PLAY99 やばい、ヤバい、やべぇ③
「お前だったということだな」
唐突にそう言って、エドさんに向けて無表情なのに怒りが込み上げているその顔を至近距離と言わんばかりに近付けているティーカップの人。
エドさんはそんなティーカップの人のことを至近距離でたじろきながら恐怖を覚えたかのような顔をして見つめ、得物でもある槍が動けない中、エドさんはただただその人のことを見降ろすことしかできなかった。
身長差もあるのになぜなのだろうか、エドさんがまるで見降ろされているかのような雰囲気を感じてしまう。
身長差もあるのに、なぜかティーカップの人がエドさんのことを見下ろしているような威圧に、私は驚きを顔に出しながらその光景を強張ったそれで見つめる。
みんなも加勢することもできないまま強張りと驚きが重なったそれでエドさん達のことを見つめ……、強制的に見届けを強いられることになる。
本当に、今この場で何かをしてしまった瞬間に何をされるかわからない。
そんな気持ちが勝る様な空気の中で、強制的な無言の命令をされながら、エドさん以外の私達はそれを強いられ、従う以外術がないそれを植え付けるように……。
植え付けられたその雰囲気に従うように私は強張りを見せつつ、エドさんに何かあったらすぐにでも『盾』スキルを放とうと意を決し、私は口の中に残っていた生唾で喉を潤す。
すると……。
「私はクィンクのことを信じている。それは曖昧なものではなく、確固たる確信を持って、私はクィンクのことを信じている」
突然だった。
突然――ティーカップの人はエドさんに向けて、エドさんの目をジィ……と覗くように見つめると、ティーカップの人はエドさんに向けてこう言ってきた。言い放った言葉に重ねるように、続けるようにしてティーカップの人は言う。
「私はクィンクとは長い付き合いで、彼は先ほども言ったが――クィンクは私の命令を忠実に守る忠犬のような存在。忠犬以上に私の命令に従い、背くことを絶対にしない男だ。そして、私のことを第一に考える思考回路の持ち主であり、それは斧が命よりも優先事項と彼は豪語していた」
そのくらいクィンクは私に忠誠を誓っている。
そう言った後、ティーカップの人は右手に更に力を入れるようにがっしりと掴み、その手が傷つき、傷口から零れるそれをなんとも思わないかのような面持ちのままエドさんに向けて続けて言う。
ぼたぼたと……、エドさんの槍を赤く汚し、己の手も赤く汚しながらティーカップの人は言った。
「そのことに関しては私も彼の意志を信じている。なにせ――それがきっかけで私は彼に救われた。私がここまで生きてこれたのは、クィンクのお陰でもあり、そして彼を信じようと思った。だから私は思ったのだ。いいや、今ここで確信をした。なぜクィンクが命令外のことをしたのかを」
「命令外のこと……。まさか……、善達が襲い掛かってきたからっていう理由」
「君は人の話を聞いていなかったのか? それとも鳥が三歩歩くと忘れてしまうように、君は数分経ってしまうと記憶が飛んでしまう性質なのかな? そうでないのならばわかるだろう? 私は言ったはずだ。クィンクが攻撃を行った理由――それは、お前にあると。クィンクはその危険を排除しようと君達に攻撃を仕掛けたんだ。つまり――クィンクの攻撃の原因を作ったのは……、君と言うことだ」
「お………、おれ? おれが……、原因……?」
「ああ」
エドさんは困惑した面持ちでティーカップの人を見降ろし、その顔を見上げていたティーカップの人は迷いのない頷きをすると、ティーカップの人はそのままエドさんのことを見上げて、じぃーっとエドさんの瞳を見上げ続けると、ティーカップの人は続けていった。
始終何の感情もない、冷たいのに怒りがどんどんと零れだすような音色で、ティーカップの人は言ったのだ。
「最初こそ、私はクィンクが攻撃を仕掛けた理由……、原因は今更地でクィンクのことを抱えている『12鬼士』だと思っていた。クィンクのことだ。強い輩に対してあいつは強い警戒心を持っている。あぁ、なぜ彼がここに来れないのかここで種明かしをすると――彼はその場所に行こうとしているが、行けないんだ。何せこの竜の周りには『マナ・イグニッション――『魔王波防壁』』を張り巡らせておいたからな、彼はこの中に入れないということだ。何かがあったと思って――早急に対策しただけなんだが……、よく気付かなかったな?」
「――!?」
ティーカップの人の言葉を聞いた瞬間、誰もが驚きの顔を浮かべると同時に、私はすぐにティーカップの人から視線を放し、すぐに目の前の――ヘルナイトさんがいる更地に目を移した。
驚きと同時に、まさかと言う衝撃を抱えながら私は目の前の更地を――何にもない更地を見ようとした。見ようとして、視界一杯に映ったその光景を見て……、言葉を失った。
だって――クロゥさんを取り囲むように薄紫色の楕円形のドームがいつの間にか出現していて、まるで閉じ込められているようなその光景を見て、私は言葉を失いながら薄紫色のドームを見上げる。
あんぐりと……、口を開けながら……。
「こんなのがいつの間に……? ていうか本当にいつの間に張られたのよ……!」
「地上に着いてからそんなに時間が経っていないはずだ。なのに、こんなものが……」
「にゃぁぁ……! こんなドーム今まで見たことがないです……!」
「出られねー……って、マジか……! ん? ってかこれって――完全に閉じ込められて絶体絶命再来じゃねーかっ! なんで毎度毎度こんなに災難に巻き込まれるんだべーっ!?」
各々が見上げ、クロゥさんの周りを取り囲むように張り巡らされているドームに向けてそれぞれが言葉を零すみんな。
最初に声を上げたのはシェーラちゃんで、剣を構えながらそのドームを見上げている。
内心はきっと、そのままドームを壊そうとしているのだろう……。だってもしゃもしゃがそれを告げているから……。
シェーラちゃんの驚きに続くように、薄紫色のドームを見上げながら驚きの声を零すコウガさんと、そんなコウガさんの肩に乗ってがくがくとした面持ちで見上げているむぃちゃん。もう愕然のあまりにコミカルな白目をむいているけど、その驚きに追い打ちをかけるように、更に私達の心を乱すように京平さんがはっと息を呑むと、頭をがっしりと両手で抱え、驚愕のそれを浮かべながら泣きごとのような音を上げて頭を振り回す。
それは私達も気付いていたには気付いていたと思う。特に察しているであろうデュランさんとシリウスさんはその壁を見上げたまま動くことも何もしない。それから見るに、壊すことができないと理解しているからしないことを意味していることを知った私。
と言うか……、封魔石って最も固い鉱物のはず……。
そんな鉱物の力に取り囲まれた結界となれば……、成す術なんて……ない。そう思っていると――
「こ、これは……! いつの間にこんなものが――」
自分の周りに張り巡らされている薄紫色の結界を見渡し、見上げ、そして見降ろしていたクロゥさんは、驚きの声を上げつつも、どうにかしてその結界から出ようと手を伸ばし、薄紫色のドームの壁を触れた瞬間――
――じゅぅっっ!!
と、何かが焼ける様な音が私達の耳に入り込み、その感覚を触角で感じてしまうクロゥさん。
あろうことか鱗もない柔らかい指の腹で触ってしまったせいか、クロゥさんが心で思ったことを口にすると同時に反射的に手をひっこめる。
「熱っっ!」
驚きの声と共に、私達に対して衝撃の事実を伝えながら……
これは人間と同じ……と言うか、きっと同じ生物上構造は概ね同じなのかもしれないけど、それでもクロゥさんはその声を発すると同時に手をひっこめ、そのまま地面に手を付けて少しだけ煙が出ているその箇所を驚きと愕然の眼で見つめる。
そんなクロゥさんの声を聞いて驚きの顔を上げたのは――リカちゃんとキョウヤさんだった。
「クロゥのおじさんっ!? だいじょーぶ!?」
「だ……、大丈夫です。お騒がせをしてしまいましたが……、かすり傷ですので。ご安心を」
リカさんは善さんをその膝に乗せつつ、介抱をしながら状況を見ていたけど、クロゥさんの声を聞いて驚きの声を上げ、クロゥさんに向けて安否を聞くと……、クロゥさんは手を反対の手で抱えながらもさほど大けがをしていないのか、首を振りながらリカちゃんに向けて言葉を放つ。
少しだけ火傷をしてしまったその手を見せつつ、大丈夫と言いながらクロゥさんはリカちゃんに心配をかけさせまいとしながら言うと、その光景とドーム状を見上げたキョウヤさんは驚愕の顔を浮かべ、歯軋りをしそうな食いしばりを見せながら悲痛と苦痛に満ちた音色で言う。
「マジかよ……! 触ったら焼ける様な痛みとか、漫画でしか見たことがねぇ……っ。てかこれって……、マジもんの……」
と、キョウヤさんははっと何かに気付くと同時に――みんなが、私はそのことに気付いた。
そのこと。
とてつもなく曖昧でとてつもなく簡単な言葉でできている言葉だけど、それでも私達はそうとしか言いようのない中で、その言葉――『そのこと』と言う言葉を使って気付いた。
ティーカップの人が仕掛けたという『マナ・イグニッション――『魔王波防壁』』はまさにこの世界で最も固くて特殊な力を持っている鉱石……、封魔石の力の結界。
その結界となれば、ヘルナイトさんであろうと壊すことができないし、内側にいるデュランさんでも壊せない。どころか――この中にいるから力が半減するのか、そうでないのかはわからない。でも、それでも状況は変わらない。
だって――ティーカップの人が使ったイグニッションクラスの力は封魔石を使っているかもしれない力なのだ。あの元バトラヴィア帝国の防壁にも使われ、いつぞやか、リョクシュがヘルナイトさんに使ったバングルも、アクロマがヘルナイトさんに向けて使ったあの封魔石の力。
固い鉱石で作られた結界となれば、もうわかってしまう結果。
そう――封魔石の結界であれば……、私達がその結界の中っから出ることができない。ヘルナイトさんもその結界を壊すことは絶対にできないということ。
つまり……、私達の命は、ティーカップの人の手の中と言うこと。
それを知ってしまった私達は驚きのまま固まり、エドさんもそれを知るとティーカップの人のことを見降ろすと同時に怒りと混乱の目で――冷静なんて壊れてしまったかのような面持ちでエドさんは言った。
ううん、怒鳴った。
冷静と言う枷を失ってしまい、枷をなくしてしまったエドさんはティーカップの人に向けて……。
「……っ! なんでこんなことをしたんだっ! あんたはなんでおれ達のことを捉えて、あろうことかこんなことを」
「言ったはずだ。クィンクがなぜ私の命令を無視するほど君達に対して恐怖を――脅威を覚えたのか」
「それは『12鬼」
「言ったはずだ。何度も言わせないでほしい。それに、何度も言わせる男は女に好かれないぞ? そんな男は嫉妬深い男、女々しい男と私は思っている。おおっと。これは私の見解であり科学的根拠などない。人間と言うものはとても複雑で、同じ性格を持っている者同士でも細部となると違うところがあるからな。さて――話を戻すと……、クィンクは私のことを最優先に考える思考の持ち主だ。それは忠誠と表れと思っているし、私はそんな彼のことを信頼している。だからこそ、私はクィンクが何をしようとしていたのかを即座に理解したんだ」
「……まさか……、その脅威がおれで、『12鬼士』よりも脅威となる存在が、おれ?」
「そうだ。さっきからそう言っているだろう。わかりやすく『クィンクは君のことを警戒して命令を変えた。私のことを最優先に考えた結果――君と言う存在を消すと同時に他の者達を尋問にかけ、且つ浄化の力を持つ者を誘拐しようとしました』と供述をすればよかったかな?」
「さり気に馬鹿にされているような……。そしておれディスられてこんなに怒りを覚えたの……初めてかもしれない……。じゃなくてっ!」
エドさんはティーカップの人のことを見降ろし、怒鳴りを上げながら詰め寄ろうとしたけど、その爪よりも許せないのか、許さないのか――ティーカップの人はエドさんのことを見上げているのに見下ろしているような目つきで長々と長文の見解を述べ、そしてエドさんにもわかる様に言うと、その言葉を聞いたエドさんは心なしか頭に怒りのマークを浮かべて押し殺すような声を上げる。
多分だけど……、それはエドさんでなくても怒ると思うけど、そんなことを思う暇もなくティーカップの人は続けて言った。
ティーカップの人曰く――クィンクがエドさんのことを危惧したきっかけを。
でも、ティーカップの人がその後言った言葉は案外的を外れたことでティーカップの人はエドさんに向けて――
「ああ、そうか。蔑まれていると思ったのかな? 其処は失礼したな。だがそれは君の頭の悪さも原因であるぞ? 人の言うことを理解し、そしてその理解と共に相手にその情報を提供することで初めてコミュニケーションと言うものが成立する。相手は一から百のことを言わないといけない。そしてその中でも一つのことが欠けてしまうとわからないとなってはこの先苦労すると思うぞ?」
と、蔑みの続き――ディスりの続きを始めたティーカップの人。
悪意なんてないだろうけど、それを聞いていたエドさんは小さな声で「マジものの悪気の無い悪意……!」と零す。
確かに、エドさんの言うとおり――これは悪気の無い悪意だ。
そう思いながら私は内心心の中でエドさんに同意の意として心の頷きをしていると……、そんなエドさんの言葉を無視して、ティーカップの人は「さて、話を戻すとな」と言って、再度ティーカップの人はエドさんのことを見上げて、無表情のそれを張り付けた顔で彼は言ったのだ。
「お前は確かにあのヘルナイトよりは弱い存在である。しかしプレイヤーの中ではかなり強い分類だ。その佇まい。そしてガーディアンらしい立ち振る舞い。他人で私から見てもかなりの勇敢な佇まいだ。見習いたいほどの勇敢さだ」
「褒めている?」
ティーカップの人はエドさんに向けて言う。
無表情なのになぜか相手を和ませることにも長けているような言い方と言い回しで、エドさんのことを煽ったりおちょくったりしているティーカップの人。
いいや、これは違う。
ティーカップの人はおちょくっているとかそんな子供のようなことをしているのではない。煽っているというのもきっと私の見解と言う意味であり、本心は絶対に違う。
ティーカップの人はまるで人の心を、心の声を読んでいるような、読み透かしているような言動をして相手を翻弄しているような振る舞いを仕掛けている。
私はそんな心理戦や相手を動かす催眠術などはできない。けど、この光景を見た時私は思ってしまった。
まるで――エドさんは相手の術中にはまってしまっているかのような光景だと。
話の進み合いも、まるで――ティーカップの人がリードをしているようなその光景を見て……。
はたから見るとちゃんとエドさんもしっかりと自分の主張を述べているように見える。しっかりと、自分の言葉を並べて、相手にしっかりと伝えているようにも見えるのに……、なぜか私には見えてしまったのだ。
エドさんが相手に操られている。相手がしっかりとリードをして、エドさんを誘い込んでいるように……。
すると――
「ああ、褒めているよ。今だけは――な? だが、この先は君への罵倒と死へのカウントダウンの開始だ」
「!」
ティーカップの人はエドさんの心理に畳み掛けるように顔をずぃっと近付け、驚くエドさんをしり目にティーカップの人は言う。
右手でしっかりと掴んでいる槍の刃を、その手で握りつぶさんばかりに……、握り壊さんばなりに掴む力を強めるけど、強くして出てくるのは槍の刃の破片ではなく――その人の生命の水。
ぼたぼたと、止まるところを知らないそれは、クロゥさんの背に落ちた後、そのまま地面に向かって細い細い一本の――クレヨンのような一本の線を作って伝い、落ちていく。
でも、そんな傷も、その痛みも気にしていないのか、ティーカップの人はエドさんの顔の近くでこう告げた。私達にも分かる様に――丁寧に……。
「先ほど私は言ったな? 『クィンクは君のことを警戒して命令を変えた。私のことを最優先に考えた結果――君と言う存在を消すと同時に他の者達を尋問にかけ、且つ浄化の力を持つ者を誘拐しようとしました』と。それはきっと正解だ。その証拠は君が持っている君の得物――この世界に三つしかない聖武器が一つの聖槍『ブリューナク』だ。この武器は確かに聖なる力を使うことができるレアな武器だ。聖なる力――つまりはこの武器の力の源は『光』属性。そう――悪魔族が最も嫌いとし、苦手とする属性。私はこう見えて悪魔族。所属は少しばかり奇異なものであるが、それでも私はこの悪魔族の力を持っている存在。すなわち私は『聖』属性、『光』属性が苦手。更には『回復』属性も苦手なんだ。悪魔は聖なる力を嫌う。クィンクは私が悪魔族と言うことを重々承知していたから、お前と言うこの世界に三つしかない聖武器の所有者――危険因子を倒し、尋問をした後で私が苦手とするであろう天族の――浄化を持つ者を連行しようとした。と言うことだ。尚――逆も然りであるが、天族のような『聖』属性の種族が闇の属性を持つ邪武器が苦手だ。それと同じように、私は悪魔族であるにも関わらず、この槍をがっしりと掴んでいる間、全然傷が治らない。普段ならば切断をされたとしても自然に生えて治るというのに、こればかりは治らない。流石に痛みが込み上げてきた。じくじくする。クィンクはきっと、こうなる前の過去で別の未来の世界を危惧して攻撃を仕掛けたのだな。身をもって知ってから理解できたよ」
この聖武器は……、悪魔にとって聖水以上の凶器だ。
そう言って、ちらりとティーカップの人は槍を掴んでいる手を見つめた。
槍を掴んでいたその手からは未だにぽたぽたと赤いそれを流し、周りに水溜まりを作るほどその液体を流している。
大きな水溜りはエドさんの足を、そしてティーカップの人の足に『ぴちゃり』と触れ、そのまま雨で揺れて乾いた地面にその足をつけると足跡ができる様なそれを作るようにどんどんと大きな水溜りを作り、そしてそのまま二人の足元に流れていく。
その光景を見ながら言葉を失っているみんな。そして私。
ティーカップの人が言っていた『邪武器』のことを聞いた瞬間、いつぞやか、リョクシュが持っていたあの武器のことかなと頭の片隅で一瞬思ったけど、その思考も一瞬で消え去り、消え去った後で私達はティーカップの人とエドさんのことを見た。
見て――そのあとすぐに驚きの顔を浮かべた。
私は一瞬、ほんの一瞬だけ目を離しただけなのに、その間に――ティーカップの人は行動を起こしていたのだ。
そんなおおそれたことではない。大きな銃をエドさんに向けていたわけではない。大きな斧などをエドさんに突きつけていたわけではない。どころかそんな武器など――ティーカップの人は持っていなかった。
……うーん、強いて言うのであれば……、ティーカップが凶器かもしれない。投げたら割れて痛いだろうし……。
って! そんなことを考えている場合じゃないっ!
私はぶんぶんっと首を振り、すぐに視線をエドさん達に向ける。
エドさんは困惑と驚き、そして微かなもしゃもしゃで感じる悲しさと言葉にならないような後悔の色のそれを見て、あのティーカップの人の言葉を聞いて、まさか自分のせいだと思っているのかもしれない……。そう思った私はその場で立ち上がる仕草をして、そのまま立ち上がってから手をかざそうと行動に移そうとした。
でも――
「動くな」
「っ!」
突然ティーカップの人が低い音色で、しかも私に横目だけど鋭い視線を向けながら言ってきた。
何にも持っていない左手でエドさんの顔面をがっしりと五指の先に力を入れるように掴み、エドさんの顔の肉に指の爪を食い込ませると、ティーカップの人は私に向けて視線を――と言うか横目だけなんだけど、それだけでもかなりの威圧を感じるような視線で私はその視線に大きく肩を震わせてしまい、手をかざすことを躊躇ってしまった。
『盾』スキルを放つことを忘れてしまう。躊躇ってしまうような威圧。
エンドーさんやカイル。ネルセスやアクロマ、Drのような悍ましいあれと比べたら全然比にならないような威圧と怖い目。
悪魔族と言うこともあってなのかその眼を見た瞬間背中から異様な寒気を感じ、言葉などでない。頭の中の言葉が一瞬にして消えてしまったかのような状態に陥ってしまう。
まるで水にうっかり落としてしまったパソコンのように……。
後ろからアキにぃの声がした気がしたけど、そんな声も聞き取れないほど、私は全神経が麻痺してしまっているのだろう……。
そんな麻痺の状態の中でもなぜかティーカップの人の声はよく聞こえて、と言うかスピーカーで拡張しているのかというような声で、その人は私に向けてこう言ってきた。
「君がこのまま私に近付いてしまえば――私は一切の優しさも慈悲もない状態でこの男を殺そう。きっと――どの所属以上に残酷なやり方でもあり、惨いと思うぞ? そんな惨い現場、君は見たくないだろう?」
「っ」
「見たくないのなら――私の要望に従ってもらいたい。それに従いたくなかったらそのまま私は実行に移そう」
さて――君に究極の選択を与えよう。
ティーカップの人は私に向けて細めた目でそう言い、その状態のまま私に向けて言ってきた。
私にとって――究極の選択を……。
「この男を殺したくなければ私の近くに寄れ。それを拒むのであればこの男はどの所属以上に残酷なやり方で殺そう。さて――どうする?」
男は言う。
エドさんを殺されたくなければ、そのまま自分の元に来い。
それをしたくなければエドさんを殺す。
本当に……、私にとって正真正銘の究極の選択を与えながら……。




