PLAY100 混ざりに混ざる混沌⑥
ヘルナイトが己の得物でもある大剣を引き抜き、その矛先をとある人物に向けて駆け出しながら、困惑の顔でキョウヤ、シェーラ、そして虎次郎のことを見ていた機械の男に向かって一直線に向かう。
全速力で駆け出すと同時に前に出した足を地面につけた瞬間にそのまま地面を蹴って跳躍をしてからヘルナイトは大剣を大きく振るい上げ、そのまま機械の男に向けて軽い振るいを繰り出す。
殺す気などさらさらない。
どころか殺すこと自体おかしいので、ヘルナイトは機械の男でも絶対に白刃取りができる様な速度と力の調節を瞬間的に施す。
本来であればそんなことできないのが普通かもしれないが、ヘルナイトはあくまでも『12鬼士』が一人にして『地獄の武神』でもあり『最強の鬼神』と言う二つ名を持っている。且つ彼は団長でありモルグ100の存在。
つまり、この世の最強。
その最強であれば力の加減も造作でもない。
ゆえにヘルナイトは機械の男に対して加減を施したのだ。
殺してはいけない。この三人組には聞きたいことがたくさんあるが故、このまま殺してはいけないと思っての結果、ヘルナイトはその剣の振るいを殺さない程度の力で、落下と同時に振り下ろす。
「「「!」」」
『?』
その光景を視界に広がった影を見て気付いた三人は――驚きの顔を浮かべて影が出来上がった上空を見上げた瞬間、三人はそれを見て驚きの顔を浮かべると同時にその場所から逃げるように機械の男から距離をとる様に離れていく。
そんな光景を見た機械の男は頭の上に疑問符を浮かべつつ、『ウィン』と言う機会独特の音を出しながら傾げるが、三人の行動。そしてその足元に浮かびどんどんと広がっていく黒いそれを見て機械の男ははっと息を呑むと、すぐに機械音独特の稼働音と共に上を見上げる。
刹那視界に広がったのは、大剣を振り下ろそうとしている魔王の鬼士。
機械の男はその体とは正反対の、人間と思えるような感情が身体中を巡った。
それは人間にとって――直感と言わんばかりの物で、機械の男は察知したのだ。
これはまずい。と――
たとえヘルナイトからしてみれば手加減程度のそれも、機械の男からしてみれば軽傷では済まされないようなものなのだ。命の危険はないが、それでも理解してしまった。
あれは受けてはいけない。防がないとだめだ。と……。
そう思った瞬間、これから来るであろうその後の出来事を察した瞬間だった。
『――自動防衛措置作動。秘器――『甲羅装甲』機動』
鬼士のその鬼気迫る様な猛威を見た瞬間、機械の男の内部から『ピピ――ッ!』と、機械特有の信号音が彼の機械内部に脳の反射の如く全身を駆け巡った。
いいや、全身に組み込まれている危機に信号と言う名の危機警報を鳴らすように、その音が機械の男の全身に駆け巡ったのだ。全身に、サイレンの如く。
『! フゥン!』
その電子信号を受け取った機械の男は、その信号の命令と言わんばかりの言葉に従うように空を彷徨っていた己の両の手に力をぐっと入れる。
握り拳を作るときに力むような要領で握り拳を作った瞬間、機械の男の黄金の様に煌く両の腕の装甲の側面から『ガションッッ!』と黄金の様に煌く分厚い機械の板が飛び出してきた。
その板からまた同じ分厚い板が飛び出し、それが機械の男の両の腕を覆うように行き渡ると、男の一の腕が分厚い丸太の様に、硬い亀の甲羅の様に武骨に変形をして、機械の男の新たな腕を形成した。
さながらガトリングの腕のような姿だ。
そうキョウヤは昔見たアニメの敵キャラを思い出していると、機械の男は自分に向けて振り下ろそうとしてきたヘルナイトの大剣の攻撃から身を守るために、顔を覆い隠すように己の目の前で両の手で作った罰マークを見せつける。
その動作は防御の行動ではあるが、機械の男はそれを内部の信号の言葉に従ったことでもあるので、この場合は人間で言うところの脳の反射神経を酷使した行動でもある。ゆえに機械の男は己の身を守るためにその行動をした。
その行いもあってか――
――ガァンッッッ!!
と、機械の男の防ぎと同時に、ヘルナイトの大剣の攻撃が金属音を立ててあたりに響き渡る。トーンチャイムの様に円状に広がり、その反響と同時に反響と同時に生まれたのか、風圧が音よりも一歩遅く円状に広がり始める。
音と同じ威力で、筒所としてきた突風の様に、キョウヤ達や同じように食い止めをしているコウガ達に女騎士に襲い掛かる。
ぶわっ! とどんどんと円状に広がっていく風。
エドや狐の亜人、そしてシロナにもその風に直撃したが、それよりも大事な場面に直面しているため、その突風に関して気にすることはなかった。だが、それは例外の反応でもあり、辺りに巻き起こった風は大きな竜の姿でもあるクロゥディグルも驚き、目を瞑ってしまうような突風でもあり、それは背中にいたハンナとリカも驚きながら吹き飛ばされないように耐えてしまうほど強風であった。
ただでさえ手加減をしたヘルナイトの力であっても、結局相手にとってすれば強力な力に変わりはない。と言うか、手加減をしてもしなくても、ヘルナイトは強いということが立証された瞬間でもあった。
話を戻そう。
ふるい落としたと同時に地面に足をつけたヘルナイトの攻撃 (手加減)を受けた機械の男はその攻撃 (手加減)を受けながらがくがくとその手と踏ん張っている足腰を震わせ、何とか押し出そうと体中の力もとい全身の機械駆動を最大限にすると、機械の男は『ウグググゥゥゥッ!』と踏ん張りの声を上げてヘルナイトとヘルナイトの大剣を付きだそうと試みる。
しかし、ヘルナイトはその押し出しに対しても動じず、どころか機械の男のことを凝視しながら不動の態勢を維持する。
そう――不動。
その光景を見ていた虎次郎は、言葉を失った顔を表情に出し、そしてその光景を見て虎次郎は震える声で「なんと……」と言うと、続けて虎次郎は紡いだ。
なおも震える声で、ヘルナイトのことを間近で、そして見ていなかったことを後悔してしまうような目で、彼は呟く。
「これが……、なのか……っ。儂は、何も見ていなかった。いやさ。見せてもらえていなかった。この不動の光景こそが鬼神の一部の片鱗。そう――儂は何も見ていなかったということか……! これぞ……っ!」
『地獄の武神』の片影か!
そう虎次郎は思った。それはキョウヤもシェーラも同じことを思っていたが、虎次郎とは違い二人はヘルナイトと一緒にいた期間が長いため、そんなに驚くことはなかった。
ただ……、やっぱこいつは最強だ。敵に回してはいけない。
という、敵にすれば脅威。味方にすれば心強い。
そんな感情だけが彼等の中に湧き上がっていただけだった。
三人のそれぞれが思っていることを心の声で出しながら思っている最中――機械の男にとって、それが本当に最大限なのかは分からない。しかし本人からしてみれば機械駆動を最大限にしても、ヘルナイトにとってすればそれもいとも簡単に跳ね返すことができる力。
最強にとって、機械の男の力は脅威ではないということが目に見えてしまっている。浮き彫りになってしまっているのだ。
機械の男が唸る様な力む声を出したとしても、ヘルナイトにとってそれも何の脅威ではない力。だからだろう――ヘルナイトは機械の男のことを見ながら聞いた。
偶然であろうかヘルナイトと機械の男は同じ身長。ゆえにお互いの目を同じ視線で見ることができるので、ヘルナイトはそんな状態で機械の男に向けて聞いたのだ。相手に沿ってすれば見降ろされているような錯覚と焦りを感じていることに気付かず、ヘルナイトは機械の男に向けて聞いたのだ。
心に浮かび上がってきたとあることを……。
「貴様……、その装甲――秘器か?」
秘器。
その言葉がヘルナイトの声から出た瞬間、機械の男の光の目に同様のそれが点滅し、それと同時にキョウヤとシェーラ、虎次郎が驚きの顔をして言葉を失ったような表情を浮き上がらせた。
もう聞きたくなかったのに、また聞いてしまった――忌々しい名を。
◆ ◆
各々がシロナの暴走を止めるために、それぞれの行動を介した時、シロナは己の怒りの思うが儘、その怒りの言う通りに行動するように、その矛先を狐の亜人に向けて駆け出していた。
シロナはホワイトタイガーの亜人でもあることもあるせいか、狐の亜人を狙うその様はまさに狩りそのもの。獣が獲物を狩る時に見せる顔と怒りそのものが張り付けられた二重の仮面の顔が彼女の感情を浮き彫りにしていた。
シロナのその顔を見て、借りをするその様を見ていた狐の亜人は、くすりと妖艶に着物の袖で微笑んだその口元を隠し、隠した袖の中からするりと己の左手を曝け出していく。亜人特有の爪が長く、肌質が良いその手を出し、徐にその手の近くに持っていった反対の手を使って裾をきゅっと掴む。
掴んだと同時にするするとその手に通された裾がどんどんと皮脂のところまで落ちていき、それと同時に狐の亜人の素肌がどんどんとさらされていく。
そう――亜人特有の爪と質の良い肌。
の腕に刻まれた八つの色の刺青。
おどろおどろしく、悍ましくも見えるその刺青はそれぞれ赤、白、緑、橙、黄、青、金色と黒と八つの色が渦を巻くように狐の亜人の手首に巻き付いている模様で描かれており、狐の亜人はそれを見せた瞬間、今の今まで微笑んでいた笑みを更に横に伸ばし、弧を描くように微笑むその姿を見せる。
まるで――社会現象にもなったあの存在を思い出させるような笑みで、狐の亜人は今まさに自分に向けてその拳を、獣の刃を向けてくるシロナに向けて刺青が刻まれたその右手をかざそうと、曝け出されたその手を動かす。
シロナに向けて、刺青が刻まれたその手をかざし、ハンナの様にその手からスキルを放つように構えると、手に彫られている発色の刺青がそれぞれの色の光を放つ。
電源が入ったかのような灯しを見た狐の亜人は、裂ける口の笑みで言葉を零す。
「ふふふ」と、これから起きるであろう出来事を想像しながら、その時に巻き起こる現象を想像しながら狐の亜人は笑みを零し、最後の仕上げに取り掛かる。
今まさに、シロナの殴りが迫ろうとしたその瞬間に――狐の亜人はそっと口を開き、言葉を発しようとした。
その時――狐の亜人の視界に広がるのはスーツの背広。
そして……。
『ガァンッッッ!』と言う、金属特有の打撃音が狐の亜人の狐特有に耳をつんざく。
「――!」
視界に突然広がったスーツの背広を見た瞬間、鉄特有の音が鼓膜を傷つけるように放たれた瞬間、狐の亜人は今の今まで異常な笑みを浮かべていたその顔を驚きに崩し、その崩しと同時に発しようとしていた言葉を濁してしまう。濁した瞬間狐の亜人が放とうとしていた技の効果が無効化してしまい、手に刻まれていた刺青の発光が消えていき、それぞれ原色で彫られた刺青へと戻っていく。
「あ」
元の刺青に戻る……。いいや、発光する時点でおかしいのだが、この場合は元の刺青に戻ったの方が正しい。なにせ狐の亜人の手に彫られている刺青は刺青であり刺青ではないのだから……。
……………少し話が逸れてしまったので、話を戻す。
狐の亜人は刺青の発光が消えたと同時に、その消失の原因となった目の前に現れたスーツの男のことを舌打ち交じりに睨みつける。
今までの笑みが嘘のような一瞬の怒りの顔。
しかし、その怒りの顔もすぐに驚きのそれに変わり、狐の亜人の顔と心を困惑へと誘っていく。
驚きと困惑を引き起こしている人物――スーツ姿の巨人族……、つまりは狐の亜人とシロナの間に入り込んで、シロナの攻撃をエドが所有している武器――この世界に三つしかない聖武器が一つの聖楯『アナスタシア』を使ってシロナの攻撃を止めているのだから、狐の亜人の驚きと困惑も、シロナの驚きも無理もない話だ。
「っ!? はぁ? なんだこれ」
「――っ! エド……ッ!」
「!」
エドの行動に驚きと呆気に取られてしまったのか、少しだけふざけているような音色でエドの背に向けて言葉を発する狐の亜人。顎に刺青が彫られた腕の手で指を添え、首を傾げるように言葉を発するが、目の前にいるエドはその声を無視して自分の目の前にいるシロナの攻撃を防ぐことに専念をした。
シロナ自身も驚きの顔をむき出しにしてエドのことを見ると、驚きの声でエドの名を呼ぶ。
しかし、エドは声を発しない。狐の亜人の声にも、シロナの声にも返事をせず、歯を食いしばる様に踏ん張りを入れると、エドは足腰に力を入れて、踏ん張りを強化する。
一応言っておくが聞こえているので事実上の無視ではあるが、敵相手に来やすく話しかけること自体おかしい話ではある。更に言うと、シロナをこんな風にした輩の言葉に耳を傾けること自体したくないのがエドの本音でもあったので、エドは狐の亜人の言葉を無視して、今まさに自分の盾『アナスタシア』に攻撃を繰り出して一瞬膠着状態になっているシロナに必死の防ぎの視線を送る。
声にしたい気持ちもあるが、それができないという言いようのないもどかしさを感じながら……。
そんな状態を見て、シロナはちっと大きく、乱暴な舌打ちを零すと――シロナはエドに向けて荒げる声でこう言った。
「おいエドッ! 邪魔すんじゃねぇっ! なんでアタシの邪魔をするんだっ! さっさとその盾をしまえっ!」
「どかない……! どくわけないだろうっ! シロナ……、少しは落ち着けっ!」
しかし、そんな白なの言葉に対して当然の反論を言い放つエドの言葉に、シロナは苛立ちが更に風船のように膨らんだ感情を出し、拳を打ち付けているその右手を一度その盾から距離をとる。
パッと呆気なく離れた行動にエドは一瞬驚きを示したが、その驚きも一瞬の内に消え去り、もしシロナの戦法であればあれをすると予測して、エドは踏ん張りを強くして、対策の構えを取る。
己の前に縦を構えつつも、その盾の中に器用に隠すように槍を携えながら、エドはシロナの戦法対策を施す。
エドのその姿を見て、長い間一緒に行動してきたからわかる。そしてその行動をすると思っていたシロナは、エドならばそうするであろうその行動を見て、シロナは内心舌打ちを零しながらもエドの対策を見ても動じることなく、むしろそれを壊すという絶対の自信を抱きながらシロナはこう思っていた。
――エドならそう来ると思っていた。
――エドなら、アタシの攻撃を止めようとこの構えを取ったらそうする。そんなこと簡単に予想できる。あんたはそうするから。自分のことなんて二の次三の次四の次と、どんどんと自分のことを後回しにする。優先順位はもっぱら他人だからね。
――そして、あんたは所属上と種族上モルグの硬力が高い。10★を持っているから、アタシの攻撃に耐えられると持っているけど……、そんなの関係ねぇんだよ。
――アタシの武力のモルグ9でも、そんなの関係ねぇんだよ。
――その差なんて、技術で補えることだってできるんだ。あんたは高性能な武器を持っているからわからねえかもしれねえけど、アタシはこの拳を、この脳を、己のことを鍛えてきたんだ。
――今までだってそうだったんだ。邪魔するやつがいればアタシがこの手で排除する。
――同じ暴力を使って、アタシは倒す。たとえ……、あんたと言う壁に阻まれても、それを……。
ぶっ壊す勢いでなっっ!
その言葉を思うと同時に、シロナは一度は退いたその右手にもう一度力を入れて、もう一度打ち込む態勢をエドの前で作ると、その光景を見たエドはぐっと足腰に力を入れ、力士がよくする踏ん張りの浅い体制を作り上げる。
本当に力士の様に踏ん張ってしまっては恰好的に言い恰好ではないかもしれないが、そうではなく、完全に踏ん張りのそれをすればシロナの攻撃に対して耐える確率は大きくなる。だがそれをして、次の攻撃に転じる時のライムラグができてしまう。
それをなくすために、エドは浅く体制を作ったのだが、それもシロナにとってすれば予想していたこと。長い付き合いでもあるのでエドが考えていることも手に取る様にとまではいかないが、ある程度までわかる。
だからエドの構えを見た瞬間、シロナは察し、それを覆す攻撃を瞬時に頭の中で組み立てた。
ハンナはシロナのことをダンやガルーラと同じ雰囲気を察していたと言っていたのを覚えているであろうか。それは――大いに間違っている。彼女はダンの様にただただ戦闘と言う命の掛け合いに闘志を燃やしている輩でもなければ、ガルーラの様に母のような広い心を持っているが勇ましさも兼ね備えている女ではない。
彼女は――いうなれば考える戦闘女。
厳密には、曲がったことや捻じ曲がっていることを極端に嫌い、そして仲間のことを家族の様に大事にし、その家族を傷つけた者に対して容赦のない鉄槌をくらわす――戦闘の思考の回転が速い戦闘民族女性と言った方がいいだろう。
要は、彼女は戦闘に関して考え、そしてそれを実行する女なのだ。
よくアクションゲームで色んなコマンドの研究をし、勝利のためにゲームをするプロゲーマーと同じ思考の女なのだ。
シロナはそれをこの世界でも行い、体を動かしながらこの攻撃方法はこれが使える。これを使えばどうにかなりそうだ。これはあれを持っている相手には不利だ。と言うように、戦いのことに関して色んな戦闘の組み立てを頭の中で行う。
それがシロナの戦い方。ゲームの時も、本気の喧嘩の時もそうしてきたのだ。彼女にとってエドのことを考えながらの戦闘の組み立ては造作もなかった。
「――っふ!」
シロナはエドの構えを見ると、シロナは浅く息を吐き、繰り出そうととしていた右手に力を入れると、俊敏な動きとまではいけなかったが、それでもシロナは目の前でその盾を構えているエドに向けて――
びゅんっっ! と、空気を割く音と共に右手を繰り出した。
そう――右手の手刀をエドの盾に、ではなく、エドの盾の角に向けて繰り出した。
「――! っ!」
シロナの園行動を立て越しに見ていたエドは、自分から見て右斜め上にしゅっと出てきたシロナの手を見て驚きの顔を浮かべそうになったが、内心は(やっぱり!)と言う思考で次に来るであろうシロナの行動に備えて縦を握る手に力を入れて、そして足腰にも力を入れる。
次に来るであろうシロナの行動を逆算して――
逆算して、彼はその時を、シロナと言う存在の攻撃を止めるために構える。
背後にいる狐の亜人にこれでもかと背中を見せながら――
少しだけフェードアウト的になっていた狐の亜人は、シロナとエドの戦いの光景を見ながらクスリと妖艶に微笑み、刺青が彫られたその手を戻すこともないままその光景を見ていた。
妖艶に、そして心の中でこう思いながら、狐の亜人は見ていたのだ。
――目の前に集中し過ぎだよ。お兄さん。
狐の亜人は未だにその微笑みを浮かべ……、否、それと残虐と言うそれが見えそうな笑みを浮かべながら狐の亜人はエドの背に向けて、刺青が彫られた手をかざした。
掌を見せる様なかざしではなく、エドの背に向けて手刀を突き刺すようなかざし方をして、狐の亜人はそれを向けたのだ。
敵意と言う甘いものではなく――不完全燃焼と言う名のストレス解消を向けて。
――悪く思わないでね。ボク自身この技、一回使いたかったのに君が邪魔をしたせいでできなかったんだよ? 本当なら白虎の女の子を実験台にしようと思っていたのに、それもできなくなった。
――だから、君が実験台になってくれよ? ガーディアンの巨人くん。
その思いを心で口にした後、狐の亜人の右腕の刺青が八つの光を纏って発光しだす。エドは現在進行形でシロナのことをしか見ていない。その見ていない状況を好都合と見た狐の亜人は手をかざした状態で、雨臓ぞと右腕の刺青が生き物のように蠢くその状態を見て、先程見せた弧を描いた狂気の笑みと共に言葉を発しようとした。
――その瞬間だった!
「――キィイヤアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッッ!!」
突如耳につんざくような奇声めいた声が鼓膜を揺らし、その声を聞いた瞬間狐の亜人はぎょっと顔を歪めると、今の今までうねっていた刺青がまたもや発光をやめて元の刺青へと戻っていく。
刺青の動きが止まってしまったそれを見て、狐の亜人は思わず「あ」と声を漏らしそうになった。またもや邪魔された。なんて面倒臭いんだと思いながらまた発動をしようと刺青に己の全神経を集中させようとした時――
――ぐしゃっっっ!
「――ぶっっ!?」
また突如としてきた衝撃。
それも、顔面にダイレクトに来たそれを直撃で受けてしまった狐の亜人は潰れてしまった声を上げて後ろに向かって鉄棒なしの後転をしそうになった。
視界に突如として映った魔物の足を一瞬だけ見た時には、狐の亜人の顔面には衝撃、そして後転しそうなバランスの崩れを感じたが、後転をしないように狐の亜人はバランスの崩れを急速に修復しながら後転しそうなそれを尻餅をつくというそれに変える。
「どぅっふ!」
どすんっ! という尻餅をつく音と共に地面に強く突いてしまったせいで腰の骨に強い衝撃が走り、尻餅をついた瞬間に変な声を上げてしまった狐の亜人。
尻餅をついたというのにまだその衝撃の余韻は残っている所為で、狐の亜人は腰をさすりながら「いたたた……っ」と唸り声を上げると、そんな狐の亜人に追い打ちをかけるように、またもや突如としてあの時叫んでいた声が聞こえた。
今度は叫びではない。奇声ではない。
ちゃんとした言葉を言葉にして――
「っは! 背後からの不意打ちはしつれー極まりねーべよっ! 女か男かわかんねー亜人ヤローッ!」
「……! ワイバーン……ッ!?」
狐の亜人は己の頭上にいる存在――久し振りのワイバーンとなった京平のことを見上げながら目を見開き、目の前にいる存在が自分達と同じと言うことを知ったと同時に驚きの顔をしてそれ以上の言葉を紡ぐことを忘れてしまった。
そのくらい魔獣族と言う存在を見たことがないのだろうか、それともあまりにも見たことがなかったのかはわからない。
しかし、そんな今の京平には関係のない事。
京平は狐の亜人にその言葉を言い放った後、すぐに大きな翼を羽ばたかせて狐の亜人に土の煙をまき散らす。
ばさぁっっ! という音と風と共に、狐の亜人の顔に土煙が舞い込み、それから目を守るために狐の亜人は顔を手で覆い顔を土煙から守る。
その行動を見て、京平はすぐに後ろに向かって飛び、そのままエドに向かって後ろ歩きをするように飛ぶ。バサバサと、急速にエドの背後に向かって飛びながら――
京平のその行動を見ていたのか、それともそうなることを話していたのかは今となってはもうわからないことだ。しかしそれでも、エドと京平にとってそんな相談などなくとも、お互いがお互いのことを信頼している。
なのでそんな相談などしなくとも、エドは今までシロナの攻撃が来そうなそれから逃れるための踏ん張りを突如として解除し、そのまま地面に伏せる。
ばっと――シロナの攻撃が来る前に、犬の芸『伏せ』をして、エドは避けた。
驚くシロナをよそに、エドは任せたのだ。
シロナのことを、京平に!
「あとは任せたよ」
「おうよ! オメーにも任せるべ」
二人は言った。世界が一瞬二人の世界に――スローモーションの世界になった瞬間、二人は言ったのだ。上空を飛んでいる京平が地上に伏せているエドが互いがすれ違うその時に、彼等は言ったのだ。
それぞれに任せる意思を言葉に乗せて……。
二人がその言葉を言い終えた瞬間、世界の時間が元に戻り、エドは伏せていたその体制を京平が通り過ぎた瞬間を見計らって即座に立ち上がる。
立ち上がった瞬間、京平はそのまま驚きのまま仁王立ちになってしまっているシロナに向けて足をぐわりと向けた瞬間――
京平はシロナの両腕を両足でがっしりと掴み。
エドはそのまま背後にいた狐の亜人に向かって駆け出し、手にしていた槍を片手でくるくると器用に回すと、その槍の刃がないところを使い、尻餅をついてエドの突進を見て驚いている狐の亜人に向けて――渾身の突きを繰り出した!
どんっと――狐の鳩尾に向けて。




