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PLAY109 不穏接近中①

 赫破達の会話から少し時間を遡り、場所をとある場所に移す。



 ◆     ◆



『鬼ノ郷』を隠すように取り囲んでいる山々。その中で最も標高の高い山の中腹には――洞窟は自然にできたものでもなければ、ダンジョンでもない。


 その洞窟は――人為的に掘られた穴。


 穴の入り口には人為的に作られたことを示すように角材で補強され、その角材も土の湿り気の所為かところ心が黒く変色し、しまいには黴が生えており、その周りの土にはコケや草木が生え、何年も前に作られた様子が窺える。


 そんな洞窟の目の前で洞窟の入り口を見上げ、その視線から脳に刻むように見ている人物がいた。


 見上げた状態で、無言のまま止まって腰に携えている剣の柄に手を添えてその人物はその穴を見て一言言葉を発した。


「いつ見ても、今にも崩れそうなものだな」


 そう言いながらその人物は穴の入り口に視線を向け、そのまま奥へとその眼を向けた後、ゆっくりした動きで歩みを進めて入っていく。


 きっちりとした白い軍服のような服を着て、明るさがある赤い髪を一つの三つ編みにして束ね、首には金色のチョーカー。腰にはサーベル剣を携えている整った顔立ち、エメラルドグリーンの瞳と、両目の下にあるほくろが印象的なその人物――イェーガー王子は服が汚れてしまうことも構わず歩みを進めていく。


 ざっ。ざっ。ざっ――と、歩みを進めていき、予め用意していた光の瘴輝石『照明』を手にして、その光を照らし足元を明るくさせながら歩みを進めていくイェーガー王子。常に綺麗にシテイルであろう白い軍服の服が土の所為で僅かに汚れてしまっている。


 だがそんなことを気にするほどイェーガー王子は神経質ではない。


 いいや、どころか彼は洞窟内に溢れる光景を見て、尚且つ光を浴びてか更に目に入ってしまうその光景を見ているので、そんな汚れなど小さいことになってしまっていた。


 洞窟内は外の自然あふれる光景が嘘のような掘られた感が満載の洞内…………、ではなく、人為的に山の中央に向けて掘られた穴の壁から顔を出すところごころが欠けてしまった青い宝石が土から顔を出している。


 王子が持っていた光の瘴輝石の光を浴びる前までは洞窟の外から光が差し込んでいるかのように淡い光を発しており、まるで海のような色をした青い蛍光灯のように足元を照らすだけだった。


 が――その光も更なる光を浴びて反射をしたのか、青い蛍光灯の世界が別に世界に変わり、王子のエメラルドグリーンの瞳に青いそれを映し込んでいったのだ。


 今までは洞窟内の暗い世界を微かに照らし、洞窟内の地面と壁の凹凸の影を濃くし、その先から零れる青い洞窟内へと導くように光を帯びていたそれが、今となっては別の世界になり、まるで海の中を歩いているような光景が王子の周りに広がっていた。


 何の価値もないその青い石が彩るいつもと違う世界。


 その光景を見ながら王子は歩みを進めていき、周りを見ては土の壁から顔を出している宝石に指先だけで触れ、その透明度を見ながら王子は呟きを零す。


 一人しかいないその世界で彼は零した。


「価値がないと聞いてはいるが……、私からしてみればこれほど綺麗なものに価値をつけることすらおかしいと思ってしまう」


 こんなにも美しいものに価値をつけることなどできん。


 そう言って王子は、光に照らされ更なる青い世界に魅せられながら歩みを進めていく。


 実際、王子が歩いている場所は山の中の洞窟。そんなことも忘れてしまいそうな世界に王子は内心――こんな光景を見ることができるこの郷の鬼達は幸せだな……。と思いながら王子はとある場所に向かって歩みを進めていく。


 進めて、洞窟内でも特に大きな空間が出来上がっている場所で王子は足を止めてその空間を視界に入れる。


 洞窟内でも特に開けている場所で、王子は辺りを見渡す。


 彼がいるその場所は洞窟内の中腹で、空間内に広がったのは青い宝石が壁、土の天井、地面、大きな大石から顔を出している青く、透明度が通路内以上にある宝石の世界のような場所で、その世界の中央には青い宝石の青を吸い取ったかのような小さな源水点の水が溜まっている場所でもあった。


 中腹内の壁からチョロチョロと零れる水が地面に向かって伝い、中央が大きく窪んでいるおかげか、その中腹内の中央に少し深い湖を形成していた。


 青く澄み、透明度があるおかげで水の底まで丸わかりの状態の冷たい湖。その湖を見ながら王子は再度手にしている明かりを前に差し出し、現実世界で言うところの懐中電灯を突き出すように回りを照らし、辺りを見渡す。


「………どこにいるんだ? いつもなら、ここにいるはずなのにな」


 疑念とほんのわずかな動揺の言葉を零しつつも王子は辺りを光で照らし、通路内とは違う蒼の世界……、否、こ海の世界と例えてもおかしくないような空間で視線を色んな方向に向ける。ふとした瞬間に魅入られそうになった王子だが、今はそれどころではないと気持ちを切り替えて再度辺りを見回す。


 先程の感はもうおしまい。


 そう言わんばかりに王子は気を引き締めるように目を細め、周りを照らしながら視線を向けていく。


 まるで――何かを探しているようなそんな目で、


 否。何かではない。


 まるで――()()()()()()()()()()()、そんな視線で辺りを見渡し、光の瘴輝石を持っている手をまだ見ていない場所に向けようとした……、瞬間――


「そんなに探さなくてもいいだろ?」

「!」


 突然王子の右耳から声が聞こえ、王子の鼓膜を揺らし、王子の脳に刺激を与える。まさにダイレクト、突然だったのでそのダイレクトも強大なものとなって入り込むので、王子は驚きの声を零すと同時に魔物が現れたかのような俊敏力で声がした方に視線を向けると――


 その場所にいたのは、頭に三つの角を生やした男性だった。


 青と水色、そして白の三つの角を生やし、青と水色が混ざっているかのような肩まであり、顔を隠せるほど前髪が長い男性は腰まで透明度がある湖に浸かり、上半身を着ていない状態の白い着物の着方をしながらその男性は小さく溜息を零す。上半身の体に刻まれている切り傷の痕が彼の反省を物語っているようにも見え、手首、そして右手に巻きつけられたボロボロの包帯の下から覗く痣も、彼と言う存在を――彼と言う名の戦士が一体どんな戦火を上げたのかが浮き彫りになる。


 そんな男の姿を見た瞬間、王子は驚きの顔を己の右にいた男に向けていたが、すぐに警戒を解くように顔の筋肉を緩め、構えようとしていたその型を解いた後王子はその人物に向けて……、宝石のような白と青のオッドアイの瞳で自分のことを見ているその男性に向けて彼は言う。


「急に声を掛けるな蒼刃(アオハ)。敵襲かと思ったぞ」

「敵だったら即刻殺している。俺の手でな。桜姫かと思っていたが、まさかお前が来るとは思わなかったぞ。朱繋(シュケイ)

「今はイェーガーだ。その名で私のことを呼ばないでほしい」

「………そうか」


 王子は己の右にいた三つの角を持っている男性――蒼刃に向けて警戒を解いた笑みを浮かべて彼に体を向け、視線も彼に向けると、王子の言葉を聞いた蒼刃は呆れると少しだけ不機嫌が混じったような言葉を吐き捨て、いつの間にか手にしていた着物を肩にかけるように羽織ると、王子のことを見てとある言葉を零す。


 王子の名ではない別の名を呼びながら、蒼刃は王子に向けて言うと王子は即答と言わんばかりに否定と訂正の言葉をかける。


 ……正式には、訂正が先で、そのあとで否定の言葉をかけた王子に蒼刃一度無言のまま彼のことを見ていたが、すぐに何かを理解したのか頷き、祖のまま彼は肩に羽織っていた着物を手にしてその場で着替えを始める。


 先ほどまで水に浸かっていたのか、髪の毛に湿り気が帯びており、肌には水滴が付着している、下半身を覆っていた着物も濡れており、はたから見れば寒そうに感じてしまいそうな光景だがそんなことお構いなしに蒼刃は濡れていない上の着物に袖を通し、しっかりと着物を着た後蒼刃は王子に向けて「それで」と言って、彼は王子に質問を投げかけた。


「なんでこんなところに来たんだ?」

「ここに来た理由はただお前と話がしたいだけなんだが……、そんな嫌そうな顔をしないでくれ。正直心が痛む」

「痛んでそのまま帰ってくれたらなお嬉しいがな。ここに来る輩なんて桜姫で十分だ」

「妹がここに来るのか。それは微笑ましい」

「さっさと帰れ」

「帰らない。話を終えるまではここに居座る気だ」

「さっさと帰れ、水責めをして凍らせた後で風の力で粉々にして雪にしてやる」

「そうなる前に話を終えるつもりだ」


 質問をしたかと思えば今度は嫌味、その後は『帰れ』と言うなんとも心にもない言葉。


 蒼刃は王子に向けて毒を吐くようなセリフを吐きながら呆れの溜息を吐き捨てる。しかしその毒に対して王子はめげることはなく、どころか毒に対して立ち向かう様に蒼刃に向けて否定のそれを述べると、蒼刃は帰らない意志を貫いている王子のことを見て、腕を組み方を竦めながら――


「そんな意思を貫くほどここに居座る理由があるのか? もしちんけな理由だったら即刻凍らせるぞ」


 と言って、理由を問い詰めることにした。勿論――半分脅しを含めて。


 もしこの場所に来た理由が幼稚なものであったり、ここに来た理由が重大なことでなければ即刻帰らせるつもりでいた蒼刃は、ぎろりを王子のことを睨みつけるような目つきと低い音色で最後の言葉を付け加えて言うと、王子はふぅっと息を吐き、落ち着きを取り戻すようなそれと相変わらずと言うような顔をして彼は蒼刃のことを見る。


 まるで――()()()()()()()()()()()()、そんな空気を漂わせて……。


 蒼刃のことを見ていた王子は腕を組んで自分のことを待っている彼のことを見て、腰に携えていた件の柄に手を乗せた後彼は言った。


 面と向かい合い、青く光る中腹内の世界を背景にしながら、王子は蒼刃に向けて、この場所に来た理由を簡潔に言い放ったのだ。



「蒼刃――単刀直入に言おう。私達の力になってくれ」



「私達の力? つまり簡潔に言うと……お前達の武器になれと、俺に言っているのか? 俺に戦力となって、死兵となれと言っているのか……?」


 王子の言葉ははっきりとしていて、それでいて偽りを感じさせるものではなかった。


 それは王子の真っ直ぐな顔を見れば一目瞭然なのだが、その顔を見ても蒼刃は眉を顰め、その顰めに暗い影をかけるように彼は鋭い眼光を王子に向けると、低い音色で質問をかける。


 その音色を聞いた王子はすぐに蒼刃が思っていること、彼の感情をいち早く察し、王子自身も蒼刃の殺気交じりの気迫に命の危険を感じた瞬間携えているサーベルに手をかけ、いつでも引き抜けるように万全の準備を施した後、王子は殺気を蒸気機関車の如く噴き上げている蒼刃のことを見て、剣を身ッていない手を己の前に掲げながら――


「いや、そう言う事ではない。話を聞いてくれ」

 

 と言いながら彼は己の掌を蒼刃に見せ、制止をかけるような動作をしながら王子は諫めをかける。まるで暴れている者に対して止めるようにな動作と冷静な言葉に蒼刃は一瞬怒りを爆発させてしまいそうになったが、()()()()()()()()()()()()()()と思い、蒼刃は暗い影を落として平静を取り戻す。


 取り戻した後蒼刃は王子のことを見て、まだ納得は言っていないが今だけは聞いておくというような面持ちを前に出して王子に向けて――


「………わかった。話だけは聞く」


 と、言葉の中に含まれている『だけ』を強調するように蒼刃が言うと、その言葉を聞いた王子も蒼刃と同じように納得できないような怪訝な顔つきを見せ、眉を少しだけ顰めると、ふぅっと息を吐き、一度自分自身も平静を保つために深呼吸をする。


 空間内の自然あふれる空気を肺に一杯溜め、溜めた後で空気の中に含まれる酸素を二酸化炭素に変えて不要な二酸化炭素を外に向けて吐き出す。現実の人にとって最も大事なことを行いつつ、己の感情の変化を平静に変えて王子は蒼刃に向けて「感謝する」と言った後、彼は蒼刃に向けて話す。


 王子にとって重要なことであり、蒼刃からすると聞きたくない内容……、そして、この国が今行おうとしていることを――


「蒼刃――お前も知っていると思うが、この国は今危機的状況に陥っている」

「知っているも何も、俺のようにこんな場所で引き籠っている誰もが知っていることだ。この国に『終焉の瘴気』と言う何かが襲い掛かり、そのせいで魔物が増え、国を守る『八神』が暴れ、自然のバランスも崩れ、挙句の果てには頼みの綱でもあった『12鬼士』が破れた。だろう? 国にとっての切り札でもあった『12鬼士』が破れたことによって、他国へと亡命をする者もいたり、いない神様に今更の祈りを捧げるものなど最悪の状況が続いていることも知っている」

「よく知っているな。いや……、むしろ知らない方がおかしいかもしれないな」

「知らない奴はおめでたい奴だ。この世界が消えるのならば人生を謳歌するという思考回路を持って最後の晩餐を何度も何度も行う。この国はそんな花畑の奴がいなくてよかったと思っている」

「そんな輩は今の時代いないよ。むしろこの状況に順応しようと、国民一人一人が抗い、適応しようとしているのも事実だ」

「諦めただけにも見えるがな」

「………………………その見解もあるかもしれない。が……、その諦めも、適応も抗うことも()()()()()()()()()()


 それは知っているのか?


 そのことを言い放った王子のはっきりとした――偽りなどないその言葉に蒼刃は驚きながらも表面は平静を装う様にはっと息を呑むようなそれにして王子のことを見る。


 王子の言葉……『諦めも、適応も抗うことも終わりに近付いている』と言うその言葉を脳内で復唱した後、蒼刃は乾いた自嘲気味の笑みと共にはっと息を零した後王子に向けて蒼刃は言った。


 肩を竦めるように、自嘲のそれを張り付けた状態で彼は内心の驚きを隠しながら王子に聞き、そして彼は言った。


 自嘲気味に、心なしか笑みを浮かべている自分に気付くことすら遅くなってしまうようなおかしな感覚を抱きながら……。


「何を言っているんだ? 終わりに近付いているって――まさかこの国が滅んでしまうと言いたいのか? だから最後の足掻きとして戦ってほしいって言う事なのか? それだったらお断りする。負け戦に対して戦うくらいならばこの場所で往生した方がいい事。お前は王に対して恩赦があるからそんなことを思うなんてことはないが、俺は鬼族だ。他種族を憎む一族で、俺自身もその考えに対して否定的ではない。むしろこの国が終わりに近付いているならば好都合としか」


「――残念だが、そう言う事ではない」


 蒼刃の言葉に王子はまたもやはっきりとした言葉で発言をした。


 頭を振り、否定のそれをはっきりと述べた王子に蒼刃は隠してきた驚きの顔をやっとと言わんばかりに表に出し、まだ言いたいことがあったにも関わらずその言葉でさえも一瞬で忘れてしまう様な……、一瞬で忘れてしまったかのような衝撃を受けてしまい言葉を失ってしまう。


 失った後も蒼刃は王子のことを見て、固まった笑みのまま王子のことを見ていると、王子は蒼刃の前に徐と言わんばかりにサーベルの上に乗せていたその手を出し、よその手を蒼刃の肩に向けて伸ばすと、王子はその流れに乗りながら蒼刃の肩にその手を乗せる。


 ぽんっ。


 と言う音が空洞内にも僅かだが響き、その音が二人の耳に入り音と反響を拾う。


 空洞内は狭くも広くもない丁度いいくらいの広さでもあったからか、音と反響はすぐに鼓膜を揺らすことをやめてしまい空気と同化して消えていく。


 その音を聞きながら王子は目の間で驚きの顔のまま固まっている蒼刃の瞳をじっと見つめる。


 王子のエメラルドグリーンの瞳と、蒼刃の宝石のような白と青のオッドアイの瞳が合わさり、互いの瞳に目の前の人物の顔が映し出される。


 そのくらい彼等は至近距離でお互いの顔を見ている。勿論王子の手の長さと同じ距離で――だ。


 その距離で王子は驚いたまま何が言いたいのだろうという二つの感情を抱きながらも驚きの方を優先的に顔に出している蒼刃のことを見て、王子は言った。


 はっきりとした言葉で、王子は蒼刃に向けて今の国の状況を告げたのだ。


「蒼刃。お前はこの閉鎖的空間にいる所為で現状と言う者に対して疎いところがある。お前が思うその現状は今となっては()()()()()()()()姿()であり、想像の域になっている」

「……は? 何が言いた」

「現在――『八神』四体が元の『八神』に戻っている。この国に女神と同じ力を持った少女……浄化の力を持った者が現れたおかげで、詠唱に選ばれた者と退魔の鬼士のお陰で、この国は今元の平和の国に戻りつつあると、私は言いたいんだよ」

「――!?」

 

 国の現状――つまり国の現在を聞いた蒼刃は驚きの目で王子のことを見るように見開き、言葉にならないようなそれを零す。


 よく言う鈍器に殴られたような衝撃に襲われたと言う言葉があるが、まさに蒼刃はその衝撃に撃たれ、撃たれると同時に今まで脳裏に写っていた自分の脳内世界が崩壊した状態で、再構築に時間を要し構築できていない脳内処理の状態で、蒼刃は王子に向けて問い詰める。


 荒げる声で、驚きの顔のまま王子の肩を掴みながら彼は王子に聞く。


「詠唱に選ばれた……っ!? あの力を持つにふさわしい奴が現れたのかっ!? ありえないだろっ!」

「ああ、正直ありえないと思っても仕方ないだろう。だが事実だ――女神サリアフィアの力となった力は今……、異国の天族の少女の力となっている。私も会って話をしたが……、確信したよ」


 あの姿を見て、話しをして、一部だが内面を見て――詠唱に選ばれたことに、相応しい存在だと納得した。


 蒼刃の言葉に王子は冷静な言い方で、荒い掴み方をしてきた彼の手首を掴んで優しく引きはがしながら王子は返答をした。


 あの時――アクアロイアで会話をした時のことを思い出しながら王子は蒼刃に偽りなどないことを告げると、その真実を聞いた蒼刃は驚きの顔のまま固まった顔を張りつけ、掴まれたことにも気付いていない様子で蒼刃は言葉を失う。


 まさに衝撃のあまりに固まっていると言っても過言ではないようなその顔で、内心は表面とは正反対の大荒れの混乱状態で彼は脳内に刻まれていく言葉を復唱していく。


 女神と同じ力を持った少女。


 浄化の力。


 退魔の鬼士。


 復唱しながら、特に最後に刻んだ言葉を復唱した後蒼刃は息を呑む声を零し、固まっていたその顔に動きを取り戻すと、掴まれたその手を乱暴に払い、少しだけ距離を取った後王子に更なる質問を投げかけた。


「退魔の、鬼士……、と言う事は……」

「ああ、退魔魔王族で歴代『12鬼士』団長の中で最も最強と言う名を持つにふさわしい……、『ヘルナイト』の名を持つにふさわしい者が、退魔の力――退魔の詠唱を持っている」

「あぁ……、やっぱりか」


 あの男がか……。


 脳裏に映し出される白銀の鎧を身に纏った男の後姿を思い出しながら、蒼刃は少し長い溜息を吐くと同時に頭を掻いて頭を小さく振るう。


 心の中で彼は……、最強でもあり、あの男が本気を出せば……。と思いながら彼は頭を振るい、前髪で隠れてしまったその瞳を伏せ、小さな声で彼は呟いた。王子に聞かれてしまう事に対して気にも留めず――


「あの鬼士が本気になったら……、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。そんな力を持っている奴が」

「そんな言い方をするな」


 王子ははっきりとした言葉で、少しだけ荒げるような音色で蒼刃に向けて言い放った。


 まるで……、否、言葉と共に放たれた本心をぶつけるように王子は蒼刃に向けて言うと、向けられた相手は頭を掻いた状態で王子のことを見て、放たれた言葉を受けたことで呆気に取られてしまったような顔をしていると、王子はそんな彼に向けて続きの言葉を言い放つ。


 つい先ほど放った荒げの声を潜め、冷静さを取り戻しているが、その中に潜む僅かな赤い感情を隠し見せながら王子は蒼刃に向けて言った。


「確かに、お前の言う通り今の『12鬼士』団長は強大な力を持っている。まさに最強と言う名を持つにふさわしく、それと同時に脅威になってもおかしくない。敵に回せば脅威になる。だが今の団長は――|ヘルナイトはそうならない」

「………………」

「ヘルナイトは己の力を、己の才能を十分すぎるほど理解し、その力を制御してこの国を守ろうとしている。この国の者達のために、女神が愛したこの国を壊さないように彼はこの国を守ろうと、救おうとしているんだ。お前のように()()()()()()()()()()()()()()()使()()()()()()()()()()()とはわけが違う」

「っ! この、言わせておけば……! 角がないくせに――!」


 王子は言う。蒼刃に向けて罵りを与えるような言葉を言い放つと、向けられた本人はカッ! と怒りを露にするような目の見開きをし、距離を取った行動を無駄にするように蒼刃は王子に向かって荒い足取りで歩みを進めようとした。


 ずんずんっ! と、大股の歩みをしようとした時……、王子はそんな彼のことを――オッドアイのその目を見つめるように真っ直ぐな目で見つめると、王子ははっきりとした、透き通る様な声でこう言い放った。


 真っ直ぐ――言霊をダイレクトに与えるように、王子は蒼刃に向けて言い放つ。


「角があるからなんだ? 角がないからなんだ? 何もせずにこの場所で延々と他種族に対して憎んでいる奴が偉そうなことを言うな。お前はこの郷の鬼族の中でも群を抜いて力を持っている。私以上に、角を持っていた私以上に強い力を持っていたお前が、なぜ戦おうとしない? まだ憎いからか? 自分達をこんな場所に追い込んだ輩が憎いからか? 死んだとしても仕方がないと言い切れるから、助けない。力など貸さないとでも言いたいのか? 笑わせるな」




 私は――そんな我儘認めない。




 王子は言う。


 荒げもしないがはっきりとして、そして張り上げるようなそんな声量で蒼刃に向けて言うと、蒼刃は王子の言葉を聞きつつも心の中で舌打ちを零し、反論を述べようとした。


 しようとした……、が。しようと思ってもできない。


 否――その思考でさえも崩されてしまう様な、そんな言葉のもつれを感じてしまい、彼は反論できなかった。


 図星を突かれたと言われてもおかしくないが、そんな感覚ではなく、反論をしようと思えばできるような状況でもできない。そんな強制制止をかけられているような感覚に襲われる。


 言いたくても言えないような感覚に、蒼刃は王子のことを見て、奥歯を噛みしめ苛立ちを顔に出しながら思った。


 イェーガー王子は鬼族であるが、『創成王』に拾われて育った存在。


 血は繋がっていないがそれでも王の元で英才教育を受け、王としての資質を磨いてきた異端の鬼族。ただの鬼族ではないイェーガー王子のことを見て、蒼刃は心の舌打ちを零して思った。


 これが、王のもとで育った奴の姿。


 王としての素養を兼ね備えてきた輩の姿。


 鬼であるが彼はもう鬼族ではない。


『創成王』の息子として育った鬼であり鬼族ではない王子。


 自分とは違う。鬼族……。


 そう思いながら蒼刃は王子のことを見て……、否、視ることしかできずにいると、王子はそんな彼に向かって歩みを進め、少しずつ距離を詰めていきながら王子は言う。


 王としての威厳の欠片を見せつけられ、強張り固まっている蒼刃に向けて、彼は冷静で低いその音色で――


「認めないからこそ私は言ったんだ。『私達の力になってくれ』と――」


 と言うと、続きの言葉を歩みをと同時に発していく。少しずつ、本当に少しずつ蒼刃に向けて歩みを進め、近付いて行きながら彼は続きを言う。


「先ほども言ったが『八神』四体が元の『八神』に戻っている。しかしまだ四体の『八神』の浄化をしないといけない。その道中死霊族と『六芒星』の妨害もあるだろう。その妨害でもしものことがあればこの国は永遠の闇に誘われ、絶望の底へと叩き落されてしまう」


 ざっ。ざっ――


 王子は歩みを進める。蒼刃に向かって、迷いのない歩みを進めていきながら……。


「そうなってしまえばこの国は終わりだ。そうならないために、ただ彼らの活躍に期待して腰を下ろしているだけではだめなんだ。彼等のために、我々も立ち上がらなければいけないんだ」


 ざっ。ざっ――


 王子は歩みを進める。蒼刃に向かってどんどん距離を詰めていきながら王子は歩みを進めていくと、王子は最後の言葉を、蒼刃に対して最も言いたかったことを彼は告げた。


 蒼刃との距離を一メートルほど保った状態で歩みを止めて、イェーガー王子は蒼刃に向けて――『私達の力になってくれ』の真意を告げる。


「蒼刃――お前の力が必要なんだ。勿論この国の魔女全員の力も、各国の王の力も、実力のある冒険者の力も必要なんだ。この国を守るために、この国を救うために、浄化の者達の力になるために、力を貸してくれ」


 お前の鬼の力――水、風、氷の三つの魔祖の力を、国のために使ってほしい。


 王子は告げる。


 はっきりとした言葉と音色で、己の思いでもあり、王の思いでもあり、国の思いでもある言葉を驚いたまま王子の瞳を見つめている蒼刃に向けて――


 憎いと思っているこの国のために、その力を使う、救ってほしいと告げて……。

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