PLAY108 ご対面! 鬼の姫――桜姫②
「ねぇなんでっ!? なんでアルダードラは外の世界に何時でも行けるのに私はいけないのっ? 私も行きたい行きたい行きたーい!」
「桜姫様……、いい加減に理解してください。郷の皆様は桜姫様のことを一番に考えて」
「考えるって私はもう子供じゃないんだよっ? もう人間族の年齢で言ったら十七歳で、自分で考えることもできるし危機管理だってできるものっ! だから外に行っても大丈夫なのっ! 子ども扱いしないでってアルダードラからも言ってよ!」
「そのようなことを言いましても、桜姫様はこの鬼族にとっても希望そのものであり、国にとっても貴重と言える存在でもあります。そのようなお方が無防備に外に出ることは」
「やーだーっ! やだやだやだ! やーだーっっ! 外に行きたい外に行きたい外に行きたい外に行きたいっ! そーとーにーいーきーたーいーっっっ!!」
「はぁ、また駄々をこねておるのか。今日はいつも以上の癇癪だな」
障子戸を勢い良く開けてその部屋の光景を見せてくれたアカハさんは、何度目だと言わんばかりの声色と呆れのそれを零しつつ、もう溜息しか出ないと言わんばかりに頭を抱える。
その光景を見た私はおろか、前にいたエドさん達は首を傾げるような仕草をした後、アカハさんの背後から覗き見るようにエドさん達前の位置にいた人達は体を少しだけ曲げてその部屋の光景を見ると、アカハさんとは違うけれど、それでも言葉を失うような困惑のもしゃもしゃを出した。
まさに言葉にできないくらい混乱しています。と言わんばかりのそれを。
その光景を見た私もエドさん達の間から部屋の光景を見ようとエドさんと京平さんの間から隙間を覗き見るようにそっと目を凝らす。
凝らして部屋を見た瞬間、私も言葉を失って茫然としてしまった。
頭の中から言葉というか、今まで考えていたことが一瞬吹き飛んでしまったかのような、そんなバグを引き起こしながらも私の視界に写っていたものが先ほどの会話と、その会話をしている二人の人物だった。
一人の人物はもう察しの通り――緑色の鱗に黒くて傷だらけの角を生やした鎧の竜人騎士……、傷だらけでその鎧の隙間から覗く緑色の鱗と傷、兜からはみ出るように生えているその角が印象的な竜人族、『大気』の魔女アルダードラさん。
そのアルダードラさんは顔が見えない兜の奥でアワアワと汗を出しながら困っているその光景は初めて見る私にとってすれば貴重かもしれないけれど、それよりもっと貴重かもしれない存在が私達の目を引き寄せて、アイドルの様に目を離そうとしなかった。
いや、これは奇異な目で見ていた。呆れと言うよりも、なんか見てはいけないような光景を見てしまったな……。と言う思考が巡ってしまいそうな顔と目で見ていた。のほうがいいだろう。
だって……、だって、今私の視界に入ったその存在は、私より少し背が高いかもしれないような身長の人で、その額からは白交じりの桃色の角を二本生やし、朱色の目、桃色の腰まであるゆるふわの長髪にその色に見合った小さな花柄の着物を着た人だった。
まるで作り物かと思ってしまうほど可愛らしい女の子……、少女の方がいいのかなって思ってしまうほどかわいい人が、私達の目の前で、アルダードラさんのことを困らせていた。
私より少し高い背丈で、自分の口で『十七歳です』と言っていたのに、畳の上で手足をこれでもかとばたつかせて暴れていたのだから。
それは黙るほか選択肢なんてない。
いや……、これは、私自身初めて見たかもしれない。
十七歳の女の子が畳の上で小さい子供が駄々をこねるようなことをしている光景は……、初めてかもしれない。
あ、エドさんと京平さん、シルヴィさんとコーフィンさんがもう思考が一瞬消滅してしまったかのような消失のもしゃもしゃを放っている……。言葉にしても茫然しかに会わないようなそれを放っている……。
しょーちゃんは私達と言う壁によって見えていないらしく、背後で「えー? 何かあったんすかーっ?」と良いながらとんとんっと足音を立てている。きっと飛び跳ねているのだろうけど、そんなしょーちゃんの声をかき消すようにその存在は私達の視線を奪った。
未だに『いやだいやだ!』と言いながら手足をこれでもかとばたつかせて……。
「絶対の外に世界に行きたいっ! 兄様に言われたとしても、皆に言われたとしても絶対に行くー! 外の世界に行きたいー!」
お外へ行きたいと……、まるでどこか遠くに行って旅行に行きたいと駄々をこねている子供の様に……、その子はばたばたと暴れてみんなの視線を集め、アルダードラさんを困らせて、そして……。
「――桜姫、いい加減にしろっ!」
唐突に聞こえたアカハさんの怒号。
その声を聞いた私達は茫然として頭の中を真っ白のクリアにされてしまった世界に彩を落とされ、その色どりと同時に現実に戻って驚きの震えを起こす私。
思わずびくっと肩を震わせて、全身に一瞬だけ汗が噴き出たような驚きを出すと、背後でしょーちゃんの「おわっ!」と言う驚きの声が鼓膜を揺らす。
しょーちゃんの声と同時に聞こえた「ひゃっ!」と言う可愛らしい声が同時に鼓膜を揺らすと、今まで手足をばたつかせていた女の子……、女性? どっちが正しいのかわからないけれど、とりあえず女の子と言う事にしておくとして……。
女の子――どうやらオウヒと言う名前らしく、オウヒさんは驚きながらガバリと起き上がり、そして声がする方に素早く視線を向けると……。
「なんだ。赫破か。どうしたの?」
「どうしたもこうしたもない。また我儘を言って困らせていたのか? いい加減諦めろ桜姫」
驚きの顔などどこへやら――オウヒさんはすっと目を細めて、何かを悟ったかのようなジト目をしながらアカハさんのことを見上げる。そして伸ばしていた足を曲げて、足を揃えて女の子座りをしながらオウヒさんは首を傾げて聞く。
その言葉を聞いてアカハさんは呆れるということを通り越して怒りの音色でその部屋に入り、そしてずんずんっとオウヒさんに歩み寄りながら言葉の続きを口にする。
「外の世界に憧れを抱くことは決してしてはいけないと、緑薙や黄稽にも散々言われただろう? 聞き分けることができんのか?」
「聞き分けたくないし、私は絶対に外の世界に行くっ! 兄様にもきつく怒られたけど、それでも行くもんっ!」
「聞き分けができん奴に育ったか……。全く、いいか桜姫」
しかしアカハさんの叱りを無視……、じゃないな。なんだか呆れているような唇の尖らせ方をして、頬を膨らませながらオウヒさんはプイッとそっぽを向いてしまう。
オウヒさんのその行動を見てアカハさんは再度大きく溜息を吐き、それと同時に頭を抱えて呆れるような言葉を吐き捨てると、再度オウヒさんのことを見下ろしてアカハさんは懇々と言葉を伝える。
くだくだ言っているような言葉の数々なのに、その言葉をまるで聞いていないかのようにそっぽを向いた状態で両手で耳を塞いでしまっているオウヒさん。
はたから見るとこの光景は、説教を聞きたくない女のこの行動で、そんな女の子に懇々と注意と言う名の説教を行っているおじいちゃんにしか見えない。
そんな光景を見ていた私は先ほどまで感じていた重苦しい記憶が一瞬吹き飛んでしまう様な状況の一片に驚きを隠せず、控えめに引きつったそれを浮かべることしかできずにいた。本当に、どんな顔をすればいいのかわからない。そんな心の表れが顔に出そうになったけど、その心をぐっと心の中に無理矢理しまい込む。
しまい込んだ後、私は隣にいるヘルナイトさんのことを見上げて、ヘルナイトさんは一体どんな心境でいるんだろうと思いながら、ヘルナイトさんの顔を観察しようとした。
まだアカハさんにオウヒさんに向けて懇々とお叱りの言葉を与えている最中で、これは早々終わる気配はないと思った私は、その時間を利用して近くにいて、まだその顔を見ていないヘルナイトさんのことを見ようと上を見上げて、そして確認をしようとした時……。
私は、察してしまった。
いつも凛としていて、そして優しい心を持っているけれどとても強い存在のヘルナイトさんが、いつも動じないような面持ちをしているヘルナイトさんの顔に珍しいそれが写り込んでしまい、というか、もしゃもしゃを感じた瞬間、私は察してしまった。
ヘルナイトさんもオウヒさんの行動を見て、そして姿を見て困惑していたのだ。
エドさん達と同じように、茫然とした面持ちで、言葉を失っている状態でヘルナイトさんはその光景を見ていた。思い出したような仕草もしないで、エドさん達と同じように言葉も出ないと言って庫過言ではないような面持ちでヘルナイトさんは見ていた。
心なしか、珍しい光景だと思ったのは、嘘ではない。
正直ヘルナイトさん自身もこんなに困惑するとは思っても見なかった。こんな風に顔を変え毛無言になる光景は大方記憶を思い出したそれ一択なので、その一択が消滅したことに私は驚きを隠せなかったし、ヘルナイトさんもこんな顔をするんだという驚きもあって、新鮮さを感じたのも事実。
ヘルナイトさんに一回声を掛ける。
とんとんっと鎧の脇の所を指で小突くけど、その小突きにも気付いていないのか、ヘルナイトさんは茫然としている。心なしか首の辺りから微かに金属音が擦れる音が聞こえるけど、それはどうやら困惑の際に生じる音みたいだ。
引き攣る時頬に筋肉が鎧の内側に当たって放たれる音だと思うのだけど、その音を聞いて、そして現在進行形で固まってしまっているヘルナイトさんのことを見上げた私は、小突くことをやめてこう思った。
――ヘルナイトさんも、こんな顔するんだなぁ……。
何故なのだろうか……。
この時に私はヘルナイトさんの意外な顔を見ることができて、少しだけ意外な側面と言う弱みを習得したような優越感を感じてしまった。
優越感と言っても『こんな顔をするんだー』ッてきな感じで、そんな損得とかこれを使って利用するとかそんなこと一ミリも考えていない。
ただ――意外な側面を見ることができてラッキーだ。そんなことを思ってしまっただけ。
それ以上もそれ以下もない。
ただ、見れてラッキー。それだけのことで、私からしてみれば大きな落とし物の様に感じられた瞬間だった。
そんなことを考えていると……、状況が動き出したようだ。
「もうわかったってばっ! 赫破もうわかったよ! 何度も何度も外の世界は危険だってことは耳に穴が開くほど聞いたし、脳味噌のしわの大半がそれで満たされるくらい聞いたからもう言わないで―っ!」
「何が『言わないで』だっ! 何度叱ったがお前は聞き入れることをしないだろうっ!? なぜ理解しようとしないんだっ! いい加減諦めろっ! 外の世界は鬼族にとって危険なんだぞっ!」
「危険でも私は一生をこの郷で全うして死ぬなんて嫌だっ! お母さまやおばあさまの様に何も知らないで郷の中にいるなんて嫌だっ! 外に行って遊びたいー! 郷にはないものを買って買い食いしたいー! 珍しいものを見たい―っ!」
「桜姫……、紫知から聞いていないのか? 何も学んでいないのか? 外の世界は危ないことだらけなんだ。そんな危ない世界に無知で世間知らずのお前が入ってしまうと、誰もお前のことを助けることができなくなるかもしれん。そのことを踏まえてお前はこの郷で生きるほか選択肢は」
「そんな選択肢いらないっ! みんなただ外が怖いから出たくないだけでしょ? そんなのただの臆病も………………………………………………」
「? 桜姫?」
状況が動き出そうとしている最中、アカハさんとオウヒさんの口論がデッドヒートしかけていて、なんだか怒りが加速して行くような、まだ長くなりそうだなと思っていた矢先、オウヒさんはイライラしているのか頬を膨らませた状態でそっぽを向き、私達にその顔を見せてパチッと目を開けた瞬間――オウヒさんは目を点にしていた。
その視線を私達に向けて――陶器のように整ったその顔を私達に見せて……、だ。
オウヒさんのその光景を見て今まで叱っていたアカハさんは首を傾げながらオウヒさんのことを見ていたけれど、きっとアカハさん以上に驚いて困惑して、本当なら首を傾げたいのは私達の方だ。そう私は思ってしまった。
なにせ――オウヒさんのもしゃもしゃはさっきまでと違うもしゃもしゃで包まれていて、そのもしゃもしゃは私達のことを掴もうとしていたのだ。
逃がさない。
その五文字が無意識の世界を占拠しているような、そんな目ともしゃもしゃで。
オウヒさんの視線はまさに陶器のようで、なんだかずっとその顔を見ていたいと思ってしまいそうなんだけど、そんな可愛らしさに比例するように我儘で正直で、喜怒哀楽もしっかりしている。この郷の鬼族とは全然違う分類の存在だと今は思っている。それが変わるかもしれないし、変わらないかもしれないけれど、それでもオウヒさんを見て思うことは二つある。
オウヒさんを見て、確信することが二つ。
一つ――わがままで自分の意思を絶対曲げたくない頑固さがあること。
『外に出たい』と言う簡単に出れるのではないかと言う疑問はあるけれど、オウヒさんはアカハさんの叱りを受けてもその意思を曲げるなんてことはしない。どころか相手が折れるまでその反論をする。そんな頑固さで彼女は今までこんなことをしてきたのだろう。
多分……。
そしてもう一つはたった今わかったことであり、その視線と『逃がさない』と言わんばかりのもしゃもしゃを見て、オレンジや黄色と言った興奮冷め止まぬという色を出しているそれを見て確信をした。
この人は、オウヒさんは――鬼族とアルダードラさん以外の種族を一度も見たことがないんだ。と……。
「わぁーっ! 見たことがない人達だー! 角なしで鱗無しの人達だー!」
「――っ!?」
私達のことをじっと脳に刻むように凝視していたオウヒさんは、脳内の読み込みを完了したのかパッと顔を喜怒哀楽の喜の表情――ぱぁっと嬉々とした顔を浮かべた瞬間オウヒさんはその場ですっと立ち上がる。
顔から見ても興奮冷め止まぬという顔を浮かべながらタタタッと私に向かって駆けより、祖のまま私の頬に両の手を添えて顔を瑞っと近付けてきた。
至近距離で見たいという願望がむき出しのそれを私に見せつけて、キラキラしているその顔を私に焼き付けながらオウヒさんは「へぁー」と言う歓喜の声を出しながら私の顔を見つめた。
両の手で添えて私の頬を『ムニムニ』と揉んだり、右手を頬から離して私の額をべたべたと触りながら、オウヒさんはキラキラして興奮冷め止まぬ面持ちでこう口にした。
「わぁー! すごいすごいっ! 本当に他の種族は額に角なんてないんだー! おでこつるつるで八重歯も全然みじかーいっ! 鬼族以外の種族で金色の目に青の髪の毛って言う事は……、もしかして紫知が言っていたテンゾクって言う種族なのっ? ねぇねぇ背中に白い翼とかある? 頭に金色のわっかってあるの? 今消しているの? どうやって飛んでいるの?」
「あ、あが……。あぁう」
オウヒさんは私の頬をべたべたと触り、額もべたべたと触りながら興奮冷め止まぬ面持ちで私のことを観察しながら質問責めをしてきた。
そのキラキラした目はまさに観察……、じゃない。その域を超えるような異常なまでの知識欲。物珍しいものを初めて見たという無知の光景。
むにむに。ぐにぐに。ぺたぺたべたべた。と触られ、抓られ、そしてじろじろと見られながら私はオウヒさんのされるがままになりながら思った。
何も答えることができない状態で、まるでおもちゃのように触られながら……。
「あーっ! 私よりも大きな人っ! でもアルダードラよりは小さいんだ! この口につけられている固いものって何? 外すことができる? それともできないの? あなたは何族なの? すごく背が高くて見上げてしまうほど大きい! わーっ! 捕まると大きい視線がわかる―っ!」
「え? ちょっとまって……! いきなり首に腕を巻き付けないで、そのままがっしり足を腰に回さないでっ! ホールドしないでっ! 背中からじゃなくて正面となると本当にあぶないあぶないっ! 女の子がそんなことしてはいけなあわわわわっ!」
おもちゃのように触られたと思ったら、その感覚もすぐに消えて、今度はエドさんに視線を向けるとエドさんに向かってオウヒさんは飛び上がってしがみつき、エドさんの鉄のマスクや服、顔に髪の毛などを触りながら身長の高さを楽しみつつエドさんのことを困らせ……。
「こっちの人は何か変な顔っ! なんか軒下にいる小さな『チロチロ動物』に似ているっ! 髪の毛も長ーいっ! 後変な服だ!」
「俺には抱き着かんのかいっ! 俺に至っては客観的なご感想だべっ! てかてめーが言うそれってトカゲだろっ! 畜生ー抱」
「京平それ以上はもうやめておいた方がいいよ」
京平さんのことを見た瞬間エドさんのように抱き着こうとせず、ただ客観的な感想を述べながらオウヒさんが言うと、その言葉と行動に不服の申し立てと言わんばかりに反論を泣きながら述べる京平さん。でも最後まで言えないまま、エドさんに遮られてしまったその光景は、まさに可哀そうなそれで……。
「この人は鳥なのっ? もしかして前に教わった鳥人族なのあなた! 何がごつごつしていて冷たい変な嘴をしているけれどなんで開かないの? この口は開かないの? この口でどうやってご飯を食べているの? 翼はどこ? この黒い布の中? 手に生えているの? どこに翼があるの?」
「キャーッ! コノ子ヤバイヨーッ! コノママジャ良カラヌコトニナルーッ!」
「何をしているんだ貴様は」
京平さんに視線を向けていたのもたった数秒の間。そのあとすぐに視線をコーフィンさんに変えたオウヒさんはコーフィンさんのマスクを見て鳥人族と間違えているらしく、マントの中に手を差し入れながらもそもそとして質問責めをしていたけれど、その返答に答えることができない……じゃない。なんかやばいことになっているのでオウヒさんの暴走を止めながら危険を知らせているコーフィンさん。そんな光景を見て呆れた顔で溜息を吐くシルヴィさんだけど……。
「あなたは人間族? 角生えていない! そして硬そうな服装! これって『どれす』って言う服なんでしょ? なんか固いものが縫い付けられているし、こんな思い服を着て疲れないの? モシカシテ貴方は人間族の中でも最も強い人間族なのっ? ねぇあなたはどんな人間族?」
「おいやめろっ。この装備は触ると怪我をする使用になっているんだぞ? 触るなやめろ」
「えぇーっ!? 今着ている服は触ると怪我するの? どんなふうに怪我をするの? どんなふうにいたい感覚を味わうの? 教えて教えてっ!」
「教えないっ! 離れろっ!」
そんなシルヴィさんに対してもオウヒさんは即座と言わんばかりの行動でコーフィンさんから離れ、彼女に近付く。近付くと同時にシルヴィさんの服のスカートの装甲に向けて指先を向け、その状態で『ちょんちょん』っと突こうとしているけれど、そんなオウヒさんの行動を阻害……、ううん。危害を与えないようにシルヴィさんは後ずさりをして距離を取りながら口論 (と言う名の説得)をしているのだけど、その言葉も虚しく、知識欲の塊とかしているオウヒさんは駆け寄りながら指の突きを行おうとしている。
本当に自分で体験しないと気が済まないようなオウヒさんのその光景にシルヴィさんは困惑と焦りを顔に出しながら後ずさりをして行く。
延々と『教えて』と、『教えない』が続くその会話をしながら――
だけど……、その会話にも終わりが訪れ、その原因を作った人物場背後から顔を出して……。
「おーい! なにしてんすかー?」
と聞くと、その声を聞いた誰もが背後にいた人物、つまりは最後尾にいたしょーちゃんに向けてみんなが視線を向けた。勿論オウヒさんもしょーちゃんのことを見て、だ。
瞬間――しょーちゃんも餌食となってしまう。
「えぇっ!? この黒い模様はもしかして……、悪魔族の証? すごーい耳もくろーい! 悪魔って言うくらいだから私と同じだけど怖い角が生えていると思ったけど角ないんだーっ!」
「え? 誰? え?」
「ねぇねぇあなたたち悪魔族って斬られても死なないんでしょ? どこを切っても再生するんでしょ? 見せて見せて! 腕が生えるその光景見せて! どんな風ににょきにょきーって生えるか見てみたいから早く斬ってっ!」
「何簡単にバイオレンス発言してんのこの人! コワイコワイサイコパス美少女が俺に向けて笑顔で心でって言っているんですけど? 本当に『ちょっとあんパン買ってこいや』的な簡単発言していますけど、斬られる俺滅茶苦茶死にまくりじゃんっ! 後そんなこと絶対にしたくないっ! それは戦闘だけにしてほしいですお願いします死にたくないですお願いしますっ!」
…………しょーちゃんの言う通り、本当にバイオレンス発言と言えるようなことをキラキラした目で言うオウヒさんに、この時初めて会ったしょーちゃんは己の命の危機を感じ全力の否定のそれを吐いて離れようとする。
現在オウヒさんはしょーちゃんの耳を掴み、腕を掴んで逃がさないようにしているの。その手から逃れようと必死になって逃げようしているけど、知識欲が暴走しているのかオウヒさんは力加減なんて考えていない全力でしょーちゃんのことを拘束しているので、逃れることができないしょーちゃんは絶叫と言わんばかりの声と顔を見せながら逃げようとしていた。
今まで餌食になってしまったみんなは思っただろう……。最初に餌食になった私もそんなしょーちゃんのことを見て、心の中で思ったのだ。目を見ればわかるけど、きっとみんな思っている。思っていなくてもきっと誰もが思うかもしれない。
――しょーちゃん、ごめん。そのまま引きつけて。
そう思って私はほっと疲れを息にして吐き捨てると、その光景を見ていたヘルナイトさんは私の背中に手を添えて小さな声で「今は休め」と言ってくれた。その擦りを感じて私はヘルナイトさんのことを見上げてへらりとした顔でお礼を述べると……。
「武神卿様方――申し訳ございません」
「「!」」
私達の近くでアルダードラさんが小さな声で謝罪の声を述べてきた。本当に申し訳なさそうなその音色に反応して、私は驚きの目でアルダードラさんの声がした方に視線を向けると、アルダードラさんは甲冑の中でもわかる……じゃないな。私の視点で見ると申し訳ないような暗いもしゃもしゃを出していて、その状態でアルダードラさんは私達のことを見て (私のことは見降ろして)言葉を零す。
「桜姫様はこの鬼の郷から出たことがない身であるが故、鬼族以外の種族を見るのは……、いいえ――竜人族と鬼族以外の種族を見るのは初めてなのです。書物や私や教育係の紫知様から聞いた話、知識しか知りませんので、実物を見たという衝撃が大きかったのでしょう。興奮冷め止まない面持ちで、あんなにも笑っている姿を見たのは初めてです」
「なるほど……そう言う事ですか。私には来なかったので、魔王族のことを知っていたのかと思っていたのですが」
「きっと私と同じと思っていたのでしょう。甲冑で顔を隠していることも然りですが、桜姫様の頭の中では鎧を着ている人物は竜人族一択の思考なのかと……」
「………………………」
アルダードラさんとヘルナイトさんの話を聞いていた私はその話を聞きながら頭の片隅で……、随分偏っている思考だな。と思ってしまった。でもそれと同時に、今まで甲冑のアルダードラさんをみていて、他の一族を見たことがないのならば……鎧を着ている人=竜人族と言う思考になってしまうのも……、頷けるのかな……? と頭の中で一つの可能性を想像してしまう。
そんなことあるかもしれないけれど、ないかもしれない。
そんなことを思っていると、アルダードラさんは私達のことを見て、唐突と言わんばかりにアルダードラさんは言った。横目でオウヒさんのことを見ながら、アルダードラさんは言う。
「そんな桜姫のお世話係として私は今ここにいるのですが、急遽と言いますか、実は早急に王宮に戻らないといけないのです」
「?」
「王宮に?」
アルダードラさんの言葉に私とヘルナイトさんは声に疑問のそれが出てしまい、その声のままヘルナイトさんはアルダードラさんに聞くと、アルダードラさんは「はい」と頷き、続けて私達に向けて言った。
「ざっと見積もっても、二週間は戻れません。クロゥディグルも王宮に戻りますので、それまで皆様はこの場所に待機することになり、あなた方にも重荷を背負わせることになります」
「………………………」
「二週間……、ですか。この場所に滞在することは良いのですが、あなたは鬼の姫様の御守役だと聞きましたが、いない二週間は誰が」
「それをあなた方に担ってほしいのです――二週間の間」
「え??」
アルダードラさんははっきりとした言葉で、私達に向けて言った。
御守役を担ってほしいと。二週間担ってほしいと。
そうはっきりと言われてしまい、ヘルナイトさんも理解が追い付かないのか無言のままアルダードラさんのことを見て、私自身も驚きの目で素っ頓狂な『え』の声を上げてしまう。
一瞬――本当に一瞬だけ言っている意味が分からなかったけど、その意味が分からないもだんだんとだけど理解できるようになっていき、そして言葉を理解した瞬間、ようやくわかった。
アルダードラさんが言いたいことが何なのかを――私は理解すると、そんな私達のことを見てアルダードラさんははっきりとした言葉で言った。
「私が課す試練は……『二週間桜姫様の御守をしてほしい』です。それが完了すれば、試練は達成となります」




