PLAY10 絵本の真実。そして再会⑤
「えええぇぇっっ!? ハンナがっ!?」
みゅんみゅんちゃんは叫んだ。
みゅんみゅんちゃんの叫びを聞いて周りの人達は私達を見るけど、私が頭を下げて謝るとその人達は何事もなかったかのように自分達の話に戻す。
その最中、キョウヤさんは人差し指を口元に添えて、困った顔と慌てた顔が混ざったかのような顔をして『しぃーっ』とみゅんみゅんちゃんに示した。
それを見たみゅんみゅんちゃんははっとして口を押える。
今私達はギルドでお酒や飲み物を飲むところで、少し壁際のところに座っている。
そこは少しじとっとしていて、あまり好まれないところだけど、みゅんみゅんちゃん曰く、ここだと普通に言っても何も聞けないから大丈夫とのこと。
ゴロクルーズさんはあの後解放されて、被害にあった女の人達のところに連行されしまった。
なんでも、女の人にセクハラまがいなことをしてお金を盗んだらしい。
そう言えば……最初に会った時もそうだった。
『金をよこせ』って言われていたような……。でもセクハラまがいなことは……、あれ? されたっけ? されなかったっけ?
うーん…………。
考えても思い出せない……。
そんなことを思っていると、アキにぃはみゅんみゅんちゃんに聞いた。
「それで? 君は本当にハンナの友人?」
「しつこい。てかこれ何回目? 意識戻ってからこれだけは最初に言うわよね? 私はハンナの友人。学友。友達ですって……、これで十二回目よ?」
「わりぃ……っ。本っ当にわりぃ……っ!」
みゅんみゅんちゃんの怒りが混じった言葉に、キョウヤさんは俯きながら震える声で謝る。
それを聞いて私は汗を流しながら……。
「あのね……、アキにぃすごく心配性なの……。ごめんね?」
そう言うと、みゅんみゅんちゃんはじとっとアキにぃを見て……、「ふぅん……」と、納得していない音色だったけど、それでもふぅっと息を吐いて。
「ならいいけど……、その話。本当なの……?」
と、みゅんみゅんちゃんは、未だに信じられないような風に、私に聞いた。
私はアキにぃ、キョウヤさんをちらりと見る。もちろん「話して……いいですよね?」という意味合いを込めて。
その顔で見ていると、二人は頷いてくれた。
それを見て、私はみゅんみゅんちゃんを見て……。
「本当なの。現に……少し遠いけど、エストゥガっていうところでサラマンダーさんを浄化した」
「? 浄化? 倒したんじゃなくて?」
そう疑問の声を上げて首を傾げながら何を言っているんだと言わんばかりに言うみゅんみゅんちゃん。
それに対して私は首を横に振る。
「あのね……、ここに来た日に、冒険者免許を作った後で、ギルド帳に呼び出されて、その時に聞かされたの……、ラスボス……『終焉の瘴気』は、未知の何かだって」
「未知って、何よそれ……。機械とか、モンスターとか……。魔王とかじゃないの?」
「違うんだって。昔の人達は何とか倒そうとしたんだけど、成す術なく終わって……、というか、私が今持っている詠唱と、もう一つの詠唱がないと、それは倒せないことが分かったの」
「………ええぇ?」
「俺はハンナから聞いたけど、スケールデカいだろう?」
「………うん」
キョウヤさんは驚いていたけど、アキにぃには話していたからさほど驚いていなかった。
でもみゅんみゅんちゃんはそれを聞いて、それ以上の言葉を紡ぐことができなかった。でも、それは一瞬で……。
「それじゃあ、なんで三人だけなの?」
「「「!」」」
みゅんみゅんちゃんははっきりと、そして少し怒っているような顔をして私達に言った。
「あんたたち三人だけでここまで来たの?」
「……違うよ。サラマンダーさんの浄化には、エレンさんやララティラさん、ダンさんやいろんな」
「それって、何人?」
……まるで、尋問のような言葉と雰囲気に、私は言葉を詰まらせてしまった。
みゅんみゅんちゃん……。なんか、怒っている?
「あー……」とキョウヤさんはそれを汲み取ったのか、指折りで数えながら、こう言った。
「浄化には九人だったが、一人変な奴がいて八人、待機していたのが二人だった。だか」
「それじゃ、たったの十人?」
みゅんみゅんちゃんはキョウヤさんの言葉を遮って、こう言い出す。苛立った顔で、彼女は言った。
「他にもいたでしょ? プレイヤー」
その言葉に、私達三人は顔を合わせる。
確かに、いた……。
でも……。
「その顔から察するに……、誰も協力してくれなかった」
「……その通りだよ」
「おっ!?」
「っ!?」
アキにぃはみゅんみゅんちゃんの言葉に肯定した。その言葉に、私とキョウヤさんは驚いてアキにぃに言おうとしたけど、みゅんみゅんちゃんはそれを聞いて……。
私達ではない。他の人に対して……言ったんだと思う。
「呆れた」
その言葉はひどくはっきりとした音色で……、頬杖を突きながらむすっとした表情で、彼女は言った。
「こんな時だからこそ、手を取り合えばいいのに、なんで自分よりも役立たずな人を蔑んで……、楽しいの……? そんなに自分が偉いとか、強いとか、誰だって弱いじゃん」
なんだろう……。みゅんみゅんちゃんは独り言のように言い出す。
私達はそれを聞きながら、みゅんみゅんちゃんが言い終わるの待っていると……。
「これじゃ……、何も解決できないし……。結局みんな、自分のことしか考えていない」
むかつく。
そうみゅんみゅんちゃんは、毒を吐いた……。
その吐きは、まるで心の奥底にしまってあったそれを、吐き出すかのような……。
みゅんみゅんちゃんらしくて、らしくない……。矛盾しているような、そうでないような言葉だった。
「あ」と、私が口を開いた時だった……。
「あー。いたー」
「「「「っ!?」」」」
突然聞こえた声と同時に、みゅんみゅんちゃんの背後に現れたのは――女の人だった。
女の人は黒いショートカットにふさふさした耳。肩にはショールをかけて、水色のセーターのような服に黒くて足が隠れるくらい長めのロングスカートを穿いている人だった。穏やかで、女性らしさが出ている綺麗な女性だった。
その人はみゅんみゅんちゃんの背後から抱きついて「いやー」と笑いながら抱き着く。それに驚いて、みゅんみゅんちゃんは「うぎゃーっ!?」と声を上げて驚いていた。
「げぇ! ちょっとメィサ! やめて! そこくすぐったにゃぁ!」
「あはは。いーやーでーすぅー」
さっきまでの空気が一変して、穏やかでふわふわした空気があたりを包み込む。
キョウヤさん、アキにぃが驚く中、私は驚きながらも、未だに女の人――メィサさんと言う人ともちゃもちゃしているみゅんみゅんちゃんに聞いた。
「ね、ねぇ……。その人……」
と、聞くと、みゅんみゅんちゃんは何とか引きはがそうとしながらも、必死に私に言ってきた。
「こ、この人は! き、昨日から行動を共にしているいやんっ! ちょっとぉ! そこ触らないでぇ! くすぐったいぃぃ!」
「あら? あなたみゅんちゃんのお友達?」
メィサさんは私達を見てやっと気付いたのか、笑顔でそう聞いてきた。
そう聞かれたので私は「はい」と頷くと、メィサさんはふふっと微笑んで……。
「よかったわー。同じ境遇の人と出会えて」と言いながら、その人はそっと右手首のそれを見せた。
それを見て、私達は驚いてしまった。
そして、メィサさんの背後から近づいてきた二人の人物。
「あ。コンナところ、いた……」
「メィサ。困っているだろう。離してやれ」
「あらぁ。ロンとヴェル」
と、メィサさんは後ろにいた人達を見て言う。
一人は長い黒髪を後ろで一つに縛っている、中華服に腕には赤い装甲を付けている男の人。アキにぃと同じくらいかな?
そしてもう一人は少し身長が高くて、紺色の鎧に身を包んだ、背中に羽根がついた槍を背負っている男の人……。声からして。
その人達を見て、メィサさんは笑顔でそう言うと、私達見て言った。
「この人達も同じ境遇の人らしいのよ。よかったわ。近くにいて」
「メィサ」
その言葉に、鎧の人は彼女の肩を掴んで、そっとみゅんみゅんちゃんから引き剥がすと、みゅんみゅんちゃんはぐてーっとテーブルに突っ伏して息を吐く。ぜーぜーっと荒く深呼吸をしているのが聞こえた。
それを見ながら、私は「だ、大丈夫?」と聞くと、みゅんみゅんちゃんは「だ、だいじょぶ……」と、大丈夫そうでもない音色で、力なく手を上げて言った……。
さっきのあのへんなそれは無くなっているようで、私はメィサさんを見て聞く。
「あの……」
「失礼した」
と、鎧の人は頭を下げて詫びを入れる。
それを見たアキにぃが、驚きながら手を振って「あ、いやいや、そんな」と笑みを浮かべて言うと、キョウヤさんはそれを見て「そんな失礼なことしてねーって。というか……あんた達は?」と、聞くと、鎧の人ははっとして頭を上げて「重ねて失礼した」と言って、自分の胸に手を当ててこう言った。
「俺は『ブレイズ』のリーダーを務めているヴェルゴラ。そしてこっちが戦士のロン。ロンの姉のメィサだ。君達は、そこで突っ伏しているみゅんみゅんの知り合いのようだが……」
その言葉に、私達は頷くほかなく、そうすると、鎧の人――ヴェルゴラさんは私達を見て言う。
「そうか……」
「なかなか、強い人。ダ」
そう中華服の人がアキにぃやキョウヤさんを見ながら品定めをするようにして言うと、キョウヤさんはロンさんを見て……。
「なんか、言葉変じゃね?」と聞くすると……。
「ああ、すまないな。メィサとロンは中国出身なんだ。言葉の方は姉の方が達者で、弟はまだ留学して間もないから仕方ない」
「ははぁ」
そう言うと、ヴェルゴラさんは私を見る。じっと見て……だ。
なんだか、品定めされているようで、緊張する……。
そう思って、肩の力を入れていると……、ヴェルゴラさんは私から目を離して聞いてきた。
「さっき。話を立ち聞きさせてもらった」
「!」
その言葉を聞いて、私達はぎょっと驚きながらも、アキにぃは「それって、何が目的で……?」と聞く。するとヴェルゴラさんは、私を見て聞いた。
「君はメディックなんだろう?」
「へ? あ、はい……」
その言葉に慌てて頷くと、ヴェルゴラさんははっきりとした音色で言った。横にはロンさんとメィサさんがいる状態でヴェルゴラさんは言った。
「実はな、メィサだけでは捌ききれないクエストを、ロンが受けてしまってな……。今日はもう遅い。そのことについて話を聞いてほしいと思ってな」
◆ ◆
その頃。
ギルドの外で待機していたヘルナイトは、ギルドからさほど遠くない森の中を歩いていた。
ざっざっと……。彼はあてもなく歩く。
否、あてはある。
彼は微かに感じる気配を感じて、歩みを進めている。
外はもう夕暮れ。もう少しで夜になるような世界だ。
そんな中、彼は歩みを止めずに歩いていると……。
「夜間の散歩?」
突然――梟でもない声が……、どこからか聞こえた。
その声を聞いたヘルナイトは、すっと辺りを見回す。
周りは木々に囲まれ、人がいる形跡はおろか……、そこに人などいないだろうという風景が奥まで広がっている。
さぁさぁと、森の囁きが聞こえるだけ。
完全なる迷いの森だ。
そんな中、ヘルナイトはすっと甲冑越しに目を細めて、そして上を見上げて……。
「お前に聞きたいことがある。聞いてもいいか?」
彼は聞いた。
刹那。
ひゅんっと飛んできた何か。それはヘルナイトの背後をとるように射られる。
しかしヘルナイトは、何も見ずに、左手でそれをぱしりと止めてしまった。人差し指と中指で挟めたそれは……、矢だった。
ボロボロの矢を見て、彼はすっと背後を見て言った。
「『12鬼士』が一人――地獄の武神。ヘルナイト」
……これは、この世界に於いての挨拶のようなもの。
ただ名前を言うだけのものだが、それぞれの強者にはそれぞれの通り名があり、それを言うことこそが鬼士として、戦士としての礼儀であり、彼らなりの自己紹介のようなものだ。
それを聞いていた人物は『するん』と木の枝から落ちて枝に足を引っ掛けると、宙吊りになりながら逆さになった状態でいた。
ぱらぱらと葉っぱが落ちていく。
それを見て、ヘルナイトはその宙吊りになっている人物を見た。
黄色い長髪を一つに縛り、耳が長く、それでいて手には大きな弓を持っている。しかしそれだけならいいのだが、彼の体は――
いうなれば、パーツごとにくっつけられている体だった。
その姿はまるでキメラ。
弓を持っている左手は細身の青白い手。
右手は熊のような黒い体毛に覆われた手。
足はわからないがそんな体でいる半裸で、顔には錆びた甲冑を被っている男だった。
男は言った。
「――『12鬼士』が一人。新緑の森妖精。キメラプラント」
ここに来て、二人目となる『12鬼士』のご登場となった。