PLAY109 不穏接近中③
そして時間を今の時間に戻す……。
◆ ◆
「我がこの小僧とその仲間達と行動している理由は感謝の恩を返したいこともあるのだが、なんだか見てみたいと思ってしまったんだ。こいつらが、特にこの小僧が見せる運が最悪で馬鹿正直の奇跡を、この目で見たいと思ったのも理由の一つだ。きっと、この小僧の……ショーマの力はこの先の戦いにも戦力になる。戦力になり、これからもっと強くなっていくと我は信じている」
強欲かもしれんが、今は詠唱がない。だがきっとこいつを詠唱者として選ぶ詠唱があることもな。
要は――こいつと一緒にいる理由は感謝とこれから起こすであろう奇跡をこの目で見たい。それだけだ。
なんとも曖昧に聞こえてしまいそうな言葉を『12鬼士』の名を語っている男――いいや、魔王族デュランははっきりと鬼族赫破に向けて言い放った。
言い放った結果の言葉に赫破は驚きを隠せず――一瞬だけ頭の中が真っ白になった。本当に、言葉通りの真っ白になってしまっていた。
赫破は最初デュラン達……主にデュランに向けて彼はこんなことを質問したのがきっかけだったのが、まさかこのような形で終わってしまうとは……、こんな形の答えを聞いてしまったことに赫破は驚いて固まってしまった。
いや、この場合その言葉は適切ではない。
赫破はデュランの言葉を聞いて、意外だと思ってしまい固まってしまった。の方がいいだろう。
確かに赫破はショーマとデュランに向けてこう聞いた。
人馬の鬼士。貴様は何故こんな出来損ないの小僧と一緒にいるのだ?
貴様はこの世界において最も最強と謳われる騎士団であり、女神サリアフィアを守る存在でもある魔王族の騎士団だ。この世界においてまさに強さの証明。象徴でもあった貴様らが、貴様がなぜこんなにもちっぽけで、こんなにも弱く、こんなにも出来損ないに等しいような存在と一緒にいるのか。儂はそれを聞きたい。なぜ貴様のような存在がこんな小僧と一緒にいるのか。そして小僧は何なのためにここまで来て、これからどうするのかを――儂は聞きたい。
この言葉を聞いた理由としては――ただ純粋な疑問。
『12鬼士』でもあるデュランがなぜショーマと言う存在 (赫破曰く出来損ない)と一緒にいるのかという疑問があって彼はこんな質問を投げかけたのだ。
正直、赫破はデュランのような存在と釣り合わない。
強いて言うのであればもっと有能な存在……、これまで出てきたプレイヤーを上げるのであればボルド達と一緒にいる方がいいのかもしれない。そう思ってしまうほど二人は不釣り合いだった。
だから聞いた。それだけだった。
しかし帰ってきた言葉を聞いて、赫破は意外と思うと同時にこう思った。
『そんな曖昧過ぎる理由でか?』と。
確かに赫破の思うところは正しい。正しすぎる。
デュランの言うショーマの可能性はあくまで可能性でもあり、もしかするとショーマの所為で大変な目に遭ったり、最悪死にかけることだってある。実際死にかけているのだから否定のそれは出来ないのも事実だ。
しかしそんな事実があり、現状死んではいけない戦力でもあるデュランならば、そんな賭けに近いようなことはしないだろう。もっと戦力もあり有能な存在を選ぶに違いない。そう赫破は思っていた。だからデュランの言葉を聞いた赫破は驚きのあまりに固まってしまったのだ。
意外過ぎるその言葉に、彼が知っているデュランから放たれる言葉ではないその言葉を聞いて驚いてしまった。
それだけ。本当に簡単な事でそれだけなのだ。
もっと難しい理由でいるのかと思っていた。もっと利用価値云々で一緒にいるのかと思っていた。悪魔族であるが故、何かをしようとしていたのではないか。多少なりと黒い妄想が頭の中を回っていたが、そんなこと結局は杞憂に終わってしまい、妄想へと変わって消えていった。
蓋を開けて見れば『あれまなんだこれ』である。
本心――理由を聞いた赫破は頭の片隅で……、デュランはこの悪魔族に操られているのか? と思ってしまったが、すぐにその疑問も疑いも消え、デュランの言葉を本心とだんだん認識していった。
「てか思ったんすけど……、デュランの兄貴は俺のことをそんな目で見ていたんすか……? 俺に感謝しているんすか?! いやー照れますねーっ! 俺そんな風に見られていたんすかー! 照れてほっぺたが落ちそうですよーっ!」
「そう言ってはいるが、顔を見れば頬など落ちるどころか吊り上がって変な顔になっているが?」
「照れないでくだせぇよーっ! もっと素直に言ってくだせぇよーっ! もっともっとトークトークッ! トークして俺の耳にインッッ!」
「自分の耳を指さして何をしているんだ……? 顔と相まって気色悪いぞ」
「気色悪いってなんすかっ!? あ。てか今思い出しました! 何が運が最悪なんすかっ! 俺の運を馬鹿にしないでくださいよ? これは幸運の前座みたいなもんで、これからグググーンッ! と幸運が舞い込んで」
「すまないがお前の運のモルグは-10。しかもカンストしているから無理だな。10★で強運のむぃにしか舞い込んでこないよ」
「微々たる希望を壊さないでくださいぃっっっ! 俺泣きますよ? 泣いてあんたの鎧を錆まみれにしちまいますよ? 涙のしょっぱさでその綺麗な鎧を錆まみれにしちまいますよっ? いいんすかぁ!?」
「お前の涙で錆びる素材ではない。安心しろ。だが近付くな汚い」
「ひでーっっっ!! 鬼! 悪魔っ!」
「我は魔王で、お前が悪魔だ」
「そうだったっっ!」
デュランの言葉を聞いていたショーマはデュランに向けて本当に照れるように頭を掻き、その状態で鼻の下を伸ばして口から『ぐへへ』という、一瞬見てしまったら即不審者と間違われてしまいそうな顔でデュランに詰め寄るが、デュランはそんなショーマのことをあしらい、そのあしらいをものともしないテンションでデュランに近付き、もう一度聞きたいばかりに耳を近付けていくショーマ。
だがそんなことをして『はいそうですか』と言ってやるほどデュランは十なんでもなければ単純でもない。どころかそんなことをする存在などいないだろう。
ショーマの奇行に近いような行動にデュランは顔はないが呆れの顔を浮かべ、その状態ではっきりとした己の感情を口にすると、その言葉を聞いてショーマは反論の怒りを剥き出しにして声を荒げる。それは口に牙が出そうなほどの怒りで、その怒りを見ていたデュランは溜息が混じった声で諫めようとしているが、それも結局は火に油のような結果に。
いいや、どころかショーマの心を抉るようにそれは放たれ、ショーマはそれを聞いてショックのあまりに泣きそうになり、小学生以下の嫌がらせをやると宣言をしだした。
やっていることはかなり汚らしく、それと同時に小さすぎると思ってしまう様なちんけな嫌がらせ。
しかしそんなちんけな嫌がらせに屈するほどデュランの心はやわではない。どころか神力カンストしている身であれば、そんなちんけな嫌がらせなど痒くもなければ痛くもない。
ゆえにデュランはショーマの行動を諫めつつ呆れのそれを張り付けた状態で (顔は見えないがそんな顔をしている)ショーマにとって酷な言葉を突き付けると、その言葉にショーマはお決まりと言わんばかりの言葉を吐き捨てるが、それも一蹴されてしまう。
………ショーマ自身今は悪魔族であるのでデュランの言う事も一理ある。
しかしショーマは中身は人間なので、自分の置かれている状況に改めて気付いてぎょっとした面持ちを浮かべて頭を抱えてしまった。
そんな光景を見て、赫破は驚きの顔のまま固まり、今まで閉じていたその口は無意識に半開きになってしまう。
唇同士が離れてしまう、微かな隙間ができてしまうかのような、そんな開き。
その開きはまさに無意識であるので赫破自身この時自分の口がだらしなく空いているなど気にもしていないだろう。そのくらい彼はこの時、その二人の光景を見て驚き、混乱し、疑念をした後……。
納得した。
本当に、すぐに納得してしまったのだ。
デュランの言っていることが全部、納得したのだ。
赫破の言う通りデュランほどの強者であれば、それに見合った存在と一緒に行動した方がこう散るがいい。クルーザァー敵に言えば合理的かもしれない。
だがデュランはその合理性を捨て、可能性と言う曖昧なものに賭けてショーマを選んだ。
ショーマと言う、悪魔であろう存在であるにも関わらず人間臭く、そしてこの状況の中でも己と言う人格を見失っていない。真っ直ぐすぎるその目を見て、真っ直ぐすぎるその人格を見て、デュランはショーマの可能性に賭けた。
この戦いの最中で何人もの種族達が、同胞達の心が壊れていく様子を見てきた赫破にとっても、ショーマと言う存在は稀に見ない存在。
真っ直ぐすぎるがその真っ直ぐに似合うような神力の大きさ。カンストしているその心の強さ。その心の強さを見て、何にも汚れず、己と言う存在を見失うことのない強さを見て、赫破は納得した。
…………ふざけているような言動はこの際大目に見ていることは言うまでもないが。
デュランは確かに砂の国での出来事をきっかけに一緒に行動しているが、それと同じくらいデュランはショーマに期待している。
ショーマと言う存在が一体どのように成長し、この世界の戦いに貢献できるのかを、成長できるのかを見ようとしているのだと――
少し特殊な師弟関係に見えてしまう様なそれを見て、赫破は半開きになっていたその口を閉じ、ふっと口からその域を零した後口角を僅かに上げる。
上げた後赫破は未だにわんちゃかわんちゃかと騒いでいるデュランとショーマのことを見て (厳密にはショーマしか騒いでいない)、ふっと鼻で笑いながら赫破は言う。
小さく、小さく――自分にしか聞こえないその声で赫破は言った。
「合理的な戦闘計算ではなく、賭けで行動をすることもいいのかもしれん……。もしかすると、この餓鬼が何かを起こすかもしれないからな」
そんな気がしてきた。
そう言って赫破は腕を組み、フーッと鼻で息を吐きながら赫破はデュランとショーマに向けて言葉を発した。
威厳のあるその言葉で、赫破は言ったのだ。
「分かった。お前さん方の言い分も分かった。おかげで悩みが解消できた」
「え? そんなに疑問だったんすか? そんなに俺ってこの場にいるような存在じゃないんすか? まさかの場違いでしたかっ? ねぇっ? ねぇっ!? 聞いてます?」
赫破の言葉を聞いていたショーマは一瞬意味が分からないかのように首を傾げていたが、彼の頭でも次第に理解ができたのかもしれない。
だんだんと驚きのそれと顔になっていき、その顔のした状態でショーマは赫破に詰め寄ろうとした。
言葉通りのことを思いながらショーマは赫破に詰め寄ったが、その詰め寄りを意ともしないように赫破はそのまま肩を竦めながらショーマ達から視線を逸らすように振り向いて、遠くで話をしているハンナ達に視線を向ける。
向けている赫破はショーマの言葉など耳にも入っていない様子で、ショーマの質問に対し何の反応を示さない。その光景を見ていたコーフィンはショーマの肩に優しく手を置き、そのままショーマの背に合わせるように屈むと――
「マァ……、否定デキナイトコロモアル」
と言って、コーフィンは屈んだ状態でショーマの肩に於いていたその手を『とんとん』っと叩く動作をさせて、ショーマの肩を軽くたたくと、その言葉を聞いていたショーマはショックだったのか、それとも言いようのない感情を感じたのか、肩に感じる軽い衝撃を感じながら項垂れる。
がくっという音が聞こえそうなその項垂れをしながら、全身から負と言う名の悲しいオーラを出していると、赫破は踵を返していたその体を再度ショーマ達に向ける。
と言っても、首だけをショーマ達がいるその方向に向けているので、振り向き様の光景となってしまう。そんな状態で腕を組み、そして彼らがいるその方角に視線を向けた状態で赫破ははっきりとした言葉で、今まであった疑念が取り払われたかのような少しだけ晴れた顔をして彼はショーマ達に向けて言った。
「大体ではあるが、お前達の覚悟も理由も理解できた。儂等鬼族のことを煮るなり焼くなりをしないことを知ればそれでいいと儂は思っている。試練が終わるまで居座れ。客間を用意しておく。緑薙と黄稽、他の奴らには――儂から説明をしておく。だがあの悪魔族の男と同胞殺しを働いたあいつの仲間は例外だ。そのまま近くの街で宿を取れ。一緒にいると反吐が出るからな」
まぁ寛ぐことは出来んかもしれんがゆっくりしていけ。
その言葉を言ってから赫破は驚きの顔をしているエド達とコーフィン達、そして満面の笑顔で顔を上げるショーマの顔を確認した後、振り向いたその顔を再度前に向け、そのまま視線の先にいるハンナ達のことを見つめる。
赫破の言葉を聞いていたコーフィンとシルヴィも納得のそれを示しつつ、反論もしないまま彼らは少しだけ顔を俯かせる。
無言を肯定と見なす。その暗黙を成立させるかのような顔で……。
ちょうどなのか、ハンナ達の会話も終わったようで、ハンナとヘルナイトは赫破達がいる場所に向けて視線を向け、自分達のことを見ている赫破のことを見て驚きを目で表現したが、そんな顔を見て赫破は再度頬を緩め、鼻で笑うようなそれを小さく零すと、赫破はハンナ達に向けて言った。
アルダードラからの試練内容――『二週間桜姫様の御守をしてほしい』と言う内容を考慮したうえで、そして彼らの覚悟とこの戦いを続ける理由を聞いたところで、赫破はハンナ達に向けて言った。
それはショーマ達に向けて言い放った言葉と同じ内容で、その言葉を聞いたヘルナイトは、心の緊張はほどけたかのような安堵を吐き、その安堵を聞きながらもハンナは漫画の効果音で言うところの『ぽかーん』とした顔のまま首を傾げ……、小さな声でこんな言葉を呟いた。
「…………えっと、何があったんですか?」
私達がアルダードラさんの話を聞いている間に……、いったい何が……。
なんとも間の抜けた声。なんともこんな場面であれば吐き出されないような変な声は比との声など聞こえない空間によく響き、その声を聞いていた赫破は内心呆れと少し込み上げてきた笑いにふっと鼻で笑い消すと、赫破は再度ハンナのことを見下ろす。
ハンナの言葉を聞いて駆け寄り、先ほどまでのことをこと細やかに、たまに尾ひれはひれがついているような言い回しをしている人もいたが、それでも先ほどあったことをみんなで話してハンナに驚きのそれを零していく。
実はこんなことがあった。それでエドがこんなことを言って――や、実はショーマは――等々……、色んなことをハンナとヘルナイトに言い、そして最終的にここにいることを認めてもらえた。そのことを聞いたハンナは驚きのあまりに目をナヴィの目のように丸くして「えぇっ?」と驚きの声を零す。
その話を聞いていた桜姫もなぜか喜びの顔を浮かべて、小さな声で「やったっ!」と言ってガッツポーズをしたのは言うまでもないが、そんな桜姫のことを横目でちらりと見た後、赫破は桜姫に向けていたその視線を窓の外に向け、窓枠と言う限られた世界から覗く青とフワフワの白の世界を目に焼き付けながら赫破はこんなことを思っていた。
――この輩共は違った。紫刃を殺した輩達はどうなのかはわからん。だがこの輩共は本心で言っている。
――本来であれば信じられないのが鬼族の普通だが……、まぁこれは気まぐれなのかもしれない。少しだけ……、信じて見るか。
――暇潰しとして、な。
そう思いながら赫破は額に収まっている本物の風景を見つめ、額から入り込む優しい風を堪能する。
顔に当たり、髪を揺らし、衣服を揺らすその優しい風を受けながら、さんさんとこの郷を照らす太陽の光を、日差しを感じながら赫破は肩を竦め、これからどうするかと緑薙と黄稽に言う言葉を考える。
どのように言えばあの二人は納得するのか。これから大変になりそうだ。
そんなことを思いながら……。
◆ ◆
時を同じく、鬼の郷の洞窟内――
「…………そんなことが」
「ああ、だがこれは心士卿の勘でもあるのだが」
「その勘が外れたことは滅多にないんだろう? あの大臣は野望のためならばどんなことでもする。己の手を汚さないで、己の野望を完遂する。そんな奴のことだ。きっと意味がある」
「意味……か。その意味が無駄な意味で終わってほしいと思ったことは今日が初めてだ」
「………………………」
鬼の郷の蒼刃がいつもいるその洞窟内ではとある変化が見え始め、その変化を感じながらイェーガー王子はこの郷の実力者蒼刃に話をしていた。
内容としては王子が蒼刃に対して言った言葉のままなのだが、それに付け加えて王子は蒼刃に言った言葉は、心士卿が王子に向けて言った言葉であり、その言葉を聞いた蒼刃は驚きの顔の状態で王子の話を聞き、最初の『…………そんなことが』を口にした。
そして会話が進んで現在に至っていると言う事である。
王子の言葉に対し散々反論や否定のそれを述べて聞こうとしていなかった蒼刃でさえも、流石に危機感と言うものを覚えたのかもしれない。いいや――覚えた。
他種族の嫌う彼であれど、ディドルイレス・ドラグーン大臣と言う存在に対しては別の意味で嫌悪しか抱いていなかった。
竜人族と言う理由での嫌悪――ではなく、彼の人格に蒼刃は嫌悪していた。
他種族のことを他種族と思わない。
現実で言うところの、人を人として見ていない且つ、その存在をただの利用価値、物として見ている。そんな残酷な面に蒼刃は嫌悪しかなかった。
いいや、これは嫌悪ではない。
嫌悪と言う名の布でカモフラージュされた――
恐怖。
何の恐怖なのか、具体例など挙げれないほどの言いようのない恐怖。
これを恐怖と言う名で括ってもいいのかすらわからないが、直感がそう囁いている。いいや――直感が本心を教えてくれる。
これは恐怖なのだと。
その恐怖が最初こそは疑念で固まっていた蒼刃の心であったが、王子の言葉を聞き、心士卿が言った言葉を聞いて、この恐怖はまさに言いようのない恐怖であり、その恐怖が来るのはもうすぐだということを確信した蒼刃。
「………………………」
確信と同時に蒼刃は王子のことを見、その真っ直ぐで、不安と言う色が見えそうなその目を王子に見せながら蒼刃は少しの間唇を噛みしめ考えを巡らせる。
信じていいのか。そんな思考はもうなくなってしまっている。
どころか妹でもある桜姫のことを言われてしまえば、拒否という否定などなくなってしまうのは兄として必然なのだ。
誰よりも、どの同胞よりも、妹が――血の繋がった唯一の肉親、妹が大事なのだ。
妹の危機であれば、そんなこと拒否する理由などない。
だからこそ、彼は考えを巡らせたのだ。
信じていいのかという思考ではなく、ディドルイレスのことについて聞かなければいけないと、蒼刃は思い、そしてそれを行動に移した。
そう――質問をするという行動で。
「分かった。協力に関しては考えて置く。だが今は妹の安全を確保したい。ディドルイレスは今どこにいるんだ?」
「その件に関しては分からない。今も王宮にいるのか、それとももう行動しているのかもわからないんだ」
「分からない? 少しの間王宮にいたんだろう? それなら詮索でも何でも」
「詮索などできなかった。できるような状況ではなかったんだ」
蒼刃は王子に質問を投げかけたが、その質問も結局は無駄と言う結果に終わってしまい、王子の『できなかった』と言う言葉に対し蒼刃は内心怒りを覚え、無意識に握り拳を作ってしまう。
ぎりっという握る音と共に、掌に感じる小さな小さな痛覚が脳を刺激したが、その刺激でさえも忘れてしまうほどのアドレナリンを湧き上がらせ、蒼刃は王子に向けて荒げるような音色で声を上げた。
「……何ができない状況だっ。お前はこの国にとって客人だろう? 少しは騙すようなことをすれば」
「それが、できなかった。いいや――相手はどうやら、上手みたいだ」
「?」
しかし、返って来た王子の言葉に蒼刃は首を傾げるような顔の歪め方をして王子に事を見ると、王子は蒼刃に言った。
上手。
その言葉を詳しくしたような言い方で、王子は蒼刃に伝える。
ディドルイレスは手強く、狡猾で冷酷非道であることを。
「あの大臣は私達に詮索されないように、敢えて時間を作って距離を取っていた。すれ違うことも心の隙として見ているかのように、その隙でさえも出さない慎重さ。そして完全なる計画を遂行するために密かに裏で行動していた執着心。大臣は確実に計画を完遂するために行動をしている。それしか言いようがない。だからこそ――私はお前達の安全を一番に確保したいんだ。これ以上――犠牲を出したくない。その一心で私はここにいる。きっとあの大臣は、鬼族の力を利用して何かをする。そうだ。お前ならわかるはずだ。大臣が利用したい鬼はまさに桜姫――」
桜姫の稀に見ない命と言う名の魔祖――神の領域を侵すであろう『蘇生』の力を使って。




