PLAY101 長い一連の種明かし②
バァンッッッ!!
『!』
『!』
『!』
突如として『飢餓樹海』であったその場所に響き渡った乾いた音。
その音は誰もが聞いたことがある音で、その音を記憶してしまい、何度も何度も脳内再生されるほど聞いているキョウヤ、シェーラ、虎次郎、ヘルナイト。
四人はその音を聞いた瞬間その音の正体が銃声であることを察すると同時に、銃を持っている存在がいるであろう背後を素早い動きで振り向く動作をする。
それはハンナも同じで、彼女に至っては善の治療をやっと終え、それと同時にリカに向けて「善さんのことお願いね」と言った後でリカの返事を聞く暇もなくそのまま立ち上がると、音の根源である方角に向かって駆け出し、ぎりぎりのところ――つまりはクロゥディグルの背中の端まで駆け寄ってからその場でしゃがむと下を覗き込むような動作をする。
勿論――帽子が落ちないように手を添えながらの覗き見る行為である。
ひょっこりとまるでモグラ叩きのモグラの様に顔を出すハンナであったが、下にいたヘルナイト達はハンナが覗き見ていることに気付くことはなかった。そのくらいその渇いた銃声と、その銃声を放った人物――ヘルナイトの技『地母神の岩窟盾』の中にアキと一緒に閉じ込められていた人物のことが、その手に持っている拳銃がヘルナイト達にとって衝撃的であったのだろう。
何せ――アキと一緒に閉じ込められていた存在コーフィンは、右手に収まっている拳銃……、現実世界では『ルガーP〇八』と呼ばれている拳銃 (この世界では『KILLER』と呼ばれている)を雲一つもない真っ青な空に銃口を向け、鳥がいるでもないにも関わらずコーフィンはその天空に向けて弾丸を放ったのだから無理もない話だ。
はたから見れば何の真似だといってしまいそうな無駄な行動。
プレイヤーにとって、スナイパーにとって弾丸の無駄遣いは初心者のすることでもあり、上級者がそれをすることは絶対にありえないのだから、コーフィンの背後で見ていたアキは唖然としながら「コ、コーフィン……、ふぁん?」と、あんぐりと開けた口でなんとも間の抜けた声を発してしまう。
だが、そんなアキのことを無視して、コーフィンは点に向けて銃口を向けている銃の引き金に差し入れている指を少しだけ動かし、その時に生じた『かちゃ……』という音を小さく奏でながら、コーフィンはペストマスク越しに口を開いた。
独特のカタコトを発しながら……。
「一体全体ドウナッテイルンダ? 説明ヲ聞イテモ意味ガ分カラナイ。ドウイウコトナノカ――俺ニモ分カル様ニ説明シテクレ」
コーフィンは言う。言葉から察するにどうやら秋から説明を聞いたのだろうが、それでもペストマスク越しからでもわかる理解できないという納得できない雰囲気が漏れ出している。
その漏れだした納得できないという感情を剥き出しにしながら、コーフィンは銃口を天に向けつつも視線はヘルナイト達に向けて要求を口にする。
もっと詳しい――自分が理解できるような説明を要求して。
コーフィンの言葉を聞いていたハンナはクロゥディグルの背中からその光景を見降ろし、その場所でシリウスとクロゥディグルと一緒に首を傾げながら目を点にして見降ろしていた。
頭上に浮かび上がる疑問符が彼女達の気持ち――一体何を言っているんだという気持ちを代弁するような面持ちを浮かべて……。
ハンナ達の気持ちはどうやら他の誰もが思っていたらしく、エド達はコーフィンの言葉を聞いて首を傾げ、狐の亜人は驚きの顔を浮かべながらよろめきの立ち上がりをしてコーフィンのことを見ると……、コウガ達に至っては顔中のしわを浮き彫りにするような顰め方をしてコーフィンのことを見ている。明らかな嫌悪の顔であるが、対照的に女騎士は驚きの顔を浮かべながら地上に何とか着陸し、『げほっ』と咳込みながらコーフィンのことを見ていた。
それぞれが驚きの顔をしている最中、コーフィンの言葉を聞いていたヘルナイト達はコーフィンのことを見て、互いの顔を見て頭上に疑念のそれを浮かべて、「「「「?」」」」という雰囲気を浮かべていると、ヘルナイトの前にいた機械の男は驚きのそれを機械のそれで浮かべながら……。
『なんなのデスカ?』という声を出してコーフィンのことを見ていた。
先ほどまでの戦慄の空間が嘘のように、辺りには静寂と言う名の人為的なものが広がっていた。
いいや、戦慄も人為的ではあるが、今回の人為的は少しだけ特殊でもあった。
なにせ、今回作り出された人為的な戦慄は純粋な気持ち――止めたい感情と怒りと言う感情が混ざった結果がこの人為的な戦慄を作り上げたのだが、コーフィンの手によって放たれた静寂もまた特殊であり、この静寂は物による強制的な静寂。つまり……、強制的な静寂。
脅迫が混じったものに等しい。
そのせいか、誰もがコーフィンの手によって作り上げられた静寂を壊すことができず、困惑と混乱と言う感情を表に出して黙っているだけだった。
きっと、こんな空気が長く続くかもしれない。いいや、絶対に長くなってしまう。
銃を使ったことが仇になったか。
そんなことを頭の片隅で思いながら、コーフィンはマスク越しでしまったという顔をして、天に銃口を向けていたその行為をやめようと、銃を持っている手を動かそうとした。
その時――
「何が分かるようにだっ! 見ればわかるだろうがっっ!!」
「!」
突然、コーフィンの耳に突然入ってきたその大声。その声はコーフィンや他のみんなの鼓膜を突き破るほどの声量で、まるで声の弾丸の如く叫んだ人物は驚いて動きを止めてしまったコーフィンに向けて続けて叫んだ。
驚いて固まってしまったコーフィンに向けて、叫んだ張本人――シロナは叫んだ。あろうことか、ワイバーンと化している京平の足の拘束を受けている状態で暴れながら、彼女は暴露と言う名の言葉を放った。
「悪魔野郎と耳長野郎の所為で善が重傷になって、その仇を討とうとしたらヘルナイトが邪魔をしたらそこにいる狐野郎とオカマ野郎とゼンマイ仕掛け野郎が出てきて乱闘になったんだろっ!? なんで見てわかんねぇんだよっ!」
「いやわかんねえべっ! お前案外説明へたくそだべなっ! そんな説明じゃあの烏野郎もわかんね! てか暴れんなっ! あぶっ! えぶ! おぶ! いででででっっ! おい俺を殴るなこんの女ぁっっ!」
「うるせぇ爬虫類バケモン! 兎に角放しやがれぇぇぇぇっっっ!」
「ナルホド、全然ワカラン」
誰もがシロナの話を聞いて思ったであろう。まぁ京平もコーフィンも代弁をてくれたので話さなくてもいいのかもしれないが、それでも言っておこう。シロナ、京平、コーフィン以外のハンナ達リヴァイヴ、エド達レギオン、コウガ達はこんなことを思っていた。
それな。
と――
誰もがコーフィンの言葉を聞いて、誰もが奇しくも同じことを思った瞬間でもあった……。
みんなに心が一つになった時、シロナの言葉を聞いてすぐに反応を示したのは――コウガ達に対して敵意と向け、役に立たないと罵ったシャーマーのむぃの手によって反撃されてしまった女騎士だった。
女騎士はシロナに向けて、いいや、この場合全員に認知できるようにと言う目的があってなのか、女騎士はボロボロになった顔で凄んだ睨みを聞かせる。
見るからに『ギロリ』という音が出そうな視線を見た瞬間、むぃはデュランの背中に「にゃぃっ!」と甲高い声を上げてしがみつく。
勿論――その目を見た瞬間に怖いという感情をむき出しにした泣き顔で。
勿論その感情を出したのはむぃだけではない。
ヘルナイトやデュランと言った『12鬼士』に聖霊王でもあるシリウス、そして心が鋼でできているかのように動じていない虎次郎と狐の亜人と対峙していたエド、暴走状態のシロナ以外の誰もが、女騎士の凄んだ目を見た瞬間肩を震わせ、強張りを見せてしまった。
そのくらい女騎士の目は怖く、一瞬見ただけで角膜に焼き付きそうなほどの衝撃映像であったので、むぃを含んだ一部の冒険者は肩を震わせ、声が止まりそうな声を出して女騎士の事を見る。言葉を待ちながら彼等は見ると、女騎士は掠れかけている呼吸で肺に酸素を精いっぱい取り入れると、女騎士はシロナに向けて言った。
「おい……! 猫の女……っ! 私は男性人格など持っていない……! 私は、れっきとした女だ……っ! 其処は間違えるな!」
女騎士は言った。シロナに向けて――自分は男ではなく女であることを堂々と告げ、その言葉を聞いた瞬間誰もが思った。誰もが……、ヘルナイトとシリウス。虎次郎以外の誰もが、まるで予め打ち合わせをしたかのような心の声の揃えで思ったのだ。
――それを言いたいがためにあんな凄んだ目をしたのか……?
――そこまで男呼ばわりが嫌だったのか……?
誰もが思った。女騎士のあの凄みがシロナの言葉に対しての否定の面持ちであったのかと。そのことを思った瞬間、今まで怖かった感情が煙が無くなる様にスンっと消え去り、それと同時に平常と言う心が彼等の心を穏やかな波長へと戻していく。
さっきまでの恐怖が嘘のような静けさに、誰もが拍子抜けをしたかのように呆気な顔を取ってしまった時、女騎士の必死で、自分にとってもソレダケハ訂正してくれと言わんばかりの言葉を放った後でその言葉を聞いていたのか――狐の亜人は「はっ」と、鼻で笑うような声で出した後――
「そんなことを死に物狂いで言うことなの? そんなに気にしていたら、そんな格好やめたらいいのに。と言うか、何その恰好――ボロボロあれだけ豪語しておいてそれはないわ~」
と、あからさまに女騎士に対して馬鹿にするような言い回しで言う狐の亜人。
ボロボロであることは狐の亜人も同じなのだが、女騎士との関係はどうやら良好ではないらしく、彼女に対して上げ足を取る様に小馬鹿にするような口調で話す狐の亜人。
そんな態度の狐の亜人に対し、女騎士はぼろぼろの状態の凄んだ目、且つ怒りを含ませたその目で狐の亜人のことを射殺すように睨みつけると、女騎士は狐の亜人に向けて言葉を発した。
まさに犬猿の仲と言わんばかりの悍ましい空気で、二人はどろどろとした会話を弾ませた。
コーフィンの説明の要求の無視。シロナの言葉に対しての返答も曖昧のままでだ。
「貴様に言われたくない……! さっきまで死出に逝きそうだったからか、妙に明るい声だな……。死ななかったことがそんなに嬉しいのか?」
「うるさいなー。黙っててよ肉体的敗者。ボクは健全ですので」
「健全……? 精神的にも異常が出ている……で!」
「あははは。あははははは。なるほどね~。もういっぺん言ってみな?」
「何度でも言う……、この化け狐。顔も何もかもが、嘘で塗り固められた……畜生め! その偽証の皮、すぐにでも……はぎ取ってやる……っ!」
「あはははは! ボクの皮が欲しいとか、どんだけ趣味悪いの? それとも、ボクの皮を売って金儲けしたいのかな? ボクの皮の売値は相場で十円だよっ。それでも欲しいとか、どんだけボクのことが好きなのかな? ボクはあんたのこと大嫌いだけどねっ」
「私もだ。この世で……、最も嫌われている虫と、いいや……、それ以上に……!」
――うぉう……、なんか女特有のどろどろとした会話……っ! 昼ドラのようなとげとげしい光景……! 仲裁に入りたくても逆に殺されそうで入れねぇ………っっ! 突っ込めねぇ……!
心の声の主でもあるキョウヤの言う通り、女騎士と狐の亜人の会話はまさに女特有のどろどろとした会話。その会話を聞きながらキョウヤは常識の心と共にその会話の間に割り込んで無理やりにでも止めようとしたのだが、結果としてそれは出来ずに終わってしまった。
これもキョウヤの言う通り――女特有のどろどろとした、まるで昼ドラのようなおどろおどろしく、とげとげしたその光景を見て、仲裁に入った瞬間に会話の中心でもある二人に何かをされるかもしれない。最悪の最期になる可能性が高いことを察してしまい、仲裁をすることを拒んでしまったがゆえに、キョウヤはその光景を見ながら青ざめた顔で心の突っ込みを入れることしかできなかった。
ハンナの言葉で言い表すのであれば、互いの黒いもしゃもしゃが共食いをするようにうねり合い、その黒い感情を伝播させるように広がっていく雰囲気。
その雰囲気はどんどんとハンナ達がいる場所を包み込もうとしてるので、誰もが微動だに出来ず、言葉にすることができないまま硬直の直立をしてしまうほど、その空気は悪く、気持ち悪く、そして――恐怖そのものだった。
結局何が言いたいのか? 結局のところ――キョウヤはその光景を見た瞬間、最後にこう思ったのだ。直感で完結ではあるが、それでも分かりやすい言葉で思ったのだ。
絶対に誰もが思うであろうその言葉を、キョウヤは心の声で叫ぶ。
滅茶苦茶怖ぇぇぇーっっっ!!
……そう思いながらキョウヤは青ざめていたその顔を更に青くさせ、それと同時に無意識なのか、蜥蜴の尻尾を逆立たせるように上に向けて突き出してしまう。『ビビビッッ!』と震わせながら……。
……はたから見ても混沌とした状況。
その光景を見ていたヘルナイトは首を傾げながら雰囲気でわかる『どういうことだ?』という顔をし、女騎士と狐の亜人の仲間でもある機械の男はオロオロとしながら双方のことを交互に見ているだけで、事実上何もすることはなかった。
いいや……、あまりにも怖いと思ったのか、できなかったのかもしれないが、それは分からない。
だが、こんな状況でも、唯一天空に向けて銃口を向けていたコーフィンは、呆れるように溜息を吐きつつ、空に向けていた銃を音を立てずに降ろすと、呆れの顔をしているのか、ペストマスクの額に手を当て、呆れるように再度深い深い溜息を吐く。
少しの間――コーフィンは少しの間考える様に沈黙し、そのあとすぐに額に当てていたその手をどかし、そのまま歩みを進める。
何か考えをまとめたのか、コーフィンは迷いのない歩みで、歩みの音を大袈裟に『ザッ、ザッ、ザッ』と鳴らして歩みを進めていく。
足音が大きく聞こえているにも関わらず、その音を聞こえていないのか未だに黒いもしゃもしゃの共食いをして会話をしている女騎士と狐の亜人。その光景を見て入るに入れない状況になってしまっているキョウヤ達。
聞こえていないほどその状況に呑まれていることを目で見て理解したコーフィンは、そのまま歩みを進めつつ、頭を抱えていたその手を徐に懐に差し入れる。
差し入れた手とは反対の手には『KILLER』を持ちつつ、差し入れたその懐から手を取り出すと、その手にはもう一つの拳銃がその手に収まっていた。
いつぞやかアキ達に対して銃口を向けていた拳銃の一つ――『ファルナー』だ。
コーフィンは両の手に収まっている『KILLER』、『ファルナー』を持ったままずんずんっと大きな足音を立てながら女騎士と狐の亜人、そしてみんながいる場所に向かって大きな音を立てながら歩みを進めて近付いて行く。
無言のまま、ペストマスクのお陰で雰囲気の凄みを増しながら彼は歩みを進めていく。
その姿はまさに殺し屋の目。
闇に紛れて殺しを担う殺し屋のイメージを壊すような、堂々とした殺し屋の姿。スナイパーの所属なのだが、一見して見れば暗殺者――しかも『キラー』を思わせる様な雰囲気にアキは上ずる声を上げて近くにいたヘルナイトの背後に隠れてしまった。
表向きは堂々としているが内心は臆病な子供の様に、アキはいつもは嫉妬の念を向けているヘルナイトの背後に回った後、コーフィンのことを見て小さく震える声で――
「こ、怖ぁ……っ! あれ、マスクで隠れているからわからないけど……、あれは怒っている……! マジで怒っている……!」
と言いながら、アキはコーフィンの視線から外れるように……、いいや、この場合はコーフィンの視界に入らないようにアキはヘルナイトの大きな背中にすっぽりと納まり、息を殺して隠れてしまったのだ。
前にも体験し、もう体験したくない。そんな空気を出しながら、だ――
ヘルナイトはそんなアキのことを見て、内心アキには怖いものがたくさんあるんだな……。と思いながら、彼はいつもの癖でアキの頭に手を乗せようとしたが、寸前のところでその手を止めて心の声で『おっと』と思いながらその手を引っこめると……。
「オイ」
「!」
「「!」」
突然、コーフィンの機械質ではあるが、怒りが込められた低い音色がアキ達の耳の中を通り、鼓膜を揺らした瞬間、『12鬼士』のヘルナイトとデュラン、クロゥディグルの背中の上にいたシリウスとクロゥディグル以外のアキ達と女騎士、狐の亜人、機械の男は、先程の感情を即座に上書きを施した。
先ほどまで浮かんでいた女騎士と狐の亜人の昼ドラ情景をおっかなびっくりに見つめていたその恐怖を、コーフィンに変えて青ざめの顔を強張りの驚きと微かな恐怖が浮かび上がった顔でアキ達は見た。
ペストマスクで隠れている所為でわからないが、雰囲気から怒りを静かに零しているコーフィンに向けて――
アキ達とは対照的に、機械室の男は赤い光で作られた目を大泣きしているデフォルメに変えて、『アワアワアワアワ』という声を出してコーフィンのことを見ながら大柄な体を左右に揺らし、急かしなくその場で足踏みをしてボルドの様に可愛らしく手を振るい。
女騎士と狐の亜人はいつの間にか……、ではなく、静かな泥沼喧嘩をしていたせいで気付かなかっただけなのだが、この二人にとってすれば突然、いつの間にか自分達の目の前に仁王立ちになり、そしてその銃を見せつけながら立っているコーフィンのことを見上げる二人。
先ほどまでの泥沼が余興だったかのように、呆気なく終わってしまう二人のいざこざ。
しかし――
コーフィンはそんな女騎士と狐の亜人のことを見下ろしているだけで、無言と言う名の圧を与えているだけで、コーフィンは何も言わなかった。
両の手に持っている二丁の拳銃を構えず、ただただ持っている状態で、コーフィンは仁王立ちになっていた。ただただ仁王立ちになっているだけの、静止画のような光景。
ざぁぁ……。と、『飢餓樹海』だった更地に砂を運ぶような風が吹き、その風が彼等の衣服をふわりと動かすこと以外、誰もその場所から動くことも、そしてアキ以外のみんなが言葉を発することをしようとしなかった。
躊躇っていた。と言った方がいいのかもしれない。
そのくらいコーフィンの仁王立ち……、いいや、コーフィンの行動はアキ達にとって予想だに出来ない行動でもあり、突拍子でもない光景でもあったのだ。しかしそれでも時間と言うものは動いている。時間が止まっているわけ34でもないのでコーフィンは未だに相手を無視した状態で喧嘩をしていた女騎士と狐の亜人のことを見下ろし、マスク越しで睨みつけている様子でその場にいた。
その二人の喧嘩を勃発させたきっかけの主――シロナはと言うと、コーフィンの雰囲気を察して強張った状態で飛んでいる京平のことを見上げながら、怒り眼で「離せやこの野郎っ!」と、明らかにこの状況を読んでいない状態で怒りの感情をぶつけている最中で、そんなシロナのことを見ていた京平はコーフィンのことを見降ろしながら内心……、一体何が起きるんだ? という思考を巡らせながら、その後起きるかもしれない事態に備える態勢を身構える。
その後で、足元で暴れているシロナに対して――あとうるせぇシロナ。お前の所為でこうなったんだろうが早く気付け馬鹿野郎。そして本当に暴れるんじゃねぇ落とすぞっ。と、心の中の怒りの暴発を何とか抑えながら驚きと怒りの葛藤をしていた。
京平の言う通り、シロナの言葉がきっかけで女騎士と狐の亜人は喧嘩になってしまったのがこの事態を招いた原因でもある。コーフィンは元々、この状況を詳しく知りたいがために聞いたのだが、シロナの言葉を聞いても分からないと言った瞬間、女騎士がシロナの言葉を聞いて負傷をしながらの逆上をした結果こうなってしまったのだ。
結局のところ……、発端はシロナなのかもしれないが、それを止めなかった彼等にも多少の罪はある。しかし、それを問い詰めるという思考回路は、女騎士と狐の亜人の喧嘩によって自動的に消え去ってしまったのも事実。そこに関しては誰も追及することはなかった。
と言うか、それをする暇などなかったのほうが正しい。
さて、かなりの脱線をしてしまったが、話を戻そう。
コーフィンの静かな怒りをヘルナイトの背中越しで (本人的にはかなりの自尊心を捨てた行動である)コーフィンの怒りの姿をガタガタ震わせながら見ていたが、その光景を見ていたヘルナイトはハンナにもしていたように、アキに対しても振り向きながら――
「どうしたんだアキ。何かまずいのか?」
と聞くと、それを聞いたアキはヘルナイトの言葉に対し顔中を真っ青にした瞬間に高速で首を縦に振ると、アキはヘルナイトのことを見ず、コーフィンに向けて視線を向けながら、彼は言葉だけをヘルナイトに向けて言った。
「あ、ああ……。あれは、マジでやばい……っ。やばい怒り方……! あれは、いつぞやか俺以外の会社の新人が大きな失敗をした時……、反省していない新人に対してク……ッ! コーフィンさんはブチギレながら怒ったんだよ……! その時オレも怒られているような気持になって、寿命が縮まったよ……。あれはその時と同じ顔だ……! やばい……、やばすぎる……っ!」
「それは、私が師匠に対して恐怖心を抱いているのと同じようなものなのか? 私の記憶の中の恐怖と言えば、それだけなんだが」
「それと一緒にするんじゃねぇっ! 俺が体験した恐怖は……! そんじょそこらのちっぽけな恐怖じゃねえんだよ……! マジで怖いんだって……っ! 最強さんにはわからないだろうけどっ!」
アキの言葉を聞いたヘルナイトは、内心よっぽど怖いんだなと言う思考も生まれたが、それと同時にアキの言葉に対して少しばかり不快感も覚えたのも事実であった。
アキの言葉は確かに汚くなることがある。そのせいでアキはいつもキョウヤ達にしつこく注意をされたりしているのだが、ヘルナイトはそれに対しても人の個性だと思いながらアキの暴言に対して深く考えることも追及することもなかった。
はたから見れば広い心の持ち主なのだが、そんな広い心の持ち主でも怒りの導火線と言うものがあり、ヘルナイトにもあった。
勿論導火線はアキの『最強さんには分からにだろう』という言葉なのだが、その言葉を聞いた瞬間、ヘルナイトはどことなく違和感を覚えた。
それは――デジャブと言うもの。
前にも聞いたことがあり、自分はそれに対して激しい怒りを覚えた記憶。
ないのにあったかのような感覚を覚えたヘルナイトは、一瞬不快感を覚えたと同時に、ふと同時に甦った何かに対し疑念を抱いた。
なんだろう……、この感覚、前にも感じたことがある様な……。
そんなことを思っていた次の瞬間――
――ガンッッ!
『――っ!?』
今まで強張りと言う静寂が一瞬にしてその音とともに消え去り、それと同時にヘルナイト達にまた違う驚きを植え付ける様な鈍い音が鼓膜を大きく揺らした。
そして――
「あいったーっっっ!!」
狐の亜人の痛々しい声も一緒になって、ヘルナイト達の鼓膜を大きく揺らしたのだった……。
◆ ◆
『あいったーっっっ!! 何するのっ!? なんで殴るのさっ! ボクはただ頼んだだけでそんな風に殴らなくてもいいじゃないかっ。こんなことをしたらボクの頭完全にコブができるよ? コブができて腫れぼったになったら君の所為だからねっ! ちょっと聞いているのっ?』
『はぁ? 断るって、マジで言っているの? ただ騙してここまで連れて来てほしいって言っているだけだし、それでドッキリでしたーっ! 的なことを言えばいい事なのに、なんでそんなに怒っているの? そんなに怒るとかあんたらしくないね。顔……、あいや、仮面に似合わずフレンドリーなくせに、なんでこんなことに参加しないの? こうでもしないと、連れてこないとボク達は』
『知り合いの妹で、その知り合いの妹を危険な目に遭わせるなんてことをしたら知り合いに顔向けできない?』
『そんなことをするのならば俺は抜ける? マジで言っているの? 一人で途方に暮れていたから一時的に仲間に入れたって言うのに、そんなことすらできないの? 仲間の危機なのに、なんで助けようとか、恩を返そうとか思わないの? そんな非道とは思わなかった?』
『え? ボク等の方が非道だ? こんな状況下でそんな悪趣味なドッキリは悪趣味にもほどがある? お前は心がないのか? あの子がどれだけ苦しい思いをして来ていると思っている? 自分の失敗は自分で拭え? それができないから頼もうとしているのに、せっかく『蘇生』の力があるのにそれを使わないなんて宝の持ち腐れでしょうが』
『………はぁん。そう。それでも嫌なら、ボク達だけで行くよ。そうでもしないと本当にやばいと思うし、もし間に合わなかったら……、どうなるかわかっているよね……?』




