PLAY109 不穏接近中⑤
「ふぅん……。だから棍棒と鉤爪ね。理解できたわ」
「………………」
「あらぁ? なんだか腑に落ちないような顔ね。そんな顔をしていたらいい顔が台無しになっちゃうわよ?」
「誰のせいでこうなったんだ……。誰のせいで」
「うふふ。細かいことはもう気にしないことが賢明よ。最悪逆撫でになってしまうから」
アシバは寝床に座っているラージェンラ。カウンターの調理場で話しを聞いているフルフィド。そして頬張りをやめてお腹を叩きながら一服しているラランフィーナのことを見ながら溜息を吐くこともできず、頭を抱えながら彼は頭を垂らしていた。
最も従いたくない存在――女に心を折られ、脅しに従う様に話してしまったことを嘆き、そして何分か前の自分を殺したいと思いながらアシバは頭を抱えてラージェンラの話を聞く。
脅しをかけたラージェンラ本人は普段通りの女と言うそれを象徴するような笑みと美しさ、魅惑のそれを醸し出しながらアシバに話しかけてきていたが、アシバは口を開けない。脅された挙句屈辱のような仕打ちを受けたのだ。
声を掛けられたとしても話したくない。
そんな心境の中アシバは頭を抱えて項垂れているその光景を見ながらラランフィーナはラージェンラがいるその場所に視線を向け、お腹をポンポンと叩きながら彼女は陽気さと憧れが混ざっているような音色で言ってきた。
「流石ラージェンラ様です! まさかあんなに口が堅かったアシバを簡単に屈服させるだなんて! 流石は『六芒星』一の美魔女ですねっ!」
「ふふふ。ラランフィーナったら、それは褒め言葉じゃないってい何度も言っているでしょ? できれば『六芒星』一の魅惑の女神堕天使とか、そんなミステリアスと狂気を付け加えてほしいわ」
「魅惑の女神堕天使だとイメージ悪いですって! でもそっちもいいと思ってしまう私もいるのも事実……。~~っ! そのくらいラージェンラ様は凄いってことを伝えたいんですよー? なのになんであの豚はあの角折れ鬼を配下において行動して、自分を『『六芒星』の中でも最強に近い魔女』って言っているのか全然意味が分かりませんよ! 魔女だったら絶対絶対絶対絶対絶対絶対絶対絶対ぜーったいに! ラージェンラ満場一致のはずっ!」
「ラランフィーナありがとう」
ラランフィーナの言葉を聞いていたラージェンラは怒りなどないその笑顔を向けながらラランフィーナの話に耳を傾ける。
本当にくすくすと笑いながら、本当に心の底からラランフィーナの話に耳を傾けている。
そんな気持ちが顔に出ているかのような、そんな空気で話しているラージェンラ。
その話を調理場で黙々と作業しているフルフィドの耳にも入っていたが、彼はそんな二人の会話に入るなどと言う行為はしなかった。
アシバのように項垂れ、自分の過ちを後悔しているわけではない。女性同士の話に首を突っ込むようなことをしないように、フルフィドは作業を黙々とこなしていた。
黙々とこなさず彼女達の話に入ってしまうという命知らずな行為は、絶対にしてはいけない。そんなことを心に刻み、命がいくつあっても足りないと思いながら彼はちらりと視線をとある場所に移した。
食器や調理器具を洗っているところの水に手を突っ込み、その状態で動きを止めながら彼は視界に入った人物のことを見た。
爬虫類の片目に鉄でできたマスクと眼帯。黒い髪は伸ばしているけど肩まであるそれで、前髪も無造作に伸ばしている。そのせいか、その紙の隙間から見える目は怖い印象を植え付ける。服装は黒を基準としたカットシャツのような襟が立ったものに皮のズボンにロングブーツ。そして両手がなぜか機械のような両腕で、右手は壊れてるのかない状態の男――機械人であり『憎悪機動兵』と言う通り名で呼ばれている『憎悪』の魔女……、型番N00…………ではなく、ロゼロは窓枠に腰かけ、夜と化してしまったその世界を窓越しで見ていた。
ただ黙って、じっとしながら彼は窓の青く染まった……、否――闇のように染まっていく世界を、ずっと見ていた。
ロゼロの座って窓の世界を見るその光景は一枚の絵画を思わせてしまいそうになるが、彼の姿を見ていたフルフィドだけは、その心境に至らなかった。
どころか、彼自身この夜が――月すら見えないような夜空に対し、とある感情が湧き上がって来ていたのだ。
現代で言うところの流し台に突っ込む手が流れ出て来る水の所為でどんどん冷たくなっていくが、そんなことお構いなしにフルフィドはその水の中に突っ込んでいた手に力を入れる。
洗おうとしていた皿を握りしめるように、いいや握り壊そうと言わんばかりにフルフィドは力を籠め、そして思う。
――こんな夜など、永遠になくなってしまえばいいと何度も思ってしまいます。
――私もその一人です。いいえ……、この場所に私達と同じ出身の者達がいれば、同意など膨れ上がります。
――しかしその同じ出身ももういない。もうどこにもいない。
――こんな夜の日に、みんないなくなってしまった。天の世界へと逝ってしまった。
――そう、あの日から私達は今日まで生きてきたのです。
脳裏に写り込む己の記憶の世界を、己の追憶を思い返しながらフルフィドは握りしめ壊しかねない状態にあった皿を水の中から『ザバッ』と取り出すと、洗い終えた皿を拭くためにフルフィドは傍にあった綺麗な布を手に取り、それを使って皿を丁寧に拭く。
その光景はまさに料理人がするような光景であるが、彼は元々料理人ではない。しかしこの動作は元々沁みついている動作でもあり癖でもあるのであながち間違いではない。
その行動をしながらフルフィドは楽しそうに会話をしているラージェンラとラランフィーナの事を横目でちらりと見る。
先ほどまでアシバとの会話で出していた空気とは打って変わって、この二人が話している光景はまさに明るい会話。
女性らしい可愛らしい会話の光景である。
だが、そんな光景を見てフルフィドは微笑ましく見るどころか、彼女達のことを見ながらそっと目を伏せ、彼女達のことを憐れむような視線を向けながら彼はこう思っていたのだ。
彼女達もこの国のルールによって不幸になってしまった者達。
自分達と同じようで、違う不幸を歩み、この国に対し復讐し、壊そうと誓った復讐者。
救いもなければ幸せなどない。
ただただこの国に恨みを抱き、怒りを抱く。何の正と言えるような感情など一切ない。負の感情しかない。過負荷しかない感情を攻撃としてぶつけることを誓った者達。
そう思いながらフルフィドは再度と言わんばかりに思い出す。
決してこれは死亡フラグなどではない。この戦いに全てを賭けて戦いに挑むわけでもない。ただ彼は思い出すだけなのだ。
一日の日課。
そう――フルフィドとロゼロが必ず一日の中で行う事。夜のルーティンと思ってほしい。
フルフィドは思い出す。そしてロゼロも月のない夜空を見ながら思い出す。
本来であれば思い出したくないことなのだが、その過去から目を背いてしまった瞬間、祖国の人達を記憶の中で殺してしまうことと同じになる。
祖国の者を消したくない。
消さないためにも二人は思い出すのだ。
一日たりとも忘れてはいけない。風化してはいけないあのことを忘れないために、あの日のことを二人は思い出していく……。
――あの日は確か、フィリクス様が大好きだった青い空が見えていた日だった。
◆ ◆
私フルフィドは元々この国――アズール民ではなかった。
私は生まれも育ちも別国の民……今は亡き国であり、鉄まみれの国と言われ、技術が盛んな国として栄えていた――マキシファトゥマ王国と言う国の生まれでした。
我が国では魔道具の量産、機械技術の提供や戦闘兵器の開発なども行われており、他国に大量輸出もしていたの国でもあったので、どの国にとっても我が国はなくてはならない。欠かせない国だったと思っています。
真相は分かりませんが。
マキシファトゥマ王国はアズールの王都ラ・リジューシュと友好的な関係を築いていた国ででもあり、平和を結ぶ同盟が結ばれていました。
平和の同盟と言っても、それは政略的なものであり、簡潔に言いますと『もし国に攻撃を仕掛けた場合、武力行使を許可する』と言った、まさに利害の一致のような曖昧で平和と言は言い難いものを結んだのですが、この同盟のお陰でマキシファトゥマ王国は平和そのものの国だったのでしょう。
この世界のように自然にあふれた世界とはかけ離れていた鉄まみれの世界。鉄を加工する際に発生する蒸気に何かを作る際に僅かですが溢れてしまう有害な煙と有害な汚水。
その二つとこれからの王位継承者――つまりは王になる人物を決めなければいけないことの件こそがマキシファトゥマ王国の問題でした。国一つ一つ色んな問題を抱え、そして国と国の隔てにも問題を抱えていることもあって、国王はかなり頭を悩ませていたことを記憶しています。
汚水と汚れてしまった空気のことに関しては追々解決する。
技術の進歩と開発ができればきっとその問題にいつかは解決する。
そう思っていたのですが、問題はそこではなかったのです。
そう……問題はもう一つの王位継承の件です。
当時の国王マキシファトゥマ二十五世はかなりのご老体で、あと数年しか生きることができないと診断されたほど、重い病を患っておりました。
重い病は王の体を、命を蝕み続け、私の古い記憶に残っているあの豪快でもあり優しさを兼ね備えた王の素質を持っているお方の面影が無くなり、失意と言う名の無気力が私の新しい記憶に刻まれたのを今でも覚えています。
あれが王様なのか。そう思ってしまうほど私は衝撃でもありましたが、そんな王の姿を見て大臣たちはいつ自分が王位を継ぐことができるのか。即位できるのかを心待ちにしていたことを聞きましたが、そんなの関係ないです。どころか大臣たちがどうなろうと、国王はこの時決めていたのです。
この時――王族の執事としてお傍にいた私は知っていたからです。
次の国王は決まっていたこと。そしてその王位継承を継ぐのは、マキシファトゥマ国王の孫でもあるフィリクス様が、この国を治めることを――
フィリクス様はまだ子供――五歳と言うお年頃だったのですが、国王とは違い聡明であり、国王に似て国民のことを第一に考えるお優しいお方でした。
私はそんなフィリクス様のお世話役も担っておりましたので、身の周りのこと、そしてフィリクス様のご家族――つまりは王家の者達の身の回りや食事なども担当しておりました。私一人で、ではないのですが、フィリクス様の者周りのことはほとんど私でした。
今でも記憶に新しく、鮮明に思い出せます。
小さいながら私にお礼を述べたあのフィリクス様の笑顔……、今でも忘れません。
しかしその笑顔も、あの日が来てから無くなってしまいました。
あの王がこの国に来てから、この国は崩壊へと歩みを進めてしまっていたのかもしれません。
いいえ、すでにあの王が来た瞬間――この国は呪われてしまったのです。
我が国と友好的な関係を築いていたアズールの小国、現在は共和国と言う名に変わってしまったそうですが、その時は帝国と言う名で、その帝国の王としてその者は我が国に訪問し、この国の運命を壊していったのです。
砂の国『バトラヴィア帝国』を統べる『略奪の欲王』――ガルゼディルグト・イディレルハイム・ラキューシダー王十四世が我が国に来てしまった瞬間から……。
あの日、我がマキシファトゥマ王国に他国の者でもあり他国の小国を統べる王と、そんな王の傍にお仕えしている者。そしてその背後には護衛なのだろうか、数人の鎧を着た兵士達が黄金と言っても過言ではないような装飾に彩られた船から降りてきたことを今でも覚えていますし、あの時見た王の姿をこの目で見た時、私は即座に感じました。
半裸で、ふくよかにしてはふくよかすぎる肥満体質の頭に髪の毛がない脂汗がひどく、十指にはいくつもの指輪が嵌められてあたかも己の地位を、己の立場をこれでもかと露見させているなんとも己のことが大好きでしょうがなく、国のこと、民のことを考えていない男だと思いました。。
両隣に露出が高い美しい女性を侍らせ、手首には――鉄で出来た鎖が付けられている奴隷の女性達を見ながら下劣に笑いながら女性の体を撫でているのを見ていましたが……、何とも趣味が悪い。
一言で言うと、あまり私も使わないのですが、『クズ』と思ってしまうほどの人物でした。
その人物はどうやら己の国に蔓延している瘴気を何とかしたいということで助言を聞きに来たらしいのですが、私は祖国を大事に思っておりました。それはもう愛しておりました。この祖国こそ我が心の安らぎと言っても過言ではありません。
過言ではないほど私はこう言っている。それはつまり――この国に何かを引き起こすようなことはあまり持ち込みたくない。と言う本音を遠回しに言っているのです。
私の感覚があの時囁いていたのかもしれません。この男を、このクズをこのまま祖国に足を置いてはいけないと。置かせてはいけないと思っていたのですが、その願いも虚しく、友好的な視線を見せた国王は砂の国の王を招いてしまったのです。
愛する祖国の地面に、汚らしいその足を乗せれと促すように……。
その後のことなのですが、お生憎私は席を外されてしまいました。と言うよりも、自主的に席を外しました。
なにせ私は王族の執事。つまりはあの場所にいなかったフィリクス様の御守もしないといけなかったのです。
御守と言いましても、あの時、あの時間帯――王子は剣術稽古の休憩時間でもありましたので、私はフィリクス様がいるであろうあの場所に向かったのです。
王子が一番好きであった――祖国唯一の緑の原っぱに。
言い忘れておりましたが、我が国マキシファトゥマ王国はほとんどが鉄でできている国。国の外も殆どが鉄の生成の傷跡なのか、緑などほとんどない世界で、あるとすれば鉱石や岩、石、泥、泥炭と言ったものしかなかったのですが、国のほんの一部には最後の自然として保存されている自然の原っぱがありました。
このアズールでよく見るような、普通の原っぱなのですが……、我が国において緑の草と言うものは新鮮なものであり、遺産に等しい場所でもありました。
その場所で、フィリクス様は毎日休憩時間になると横になるのが日課でした。
王の命令でフィリクス様の元の向かうと、やはりフィリクス様はこの国最後の原っぱで横になっておりました。
あの日はこの国にしては珍しい晴天で、曇りの空と濁った空気の風しかないこの国の日常も、この日だけはなぜか晴天で濁りなどない澄んでいる――おいしい空気が風となって最後の原っぱをかけ向けていました。
草木の音も、今でも鮮明に記憶しています。そして……その時の会話もしっかりと覚えています。
「フィリクス様。やはりここにいましたか」
「! フル」
私の声を聞いて起き上がったかと思うと、フィリクス様は私がいるであろう背後を振り向きながら私の名前を言ったのですが、その言葉を聞いた私は少々嫌と言う感情を顔に出してしまいました。
そんな顔を見てフィリクス様はまだ五歳と言う事もあって私の顔の真意を理解していなかったのでしょう。首を傾げていましたが、そんな王子に私は何度目になるのかわからない言葉をもう一度言ってしまったのです。
「フィリクス様。私はフルではありません。もう何度目になるのかわかりませんが、私はフルフィド・レードンゴラ・マルクリーファム・マキシファトゥマと」
「ながいからフルっていっているんだけど、フルはいやなの?」
「嫌と言うものではありません。しかし私はその愛称に対し少しだけ抵抗があるのです。昔のことなのですがね。やはりこればかりは親愛なるフィリクス様相手でもこうなってしまうとは……」
「なんでいやなの? いやなことがあったの?」
「そのような見解でよろしいかと思います。ですので大変烏滸がましいかもしれません。長年王族に仕えてきた身でありながら次期国王になるフィリクス様にこのようなことをお願いすることを、お許しください」
「わかった――いやならやめる。ごめんねフルフィド」
フィリクス様は私の言葉を聞いてなんとなくなのでしょうか――私の我儘に聞こえてしまうお願いを頷きながら聞いて返事をしたのです。
その言葉を聞いた私は安堵のそれを零すと同時に、目じりに溜まる熱と湿った何かを感じ、私は懐にしまい込んでいたハンカチを手に取り、そのハンカチを目尻に当てながら私は言ったのです。
なんともしおらしく見えてしまいそうですが、そのくらい私は感激したのです。
フィリクス様の成長を垣間見て、私はハンカチを当てながら言ったのです。
「フィリクス様っ! ご成長されましたね……! このフルフィド、感激の大洪水で視界がもう水中の中です……!」
「おおげさだよフルフィド」
しおらしく、フィリクス様の言う通り少し大袈裟に見えていたのでしょうか、フィリクス様が呆れるような顔をしていたのを覚えています。そしてその後フィリクス様の言った言葉は、今でも思い出せます。
はっきりと、一文字一句間違えず覚えています。
フィリクス様は言いました。私のことを見て言ったのです。
「お父上がいっていたんだ。『人がいやがることはしてはいけない』って、それで『いやがることをしてよろこぶことは人としてさいてーなことだ。そんなにんげんになってはいけない。こころをやさしく、からだをつよくもて。それがおうになるもののひつようなものなんだ』って、お父上はいっていた」
「国王が…………」
「うん。だからフルフィドがいやがることはしてはいけないっておもったからもうしないってきめたんだ。お母上も『わたしたちのおせわをしてくれているしつじさんたちはわたしたちとおなじひとなんですから、しつじさんをいじめてはいけませんよ』っていわれたし、ぼくもそんなことされたらいやだもん。だからもうしないよ。だからあんしんして」
「っ」
王子の言葉を……、フィリクス様の言葉を聞いて、私は心の中で小さな私がその小さな体で大きくその感情を表現するように踊っておりました。ウキウキと、ワイワイと、その表現を包み隠さず私の心の中で踊り、私にその想いを伝えて来ました。
それはまさに喜びの舞。
喜びを体現し、嬉し楽し感激あられの如く踊り回るその気持ちが私の感情にも表れ、私の心を締め付けて来ました。
いうなれば――フィリクス様の言葉に私は感動したのです。
小さな子供の言う事に対してすぐすぐ感動を流し、喜びを大きく表現するという行為はまさに孫がいる老人のそれなのでしょうが、私はそれでも感動したのです。
フィリクス様は確かに王になる器の存在。ですが真砂土の器も未熟。まだまだ深さが浅い器です。器の深さを深くするためにももっと王としての品格人格、そして心を磨き、頭を磨かなければいけません。
が……、フィリクス様はやはり聡明なお方だ。
しっかりと国王と王妃の言葉を理解し、それを行っている。
簡単な事ではありますが、国を守る者は民を守る一生の責務。その責務を担うためにはまず国民のことを第一に考えることが重要なのです。
それは先々代の……、いいえ、この国を築き上げた初代国王もそうであり、これは代々伝わる教訓でもあり、国とは何なのかを教えるための言葉でもあったのです。
フィリクス様はこの時まだ五歳。ですのでまだ詳しい事、難しいことなどわからないのは仕方がありませんが、それを簡単な言葉で理解し、それを実行する。
こんな執事に対してもするのです。
この時の私は胸の中で感激の雨でした。表面はフィリクス様に対してお礼の言葉を述べ、頭を下げていましたが、この感情は顔に出したいほどの感激でした。そのくらい私は嬉しかったのです。
そして私のお礼の言葉を聞いて、フィリクス様は五歳ながら照れた顔をしましたが、すぐに嬉しそうに笑顔を向けていたことにも私は嬉しく思いました。
あの日行ったことを忘れず、いつまでも優しく健康で、国と民のことを一番に考える立派な王になってくれることを、マキシファトゥマ王国をより良い国に築き上げていく未来を夢見ながら、私はその時が来るのを待とうとこの時まで思っていました。
いつまでも私はフィリクス様と一緒にいる。
フィリクス様のために、国王のためにこの身を捧げる。
己の奥でそう決意しながら私は思っていました。
いつまでもこの国は平和な繁栄を歩むことを――…………。
ですが、それもあの日を境に砕かれてしまったのです。
フィリクス様の笑顔。フィリクス様の初めての優しさを身をもって知ったあの日。
すでに私達は運命と言う名の地獄へと足を踏んでいたのです。
あの日、あの時国王が友好国である国に手を伸ばした瞬間から…………。
◆ ◆
「これは魔導具を生成しているのですかな?」
「違いますよ。これは鉄の魔人を作っているのです。魔力なんてなくとも使える、無力の人間を力を持つ人間に変える……、まるで魔法のような道具です」
「………………つかぬことをお聞きします。あなたたちの技術を使えば……、濃度が濃い瘴気を浄化する機会を作ることは可能でしょうか?」
「ええ――できると思います。我が国の技術を用いれば、きっとその不可能も可能にできるかと」
「………………………なるほど、そうですか」
◆ ◆
それから数時間後――今でも思い出す午後十時五十八分。
マキシファトゥマ王国は炎と悲鳴に包まれ、滅んでしまいました。




