PLAY100 混ざりに混ざる混沌④
「ボク達、そいつの仲間で――誘拐案はボクが立案しました」
その言葉をまるで自慢げに、悠々とした面持ちで言い放ったのは狐の亜人さん。
狐の亜人さんの話を聞いた私はおろか、アキにぃ達やコウガさん達が驚きの眼と面持ちで狐の亜人さんのことを見下ろしていた。驚きの顔を浮かべたまま立ち上がって、無意識に武器を手にしようとしているシェーラちゃんや虎次郎さん、そしてスキルを発動しようとしているシリウスさんやデュランさんもいて、それぞれが狐の亜人さんの発言を聞いて動こうとしていた。
驚いたまま動けなかった私達。
動いて攻撃をしようとしていたシェーラちゃん、虎次郎さん、シリウスさんにデュランさん。
狐の亜人さんの発言を聞いて息を呑むような仕草をしたけど、攻撃をする素振りを見せず、でも混乱しているようなそれを見せることなくヘルナイトさんは一瞬の驚きを見せただけにとどまっている。
狐の亜人さんの仲間でもある女騎士さんは呆れるような頭を抱えながら溜息を零し、機械の人はボルドさんと同じようにおろおろとした面持ちの顔で (赤い機械質の目を半分下げて困った顔をしているような映像を出しながら)狐の亜人さんとヘルナイトさんのことを交互に見ていた。
各々が狐の亜人さんの言葉を聞いて、それぞれの反応を見せている。
驚愕、怒り、落胆、不安。
色んな感情のもしゃもしゃがクロゥさんの周りを包み込むように混ざり合い、いくつもの色が混ざった霧を作り出している。
それははたから見ればすごいカラフルな光景かもしれないけど、感情と言う名のそれが見えている私にとってすれば異常とも言えた。
異常と言うか……、これは、感情の大荒れ警報。
つまりはいろんな感情が周りに響き合い、そして四重奏を作り上げているのだ。
言うなれば混沌の四重奏。格好良く言うとカオス・カルデット。
本当にそんな状態が辺りを包み、私達の感情を、気持ちを、思考をドロドロと熔解して熔かし、別の何かに変えていく。
けれどその感情の質は変わらないけど、形が変わってしまい行動に移してしまう人もいるのも事実。その事実は今まさに――私達の目の前で起きた。
「え?」
狐の亜人さんの言葉を聞いて、誰もが言葉を失ってその光景を見ていたその時……、誰かが言葉を放った。驚きと呆けが混ざったような、そんな間の抜けた声を。
そんな声を放ったのは――さっきまで剣を引き抜こうと構えていたシェーラちゃんの声で、シェーラちゃんはその光景を見た瞬間、一瞬……本当に一瞬何が起きたのか理解できない様子の声を出してその光景を見ていたけど、その光景を見て再度驚きのそれを見せたのはシェーラちゃんだけではない。
シェーラちゃんの近くで武器を手に持って構えようとした虎次郎さんも驚いたまま無言で目を見開き、シリウスさんも「あ」と言う驚きの中に含まれる幼稚なそれが聞こえそうな声を出してその方向を見て、デュランさんは首がないのだけど、それでも驚いているそれがわかるような体の固まり方をしてその光景を見ていたけど……、それは私も同じ。
ううん……。私を含めたアキにぃ達、コウガさん達も驚きの顔に更に二乗をするように驚きの顔を張り付けると、その二乗になった驚きに呆けを入れて固まってしまう。
誰もがその光景を見て驚いてしまい、あろうことか固まったまま動けないでいることしかできなかった。そのくらいみんな驚いたし、最も驚いているエドさん達レギオンは、その光景を見た瞬間、止める言葉をかけることもできないまま、どころかその光景をただただ傍観することしかできないまま、その光景を目に焼き付けることしかできない状態だった。
さっきから、何度の何度も『その光景』という言葉でまとめて、そのことを深く説明しないまま状況が進んでいるように見えるだろう。そう思っているのならばこの場で謝罪をしたいのだけど、それができないのも事実で、私自身この光景を見た瞬間、言葉を失うと同時に、理解が追い付けなかったから、そのことについて説明することができない。
よく聞く――そんな状況でも百戦錬磨のあんただったら対処できただろうという言葉があるかもしれないけど、今思うとそれもあり得ると確信してしまうほど、今の状況はその状況にぴったりはまっていたから、説明どころの話ではなく、今起きたことを忠実に言葉にすることしかできなかった。
うん、少し冷静になったから今の今まで放っていた『その光景』について、簡単に……、と言うか、簡単にではなく、見た限りのことを今話そうと思う。
簡単で、且つわかりやすいその光景の正体を――
驚きに更なる驚きを重ねるように現れた『その光景』とは。
激昂の顔つきで、狐の亜人さんに向かって襲い掛かろうと飛び降りたシロナさんの光景。
その光景と共に、シロナさんはどんどんとクロゥディグルさんの足元にいる狐の亜人さん達に向けてホワイトタイガーの爪を剥き出しにして――
「うぅぅおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっっっっ!!!」
怒り任せでもあり、獣のような激昂の叫びを上げて、シロナさんはその矛先を狐の亜人さんに向けて襲い掛かろうとした!
「「――!」」
「おやぁ?」
シロナさんの激昂の叫びを聞いた女騎士さんと機械の人は反射的にシロナさんの声がした方向を見上げ、狐の亜人さんはその声を聞いた瞬間首を傾げる様な仕草と声を上げて同じように上を見上げた。
私達はその光景を見降ろしている最中で、驚愕のそれを浮かべながらシロナさんがどんどんと落ちてきているその光景を目に焼き付ける。
……焼き付けることしか、できなかった。の方が正しいのかもしれない。
だって、その一瞬のうちにそれぞれ何かができたはずだし、それにそれができないということは、みんながみんな――シロナさんの行動に関しては予測できなかったのだろう。
シロナさんが怒っている理由は――善さんが負傷したからであり、その負傷さえなければ多分シロナさんはいつも通りのさばさばしたそれだったのかもしれない。でも、そのサバサバを壊したのは、シロナさんを怒りのそれに染めてしまったのは、言うまでもないけどクィンク。
クィンクが出した影――確か……、『轟獣王』。そう。『轟獣王』の手によって善さんは自分の影でもある『虐殺愛好処刑人』に攻撃をして、その攻撃によって善さんもダメージを受けてしまった。
その攻撃のせいで善さんは傷つき、そしてシロナさんは怒りを露にして、自分の感情を聖女出来なくなってしまった。
一種の爆発のように、制御不能になってしまったけど、ヘルナイトさんの行動とティーカップの男の登場の時少しだけ怒りが治まったから、このまま行けばシロナさんも元に戻ると思った。
そう……思った。だけど、それは間違いと言うか、そんなこと……いつ壊れてもおかしくなかったんだ。それを驕って、治ると思っていた私達はとんだ愚か者だ。
だって、その謎の自信も、狐の亜人さんの同じ言葉が出てしまえばいつでも崩れてしまうのに、それを私達は予測しなかった。そんなことはないと、この二人が確信犯だから絶対にないと、決定づけてしまっていた。
「――っ! クロゥさんっ! シロナをっっ!」
シロナさんの行動を見ていたエドさんも、すぐに状況の理解とこの後起きるであろう大惨事を予測したのか、私よりも、みんなよりも早く現実に戻り、その戻りと同時にエドさんはクロゥディグルさんに向けて荒げる声で言い放った。
ティーカップの男から助けてくれたこともあって、私はエドさんのその大声を聞いてびくりと体を強張らせ、驚いた目でエドさんのことを見上げると、その視線の……、エドさんと一緒に入り込んできたクロゥさんがはっと息を呑むと同時に、エドさんの方に目だけで視線を向けると――
「! はい! 皆様――しっかりしがみついててください! 今から動きますので!」
と声を上げ、大きな竜の首を小さく盾に動かした後――クロゥさんはすぐに視線をエドさんから外す。
エドさんに向けていたその視線を、今度は狐の亜人さんに向けて攻撃を仕掛けるために飛び降りているシロナさんに向けて、クロゥさんは行動に移した。
今から動く。その言葉を聞いて『は?』という驚きの顔をしている私達をしり目に……。
クロゥさんがそう言った瞬間……、ぐわぁっとクロゥさんの体が大きく左に向かって大きく傾き、その傾きに対応できなかった私達は驚きの声と落ちてしまいそうな声を上げて焦りながらもクロゥさんの背にしがみつく。
まるで船が大きく傾いたかのような驚きと平衡感覚の崩れ。
崩れると同時に保とうとする己の防衛本能と取り戻そうとするバランスという支柱が私達のことを助けてくれる。
しがみつきも、その後の態勢の整えも……、全部自分の中に眠る生きたい。死にたくないという本能なのかもしれない。
いや、そんなこと考えている暇なんてないだろう。と言うかそれどころじゃない。
今はそんなこと関係ないんだ。
しがみついたと同時に、今度はその体を大きく、大きくひねらせ、その体をぐるぅんっと回転させるクロゥさん。
その場で一回転をするように、大きな竜の体を回転させ、周りに土煙を発生させる。
一種の――一瞬の土色の竜巻のように。
「っ!」
「うぅ……!」
「にゃぁ~っ!」
「あぁ! ショーマッッ!」
「あいつまだぽけーんっとしていやがったのかっ!? いい加減に目を覚ませ馬鹿野郎っっ!」
一瞬の土煙も私達にとってすれば一瞬の大荒れの世界。
台風とは違う……、景色も何も見えない中での一瞬で、人為的に起きたものだけど、クロゥさんのように大きくもなければ竜の姿でもない私達にとってすれば、まさに一瞬のうちにすべてを覆い尽くしてしまう自然災害。自然現象そのもの。
その自然災害に巻き込まれてしまった私達は驚きと共に防衛本能として、生存本能を発揮するように、しがみつきに力を入れながらクロゥさんの回転に耐えた。回転に耐えるみんなの声が聞こえている最中……、つーちゃんとコウガさんの声が聞こえた気がした。
その声を聞いた瞬間、私は言葉を失うと同時に、全身の血の温もりが一気に冷え切るような感覚を覚えた。
なにせ……、しょーちゃんのみに何かが起きたかのような言葉が聞こえ、その言葉が終わると同時に、『どしゃぁっ!』と、何かが突然不時着陸したかのような音が私の鼓膜を揺らしたのだ。
何かの不時着陸の音はみんなの耳にも入ったらしく、その音がした方向を横目で見ながら、私やみんなは青ざめた顔をして言葉を失う。回転されている中で見ることは出来ないけど、つーちゃんの「あ! 刺さった!」と言う声と、むぃちゃんの「にゃーっっ! どこかで見たことがある逆立ちですーっ!」という声を聞いて、なんとなくだけど、しょーちゃんの不時着陸がいかにやばいのかを理解した。
見なくても、つーちゃん達の声で理解できてしまう光景……。
正直………、見たくない。
そう思いながら回転に呑まれないように気を付けていると……、クロゥさんの声が私達の耳に入り込んできた。
しかも、その声は今まで聞いてきた中でも大きいのでは? というくらい、大きな声で……。
「――はぁっ!」
まるで気合を入れるかのような強い声。
普段私達人間が気合を入れ、何かを投げる時とかに出すような声と同じでクロゥさんも声と共に気合を入れると、回転の速度を上げ、その勢いと共に次の行動に移した。
そう――
今までの回転は準備で、その準備と共にクロゥさんは行動に移していたのだ。あの回転も、傾きもこのための行動だった。
私達に対しての注意も、その行動をするから促したことでもあったのだ。
全部――このための行動。そう……。
彼女の視界の横に入り込むように、彼女のことを己の右手で掴むために――
「っ!?」
突然自分の右の視界から姿を現したクロゥさんの大きな大きな右手を横目で見たシロナさんは、驚きの眼でその右手を見る。勿論落ちながらなので、避けることもできない。落ちてしまっているので、軌道を変えることも困難。
逆にクロゥさんは右手を出しての行動、且つ地面についているし体格差でもクロゥさんの方が有利。
と言うか、怪獣相手に避けるなんてことは、たぶんできないと思う。
そんなことを頭の片隅で思いつつ、私はシロナさんと、そしてシロナさんのことを掴もうとしているクロゥさん。最後に、シロナさん達の光景を見上げながら未だに余裕のそれを浮かべている狐の亜人さんのことを見下ろす。
シロナさんのことを止めようと必死になっているクロゥさん。
エドさんの気持ちを汲み取り、且つこれ以上の被害を出さないように手助けをしてくれる気持ちに、私は心の中で感謝しきれないほどの感謝を抱く。けど、それとは対照的に、シロナさんの感情を爆発させた張本人は、今でも余裕と言うか、余裕綽々の顔でシロナさんのことを見上げている。
そんな狐の亜人さんのことを見ていた女騎士さんは心底呆れた顔をしながら腰に手を当てて、再度深い溜息を零し、機械の人は機械らしくないアワアワした反応で狐の亜人さんに空を彷徨うような手を伸ばしていたけど、結局掴むこともできないまま中途半端に空を彷徨わせている。
誰もが狐の亜人さんのことを止めようとしなかったり、止める様な事をしているのに、それをしないままただただ途中半端でその先に行けない状態。
つまりは狐の亜人さんのことを止めようとしているけどできない人、そして……女騎士さんの様に、止めても無駄だということをわかっているような面持ち。
初めて見る三人組のことを見て、一番最初に、私は分かってしまった。
狐の亜人さんは……、多分問題を抱えているのかもしれない。
違う。
狐の亜人さんは――もしかしたら、危険な存在なのかもしれない。
そう思った瞬間だった。
「――邪魔だっっ!」
そう叫んだのはシロナさん。シロナさんは激昂に身を任せたような大きな叫びを上げた瞬間、同時に聞こえてきた斬撃と衝撃の音。
よく何かにぶつかったような大きな音と何かを切ったような音が私達の耳を通り、鼓膜を揺らして脳にその音と言う情報を刻んでいく。脳のしわとして、その情報が私達の頭に刻まれていくと、その音を聞いた誰もがその音がした方向に向けて視線を向ける。
一回転の余韻がある中での視線の変更であったので、ちゃんと見れるかどうかも曖昧な状況。それでも聴覚だけの情報ではあまりにも情報がなさすぎるので、視覚で見た情報を照らし合わせて、一体何があったのかをしっかりと知る必要がある。
だから私を含めたアキにぃ達、エドさん達がシロナさんの声がした方向に視線を向けた時、私を含めたみんなが、声を失ってしまった。
失う理由なんて明白だ。
シロナさんのことを捕まえるために、その大きな手を使って横から掴もうとしていたクロゥさんの手が、大きな竜の右手の掌から一筋の生命の水が噴射されていたからだ。
ぶじゅっっ! と吹き出してクロゥさんの手をどんどんと赤くしていく光景は、まさにスプリンクラー。
「う……っ! ぐっ!」
掌の噴射と連動されながら唸る声を上げるクロゥさん。
鱗があるところは固くても、掌などの柔らかいところを突かれてしまえば生身の人間と同じように傷を負ってしまう。傷口を作ってしまう。それをシロナさんは激情に任せながらも狙っていたのだ。
クロゥさんは予想だにしなかったシロナさんの攻撃――左手の指の先、爪にこびりついた赤いそれと、右拳にべったりと付いている赤いそれを私達に見せつけると同時に、捕まえることが一瞬できなくなったその隙を縫うように、シロナさんは重力に従って狐の亜人さんがいるところまで落ちていく。
「黙っていやがれっ! デカトカゲッ!」
空気に向けて槍を突くような音を発しながらクロゥさんに向けて捨て台詞のような言葉を吐くシロナさん。
クロゥさんの捕縛から逃げ切った瞬間、その瞬間を見降ろしていた私は言葉を失うと同時に、思ってしまった。
まずい。このままではまずい。
そう思ってしまった。
まずい。
その言葉がさす意味なんて簡単だ。本当にやばいと思ったからこそ、やばいと思ったからそう思った。それだけ。
でも……、そのまずいという対象はさっきまで思っていたまずいとは違うまずいで、簡単に言うと、シロナさんの暴走に対してまずいと思ったのではなく、シロナさんが相手にする狐の亜人さんが予測できない何かを持っているから、シロナさんの命が危ない。まずいということ。
「――っ! シロナさんっ!」
「あ、待ったハンナちゃんっ! ストップだよ――ストップ!」
私はシロナさんのことを止めるために、クロゥさんの背から立ち上がってシロナさんと一緒に飛び降りようと試みる。
その行動を見ていたエドさんが私の名を慌てて呼び、そしてその慌てと同時に止める声を上げて私の行動を手で阻害してくる。
通せんぼをするように手を伸ばされたことで、私は驚きと同時にエドさんに向けて荒げるようにエドさんに牙を向けた。牙って言っても、本当に牙を向けたわけではない。言葉のあやとして、牙を向けた。
「通してください……っ! このままじゃ、シロナさんが」
「うん! わかっているよ。すんごくわかっている。おれも思ったから。このままじゃ――シロナが危ないって」
「!」
エドさんは言う。私の進行を阻害しつつ、みんなにも聞こえるように、そして私の気持ちを汲み取る様に言うエドさん。と言うか、エドさんも理解していたのだろう。
このままだと、シロナさんは危ないって。
それを聞いたアキにぃ達は驚きの目で私とエドさんのことを見て、エドさんの言葉を聞いた虎次郎さんは、焦りではなく、怒りでもない真剣な顔で、心の底から加勢と言う名の援護をしたいというもしゃもしゃを出し、一歩前に出てエドさんに向けてこう言い放つ。
「危ないのであれば、すぐにでも向かおう! 儂が先陣を切って」
「いや。この場合は止めることに専念したいのは山々だと思います。けど、彼女を止めるためにはそれだけじゃだめだと思います」
いいえ――だめです。
でも、虎次郎さんの志願と言う名の言葉を蹴る様に、エドさんはかぶりを振ってから私達のことを見回す。
それだけじゃダメ。
それをはっきりと言うように、『ダメ』だと否定して。
エドさんの言葉を聞いていたみんなが驚きと同時にそれじゃぁどうするんだという顔をしながらエドさんのことを見て、虎次郎さんの言葉が止まると同時にコウガさんがエドさんに向けて、苛立っているような音色で彼に聞く。
「ダメダメ言ってもやらなきゃあの女やべぇんだろ? ならどうするってんだ。このまま相手が素直に『ごめんなさい』って謝るのを待つのか?」
「いいや、それも絶対にない。と言うか、そんな予想できないのも事実です」
「あーイラつくなお前っ! じゃぁどうすればいいんだよっ!」
「おいおいコウガ待てって! これ以上怒ったら血圧上がるって! 一旦落ち着け!」
コウガさんはエドさんに向けて腰に手を当てて、苛立ちを含んだ音色で言うと、その言葉にも頭を振って否定の言葉をかけるエドさんを見て、とうとう堪忍袋の緒がキレそうと言わんばかりに荒げる声を更に荒げさせ、舌打ちを零して怒鳴るコウガさん。
そんな光景を見上げていたむぃちゃんは「ぴぃえっ!」と泣きそうな声を上げて近くにいたシリウスさんの足元に隠れると、激情のコウガさんのことを宥めるために前に出るキョウヤさん。
ドウドウと、アキにぃにするように止めるキョウヤさんに「どけ」とか「邪魔だ」と罵りの言葉を上げてエドさんに突っかかろうとする光景を見て、つーちゃんは呆れた溜息を吐いて「ちょっと喧嘩とかやめてくれませーんっ?」と、大きく、大袈裟と言うか、逆に逆撫でを促してしまいそうな苛立ちの声を上げてしまう。
その光景を見て、アキにぃ達は呆れるように項垂れたり、誰かの舌打ちの声がみんなの耳に入ったりしてどんどんと空気が悪くなる。
みんながみんなこの状況に対して苛立ちと、シロナさんの危機に関して焦りを覚えてしまい、冷静な判断ができない状況になっている。
いつも冷静で堂々としているシェーラちゃんでさえ、焦りが勝ってしまい今にも飛び出してしまいそうな雰囲気を出して地上を見降ろしている。
もうみんながみんな、状況に追いつけない事が逆撫でになってしまい、感情を冷静にコントロールできないでいた。
でそれは私も同じで、早く助けないとと言う感情が先走ってしまった結果、エドさんに止められてしまい、結果としてエドさんに向けて牙を向けてしまった。
こればかりは申し訳ないと今さならながら思ってしまう。そして、すぐにでもエドさんに謝りたいとそう思った時、エドさんは私のことを見て、私の名前を呼ぶ。
はっきりとした音色で呼ばれたので、私は驚きながらエドさんのことを見上げて「ひゃいっ」と、すごく半音上がった声を上げて返事をしてしまった。
突然の指名に驚きが声に出てしまい、私は内心恥ずかしい声を出してしまった思ったけど、その思いもすぐにエドさんの次の言葉によって消え去る。
「君はすぐにリカと一緒になって善の回復に勤しんでほしい」
「え?」
その言葉を聞いた瞬間、私は今まで思っていた恥ずかしさが一気に払拭されたかのようなクリアな気分に襲われる。
と言うか、言葉を聞いた瞬間に考えていたことが『ぽろり』と頭の中から取れてしまったかのような、そんな突然感。
私のその驚きと茫然を無視して、エドさんは私に向けて続けてこう言ってきた。
驚くアキにぃ達にも言い聞かせるように、そしてそのことを知っている京平さん、リカちゃん、シリウスさんにもう一度言うようにエドさんは言った。
シロナさんのことを止める唯一であり、すごく簡単なことを――
「シロナを止めるためには善の回復が必要不可欠。と言うか善が回復すればシロナの怒りも治まる。おれ達がシロナのことを止めつつ、相手のことも止めているから、その間にスキルを使ってハンナちゃんは善のことを回復してほしい。できるだけ早く、おれ達の回復のことも考えつつの方向で」




