聞いていたアキにぃは、マスクを指でなでながら、そっとヴェルゴラさんを見た。
私もヴェルゴラさんを見ると、ヴェルゴラさんは紺色の鎧を着て、それに今まで甲冑を被っていたからマスクはどうするのだろうと思っていた。そして今になって見てみると……。
……なんだろう。
そしてなぜだろうという言葉が頭をよぎる。
ヴェルゴラさんは確かにマスクをしているのだけど……。
「なんだ? なぜ俺の顔を見る?」
「いや……あの……、うん」
アキにぃはそれを見て、ゴホンッと咳き込みながらヴェルゴラさんの顔を見ないようにしている。
それを見ていたメィサさんはうーんっと、首を傾げながらヴェルゴラさんを見て……、少し困ったような笑みを浮かべて……。
「ねぇヴェル……。いくらなんでもそれはないと思うなー……」
「なぜだ?」
「す、すごい……ふぇ、か、フェイス」
ヴェルゴラさんはメィサさんを見る。その顔を見て、ロンさんはぎょっと驚いてヴェルゴラさんを見ていた。きっと、顔と言いたかったのだろうけど……。
私も、それを見て困ったような表情をする他ない。
本来なら甲冑をとってマスクをするのが普通なんだけど……、ヴェルゴラさんの場合は違った。
というか……、ヴェルゴラさんは甲冑をとっている。のだけど……。
甲冑は腰にぶら下げて、そして顔はなんというか、頭皮や首元が見えないようにフードつきの短めのローブに顔全体が隠せるガスマスクをつけている。
はっきり言って……。
「変質者みたいね。それ」
あっ! みゅんみゅんちゃんが言ってしまった。
はっきりと言ってしまったせいで、ヴェルゴラさんはぴくりと肩を震わせて驚いた様子。
それを聞いたロンさんたちもぎょっと驚いてみゅんみゅんちゃんを見てしまう。
キョウヤさんはぐっと唇を噛み締めて、握り拳を作っていた。
そんなこともあり、『腐敗樹』を歩いていると、ちょうど開けた場所についたので、ここで休憩をしながら、作戦を立てようとヴェルゴラさんが提案した。
私達はそれに承諾し、今現在、その開けた場所で各々休憩をしながら武器の手入れをしたりしている。そんな中……メィサさんは私に近付いてこんなことを聞いてきた。
「そう言えば、ハンナちゃんはなんであのENPCのヘルナイトと一緒にいるの?」
「危険、なしか?」
ロンさんも少し緊張しながら聞いてきたので、私はそれに対して首を横に振って、控えめに微笑みながら言った。
「その、訳があって」
「ロンと同じことを聞いてしまうけど……大丈夫なの? 何かひどいことされていない?」
「いいえ。むしろ助けられっぱなしです」
そう言うと、メィサさんはほあーっと驚いた声を上げて羨ましそうに私を見て、ロンさんは首を傾げて聞いていた。そしてヘルナイトさんを見て、また首を傾げる。
「助けられっぱなしかー。となると、ねぇ……」と言いながらくすくすと笑いながら微笑ましく私を見ているメィサさん。
それを見た私は、今度は私が首を傾げる番となってメィサさんを見上げていた……。
すると……。
「そう言えば」とアキにぃは言った。
私達はそれを聞いてアキにぃを見ると、アキにぃはふと、みゅんみゅんちゃんの腰を見て思ったのか、その場所を指さして言う。
「それ――なに?」
少し慎重な音色で聞くアキにぃ。
それを聞いて、私は「ん? これ?」と腰にかけてあるそれをさすりながら言うみゅんみゅんちゃんの腰を見た。
確かに……アップデート前にはなかったそれが、腰からぶら下がっていた。
みゅんみゅんちゃんの攻撃スタイルは杖だったはずだが、今はない。
どころか、腰にはゴロクルーズさんを叩いた鞭と、あとは八本もの鉄の筒が腰からぶら下がっていた。
それぞれ赤、青、白、黄緑、黄色、薄黄色、水色と紫色と分けられてて、筒の先にはなぜだがピンがはめられている。それを見たキョウヤさんは、少し青ざめながら……。
「物騒なモン持ってんなー……」と言うと、みゅんみゅんちゃんは腰にぶら下げているうちに一本を取って、それを見せるようにして「ああ、これはね」と言って……。
「手榴弾よ」
「グレネードオオォォォーッッ!?」
さらりと、まさに爆弾のような発言をしたみゅんみゅんちゃんに、キョウヤさんは驚いてビビビッと指をさしながら慌ててそれに対してみゅんみゅんちゃんに向かって声を荒げた。
慌てた様子の声で……。
私達も、それを聞いて驚きを隠せなかった。
なぜなら、そんなものは前のMCOにはなかったから。
メィサさん達は少し困った顔をして私達を見ている……。と言うことは……、知っていた? と言うか一昨日から行動を共にしているんだから、当たり前か……。
私はそれを見て、キョウヤさんとみゅんみゅんちゃんを見る。
「何でそんな物騒なモン持ってんだっ! てかお前所属はなんだっ!?」
「ソードウィザード」
「絶対に不釣り合いな武器を持ってんぞ! お前なんでそんなもんを持ってんだ! まだ鞭ならわかる気がするけど」
と言いながらキョウヤさんの話を聞いている私。
ヘルナイトさんを見上げると……、ヘルナイトさんもそれを見て驚いているように見えたけど、私の視線に気付いたのか、ヘルナイトさんは私を見降ろして「どうした?」と聞く。
それを聞いた私は、みゅんみゅんちゃんを見て――
「アズールには、色んな武器が揃っているんですね」と言うと、ヘルナイトさんはそれを聞いて「む」と言ってから顎に手を当ててから、少し考えて……。
「あれは……」と、ヘルナイトさんはそれをじっと見ているだけだった……。
私はそれを見て、ヘルナイトさんがその手榴弾を見て、何かを思い出しそうになっているのか、頭に手を当てているヘルナイトさん……。私はそれを見て、一瞬不安を抱える。
みゅんみゅんちゃんが持っているあの手榴弾は、なんなのだろう……?
そう思っていると、キョウヤさんはみゅんみゅんちゃんに向かって慌てながらも聞く。私が抱えている不安をしり目に、キョウヤさん達は話していた。
「どこで売ってたんだそんなやばいもの!」
「これ? これここに来た初日にギルドで買ったのよ。前々から杖だと使いづらかったから、これを機に変えようと思って。剣だと持ち辛いから、ほかに何かあるかなーって探していたら、これがあったの」
「もっといいものがあったはずだっ! なんでそれに目を付けたっ! 思い出せソードウィザード! お前は魔導師だろうっ!?」
「というかなんで手榴弾……? ここってファンタジー基盤じゃ……? 完全に世界観が崩れている……」
キョウヤさんの突っ込みを聞きながら、アキにぃは頭に手を抱えながら溜息と共にそう言った。
「たしかに、中国でもそんなものはなかったかなー……?」
「物騒、そして恐ろしいっ!」
メィサさんとロンさんが言う中、みゅんみゅんちゃんはぷすっと頬を膨らませて……。
「なによそれ……。私だってこれは使えると思って買っただけなんだから、それに武器なんてその人が使いやすいものこそが、真の力を発揮するもんなんじゃないの?」
「そう、かもしれない……」
「ハンナッ!?」
ごめんねアキにぃ……。
そう言う人を私は見たことがあるし……アキにぃだっていたよ。その時……。
そう思いながら、私はエストゥガにいるモナさんを思い浮かべながらみゅんみゅんちゃんの言葉を肯定した。
「しかし、その武器は物騒だが、戦力になるかもしれない」
そう言ったのはヴェルゴラさん。
ヴェルゴラさんはみゅんみゅんちゃんに近付きながら「手榴弾は手頃の爆弾だ。それだあるだけで、戦況は大きく動くと聞いている」と言った。
「……そう、なんですか……」
私は少し苦しく言ってしまった。
手頃の武器……、それは戦争や戦いで、人を傷つけるために使う道具として、自分達にとって有利になるということだ。
それは今ならありがたいことだけど……。
やっぱり、傷ついてほしくないなぁ……。
それを聞いていたのか、聞いていないと思うけど……ヴェルゴラさんはみゅんみゅんちゃんに聞いた。
「前から思っていたが、今回は俺達四人の初クエストだ。みゅんみゅん。お前のその戦闘スタイルを聞かせてほしい」
そう言うとみゅんみゅんちゃんは鞭を片手に持って、鞭の先に赤い手榴弾をカチッと引っかけてから「いいわよ」と言った。
その動作は流れるようで、みゅんみゅんちゃんは作業をしながら。
「と言っても、私はこれ初めて使うから、あまり手馴れていないんだけど」
「は? 手馴れていない?」
「そうよ。でもね、これ結構使い勝手がいいらしく、一日中練習したかいがあったわ」
「ちょっと待てちょっと待て。おい、何するつもりだ?」
キョウヤさんの不安の声を無視して……、みゅんみゅんちゃんは話す。
みゅんみゅんちゃんはそう言いながら「よし」と鞭の先につけた手榴弾を見せつけて、私達を見て腰に手を当てて言った。
「これね、実は使い回しができるのよ。使い捨てじゃなくてね……。私のようなソードウィザード用に作られた……、確か、アークティクなんとかって言っていたわ」
「アークティク?」
その聞いたことがない言葉を聞いた私はみゅんみゅんちゃんの言葉を繰り返し言う。
みゅんみゅんちゃんは右手に持った鞭をぐっと握り、それを持ったまま手榴弾がついた鞭をぐんっと上げる。
「そう、よくわからないけどこれすごく珍しいものだって、あのおじいさんは言っていたわ」
そう言ってみゅんみゅんちゃんは右腕を後ろまで振るう。
そのまま上から後ろに向かってぐぅーんっと円を描くように放物線を描く手榴弾を見てから、みゅんみゅんちゃんは目の前を見て唱える。
「属性剣技魔法――『火炎手榴弾』」
と言って、ダンッと左足を地面に踏みつける。そして右手に持っていた鞭を今度は地面に向かって一気に振り降ろした。
『ひゅんっ』という空を切る音が聞こえ、一気に振り降ろしたそれが電気信号のようにみゅんみゅんちゃんの後ろに向かっていたのに、軌道を変えて今度は前に向かって飛んでいく。
逆の方向に放物線を描いて、鞭の先についた手榴弾は遠くの地面に向かって落ちていく。
それはまるで――釣りの要領。
それを見ていたロンさんは「おぉ」と声を上げる。
と同時に、どんどん地面に向かって落ちていく赤い手榴弾はとうとう地面に辿り着いたのか……、少し大きめに『カンッ』と地面に当たり……。
――ドォオオオオオオオオンッッッ!