PLAY99 やばい、ヤバい、やべぇ②
「ところで少女よ。クィンクと言う男を見なかったかな? 私の命令で君達のところに向かったはずなのだが?」
そう言ってその人は私に向かって聞いてきた。
なんともにこやかな、そのにこやかに隠れた闇に隠れた思考を見せつけながら……。
その人のことを見て私はぐっと驚きを顔に出た後で強張りのそれにすると、そのままその人のことを――黒い入れ墨を刻んでいるその人のことをじっと見上げて観察する。
その人は一見して見れば整った顔立ちで白い肌、左目が金色で反対の目は黒と言うオッドアイのようなそれを私に見せてくる。
顔に刻まれている稲妻模様の入れ墨に黒くて長い耳。一見して見れば悪魔族に見える。と言うか悪魔族なんだろうけど、それ以外を見てしまえば悪魔族とは思えないような姿をしている。
私のイメージの中で悪魔族いというのは黒い服装を着ているようなイメージで、しょーちゃんも黒い服装で、ティズ君もなんとなーく黒いイメージのシックなイメージの服装だった。けど今私の目の前にいる人は違う。
その人は踵まである白くてさらさらした髪の毛の先を特殊な髪留めで止めていて、額が見える様な髪型をしている。服装はスーツなんだけど、そのスーツも珍しいというか……、なんか左右の色が違うような色で統一されていた。
スーツとなると今一色や黒一色のものがたくさんある様なイメージだと思うけど、私が見たその人のスーツは私から見て右が黒、左が白と言う白黒、モノクロのスーツで、下のスーツもそれと同じで、靴はその色と被らないように右か白、左が黒と言う変わった服装のスーツだった。
「? どうした? なぜ何も答えてくれないんだ? 答えてくれてもいいじゃないか」
そんな彼の両手には白い手袋を嵌めていて、手の甲に収まるほどの水晶のような鉱石が嵌められている手袋で、カップとそのカップの皿を手に持った状態でその人は余裕のある笑みを浮かべて私のことを見下ろしていた。
一目見て思うこと――この人は変わった服装をしてて、その人の心が、もしゃもしゃが見えないことから、その人が一体何を考えているのかわからないようなそれを見て、私は一種の強張りを震えを体で体現をし、その人のことを見上げる。
あの時……、アルテットミア公国であった『六芒星』の懐刀――ザッドの真っ黒なそれと同じその感情と同じものを見て、だ……。
ううん。そんな闇が深いようなそんなものじゃない。
ファルナさんのように隠すようなその笑み。磔がうまいその笑みとその笑みとは全然違う。全く違うその感情と同じ……。
そう、この人は……。
そう思った瞬間だった。本当に、そう思って、その人の張り付けているような笑みを生み上げようとしたその時だった。
「っ! ひ……! わっと……!」
すらり――と、私の顔の横からにゅっと出てきた鋭利な刃物のような物。それを左の視界で捉えた私。
それと同時に、私は驚きの表現として小さな甲高い声を出して左の頬を掠めるようにして出てきたそれから離れるように距離をとると、私がいる現在の場所はクロゥさんの体の端。つまりは背中の端でもあったので、そのまま距離をとってしまうと落ちてしまいそうなところにいた。
「! ハンナッ!」
私の光景を見てか、ヘルナイトさんの驚愕の声が辺りに響き、私の耳に入ったけど、私はヘルナイトさんを見る余裕などその時はなかった。
人間――驚くと同時に頭の中も真っ白になってしまうらしい。
突然何かが目の前に来て、その衝撃によって殴られた瞬間の記憶がないかのように、私は一瞬真っ白になったけど、脳内の反射を酷使して、行動に移した。
滑り落ちそうになった声を零すと同時に、何とか落ちないように態勢をとろうと両手を使って落ちそうになったその場所に手を支えて、支え棒のように使って落下を未然に防ぐ。
「ほっ」
何とか落ちなかったことに安堵のそれを零す私。
なにせクロゥさんは竜の姿になった時の大きさはナヴィちゃん以上の大きさで、その高さも二倍か三倍ほどの高さがある。筋肉量の熱さもせいなのかはわからないけど、それでもぱっと見二階建ての屋根の上から飛び降りる様な高さがあって、その高さから落ちなかった安心から、私は無意識に安堵のそれを零すと……。
「おい! エドッ!」
「!」
また突然声が私の耳に飛び込んできた。その声は京平さんの声なんだけど、その声には焦りと驚きの音色が混ざっていて、その声を聞いた私は驚きの反動なのか、無意識に自分のことを支えている状態で背後を振り向くと――私は更に驚きの顔を浮かべて、声をひゅっと零してしまう。
零すと同時に、私は目の前に光景に驚きの顔を浮かべながら固まってしまったけど、この状況の中だ……、そして、目の前に広がった光景に私は驚く気を隠すことができなくなっていた。
私の背後で繰り広げられた小さな拮抗の現れ。
それは――さっきまで私に対して話を向けていた男の人に向けて、エドさんは手に持っていた槍をその人の首元に突きつけていた。
あと数ミリで突き刺さってしまいそうなほどの距離だったけど、エドさんはその行動の先に向かう前にその人の首元に突きつけるというところで止まっている。まるで――それ以上動いたら突き刺すぞと言わんばかりの……脅迫の行動。
その光景を見た私は驚きながらその光景を見ると、視界の端に入ったアキにぃ達の顔を見て、私は再度驚きのそれを浮かべる。
アキにぃ達はエドさん達のことを見て驚きのそれを浮かべている。唖然と言うか、そんなものではない。本当に驚いている顔で、言葉を失ってしまったかのような愕然とした顔を浮かべながら、アキにぃ達はエドさんと突然現れた男の人……、わかりやすくティーカップを持っているから……、ティーカップの人と言っておくとして、そのティーカップの人を交互に見ていると……。
「何やってんだエドッ! お前らしくねぇべよ? なんで突然初めて現れた人に対してそんな物騒なことをしてんだべっ! 新手の犯行に思われちまうからやめておけってっ!」
エドさんのことを見て焦りのそれを浮かべていたのか、京平さんが荒げるような焦りの声と顔色を剥き出しにし、傍らにいるリカちゃんのことを背に隠し、善さんとリカちゃんのことを守りながら京平さんはエドさんに向けて大きな声を放つ。
京平さんの行動を見ていた私は内心、リカちゃんと善さんのことを突然現れた敵に対して守る様に前に出ている。まるで『パラディン』のように前に出るその光景は、私から見てもすごい判断力と思ってしまうほどの行動力だった。
だって、突然現れたその状態から守りの態勢に即座に入るなんて早々できないと思うし、それを即座にするということは、何度もこんな体験をしていることと同じだと思う。だから正直な回答として凄いと思ったのだけど……、そのことに関して感心するほど状況はよくないのも事実で、それは私が身をもって知っている。
だって――クィンクの後で現れた存在でもあり、ティーカップの人はこんなことを言っていた。
クィンクと言う男を見なかったかな? 私の命令で君たちのところに向かったはずなのだが?
と。
もうわかり切っていると思うけど、それでもみんなは知ってしまっただろう。
今エドさんが槍の刃を突き付けているティーカップの人はクィンクの仲間でもあり、彼はクィンクに私達の討伐を命令した張本人であると……。
私達の心配、そして京平さんの焦りの静止の声が聞こえていないのか……。ううん。聞こえているだろう。だって大きな声で言っているのだから聞こえない方がおかしい。だけど、エドさんはそれを無視しながら目の前にいるティーカップの人に向けて槍の先を――敵意と言う名の殺気を向けている。
聞こえているその声を無視するように……。
!
ううん。違う。エドさんは敵意なんて向けていない。どころか、これは……敵意ではなかったんだ。敵意に似た色のもしゃもしゃだったから気付かなかったけど……、よく見ると、エドさんは敵意の色のもしゃもしゃを放ちつつも、本当の感情のもしゃもしゃをその感情で隠していたんだ。
よく見る二重の煙が混ざっているようなそれで……。
そんな状況の中、エドさんは優雅にカップに入っているであろう液体をくっと口に含んで余裕の笑みを浮かべているティーカップの人に聞いた。今まで聞いたことがないような……、緊張が張りつめた顔で……。
「あなた……、いつの間にここに来たんですか?」
「んぐ。くんっ。ん? 『いつの間に』だと? なんとも曖昧でなんともわかりやすい質問だが、少しばかり情報が足りない気がするので私から質問と言う名の質問返しを捨てもいいだろうか。なに――補足して聞きたいことがあっての質問だ」
「………いいですよ。何ですか?」
「ああ、私が聞きたいことは『いつの間にここに来たんですか』という質問に対して、まるで君は私が着た瞬間を、それも、その場所に現れた瞬間を見ていたかのような反応を示していた。まさか君は……、私が来ることを予測していたのか? それとも……、見えたのかなと思ってね」
「そんなことのために、時間を稼ぐだなんて……、あんた、かなり姑息ですね。一応その質問に対して答えるのであれば……、予測なんてできないし、そんな力もない。あと……、あんたがどこから現れたのかもわからないから聞いただけです。さぁ――答えてください。あなたは、いつの間のここに来たんですか……?」
「あぁ! そう言うことか! わからないからの質問だったということか! いやはやすまんすまんっ。こう見えて私は疑心深い性格。いいやこう見えて正直と言う信念が腐ってしまった性格でな。何分何かにつけて疑い、そしてその疑いを解消しないと気が済まないタイプなんだ。気を悪くさせてすまなかったね。謝罪を申しておこう。そして君の返答に敬意を称して私も最初の質問に対して答えないといけない。対価を払ったのだ。それくらいのことはしないと私が多く貰うことになってしまう」
「対価……、そうですね。ちゃんと質問に答えてくれないと、こっちもこっちで気が気じゃないんでね……」
「そう敵意を向けるな。答えるとこうだな。たった今私は来た。王都の露店の商人に貰った瘴輝石――マナ・イグニッション――『基地帰還』と言うものを使った。この石は凄い力を持っている。なにせ一瞬のうちに指定した場所にワープできるのだからな」
「『基地帰還』……、イグニッションクラスの力……。そして、その石を使ってここまで」
「ああ。この樹海……、あぁ。今はもう『飢餓樹海』だった更地と言った方がいいのかな? この場所には実は誰も知らない唯一の安全地帯と言うものがあったんだ。その場所に位置を固定してこの場所まで来たということなんだが……、更地になってしまえばこんな場所もう用は無くなってしまった。せっかくの秘密基地の地帯だったのに――これではバレバレの基地になってしまう。しかもセットもなくなってしまっては何もできんからな。そこらへんのことも考えているのかな? 私達に対して君たちはどのような責任を償うのかな? 慰謝料か? そうなってしまうと、かなりの値だぞ?」
「んなことでどうでもいいでしょ。それに……慰謝料云々の話なんてどうでもいいけど、あなたの言葉に対しておれ達はそっくりそのまま返せる権限を有しているんだけどな……。なにせ――あんたの部下はおれ達の……、『レギオン』の仲間を手負いにした。そのせいで内部崩壊が出そうになった。そのことに関して、あんたに対して責任を押し付けたい気分だ。これは俗にいうところの――監督不行き届と同じだ」
「………なるほどな。監督不行き届か……。そして、君達の仲間に対して敵意を、か」
「ああ。その責任――あんたはどうやって」
「どうもこうもだ。そんなの簡単な返答を対価として与えよう。いいや――言おうではないか」
長い長いエドさんとティーカップの人の会話。
最初こそなんだか穏やか (ティーカップの人だけ)の空間が立ち込めていたような気がしたけど、それがどんどんと雲行きが怪しいような、どろどろとした黒い空気に変わっていく空気を私は感じていた。
というか、エドさんとティーカップの人の間にあるもしゃもしゃがどんどんと黒く、まるでコンクリートのように重く、黒くて苦しい空気が立ち込めそうな、そんなもしゃもしゃが二人のことを包んでいた。
その空気を放っている二人に対し、アキにぃ達やさっき声を荒げていた京平さんは、その空気に入りたくないような感情を心の中で出しながらたじろいているような感情を表に出している。と言うか、その中に入ってしまったら何かが起きることを予測しているのか、誰もが止めるということをしない。いいや、止める行為を避けているようなそれを出している。
かくいう私もその一人で、エドさん達の会話に水を差すようなことをしてはいけないと直感が囁き、その直感に従うように私はエドさん達の会話に耳を傾けて状況を見ていた。
勿論――間に入り込んで空気を壊すこともできるだろう。
勿論――そのまま二人の会話を遮って攻撃をすることもできるだろう。
アキにぃ達ならきっと後者を選び、そしてシェーラちゃんの特攻で狼煙が上がるに違いない。でも、その狼煙を上げること自体出来ない。
………………………してはいけない。と、みんなが悟っていた。私も悟ってしまった。
私はもしゃもしゃが見える方分かる。でも……、みんなはきっと気配で察してしまったんだ。
エドさんと話している何の武器も持っていな悪魔族の男……、ティーカップの人から出ている何かに……。
あの人の前では絶対に無礼なことをしてはいけない。
あの人の前では絶対に鉄騎なんて見せてはいけない。
下手に出なければ自分の人生は壊される。
あの人は危険だ。
全てに於いて、あの人は危険な存在だ。
我々は、あの男に歯向かってはいけない。
その気持ちを即座に植え付ける様な威圧。それを受けてしまったせいなのか、私達はその抵抗を死にに行く無謀行為と無意識に、体がそう思っているかのように動けない。動いてはいけないと体が信号を出している。
その信号に、直感に従って、今私達はエドさん達の会話を聞くことしかできなかった。
なんでこんなことを思ってしまったのか。なんでそう心が思ってしまったのか。
そして……、この感覚……、どこかで体験したかのような気持ちを抱えて……。
そんなことを思っていると、ティーカップの人はエドさんに向けてにっこりと笑みを浮かべると、手に持っているカップをそのまま口に近付け、そのままぐっと――一気飲みをする。
――んぐ。んぐっ。ごくん。
本当にペットボトルのスポーツ飲料を一気飲みするかのような飲みっぷり。
喉仏が急かしなく上下に動く光景を見て、口の端から少しだけ赤茶色に染められている液体が顎を伝い、そのまま衣服にかかるかかからないかというところに落ちているその光景を見ながら、私やみんな、そしてエドさんはティーカップの人が飲むその姿を凝視する。
昔――ガラス瓶に入った牛乳を一気飲みするドラマを見たことがあり、そのドラマをお爺ちゃんと見た時は『私もこれやりたいなぁ……』なんて思っていた時もあった。その時はただ単に、飲んでいる光景を、マネしたい反面、私達の時代に瓶の牛乳と言うものがなかったからそれを飲みたいという好奇心があったからそう言ったのかもしれないけど、今回それと同じ光景を見たとしても、そのような考えに至らなかった。
どころか――それを見ている最中、なんだか……、生きている感じがしなかった。
ごくごくと飲むその光景を見て、私は一気に不安と緊張が張り詰める様なそれを感じてしまい、そんな思考に至らなかったと同時に、飲んでいるその光景を見て、私は連想してしまったのだ。
悪魔が人間の生き血を、ごくごくとおいしそうに喉を鳴らしながら飲んでいるその光景を連想して……。
誰も、声を発しない。誰も――息をすることでさえもしていないかのような静寂を保っている。
私もその一人で、小さなリカちゃんやむぃちゃんも、小さいながらこの状況を理解してしまったのか声を発することをしない。小さい子は怖いもの知らずっていうけど、ティーカップの人のことを見て、きっと直感で察したのか、一言も声を発していない。
怖がって、口を塞いでいるのかもしれないけど、それは得策かもしれない。
だって――こんな状況で声を放ってしまえば、もしかすると今度は自分に飛び火が来るかもしれない。そしてその飛び火が来てしまったら、逃げられないかもしれないという恐怖があるから――誰も言葉を発しない。
私はそんなことを思いつつ、今ティーカップの人と面と向かっているエドさんのことを見て、申し訳ない気持ちと謝罪の気持ちを胸に抱え、そして心の中でエドさんに向けて謝りながら、エドさんの無地を祈った。
本当に人任せかもしれない。本当に勝手だと私も思っている。
けど……、いざあの場所に入ろうと思うと、怖くて動けない。入ってはいけないと直感が止めて、わがままが優先になってしまう。
よく足が動けないなんて言うものじゃない。本能が『行くな』と私に信号を出して、その信号に従ってしまっている。本当は……、このまま前に出たいのに、エドさんの加勢に行きたいのに……っ!
自分の弱さへの怒り、エドさんのことを見捨ててしまったかのような罪悪感と、ティーカップの人に対しての――異常な恐怖が合わさり、その場所から動けずに自分に対して苛立ちを覚えていると……。
――ごくんっ!
『!』
と、ティーカップの人はカップに入っていた液体を全て飲み干すような音を出し、その音を聞いた誰もが驚きの声を上げながらティーカップの人を見る。
エドさんもその男を見て、再度槍を持ち手に力を加えた瞬間……。
ティーカップの人は今までと同じ余裕のある笑みを浮かべたままこう言った。
そんな笑みとは――正反対の感情をエドさんに向けて……。
「私はな――こう見えて疑うという心をあまりわかっていないんだ」
と、笑みを浮かべたまま言ったティーカップの人。
「………………………はい?」
ティーカップの人の言葉を聞いたエドさんは、来るかもしれないという気張りを一気に解いてしまうような素っ頓狂な声を上げ、首を傾げたままエドさんはその人のことを見る。他のみんなもエドさんと同じように首を傾げながらティーカップの人を見ていた。
こいつ……、さっきの気迫はどこへ行ったんだ?
そんな気持ちが出ている顔で、みんなはきょとんっとしていたけど、私はそんな顔ができないままティーカップの人を見ていた。
――違う。皆気付いて……っ!
そう思いながら私はエドさんやみんなに視線を向ける。ティーカップの人を見て首を傾げているみんなのことを見て――私は願う。気付いて。と……。
だって――その人は顔ではあんな顔をしているけど、心は全く違うものに変わって、変貌をしていたから。
威圧を込めているような黒いそれじゃなくて、その中に赤が混ざったそのもしゃもしゃを、エドさんを突き刺すように放っていたから……!
「……あっ……の!」
私はその赤いを感じた瞬間、エドさんの呆けた声と同時に声を出して、ティーカップの人の注意を私に向けようとその人に向けて放った。
たった二文字――『あの』と言う声だけで、その言葉だけで注意を引き付けることができるのかと思っていたけど、私にはこれしかできない。声を出して注意を引き寄せることしかできないと思った時……。
「私は疑うという心を今でも理解できない。いいや――疑いをかけることが苦手なんだ。私に仕える者達を疑うということは、私はその者達に対してしっかりとした信頼をえていないのと同じであり、心の底から忠誠を誓っている者達に対して、私は失礼な行為をしているということになる。それは嫌だ。私のことを命を懸けて守っている者達に対して疑いのそれを掛けることはしたくない。いいや――疑いたくないからこそ、私は親しい相手に対して疑いを持ちたくないのだ」
そう――
そう言いながら、ティーカップの人はカップを持っていた手を流れる様な動作で、音など出さないで動かし、そしてそのままとある方向に指を向ける。
指を指した状態で、ティーカップの人はとある方向に指を向けると、私やみんな、エドさんやクロゥさんもティーカップの人が指を指した方向に向けて視線を動かす。
首を動かし、そして視覚を担う目を動かして――ティーカップの人が指を指したその方向に目をやる。
指を指した方向――更地となってしまった地面に立っているヘルナイトさん………………、の腕の中で抱えられているクィンクのことを見て……。
「? あのエルフ……?」
「どういうことだ……?」
「あ」
ティーカップの人の指さしの方向を見て、理解できていないのか首を傾げる様な声を出している京平さんとコウガさん。本当に、一体何が言いたいのかという声を出していた時、その近くにいたのだろう――つーちゃんが『あ』と、呆けた声を出した。
何かに気付いたかのような声を出すと同時に、その声を聞いていたのか、聞いていないのか、ティーカップの人は言葉を発した。前の言葉――『そう――』の言葉に続くその言葉をエドさんに向けて、ティーカップの人は言った。
クィンクのことを見降ろし、すっと目を細めて――まるで物思いにふけっているような面持ちと哀愁を出しながら、その人は言った。
「そこで気を失っている――私の忠実なる部下であると同時にボディーガードであり、戦友でもあり、親友でもある彼が、君達に対して敵意と言う名の暴力を振るった。それは君たちの嘘ではないことは重々承知したい。いいや――クィンクは私の命令を忠実に守る。忠犬のような存在だ。忠犬以上に私の命令に従い、背くことを絶対にしない男だ。だからこそ――私は思った」
「思った……? 何を……?」
「『何を』? それでこそ曖昧であり簡単な質問の仕方であるが、こうして聞くと随分と図々しく聞こえてしまう」
「……? 何を……」
「また『何を』か。聞いていないのかな? クィンクには言ったと思うが、仕方がない。話そう。私がクィンクに言った命令は――『浄化の力を持つ奴と、その一味を連れてきてくれ。もちろん傷など負わせるな。丁重に誘拐し、丁重に聞いてから丁重に返すためにも、その者の仲間にも傷を負わせることは許さない。良いな?』と。浄化のことに関しては私自身も聞きたいことがあってな。そのことについてもいろいろと話そうと思った。が――そううまくはいかなかった。クィンクはああ見えて勘が鋭い。だからだろうな――貴様達に対して敵意を剥き出しにした。獣が強者を相手にする時の闘争本能と同等に、君達を強敵を見なしたのだ。何に対してなのかはわからない。でも今わかった」
そう言って、ティーカップの人は指を指すことをやめ、哀愁のその表情を消すと同時に、浮かび上がらせた無の怒り。
目を見開き、怒りの顔でないのに怒りのそれを出しているようなその顔をしながら、ティーカップの人は手にしていたカップをそのまま更地に向けて『ぽいっ』と放り投げると――ティーカップの人はずんずんっとエドさんに向かって歩みを進める。
大きく歩幅を開くような歩みで、腕を大きく振り、いかにも怒っていますという行動を見せつけながら進むティーカップの人。ずんずんっと進み、驚いて呆気に取られてしまっていたエドさんに向かって突き進むと、そのまま徐に右手をぐわりと突き出す。
エドさんのことを掴むように………。
…………違う。
――バリィンッッ!
……どこかで何かが割れる様な音が聞こえた。
それはきっと、ティーカップの人が持っていたティーカップだと思うけど、そんなことを考える余裕なんて今の私達にはなかった。どころか、そんな音を聞くよりも、目の前で起きたことから目を離すことができないまま私達はその光景を凝視し、愕然として固まっていた。
エドさんも同じで、驚きの声を零すこともできないままエドさんは見上げる。
今、自分の目の前で、至近距離に顔を詰め寄り、その状態のまま右手で鷲掴みにした槍の刃をぎりぎりと音を立てるように掴みながらティーカップの人を見るエドさん。
巨人族のハーフのエドさんはその人のことを見降ろすような体制になってしまうけど、それでも見上げているティーカップの人に気圧されるようにたじろいてしまっている。
エドさんの珍しいその光景を見ても、ティーカップの人は更に顔を近付ける。私の視界からでは見えないけど、足元に見える赤いそれをちらつかせ、右手をぶるぶると震わせ動かしながらティーカップの人は言った。
はっきりとした音色で、無の……無表情だけど怒りで頭がいっぱいなそれを出しながら、ティーカップの人は冷たいはっきりとした音色で言った。
「お前だったということだな」
と………。




