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PLAY105 腹を括ってお話しましょう③

 シロナさんは言った。


 自分は凄く短気で、その短気の所為で色々と苦労をしたことを。


 この性格の所為で、幼い時に定着してしまったこの性格の所為で、シロナさんはずっとそんな半生であったことを私に話してくれた。


 最初に、シロナさんもとい阿須川(あずがわ)白那(しろな)さんはずっと親と言う存在が大嫌いだったと私に向けて第一声を放った。


 その言葉を聞いた時私は驚きのあまりに言葉を失ってしまっていたけれど、シロナさんは肩を竦めて『そんなに驚くことじゃねえぞ』と言って、シロナさんは話の続きをしだした。


 シロナさんは小さい時、両親が不仲で物心がついてからの両親は常に喧嘩していた。


 その喧嘩の原因は常に定着していない。一日完結のような今日は『おかず』。今日は『帰宅時間』。今日は『嘘』等々、色々な内容の喧嘩を毎日欠かさずしていたそうだ。


 まるで日課のように、喧嘩のバイキングの如く息をするようにシロナさんの両親はレパートリー豊富な喧嘩をして、シロナさんはそんな両親のストレスを受けながら育ってきた。


 なぜ両親のストレスを受けながら育ってきたのか。


 そのことについて私は聞いた。


 だって普通ならそんなことありえない。


 たまーに、本当にたまーにおじいちゃんとおばあちゃんが喧嘩をしていた時、私達はその喧嘩が終わるまで自分の部屋にこもって終わるのを待っていることがあったけど、シロナさんはそんなことをしなかったのかと私は疑問を提示するとシロナさんは言った。


 そんなことなかった。どころか両親はお互いのストレスを自分に向けていたということを告げた。


 常にお酒に溺れ、無くなったら手を上げる父親は自分に向けて罵倒して。ヒステリックとストレスで常に苛立ちを露にしていた母は自分に向けて言葉の暴力を上げていた。


 シロナさんは驚いて言葉さえ出せなくなってしまった私のことを見ないで、思い出に更けながら続けて言う。


 アタシの両親は――弱い者いじめしかできない屑だった。


 と……。


 一瞬何を言っているのかよくわからなかった。でもシロナさんはそんな私のことを置き去りにして、自分の何の得にもならない話を続けた。


 シロナさんの両親はいつもいつもお互いのことを罵り合うような言葉しか言わない。他人の上げ足を取る様な言葉ばかり言い、自分にとって不利になるようなことを言われたらすぐに堪忍袋が切れ、罵倒がパワーアップする。

 

 パワーアップが大きくなるにつれて、罵倒が食器の投げ合いになり、最終的には殴り合いに発展することもあったらしい。でもそれでも両親の気が治まるわけではなかったらしく、お互い同じ行動をしていた。


 そのことに関してシロナさんは濁していた。きっとそのことを思い出すこと自体嫌悪だった。嫌だったのだろう。そのことに関してシロナさんは言わなかったけれど、私は理解してしまった。


 でもここでは言わない。シロナさんが言わなかったのだ。私も言わないことにするけれど、内容があまりにも酷なものばかりだったから、私は言う事を躊躇ってしまった。そのくらいシロナさんは受けて、本人曰くその結果がこれなのだと言っていた。


 それを小さい時から受けていたシロナさんは中学に上がるころ――シロナさんも両親の影響を受けていた。


 小学生の頃は気が小さくていつも一人でいたこともあって、常に孤立して、両親のこともあってずっと同級生からいじられていたけれど、そのストレスや両親の影響のせいで、シロナさんは中学生の時に不良になってしまった。


 よく言うところの――グレた。


 シロナさんはその中学校では有名な不良生徒だったみたいで、噂では裏番的な存在に成り上がっていたということも聞いたけど、シロナさんはそんなこと全然聞くことがなかった。どころか……、シロナさんには関係なかったみたい……。


 シロナさんはその時のことを振り返って、何度もため息を吐きながら『本当に――あの時のアタシは馬鹿野郎だったな』と言い、その言葉を言ったあとでシロナさんは続ける。


 シロナさんは家庭内でも学校内でも荒んでいて、すぐにイライラしてしまうと手を上げてしまう癖がついてしまい、そのことで何度も何度も先生に怒られていたらしく、もっとやばい時は定額になりかけた時もあったりとすごい中学校生活を送り、高校に進学してからも同じことが続いていたそうだ。


 それを聞いていた私は酷いですね……。とシロナさんの一部の心境を知ったうえで言葉を零すと、その言葉を聞いたシロナさんは私のことを見て『だよなー』と同意を示し、その後すぐシロナさんは愚痴をこぼした。


『アタシの両親って常に喧嘩して警察沙汰を起こしそうなのに世間体のことに関してはスンゲー花瓶なんだよ。世間では仲のいい夫婦を演じて周りから『良い夫婦』の印象を残したいから、アタシにはしっかりと大学まで卒業させたかったみてーなんだ。アタシ大学まで入る頭ねーのに、親は世間体が一番大事傾向だから、アタシを高校まで入らせたんだよ。金もったいねーよな』


 シロナさんは言った。呆れたように笑い、そして心底両親に対して失望したような音色で、シロナさんは笑って言った。


 自分はそんな才能ないのに、両親は表の顔を気にし過ぎている。その表をよくしようと取り繕っていることに、心底嫌だったというもしゃもしゃを出しながら……。


 本当は中学で各門への生活を終わらせて、中学校卒業したらすぐにでもその家から出て言って自立するつもりだったらしいんだけど、その時のシロナさんはまだ自立するまでのスキルもなければそのことに関して反論をするということもできない状況だったらしく、両親にそのことを伝えることができなかったとのこと。


 高校に上がると殆ど高校に通うことなく、自分の力を見て集まってきた集団たちと一緒になっていろいろと迷惑をかけていたみたいで、その時すでにシロナさんはレディースの総長にのし上がって、警察のお世話になったこともあったと言っていた。


 シロナさんの話を聞いていた私は、驚きながらシロナさんのことを見て言葉にできないような声を上げていた……、というか上げることしかできず、その声を聞いたシロナさんは乾いた笑みでからからと笑いながら――


『そん時のアタシって本当に堪忍袋が短くて、本当にイラっとしたらぶん殴るっていう、やばい奴の典型的なそれになっちまっていたんだよ。あのくそ両親を反面にしていたのに、結局アタシはあいつらの血を引いた娘。屑から生まれたクドクズだったってこと。才能も知性も魅力も全然ない――女に生まれてこなければよかったダメ女の典型さ』


 と言って、シロナさんは呆れるように笑って言ってのけた。


 自分のことを罵って、自分の両親がクズだったから、アタシもその血を引いたクズだった。


 そう言い聞かせるような音色でシロナさんは言うと、シロナさんは『でも――』と言って、話しの続きをしてくれた。


 自分の生い立ちを話していた時はけらけらと笑っていたけれど、その笑顔に隠れた青い雨のようなもしゃもしゃが出ていた。それを見た私は――あぁ、シロナさんはずっと辛い思いをしてきたんだと、はたから聞いてしまうと同調しているような雰囲気に感じてしまうけれど、それでも私はシロナさんのもしゃもしゃ、そして過去の一部を聞いて、胸の辺りが痛くなるのを感じてしまった。


 けれど、『でも――』と言う言葉を言った瞬間、シロナさんのもしゃもしゃが青い雨のそれでなくなったのを感じた。青い雨がザーザーッとい降り注いていたもしゃもしゃが、晴れたかのように止んでいくもしゃもしゃを感じた私は、食い入るようにシロナさんの話に耳を傾ける。


 シロナさんはそんな私のことを見ず、自分の世界に入っているかのような雰囲気を出して夜空の月を見上げながらシロナさんは言った。


 中学校も高校もいろいろと迷惑をかけるような日々を送っていたけれど、そんなシロナさんのやり方を止める存在が現れ、その存在はシロナさんのことを止めたそうだ。


 レディースのボスにまで成り上がって、ずっと力で買ってきたシロナさんだったけれど、その人物に喧嘩を売ったことで、シロナさんは成り上がって始めての黒星を刻んでしまった。


 はじめての敗北。何年ぶりになるかわからない屈辱。そして……、見下されるという悔しさ。


 それを感じると同時に、シロナさんは見上げ様に睨んだそうだ。


 自分のことを虚仮にして、そして屈辱を与えた存在――現実世界の善さんに向けて。


 善さんの名前が出た時、私は驚きのあまりに口をあんぐりと開けて驚きを表したけど、その驚きを見て、やっと私のことを見てシロナさんは『あはは』と笑い、その状態でシロナさんは私に向けて『驚いただろう?』と聞くと、シロナさんは私のことを見てこう言ってきた。


 どうやら善さんは偶然というか、シロナさんと同じ高校に通っていたみたいで、なぜそこにいたのかはシロナさん自身わからなかったそう。というかそれを聞くという思考すらなかったみたいで……、シロナさんはそんなことよりも、善さんのことを倒すことを最優先にした。


 シロナさんは自分のことを虚仮にした善さんに何度も何度も喧嘩を売ったみたい。シロナさんは負けてしまったことが本当に負けたことが嫌だったみたいで、何が何でも勝ちたかった。何が何でもコテンパンにしたかった。虚仮にされたから同じように虚仮にしたかったから、善さんに何度も何度も勝負を挑んだとのこと。


 その話を聞いていると、なんだかよく不良漫画に出るような展開だなーっと思っていた私。


 すると私の心境を察したのか、それともシロナさんも同じことを思ったのか、けらけらと乾いた笑みを浮かべて声を上げて笑いながらシロナさんは――


『今思い出してもこの光景って不良漫画あるあるだよな。アタシもこの時まではそんなこと全然思わなかったんだけど、京平から借りた本で知ったんだよ。これってあたしと善と瓜二つだって!』


 と、まんざらでもない音色で笑いながら断言した。


 その言葉を聞いた私は内心、シロナさんのことを見て――あ、やっぱり。と思ってしまったのは、言うまでもない。


 シロナさんはけらけらと笑い、口元を左手で隠しながらシロナさんは話の続きをしだす。


 本当に、思い出しながらあんなことがあって、面白かったなー。と、心の底から楽しいというそれをもしゃもしゃで体現しながら、シロナさんは続ける。


 善さんに負けたことで何度も何度も自分の黒星を変えようと奮起した結果、シロナさんは善さんに何度も何度も勝負を挑んで、負けたり、勝ったりを繰り返して、何度戦ったかわからないほどシロナさんは善さんに勝負を仕掛けてきた。


 一対一で、男同士が拳を交わって戦うように、シロナさんも善さんと拳を交わって、何度も何度も勝負をした。何度も殴って、何度も殴られてを繰り返し、シロナさんと善さんは戦い続けた。


 シロナさん曰く――もう勝敗のことなんて考えていなかったみたいで、純粋に、殴り合ったことでシロナさんは気付いたそうだ。


 いつもイライラしていた感情が、気持ちが治まっていることに――


 シロナさんは自分がイライラしている原因をあまり知ることがなかったそうだ。シロナさんは常にイライラしているその感情を心の中で渦巻いているその感情を消すために、シロナさんはずっとそのストレスを、イライラを解消しようとしていたとシロナさんは言った。


 両親が自分を使ってストレスを緩和させようとしていた。そしてシロナさんはそれ以外のストレス解消法がわからなかった。


 両親がそれ以外のことを教えなかったことが災いしたと言っていた。


 更には反面にしようとしていたのに、シロナさんはそんな両親を見てそれしかストレスを解消することができないと思っていたことも重なって、シロナさんは攻撃をするということしかストレスを解消することができないと思っていたらしい。


 本人曰く――シロナさんは趣味がなかったみたい。


 だから趣味でストレスを解消するとか、それ以外のことに頭が回らなかったみたいだけど、善さんと戦い合うことで少しずつだったけれど、シロナさんのイライラが無くなっていったみたい。


 そうシロナさんは言っていた。


 今の自分があるのも、善のお陰なのかもしれない。そう言いながら……。


 その後シロナさんは続けて言う。驚きを越して、二人の過去に聞き入っている私に続きを利かせるように――


 いつも勝気な印象が定着していたシロナさんだったけれど、今のシロナさんはどことなくシロナさんじゃない雰囲気がひしひしと感じとれ、私はシロナさんの言葉を聞きながらシロナさんのことを見ていた。


 自分の過去を話すシロナさんの心の一片。それがシロナさんの顔に出てくるその光景を見て、いつも見ていたシロナさんとは違う綺麗で見とれてしまいそうなシロナさんを見ながら、私はシロナさんの話に耳を傾ける。

 

 何の得もないとシロナさんは言っていたけれど、そんなことなどないシロナさんの話に耳を傾けて……。


 シロナさんは言う。善さん相手に拳を交えた後のことを。


 交えた後、シロナさんはレディースの総長をやめ、善さんと一緒に高校生活を過ごした。何の変哲もない、殴り合いも何もない普通の生活を、シロナさんは善さんと一緒に過ごした。


 そのことに関してシロナさんが率先して行動したわけではなく、善さんの強引ともいえる様な勧めで行った結果だそうだ。


 善さん――現実では『筑摩(つかま)善』っていう名前の人だったんだけど、善さんはシロナさんにこう言ったそうだ。


『もしこれからもこんなことをするならもうやめた方がいい。こんなことをしても俺は楽しくないし、女でもあるお前をこれ以上傷つけることは、正直したくないのが本音だ。だから総長なんてやめろ。それをずっと行って、後悔するのはお前なんだ』


 と。


 善さんの言葉を聞いたシロナさんはその言葉を聞いて怒りマックスになり、思わず感情的になって殴りかかろうとしていたんだけど、善さんはそんなシロナさんのことを見て畳み掛けるように言ったそうだ。


 ズバッと――論破をするように。


『それがだめなんだ。そうやって感情的になって殴って、それでいいのか? 逆に申し上げると、俺はお前が本気でぶん殴ろうとした時、俺は()()()()()()()()()()。その意味が分かるか? ただの暴力は無駄なんだ。お前のその力は暴力。自分の苛立ちを解消するためだけに使われるだけの、虚しくて悲しい力。その力を他人のために使うことなんてなかっただろう? それを、自分のためだけにしか使わなかっただろう? だから俺は思った。手加減をして、お前のその力をズタボロにしようと。ズタボロのぼろ雑巾のような耐久度になった後で懇々と教えようと、そう思ったからこれを行った』


 現実を見ろ。そして感情で動いて、その手を血で汚すな。


 その力を他に向けろ。


 善さんは言った。シロナさんに向けて――


 その言葉を聞いたシロナさんは、一瞬驚き、そんなこと関係ないと善さんに言った結果、善さんの懇々とした教育が始まった。それが『普通の生活』――『暴力を行わない普通の生活』が始まり、その教育をシロナさんは受け、教育係として善さんが一緒について行った。


 強引だけど善さんの優しさが詰まっているような、善さんの人間性が見えるような行動。


 その行動に最初こそシロナさんは反抗的なそれを見せていたけれど、次第にイライラすることがなくなり、逆に自分に見合った部活に入ったりなどして充実した日々を送ってきたと、シロナさんは笑いながら言う。


 両親のことに対しても苛立つことなく、色んなことに対してすぐにブチギレて手を上げることがなくなると同時に、シロナさんは少しずつだけど、『我慢』するという当たり前なことを身につけていき、次第にシロナさんは思った。


 全部――善さんの言う通りだったと。


 本当に善さんの言う通り『お前のその力は暴力。自分の苛立ちを解消するためだけに使われるだけの、虚しくて悲しい力』だったと、シロナさんはその時知った。


 本当に、自分が振るっていたその暴力は、嫌なものだと。


 そうシロナさんは独り言のように呟いて、その後シロナさんは私のことを見て困ったように笑い、そして肩を竦めながら『その後はとんとん拍子って言った方がいいのか? 高校卒業と同時にあの家から出で行き、アルバイトをしながら日々を過ごし、善さんとも交流を深めながら日常と言う幸せを、何の変哲もない日常を噛みしめて過ごしてきた。


 暴力というもので染まっていた日常を忘れず、それを戒めにして……。


『はい!』


 と、シロナさんは大きな声を張り上げて区切りをつけると、シロナさんはそのまま私のことを見てマジックのように手を軽く広げた後――シロナさんは陽気な音色で『これで終わりだ。な? 何の得にもならなかっただろ? アタシの話』と言って、シロナさんの過去の終わりが告げられた。


 何の得もないと本人は言っていたけど、そんなこと全然ない。むしろシロナさんと言う存在を知ることができたいいお話を聞いて、私はかぶりを振りながら言った。


 ――そんなこと、全然なかったです。


 と……。



 □     □



「えぇ? なかった? アタシからしてみれば全然お得じゃない話だったけどな」


 シロナさんは言う。


 自分にとってすれば何の得もないお話だったけれど、それでもシロナさんと言う人のことを知ることができたことで、私はその言葉に対してかぶりを振って『いいえ』と言うと、続けてこう言葉を返した。


「でも、シロナさんっていう人のことを知れましたよ。シロナさんの内面と言いますか、シロナさんと言う表面が少しだけはがれた、シロナさんのことを」

「表面……。なるほどな。バナナみたいな感じって思えばいいのか? 皮をはがしたら中身の身が姿を現す的な、そんな感じと思えばいいのか……?」

「あー……。はい。そんな感じですね」

 

 たとえは少し微妙ですけど……。


 そう言いながら私はシロナさんに向けて困ったように言う。


 まさかバナナに例えて来るとは思っても見なかったし、まさかの言葉に一瞬戸惑ったけれど、その言葉を聞いてなんとな―くだけど理解した後で、私はシロナさんのことを見て頷きを示す。


 果たして、それは本当に正解なのかわからないけれど…… (絶対正解なんて言うものはない。けれどシロナさんのバナナ例えは、多分高確率でわからないものだということは分かる)。


 私の言葉を聞いてシロナさんは腕を組んで『なるほどなー。そう言う考えもあるんだ』と、どこか感心しているような面持ちで言うと、その後シロナさんは腕を組んだ後で夜空を見上げると、シロナさんは小さく呟くように、独り言をごちるように言葉を零した。


「まぁ、そんな生活をしたからっていっても、結局アタシはあの両親の血を引いている娘。完全に我慢できるようになったわけじゃねーし、そのことに関してはアタシ自身がよく理解している。我慢を覚えたからと言って結局頭に血が上っちまうと切れて周りが見えなくなる。エドや京平にも『お前は頭の導火線が短すぎる』とか言われて怒られっぱなし。そのことに関しても直そうとは思っているんだけど、全然なんだよ。相談をしたとしても、善には『お前の努力が足りないだけ』とか言われちまったし、今までずっと我慢してきたんだけど、結局ダメだった」


 善が傷ついちまった時、完全に頭真っ白っていうか……、完全に血が上っていた。


 そうシロナさんは言い、困ったように笑みを浮かべると同時に自分の頭をガリッと掻きながら一言――私のことを見て言った。


 困ったような笑みと共に、シロナさんは私に向けて……。


「その……、それを理由にするのも嫌なんだけど、こんなに感情的なアタシの所為で嫌な思いをさせちまって悪かったな。本当はかなり前から謝りたかったんだけど、何だろ……、謝る勇気が出なかった。って、これも完全に言い訳だな。でもこれだけは言える。本当に、ごめん」


 と、シロナさんは心の底から申し訳なさそうな、それでいて悪いというもしゃもしゃが出そうな音色で言う。心の園からの『ごめん』を言葉にして――


 その言葉を聞いて、シロナさんの心境、そして私に対しての謝罪の想いを聞いた私は……、一瞬だけ言葉を失ってしまったような顔をしたけれど、心境は変わらず、シロナさんのことを見て控えめに微笑みながら言った。


 優しく、怒っていないというそれを示しながら――


「シロナさん。私言いましたよね? 『シロナさんの言葉で私は怒っていませんしショックも受けていません。大丈夫です』って、今も同じですよ。全然怒っていません。だから簡単にこの言葉を言います」


 はい。許します。


 私ははっきりと言う。謝罪の返答を簡潔に――


 簡単でわかりやすく、はっきりとしているその言葉を聞いたシロナさんは、一瞬だけ目を点にした面持ちで私のことを見ていたけれど、次第にそのきょとんっとしているその目を緩めていき、どんどんと安堵と言うか、力が抜けたその顔にして行きながら――大きくて長い溜息を吐く。


 はぁぁぁーっっ! と息を吐き捨てると、その場で項垂れの姿勢をした後シロナさんは大きな声で (夜なのでそんなに大きくないけれど大きな声で)……。


「そ、そっか……、よかったー……!」


 と言って、その後シロナさんはもう一度は意にため込んでいたのか、大きなため息を吐いて、力が抜けたような音色で言った。


「理解しても、結局人間って本質は変わらないんだなーって、いつも思っていたのに、今回のことはかなり痛感したわー。マジ『短気は損しまくり』だな」


 シロナさんは力が抜けてしまったような音色で言ったけれど、その言葉を聞いた私は声を零すように笑みを零し、そしてこらえきれなくなってしまった笑みをくすくすと零すと、その声を聞いてかシロナさんは亜人の耳をピクッと動かして私に視線を向けると、シロナさんは疑念を抱くような音色で「どうした?」と聞いて来たので、私はシロナさんのことを見て私は言った。


「シロナさん、それは多分『短気は損気』ですよ。意味は正解だと思いますけど」

「え? いや」


 私の言葉を聞いたシロナさんは一瞬だけ、ほんの一瞬だけ目を点にして『へ?』と言う顔をして素っ頓狂な声を出していたけど、少しの間だけ考えていたのか、私が言ったことを理解すると同時にそっと顔を伏せ、私に向けて――


「今のはわざと間違っただけだーっっっ!!」


 シロナさんは大声で叫んだ。


 それはもう、みんなが起きてしまいそうな声で、顔を真っ赤にしながら――

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