PLAY101 長い一連の種明かし⑤
「最初ニ言ッテオク。本当ニ申シ訳ナイコトヲシテシマッタ。コイツラノ身勝手デオ前達ヲ殺シテシマウコトニナッテイタダナンテ……。ソノコトニ関シテハ俺カラモ謝罪サセテクレ。元ハト言エバコイツ等ガ提案シタ言葉ガ原因デコウナッテシマッタンダ。俺自身マサカ本当ニスルナンテト思ッテイタガ、本当ニシルトハ思ッテモミナカッタ。本当ニ申シ訳ナイ。本来デアレバ菓子折リヲ渡シタインダガ、生憎ソンナモノナイカラナ。詫ビダケ受ケ取ッテホシイ。コイツラ……、『蓬』ト『シルヴィ』、ソシテ『アイアンプロト:零号』ニ『クィンク』、多分……、トイウカ絶対ニ『ヌィビット』モ加担シテイルハズダ。キッチリ謝ラセル。本当ニスマナイ。事ノ顛末モ、ソシテ俺達ガココニ来タ理由モ、チャント話スカラ」
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あれから私達は混乱していた頭を冷静にし、一旦更地と化してしまった『飢餓樹海』の地面に体育座りをしたり、胡坐をかいたりと各々が楽だと思う座り方をして私達の目の前で胡坐をかき、長い筒状の銃を携えた状態のコーフィンさんのことを見つめる。
コーフィンさんを目の前にして、私とシェーラちゃんリカちゃんむぃちゃん、つーちゃんが一番前で楽な姿勢で座り、その後ろでアキにぃ、キョウヤさん、虎次郎さん、京平さん、善さんとシロナさん、コウガさん、シリウスさんも楽な姿勢で座って――その背後でヘルナイトさんとデュランさん、エドさんは立った状態でコーフィンさんのことを見て、静かにコーフィンさんの話を聞いていた。
あ、その後ろでクロゥさんも伏せをした状態でお話を聞いています。
一応言っておくけどシロナさんは現在怒っておらず、普通の状態でコーフィンさんの話を聞いている。
吊り上がっている怒りのそれだけは変わっていないけど、さっきまであった怒りのもしゃもしゃは嘘のように消え去っている状態。
つまり――怒りが収まっている状態でシロナさんは善さんの横にいる。戦闘が起きる前のいつもと同じ状態で……。
シロナさんも善さんの回復を、元気な姿を見た瞬間今までの怒りが収まり、いつもの様子に戻って今はスカートを穿いた状態で胡坐をかいて座っている。
そんなコーフィンさんの傍らには頭の大きなコブ (デフォルメではなく本当に腫れている)を出して俯いている狐の亜人さん、機械の男の人、そして女騎士さんについさっき起きたエルフの男にティーカップの男の人が現在進行形で正座をされていた。
さながら怒られてしまった子供のように、俯きながら……。
コーフィンさんの手によって強制正座されている四人と機械の男の人は今現在も正座の状態で俯いていて、狐の亜人さん以外が無言のままその状態を保っている状態だ。狐の亜人さんだけはぶつぶつと小さな声で何かを言っているけど、何を言っているのかは聞き取れないほどの声量。少し遠くで座って聞いている私達からして聞けば何も聞こえない尼僧とする声の音量だ。
その状態でコーフィンはなぜこうなってしまったのか。そしてなぜコーフィンさんとこの人達が一緒に行動しているのかをこと細やかに、わかりやすく教えてくれた。
アムスノームの戦闘が終わってからのお話は関係ない話と言うことでそこは飛ばすことにして、コーフィンさんはアルテットミアを離れて、王都で色んな人や色んな建物、観光めいた悠々自適な一人旅を満喫していたそうなんだけど……、色んな国を見てきてコーフィンさんは思ったらしい。
これは、私達浄化の力を持っている人だけが頑張ってはいけない。
皆が頑張っていかないと、だめなんだと。
そのことに関してなんでそう思ったのかとアキにぃが聞いたけど、コーフィンさんはアキにぃの質問に対して口を重く閉ざした状態で一時はいたけど、少ししてからコーフィンさんはペストマスクで覆われた状態で重い口をそっと開いた……と思う。でも結果としては口を開いた。
アルテットミアで見てきた地殻変動の影響で割れてしまった地面。そしてアムスノーム周辺の落雷の影響はコーフィンさんが出る時には消えていたみたいだけど……、アクアロイアに着いてからはアズールの今の姿を多く見てきたらしい。
アクアロイアに着いた瞬間の『六芒星』の件や王様のこと、そしてアクアロイア周辺で獲れていた魚介類の腐敗に死んでしまったかのように黒く変色してしまった海の一部。海に生息している魔物の暴走もあって、漁獲量も激減し、そして海での事故も多発していたらしい。
アクアロイアからバトラヴィア帝国に行く道中のことは、私達自身よく知っていることだけど、砂の国の貧富の差は異常で、帝国以外の村ではみんながみんな貧しい思いをして、一日生きられるかどうかわからないような状態だったとコーフィンさんは言うけど、それ以上にもっとひどいのは、金のための人であることを捨てる行為――砂の国で行っていた『魔女狩り』を条件にお金の交換条件をしていたことが、コーフィンさんにとって苦しい出来事だったと言っていた。
続けてコーフィンさんはアクアロイアを発った後、次に着いたのはボロボ……ではなく、アノウン大地。
確かこのアノウンには黒い大地である――『魔の大地』、白の大地の『雪の大地』があって、人が住めない大地となっているって理事長は言っていたけど、コーフィンさんはその言葉に対して首を振り、続けてコーフィンさんは断言をするように『人は住んでいた。しかも白の大地は江戸時代のような城下町と、大きな大きな巨大ダンジョンがあった』と言った。
そのことに関して私達は驚きを隠せなかったけど、シリウスさんは白の大地のことを聞いた時、確かにそんな国だったと言い、ヘルナイトさん達『12鬼士』は思い出しように頷き合う。クロゥさんも白の大地のことを聞いて私達のことを見降ろしながら――
「確かに、昔は誰もいない大地でした。然しそれも昔の話で、今となっては人が住み、このアズールを束ねる王の一角が住んでいる大地となっています。巨大ダンジョンはきっと……、まだ踏破されていないダンジョン『永劫の氷塔』のことでしょう」
と言うクロゥさん。
四人のその言葉を聞いた私達はなるほどと言う声を零して頷き合うけど、私は頭の中に残ったしこりを感じながら頷いていた。
あの時……、理事長が言っていた言葉は何だったのだろうか。もしかすると、何かのバグの所為でこうなったのかも……。まぁゲームの世界に入ること自体がバグなのかもしれない。その真意はどうなのかは、私達にはわからない。と言うか、最後の最後になるまでわからないかもしれない……。
話を戻すけど……、『白の大地』を見たコーフィンさんは次に『魔の大地』で見たことを私達に教えてくれた。
『魔の大地』は文字通り黒い大地に黒い草木、黒い雲に覆われ、明るさと言うそれらが一切ない黒一色の世界なんだけど、そこにいる魔物達もこの世界の異変でおかしくなってしまったのか、魔物同士で暴走していたり、黒の大地のいたるところに地割れや陥没。そして地面に穴が開いているなどの自然災害などを見てきたと同時に、『魔の大地』で初めて見たその光景にコーフィンさんは言葉を失ったそうだ。
コーフィンさんが言葉を失ってしまったその光景……。
それは、何者かによって襲われ、志半ばで力尽きてしまった者達の骸。それが広大な大地一面に広がっていたらしく……、コーフィンさん曰くドームほどの広さの大地にその骸が隙間なく置かれていたらしい。
まるで……、その場所一帯が骸の人達の墓場のように、均一に、丁寧に置かれた状態で……。
はたから見れば異常としか言いようのないその光景を見たコーフィンさんは、一瞬地獄の爪痕を見てしまったのかと思ってしまったらしく、すぐにアルテットミアに戻りたかったと嘆きそうになったけれど、まだこの国の全部を見ていないことを知ったコーフィンさんは、残り二つとなる大地を回った後でこの後のことを考えようと思い、心を強く持って、その光景を嫌でも記憶して、その場でお悔やみを申し上げてからその場を後にした。
『魔の大地』から次に向かったのは……、理事長曰く空に浮いているこの大地、雲の大地は人も誰もが通れない積乱雲に阻まれた――『天界フィローノア』で、その場所でも異変と言うか、世界の異常が起きていたそうだ。
天界フィローノアは空の世界でもあり、あまり魔物もいない場所なんだけど、なぜかとある時期をきっかけに魔物が多発し、被害が拡大している状況でもあり、その被害は今でも拡大の一途を辿っているそうだ。天界の人曰く……、魔物などいない人々の安息の世界であったはずの『天界フィローノア』が安息の地でなくなってしまったということに、ヘルナイトさん達でさえも驚きを隠せなったみたいで、驚きのもしゃもしゃを出して強張りを見せていた。
それらを見てきたコーフィンさんは、最初に言った通り――これは私達浄化の力を持っている人だけが頑張ってはいけない。皆が頑張っていかないと、だめなんだと。そのことを理解したコーフィンさんは、自分にできることを模索しつつ、自分でできることをできるだけ行動に移しながらの旅に切り替えることにしたらしい。
コーフィンさん曰く、浄化の力もない。退魔の力もない自分でも、その浄化の力と退魔の力を失わせないために戦うこともできる。そう思ったコーフィンさんは最後に向かったボロボ空中都市で徒党を組める相手を探して…………。
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「それでこの五人と一緒に行動していたってことでいいんですね?」
「アァ。デモソノ判断ニ関シテスゴク後悔シテイルノモ事実ダ。本当ニ後悔シテイル」
「分かりましたって。コーフィンさんの人生において最大の恥シリーズは」
コーフィンさんの話を聞いたアキにぃはうんうんと頷きつつ、腕を組みながら簡潔にその後のことをまとめる (まだ言っていないけど、結局はそうなんでしょうと言わんばかりにそれ以上は聞きたくないというそれを出しながら)。
でもコーフィンさんはそんなアキにぃの真意を知らずなのか、それともそれを知っているけれど疲れの所為で突っ込むこともできないのか、コーフィンさんは項垂れながらアキにぃの言葉に対して頷きつつ、その後すぐにまた項垂れてしまい深い深い溜息を零す。
アキにぃはそんな先輩でもありゲームと言うきっかけを与えてくれたコーフィンさんの、きっと見たことがないその顔を見た瞬間何かを察し、堂々と手で制止をかけながら大丈夫と言わんばかりにそれ以上の言葉の発音を止める。
発音を止めたことでコーフィンさんの口からそれ以上の言葉は出なかったけど、もしゃもしゃがコーフィンさんの心境と、そして今の感情を私に教えてくれる。コーフィンさんは本当に後悔している。そして怒りを通り越して呆れているもしゃもしゃを出して、そのもしゃもしゃの根源でもあるティーカップの人達に対して、心底呆れのそれを出しながら……。
でも、正直なところ、こんな状況でコーフィンさんに向けて聞いたアキにぃは勇敢だなと思ったのは、私だけではない。きっとみんながみんな……、あ。厳密にはヘルナイトさんとデュランさん、クロゥさんとシリウスさん以外のプレイヤーの人達が思ったと思う。
だって、コーフィンさんの話を聞いて、誰もがこの世界の現状を、残酷な現実を知ってしまったのだ。誰もが言葉を失った真剣な顔でコーフィンさんのことを見ていた。
あの突っ込みをするキョウヤさんも無言のまま、言葉を失った顔でいたのだ。
コーフィンさんの話を聞いていた私もその一人で、私はアズールのことを見てきたと思っていたと思っていたけど、それはほんの一部であることを知ったと同時に、この世界は……、私達の予想以上に壊れていることを知って、言葉を失ってコーフィンさんのことを見ていた。
茫然と、トンカチで頭を殴られたと同時に頭の中にあった記憶や感情が一瞬飛んでしまったかのような、そんな衝撃と喪失感。
魚の腐敗についてはアルテットミアで見たことがある。
砂の国の貧富の差もクルーザァーさん達と一緒に行動している時に嫌と言うほど見てきたけど、まさかこの世界がこんなにも壊れていただなんて……、知らなかった……。
アクアロイアの海のことやまだ行ったことがない『魔の大地』、『白の大地』、そして天界フィローノアのことを聞いた時、まさかこんなにもアズールと言う世界が壊れていっているだなんて、知らなかった。
私自身、ヘルナイトさんやアキにぃ、キョウヤさんやシェーラちゃんに虎次郎さんと一緒に行動を共にしてきた。『八神』のために浄化をするために行動し、時には徒党を組んで戦って旅をしてきた。だからだろうか……、私は知っているつもりでいた。
でも、それは違っていた。
私は、全然知らなかったんだ……。知っているつもりの、知ったかぶりだったんだ……。
私は今の今までいろんな世界を見てきたと思っていた。アルテットミアやアクアロイア、そして王都にこのボロボ空中都市。アズールの知っている限りの国の半分を見てきたと、私は思っていた。
浄化の旅をしていることもあって、私達は私たちなりにいろんな国を回ってきた。いろんな国の色んな町や村を回ってきたと思っていた。思っていたのも結局はただの思い込みであり、コーフィンさんのように私は見ていなかった。
国や、その国で起きた自然災害を、私は見ていなかった。
だから私は言葉を失ってしまったのだ。
この世界が、こんなにも壊れかけていただなんて……。
そう言えばアルテットミアに着いて、アムスノーム国王が半分腐りかけた魚を見た時、『アクアロイアやアノウンは異常だ。
特にアクアロイアは砂の国と水の国……、どの国でも飢餓が発生している』って言っていたけど、コーフィンさんが言っていることはそれと同等……、ううん、それ以上の状態。
悪化の一途を辿るかのような、そんな状態。
「世界のことを見て旅してまわるほどの行動力……。すげーな。インドア派にあんたの武勇伝聞かせてぇよ」
「あんたの人生恥シリーズは今は聞きたくないけど、あんたってそんなに旅してきたのね。驚きよ白烏星人」
「儂は世界一周をしようとしたがそれも敢え無く挫折する羽目になってしまったが、お主のその行動、賞賛に値するぞっ」
「ナンダロウ……。一部俺ヘノディスリガアッタヨウナ……。気ノセイデアリタイ」
コーフィンさんの言葉を聞いて一瞬茫然とした面持ちと共に言葉を失っている状態でいたけど、その気持ちのままでいてはいけないと思ったのだろう。すぐに現実に意識を戻して、コーフィンさんのことを見て彼が行ってきたことに対して率直な感想を述べたキョウヤさんとシェ―ラちゃん、そして虎次郎さん。
でも……、コーフィンさんの言う通り、シェーラちゃんの言葉にはどことなくどころの話ではなく、かなりの棘が入っているような言葉で言っていたので、あながち間違いではないと思う。
キョウヤさん達の話を聞いていたコーフィンさんは再度深い深い溜息を吐いて、その後小さな声で「ナンデコウナッタンダロウ……。ナンデ俺ハ……」と呟きながら何度目になる伊のかわからないような溜息を吐いては首を傾げている。
きっとだと思うけど、コーフィンさんはきっと自分が犯した失態を未だに後悔しているみたいな、そんな雰囲気を放っている。
コーフィンさんのそんな姿を見て、なんだか哀れだと思いながらおずおずと言った形でエドさんは彼に向けて躊躇いがちに挙手をしながら聞いてきた。
「えっと……、コーフィンさん……、でいいんですよね?」
「アア。俺ハコーフィンダ。ドウシタンダ巨人族ノオ方」
「そんな大それた言い回ししなくても……。えっと、あなたがこの世界のことについて考えて、行動していることに関しましてはよく理解できました。おれ達もそこまで深く見ている時間はなく、言い訳がましくなってしまいますがあなたのお話を聞くまでそこまで深刻であること自体知りませんでした」
「ソウカ……、ヤッパリ殆ドノ奴ハ見テイナイウンダナ。アノ現状ヲ」
「ええ。お恥ずかしいですけど、おれたちの場合それをしている暇などなかったので。本当のこととはいえあまりにもこの世界のことを見なさ過ぎたおれ達にとって、世界の深刻さの証言は衝撃的でした」
「ソウカ……。誰ガ聞イタトシテモ衝撃ダロウナ」
「ええ、見ていない分相当……」
エドさんはコーフィンさんの向けて言う。それはもう」俯くようにため息が出そうな雰囲気で、もしゃもしゃも驚きと困惑、そして微かな悲しさも帯びながら、エドさんはコーフィンさんに向けて言う。
私自身もエドさんと同様のことを思っていたのは事実だ。
この世界がゲームの世界であることは重々分かっている。
わかっているんだけど、それでもこの世界のことを考えると、他人事とは思えないのも事実だし、それと同時に気付けなかったことに対しても憤りを感じてしまう。
憤りの矛先は――私自身。
だって浄化の旅をしているのにそんな深刻なことにも気付けなかった自分がとてつもなく恥ずかしいし、この世界はヘルナイトさんやデュランさん、シリウスさんやクロゥさん、今まで出会ってきた人達の愛する故郷なのに、その故郷の深刻さを私は知ることができなかった。
そう思いながら、私は背後にいるヘルナイトさんのことを横目でちらりと振り向き様に見る。視界の端に入ったヘルナイトさんはコーフィンさんの話を聞いて腕を組んでいるデュランさんとは正反対に、背筋をピンッと伸ばした状態で、凛々しいというか、凛としている面持ちでコーフィンさんの話を聞いている。
コーフィンさんの話を聞いて、一体何を思っているのかだなんて私にはわからない。感情を見るという力はあるけれど、その心の中をのぞくようなことは出来ないし、心を読むという力などない。
感情を見ることしかできない私だからなのか、それとも私の知らない本心がそうさせているのかわからない。でも、私はヘルナイトさんを見て思った。
ヘルナイトさんは、その話を聞いて、一体どんな気持ちを抱いているのかな……?
抱いているのかなとか簡単に言うことではないのだけど、率直に、素直にそう思ったのは事実。ヘルナイトさんはコーフィンさんの話を聞いて何を思っているのか、私は気になってしまったのだ。
ヘルナイトさんやデュランさん、シリウスさんやクロゥさんにとって、この世界は故郷。その故郷の現状を聞いて、且つ記憶がないデュランさんやヘルナイトさんはコーフィンさんの話を聞いて、何を思ったのだろう。
何を思い出したのか、何を思っているのか、一体心の中では、何を思っているのか。
感情のもしゃもしゃを出さない分その気持ちがより一層気になり始め、私はヘルナイトさんのことを横目で、振り向きの姿勢のままじっと見つめる。
見つめたまま私はヘルナイトさんのことを見て、見て、一体何を感じているんだろうと思って……。
ザザザザッッ!
ザザザザザザッッ!
「――あれ?」
今、なんでノイズが入ったの? それに、私の視界……、一瞬……。
「? どうしたのよハンナ」
「あ、えっと」
突然の光景に驚いた私は思わず声を零して、ヘルナイトさんのことを振り向き様のまま見ながら目を見開いて、横目でヘルナイトさんのことを再度見つめ直していると、隣にいたシェーラちゃんは疑念を含んだ声で聞いて来る。
それを聞いた私ははっとしてすぐにシェーラちゃんがいる隣を見て、首を傾げながら私はシェーラちゃんに向けて「な、何が……?」と聞くと、シェーラちゃんは私のことを見たまま溜息交じりに……。
「何がって……、あんた突然『あれ』とか言ったから、何かが見えたんじゃないかとか、また敵襲かと思って聞いたんだけど……、その間抜けの顔を見る限りそんなことじゃないみたいね」
と言って、シェーラちゃんは深い溜息を吐いた後私から視線を逸らして、コーフィンさんに再度視線を向ける。
……どことなく棘がある言葉だけど、シェーラちゃんの話を聞いていた私は半分乾いた笑みを浮かべて「あはは」と言う言葉を零すけど……、正直な話、あんな光景を話したところで信じてくれないだろうなと思っていたので、私は半ば誤魔化すような素振りをしたのが事実。
きっとあの光景をアキにぃ達に言ったところで、信じてくれないどころか『疲れているんだろう』で片付けられてしまうのがオチだから。
そう……、あの時ヘルナイトさんを見た時に聞こえたノイズと砂嵐。
あの時、ヘルナイトさんのことを見ていた時、突然ヘルナイトさんの顔を隠すように砂嵐の映像が現れて、ノイズが出始めたと思ったらその後すぐに砂嵐の一部が剥げて、ヘルナイトさんの顔の一部が見え始めたんだけど……、その時見た顔を見た瞬間、私は声を零してしまったのだ。
なにせ、あの時見た顔は、砂嵐の荒れがはげたその箇所から覗いたあの顔は、ヘルナイトさんの甲冑の顔ではなく、凛々しくて厳しい顔をしている漆黒の目が印象的な、人間の顔だったから……。
人間の顔。現実世界でよく見る様な人間の顔で……、そして、あの目元を見た瞬間、アルテットミアで思っていた『あの眼を、どこかで見たことがある』や、ヘルナイトさんに対して『どこかで会ったことがありますか?』と言う疑念が、確信に変わり、私はヘルナイトさんのことを横目で見た瞬間、その顔の一部を見た瞬間思ったのだ。
私は――ヘルナイトさんと出会っている。ゲームの世界で知り合ったのではなく、現実世界で知り合った関係だと。
そう思っている中でも話と言うものは続いていて、コーフィンさんの話を聞いていたアキにぃはコーフィンさんに向けて――
「それで、ボロボに来てなんで俺達の前に現れたんですか? それもこの集団と一緒に」
と疑問の言葉をかけると、その言葉に対してコーフィンさんは何度目になるのかわからないような溜息を吐くと、そのあとすぐに気怠そうな音色で私達に向けて言う。
「ソノコトニ関シテモ追々言ウヨ。今ハ簡潔ニ、俺達ガココニ来テイルノカヲ話スカラ」
コーフィンさんは言う。ペストマスクをしているから彼が一体どんな顔をしているのか、そしてどっちに視線を向けているのかもわからないけど、それでも雰囲気からコーフィンさんの視線は未だに正座をして俯いて黙っているティーカップの人達に向けているのは見てわかっていた。
キョウヤさんや京平さんもコーフィンさんのことを見て難儀と言わんばかりの音色で「「後悔が憤りに変わっている (べ)」」と言う。もうコーフィンさんの視線が仮面越しでもわかっていたかのような言い方で、そしてコーフィンさんの心境も分かってしまったかのような音色で……。
…………相当失望したのかな……? このティーカップの人達に対して……。
そんなことを思っていると、コーフィンさんは親指を突き出すような手 (グーサイン)に変えて親指の先をティーカップの人達に向けると、コーフィンさんは私達に向けて簡潔に話をしだす。
なぜこうなってしまったのか。その事実を――
「最初ニ言ッテオクケド、俺ハコノ国ノ魔女様に頼マレテココマデ来タ。最後ノ試練ノ場所デモアル『鬼ノ郷』ヘ案内スルタメニナ。コイツラトハ縁切ロウトシテイタ時ニ言ワレタカラ、コノコトヲ知ッテイルノハ俺ダケダカラ」
『ん? え?』
簡潔に、あろうことか衝撃の事実を知って目を見開いてしまった私達に対してあっさりと告げて……。
本当に、あっさりと……。




