PLAY100 混ざりに混ざる混沌③
「待てっ!」
『!』
突然私達に向けて大きく凛々しい女の人の声が響き渡った時、私を含めたみんなが声がした方向――つまりはクロゥさんの背中の下にいるであろうその人物に向けて視線を下ろした。
頭に疑問符を浮かべながら、みんながみんなクロゥさんの足元に――いつの間にか現れたのかわからないような状態で現れた三人の存在を目に焼き付けるように見降ろした。
本当にいつ現れたのかわからないのに、その三人は私達がいるクロゥさんの背中、そしてクロゥさんに、その背後にいるコーフィンさんとヘルナイトさん、最後に地面に倒れて気絶しているクィンクとティーカップの男の人を見た後、双六の最初に戻る様に私達に視線を戻して、私達のことを見上げる。
種族も何もかも違う三人組――銀色の鎧を着た女騎士。白くてふわふわした耳を携えた少し妖艶で着物姿の亜人。そして全身を金色の機械で覆い尽くした………大柄ロボットのような存在が私達と言う存在を見上げて、狙いを定める様な僅かな敵意を剥き出しにしながらその人達は私達のことを見上げていた。
特に女騎士の鋭い眼が私達のことをまるで鋭利なやりで突き刺すような視線で私達のことを見上げているので、なぜか委縮してしまうような恐怖を感じてしまう。エドさん達もその人物達を見降ろしてさっきまであった穏やかな空気が一変した――緊張が蜘蛛の巣のように張り巡らさされているような空気に呑まれないように、エドさん達や私達は見上げてくるその人のことをじっと見降ろし、言葉を発することなくただただじっと見降ろすことに徹した。
勿論、言葉を発することもできるけど、もしかしたら相手のペースに乗せられてしまう可能性があったがためみんな言葉を発することをしなかった。
ピリピリしているもしゃもしゃがそれを告げている。
ここでしょーちゃんが目を覚ましていれば…… (あんなことがあったのに未だに目を覚ましていない。本当に死んでしまったのかもしれない……? いやいやっ! そんなことはないっ!)、きっとこの状況を空気を読まずに――
『あんた達こそ、突然現れて何えらそーにしているんすかぁっ!? 最初にあんた達が名乗るべきじゃないんすかぁっ!? 失礼にもほどがありますよぉ! あなた方が自己紹介をしてくれたら、こっちもしますよぉ! これ交換条件っす!』
………とか何とか言い出してこの場所の空気を混沌にしてしまうだろう。
しまうだろうではなく……、絶対にする。だ――
そんなことを思いながら私はみんなと同じような行動、つまりはみんなと一緒に警戒心を剥き出しにした面持ちでクロゥさんの足元にいる三人組のことを見下ろす。
見降ろしながらその三人のことを見下ろしていると……、三人組は見下ろしたまま何も言わない私達に対し、傾げる様な仕草をしてからいったん私達から視線を外し、お互いのことを見るように視線を向ける。
一旦作戦を立てる様な――そんな仕草。
と言うか、何も言わないで警戒をする私達が少し過敏なのかもしれないのかも……。
でも、相手が一体どんな存在なのかわからない今、迂闊に言葉を発すること自体危険な行為だからこそ、みんなは言葉を発さずにクロゥさんの足元にいる三人組のことを見下ろすことにしたのだ。クロゥさんもその光景を見て言葉を発さず……、シリウスさんやデュランさん、そしてヘルナイトさんはそのまま警戒するような体制を取りつつ、いつでも武器が取れるようなそれを取りながら三人組のことを見る。
「おい、聞いているのか? そんなに難しい事ではないはずだ。『待て』と言ったのだが」
最初に口を開いたのは最初『お前達――何者だっ』と言い放った女性で、銀色の鎧を着た女騎士さんだった。
黒い髪に茶色いそれが入っているような右側の目が隠れる様なセミロングの白いバッテンの白髪が混ざっている髪の毛にエメラルドと赤いそれが混ざっているような瞳。晒されている左耳には綺麗な宝石が付けられている十字架のピアスをつけている凛々しい面持ちの女性で、服装はセレネちゃんと同じ白いドレスのような服装だけど、そのドレスに銀色の鎧に黒い長い手袋に銀色の手甲と肘の装備、腰にも銀色の装備を着て、鉄製のブーツを履いているのだけど、それでも女であるそれを認識させるように、少しだけ素肌が見える胸元と、首には赤いネックレスをつけて、背には大きな槍を背負っている女性で、その女性は今もなお警戒心と言う名の静寂を貫こうとしている私達のことを見上げながら聞き出そうとしている。
はたから見るに、無言はだめだといわんばかりの威圧に、私はどことなく誰かに似ているような……、と思いながらその人に似ている存在のことを頭の片隅で思い出そうとしていた時……、その女騎士に向けて静止の声を掛ける存在が声を上げた。
その人物は、女騎士の横にいた――白くてふわふわした耳を携えた少し妖艶で着物姿の亜人だった。
一瞬見た時、犬なのか猫なのかわからなかったけど、よくよく見るとその人は犬でも猫でもない……、狐の尻尾を持った人間よりの亜人で、白い肌に似合う真っ赤な湯気のような入れ墨を顔に施し、赤くて獣のような瞳と、白くてふわふわした狐耳にその毛と同化してしまった腰まである白い髪の毛。その髪の毛を真っ赤なかんざしのような髪飾りで緩く束ね、金色の糸で刺繍された鬼火のようなマークの着物……、多分上物のそれを後ろ首が見える様な着方をして、裸足に赤いリボンを無造作に巻き付けた装飾が印象的な女性……、ん? 男性……? えっと……、一言で言うのならば女か男なのかわからないような姿と顔をしているその人が女騎士に向けてくつくつと喉を鳴らすような笑いを上げながらこう言ってきたのだ。
しかも……、小馬鹿にするように笑いながら……。
「ふふふ。ちょっとシルヴィ。そんなイライラした顔で言ったら警戒しまくりだよ。君ふだんの顔も笑顔も怖いしかめっ面だから……、いつもいつも勘違いされるんだよ。ちょっとは学んだらどう? 普通に、『待って。君達何者なの?』って聞けばいいのに」
「………そう言う貴様も、その軟弱で何を考えているかわからないような面持ち、どうにかしたらどうだ? お前のそのつかみどころがないそれはいつ見ても虫唾が走る。更に貴様の嘲るその笑みを苛立たせる。少しその口を閉ざせ。邪魔だ」
「即決するんだ。あはは。やっぱりボク――君のこと大嫌いだ。あははっ」
見ても聞いても小馬鹿にしているそれがわかる様な言葉で陽気に言う狐の亜人さんの話を聞いた女騎士さんはぎろりとすごい形相で睨みつけた後、凄んだ音色の中にある凛々しい声で言葉を発したけど、その形相と凄みに圧迫されていないかのように……、ううん。逆に面白がっているような顔でけらけら笑いながら言う狐の亜人さん。
本当に、女の人なのか男の人なのかわからない声色と見た目。
話の内容よりもそっちの方が気になってしまうのは……、私だけなのかな……?
「あの狐野郎……、声高けーけど一人称『ボク』……。見た目も女じゃなくて男みて―な体格だけど髪の毛長げーから女にも見えるべ……。あいつ、マジで女のか、男なのかわかんねー。男であんなにきれいな顔だったら女装したらかなりいい線……、あ。でも女だったらボクっ娘でそれもまた……」
「ちょっと京平くん。今君の趣味の話をしている場合じゃないから。君の助兵衛をここで引き立たせなんてさせないから。今シリアス展開だからね」
「ファッ!? そそそそそそしょんなこちょ考えてねぇぺっ!?」
「明らかに焦っているじゃん。そして京平の独り言――全員に聞こえていたから」
「ファファッッ!?」
そんなことを考えていると、どうやら私と同じことを考えていたのだろう……、京平さんが真剣な音色で何かを言っていた (話の内容から察するに、別の何かと共に考えていたみたいだけど……)けど、その言葉を聞いていたエドさんは、京平さんのことを見ないで真剣な音色……と言うか、少しだけ怒っているような音色で言葉を発してきた。
エドさんの怒りの声を聞いてか、それとも心意を突かれたことで驚いたのか、京平さんは素っ頓狂な高音の声で叫ぶと、そのまま赤面を通り越した真っ赤な顔で、恥ずかしいというそれが露骨に分かる様な顔で京平さんはエドさんに向けて大慌ての弁解をしようとしたけど、軽くあしらってしまうエドさん。
あしらいと同時に、衝撃の事実を告げられた瞬間、また素っ頓狂な声と共に頭を抱えて突っ伏してしまった京平さん。
と言うか、私の目から見てもみんなが京平さんのことを冷めた細い目で見ているその光景を見て、挙句の果てには京平さんの言葉の意味を知ってしまったので、何も弁解できなかった。ううん……、ていうか……、したくなかったの方がいいのかもしれない……。
エドさんの『すけべえ』を聞いた瞬間、フォローをすること自体失せてしまったのだから……。
「まったく……、こんな状況でよくも邪なことを……、呆れてものが言えないとはこのことだな」
「よくシロナは『べーすけ』とか言っていたけど、そう言うことなのかな?」
「……『べーすけ』の意味がどんなものなのかはわからないが、きっといい意味のものではないことは確かだな。本当に……、呆れてものが言えない……」
あ。デュランさんもシリウスさんも呆れた顔をしている……っ。
デュランさんも頭を抱えて項垂れているし……、シリウスさんは意味が分かっていないみたいからかけらけらと笑っている……。はたから見るとカオスな光景としか言いようのない対極な光景。
そしてそれを生み出した京平さんは……、あぁ……、みんなの冷たく、且つ呆れられたような、失望したかのような視線に当てられて顔面が紫になってしまっている……。
恥ずかしい赤と全身の血が引いてしまったかのような青が合わさってしまったかのような顔で……。
これが本当の後先考えなかった結果と言うものなのだろうか……。
そんなことを思いながら私は内心京平さんに対してドンマイと言う声を掛けると同時に、何という羞恥の光景だと半分呆れの顔で渇いた笑みを浮かべていると……。
『お二人共――喧嘩はだめデスヨ。今はそれをしている場合ではアリマセンヨ』
『!?』
突然、私達の耳に入ってきた声に、誰もがその声を発したであろうその人物に視線を向けた。
各々が白い目であり冷めた目で京平さんから視線を逸らし、私も一緒に驚きの眼で声がしたその方向に視線を向ける。
この……、ファンタジーの世界ではありえないであろう機械の発音を発した主に向けて――
「! おい『イチゴウ』、間に入るな。お前は図体がデカいんだぞ? お前自分の体のサイズ分かっていないのか――少しは割り込み方を考えろ」
「そうだよ『ゼロゴウ』くん。君すごく幅が太いから、すごく邪魔に感じるんだよね」
『お二人共――すごく怖い顔をしてイマス。お二人共怒っているのデスカ? お怒りは体に毒デス。今すぐ怒りを収めるリラックスの』
「「いいや別にいい」」
えっと……、何だろうか。なんか女騎士さんと狐の亜人さんの間に入り込んで喧嘩を諫めよとしたのに、結局女騎士さんと狐の亜人さんに逆に怒られてしまうことになって、止めた人…………。で、飯いいのかな? は、自分のことを睨みつけてくる二人のことを見下ろして、おどおどとたどたどしい『ア……、ウ……、ウウ……』という言葉を発するだけだった。
見た目こそ大柄で、なんだかお寺の鐘の形をした胴体と常人より少し短いように見える手足。でも、それよりも目立つ体の色……。まるで黄金の素材で作られたかのような奇怪な鎧姿……ううん、これは……フォルム? なのかな……? 遠目だからわからないけど、金色の甲冑のようなそれから覗く紅い一つの光が……機械のそれをより強調させる。よく見る赤いビームを放ちそうなその目をお皿の形にしてしょげているけど、やっぱりどこからどう見ても機械の体――つまりはアンドロイドのその人は、まるで自分の意志を持っているかのように言葉を発し、そして考えて、感情を表している様子で話をしていた。
はたから見ると、機械版ボルドさんのような風景……。
でも……、それも気にはなっていたけど、それよりも私達は気になることがあった。それはみんなも同じらしく……、その光景を見ていたキョウヤさんは驚きと唖然、そして、困惑が入り混じってしまっている顔でこんなことを言った。
誰に対してではない――今まさに女騎士さんと狐の亜人さんのことを諫めて、逆効果で敵意を向けられてしまった機械の人…………、名前に関しては『イチゴウ』や『ショゴウ』とバラバラの名前で言われているからわからないので、この時だけはその人のことをアンドロイドさんと言うことにしておこう。
そんな仲間達に敵意を向けられてしまったアンドロイドさんのことを見て……、キョウヤさんは言ったのだ。
「なんだ……? あの大きな野郎……」
「人の言葉を話すロボット……? ファンタジーにはない異常な光景ね」
「異常と言うか、こんなのありえないだろう? アンドロイドとかそんな技術があるとか聞いてないし、金色の姿を見ると、嫌な記憶がどんどんと……」
「アキ。それはオレも同じだから」
「私も同文よ」
「儂は感じんな」
「「おっさん (師匠)は鈍感だからね」」
「おいおいマーメイドソルジャーとダークエルフ。お前等の心の毒が今ドロったぞ」
キョウヤさんの言葉を聞いて、シェーラちゃんとアキにぃが同意の意見を零しながらうんうんと頷きを行動で表す。確かにシェーラちゃんの言う通り本当にファンタジーを思わせない異常な光景でもあるし、アキにぃの言う通り……誰からもアンドロイドの技術があることも聞いたことがない……。
でも、こんなファンタジーの世界でも機械のような技術を持ってこの世界を征服しようとしていた国があったので、もしかしたらあるかもしれないけど……。
まぁそこは置いておこう。今考えても多分仕方がない事だと思うから……。
そんなことを思っていると、アキにぃの言葉に対して同意のそれを上げたキョウヤさんとシェーラちゃんだったけど、三人の背後からにゅっと出てきた虎次郎さんだけはそんなこと思わなかったらしく、首を横に振りながら胸を張って言う。
なんだろうか、年の功なのか、それとも年を取って行くにつれて経験と共にメンタルも強くなったのか……、嫌な記憶を思い出したとしても全然苦に思わないみたいだ。胸を張っているところを見るからに全然みたい。
虎次郎さんのその光景を見て、私は内心虎次郎さん……、すごいなぁ。と、虎次郎さんのそのメンタルの強さに感心していると、そんな虎次郎さんメンタルを『ズバッ!』と論破したのはアキにぃとシェーラちゃん。
虎次郎さんのその鋼メンタルを否定するようにバッサリと切り捨てる二人の発言に、キョウヤさんは冷たく、かつバッサリ切り捨てたその発言を更に切り捨てるように吐き捨てる。
確かに、シェーラちゃんはよく虎次郎さんのことを『鈍感』とか言っているからあながち間違いではない…………と思うけど、でもやっぱり鋼メンタルでも間違いではないと思う。
でもそこは一個人の見解だから、他人の見解を否定することができない。それは人それぞれの考えだから。
そんなことを言われた虎次郎さんはアキにぃ達の言葉を聞いても首を傾げていたから、それ以上のことは言わないでおこう。うん。
みんなの一時期の和みの言葉を聞きながらそんなことを思っていると……。
「なら、その言葉――そっくりそのまま貴様達に返そう。お前達……、何者だ?」
「「「!」」」
突然声が聞こえた。
でもその声はもう何度も何度も聞いて、そしてみんなに……、私に安心と言う名の温もりを与えてくれる人物――ヘルナイトさんが今まで話しをして、『イチゴウ』なのか『ショゴウ』なのかわからない機械の人に対して怒りを剥き出しにしていた女騎士さん達に向けて言葉を発した。
言葉通り、女騎士さんが言った言葉をそっくりそのままオウム返しするように。
ヘルナイトさんの言葉を聞いた女騎士さんと狐の亜人さん、そして機械の人は驚いてはいたけど、驚きのまま強張りも何も見せない。冷静なそれを見せたまま無言になっている。
ヘルナイトさんはそんな彼女達を見ながら一歩前に足を踏み出し、そして大剣に手を伸ばしながらヘルナイトさんは続けてこう言ったのだ。
凛としている音色で――警戒と言う名のもしゃもしゃを放ちながら……。
「返答しないのか? それとも、言葉を選んでいるのか? いいや……、私達も今余裕ではないんだ。できれば早めの返答をしてほしい。お前達は何者なんだ。返答次第で――貴様達の対応も変わる」
「対応か……」
ヘルナイトさんの凛としていて、それでいて張り詰める様な言葉を聞いて言葉を発したのは――意外にも狐の亜人さんだった。
本当に意外な反応――強張りも何も見せない余裕のある笑みを浮かべて、まるでヘルナイトさんの言葉に面白い言葉があったかのようなクスリ顔。
くすくすと微笑むようなその顔を見ていた私達は、一体何がおかしいんだという顔をしながらその光景を見降ろしている。
誰もがその光景を見降ろして固唾を飲んでいるのに、狐の亜人さんだけは全然臆することもなければ威嚇なんてすることもない。
平然としていて、落ち着いているような面持ちだけど、どことなく警戒を怠ってはいけないような雰囲気を出しながら、その人はヘルナイトさんのことを見ていた。
ヘルナイトさんが発した――貴様達の対応も変わる。
戦闘による交渉の経験がない私でもわかる言葉……、返答次第で倒すか生かすかが変わるというのに、狐の亜人さんは変わらない笑みでヘルナイトさんのことを見ていると、その人はヘルナイトさんに向けて指を指した。
するりと――着物を着ているせいか放たれる妖艶な香りと共に右手の人差し指をゆっくりとした動作で突きだし、着物の裾が肘のところに向かってするする落ちていく光景が更なる妖艶さを出している。
その光景を見た京平さんが小さな声で「……やっぱり女みてぇだべっ!」と言ったことに関してはあえてスルー。皆もあえてスルーをしていたし、それにこんな場面を壊すこと自体ダメなことだと思ったので、あえてのスルーをした。
私達のスルーを見ていない狐の亜人さんはヘルナイトさんに向けて指を指した後、彼…………? 彼女…………? わからないから保留として、亜人さんはヘルナイトさんに向けてかすかに笑いをこらえる様な音色でこう言ってきた。
「対応を指摘されてしまったらボク達何も言えないなー。だってボク達の命は有限だし、悪魔族のように生き返ることもできないし、『蘇生』なんて言うスキル持ってないから、余計なことは出来ないね」
「なら、返答をするのか?」
「ああ、返答するよ。君達に関しては一部だけ知っているし、あとはぼちぼちと後々聞こうと思うから」
そう言って狐の亜人さんは視線を女騎士さんと機械の人に向ける。
ちらりと向けた後、まるで愛で合図を送る様に少しの間女騎士さん達を見つめると、その視線を見て、女騎士さんと機械の人は頷きを見せる。
頷きの合図を肯定と見なした狐の亜人さんは小さく頷くと、すぐにヘルナイトさんに視線を――
「?」
と思った瞬間、私は目を点にしてしまった。
みんなはどうやら気付いていないみたいで、私の変化にいち早く気付いたアキにぃは、首を傾げる様な仕草の音色で「ハンナ? どうした?」と聞いてきたので、私は一瞬だけ意識が飛んだかのような、一人だけ別世界に行ってしまったかのような感覚を感じ、一瞬のうちに現実に戻る様に息を呑んで、慌ててアキにぃ達に向けて視線を向けると、私はなんともないと誤魔化した。
控えめに微笑んで――「あ、大丈夫。ちょっと考え事をしてて」と、嘘の言葉を交えながら……。
私の返事を聞いたアキにぃやみんなは、一瞬だけ首を傾げる様な怪訝そうな顔をしたけど、すぐに「そうか」という返事と共に視線を狐の亜人さん達に戻すと、アキにぃ達のその光景を見て、私は内心安堵をすると同時に、疑念が頭の中をよぎった。
みんな……、あの視線に気付かなかった?
気付かなかったということは、あれは……、私にだけ向けた視線…………?
そう――私が一瞬言葉を濁した理由はそれ。
それさえなければ普通にヘルナイトさん達のことを見ようと思っていたのだけど、その視線を見た瞬間、今までなかった疑念が頭の中でリレーして駆け巡り始めてしまった。
気のせい。そう思ったとしてもそうではないのかもしれない。そんな予感が頭から離れない。なんだかもやもやする感覚……。そのもやもやしたそれを生み出した狐の亜人さんは今現在ヘルナイトさんに視線を向けているけど、あの人は確かに見た。
視線を向けようとした時、狐の亜人さんは一瞬、ほんの一瞬だけ、私の方に視線を向け、そして、くすりと、妖艶と幼稚なそれが合わさったような笑みを私に向けていた。
まるで……、私に対して何かをしようとしているような……、曖昧だけど確信がある様な、その目で。
本当に曖昧だから、なんで私のことを見たのかなんて今は分からない。
だから自分の心にもやもやした感情――つまりはすっきりしない感情がどんどん積乱雲のように大きくなっている。
何故狐の亜人さんは私に視線を向けたのかも、なぜ私に対して笑みを浮かべたのかもわからない中、私は脳内と心に巣食ってしまったもやもや積乱雲をどうしようかと考えながら視線をヘルナイトさんに向けた時、狐の亜人さんはヘルナイトさんに向けてこう言い放った。
「それでは改めまして――ボク達はこう見えて冒険者だよ。冒険者と言っても徒党の名前なんて決めていない無名チームだけど」
「無名……だと? ギルドで申請をしなかったのか?」
「申請しようと思っていたんだけど、そこはちょこーっと問題があるからね。できればそうしたいんだけど……ね」
「問題……か」
「そう。問題なんだよ。でもそんな問題もあと少しで解決しそうなんだよね。実は最近仲良くなった大御所さんのコネでなんとかなりそうで、今その申請が通るのを待っているところ。んで、ここからが本題で――実はその申請を待っている間に、ちょっと噂になっているあれを検証しようじゃないかって思って、ボク達はここまで来たってこと」
「……検証? 何の検証だ」
検証。その言葉を聞いた瞬間――ヘルナイトさんは大剣に伸ばしていた手を更に近付け、いつでも引き抜けるような体制に構えると、その光景を見て今まで悠長に話しをしていた狐の亜人さんがヘルナイトさんの姿を見て「あははは!」と面白いといわんばかりにお腹を抱えだした。
けらけらと――子供が大笑いをするように、その人はけらけらと笑い、そしてひーひーと過呼吸となりかけている呼吸の中、狐の亜人さんはヘルナイトさんに向けて陽気な音色で――
「分からないの? ねぇ? 君達って本当に日和っているんだねっ。と言うか、こう言う場合察した方がいいよ? あー。まぁ簡単なネタバレでもしておこうかな? 一応……」
と言うと、狐の亜人さんはお腹を抱えたまま再度右手を突き出し、そしてとある方向に向けて指を突き付けた。
すっと――流れる様な動作で狐の亜人さんは指を指す。
ヘルナイトさん………、ではない。
ヘルナイトさんの背後で気絶をしている、ティーカップの男とクィンクに向けて指を指して…………。
その行動を見て、そして自分ではなく、自分の背後を指さしていることに気付いたヘルナイトさんと私達は狐の亜人さんが言っていた――暇潰しと言う名の検証が、一体何なのかを察してしまった。
察した私達の顔、そしてヘルナイトさんの驚きの顔を拝み、いいものを見たかのような笑みを浮かべた亜人の人は、再度にっこりと笑みを浮かべてからヘルナイトさんに向けて言った。
その言葉を発すると同時に、今までの不条理の展開を繋げるようにその人は簡単な種明かしをしたのだ。
今回のことで最も怒っている人のことを無視して――
この状況の中、最も怒りを覚えている人の前で狐の亜人さんは言った。
「ボク達、そいつの仲間で――誘拐案はボクが立案しました」
◆ ◆
『という感じ。どう? 簡単でしょ?』
『簡単というが……、■■■――それは一歩間違えてしまえば死者を出すことになる。私は反対だ。そんなことをして、それで『嘘だ』と告げたところで逆撫でになるのが明白。報復で血祭りされる可能性だってある』
『ちょっとシルヴィそんな考え方固すぎない? 昔はこんなことテレビでやっていたじゃん? なのにそれがだめだとか、君……、絶対に友達少なかった方でしょ。そんなんだからそんな方物のままで未婚で彼氏いない歴生きた年齢で生涯を終えてしまうんだよ』
『■■■様、シルヴィ様……、喧嘩はやめてくダサイ』
『『喧しいポンコツ。しゃべるな』』
『……………………』
『しかし……、■■■の案は良いかもしれないな。そのことを後で知らせることは親睦のきっかけになるかもしれない。よし――その案を採用するとしよう』
『んなっ!?』
『わーいっ。ダイフゴー様は話が分かるねーっ! こんな殺伐としている世界だからこそ複数徒党の仲間入りを果たすきっかけ、その前の親睦と言う友好関係を築き、彼女達を連れてきたことで得られる竜魔女さんの信頼、そして蘇生と名誉挽回、日本の諺『一石二鳥』がもれなく『一石五鳥』を得られる一大プロジェクトッ。それじゃぁ彼にこのことを伝えないとね――』
『あいつにか……。果たしてお前の案を受け入れてくれるか……』
『同じ仲間なのデスヨ。きっと受け入れてくレマス』
『そうだよ。あいつ……、案外ユーモアセンスあるからね。ペストマスクのくせに』




