PLAY107 複雑な感情~憎しみ編~②
「っ!」
また突然起きた瞬間的な頭痛。
その頭痛を感じた瞬間赫破は唸るような声を零すと同時に頭に手を添え、その場で膝を付いてしまう。
胸倉を掴んでいた京平も、膝を付きそうになった赫破のことを見て驚きのあまりに手を放してしまうほどその行動は突然で、赫破自身もこの事態は想定していなかった。
赫破が頭の激痛を感じて回想していた時、激痛に感じていた頭痛も次第に鈍痛に変わり、赫破はその鈍痛の中記憶の中に現れた懐かしいが覚えのない記憶と対面していた。
それは鈍痛の頭痛を感じていても仕事ができるような痛みで、その痛みの中赫破は脳裏に甦った見たことがないが懐かしいその記憶を見ていた。
見たことがないのになぜかその展開が手に取る様に予想でき、それと同時に二度目に感じる衝撃を感じながら見たことがないのになぜか知っているその記憶を見ていたが、記憶の映像は切れると同時に赫破に襲い掛かったのが――鈍痛になっていた激痛の再発。
群発頭痛が再発……、否――それ以上に激痛が赫破のことを襲い、その激痛を感じ、感じたことのないその激痛を感じた赫破はそのまま床に膝を付けてしまう。
がくんっ! とその場で座り込むように立ち膝をして、その状態で頭を抱えて……。
「あ? おいおっさん!? え? おっさんっ!?」
「アカハさんっ!? 京平があんなことをしたから! 胸ぐら掴んで頭突きかましたからっ」
「俺そんな強くやってねーべっ! というかこの頭突きの被害は俺っ! この血も俺の額から流れているんだよっ! おっさんは無傷! つーかマジで痛かったの俺! 石頭でマジびっくりなんだべっ!」
「おおおっ!? おっさん大丈夫っすかっ!? もしかして腰の爆弾が」
「しょーちゃん……。今は真面目になって」
「え? 俺スンゲー真面目なんですけど? はなっぺなんでそんな冷たい目なの? やめて俺真面目なんですぅ!」
じくじく、ずくずくと頭の中で警鐘を鳴らしているかのように感じる激痛の中、微かに聴覚が拾うその声の主達は赫破の元に駆け寄りながら焦りのそれを零している。
最初は京平も赫破の行動には驚きを隠せず、慌てて赫破の元に駆け寄っている。先ほどまでの怒りはどこへやら。まさにそのような言葉が正しいようなそれであるが、赫破の姿を見て京平と共に駆け寄ったエドはこうなったのは京平だと思い違いをしてしまい、京平に向けて焦りと怒りが混じった声で荒げる。
まさに『京平が何かをしたせいでこうなったのでは!?』と言うそれはわかりやすく言葉で体現して――
しかし京平はそんなエドの疑いを晴らすように焦りながら怒り交じりに荒げの声を滑らせる。額から現在進行形で『どろどろ』と真っ赤なそれが流れているその箇所を指さしながら京平はエドに弁解と訂正を荒げる声で発言する。
そんな二人の会話の傍らではショーマが慌てた様子で赫破の周りで焦りの動作をしながら辺りを見回している。
効果音で表すと『おろおろ』や、『あわわわ』が似合うようなたじろぎで焦っているショーマの発言に、ハンナは冷静に突っ込みまがいの発言を零す。
確かに、ショーマの発言を聞いてしまうとふざけているのではと思ってしまう様な発言でもあり、その言葉を聞いてしまえば誰でも突っ込みを零してしまうであろう。
悪ふざけの様に聞こえてしまうその発言に強い訂正を求めるその言葉を。
そのことに対して珍しく反応し、その反応と同時に本人も驚いてしまうような冷たいそれを零した瞬間、ショーマは驚きの顔でハンナのことを見て焦りのそれとワタワタしているその動作で困惑のそれを表す。
何度も何度も『俺は真面目に発言しています』を連呼して――
周りはまさに雑音まがいに聞こえてしまう音の数々。
その音は激痛と化している頭痛を発症している赫破からすれば頭に響いてしまい、更なる激痛とストレスを感じてしまうだろう。だがこの時の赫破は、そんなことを考える暇などなかった。
どころか痛みを優先にするあまり、その声を、会話を『声』として捉えることができず、『雑音』としても捉えることができなかった。
現在の赫破からして他者の声は『ただの微かな音』。雑音でもなければ声と認識することなどできず、ただただ赫破は頭の中から生じる激痛に耐えることしかできなかった。
激痛が聴覚を、脳の理解を阻害するように、電波で言うところのジャミングを激痛は担っているように、赫破はその激痛に耐えることしかできなかった。
激痛の所為で言葉も発することができず、考えもまとまらない。そんな気持ちを抱きながら。
「っ!」
ずくずくずくっ! じくじくじくっ!
頭の内部から攻撃されているかのような絶え間ない頭痛と言う攻撃。今まで感じたことがないその激痛を感じ、赫破は心の中で、聴覚で僅かに拾うことができたハンナ達の声を聞きながらこんなことを思っていた。
否――思い出していた。
あの時、己の記憶の中に出てきた懐かしいが記憶にないその映像を。
――あの時の言葉、魔獣交じりの小僧の言葉と同じ……。
――儂はあの言葉を聞いて思い出したと言うのか? そして儂は、あの記憶の中の儂は、ひどいことをしていたのか?
――儂は菫……、と言う小娘に対して何かやってはいけないことをしてしまったのか?
――いいや……、今はそんなことを考えている場合ではない。あの時、あの時聞いた菫と言う小娘と魔獣交じりの小僧が言い放った言葉、同じだった。
――まるで儂のことを、今と昔の儂を責めるような、そんな言葉を二度も聞くとは思っても見なかった。しかも全く同じ……、とまでは言えんが、それでも同じことを言われるとは、思っても見なかった。
赫破は思い出す。
激痛に苛まれながらも、その激痛と共にフラッシュバックするその映像と、先程 (長い間記憶の世界を彷徨っているような情景であったが、現実はそんなに時間が経過していないので『先程』と言う言葉がこの場合正しい)京平が言い放ったその言葉を重ねるように――
……己の見たことも感じたこともない記憶から出てきた菫と言う女性を右半分で、京平を左半分で見るように――半分半分見比べるような情景で重ねながら、赫破は思った。
――最近の儂は、おかしい事ばかり考えていた。
――自分でも思考が混濁しているかのように、今までの考えに揺れが生じていることは知っていた。自分のことだからな。そんなこと考えずとも理解できる。
――いつぞやか、紫刃に言われたことが引っかかっていたのかと思っていた。そしてそんな丸くなってしまった紫刃の言葉に、感化されてしまったのかと今までは思っていた。
――紫刃の言う……『夢で見た』という情景の話に、儂は感化されてしまったのかもしれないと思っていた。
――紫刃は言っていた。『もしあの時の平和がずっと続いていれば、お前とずっとこんなことをしていられるんじゃないか。もしかすると、お前達がそんな性格じゃなかったのかもなと……、そんなことを思っただけだ。そんな穏やかな世界があったら、己達は違う人生を送っていたのかもしれない。そして、この恨みがやっと燃え尽きた時、己達は一体どんな姿をしているのか』……。そんなもう一つの世界があるかのような言葉に儂は最初呆れていた。
――そんなことありえないと思っていた。そんな空想物語があるのかと思っていた。実際ないと思っていたのが儂の感情。儂の正直な感情だった。
――日常などとっくの昔に壊されてしまった儂等にとってすれば苛立つ話でもあり、儂は紫刃のそんな言葉に苛立ちすら感じていた。だからこそ心底呆れ、そしてそんな紫刃の日和に儂は思ったんだ。
――日和ることなどせん。と……。
――しかし。
しかし――そんな言葉を思うと同時に、赫破はじくじくとくる頭の頭痛が少しだけ鈍痛へと変わっていくその感覚を感じると同時に、赫破はそっと目を開ける。
俯いている状態であったと同時に激痛に耐えていたせいか、瞼の開閉に違和感と言う名の遅さを感じ、視界に広がる世界が正常になるのに時間を要してしまうが、それでも世界が正常にその目に写り込んだ瞬間、赫破は小さく、小さく息を吐く。
ハンナ達でさえも気付かないようなその吐息を。
その吐息を履くと同時に赫破は視界に入る情景の情報を脳に刻む。
視界に広がった光景は鬼族の屋敷の床と、左下の端で床に手を付いている己の左手――よく見る自分の手の甲と指先で、老いたせいでしわくちゃになった見慣れた尾の手の手がその端に写り込む。
そんな視界の端に写り込んだ己の手よりも自己主張を行っている視界一杯に広がっているそれ。
いいや……、実際視界一杯に広がる様に己の膝下、足元に広がり落ちている透明の液体。
その液体を見た時赫破は驚きのそれを零しそうになり、この液体は何なのだろうと思ってしまったが、その疑問はすぐに解消された。
己の足元に広がっているそれは、己の頬を伝い、顎を伝って重力に従って落ちていくものであり、その液体が床に『ぱたり……』と落ちた瞬間、赫破はその液体の正体が自分の汗であり、それほど自分は激痛に耐えていたのかと理解し、それと同時に……彼は理解する。
自分はこんなになるまで激痛に耐えていた。と言う事か、道理で若い者たちがこんなにも焦っているのか。と、この時赫破は納得のそれを心の中で零した。
そして、障害となっていた激痛が鈍痛へと変わり、少しだけ思考の整理がついたと同時に赫破は思った。今まで思考できなかったその時間を返上するように、彼は脳の思考を急速と言わんばかりに稼働させる。
ぐるぐると、今までのことを思い出しつつ、つい最近のことまでも思い出しながら赫破は思考を巡らせ続け、そして思った。
『しかし』
その言葉に続く言葉を――彼は思った。
――今なら、紫刃が思っていた思考が分かる様な、そんな気がする。
そう赫破は思い、その後で赫破はその言葉に続けるように思考を進めていく。
――儂等が今まで歩んできた半生はそんな言葉では済まされんほどの人生であり、常に命を狙われ、見つかった時点で死を覚悟しなければいけない気持ちを常に張り詰めた。それは儂等の同胞を金目当てで殺し、命以上に大切な角を圧し折るという冒涜をした輩達達から逃げて、生き延びるために必要なものだったからだ。
――それと同時に必要なのは、同胞を殺した……。角を圧し折り、潤いを手に入れようとした輩達への復讐を完遂するための粘着。いいや、復讐心と言った方が簡単か……。
その二つだけを胸に、赫破達は今まで生きてきた。そして子孫を残して生きてきた。
ここまで鬼の郷を繁栄させるのには膨大と言えるような生への執着と、いつかこの恨みと悲しみを晴らすまで死ぬことなどできないという憎悪と言う名の歪みと言う二つの原動力を胸に掲げて……。
この鬼達の……、特に重鎮達の気持ちを言葉にするのであれば――『この恨みはらさでおくべきか』を使った悲しみと怨恨の言葉……、『この悲恨はらさでおくべきか』と言う言葉が正しいであろう。
まさに『恨み骨髄に徹す』である。
その心情は恨みを糧にして生きているのと同じであり、それは一見すると異常な思考、歪んでいる思考回路と言っても過言ではない。
人それぞれ思うところがあるかもしれないが、この状況の中で、この場面に出ている登場人物の誰が正しいことを言っているのかと聞かれたら、真っ先に京平の言う言葉こそが最も正論と言えるだろう。
だからこそ赫破は最初こそ京平の言葉に対して否定のそれを向けようとした。
何がわかるのか? と――
お前達に儂等の何が分かるのかと……。そのことに対して延々と口を、舌を回そうと思っていた赫破。
それはここまで案内をしてくれた紫知と同じもので、植え付けられた他者によって感化された感情を変えることなどできない。
それが正しいと認識してしまえば、他の正しいなど『間違い』に等しい。赫破自身も他者の『正しい』に対して異議を唱える方だった。
……ハンナ達が来る前までは。
今までは他者の『正しい』という意見に対し異議を唱えていた。否――むしろその『正しい』に対して歪んだ答えしか思い浮かばなかった。正論を言っているようだがその心意は完全に異常としか言いようのないようなそれしか抱いていない。
そんな心境――そんな人格しかなかった。
だが、紫刃の言葉を聞いてから、ハンナ達と出会ってから赫破の心に、人格に何かが芽生え始めたのだ。
それが何なのかわからない。それがどんな感情で、どんな名前なのか。赫破自身わからない。
ただ言えることはたった一つ……、紫刃の言葉を聞いた時がきっかけであり、ハンナ達と出会った時に彼の心の変化が訪れた。僅かではあるが、彼の心に『変化』と言う明確なきっかけが浮かび上がったのだ。
今までの己の思考であれば、たとえ冒険者であろうともその者の言葉に耳を貸さない。どころかその輩が本心を言ったとしても、一瞬、ほんの一瞬だけ魔が差した瞬間その手をまた赤く染める。その者の存在を己の手で消滅させる。
そんなはたから見ても危ない気持ち……、いいや、思考回路でいた。
いた……のだが、その思考はハンナ達に出会った瞬間、特にハンナと言う存在をその眼で見た瞬間――突然ふと思った。頭に僅かな雷のような小さな痛みを感じると同時に、彼は思ったのだ。
――少し、話を聞くか。
それだけを思い、彼はヌィビットと話をしつつ、シリウスの話をし、そしてハンナの返答を聞くという行いを昨日行った。ただただ話を聞く。その言葉の数々を記憶に刻む。その行いだけをして――真っ先に赤く染める行為を行わないで、赫破は聞くことに徹した。
昨夜のヌィビットの様子を見る行い。昨日のシリウスへの言葉の投げ掛け。そして――ハンナへの質問もすべて頭に刻むという、今までの自分では考えられないことを行って……。
その時は本当に無意識であったので、今にして思うと何故こんなことを思ったのかなど赫破自身わからない。自分でもわからないくらいの無意識でこんなことを思い、そして行動した。
まるで性格が丸くなってしまった紫刃と同じように、赤く染めることを最優先にしない選択をしたかのように……、彼は真っ当な人格で真っ当なやり方を行った。
気まぐれと言われてしまえばそれはそれで正解かもしれない。
だが赫破のそれは気まぐれではなく、無意識の思ったことであると同時に、一種の本心でもあることを理解し、この本心がきっかけであんな見たことがないのに懐かしい記憶を見たのかも、今となっては分からない。
謎が謎を呼び、その謎がすぐに迷宮へと去っていくようなそれではあるが、それでも赫破はその謎の正体が一体何なのかと言う疑念を持つと同時に、その謎は謎のままでもいいかもしれないと、そう思っていた。
はたから見ても気色悪いその見たことがない記憶と気まぐれに近い感情。
しかし赫破はその二つの要因を見て感じた時、不快感など一切なかった。
むしろ……、この感情が芽生えてよかったと、この記憶を見ることができてよかったと――この時赫破は感じ、それと同時に彼は徐にその場から立ち上がる。
ハンナ達の所に来た理由と、京平の言葉に対して今の自分の返答を行うために、彼は足元に広がっている己の汗の感触を足の感覚で感知しながらゆっくりと立ち上がる。
「よ……しょっと」
お年寄り特有の立ち上がる時の掛け声を上げながら……。
□ □
「よ……しょっと」
「!」
今まで頭を抱えてなりのそれを上げながら蹲っていたアカハさんはその痛みが治まったのか、徐にと言わんばかりにその場で立ち上がった。
すっと――軽い動きを私達に見せるように……、さっきまでの激痛の表れが嘘のようなそれを見せながら……。
その光景を見ていた私やヘルナイトさん、そしてシルヴィさん達やエドさん、しょーちゃん達は驚きの顔をしたまま固まってしまい、京平さんに至っては口をあんぐりと蜥蜴が餌を欲しがっているような口の開け方で固まっている。
額からだらだらと二本の歪んだ赤い線のそれを流しながら……『あんぐり』を体現しているそれで。
京平さんがなぜ額からそれを流しているのか。
そのことに関して簡潔に説明をすると……、アカハさんが現れた時、京平さんはアカハさんの胸ぐらを掴んで、シリウスさんに言い放ったことでシリウスさんは塞ぎ込んでしまい、一番仲が良かったリカちゃんが落ち込んでしまったことで京平さんは怒りの矛先を……、その原因を作った鬼族の重鎮の一人……アカハさんにその怒りを向けた。
怒りが収まらない。その怒りをその人に向けないと気が済まない。
そんな面持ちで京平さんは怒りをぶつけ、そのぶつけを言葉だけでなく行動でも示した。
アカハさんの額に向けて自分の額をぶつけて……、鈍い『ゴチンッ!』と言う音を奏でさせる勢いで……。この場合……、奏でるなんて言葉はふさわしくないかもしれない……。
その額と額をぶつけ合う一撃を見た私達は驚きのあまりに固まってしまい、エドさんもその光景を目の前で見てしまった時さすがに京平さんのことを感情任せに止めていた。
それでも京平さんの怒りが収まることはなく、その衝撃を受けたアカハさんは驚きの顔のまま固まっていて、その光景を見ていた私は内心……、まずい……、まずいと思っていたのだけど、その行動をヘルナイトさんによって止められてしまい、下からすり抜けることも、横から回り込んでいくこともできなかったので制止を行動で示すことができなかった。
本当ならすぐにでも行動したかったのだけど、その時突然現れた記憶に集中してしまったせいで何もできずにいる (こんなの言い訳にしか聞こえないけれど、その記憶は多分だけど私が体験したことで、その記憶を見過ごすわけにはいかないという感情が優先になり、私自身もその記憶と向き合いたいと思ってしまったからこうなってしまった)と、突然アカハさんは頭を抱えて唸り声を上げながら跪いてしまった。
アカハさんのその姿を見て、突然の光景を見てしまった私達は驚きのあまりに怒っていたことも固まっていたことも愕然としていたことも忘れてしまい、どころか条件反射的に (これで正解の言葉なのかわからないけれど……)アカハさんに駆け寄って心配のそれに移した。
人間は緊急事態になると頭がパニックになってしまう。そしてそのパニックを起こすと同時にほとんどの人がその場から動けなくなってしまうのが普通かもしれない。でも私達はどうやらその分類に入らないらしく、みんながみんなアカハさんの元に駆け寄りながら安否を聞いたりとかして心配の言葉をかけていく。
…………しょーちゃんの発言は例外だと思うけど。
きっとみんな、この世界に来てから色々と経験をしている。培った経験をもとに冷静にというか、『全く動けない』と言うそれが出ないと言っても過言ではない行動をしているのだろう。
茫然としてしまうとか、突然のことで体が固まってしまっては最悪なケースになってしまうから、みんな最善の方法を行動で示した。私もその一人で、頭痛に効くかわからないけれど『異常回復』をかけようと手をかざそうとしていた。
正直この行動には不安もあったし、これは効果があるのか? と言う疑問もあった。でも私にできることと言えばこれしかないので、心の片隅に芽生えは『もう当たって砕けろだ』と言う言葉に従うように、私はそっと口を開けて――『異常回復』の言葉を口ずさもうとした。
その時だった。
アカハさんが突然その場で立ち上がったのだ。
膝に手を付いて、ゆっくりとした動きで立ち上がったアカハさんのことを見た私は驚きの顔をしながら固まってしまった。
ヘルナイトさんやデュランさんと言った人生経験豊富で熟練者……、で、いいのかな? の人でも驚きのまま固まってしまっているし、特に驚いていたのは京平さんで、京平さんに至っては固まったまま口をあんぐりと開けたまま固まっていた。
ある種よく見るコミカル顔で……。
でも京平さんやみんなが驚きの顔のまま驚くことに関して、私はあまりとやかく言う事はしない。どころか驚くのも無理はないなと思ってしまうほど私も驚いているからだ。
アカハさんは確かに頭痛で苦しんでいた。それは顔から汗がだらだらと零れてしまい、その顔には激痛に満ち溢れた苦痛そのものの顔が現れていた。
歯も食いしばっていたのかその口の端からは微量の赤いそれを零して、激痛に耐えたその姿を何事もなかったかのように見せるその姿を見て、激痛が起きていた時、何があったのかわからないけれど……、それでもアカハさんは立ち上がって、フーッと息を吐きながら口の端に付着していた赤いそれを手の甲でぐっと拭った。
殴られた後に出て来てしまったそれを乱暴に拭うように、アカハさんはその行動をして――そしてすぐアカハさんは顔を上げて、その視線をとある方向に向けた。
くるっ。と――勢いなどない普通の振り向きで、アカハさんは振り向いた視線の先にいる存在……、あんぐりとしたまま固まっている京平さんに視線を向けた。
アカハさんの視線に気付いた京平さんは『はっ』と声を詰まらせると同時に、あんぐりと開いていたその顔を元の顔に戻すと、アカハさんはそんな京平さんのことを見て、なんだか威厳を持っているようなその音色で京平さんのことを――
「魔獣交じりの小僧――先ほどの返答に関してまだ答えていなかったな」
と呼んだ。はっきりとした音色で嫌味に聞こえてしまいそうな……、いいや、嫌味だと思ってしまいそうな言葉で京平さんのことを呼ぶと、その言葉を聞いた京平さんの顔がスイッチでも入ったかのように顔を真っ赤にして怒りの染まった顔で「んだとこらっ! 誰が魔物交じりじゃっ!」と怒声を荒げてきた。
京平さんのその言葉と行動、そして顔を見てエドさんはまずいと思ったのだろう……。京平さんのことを羽交い絞めにして京平さんのことを止め、その羽交い絞めに翻弄されながら……、というかエドさんの身長が大きいせいもあってか、京平さんはエドさんに抱っこされているような体制で足をばたつかせる。
キーキーッ! と、バタバタと足を急かしなく動かし、怒りをアカハさんに向けようとしているけどそれができないというそれを表しながら京平さんはエドさんの腕の中でもがいている。
その光景を見て、正直こんな光景漫画の世界でしかないと思っていた……。と私は頭の片隅で思っていたけど、そんな私達の呆れというかなんというか、とにかく京平さんのことを見て困惑してしまっている私達をよそに――アカハさんは京平さんに向けて言葉を零した。
「お前さんは言ったな? 『ちょっとはそいつの周りにいる奴のことを考える余裕とかねーのか? 年長のくせにそんなことも考えられねーんか? 自分のことしか考えられねーのかこのくそジジィ。自分達が今までひどい人生だったからって、その意趣返しをしてもいいって言うのか? あんたらそんなねちっこいことをして、何が楽しいんだ?』と言っていたな。そのことに関して、儂の返答はこうだ」
と言って、アカハさんはそこで区切りをつけるように口を閉じた後、アカハさんは浅く息を吸って、吐いてから再度口を浅く開いて――再度言葉を零す。
京平さんに向けて、あわよくば私達に向けるようにアカハさんはこう言った。




