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PLAY105 腹を括ってお話しましょう⑤

 ハンナとシロナ。


 アキとキョウヤとシェーラ。


 それぞれがそれぞれの会話をしながら濃密であった一日の夜を一幕を過ごしていた丁度その頃。


 鬼の郷ではない別の場所で、もう一つの誰にも知られることがない秘密の会話が始まろうとしていた。



 ◆     ◆



 この世界――アズ―ルは仮想世界の国であるが、仮想世界とは思えないほどの広い世界が広がっている。


 ハンナ達のように仮想世界であることを忘れてしまいそうな世界観が好奇心をそそり、その国に作られた国一つ一つに一つの文化、特色、ドラマがあり……、本当にこの世界が仮想空間なのかと思ってしまいそうな気持ちに駆られてしまうのは人として避けられないものなのだろう。


 まるで現実世界のように、その一つの国だけでも大きな世界となって見てしまう。


 客観的に見ると小さな箱の世界を見ているだけなのに、その箱の中の世界があまりに見広すぎて、そう錯覚してしまうように――


 今までハンナ達はまだ半分しかアズールの世界を回っていないが、それでも彼女達は色んな国の姿を見てきた。


 アルテットミアの最初のギルドに、『八神』が一体のサラマンダーが収めている鉱石族の里『エストゥガ』、『八神』が一体のライジンを崇めている魔導具の国『アムスノーム』、そして国の名前になっているアルテットミア。


 アクアロイアでは犬人、猫人の亜人達が住んでいる『亜人の郷』、日本の温泉街をイメージした『ユワコク』にその国の都市でもあるアクアロイアと、『滅亡録』に記載されて滅んでしまった一年中雨が降っている天変地異の街『監獄街マドゥードナ』。


 そして今となってはもう亡き国となってしまったアクアロイアの領地の八割を占めていた砂の国『バトラヴィア帝国』では、二つの国の国境の近くにあった『湿地(ウェットランド・)蜥蜴人(リザードマン)の集落』、そして二つの国の国境にできた『国境の村』、砂の国に入ってからは『エルフの里』、今はもう使われていない『デノス』に国の端に建国された『バトラヴィア帝国』があり、今はもう『バトラヴィア共和国』となって腐り切ってしまった砂の国を再興している。


『王都ラ・リジューシュ』に関してはハンナ達はただ王都に来たというだけなので、そのことに関しては深く記載できないが、ハンナ達はそのまま王都経由で『ボロボ空中都市』に向かい現在に至っている。


 ボロボと言う国にも色んな町や世界が広がっていたことは誰もが知っているであろう。


 その国の中央都市や『高地(ハイランド・)蜥蜴人(リザードマン)』と『火山地(マグマード・)蜥蜴人(リザードマン)』達が住んでいる集落にファルナが住んでいた『鳥人族の郷』、そして今ハンナ達がいる『鬼族の郷』と言うように、大まかに言うとこれだけの世界をハンナ達は歩んできた。旅をしてきた。


 それは浄化のための旅なのだが、それでも彼等にとって現実世界から来たハンナ達にとってすれば刺激しかない世界。現実にはないいくつものはこの世界があった。


 だが――それは小さな小さな箱に入っている世界の一つであり、全部が合わさったはこの世界ではない。ハンナ達が見てきた世界はこの世界の一部でしかない。


 ハンナ達はただ浄化と言う名の道に沿って歩み、そしてその世界の箱の中身を見ているだけで全部を見ているわけではない。


 全部ではないのだ。


 今の今まで長々と世界のことを話してきたが、誰もがここまで来て思うであろう。


 一体何が言いたいのか。


 そのことに関しては長くなってしまったことに対して深くお詫びしたい。しかしこれは必要なことでもあるのだ。


 そう――ハンナ達と一緒に行動してきたヘルナイトにとって、これは重要なことなのだ。


 色んなことをハンナ達と歩んできたヘルナイトはずっと記憶がない状態だった。ハンナ達と出会う前までヘルナイトは何もない記憶と向かい合いながらずっと浄化のために歩みを進めていたが、ハンナ達と出会ったことで、彼の記憶が少しずつではあるが、戻ってきた。


 最初、ヘルナイトの頭の中は何もない空っぽの世界だった。


 しかしその世界が記憶を取り戻すことで彩りを取り戻し、そして箱の中に詰め込まれた国、世界を創り上げ、その国で起きたことを記憶し、そして思い出していく記憶と共にその箱の中にしまい、大事の保管する。


 言葉から聞いてなんとも幼稚に聞こえてしまうかもしれないが、ヘルナイトにとって彼の記憶はまさにそのような世界でもあったのだ。


 記憶が無かった時、ふとした時に思い出す時――脳内にある見たことがない箱が一人でに開き、その箱の中身がヘルナイトの前に姿を現した瞬間、ヘルナイトは思い出すのだ。


 箱の中に広がる小さな記憶の世界が、ヘルナイトの脳内に広がっていく。それはまさに音楽のように、すっと入っていくような感覚で。


 その感覚を感じていくと同時にヘルナイトは思った。


 いいや――今まで疑念として残っていたそれが少しずつ、本当に少しずつではあるが確信に変わっていく感覚になり、その確信を感じた瞬間ヘルナイトは理解したのだ。


 自分が守るべき存在であった女神――サリアフィアは生きている。


『終焉の瘴気』に呑まれてしまったわけでもない。かといって戦うことを諦めたわけではない。彼女は生きている。生きているのだ。


 そのことも知っていた。今まで思い出せなかったからこそ、わからなっただけで、ヘルナイトは知っていた。言われたからだ。


 サリアフィアは己が持っていた詠唱『大天使の息吹』を手放し、己の力で、天族が持っている力と自分しか持っていない『癒しの力』を使って『終焉の瘴気』の力を、進行を抑えることを――彼女の口から聞いたことを、ヘルナイトはジエンドと再会した時に思い出した。


 厳密には――『違う。私は覚えている。あのお方は――サリアフィア様は……()()()()()』と言う言葉を言う前に、彼は思い出したのだ。


 サリアフィアが生きていて、且つ彼女が己の命を削りながら進行を阻止していることを、やっと思い出したのだ。


 思い出した。そのことに関してはヘルナイト自身思い出せたので内心嬉しい事ではあった。


 が、問題はここからだ。


 ヘルナイトは確かにサリアフィアのことを思い出した。生きていることも確信したことはよかったのだが、ヘルナイトの記憶の世界に、とある記憶の箱の中に一つの記憶があった。


 それはサリアフィアとの記憶であり、その記憶を思い出した瞬間ヘルナイトは思った。


 思い出したのに、なぜかすっきりしない。何故か嬉しくない……。


 どころかサリアフィア様は何を言っているんだ? 何故私にそのことを告げたのだ?


 思い出せない。


 ヘルナイトはサリアフィアが言った言葉の記憶を思い出すと同時に、さらなる疑念を抱くようになり、なぜサリアフィアは自分に向けてそのような言葉を言ったのか。そのことを思いながら現在に至っている。


 思い出せたことに関しては嬉しい事なのだが、それと同時に更なる疑念が彼の心を黒い煤で侵していくような感覚を感じながら、ヘルナイトは今日も思う。


 あの時――『終焉の瘴気』を止めるために、単身で立ち向かった時に言い放った言葉を、二人しかいないあの時、彼女はヘルナイトに向けて言った言葉を思い出しながら……。


『私はこのままあの瘴気を止めに向かいます。もし、私が戻ってこなくても心配はしないでください。私は、私にはまだ使命が残っています。この国を見守るという大事な大事な使命が。その使命を果たす前にこの命を落とすことなど絶対にいたしません。だから、どうか心配しないで。そして――』

 

 ()()()()で――待っていてくれますか?



 ◆     ◆



 ヘルナイトは思い出す。己の脳内をフル回転させながら、彼は己の記憶の中を覗き込む。


 サリアフィアが言ったあの言葉――『あの場所』に該当するその場所のことを思い出しながら、記憶の箱の中にある場所と言う場所を開けながら、彼は記憶を探る。


 甲冑越しだからわからないが、彼は甲冑越しに眉間があるであろうその箇所に己の右手を乗せ、考える仕草をしながら思い出す………が。


「やはり、わからないか」


 己の記憶という記憶を脳内で漁ってみた。脳の中の箱を漁りに漁って、自分の中にある記憶の中でどの場所がその場所に該当するか探していた。


 しかしいくら思い出してもサリアフィアが言っていた場所に該当する場所がなく、ヘルナイトは溜息を小さく吐きながら頭を抱え、項垂れてしまう。


 最強と言う名を持ち、且つこの世界でたった一人しかいない『二つ名』を持っている鬼士でもある魔王族が頭を抱えて項垂れている。


 その光景はチート能力を持っている者からして見るとあまり見ない光景であり、ハンナ達がその光景を見れば驚きで顔を染めること間違いなしだ。


 そのくらいヘルナイトは悩んでいた。否――彼は思い出せないことに僅かな憤りを感じていた。


 いくらチートと言うものを持っている彼でも、『二つ名』を持ち、魔王族最強の力を持っている彼であろうとも、このことに関しては憤りを感じてしまい、なぜ思い出せないのかと焦りを感じてしまう。


 大事な……、大事な記憶のはずなのに……。なぜこの記憶の意味を忘れてしまうのか。何故その場所のことを思い出せずにいるのか。


 そのことでヘルナイトは彼らしくもない焦りと憤りを感じ、ハンナ達が寝ている鬼の郷から離れた場所――鬼の郷の周辺を見渡せるとある崖の先で腰を下ろし、見ることのない絶景のその場所でヘルナイトは思い出せないもどかしさ、そしてサリアフィアが言ったその言葉の場所が一体どんなところなのかを必死に思い出そうと奮起していた。


 ふわりと――夜特有の冷たくも優しい風がヘルナイトの鎧に触れ、彼の鎧に僅かな冷たさを与えていくが、そのことに関してヘルナイトは特に気にもしていない。どころか風が吹いたせいなのか、崖の先に腰かけている所為か、崖の先から『ぼろり』と岩壁の破片が崖の下に向かって落ちていき、そのまま崖の下にある森林の中に吸い込まれていく。


 がさり。と言う落ちる音がヘルナイトの耳に確かに入った。


 甲冑でも音はちゃんと拾えるような作りでもあるのでしっかりと聞こえたが、ヘルナイトはその音を聞く余裕などなかった。


 絶景に近い崖にいるにも関わらず、その景色を見る余裕も、音を聞き取る余裕など全然なかった。


 ただ――彼の心の引っ掛かりになっている『サリアフィアのあの言葉』だけが、ヘルナイトの気持ちを搔き乱し……。


「どうしたんだ? こんなところで腰を下ろして」

「!」


 乱そうとしていた時、突然ヘルナイトの背後から声が聞こえた。その声はヘルナイトがよく知る人物の声で、その声を聞いたヘルナイトは驚きの声を零すと同時に背後を振り向く。


 腰を下ろしている。且つその場所が崖でもあったが故――振り向いた瞬間掛けの端が『ガラッ』と、一際大きな崩れる音が聞こたが、幸い大きく崩れ落ちるようなことはなかったので、ヘルナイトはそのまま振り向きながら声の主――『12鬼士』が一人、『死地の誘い人』――幽鬼(ゆうき)魔王族・デュランのことを見てデュランの名を呼ぶ。


 微かに、驚きのそれを零しながら――


 その声を聞いたデュランはヘルナイトの声色、甲冑で隠されているが故その表情を見ることは出来ないが、雰囲気を察知してデュランはヘルナイトのことを見下ろし、『ぱか、ぱか』と蹄の音を鳴らして彼の隣に向けて歩みながら……。


「そんなに驚くことなのか? お前らしくもない」


 と聞くと、デュランの言葉を聞いたヘルナイトはその言葉に再度驚いたのか、「な」という声を零し、そしてデュランのことを目で追いながらヘルナイトは聞く。


 内心、まさかそんなに感情を表に出していたのか。


 そんなことを思いながらヘルナイトはデュランに聞いた。


「驚いていた? 顔に出ていたのか?」

「ああ、声色からも察知で来たぞ。かなり驚いていたな。貴様らしくもない驚き方でな」

「……そう、だったのか」

「っふ。そんなに驚かなくてもいいだろう。我がこんなところに来ると思わなかったのか? まさかこんなところまで来て見張り……、というわけではないだろう? なぜこんなところにまで来ているんだ?」

 

 デュランは言う。なぜこんなところまで――鬼族の郷から離れたこんな場所で物思いにふけっているのか。悩んでいるのか。そのことについて聞くデュラン。馬の蹄の音が少しずつ近づき、その音を聞きながらヘルナイトは振り向いていたその視線を元の前の視線に戻す。


 ヘルナイトの視界に広がる光景――それはボロボ空中都市の中では珍しいところでもあり、その場所はボロボのアルテットミアと言われるような場所でもあった。


 辺り一面に広がる森林と言う名の緑。その緑の世界の中にある大きな街がヘルナイト達が座っている場所から一望できた。


 森と街を隔てるように作られた大きな壁。壁は街を守るように楕円形の形になっており、その壁に張り付くように木の根っこや苔が灰色の壁と言うそれに緑と言う彩を与えている。夜でもわかる緑はその場所に来る人達の目を引き止めるそうなほど生い茂っており、ヘルナイト達の視力でもその緑はわかりやすいほど生えている。


 しかし、壁の灰色と苔や木の根っこの緑とは正反対に、壁の内側は自然と言うものを感じさせない。小さな街を思わせるような光景であり、赤い屋根に茶色い屋根、暖色で統一されている家屋。その周りを照らすように温かく、柔らかい光が辺りを包み込んでいる。その光の中から人の団欒の声が聞こえてくるような、そんな温かい空気をヘルナイト達は感じた。


 その場所だけが温かい別世界のように、明るい世界のように見えるその場所を――ボロボ空中都市のアルテットミアと云われている街『フェーリディアン』を見降ろしながら……。


「あの街を見ていたのか?」


 無言のままその街を見ているヘルナイトの横で、デュランはその場で座ることもせず、馬の状態なのだが仁王立ちになってその光景を腕を組みながら見降ろす。現在崖の上にいる自分達の足元で平和な夜の世界を満喫している街を見降ろしながら、二人はその世界を、ただじっと見つめる。


 見つめて、そして視界に入る優しくも明るい光と、穏やかな時間を満喫している笑い声を聞きながら、デュランは無言になっているヘルナイトに向けて唐突にこう言った。


「実はな、あの街の宿に泊まっているんだ。あの馬鹿どもと、悪魔族と一緒だった輩達が」

「……そうか。確かに、あの時言っていたな。『近くにある町の宿に泊まるなりここから出るなりすきにしてくれ』と、まさか近くにある町が」

「ああ、ここだった」

 

 そう言ってデュランは呆れるような溜息と共に言葉を零し、視線の下にある真夜中であるにも関わらず明るいその街を――『フェーリディアン』を見下ろした後、続けて言う。


「使いの鬼族の者が我々とあの悪魔族の男と一緒に行動していた輩をここに案内してな……、あぁあそこだ。あの赤い屋根の家だ」

「ああ、あの一際大きな家か」

「そうだ。この町の宿主曰く――観光客や色んな商人が多く出入りしてはこの場所で商売をする輩も多いらしくてな。小さい宿では人が入りきれないから増築したとか何とか言っていた。()()()()

「……と言う事は――か」

「御推察通りだ」


 デュランはそう言いながら『フェーリディアン』の街の中でも一際大きな造り――否、元々は普通の家だったのだろうが、左右、後ろに付け加えるように増築されたようなそれが露見している宿屋を指さしながら言うデュランの言葉にヘルナイトは一瞬見て気付き、そして納得しながらあの家かと思っていると、デュランはヘルナイトの言葉に頷きの肯定を示した後、続きの言葉を発する。


 まるで自分で聞いたかのように話した後、最後に咥えた言葉を聞いたヘルナイトは、内心思った。


 ――ここは、()()()()()()()か。と……。


 そう思いながらヘルナイトはあえて言葉にせずにデュランの言葉に対して頷きを示した。


 しかしデュランはヘルナイトの心の声を聞いていたかのように首のないその頭を頷いたのか――同意と呆れ、溜息が出そうなその音色でヘルナイトに向けて言う。


 呆れ……、否――うんざりしているようなその音色を聞いたヘルナイトは己の隣で立っているデュランのことを見上げたが、デュランはそんなヘルナイトの視線に気付き、彼は再度呆れるような溜息を吐きながら己の言葉の続きを発する。


 声色からも分かる様な――嫌気がさしてしまうその音色でデュランは続ける。


「この街もだ。我々のような鬼士、そして国からの使いを毛嫌いしている。どころか我々のような輩の出入りを禁止にしているようだったが、我の目は誤魔化せなかった。門の近く――店の路地裏にいた。()()()()()()()()()()が」

「………『種族狩り』の輩。それとも……、クィーバの」

「クィーバか、久しく聞く名だ。我も最近思い出したよ。我々がまだサリアフィア様に仕えていた頃は、奴らの名が途切れることはなかった」


 勿論――『種族狩り』も、『魔女狩り』もな。


 ………デュランの言葉を聞いたヘルナイトは一瞬だけ頭を抱え、すぐにその手を頭から離した後、『フェーリディアン』の街の夜空を見上げて呟く。


 脳裏に思い出される――悲しみしか生まない惨状の記憶を思い出しながら……。


 そして、その記憶の中で下劣な笑いを浮かべ、手に握るその得物を赤く染めていく輩達のことを思い出したヘルナイトは、その集団の名を口にしてデュランに聞くと、デュランは一瞬だけ驚きの声を零し、懐かしむように頷きをする。


 ……が、この懐かしみも最初だけ。


 懐かしむように思い出を語るデュランはすぐにその声色を変えて最後の言葉を口にし、そして頭のないその姿で己の視線の下にある街――『フェーリディアン』を見下ろす。


 街の輝きを見下ろし、そしてその輝きに対して苛立ちを覚えるような面持ちで、デュランは言う。


 続きの言葉として、彼は腕を組んでいるその手に力を入れ、己の二の腕を握りつぶすように鉄と鉄が擦れ合うその音を出した後で――デュランは冷静に言葉を零す。


「この街は、あまりにも明るすぎる。一見して見ると明るく、まるで活気に溢れているような雰囲気ではある。そして観光客の出入りもあり、街自体が潤っている。が、その潤いは()()()()()()()()()()()()()。偽りの潤いだ」

「偽りの、潤いか……。それが」

「ああ――」


 デュランは言う。この街は一見して見ると明るい。だが、この街には裏がある。それも、どろどろとしたくらい裏があると、デュランは断言する。


 その言葉を聞いたヘルナイトは心の中で――あぁ、やはりか。と思いながらデュランの言葉を繰り返し、そしてその後のことを言おうとしたが、その言葉を遮る様にデュランは同意を示す。


 そう――この街で行われていることは、砂の国で行われていた……『元・バトラヴィア帝国』で行われていたことと同じようなことが裏で行われていたのだ。


 砂の国では帝国で造られていた武器『秘器(アーツ)』の材料のため、鬼族の角や魔女が必要であったので、帝国は『魔女狩り』と称して必要なものを揃え、鬼族の角を集めていた。


 それははたから聞いても、見ても非道と言う言葉が似合うものであり、それは外道としか言いようのないものである。たとえ国のためであろうとも、決してしてはいけないことなのだ。


 が――現実はなんとも残酷だ。


 デュランは呆れるような溜息と共に言葉を零し、ヘルナイトに対して同意を求めるような面持ちで彼は言った。


 心の中で、虫唾が走るそれを湧き上がらせながら……。


「この街の裏では非道なことが行われている。その証拠に我の出入りを許可しなかった。冒険者の出入りは良いが我と言う存在を見た瞬間、門番の目が変わった。我と言う存在――我と言う名の魔王族が、我と言う『12鬼士』が入ってはいけないような言葉を並べていた。あろうことか住人が怖がるから入ってこないでほしいとぬかしていたが、本心は違うのだろう。住人が怖がるのではない。我々のような正義が入ってしまえば、大勢の仲間が捕まってしまうと。そう思ったからこそ許可しなかった。裏で行われていることを摘発されてしまえば……」

「潤いを失う。表の潤いではなく、裏で摂取された多くの潤いを失いたくないために……か」

「ああきっとそうだろう。裏で誰が牛耳っているかまではわからなかったが、そんな良からぬことを考えている輩なんぞの考えなど、わからない方がいい」

「………………………搾取、己の潤い……か」


 デュランの言葉を聞いたヘルナイトは、その言葉を零した後で己の眼下にある夜でも明るい街を見下ろす。視線の先では明るい証明に照らされた街中で人間族と他種族の者達が酒を煽っている姿が目に写り込む。


 ヘルナイト達と『フェーリディアン』との距離はかなりあるが、同じ『12鬼士』のキメラプラントよりは視力は悪いが、それでも見える範囲 (両目で2.5)でもあるのでその光景を見降ろしたヘルナイトは明るく見えるその光景を見降ろすと同時に、ヘルナイトは思う。


 脳裏にちらつく砂の国で起きた暴挙――ヘルナイト自身は見ていないが、アキ達から聞いた『駐屯医療所』で聞いたことを、その場所で起きていたことを思い出しながら彼は思った。


 ――ここでも、あの場所と同じようなことが行われているのか。


 ――あの場所で起きたこととは違うが、それでもこの街にいる者達はその潤いに目を奪われ、毒され、そして中毒になってしまっている。


 ――中毒。それは毒。その者の全てを反転させるように変えてしまうもの。


 ――それも……、悪い方向に。

 

 ――悪いものであれば『やめろ』と声を掛ければいい話だ。その者のことを思うのであればその言葉をかければいい事なのだが……、それは人の言葉で簡単に変わるものではない。

 

 ――熱中してしまっているのと同じように、中毒になってしまうとその穴から抜け出せない。深い落とし穴から這い出るように、必死になって出ないとその穴から出ることができない。


 ――砂の国の『駐屯医療所』の者達は『私腹』と言う名の潤いに嵌り、抜け出せなくなり、それを多く得るために、手に余ってしまうほど……、浴びに浴びたいほど奪いたくなる。


 ――この街の者達は、いいや……、この街の裏で動いている者達も『駐屯医療所』の者達と同じように……。


「……なんて悲しい連鎖だ」


 長い思考を行った後、ヘルナイトはぼそりとその言葉を呟く。


 凛としているがその凛があまりにもか細く、それよりも哀愁が勝ってしまっているような音色で、小さく呟いたヘルナイトの声を聞いて、デュランは大きく、大袈裟と言わんばかりの溜息を吐いて――


「何が悲しい連鎖だ。そんなの低俗で野蛮、更には下劣な思考を持っている輩のことを考えることなどするんじゃない。それを行うこと自体時間の無駄だ」


 と言うと、その言葉を聞いたヘルナイトはデュランの言葉に耳を傾けていないのか、デュランの言葉に対して返答をすることはなかった。


 デュランの言葉に対して怒りを覚えたわけでもなければ、衝撃と言う名のショックを受けたわけではない。ましてや同意を示したわけでもない。ただ、なぜそのようなことをしてまで私腹を肥やしたいのか。そして()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 その疑念を思いながらヘルナイトは『フェーリディアン』の街を見下ろしていたが、デュランは『フェーリディアン』一択で考えることに対し疲弊してしまってはダメだと思い、自分で振っておいた話を変えるために、デュランはヘルナイトのことを見下ろして聞いた。


 事実、ヘルナイトの長考が長かったため無言と言う時間が続いてしまい、その長い無言の所為で息がつまってしまったこともあったので、デュランはヘルナイトに向けて聞いたのだ。


「そ、そう言えば……、貴様なぜこんなところにいたんだ? ただ風に当たりたいがためにここに来たのか?」

「! 私か、あ、いや……、考え事をしたくてな」

「また考え事か。何を考えていたんだ?」

「………………………デュラン。お前は知っているか?」

「? 何をだ」

 

 ヘルナイトはデュランに聞かれ、はっとした面持ちでデュランのことを見上げると、ヘルナイトは先ほどまでしていたことを素直に話すと、その言葉に対しデュランは『ここでもか』と言う驚きのそれを浮かべ……、顔はないがそれでも浮かべて言うとヘルナイトはそんなデュランに向けて言葉にした。


 デュランなら知っているかもしれない。


 もしかしたら、思い出したかもしれない。そう思いながらヘルナイトはない頭に疑問符を浮かべながら己のことを見下ろしているデュランに向けて聞いた。


 凛としつつ、真剣で神妙なそれで――



「サリアフィア様が言っていた『あの場所』を、お前は知っているのか?」



 ヘルナイトは聞く。デュランに向けて、己の記憶の中にある疑問の記憶の言葉を突き付けて聞く。


 聞いて、デュランの言葉を待つヘルナイトをしり目に、頭のないその面持ちで一瞬固まった素振りを見せた後、デュランはヘルナイトに向けてはっきりとした音色で言った。

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