PLAY103 鬼族重鎮とヌィビット③
「はぁ……、結局ここでも蚊帳の外か……。俺、兄なのに……。兄と言うポジションで妹を守らないといけないのに……、全部ヘルナイトに……、人工知能如きに持って行かれた」
「お前こんな時でも女々しい発言しまくりだな。そんなことでじっと戸の前に立つなっ。はたから見たら変質者だぞ?」
「ストーカでも可じゃない?」
鬼の郷に辿り着き、早速鬼族の人達が住んでいる集合住宅のような木造平屋の中にある一つの戸。
その戸の前にアキは茫然とした面持ちでその戸に視線を合わせながらぽつりと呟く。
木材特有の匂いと和風らしさを感じさせる戸……、ではなく、和風とはかけ離れた赤黒い何かの痕が和風らしさを壊し、且つその赤黒いそれと周りの薄暗さも相まってホラー映画のような薄気味悪だけが際立つ。
この戸だけを見ると、不気味なそれが流れるようなそれも出ている。
そんな戸の前でアキは溜息を吐きながら心底羨ましそうな顔をして、あと数ミリでその戸と額がくっつくかもしれない。そんな距離でアキは強く閉められたヌィビットの置土産付きの戸のことを見て、再度深い深い溜息を吐きながら言う。
心の底から、なぜ、なぜなんだ。そんな言葉が出て来そうな顔と心境の声で。
その声と顔、更には行動を見てキョウヤとシェーラは引き攣った顔でアキのことを振り向きながら見つめて零す。
心の底から ((こいつ、マジでシスコンのレベルがヤンデレレベル……))と思いつつ、アキのことを変質者として見ているような目で見つめながら……。
そんな二人の突き刺す様な攻撃交じりの言葉を聞いたアキは目の前の赤黒の戸のことを見上げ、そっと口を半開きにすると、アキは小さな声で溜息を零すと、アキはシェーラ達がいる方向に首を動かし、視線を向けながらアキは静かに怒っている音色で言葉を零した。
「おいシェーラ。その言葉に対して俺は訂正をしよう。俺はストーカーではない。俺は妹のことを第一に考えている良いお兄ちゃんだ。優しいお兄ちゃんだ。俺はそんな犯罪まがいなことなんてしない。そこだけは訂正してもらいたい」
「知ってるかしら? 『良いお兄ちゃん』や『優しいお兄ちゃん』って言う言葉は本人の口から零れないの。それは客観的な視点なの。他人の口から出る言葉を自分の口で大胆に断言する人は自画自賛、自意識過剰。そして自分のことを過大評価している人なのよ? あんたその自覚――ある?」
「そんなことないっ!」
「認めなさいよ。他人の私から見てやばいと思ってしまうわよ。あんたの行動は正真正銘のシスコン。過干渉系のそれよ!」
「うぐぅ………! そ、そんなことはぁぁぁぁぁ………っ!」
「何してんじゃお前ら……」
アキは前髪で隠れた視界の向こうでシェーラのことを血走った目で睨みつけ、そして低い声で訂正の言葉を告げた。内容としては『自分はそんな人ではない』や、『自分はただ妹が可愛いからそうしているだけ』や『これは――妹に対しての愛情の行動なんだ』と言うような言葉を並べてシェーラに言っているのだが、それでシェーラが折れるなどありえない。
納得など皆無だった。
シェーラは言葉を並べて自分を丸めこもうとしているアキに向けて冷めた目……、ならよかったのかもしれない。今の彼女の目はまるで汚いものを盛る様な冷めた目であり、その目の状態でシェーラは適格と言えるような言葉を並べて、アキの心に正論と言う名の弾丸を打ち込む。
さながら論破だ。
だがそれで折れるほどアキは甘くない。どころかそのことを認めたくない感情が先に出てしまい。彼は血走った目をシェーラに向けつつ、怒声に近い怒鳴りの声で反論を試みたが、それも呆気なく崩されてしまい、シェーラは止めと言わんばかりにアキに告げると、その言葉を聞いた瞬間、アキは正面にある赤黒の戸に額を『ごつり』と打ち付け、肩をがくがくと震わせながらシェーラの言葉、そして己の言葉を脳内でリレーさせながら葛藤させてしまった。
アキの姿を見てなぜか鼻息をふかして勝ったという笑みを浮かべるシェーラのことを見て、悔しそうにしているアキのことを見て――キョウヤは小さく突っ込みを零す。
言葉通り、一体何をしているんだろうという顔で……。
それと同時に仲がいいなと言う言葉を頭の片隅で思いながら、キョウヤは今もなお赤黒く、見るからに恐怖感が増してしまいそうな戸の前で繰り広げられている仲良しの二人の会話を呆れながら見つめる。
はたから見れば奇異な光景でもあり、そんな場所で痴話のようなことをしている二人のことを見ながら……、もう一度仲がいいなと心の中で呟きながら……。
「そそそそそんなことはないっ! シェーラがそのことで過剰に反応して見ているだけだろうがっ! そんな俺が過干渉とかありえないし! そんな俺病んでいませんからっ! 毒っていませんからっ!」
「(毒っていませんってなんだよ。ネット用語の中に新しい言葉が出現した)」
「毒っていなくてもあんたの行動は私達冒険者兼プレイヤーから見ても過干渉のドドドシスコン! この世界の住人からしてみれば異常者よ!」
「(ドドドシスコンって、初めて聞いた言葉だけど、お前は少し制限を設けろ)」
「いいい異常って! お前言っていい事と悪いことがあるぞっ? ここに来るまでの間異常者なんてたくさん会っているし、もうそれが日常と化しているかそんなことあまり気にしなかったけど、そんなこと言われて『あーそうですかわかりました』って素通りできると思うのか小娘っ!」
「(お前も失礼だわ。今まで出会ってきた人に謝れ。できるだけ謝れ。あと今になってブチギレたんか)」
「思わなかったわ。ぜーんぜん。だっていつもそうだし、今まで素通りしていたのは私達だもの。あんたの『グギギギギギ』をこの目で何度も見たんだからね。それがあんたの本性かと思いながら見ていたわ」
「(あ、言っちまった。今まで黙っていたことを言っちまった。そしてシェーラのツンツンいつもより鋭いな)」
「それで人を判断するなっ! 第一第一印象で人を判断して避ける行為はだめなことなんだぞっ! 一種のいじめ、差別に相当すると俺は思うよっ? そんなことで俺を変人扱いすな!」
「じゃぁこう言う例題を出題するわ。『あんたの目の前に整った顔立ちで且つ優秀なエリートみたいなスーツの男はなぜか電柱の後ろに隠れながら立っています。その先にはブレザーを着た女子高校生がいます。その女子高校生のことをまるで全身を舐め回すように見て、且つ血走った目で見ているその男のことを見た瞬間、あなたはどう思いますか?』今思ったことを正直に言いなさい」
「気色悪いっ!」
「それがあんたなのよ! つまり何が言いたいのか――あんたのそのシスコン、滅茶苦茶気持ち悪いって言いたいのっ!」
「――っっ!!!」
「(――なんだこれ)」
とまぁ、長く感じてしまいそうな二人の会話を聞きながらキョウヤは心の中で突っ込みを淡々と入れる。あえての淡々ではなく、心の底から冷静なそれで――だ。
アキの言葉にシェーラが正論と言うの名の言葉を突き付け、それでもひれ伏さないようにアキは言い訳のようにも感じてしまう言葉を並べながら反論をし、その言葉に対してまたシェーラの論破。それが少しの間続いていた。
赤黒の戸の向こうでハンナ達が話を聞いているかもしれないというのに、なんともしょうもない話をしているんだ。
そんなことを思いながらキョウヤは呆れを通り越して、自分は一体何を見せられているんだと思いながらその光景を見つめていた。
目をそらすこともできるかもしれないが、それをしてしまった瞬間二人が薄い木製の戸の前で暴走をしてしまったら、鬼の郷での許可どころか試練も受けられない。最悪鬼族の第一印象がガタ落ちになってしまい永久にこのボロボに居座ることになるかもしれない。
そうなってしまっては浄化もできない。この世界に取り残されてしまう。
それだけは絶対に回避しなければいけないな。
そう思うと同時に、それを避けるためにキョウヤは見たくもないこのしょうもない戦いを傍観する。
正直こんな光景を見ないで、このままみんなのところに向かいたいのが本音だが、この二人を野放しにしてはいけないという気持ちもある。
我儘と使命感が天秤の皿の上に乗ると同時に、ガタガタとその重みを変えてはキョウヤの決断を優柔不断にさせていく。正真正銘の優柔不断な短所を持っている人物の典型的なそれなのだが、シェーラのとある言葉が放たれた瞬間、今までざわついていた空気が一気に静まり返る。
「はぁ、マジであんたの行動は目に余るわよ? あの子の隣にはちゃんとヘルナイトがいるんだから安心しなさい。信頼できないの? ……これだと」
本当にハンナのことを精神的にも傷つけそう。
シェーラの言葉を皮切りに、アキは目を見開いたまま驚きのそれで固まり、シェーラはアキの予想だにしない顔を見て「え?」と言う呆けた声と共に目をぱちくりとさせ、キョウヤはアキとシェーラの光景を見て、なんとなくだが空気が変わったことを察した。
その背後で虎次郎が首を傾げながら後方を――アキ達に視線を向けると同時に、アキは目を見開いていたその顔をすぐに何かを考えているような物静かであるが、何かを思いつめてしまったような顔になり再度赤黒の戸に視線を向ける。
アキの思いもしない行動を見てシェーラは呆けた顔をいつもの凛々しい……、ではない、もし貸したらと言う不安が入り混じった顔で頬を掻くと……。
――あれ? と心の中で首を傾げてしまう。
内心、まさか、言い過ぎたかしら? アキってもしかして……、メンタル弱いのかしら……?
など、色んなことを思いながら自分が言った言葉に対して少しばかり罪悪感を抱くと……、そんな彼女を見ていたキョウヤは呆れた息を吐き、シェーラの隣になる様にすたすたと足を進め、シェーラの左側に着くと、キョウヤは徐に右手を上げ、その手を軽く握ると……。
ごんっ。
「いたっ」
キョウヤはシェーラの脳天に軽めの拳骨をくらわした。
いつぞやか『ネルセス・シュローサ』の幹部コココにお見舞いした拳骨よりは弱めだが、それでも痛覚を刺激するほどの強さだったこともあってシェーラは頭を抱え、キョウヤがいるであろう左側を見上げる。
その顔に『何するのよ』と言う文字が書かれているような顔で……。
しかしキョウヤの顔を見てその文字もすぐに消すと同時に、シェーラはおずおずという形の行動をしてアキのことを見る。
肝心のアキはと言うと、今までシェーラのことを見つめていたその視線を赤黒の戸に向けて溜息を吐きながらその戸を見上げていた。
小さく、とてつもなく小さく、誰にも気付かれないように小さく吐いた……、のだが。
「おいそれ以上溜息すんな。幸せどころかハンナにも呆れられるぞ? いいのかそれで」
キョウヤはその声を聞き漏らすことなく、アキのことを振り向きの態勢で見つめながら腰に手を当てて呆れの音色で言う。心底アキの行動に対して呆れているように。
だが、そんなキョウヤの言葉に対し、アキは聞く耳すら見っていなかった。いいや――正確にはシェーラの言葉を聞いてからアキは上の空になってしまった。
その光景を見てキョウヤは内心――ああ、地雷踏んだんだな。シェーラの奴。と思いながらシェーラに気付かれないように睨みつけの一瞥をすると、キョウヤはもう一度アキのことを見て、腕を組みながら見つめ直す。
キョウヤの言う通りアキはシェーラの言葉を聞いて、思い出した。
思い出して……しまった。
シェーラの『これだと本当にハンナのことを精神的にも傷つけそう』と言う言葉を聞いて、彼は思い出したくもない。己にとってしても苦痛の思い出にしかなってないことを一瞬フラッシュバックしてしまう。
アキの脳裏に思い出されたのは、つい最近でも何十年も前の話しでもない。
この世界――電脳世界に閉じ込められてから数か月たったある日のことを詳しく説明をすると、アクアロイアに来てシェーラと共に行動することになってすぐの頃、アキ達はこの時偶然出会って知り合った敵の存在であるが味方のような雰囲気を出していた死霊族と出会ったのだが、思い出したのはその時仲良くなった死霊族――ベガの言葉。
彼女はアキに対して、こんなことを言ったのだ。
忠告と言う名の――進言を。
「進言しますわ」
「――今すぐ、あの天族の少女から離れなさい。さもないと……」
「――一番傷つけたくないあの子を……、精神的に、肉体的にも苦しめ、傷つけてしまいますわ」
「はぁ」
「また溜息かよ」
アキはベガに言われたことを思い出し、何度目になるのかわからないような溜息を零すと、その溜息を聞いてキョウヤは彼の溜息が伝染したかのように溜息を零しながら言葉を零す。
何度も溜息をしているせいで幸せが逃げてしまう様な雰囲気を出しているアキのことを見て、今もなお戸の向こうにいるハンナのことを心配しているような雰囲気を出している彼のことを見ていたキョウヤは、頭をガリッと乱暴に掻き、言葉ではあんなことを言ってアキに対して幻滅していた反面いつもと違う反応と雰囲気を見て……。
――なんだ? いつもの怒りの八つ当たりがねぇ……。
――なんか調子狂うな。
と思いながら、キョウヤは再度アキに向けて声を掛けようとした時……、遠くから虎次郎の二人を呼ぶ声が聞こえた。
「おーいあき! きょうや! 早く来い! 暇を持て余す余裕があるならば、今後のことを話そうとあるだどらす殿が言っていたぞ! 早く来ーい!」
「師匠――アルダードラです。あるだどらすではなく」
「!」
遠くから聞こえた虎次郎と、虎次郎の言葉に対して訂正をぶすりと刺すようにはっきりと言うシェーラの声。
その声を聞いたキョウヤははっと息を呑むと同時に奥へと続く方角に視線を向けると、アルダードラを筆頭にして、京平達は赤黒の戸から離れていた。
推測だが、アルダードラが案内する方向に大広間のような空間があるのだろう。
そんなことを思いながらキョウヤは虎次郎たちに向けて「おぉー。わかった。今行くー」と言って、再度視線をアキに向けてキョウヤはずんずんっと歩みを進め、アキに近付くと同時に彼の腕をがっしりと掴むと、キョウヤはそのままアキのことを引きずる様に腕を引っ張る。
「おら! はよ来い!」
乱暴な物言いでぼうっとしてしまったアキのことを引っ張り、虎次郎がいるその場所に向かって歩みを進めるキョウヤ。シェーラの言葉を聞いて――
――なんか思いつめちまったのか? てかなんであれだけの言葉で茫然としちまっているんだ? あーわかんねぇなぁ。こいつ扱いやすいと思っていたけど、メンタル的に扱いが難しい……。
――これはオレ達でなんとかなるとかそんなレベルの問題じゃねえな。
――これは、ハンナ本人が帰ってから解決しねーといけねぇな。
そう思いながらキョウヤはアキのことを引っ張りながら歩みを進める。
ちらりとヌィビットの所為で赤黒くなってしまった戸のことを見つめ、少しずつ明るくなる世界の中で、ハンナ達が一秒でも戻ることを願いながら、キョウヤ達はその場所から離れていく。
そして……、ハンナ達に場面を戻す。
□ □
電気と言う名の光も、日の光も入らないある意味密室の空間内は、常に黒の世界に満ちているようで突きがある夜の世界よりも恐ろしく、光を灯している赤と緑、黄色の光と、畳に付着している赤いそれがより恐怖と奇妙、そして異常さを浮き彫りにしている。
私達はその光景を見て、そして畳に付着しているそれを見て、この光が入らない世界で起きたことを瞬時に察知してしまう。
きっと大まかなところしかあっていないと思うし、完全に違う可能性だってある。でもこの地を見てしまえば誰だって思うかもしれない。
あの時聞こえた何かをぶつける音。そしてこの血痕。
それらを合わせた瞬間、私は全身落ちの温度が下がっていくのを感じてしまう。
畳の血痕だけでもかなりの衝撃なのに、それに加えて時間を遡って推測をしてしまった瞬間の衝撃の事実と、目の前にいる人達の恐怖が加速する。
それは生きた心地が更にしなくなったと言っても過言ではなかった。
「わーっ! 滅茶苦茶怖えー老人さんたちがいるぅぅ!」
「ショーマ。お前は何もしゃべるな。いいな? 今だけ何も話すな」
「無理っすよぉ! 人間喋らないと精神崩壊してしまうんすからぁ! これ知っていま」
「いいから今は喋るな」
……しょーちゃんは例外だ。しょーちゃんはこんな状況でもいつもの調子を狂わせることなく、己のペースを保ったままデュランさんに話しかけていた。
話しかけられたデュランさんは、頭がない頭を抱えながらしつこさに対して鬱陶しそうに言葉を零しているような声を出している。その声を聞きながら私はヘルナイトさんによって握られた手に力を入れて、ヘルナイトさんの手を握り返すように私はヘルナイトさんの手を握る。
まるで小さな子が親に求めるような甘えに感じるかもしれないけど、この状況の中、そんな甘えなんていう感情など、私の中にはなかった。
きっとそれは、エドさん、ヌィビットさんやクィンクさんにも同じ。
みんながみんな――部屋の奥にいる鬼の重鎮さんのことを見て、目を離してしまったらだめだと思っているに違いない。
………しょーちゃんは良くも悪くも全然動じないところがあるから、除外。
そう思って私は再度目の前にいる……、と言っても、少し遠くにいるという言葉が正しいような距離で、紫色の座布団に座って私達のことを見ている三人の鬼族のことを見つめた。
最初は暗がりに目が慣れていない所為でよく見えなかったけど、鬼族の重鎮さん達の赤と緑、黄色の角の光と、目の慣れのお陰もあって、少しだけど鬼族の重鎮さんの顔が見えるようになった。
奥に行くにつれて暗くなる世界の中、一言も声を発さず、私達のことを細められた視線で見つめている重鎮の鬼族の三人。
私から見て左側にいる重鎮さんはおばあちゃんみたいで小柄、白い髪の毛を少しだけぼさぼさになった団子ヘアーにしている緑色の角を生やした人だ。
他の重鎮さん達は背があるのにこのおばあちゃんだけは背も体回りも小さい。私のお祖母ちゃんよりも小さいイメージがあり、むぃちゃんと同じ背丈にも感じてしまうほど小さい人だった。
腰が悪いのか座っているのに背中を前に倒すように曲げて、もう畳の床と顎がくっつきそうなほど距離が近い。そのことも相まって小さく見えてしまうのかはわからない。でもそのおばあちゃんはその小さな体であるにも関わらず威厳と言うか、圧が大きいそれを出しながら私達のことを見ていた。
そんなおばあちゃんの隣にいる最も座高が高い赤い角を生やした老人がいた。
赤い角の老人の鬼族さんは座高が本当に高い……、と言うよりも、背筋をピンっとさせているから高く感じるだけなのかもしれない。でもそれを加えたとしても、その人は私達のことをじっと見降ろすように目を細めている。シワシワの顔とは正反対の、バリバリ現役のそれが醸し出す威圧の目。
緑色のお祖母ちゃんとは違う別の威圧。それを私達に向け、口をへの字のような形にして見ていた。
最後に私から見て右側にいる鬼族の人は、他の重鎮よりも若い人で、あまり言いたくないのだけど、その人は他の重鎮さんよりも重鎮さんらしい見てくれではなかった。
一言で言うのならば、太っている。本当に太っていて、ほかの二人の重鎮さんはしっかりと着物を羽織っているのに、その人だけは、黄色い角を生やしているその人だけは半裸の状態で贅肉と言う名のそれで隠れてしまった座布団に胡坐をかきながら座っている――垂れた糸目と三十顎。大きな耳と常に網を浮かべているおちょぼの口が柔らかさを出しているけれど、その人もその人特有の威圧を出しているところを見て、私は――この人は見かけに寄らない分類の方だ。と思ってしまった。
それぞれが全然違う三人の鬼族重鎮。
それぞれ姿も何もかも違うし、顔の印象も全然違う。
でも、それでも三人とも同じところはあった。それはきっと私にしかわからないことで、しょーちゃん達には分からないことかもしれない。
三人とも同じであるところ――それは、私達に対しての敵対心。
または……、警戒心。
その一つか二つの感情に怒りと憎しみを乗せるという最悪のブレンドを私達に向け、どろどろのもしゃもしゃを私達にかけていく。
黒いそれで私達のことを汚しているわけではない。これは……、この空間の色に染め上げて、反論なさせないように威圧を与えているんだ。
それを感じた私はヘルナイトさんの手を握って、不安を強制的にかき消すようにヘルナイトさんの大きくて温かい手に無意識に縋ってしまう。
こんな状況だからなのか……、覚悟を決めてこの部屋に入ったのに、その覚悟でさえもかき消してしまうその威圧に、私やみんなは言葉を発した瞬間に突き刺されるような最悪の未来を起こさないようにしている。
絶対に開口を私達から行わないようにしよう。
最初の発言権を鬼族の重鎮さんに向けようと暗黙の了承を確立した。
けど……。
「すんませーん。あんた達がジューシンって役職の人っすかぁ?」
『――!!』
しょーちゃんがそれをあっさり壊した。
流石はしょーちゃん。全然空気を読まずに突っ込んでしまったことに、私は心の中で珍しく、頭を抱えてしまった。




