PLAY100 混ざりに混ざる混沌⑤
「えっと……。シロナさんを止めるためには善さんの回復が必要不可欠で……、善さんが回復すればシロナさんお怒りが収まるから、ハンナ以外の俺達はシロナさんのことを止めつつ、相手のことも止めることに専念する……? そんで、その間にスキルを使ってハンナは善さんのことを回復してほしい。できるだけ早く、なぜか俺達の回復のことも考えつつの方向で……。って、なんですかその無理難題……っ! ハンナは確かに簡単そうですけど、俺達はかなり危ない橋を渡っているみたいな選択肢! あんの猛獣女を止めつつ狐の野郎も止めるとか……、そんなに武闘家でない限り無理だと思います! 武闘大会十年連続一位の不動の力を持っている人でない限り無理だと思いますっ! 俺達の残機多分一分でゼロになりますよっ!」
「おーすげー。理解してからの怒涛の反論と言う名の言い訳」
「ここまで来るとあんたのその腐った根性に対して拍手を送りたいわ。蔑みと呆れと言う名の汚れた拍手を」
「わー。こんな人がはなちゃんのお兄さんなの? はなちゃんきっとこの人を反面教師にしたからこんなにいい子なんだ。納得」
「こんなにも己の主張と言う名の言い訳をするエルフは初めて見たぞ……。悪魔族でもここまでの外道っぷりは発揮せんだろうな」
「おいおいおいそこの蜥蜴と魔人女にエルフ野郎と首無し! 聞こえてんだぞこの野郎っっっ!」
すごい言葉の嵐の所為で多分理解できない人もいるかもしれない。
あまりにも言葉だけの嵐がこの場所を通り過ぎたのだ。
私自身正直この状況に対してあまり理解できていないところもあるので、自分の確認のために一度整理してみようと思う。
そう思った後、私は頭の中で一連の流れを思い返した。
エドさんの口から告げられたシロナさんの暴走を止める且つこれ以上の被害が出ないようにするための秘策。
それは本当に聞いていると簡単ですごくわかりやすい作戦内容。
これならばしょーちゃんでもしっかりと理解できる内容。要は私はリカちゃんと一緒に善さんの回復を急ぎ、アキにぃ達はその間にシロナさんを止めて、これ以上の被害を防ぐというすごくわかりやすい内容。
だったんだけど、エドさんの話を聞いた瞬間、アキにぃは今の今まで無言の状態でいたんだけど、話を聞いて理解していくとだんだんとアキにぃは荒げる様な音色でエドさんに向けて反論をしたのだ。
なんかよくわからない言葉も出ていたけど、要は『できない』ということを一生懸命に伝えようとしている。
けどその言葉を聞いたキョウヤさん、シェーラちゃん、つーちゃんとデュランさんの棘のあるような正論の言葉を聞いて、アキにぃはキョウヤさん達に向けて指をさしながら怒声を浴びせた。
というのが、今私が見た流れでもあった。
その光景は今まさに起きている長枯れがいかに危ないのか、そしてその流れ自体が危険な流れである感を隠してしまいそうな光景でもあり、私はその光景を見てアキにぃの言葉に対して呆れと言うか、驚きを感じてしまうのと同時に、一瞬だけ和んだ空気に感謝を述べた。
あの時……、シロナさんの危険を察知した時、私は頭が正常に回っていなかった、それを正常にしてくれたのはエドさんの言葉がきっかけでもあり、アキにぃの言葉がこの場所の空気を不覚にも和ませたのだ。
よくしょーちゃんがアクション漫画を読んでいる時、『激しい戦闘の話が進んでいる中でのこんなほんわかとする場面って、心が和らぐよなー』と言っていたけど、これはそれと同じ光景なのだろうか……、少年漫画を読まない私にとって、すごく空気を読んでいない光景だと思ったのだけど、そんなこと考えていないのか、アキにぃ達の話を聞いてもなお自分の言うことに対してはっきりと言おうとしているエドさんは続けて私達に向けてこう言ってきた。
「うーん。アキ君の気持ちはおれも分かる。そしてその気持ちに対して理解できないなんていう感情は一切ないよ。だっておれだって本当だったらこんなことはしたくない。仲間のシロナに対して攻撃で解決するようなことはしたくないとおれだって思う。本当であれば攻撃ではなく、言葉で理解させておきたかったんだけど、ああなってしまったからには…………、いいや、ああなる前に、善がああなってしまった時からこうすればよかったのかもしれない。本来であればおれ達レギオンがその役割を全て担えばいいんだけど、そうとはいかないのが今の現状で、正直おれ達も残機なしで挑むのは、少し心もとないんだよね」
「だからガキに蘇生の件を頼んだのかよ。どんだけやべーんだよあの状態」
どこまで凶暴なんだよ。あの猫女。
エドさんの言葉を聞いた瞬間、呆れとマジかと言う顔が混ざっているような雰囲気と表情で言うコウガさん。エドさんの言葉を聞いて私は内心、確かに、という納得の心の自分が現れたと同時に、そこまでまずいのかと言う臆病な心の自分が現れ、その二つの心が同調し合うように私の感情を形成していくのを感じた。
いうなれば二つの感情が合わさり、そんな顔が表に出たと言った方がいいのかもしれない。
そんな私の顔を見てか、むぃちゃんは心配そうな顔で「大丈夫ですか?」という困った顔をしながら心配の声を上げていたので、私はすぐに平静の顔を取り戻すと同時に、むぃちゃんに向けて「うん。大丈夫だよ」と言葉をかける。
むぃちゃんに向けて言葉をかけている最中、私の耳に「しっかし……、シロナがあんなに乱すなんてな」と、京平さんの驚きの声が入ってきた。
京平さんの声を聞いた私は驚きと同時に京平さんの声が聞こえた方向にむぃちゃんと一緒に向けると、京平さんは腰に手を当てて、驚きとへらりと半分笑っている顔をエドさんに向けながら肩を竦めて――
「俺はてっきり強者相手に感情が獣になっちまったのかと思っちまったべ」
と言ったけど、その言葉に対してエドさんはかぶりを振るい、京平さんに向けて一言……「本当に京平くんはなんにもわかってないねぇ」と言って、京平さんのきょとん顔を無視すると、エドさんは仕切り直しと言わんばかりに私達の顔を見ては真剣な目そのものの目を見せつけるようにしてエドさんは言った。
ううん、少しだけ、頭を下げて言ったのだ。嘆願を込めるように……、または自分達の所為でここまで状況を紛らわせてしまったことへの謝罪を込めるように、エドさんは言ったのだ。
「だからみんなには申し訳ないんだけど、シロナのことを助けると思って手を貸してほしい。あんなことをしてしまったことに対してちゃんと非礼をするし、勿論しっかりとした謝罪もする。あんな風でも、シロナは人一倍乙女で仲間想いなんだ。お願いします」
エドさんは言った。しっかりとした誠意を込めた頭の下げ方をして、そしてシロナさんのことを大事にしていることがわかるような言葉で、自分の気持ちを伝えるエドさん。
すごくシロナさんのことを心配し、そしてシロナさんや善さん、リカちゃんやシリウスさん、京平さんのことを大事な仲間として見て思っていることを強調するように、みんなの迷惑になることを重々承知の思いを込めた言葉でエドさんは言ったのだ。
みんな、エドさんの言葉を聞いて驚いた顔をして頭を下げたエドさんの行動部を見降ろし、むぃちゃんはエドさんの顔を見上げて目を点にしていた。おまけとして「ほえ~」と言う声も出して……。
本来であれば、すぐにでも『イエス』と答えてシロナさんの助太刀に入りたい。それはさっき抱いていた感情と質は同じで、あの時は少し暴走をしていたけど、本心は一秒でも助けたい。
それは同意だ。
でも、その言葉を聞いてすぐにイエスと答えること自体無理な話かもしれない。人間誰しも少しは考えて選択をする生き物。あ、でもしょーちゃんは即答するかもしれないけど、それでも人は選択があると考えてしまう。
現に…………。
「あ。えっと……、いいけどあんたそんな簡単な作戦で……」
と、アキにぃがエドさんの言葉に対して何かを聞こうとした。それは普通慎重に動く人間であれば普通に聞くことかもしれない。アキにぃは普段そう見えないけどたまーにそうする人だ。
だからアキにぃは聞いたのだけど……。
「よし行こう」
「聞いてっ! こっちの承諾否定の選択をさせてっ!」
「今イエスって言っただろ? もう拒否は出来ねーべ」
「違ーうっっ!」
「アキ諦めろ。それに拒否をしてもしなくてもあの三人組に殺されちまったら元も子もねーだろうが。お前はコーフィンのおっさんを安全な場所に出も誘導しておけ。あとはオレ達でなんとかするから。アキ以外のオレ達は良いぜ。いつものことだしもう慣れた」
「おいちょっと待て! 俺のことを戦力外通告するなっ! 俺だって戦えるんだ! 最近は詠唱『必中の狙撃』使っていないけど、俺も戦えるからっ! 戦えるからっ!」
「むきになるな阿呆。あとお前そんなに自分が持っている詠唱強調すんな。わかったからはいはい」
「なんだその対応はっっ! 俺だって戦えるんだっ! いいよ分かったよっ! イエスするよ! 俺も止めるよ! あいつに『貸し』を作ってやるっ!」
「その意気その意気~」
結局なのだろうか。それともみんなアキにぃのことを理解して煽ったのかはわからない。でもアキにぃの言葉を聞いたエドさんは意を決したかのように鼻をふかし、そして踵返してクロゥさんの背から飛び降りようとした時、その光景を見ていたアキにぃは驚きの声を上げてその行動を止めようと手を伸ばして静止をかけた。
静止をかけて違うと言うけど、京平さん、キョウヤさん、コウガさん、シリウスさんの言葉 (と言う名の煽り)を聞いてむきになったのか、結果的にアキにぃはエドさんの言葉に対して同意を提示したのだ。
私の背後で、シェーラちゃんの小さな「ちょろい」と言う声が聞こえた気がしたけど……、気のせいってことにしておこう……。うん。聞こえなかったことにしておこう。
そんなことを思っていると、アキにぃやみんなの話を聞いたエドさんは、再度頭を下げてお礼の言葉を述べると、すぐに背後であるシロナさんが飛び降りた方向に視線を向ける。シロナさんはどうやら私達が話している間地面にやっと着いたらしく (クロゥさんの背から地面の距離は相当な距離があったみたいだ)、だんっと足の裏で着地をするように、相撲取りの腰の落とし方を模した姿になって着地をしていた。
着地をすると同時に、シロナさんはすぐに鋭い眼光で狐の亜人さんのことを見た瞬間、脱兎のごとくと言わんばかりに駆け出すと、その手を拳に変えて、力を込める。
今にも狐の亜人さんのことを殴る……、いいや、それ以上の惨事を起こしそうな勢いで……。
「っ! エド! まずいべっ!」
「分かっている! 行くよみんなっ! ハンナちゃんはすぐに善の回復を! シリウスは塵形と一緒に待っててほしい! リカ、待ってて! すぐに終わるからっ! クロゥさんは万が一のことを考えてシリウスと二人のことをお願いします!」
シロナさんの光景を見ていた京平さんは、顔からでもわかるやばいというそれを出してエドさんに向けて言うと、その言葉とシロナさんの光景を見て、エドさんは頷くと同時に私達とシリウスさん、そしてクロゥディグルさんに向けて言う。
アキにぃ達に行くことを伝えて、私には回復を、そしてリカちゃんには待っててほしいということを言い終えた後、私はそれを聞いて頷きながら「あ、はい!」と言うと、リカちゃんも頷きながら「うん……! 待ってるっ。気を付けて!」とエドさんに向けて言う。
シリウスさんは常に陽気な顔で、己のペースを持っているような笑顔で「ほいほ~い。待っているよー」と言ってエドさん達に向けて手を振って言う。
クロゥさんも頷くと同時に「お任せをっ!」と言いながら背にある翼を使って私達のことをドームの中に閉じ込めるように守りの壁を作る。
その言葉を聞いた後エドさんは頷き、そしてアキにぃは私のことを見て「無理はしないからっ! ちゃんと帰ってくるからっ!」と、念を押すように心配そうな顔をして言った後、エドさんはそのままシロナさんが飛び降りたように、同じ行動を行う。
同じ行動――つまりはシロナさんが飛び降りた場所から飛び降りる。
ヘルナイトさんと同じように、エドさんを皮切りにキョウヤさんとコウガさん、コウガさんの背にへばりつくようにむぃちゃん、シェーラちゃんや虎次郎さんにデュランさんと、それぞれがシロナさんや三人組の存在を止める耐えに飛び降りていく。
みんなが飛び降りていく光景を見ていた私は、あの時ヘルナイトさんが跳び降りた時に感じたそれとは違う、別の感情――みんなの安否を、無事を祈りながら胸の辺りに握り拳を作り俯く。
ぐっと……、みんなの無事を祈ることしかできないジレンマも抱きつつ、現実を見て、みんなの無事を祈り、そしてシロナさんを止めるために私は意を決する。
「――っ」
意を決した後で顔を上げて、そしてリカちゃんの膝に頭を乗せている善さんに駆け寄って、善さんの体に向けて手をかざす。一度深呼吸をゆっくりした後で、私は穏やかな波の心がけを忘れないように、一秒でも早い回復を試みる。
「……『大治癒』」
私は放つ。自分でもびっくりするほど落ち着いた音色で、自分の体から放たれる力を黄色い靄として放出するように善さんに向けて放つ。
すべての傷を癒す――回復のスキルを。
リカちゃんはそれを見て呆けた顔をしながら「きれい……」と言う、これまた呆けた声を出したその光景を善さんの傷がどんどんと治って行く光景を見降ろしていた。
シリウスさんはその光景を見ながら「へぇ」と言う声を漏らしながらじっと、その光景を見つめる。
きっと、回復系のスキルを見るのは初めてなのかもしれない。
そんなことを思いながら、私は善さん回復に勤しむことに専念する。
エドさんの言う通り、シロナさんのことを止めるきっかけでもあり、いつも、常に一緒にいたであろう善さんの元気な姿を、一秒でもシロナさんに見せるために……。
◆ ◆
シロナの暴走を止めるためにハンナは善の回復を勤しみ、そして残りに戦える者達は暴走状態もとい猛獣と化してしまったシロナのことを止めるために、そして狐の亜人と言う脅威からシロナを遠ざけるために一度地上の降りて行動を起こそうと奮起していた。
今更ながらだが、飛び降りながらエドはもっと早くこうすればよかった。と思った。
もっと早くすればよかったという理由は、善の回復のことであり、もっと早めにすればシロナもこうならなかっただろう。すぐに機嫌を直して普段通りのシロナに戻っていたかもしれないと思っていたが、それをしなかったのは自分の視野の狭さの所為だ。
そうエドは思った。要は後悔と言う名の反省である。
だが、それはエドの所為ではない。状況と言う名の急変がこの状況を引き起こしたせいで、善への配慮に目が回らなかったのも事実。
クィンクの手に如何なるもの平らげ、そして満腹と言うものを知らずに空腹の赴くがままに食らいつくしていく存在……、如何なるもの平らげ、そして満腹と言うものを知らずに空腹の赴くがままに食らいつくしていく存在……、『飢餓樹海』を討伐 (?)し、その後でヘルナイトに所に行こうとした時にティーカップの男 (名前がわからないので、ティーカップの男と一応命名)の登場。更にはハンナを誘拐しようと宣言した瞬間にエド自身の命を天秤にかけた交換条件。
この交換条件に対して、エドはハンナに無理をさせないまま自分の力でなんとかしようと、隙を伺っていたのだが、その隙も見せなかったティーカップの男。
そのこともあって善への配慮ができなかったこともあって、どんどんと、ずるずると引きずる様にここまで来てしまったというのが今の現状。
最初の襲撃からこのような事態を引き起こしてしまうなど、エド自身考えもしなかったが、これは運命の悪戯に過ぎないのだ。だがそれでも、もっとこうすればよかった。ここはああすればよかった。ここをこうすれば、シロナはこうならずに済んだのかもしれない。そんな後悔と言う名の走馬灯がエドの脳内を支配していく。
状況が状況であったという言葉を受け付けないようなエドの後悔は、いくら拭おうとも、いくら仕方ないと思ったとしても、結局招いてしまった今の状況がエドの後悔をどんどんと大きくしていく。
招いてしまったこの状況のせいで、みんなに迷惑をかける。エドはそれが嫌だった。
心の底から嫌だった。
そう……、あの時と同じ後悔と同じ、自分がもっとああすればよかったという記憶をフラッシュバックしながら……。
「っ」
エドはそのフラッシュバックを、もうに二度と見たくないと思っていたその光景を思い出した瞬間、頭を横に振りながらその記憶を頭の中から弾き飛ばす。
そしてすぐに視線の先にいる――狐の亜人に向けて攻撃を仕掛けようとホワイトタイガーの右手を力ませ、指の先から鋭い爪を剥き出しにしているシロナのことを見下ろした後、エドは気持ちを切り替えるように目を閉じると、エドは続けてこう思う。
――いいや、今は考えるよりも先に、やるべきことに専念するしかない。
――シロナのことに関してはおれの責任もある。ああなったのも偶然かもしれないけど、その間に先うにやるべきことをしなかったおれの責任でもある。
――安心と言う名の油断がこの状況を引き起こしてしまった。
――だから、これはおれなりのやり方でなんとかする。汚い言葉で汚名返上だけど、そのくらい俺は油断をして子のような状況を招いてしまったんだ。
――喜んで返上しないとな!
そう思った瞬間、エドの足の裏に地面の感触が靴底越しに伝わった。
『ザリッ』と言う音がエドの耳に響いた瞬間、エドは着地した足に踏み込む力を込めると、すぐにその足を発条の様に伸ばす。
ざっと地面を耕すように踏み込みを強くし、彼は着地と同時にシロナと狐の亜人がいる場所に向かって駆け出した。
駆け出した瞬間、エドが足をつけていたその場所から小さな土の塊が飛び散る。
耕された瞬間に桑にこびりついた土が落ちるような、そんな土が飛び散るのを見て、そしてそれを生み出したエドの背中を見て、その後着地をした京平はエドに向けて叫んだ。
彼の名を呼び、一人で行くなと言うそれを出しながら彼は叫んだが、その言葉を聞いてもエドは止まることをせず、どころかそのまま駆け出しながらエドは京平達に向けて言った。
「京平はおれと一緒に! 他のみんなは残りの二人組の相手を! アキ君はコーフィンさんって人のところに! できるだけ機械の男に人数を割いて!」
「あ、え? なんで? 亜人じゃねぇの?」
エドの言葉を聞いた京平は驚きながら目を点にして言う。それを言うなら、狐の亜人に対して攻撃を仕掛けようとするシロナにではなく? そんな疑念が頭の中をよぎったが、そのよぎりを解消するように、エドは再度言った。次々と地面に着地をしていく一同を見ながらエドは言ったのだ。
「こう言う場合機械まみれの人の方が危ないだろうっ!? バトラヴィアの話忘れたのかっ!?」
「あ……、そう言うことだべね。確かに……、あれはな」
エドの言葉を聞いた瞬間、京平一人納得をした。そしてそれを聞いていたアキ達リヴァイヴも納得をして無言の頷きをした。
機械の男のことを見ながら、金色のフォルムを見てどことなくバトラヴィアの秘密兵器のことを思い出すと、アキは隣にいるキョウヤに向けて――
「それじゃ、コーフィンさんのところに行く! 再会して巻き込まれて死なせてはいけないし」
と言うと、それを聞いたキョウヤはコクリと頷くと、アキの背を少し乱暴に叩いた後で「気を付けてな! 死ぬなよっ!」と、少しだけふざけが入った言葉で言うと、アキはそれを聞いて振り向きながら怒りの声で「んな物騒なことを言うなっ! 俺は生きるっ!」と言って、ヘルナイトの近くにいるコーフィンのところに向かって駆け出す。
はたから見ると、死亡フラグ立ちまくりの発言まみれだが、それでも彼等は生きるために、この状況を変えるために、各々ができることを行動に移す。
アキは唯一の理解者でもあり自分のことを鍛え上げてくれたコーフィンの救助。
キョウヤ達は機械の男に向けて武器を、コウガ達三人は女騎士に、そしてエド達は狐の亜人とシロナの抑制と言う行動に移そうとした。
「「!」」
「おやおやぁ? お恐れた行動だね」
キョウヤ達、コウガ達、そしてエド達に行動を見て驚きの顔を浮かべる女騎士と機械の男。そしてその光景を見て大袈裟に、且つ怖がりを塞げ半分で表している狐の亜人。それぞれがそれぞれの感情を出して、迫り来るエド達のことを見ていると、そんな状況の蚊帳の外となってしまったコーフィンは状況について行けない顔をして、困惑しながらアキのことを見て焦りの声で言う。
「エ? アキコレドウイウコト? 何ガ一体ドウナッテンノ?」
コーフィンは本当に一体何が起きているのかわからない面持ちで言うと、それを聞いたアキはコーフィンに向かって駆け出しながら「今は後にしてください!」と言うと、続けてアキはヘルナイトに視線を向けると、彼はヘルナイトに向けて言った。
彼に対し、力を貸してくれと言わんばかりの言葉で――
「ヘルナイトッ! シロナさんとあの三人のことを止めるから、俺とコーフィンさん、そしてそこの二人組を閉じ込める技を放ってくれっ! 俺事閉じ込めて、ヘルナイトはキョウヤ達のところに加勢に行ってくれっ!」
「――っ!?」
「エッッ!?」
アキの言葉を聞いた瞬間、ヘルナイトは驚きの顔を浮かべるが、それよりも驚きのそれを出したのは――意外にもコーフィンで、コーフィンは驚きの顔を浮かべると、アキのことを見て両の手を使って空を彷徨わせるような仕草をして「チョチョ……ッ。チョー待ッテヨアキ君……?」と、震える声を出す。
仄かに、汗が飛んでいるようにも見えるが、現実である。然しそれを見ていないアキは驚いているヘルナイトに向けて続けてこう言った。
「大丈夫! こんな奴等銃一つでなんとかするから! それに、お前のチートの力があればこんな状況すぐに治まるんだ! 早くしろっっ! ハンナが待っているんだぞっ!? 善を回復するまでの辛抱だ! 頼んだっ!」
アキは言う。この場は自分に任せてくれ。お前はキョウヤ達の加勢に向かってくれと――
その言葉を聞いたヘルナイトは一瞬驚くような顔をしたが、それと同時に沸き上がったアキに対しての願いを聞いて、ヘルナイトは視線をキョウヤ達に向ける。
キョウヤ達は現在進行形で、機械の男に武器を向けて臨戦態勢を取っている。対照的に、機械の男は驚きながらも機械の拳を向けて構えを取っている。
はたから見ると何とかなりそうな光景に見えるが、しかし、それだけで解決するような状況ではない。
今は、激昂に身を任せて理性が壊れている猛獣と、その猛獣に対していいようのない何かを抱き、その抱きと共に猛獣狩りをしようとしている狐の亜人。更にはその仲間二人。
ヘルナイトはそれを見て思った。
今の状況で、自分がすべきことは――猛獣の抑制と、この乱戦の諫め。
その諫めの要となっている善の回復をしているハンナ。
ならば、自分がすべきことは、もう決まっている。ヘルナイトは思った。右手をそっと己の目の前にかざし、そしてその形を鳴らしの形に変えて、彼は言う。
心の声で――アキの言葉に従おう。いいや……、承ろう。
そう思った瞬間、彼は言う。指を『ぱちんっ!』と鳴らしながら――
「――『地母神の岩窟盾』ッ!」
その言葉が言い放たれた瞬間、アキとコーフィン、そしてティーカップの男達の周りの地面から、『ボコリ』と盛り上がる土。その土が出た瞬間『ぼごぉんっ!』と土煙を発生させながらどんどんと隆起し、彼等を閉じ込めようとする岩の壁。
どんどんと蕾を作る様に這い出てくるその光景を見上げていたコーフィンは、驚きの声を上げて「チョット……、ハナシ」と零すが、その言葉が最後まで紡がれることなく、アキとコーフィン、ティーカップの男とクィンクを呑み込むように――ヘルナイトが出した『地母神の岩窟盾』は四人を閉じ込める。
ゴゴォン……! と、岩特有の音を出しながら……。
『地母神の岩窟盾』がアキ達を閉じ込めたところを見届けたヘルナイトは、すぐに視線をシロナ達に――機械の男に向けて相対そうとしているキョウヤ達に視線を向けた瞬間、彼は駆け出す。
背にある大剣を勢いよく引き抜き、その剣をヘルナイトのことを見て驚いている機械の男に抜けて――彼は駆け出す!




