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PLAY101 長い一連の種明かし③

『本気で言っているのか? この意見に賛同できないのか? なぜ賛同できない?』

『××××サマ、今は一刻も早い対策が必要デス。お知り合いということは聞きマシタ。ですがこの場所は鬼族の郷。この郷は人間族至高の砂の国の元王も恐れた場所でもあリマス。鬼族を敵に回すことは死に直結するのデスヨ? 今は我々の存亡の確保が第一優先事項と計算し、そのことを踏まえ『蘇生』という高等技術を持っている少女に協力を仰ぐことを推奨シマス』


『自分が指導した後輩の妹で? その後輩はその妹のことが大好きで? そんな兄妹は今浄化の旅をして世界を回っている。俺達のために危険な目に遭いながら行動しているからそんな心身削る様な事はしないでほしい? そんな甘い思考回路で、まさかのドッキリが好きではない質と言う事はよーくわかった。いいや、このドッキリはただの建前で、本当の目的は重鎮の蘇生だ。一刻も早く行動しなければいけないんだ。わかってくれ――これは我々の……、って、おい××××ッ。どこに行くんだ?』


『なに、そんなことしたくないから別行動だと? どこに向かう……、って、何も言わずに行くのかっ? そんな非常な男だとは思わなかったぞー! 今なら許してやるから戻ってこーいっ!』



 ◆     ◆



 最後の試練の場所に行くという簡単な行動の最中に起きた突然の奇襲。


 それは冒険者達が企てたことでもあり、その企てによって負傷してしまった善のためにシロナが怒りの矛先をその冒険者に向けるという衝撃の連続が繰り広げられている状況。


 色んな出来事が解決する最中、その状況の中で起きる戦火の中――狐の亜人の激痛の叫びを上げたが、今回はその叫びが起きる少し前に時間を遡る。



 □     □



 ドォンッ! ズドォンッ! ギィンギィンッ! どがぁんっ!


「すごい音が響いているね……」

「下の状況は現在進行形ですごいことになっているよー。でもリカは見ない方がいいと思うなー。これは凄いよー? 別の意味で」

「どころか……、最後の試練の場所に向かう道のりが、まさかこんなことになってしまうとは……。思っても見なかったです」

「俺だって思ってもみなかったし、誰だってこんな結果想定なんてできなかったって」


 ヘルナイトさん達が地上に降りてから少し時間が経った。


 少し時間が経ったのか、長い時間が経過したのかはわからない。


 そのくらい轟音ともいえる様な、工事現場のような騒音に近いような戦闘の音がクロゥディグルさんの背からでも大きく響いていたのだ。


 その音を聞きながら私は善さんの回復に勤しみ、そしてその近くでリカちゃんが負傷して寝ている善さんの傍らで心配そうな顔をしながら回復の経過を見守っている。


 こんな時、アルケミストの錬成したアイテムがあればよかったのでは? という思考もあるかもしれない。いいや、あるだろう。私自身もそう思ったし、リカちゃんの所属は武器、アイテムの錬成ができ、未知の物やレアな物、そしてすごい効果を持っているアイテムの錬成だってできる所属――『アルケミスト』でもある。


 この世界を旅している最中――Zやルビィさんがその所属の人で、どんなものを錬成して作ったのかは見ていないからわからないけど、メグちゃん曰く……、とても機転が利く所属と言っていたのを覚えている。


 考えなくても分かることかもしれないけど、素材さえあればどんな物でも作る――まるで近未来の技術みたいな光景。普通は魔術の一つみたいなことを聞いたけど、私の目からしてみればそう見える。


 でもリカちゃんはZやルビィさんのような技術はまだないらしく、作れるとしても小回復ができる回復薬しか作れないみたいだ。武器もあまり作れないみたい。


 だから現在は私の回復スキルを使って善さんの傷を治しつつ、下の戦闘を見ていたクロゥさんとシリウスさんが何かを話しているという現状の中――私達は下で巻き起こっている戦闘の状況を音で見守っているということだ。


 シリウスさんとクロゥさんは見ているから鑑賞しているんだけど……、私やリカちゃんは善さんの近く――つまりは足元が安定しているところ (背中の中心)にいるため見ることができない。いや……、善さんを置いていくことなんて絶対にできない。


 善さんはあの時、最初私達に向けて襲撃をしてきたティーカップの人の知り合い――エルフの暗殺者の攻撃を受けて重傷を負った。そのせいでシロナさんは怒りに身を任せてしまっているのが今の現状。


 その現状を止めるために、きっかけとなった善さんの負傷を癒すため、今私は回復スキルを使っているということだ。


 未だに、騒音のような攻撃音を聞き流しながら……。


 私は現在善さんの傷に向けて『大治癒』をかけている。


 そのスキルは回復スキル系統の中でも最高のスキルでもあるので、そのスキルを使えばすぐに傷も治ると私は思っていた。


 思っていたのだけど……、なぜなのだろうか、善さんの傷の治りが、()()()()()()()()と思っていた。


 普通なら、すぐに傷が癒えて善回復するのが普通の光景だった。


 それは私は何度も見たことがあるし、アキにぃ達の傷を癒している時だってすぐに傷が癒えた。


 でも、善さんは対照的に――遅いのだ。


 なんでこんなに遅いの? まさか、あのエルフの人に変なスキルでも付加された? 『(ポイズン)』とか……、別のスキルを……?


 でもそんな雰囲気はなかった。


 ただ斬りつけられたみたいに見えたし……、それに攻撃をされたのは善さんの影の骸骨さんだった。


 だから善さんに対して『毒』などの状態異常の付加をかけることは出来ない。


 と言うか、至近距離特化の『スレイヤー』なら、そんなことできないのは私でもわかる。


 だから、『毒』とかで治りが遅いんじゃないんだ。きっと、何か別の理由……、種族に問題があるに違いない。


 そう確信した後、私は何度目になるのかわからないけど、もう一度と言わんばかりに善さんの顔色、そして傷の治り具合を見降ろす。


 黄色い靄がその傷の箇所に纏わりつき、その靄が傷口に入り込んで傷つけたその箇所を自己修復するようにどんどんと負傷から元の体に戻っていく善さんの傷跡。痣だったところも元の肌に戻り、少しだけ切り裂かれてしまったところも傷口が一人でに動き、そのまま傷と傷が合わさって塞がっていくような――治ると同時に微かな生々しい音が響いている……。そんな光景が私の目の前に広がっている。


 でも、私が『大治癒』などの回復スキルを使うと生々しい音なんて聞こえない。


 そのまますぅっと……、傷があったところが消える様な、そんな回復が私が何度も見たことがある光景……、なんだけど、回復をしている最中、()()()()()()()()()()()()()()()()()で、私は困惑しながら善さんの苦しそうな顔を見て、そしてもう一度傷の治り具合を見て疑念が仮定に、仮定が確信に変わり、私は思った。


 これはきっと……、善さんは回復スキルを受けると逆に傷が悪化してしまう悪魔族のような特色を持った種族なのかもしれない……。


 と――


 だから私の回復スキルを使ってもこんなにも回復が遅いのだろう。悪魔族だから、きっと回復が遅いのだと……、そう私は頭の中でカタカタとロジックの様に組み立てて、そして証明を組み立てていく。


 しょーちゃんの時もそうだったし、ティズ君の時もリンドーさん達が必死になって止める程、悪魔族は回復属性を使ってしまうとHPが回復するのではなく、逆に負傷してしまうという真逆の特性を持っている。それはティーカップの人に与えた時を思い出せは明白。


 論より証拠とはそのことで、善さんのこの傷の治りの遅さは、それに類似しているようにも見えた。


 まるで……、悪魔にとって天敵ともいえる力を受け付けたくないけど、それを受けないと回復しない。だからそれを受け付けるという、なんとも矛盾している状況を体現しているようなそれを見つめながら……。


「う……っ。ぐ……っ」


 傷の治りが遅いそれと同時に善さんが痛みを感じているのか唸り声を上げる。びくりと仰向けになった体に電流が走ったかのように、小さな痙攣を起こす。その光景を見た私ははっとして善さんのことを見降ろすと――


「ぜ、善さん……っ! 大丈夫です! 後少しで終わりますから……、頑張ってください! 私も頑張りますから」


 と、善さんのことを安心させるように言葉を発した。


 自分で言ったにも関わらず、まるで自分に言い聞かせているような言動に、私は内心少しの混乱に翻弄されていた。


 こんな事態に対して、焦りだけが募る様なこの現状に……。


 そんな中――


「おねーちゃん……」

「!」


 今の今まで自分で言い聞かせるように混乱から落ち着きを取り戻そうとしていた私の横で、リカちゃんが声を掛けてきた。


 リカちゃんの声を聞いた私ははっとしてすぐに彼女がいるその場所に視線を向けつつ、善さんの回復に力を注ぐと、リカちゃんは善さんのことを見下ろし、今まで見てきた天真爛漫な顔が消え去ってしまったかのような顔で――不安そうな顔を私に見せながら言う。


 震える声で、心や体の中に巣食ってしまったその不安を口から、言葉にして吐き出すように、リカちゃんは私に向けて言葉を発した。疑問と言う名の――不安を。


「善……大丈夫なの? すぐに元気になる?」

「……うん、元気になる。だって回復スキルかけているから大丈夫だよ。だからそんな不安そうな顔しないで? 善さんは絶対に大丈夫だから。絶対に――元気になるから」


 リカちゃんの不安そうな顔と音色を聞いた私は、リカちゃんの体からどんどんと零れ出て、蛸の様に体に纏わりつくように彼女の体に不安のもしゃもしゃが噴き出してくる。


 どろどろと、黒と青、紫と言った暗い印象しか出ない色を帯びたもしゃもしゃが彼女の体を後ろから抱きしめるように覆う光景を見た私は、リカちゃんのことを安心させるように、優しい音色で控えめに微笑みながら言葉を発する。


 よく言う……、自分に言い聞かせるように、私はリカちゃんに向けて言う。


 本当は、私自身が治りの遅さを見て困惑と混乱、そして不安を抱えてしまっていたのかもしれない。こんな事例と言うか、こんなことは初めてのことで、一体どうすれば善さんのことを早く目を覚まさせることができるのかと、一種の焦りから生じる不安を抱いていたのかもしれない。


 それは本当に焦り交じりの不安なのかはわからないけど、私は今まさに不安真っ只中に陥っているリカちゃんに向けて声を掛けると……、リカちゃんは私の言葉を聞いた後で苦しそうに魘されているような声を出している善さんのことを見下ろし、そしてその状態でリカちゃんはまたもや唐突に言葉を零しだした。


「………………本当に、元気になる? もう、()()()()()()()()()()()()()()()?」

「?」


 リカちゃんは言う。私に向けて、善さんは元気になるのか。


 その言葉に関しては私も即答で『うん、元気になる』と断言をしようとした瞬間、リカちゃんは続きと言わんばかりに言葉を零す。


 不安そうな音色と共にリカちゃんは簡単で、それでいて重く感じてしまうような一言を発した。




「善も、()()()()()()()()()()()()、リカを置いていったりしないよね……?」




 リカちゃんのその言葉を聞いた瞬間、私は驚きのあまりに表情筋が硬直した。がちんっと、筋線維に凍らせる冷気が当たったかのように、一瞬冷凍されてしまったかのような、そんな硬直をした後、私は――あぁ……、そうか。と、リカちゃんのことを理解した。


 リカちゃんは多分、死に関してものすごい恐怖を抱いて……、ううん、死に関して大きなトラウマを抱えている。と……。


 言葉からでは深いところまでリカちゃんのことを知ることは出来ない。でもリカちゃんの言葉を聞いた瞬間、頭の中に色んなことが駆け巡り始めると同時に、私はリカちゃんが抱えているトラウマはきっと、両親の死をきっかけに生まれてしまったこと、そしてその死に関してリカちゃんは凄いストレス……恐怖を抱いていると。

 

 私も小さい時、おばあちゃんやおじいちゃんに対して『死んじゃいやだ』って駄々をこねて泣きついていた時があった。その時は人の死に関して疑問に思っていた時期でもあり、おばあちゃんやおじいちゃんが死んだらって思った瞬間、思っただけで喪失感と恐怖、悲しさが込み上げてきたことを、今でも覚えている。


 きっと、リカちゃんは()()()()()()()()()()()で、その『死』と言う言葉自体に対して、『死』と言う場面に対して、『死』を予兆させることに対して、強い負の感情を抱いているんだ。


 善も、()()()()()()()()()()()()、リカを置いていったりしないよね。


 その言葉がより一層リカちゃんが『死』と言う言葉を、『死』と言う場面を強く嫌っているということを知らせている。


 リカちゃんの心の内を一瞬見てしまった私は未だに俯いて不安そうな顔ともしゃもしゃを出しているリカちゃんのことを見て、表情筋の硬直が治ったところで私はリカちゃんの名前を優しく、宥めるように呼ぶ。


 その言葉を聞いたリカちゃんは驚きの声を上げると同時にパッと私の顔を見るために顔を上げると――リカちゃんは私のことを見上げながら不安そうだけど、驚きも混ざっているような顔をしている。


 その顔を見た私はリカちゃんのことを見下ろし、善さんへの回復に対しても手を抜かない姿勢をしながら、私は言う。リカちゃんのことを安心させるために……、本当の意味で安心させるためにも……、私はリカちゃんに向けて言う。


「大丈夫。善さんの傷は絶対に私が治すから――善さんを絶対にリカちゃんから離れさせたりしないから」

「ほ、本当……? 本当に本当に善、お母さんとお父さんのところに行かない?」

「うん。行かないよ。ううん、行かせない――大丈夫。だからリカちゃん、善さんが元気になる様に見守っててほしいの。善さんがすぐに元気になる様に、手を握っててほしいんだ。できる?」

「手を握る? それだけでいいの? それだけで善さん元気になるの?」

「うん。ぎゅっと両手で善さんの手を握って、『元気になれ』っておまじないをかけてほしいの。できる?」

「それをしたら、善リカを置いて行かない?」

「うん。断言する。大丈夫だよ」

「………うん! リカそうする! 善が起きるなら、何でもするっ!」


 そう言って、リカちゃんは私の言葉――お願いに対して即行動と言わんばかりにこくりと頷きを見せると、リカちゃんはすぐに善さんに視線を向け、そして徐に近くにあった善さんの右手に左手を差し入れて、そのまま自分の方に向けて持ち上げて近付けると、リカちゃんは右手で善さんの手を隠すように覆い被せる。


 ぎゅっと――小さな手で善さんの手を温めるように握って……。


 その行動をするリカちゃんのことを見ていた私は、心の中で安堵の息を零し、これで少しは大丈夫かな……? と思うと、再度善さんの回復に集中しようとした時、再度リカちゃんの声が私の耳に入ってきた。


「おねーちゃんっ!」

「!」


 今度は今までの不安な声とは違い、明るく、今まで聞いてきた声でリカちゃんは私のことを呼ぶ。その声を聞いた私は驚きと同時に肩を震わせ、そして驚きながらリカちゃんのことを見ると、リカちゃんは私のことを見て、善さんの手を今でも両手でぎゅっと握った状態で次の言葉を言ってくる。


 驚きの顔に混ざった安心と、そして希望に満ち溢れた顔で、リカちゃんは私に向けて言う。


「善の手……、あったかい。善、大丈夫なんだね……っ。お母さん達のように、冷たくない……」

「……うん。そうだよ。生きようと頑張っているんだよ。だから応援してあげて。ね?」

「――うんっ!」


 私はリカちゃんの希望に満ち溢れると同時に、無意識なのだろうか、ぼろりと零す涙を見ると、私は頷いた後で控えめに微笑んでリカちゃんに言い聞かせる。


 なんだろうか……、お母さんみたいになったかのような感覚になり、自然と優しい音色になる自分に対して驚きを隠せない。これが……、母性って言うものなのかな……? 私、赤ちゃん生んでいないけど……。


 私の言葉を聞いたリカちゃんは再度頷きを見せ、善さんのことを見下ろしてから再度ぎゅっと善さんの右手を両手で覆い、優しく包み込むように握る。


 リカちゃんの優しいその行動を見て、暗い印象がむき出しになっていたもしゃもしゃが今では明るいというか、素こそだ毛光が差し込んだ温かいもしゃもしゃになっている。まだ暗いそれはあるけれど、前と比べたら全然明るい方が大きいそれになって、それを見た私は再度笑みを浮かべる。


 ――リカちゃんのためにも、シロナさんのためにも、何とかして回復しないと。


 私はそう決心を固め、すぐに回復に再度力を入れる。未だに治りが遅いけど、それでも絶対に治す意思を固めて……。



 ◆     ◆



 ハンナとリカの話を横流しで、ところどころ聞いていないところがあるが、それでも要所要所のところを聞き取っていたシリウス。視線は依然と地上にいるヘルナイト達に向けていたが、それでもハンナ達の方にも聞き耳を立てて脳にその言葉を刻んでいく。


 善のことやリカの不安。そしてハンナの励ましの言葉を聞きながら、シリウスは地上の光景を見て、戦闘を行っているその光景を見ながら彼は思い出していた。


 彼が思い出していたことは、今となってはどこにいるのかわからないがそれでも生きている存在にして、前の『聖霊王』であり『12鬼士』の名を背負っている異質な二つ名の持ち主――『慈愛の聖霊』――聖霊魔王族・ディーバのことを……。


 ディーバは確かに『12鬼士』であり、そして前聖霊族の王でもある存在だが、シリウスはそんな彼女の存在を快く思っていなかった。


 むしろ――嫌悪と言うそれしか感じなかった。良い心地など、一ミリもなく、ただあるのは……、ディーバに対しての気色悪さだけ。ハンナやリカのような優しさではない異常で粘り気のあるような歪んだ思考を、彼は何度も体験している。


 前にショーマ達の前に現れた時、彼女は『偽りの仮面使』のことを拷問のように、無慈悲と言わんばかりのやり方で倒した。それはショーマ達が嫌悪感を剥き出しにするほどの無慈悲であり、彼女の歪んだ感情――歪に変形してしまった深い愛を垣間見た瞬間でもあった。


 シリウスはそんな深い愛を何度も見てきた。


 アズール(この国)を我が子のように愛する彼女にとって、アズール()を変えてしまった『終焉の瘴気()』は絶対悪。


 国を壊した闇を塵一つ残さず、そして無慈悲に、無情に、希望など与えず苦しめながら壊す。


 それこそがこの国のことを何よりも第一に考えて行動している『慈愛の聖霊』が成すべきことだと、彼女本人から聞いていたシリウス。


 母が子を守る様に、ディーバもアズールを守るために、弊害を跡形もなく、苦しめながら壊す。


 それこそがディーバの本質。


『慈愛の聖霊』の名の由来ともいえるそれを思い出し、そしてそれを思い出すと同時にハンナやリカの優しいその言葉を聞きながら、シリウスは思っていたのだ。


 この国のことだけしか考えていないディーバ(前聖霊王)は、最悪地上にいる人のことなんて二の次三の次にしてしまうかもしれない。まだそのことに考えが回っているだけましだけど、彼女が愛しているのはこのアズール。つまり……、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 そんな愛を貫いて生きてきた『慈愛の女王』に対して、彼女達っていう存在を、優しさを見たら、どうなるのだろう……?


 この国のために、巨悪を()()()()()()()()()()()()()()()()()()()我が母にして最も自分が親として愛しているディーバを……。


 そう思考を巡らせたシリウスであったが、少し考えた後で頭を振るうと小さな溜息を零し、そして――まぁそんなことがあったとしても変わらないだろう。何があったとしても。そして――()()。と思いながら、彼は今目の前で起きていることを見守ることに専念をする。


 ――今は善が回復することを願いながら、この光景を見守ろう。それが今できることだからな。


 そう思い、シリウスは無意識なのか、緩く握り拳を作っていたその手に力を入れ、ぐっと握りを強くして三度地上の光景を見降ろす。


 瞬間――ばぁんっ! という乾いた音が辺りの空気を細かく揺らし、その揺れと同時にシリウスとクロゥディグル、ハンナとリカの鼓膜を大きく揺らし、反射が働いた瞬間彼等の肩が大きく上下に揺れる。


 びくり! という震えを発したと同時にシリウスは何があったのだろうと思いながら視線を音がした方向に向けると、視線の先にいたのは――ヘルナイトの魔祖によって閉じ込められていたペストマスクの男、コーフィンが上空に向けて銃口を向けている光景だった。


 ――あの鳥人間 (ペストマスクと言うものを知らないシリウスはこの時、コーフィンのことを鳥人族だと思っていた)、ジュウなんて使えたんだ。一体何があったんだ?


 銃口を上空に向けて、ヘルナイト達に向けて何かを言っているコーフィンのことを見ながら、シリウスは首を傾げながら立っている体制から腰を下ろし、その場で座り立ちをするような体制になるとその状態で見降ろす。


 立っているのも疲れたが故の行動であり、その行動を見ていたクロゥディグルはシリウスのことを見て「大丈夫ですか?」と聞いたが、それを聞いたシリウスは「あー。大丈夫だよー」と言い切ると、クロゥディグルは地上にいる狐の亜人や女騎士達のことを見下ろし、そんな彼等のことを見てからクロゥディグルはシリウスに向けて、シリウスに視線を向けずに声だけで彼は聞いた。


「シリウス様……。彼等はなぜ、襲撃者はなぜ、我々を狙ってこんなことをしたのでしょうか……? なにか……、理由があって襲撃をしたのでしょうか?」

「? あぁ……、それね。多分運が悪かった。というか、こうなることはもしかしたら、必然……。来るべき未来だったのかもしれないよ? それになんでこんなところで俺達を狙ってきたのかなんて知る由もないって言うか、その人の心の中なんて覗くことなんてできないからそんなこと聞かれてもわかんないよ」

「そうですね……。申し訳ございません」

「だね。それに……、『人の思考こそが未知の領域』って前聖霊王だって言っていたし。『人の思考を読むことができた瞬間、人として終わる一つの境界の破壊』だって言っていたような気がするけど……まぁ要は人間や思考を持つ者の思考を読むことは出来ない。結局こうなることは時間の問題で、運が悪い事が相まってこうなってしまった。って思っておこう」

「………………………」

「それに、戦いっていうのはいつか終わるものだし、それにこっちには最強の鬼士がいるから安心しようよ」


 そう言ってシリウスはにっと犬歯が見えそうな笑みでクロゥディグルに向けて言うと、その言葉を聞いたクロゥディグルは大きな竜の首を動かし、その目でシリウスのことを捉えると、彼は少し納得がいかないような不安で、どことなく心配な顔をしていたが、シリウスの言葉を聞いて無理やり自分を納得させたかのように目を閉じ、頷きながら「そうですね……」と言葉を零す。


 クロゥディグルの顔を見てシリウスは内心同情しつつ……、心の中で――まぁ、混乱するのは分かるけどねー……。と思いながらクロゥディグルのことを見上げて頬を指の先で『ぽりっ』と掻いた。


 その瞬間――彼等の耳にもあの声が大きく鼓膜を揺らし、脳を刺激した。


 


 ――ガンッッ!




「あいったーっっっ!!」




「「「「っっっ!?」」」」

「んぁっっ!?」


 狐の亜人の叫びと何かを殴るような音がハンナ達の耳に入り、善の耳にも入ったらしく、完治されていく体を大きく揺らし、まるでお目覚めの朝と言わんばかりの顔で間の抜けた声を出すと、クロゥディグルの背にいた四人とクロゥディグルは再度肩を揺らす。


 今度は目も飛び出そうなほどの驚きを体で感じながら……。

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