PLAY98 八方塞がりの戦場④
クィンクが気絶する瞬間――いいや、その間でも時間は進んでいて、クィンクにとってすれば一瞬の出来事のように感じたであろう。
なにせ落ちている最中も世界がゆっくりと動いているような空間と化していたのだから、仕方がないといえば仕方がないかもしれない。
自分の影でもあり、不釣り合いにも感じていた『轟獣王』もなぜか消えて、そして自分だけは満腹と言う名を知らない食人の樹海に向かって真っ逆さまなのだ。色んな事を考えている暇などない。
しかし――そんな状況でも行動をしている者がいた。
そう……、『12鬼士』が一人でもあり、クィンクを『飢餓樹海』に突き落としたヘルナイトだ。
ヘルナイトはクィンクによってマントを掴まれ、『轟獣王』に手によってヘルナイトは殺されそうになった。
いいや――実際は倒されそうになったのだが、それでもヘルナイトの心は常に荒波など起きていない静かな海の如く落ち着いており、神力の変動もない。
そのくらいヘルナイトは落ち着いていた。
どころか……、彼は想定と計算をしていたのだ。
いかにしてこの状況の弊害となる存在――クィンクの対処。
今自分達が置かれている状況の修正。
そして――
この地上にある『飢餓樹海』の討伐。
ヘルナイトはそれを考え、計算し、導き終えた上で行動に移した結果――クロゥディグルの背から飛び出すという演技をして、クィンクを誘き寄せるたのだ。
はたから見ればその行動は身投げに近いようなもので、長い付き合いでもあるデュランでもヘルナイトの行動を見てしまえば、驚いて焦りの声を出すであろう。そのことに関してはヘルナイトも内心心の中で謝罪をしていた。
正直な話、ヘルナイトは嘘をつくことがへたくそと言っても過言ではない。
クイーンメレブやシノブシのような虚偽の戦略を練ることはあまりない。
嘘をついての戦法があまりできない。
だが、それしか彼をおびき寄せることは出来ないと判断したうえで、ヘルナイトは本気でもあるが演技で彼をおびき寄せることにしたのだ。
正直な話、これに引っかかってくれるか心配であったところがあったが、状況とクィンクの思考と信条が彼の味方をしてくれたのか、クィンクはヘルナイトの後を追うように走り出したのだ。もちろん――『轟獣王』も焦りのそれを浮かべながら……。
(よし――来た)
背後からくるクィンクと彼の影から出ている『轟獣王』は、一身一体となって (と言っても、影は常に主人である冒険者の影から離れることができないため、移動をしてしまえば一緒について行くことになってしまう。
離れようとした瞬間にゴムのように引き戻されてしまうので離れることもできない)ヘルナイトの後を追い、そして掴むように手を伸ばしている光景を見て、ヘルナイトは思った。
作戦通りに来たと――
ヘルナイトは自分のことを追ってくるクィンクのことを見つつ、背後に映るアキ達のことを見て、そしてハンナ達のことを甲冑から覗く魔王族の瞳で見つめる。横目でじっと見つめてから……、ヘルナイトはすっと目を細くさせた。
アキ達の驚愕と困惑が入り混じる表情。耳に入るクロゥディグルの声。デュランの焦りと静止の声もクロゥディグルの声に重なるように聞こえてくるが、その声と並列して、彼は見た。
視界に入る――最も自分が守るべき存在……、ハンナの愕然とした悲しい顔を。
その顔を見た瞬間、ヘルナイトは一瞬自分がしていることがもしかするとこの場合もっとも適切ではない選択であったのかと一瞬頭をよぎった。しかしそれ以外の選択肢があるのかと聞かれた瞬間、ヘルナイトは答えるであろう。
じっくり考えればあるかもしれない。しかし今の状況はまさに八方塞がり。
前にはクィンクと『轟獣王』。下は『飢餓樹海』という状況の中、早急に最善の方法を尽くすことを考えた結果がこうなった。
別の方法を考える暇がないといってしまえば言い訳に聞こえるかもしれないが、それでも私は、どんな方法であれど、最善の方法を尽くそうと思う。
と――
そして、その宣言通り、彼は行動した。
自分のことを囮にしてクィンクとその影である『轟獣王』を引き寄せ、そのまま彼はぎりぎりまでクィンク達のことをおびき寄せる。
彼等のことを――『一』という戦法を最も得意とするクィンクと『轟獣王』を……、『多』の領域に誘うために!
「っ! ぐぅ……!」
『ええぃ! 届けぇっ!』
背後からの声を聞いてもなお、仲間達の静止や焦りの声を聞いても、ヘルナイトは止まるということをしなかった。どころかそのまま加速をし、どんどんと身投げをする距離を自ら近くしていった。
勿論ヘルナイトはそのまま身投げをするなど到底しない。絶対にしないのだが、それでも他者から見ればそう見えてしまうのも無理もない。
そして、思いのほかクィンク達の走る速度が速いことに、ヘルナイトは内心驚いた。
少し――驚いた。
(闇森人はある程度の素早さを持っている。攻撃力と同じほどの速度を有していると聞いたことがあるが、この闇森人は格段に速い)
(所属上のこともあってなのか? いいや、これは実力。元々が早いということ)
(そして、ここまでの素早さを身に着けることは早々できない。生半可な気持ちで見につけられるほどの業ではない。これは――血のにじむような鍛錬の結果。死に物狂いで得た力)
(一体どのような修行をしてきたのかはわからない。だが――今はその話で収まるほどの話でもなければ、その力のことで賞賛をするほど、私は余裕ではない)
(彼女の仲間を苦しめた罪は……、貴様が得た結果よりも、痛く重いのだからな)
ヘルナイトは確かに驚いた。
だが、その驚きはすぐに沈下され、それと同時に目の前のことに集中し、やることに再度集中させる。
やることなどいつものこと。しかしそれでも、今回やることは質が違う。
細心の注意と繊細な力のコントロール。
その二つのことを心掛けてやらないといけない。
そうでもしないと――クィンク達は死ぬ。最悪、みんな死ぬ。もしくは……、クィンク達と自分だけが生存してしまう可能性が高い。
可能性と言っても甘い話ではない。そうならないなんて言う断言もない。可能性と言うものは――怒りうるかもしれない未来への樹形図の一つの枝。
可能性と言って絶対に起きないわけでもなければ、起きることもあるかもしれない。
それが可能性だ。
可能性とは無限の力を秘めている。そう誰かが言っているが、まさにそれだ。可能性とは、本当に無限の未来を繋いでいるといって過言ではない。
ゆえにヘルナイトはその可能性をなくすために、繊細な力のコントロールに力を注ぐことに専念をし、その専念と共にクィンク達をおびき寄せ、そして実行に移そうとする。
「――っ! この……っ!」
『待てっ! 『12鬼士』っ!』
また二人の声が聞こえる。その声を聞いた瞬間――ヘルナイトはわずかに首を動かし、背後にいるクィンク達のことを見て、内心賞賛をした。
彼等はすでに――いいや、この場合足を動かしているのはクィンクだけであったが故、クィンクの素早さを垣間見て驚き、そしてすごいと思ったのだ。
ヘルナイト自身もキメラプラントと比べれば劣る素早さだが、彼は全てに於いてモルグカンストをしている。ゆえに素早さも他と比べれば段違いなのだが、それでもクィンクはそのヘルナイトの素早さに対抗できている。
対抗できる。
それはすなわち――ヘルナイト並みの素早さを有しているか、はたまたはそれよりも下のモルグか、上のモルグを有している存在であることを示唆している。だからヘルナイトは思ったのだ。すごいと――
だが、今はそのことで驚きと感動を得ている場合ではない。
今は戦いの最中なのだ。その戦いの最中で敵 (かもしれない存在)に対して感動をもらってしまい、隙を突かれて殺されてしまう可能性も高いが故、ヘルナイトは顔には出さなかったが、平静を装いながら思考を一旦クリアにする。
先ほどの感動を消去するように……、忘れようとした瞬間。
――がしっっ!
「!」
突然背後から急な重みが加わる感覚を感じるヘルナイト。それと同時にその重みの方向に向かって体制が崩れそうになったが、それもわずかなもので、誰にも気づかれることなく崩れそうになったが、その修正もすぐに行ったヘルナイト。
重みを感じた瞬間前に出した足が浮くような感覚を感じたが、それも踏み込みによって留まることができ、地面……いや、クロゥディグルの背に足をつけた瞬間――ヘルナイトは再度横を見るように振り向き、背後を見た。
背後に映る光景――今まで背後でヘルナイトのことを追っていたクィンクがヘルナイトのマントをがっしりと掴み、その上では『轟獣王』が獣特有の爪の十指を剥き出しにし、その矛先をヘルナイトに向けようとしている光景を見て、ヘルナイトは一瞬驚きを見せそうになった。
が――それもすぐに消え去り、ヘルナイトは冷静な思考で考えを巡らせる。
最初に考えていた『走ってぎりぎりのところで止まり、そのまま相手が迫った瞬間に避ける』という作戦は出来なくなってしまったが、それでもヘルナイトは冷静に別の作戦を行った。
掴まってしまったのはマントであり、体ではない。体であれば限られた中での対処しかできないが、マントであれば対処が増え、可能性が増える。
その可能性の中でも、絶対に離れるであろう行動をヘルナイトはクィンクに向けて、そして自分に攻撃を繰り出そうとしている『轟獣王』に向けて仕向けたのだ。
その場から動くことがない行動で――ヘルナイトはその場で体を回転させるように素早い人間独楽をクィンクに繰り出し、その回転によってクィンクが離れた瞬間にヘルナイトは驚きで強張った『轟獣王』に向けて、己が持っている大剣の斬撃攻撃を繰り出した。
クィンクを引きはがすために開店したと同時に、回転したその動作の勢いを攻撃に転換すいるように、回転が終わる前にその場で跳躍をし、大剣を引き抜いた瞬間に上からの回転をかけた斬撃が空中内で響き渡る。
ザシャァッッ! という斬撃と同時に、攻撃を繰り出そうとしていた『轟獣王』の左寄りの体から大きく深い切り傷ができ、その切り傷から影と同色のそれがどろりと零れだす。
刺突と同時に左手までも巻き込んでしまったのか、空中で数回回転する『轟獣王』の得物の手。くるくると空中を回転しながら、その回転に乗じてどんどんと黒い靄とと共に手の形が崩れ落ちていく。
この世界で言うところの、魔物の消滅の靄と同じように……、ぼろぼろと。
「おぉっっ!?」
「うそ……っ!?」
「マジかだべっ!」
まるで一瞬の行動。
そんな行動を見ていたハンナ達は、驚きのあまりに目を見開いて動きを固くしてしまう。その固まりと同時にキョウヤ、ツグミ、そして京平が心の声ともいえる驚きの声を放つ。
その一瞬の行動を見て、よくその行動を一瞬のうちでできるな……! という顔に書いたかのような顔をむき出しにしながら。
『………………………っ! う………くぅ……、あ、がぁ……っ! がぁぁぁ………っ!』
その顔をむき出しにしている三人と、驚きのあまりに固まっているハンナ達をしり目に、『轟獣王』は消失してしまった左の得物と胴体の激痛に一瞬耐える様な顰めた顔をしていたが、どんどんとその顰めも激痛の顔に崩れていく。
その顰めは痛覚を緩和させるための動作でもあるが、それも無駄なことであると認識したと同時に今まで暴れていなかった痛覚が全身を駆け巡り、傷口を中心として暴れた瞬間――
『がああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!』
『轟獣王』は叫び、その叫びと同時に、全身を黒く染め、そのまま黒い霧となって、靄となって消滅をする。
その光景を見て驚きが二乗されたかのような驚きの顔を浮かべているハンナ達。声すら零すことを忘れてしまいそうな光景とヘルナイトの常人ではない動きを見て、誰もが言葉を失ってしまったのだ。何度も何度も見ているリヴァイヴの面々でも、言葉を失ってしまいそうな攻撃に……。
その行動をしたと同時に、一瞬だけ空中を浮いていたヘルナイトだったが、その空中にいる間だけ、クロゥディグルの背から落ちてしまった……、ではなく、ヘルナイトは突き落としたクィンクのことを見たヘルナイトは、クィンクの背後――客観的に言うと地上の方を見降ろす。
地上では飢えと言う名の欲求に忠実になっている生きた樹海がクィンクと言う名の食べ物を見てしまったのだろう。どこに目があるのかはわからないが、それでも樹海はクィンクを視認すると同時に、枝らしき枯れ木の触手をクィンクに向けて伸ばしていく。
うぞうぞと――軟体動物のようにうねうねと動かし、その枯れ木のような触手の先を小さな手のように掴む動作をする光景を見たヘルナイトは、すぐに地上に向けて大剣を持っていない手を伸ばすと、そのままヘルナイトは落ちていく。
『え?』
落下する光景を見ていたアキ達は、驚きの声を零すと同時に目を点にしながらその光景を凝視する。
まるでぽけんっと言う効果音と共に大きな二つの目をぱちくりとさせるように、アキ達はその光景を見て、ハンナはその光景を見たまま絶句のそれを零し、顔面を血の気が無くなった顔で見つめる。
そんな彼等の驚きなど無視するように、と言うか見えていないヘルナイトはそのまま地上の重力に従い身を任せる。
一瞬の自然浮遊が突然解除されるように、ヘルナイトはそのままクィンクと一緒に、大きな誤差があるが、それでもクィンクと一緒になる様に地上に向かって真っ逆さまに落ちていく光景を見て……。
『でええええぇぇぇぇーっっっ!?』
「ちょちょちょ! へルナイトさーんっっ!」
「落ちていった! 何してんのあの色んな意味ですごい最強っ!」
と、アキ達は驚きのあまりに絶叫をし、その光景を見ていたエドとツグミは声を荒げながら落ちていったヘルナイトのことを見ると、その光景を唯一黙ったまま絶句したままの顔で見ていたハンナだけはその光景を見てひゅっと声を殺すような声を出してその光景を見ていた。
クロゥディグルの背からそのまま落下するように落ちていくヘルナイトのことを見て……。
だが、ヘルナイトはそんな彼等の大きな驚きの声を耳にしたまま、地上に向かって真っ逆さまに落ちていくクィンクに近付くように落ちていき、かざしたその手の先を丸め、指を鳴らすような手の形にして地上に向けて伸ばした瞬間――ヘルナイトは行動に移した。
バサバサと落下と同時に生じる風によってはためくマントの音を耳に入れ、その気圧の変化で耳が変にある様な感化鵜を覚えたが、そんなの関係ないといわんばかりに、ヘルナイトはかざした手にぐっと力を入れ、彼は力を込めた。
細心の注意を払いつつ、力のコントロールに集中して、ヘルナイトは込める。
どこまで続くかわからない『飢餓樹海』すべてを呑み込むほどの力を――
「――っ」
僅かに指先に――指を鳴らすその箇所に力を込め、ヘルナイトは詠唱の発動を施す。
その施しをした瞬間、きつく目を瞑り死を覚悟したクィンクに向かって伸びていく『飢餓樹海』の枯れ木の手達。
まるでショーマ達が戦った『偽りの仮面使』を思い出させる手の数が一斉に、クィンクに向かって伸びていく光景はまさにホラーと言っても過言ではないだろう。
北、北北東、北東、東北東、東、東南東、南東、南南東、南、南南西、南西、西南西、西、西北西、北西、北北西から幾万もの枯れ木の手が一斉にクィンクに向かって伸びていくのだ。
まるでいくつもの黒く、傷んだ髪の毛が襲い掛かってくるのと同じ光景でもあり、その光景を想像してしまった瞬間背筋を這うものがその人を襲うであろう。
そのくらいその光景はおぞましく、まるでホラーを思わせる様な光景でもあったが、その光景に終止符を打つような出来事が起きたのだ。
ぎゅるりと、枯れ木の触手と樹海の木々に巻き付いて行く黒い帯のような何か。
その何かは木々の下にできている影から這い出てきており、その帯はどんどんと樹海の木々に巻き付き、それと同時にぎりぎりと木々の幹に罅を入れるように、大きな亀裂の痕を残すように締め付けていく。
その締め付ける音がクロゥディグル達が飛んでいる一帯に広がり、一種の現象であるかのようにその音は辺りに響き渡る。
べきべきべきと――みしみしみしと――その音を奏でていくと、今の今までクィンクに向けて伸ばしていた木の枝がその黒い帯の締め付けに耐えきれなくなったのか、『ボキリ』と音を立てて折れて嗄れた鬼の枝とかして落ちていく光景がちらほらと見え始める。
ぼきぼきと音を立てるそのと音を聞きながら、ヘルナイトはそのままクィンクと並ぶように落下していくと、そのまま隣になったクィンクの首元に大剣を持っている手で、器用に手刀を打ち込む。
よく漫画で見る様な――首元に入れて気絶させるあれだが、それを大剣を持ったまま、柄がむき出しになっているそれで打ち込んでしまったせいなのか、クィンクの口から潰れてしまったかのような声が零れ、その口から唾液が吐き出される。
クィンクのその姿を見て一瞬驚きの声を小さく上げそうになったヘルナイトであったが、そのまま気絶している彼のことを大剣を持った手で横抱きにし、そしてかざした手に力を入れると、ヘルナイトは未だに『ボキボキ』と折れる音を鳴らし、『めきめき』と軋む音を鳴らしている『飢餓樹海』に向けて――ヘルナイトは言い放った。
自分が持っているであろうその詠唱を放つように――ヘルナイトは言う。
「――『亡者蜘蛛の糸』」
ヘルナイトは唱える。自分が持つ詠唱を唱えたと同時に、かざしていたその手を動かし、そして……『パチンッ!』と力強く鳴らした瞬間――
――ボキン!
と、どこかで何かがへし折れるような音が響き、その音につられてどんどんとその音が次々と鼓膜を揺らしていく。
水が溜まっているその場所に一滴の水滴を落とした瞬間、水面にいくつもの円が描かれて行くように――その音もどんどんと広がって、音を立てて崩れていく。
バキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキバキッッッ!
今まで樹海であったその場所から聞こえてくるその音は、まさに崩壊の如くアキ達の耳にも入り、その光景を見降ろしていたエド達は、言葉を失ったまま茫然と口を開け、地上に広がるその光景を見降ろしたまま、エドは茫然とした面持ちで呟く。
「う、うそ……、でしょ……? 地上に広がっていた樹海が……、一瞬のうちに……」
と零すと、その光景を見降ろしていたハンナは唖然としながらその光景を見つめ、言葉を失ってしまった目で地上を見降ろし、エドと同じような気持ちを抱きながらその光景を見降ろした。
あたり一面に広がっていた樹海が、一瞬のうちに地面の肌を見せていく光景を――水辺の表面に落とした水滴の波の如くどんどんと広がり、へし折れていくその音を奏でながら、『飢餓樹海』という樹海が消えていくその光景を見降ろしながら、誰もが言葉を失った。
最強と言う名を持っているとはいえど――ここまでの範囲の樹海を壊すほどの力を持っているとは……。
誰もがそう思いながらその光景を青ざめながら、そしてヘルナイトは絶対に倒せないと理解してしまった瞬間、その光景を見降ろし、溜息を吐いたデュランは舌打ちを零した後でこう言う。
心底、苛立つような音色で――
「あいつはどこかで成長が止まるというものがないのか……? 前より『亡者蜘蛛の糸』の力が強くなっている……」
と言った瞬間、それを聞いていたクロゥディグルは竜の鱗からでもわかる様な青く染めてしまった顔で――
「ま、前より強くなっているのですか……? あれで、まだ成長し続ける……、のですか……っ?」
と、震える声でデュランに言うが、デュランはその言葉を無視…………。
「ああ」
――することなく、正直に、事実を告げるようにあっさりとクロゥディグルに告げた。
呆気なく、あっさりと……、断言をして。
それを聞いたクロゥディグルは、青くなってしまった顔に絶句を付け加えると同時に、竜の大きな口をあんぐりと開けて唖然とする。
そしてその顔と同じような顔をしているエド達も、きっと同じ気持ちでいるであろう。
デュランの言葉を聞いて……、ハンナ以外が思った。
――まだ強くなるんですか……っ!? あれ以上に……っ!
その思いと共にアキ達は言葉を失いながら絶句の青ざめを浮かべているが、対照的にハンナはその光景を見て、ぎこちなく、そしてどことなく悲しそうな笑みを浮かべると、彼女は安堵の息を「はぁ……」とまるで生暖かい息を吹きかけるように零す。
笑みを浮かべているのに、なぜか悲しさや怒りが含まれている、本当にぎこちない中途半端な顔で……。
だが時間と言うものは有限で、そしてヘルナイトの攻撃もそろそろ終わりに差し掛かっていた。
ハンナのぎこちない中途半端な顔やデュラン達の会話が行われている最中も、『飢餓樹海』の討伐と言う名の伐採は行われており、それは鳥人族の郷にいる者達にも聞こえるほどの音であり、これから向かう場所からも聞こえる様な音であった。
その音を聞きながら、その樹海を見降ろせるような岩肌が丸見えの峠の頂上にある大きめの岩に腰かけ、足を組みながらその光景を見降ろしていた人物も樹海の大量伐採を目にして驚きの声を口にしていた。
腰かけながら手に持っている白を基準とした高級なティーカップを落としそうになり、落としそうになったと同時にそのカップに入っていた薄紅色の温かい液体が宙を舞いそうになったが、それを何とか急いで持ち直すという行動で零れを阻止した人物は、その光景を見ながら安堵のそれを吐くと、カップに入っているそれを口に近付け、『くっ』と一口を含む。
含むと同時に口の中に広がるそれを見て、そしてその味を堪能した後でその人物は音が無くなった後の世界を――『亡者蜘蛛の糸』の攻撃の猛威が止んだ樹海があった世界を見降ろし、彼はもう一度言葉を零した。
「おぉ」
と、歓喜と驚きのそれを零すと同時に、もう一度手にしていたカップの液体を口に近付け、その光景を見降ろしながら彼は言った。
「これは……、すごい光景だ。いやはや仮想の世界であるが、これは爺やが言っていた『特撮』のような驚きの光景だ」
男は言う。手に持っているカップの中にある液体をもう一度口の中に含むように嗜み、喉に通してその風味を堪能すると男は続けて言う。
「そして……、この行動をした人物はまさに」
視界の先に広がっていた緑の世界が――一瞬の内に地面の肌色が丸見えになってしまった更地を見つめ、その光景を見降ろしていた丁度その頃、その地面にクィンクを抱えたまま着地をしたヘルナイトと同時に男は言った。
その更地にした人物に向けて――天晴と畏怖を込めて……男はふっと微笑むように言った。
「魔王――だな」




